説明

測定装置

【課題】非接触距離センサによって棒体との間隔の変化を検出しこれに基づいて棒体の作動状態を測定する測定装置を提供する。
【解決手段】軸方向へ移動する棒体の表面に対して非接触状態で対向配置されて該表面との間の距離の変化を検出する非接触距離センサの検出信号に基づいて棒体の作動状態を測定する。係る構成によれば、上記距離の変化状態から、棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、棒体の軸方向への移動量や移動速度を取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、棒体の表面に近接して配置された非接触距離センサによって該センサと棒体との間隔の変化を検出しこれに基づいて上記棒体の作動状態を測定する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動弁においてその健全性を診断する際における必要情報の一つに、弁棒の移動に関する情報がある。即ち、弁棒は、モータ側の回転力を弁体の開閉駆動力として伝達するものであって、その移動に関する情報は、弁棒の移動速度、移動量、移動時間、移動時期等を利用した電動弁の機能や劣化に関する事項の診断を行う際に重要な要素となる。
【0003】
ところで、このような弁棒の変位に関する情報を取得する手法として、例えば、測定棒式取得手法(特許文献1及び特許文献2参照)とか、ワイヤ式取得手法(特許文献3参照)が提案されている。
【0004】
測定棒式取得手法は、弁棒の頭頂部に、該弁棒の軸方向に移動可能に配置された測定棒の一端を接触させ、前記弁棒の変位情報(移動方向、移動速度、移動量等)を、該弁棒の動きに追従する前記測定棒の変位に基づいて取得するように構成されている。
【0005】
ワイヤ式取得手法は、ワイヤの一端を弁棒の頭頂部に固定するとともに、他端を、弁棒ハウジングに取り付けたエンコーダのプーリに連結し、弁棒の変位に追従する前記ワイヤの変位量を前記プーリの回転量として前記エンコーダで検出し、この検出値を弁棒の変位量に対応する信号として出力するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−4549号公報
【特許文献2】実開平6−82483号公報
【特許文献3】特開平2−307033号公報
【特許文献4】特開2010−85105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記各取得手法においては、弁棒の移動情報を取得するための測定作業に際し、電動弁の一部を開放して、測定棒とかワイヤあるいは距離測定手段を設置する必要があることから、その設置作業には電動弁に関する専門技術をもった作業者を必要とするなど、測定棒等の設置作業そのものに制約がある。
【0008】
また、このように電動弁の一部を開放するとその開放によって電動弁の機能が停止されるため、該電動弁を備えた配管系の稼動の確保という観点から、測定作業に時期的な制約がある。
【0009】
これら問題点は、この情報取得が弁棒の先端部分の移動情報を取得するために弁棒カバーを開放することに起因するものと考えられる。
【0010】
従って、係る観点からすれば、電動弁の分解、即ち、弁棒カバーを開放することなく電動弁の外部から該弁棒の移動に関する情報を取得するように構成することが想到される。このような測定手法の一例として、特許文献4には、弁棒の外部露出部分の表面にマーキング点を設け、このマーキング点を、電動弁に非接触状態で配置した撮影装置で撮影し、この撮影装置から出力された信号を画像処理することで弁棒の移動に関する情報を取得する技術が提案されている。
【0011】
このような「撮像の解析」による弁棒の移動情報の取得手法によれば、電動弁を分解することなく情報を取得できることから、上述のような取得手法における問題が可及的に解消され、この点において極めて有用な技術と考えられる。
【0012】
しかし、その一方で、カメラと被写体である弁棒との距離あるいはこれら両者間の相対位置の設定等のセッティングにおいて、照明、取付スペースの確保、周辺部との干渉回避のために手間を必要とする。また、撮影装置での撮影によって情報を取得するものであることから、レンズ映像に歪が発生する場合とか、弁棒が微振動する場合には測定精度が低下する恐れがある。
【0013】
そこで本願発明は、棒体の変位を、測定時期等の制約を受けることなく、高精度で確実に測定し得るようにした測定装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明では、上記課題を解決するための具体的手段として、以下のような特有の構成を採用している。
【0015】
本願の第1の発明に係る測定装置では、高周波磁界を発生するコイルを備えた渦電流センサを、軸方向へ移動する導電性の棒体の表面に対して非接触状態で対向配置し、上記棒体と上記渦電流センサとの距離の変化や棒体の形状変化に応じて変化する上記コイルのインピーダンス又は該インピーダンスに対応する物理量を測定することを特徴としている。
【0016】
ここで、上記棒体と渦電流センサとの距離の変化は、該棒体の表面とこれに対向する渦電流センサとの距離の変化(即ち、棒体の径方向への変化)であって、例えば、棒体がその径方向に振動し渦電流センサとの距離が変化する場合とか、該棒体の表面にネジが刻設されており、棒体の軸方向への移動に伴って、そのネジ山の凹凸に対応して棒体と渦電流センサとの距離が変化する場合である。
【0017】
なお、このような棒体の本来的な作動状態とか、特定の機能を発揮するための形状に起因するものではないが、距離が変化する原因となるものとして、例えば、棒体が曲がっており、その軸方向への移動に伴って棒体と渦電流センサとの距離が変化する場合とか、棒体がその移動方向に対して傾いた状態で支持され、その軸方向への移動に伴って棒体と渦電流センサとの距離が変化する場合等がある。
【0018】
本願の第2の発明に係る測定装置では、軸方向へ移動する棒体の表面に対して非接触状態で対向配置されて該表面との間の距離の変化を検出する非接触距離センサを備え、該非接触距離センサの検出信号に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴としている。
【0019】
ここで、上記棒体と非接触距離センサとの距離の変化は、該棒体の表面とこれに対向する非接触距離センサとの距離の変化(即ち、棒体の径方向への変化)であって、例えば、棒体がその径方向に振動し非接触距離センサとの距離が変化する場合とか、該棒体の表面にネジが刻設されており、棒体の軸方向への移動に伴って、そのネジ山の凹凸に対応して棒体と非接触距離センサとの距離が変化する場合である。
【0020】
また、この他に、棒体と非接触距離センサとの距離が変化する原因となるものとして、例えば、棒体に曲りがある場合とか、棒体がその移動方向に対して傾いた状態で支持されているような場合がある。
【0021】
本願の第3の発明に係る測定装置では、上記第2の発明に係る測定装置において、上記非接触距離センサを、高周波磁界を発生するコイルを備えた渦電流センサで構成し、上記棒体との距離の変化や該棒体の形状変化に応じて変化する上記コイルのインピーダンス又は該インピーダンスに対応する物理量に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴としている。
【0022】
本願の第4の発明に係る測定装置では、上記第2の発明に係る測定装置において、上記非接触距離センサを、電界内の静電容量の変化を検出する静電容量センサで構成し、上記棒体との距離の変化や該棒体の形状変化に応じて変化する静電容量値に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴としている。
【0023】
本願の第5の発明に係る測定装置では、上記第2の発明に係る測定装置において、上記非接触距離センサを、超音波の送受信機能を備えた超音波センサで構成し、該超音波センサから送信される超音波の該超音波センサと上記棒体の表面との間の往復伝播時間に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴としている。
【0024】
本願の第6の発明に係る測定装置では、上記第2の発明に係る測定装置において、上記非接触距離センサを、レーザ光の送受光機能を備えたレーザセンサで構成し、該レーザセンサから発信されるレーザ光の該レーザセンサと上記棒体の表面との間の往復時間に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴としている。
【0025】
本願の第7の発明に係る測定装置では、上記第2、第3、第4、第5又は第6の発明に係る測定装置において、上記非接触距離センサを、上記棒体の周方向に複数個配置したことを特徴としている。
【0026】
本願の第8の発明に係る測定装置では、上記第2、第3、第4、第5又は第6の発明に係る測定装置において、上記非接触距離センサを、上記棒体の軸方向に複数個配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本願発明に係る測定装置によれば、以下のような効果が得られる。
【0028】
(イ) 本願の第1の発明に係る測定装置
上記渦電流センサを上記棒体の表面に対して非接触状態で対向配置し、この状態で上記コイルに高周波電流を流すと、電磁誘導により上記棒体の表面に渦電流が流れる。
【0029】
そして、棒体の振動とか形状変化等によって、該棒体の表面とこれに対向する渦電流センサとの距離が変化した場合、この距離の変化に対応して上記コイルのインピーダンスが変化するため、このインピーダンスの変化を、インピーダンス波形として、あるいはインピーダンスに対応する物理量、例えば、電圧に変換した電圧波形(信号波形)として取得することができる。
【0030】
この取得される信号波形においては、棒体がその軸方向へ移動している場合(棒体が径方向に振動する場合等)における信号波形と、棒体が停止している場合における信号波形とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記棒体の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、棒体の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0031】
(ロ) 本願の第2の発明に係る測定装置
上記非接触距離センサを上記棒体の表面に対して非接触状態で対向配置し、該非接触距離センサを棒体の表面との間の距離の変化を検出することで、この距離の変化状態から、棒体がその軸方向へ移動している状態と、棒体が停止している場合を明確に識別することができる。この結果、上記棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記棒体の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、棒体の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0032】
(ハ) 本願の第3の発明に係る測定装置
上記渦電流センサを上記棒体の表面に対して非接触状態で対向配置し、この状態で上記コイルに高周波電流を流すと、電磁誘導により上記棒体の表面に渦電流が流れる。そして、棒体の振動とか形状変化等によって、該棒体の表面とこれに対向する渦電流センサとの距離が変化した場合、この距離の変化に対応して上記コイルのインピーダンスが変化するため、このインピーダンスの変化を、インピーダンス波形として、あるいはインピーダンスに対応する物理量、例えば、電圧に変換した電圧波形(信号波形)として取得することができる。
【0033】
この取得される信号波形においては、棒体がその軸方向へ移動している場合(棒体が径方向に振動する場合等)における信号波形と、棒体が停止している場合における信号波形とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記棒体の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、棒体の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0034】
(ニ) 本願の第4の発明に係る測定装置
上記静電容量センサを上記棒体の表面に対して非接触状態で対向配置すると、上記棒体の軸方向への移動とか、形状変化あるいは径方向への振動によって該棒体の表面と上記静電容量センサとの距離が変化すると、この距離の変化に対応して上記静電容量センサで検出される静電容量が変化する。
【0035】
そして、棒体がその軸方向へ移動している場合における静電容量の変化状態と、棒体が停止している場合における静電容量の変化状態とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記棒体の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、棒体の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0036】
(ホ) 本願の第5の発明に係る測定装置
上記超音波センサを上記棒体の表面に対して非接触状態で対向配置すると、上記棒体の軸方向への移動とか、形状変化あるいは径方向への振動によって該棒体の表面と上記超音波センサとの距離が変化すると、この距離の変化に対応して、該超音波センサと上記棒体の表面との間での超音波の往復伝播時間が変化する。
【0037】
そして、棒体がその軸方向へ移動している場合における往復伝播時間の変化状態と、棒体が停止している場合における往復伝播時間の変化状態とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記棒体の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、棒体の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0038】
なお、超音波センサによって棒体との距離を測定する場合、超音波は空気中を伝播することになるが、この超音波の空気中での伝播速度は、空気温度に応じて変化するものである。従って、超音波センサによる距離測定の測定精度を確保するためには、測定により取得される超音波の伝播時間(即ち、測定距離)を、温度変化に基づいて補正する。
【0039】
(へ) 本願の第6の発明に係る測定装置
上記レーザセンサを上記棒体の表面に対して非接触状態で対向配置すると、上記棒体の軸方向への移動とか、形状変化あるいは径方向への振動によって該棒体の表面と上記レーザセンサとの距離が変化すると、この距離の変化に対応して、該レーザセンサと上記棒体の表面との間でのレーザ光の往復時間が変化する。
【0040】
そして、棒体がその軸方向へ移動している場合におけるレーザ光の往復時間の変化状態と、棒体が停止している場合におけるレーザ光の往復時間の変化状態とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記棒体の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記棒体の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、棒体の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0041】
(ト) 本願の第7の発明に係る測定装置
上記非接触距離センサを、上記棒体の周方向に複数個配置したことで、例えば、棒体に曲がりがある場合にはその曲り方向を、また棒体の軸線が棒体の移動方向に対して傾斜している場合にはその傾斜方向を、それぞれ知ることができ、この棒体の曲り方向とか傾斜方向に関する情報を上記非接触距離センサによる距離測定に反映させることで、測定装置の測定精度のさらなる向上が期待できる。
【0042】
また、これら複数の非接触距離センサのそれぞれの測定値を演算処理することで、ノイズ信号を除去して測定信号を明確化することができ、測定値の信頼性が確保される。例えば、複数個の非接触距離センサでそれぞれ距離測定を行い、これら各非接触距離センサの測定信号を差分処理することで、測定信号中の共通ノイズを除去することができ、これによって、より精度の高い測定が可能となる。
【0043】
(チ) 本願の第8の発明に係る測定装置
上記非接触距離センサを、上記棒体の軸方向に複数個配置したことによって棒体の移動方向を知ることができ、この棒体の移動方向に関する情報を上記非接触距離センサによる距離測定に反映させることで、測定装置の測定精度のさらなる向上が期待できる。
【0044】
また、これら複数の非接触距離センサのそれぞれの測定値を演算処理することで、ノイズ信号を除去して測定信号を明確化することができ、測定値の信頼性が確保される。例えば、複数個の非接触距離センサでそれぞれ距離測定を行い、これら各非接触距離センサの測定信号を差分処理することで、測定信号中の共通ノイズを除去することができ、これによって、より精度の高い測定が可能となる。
【0045】
以上のように、本願各発明の測定装置によれば、上記棒体の作動状態を、非接触状態で測定するものであることから、
(a) 棒体先端の変位を測定する場合に比して、
(a−1)棒体を備えた機器の一部を開放させて測定装置を配置する必要がなく、測定作業の簡易迅速化が図れる、
(a−2)上記棒体の稼動時であってもこれに制約されることなく、該棒体の変位測定ができることから、測定時期の自由度が向上する、
等の効果が得られる。
【0046】
(b) カメラを用いる光学式測定装置に比して、
(b−1)棒体側に対する測定装置のセッティングが容易であり、測定作業の簡易迅速化が促進される、
(b−2)レンズ映像の歪とか棒体の微振動によって測定精度が左右されることがなく、より高精度の測定が可能となる、
等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本願発明の実施の形態に係る測定装置を用いた電動弁の弁棒作動状態の測定手法説明図である。
【図2】渦電流センサによる第1の測定形態説明図である。
【図3】渦電流センサによる第2の測定形態説明図である。
【図4】渦電流センサによる第3の測定形態説明図である。
【図5】渦電流センサにより取得される弁棒開作動開始位置近傍のインピーダンス波形の説明図である。
【図6】渦電流センサにより取得される弁棒開作動停止位置近傍のインピーダンス波形の説明図である。
【図7】渦電流センサにより取得されるネジ付き弁棒の開作動開始位置近傍のインピーダンス波形の説明図である。
【図8】インピーダンス波形を用いた弁棒の移動速度の取得手法の説明図である。
【図9】弁棒に曲りがある場合におけるインピーダンス波形の説明図である。
【図10】弁棒に傾きがある場合におけるインピーダンス波形の説明図である。
【図11】渦電流センサを弁棒の周方向へ複数配置した場合の説明図である。
【図12】渦電流センサを弁棒の軸方向へ複数配置した場合の説明図である。
【図13】空気作動弁における弁棒作動状態の測定手法説明図である。
【図14】空気作動弁の作動状態の説明図である。
【図15】電動弁のヨーク部分への静電容量センサの配置状態説明図である。
【図16】図15のXVI−XVI断面図である。
【図17】弁棒の一側方に配置された静電容量センサによって取得されるセンサ出力電圧の波形図である。
【図18】弁棒の他側方に配置された静電容量センサによって取得されるセンサ出力電圧の波形図である。
【図19】電動弁の全開位置と全閉位置における静電容量センサと弁棒との間の距離関係を示す図表である。
【図20】静電容量センサを用いて弁棒の傾き程度を取得する場合の概念説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
A:第1の実施形態
図1には、本願発明の第1の実施形態に係る測定装置を構成する渦電流センサ10を使用して弁棒6(特許請求の範囲中の「棒体」に該当する)の変位が測定される電動弁1を示している。
【0049】
上記渦電流センサ10は、特許請求の範囲中の「非接触距離センサ」の一つであって、高周波電流を受けて高周波磁界を発生するコイルを備えた従来周知の構造をもつものであって、上記高周波磁界内に導電体(この実施形態では上記弁棒6がこれに該当する)が存在すると、該導電体の表面に磁気誘導によって渦電流が発生し、上記コイルのインピーダンスが変化する。そして、このコイルのインピーダンスは、該コイルと上記導電体の距離の変化に応じて変化するものである。
【0050】
従って、上記渦電流センサ10を上記弁棒6に近接対向させて配置し、上記コイルのインピーダンスを測定し且つこれを連続的に監視すれば、渦電流センサ10に対する上記弁棒6の距離の変化に対応したインピーダンス波形(又はインピーダンスに対応する物理量、例えば、電圧の変化に対応する電圧波形)が得られる(図5参照)。
【0051】
以上のような測定機能をもつ上記渦電流センサ10によって上記弁棒6の変位を測定するために、該渦電流センサ10を上記弁棒6の表面に近接状態(即ち、非接触状態)で対向配置するが、ここでは、この渦電流センサ10の配置形態として、図2に示すように上記渦電流センサ10を上記弁棒6の平滑部6bに対向配置する形態(以下、「第1の配置形態」という)と、図3に示すように、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の平滑部6bに所定ピッチで凸部71又は凹部72を形成した補助材7を貼設し、この補助材7に対向させた状態で上記渦電流センサ10を配置する形態(以下、「第2の配置形態」という)と、図4に示すように、上記弁棒6のネジ部6aに対向配置する形態(以下、「第3の配置形態」という)を想定している。
【0052】
ここで、上記渦電流センサ10での測定によって得られるインピーダンス波形について説明する。
【0053】
上記電動弁1において、上記弁棒6はその移動中、モータ2とか弁駆動部4側の振動を受けて径方向への振動を生じ、これによって上記弁棒6の表面と上記渦電流センサ10の距離が変化することになる。
【0054】
なお、上記弁棒6の停止中は、該弁棒6の作動に起因する振動(即ち、モータ2とか弁駆動部4側の振動)が弁棒6に入力されることはないが、この作動に起因する振動以外の振動、例えば、上記電動弁1が備えられた配管側の振動等は、常時上記弁棒6側に入力される。しかし、この振動のレベルは、弁棒6の作動に起因する振動のレベルに比べて区分でき、上記弁棒6の作動状態の測定、及びその測定結果を電動弁1の作動に関する診断に際して対処し得る。
【0055】
また、上記弁棒6に曲りが生じている場合とか、弁棒6の支承部分の偏摩耗によって該弁棒6の軸線がその移動方向に対して傾いている場合にも、上記弁棒6の作動に伴って、該弁棒6の表面と上記渦電流センサ10の距離が変化することになる。
【0056】
このように、上記弁棒6の表面と上記渦電流センサ10の距離が変化すると、この距離の変化に対応して、該渦電流センサ10におけるコイルのインピーダンスが変化するため、このインピーダンスの変化に基づいて上記弁棒6等の移動状態を知ることができる。
【0057】
なお、例えば、上記弁棒6の表面に傷がある場合とか、ネジ部6aの一部に欠けが生じている場合にも、これら傷とか欠けが上記弁棒6の表面と上記渦電流センサ10の距離の変化として現れるので、上記渦電流センサ10におけるコイルのインピーダンスが変化し、これが検出されることになる。
【0058】
以下、図4〜図14を参照して、上記渦電流センサ10を用いた上記弁棒6の作動状態の測定、及びこの測定により取得されるインピーダンス波形の利用の仕方等について説明する。
【0059】
A:図5について
図5は、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の平滑部6bに対向させて配置した測定によって取得されたインピーダンス波形の開作動の開始位置近傍における部分を、モータ電流波形と共に示したものである。
【0060】
上記インピーダンス波形によれば、弁棒6の開作動が開始されると、インピーダンスが急激に増大変化し、所定の大きさで推移することから、このインピーダンスの急変部分を確認することで、弁棒6の開作動の開始点(即ち、弁棒6の移動時期)を正確に認識することができる。
【0061】
また、モータ電流波形では、モータ2の起動点を波形の急変点として正確に認識することができる。従って、モータ起動点と弁棒6の開作動開始点を対応づけることで、弁棒6の作動遅れ時間を知ることができる。
【0062】
B:図6について
図6は、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の平滑部6bに対向させて配置した測定によって取得されたインピーダンス波形の、開作動の停止位置近傍における波形を、モータ電流波形と共に示したものである。
【0063】
上記インピーダンス波形によれば、弁棒6の開作動が停止されると、インピーダンスが急激に減少変化し且つその減少状態のまま推移することから、このインピーダンスの急変部分を確認することで、弁棒6の開作動停止点(即ち、弁棒6の移動停止時期)を正確に認識することができる。
【0064】
また、モータ電流波形では、モータ2の停止点を波形の急変点として正確に認識することができる。従って、モータ停止点と弁棒6の開作動停止点を対応づけることで、弁棒6の惰走時間を知ることができる。
【0065】
C:図5及び図6について
上述のように、図5にインピーダンス波形では弁棒6の開作動開始点が取得され、図6のインピーダンス波形では弁棒6の開作動停止点が取得されるため、この開作動開始点と開作動停止点から、弁棒6の移動時間を正確に知ることができる。
【0066】
D:図7について
図7は、上記渦電流センサ10を上記弁棒6のネジ部6aに対向させて配置した測定によって取得されたインピーダンス波形の、開作動の停止位置近傍における波形を、モータ電流波形と共に示したものであって、図5に対応するものである。
【0067】
この図7のインピーダンス波形では、弁棒開作動開始点でインピーダンスの急変によって弁棒開作動開始点を正確に認識し得ることは、上記図5に示した場合と同様である。さらに、このインピーダンス波形の形状は、図8にも示すように、上記弁棒6のネジ部6aの山部61と谷部62のそれぞれに対応した大きな振幅をもつ規則的な波線として表されることから、例えば、上記弁棒6の平滑部6bに上記渦電流センサ10を配置して測定した場合(図5参照)よりも、上記弁棒6の移動中におけるインピーダンスの変化をより明確に認識することができる。
【0068】
E:図8について
図8は、図7におけるインピーダンス波形の一部を拡大図示するとともに、リフトセンサ(図示省略)により取得されるバルブリフト波形を同期させて表示したものである。このインピーダンス波形は、上述のように、上記弁棒6のネジ部6aの山部61と谷部62のそれぞれに対応した大きな振幅をもつ規則的な波形として表される。
【0069】
そして、インピーダンス波形の1ピッチの時間「ΔT」はインピーダンス波形から求めることができる。また、上記ネジ部6aの1ピッチの幅寸法「ΔL」は既知である。従って、これら時間「ΔT」と幅寸法「ΔL」に基づき、演算にて上記弁棒6の移動速度を取得することができる。
【0070】
さらに、上記幅寸法「ΔL」と、弁棒6の開作動開始点から開作動停止点までの間におけるインピーダンス波形の波数とから、演算にて上記弁棒6の移動量を取得することができる。
【0071】
F:図9について
図9は、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の平滑部6bに配置した場合で、且つ上記弁棒6に曲りが発生している場合のインピーダンス波形を示したものである。このインピーダンス波形は、上記弁棒6の曲り形状に対応した湾曲形状として現れるため、その存在を容易に知ることができるとともに、その曲りの大きさ(程度)に基づいて弁棒6の信頼性とか交換の必要性の有無を判断することもできる。
【0072】
G:図10について
図10は、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の平滑部6bに配置した場合で、且つ上記弁棒6に傾きが発生している場合のインピーダンス波形を示している。このインピーダンス波形は、上記弁棒6の傾きに対応した傾斜線状に現れるため、その存在を容易に知ることができるとともに、その傾きの大きさ(程度)に基づいて、上記弁棒6の支承部分の偏摩耗の大きさとか、該支承部分の交換の必要性の有無を判断することもできる。
【0073】
I:その他
(I−1) 上記渦電流センサ10の固定
上記渦電流センサ10は、図1に示したように、上記電動弁1のヨーク3に直接取付ける固定方法の他に、例えば、上記電動弁1と非接触で床面側に固定する固定方法が考えられる。
【0074】
前者の場合、即ち、電動弁1のヨーク3に上記渦電流センサ10を直接取付けて、該渦電流センサ10によって上記弁棒6の作動状態を測定する場合には、該弁棒6の作動に伴う該弁棒6自身の振動と、上記渦電流センサ10自体の上記ヨーク3による振動とが合成される。従って、上記渦電流センサ10での測定によって取得されるインピーダンス波形は、この合算された振動に対応した振幅をもつことから、例えば、該インピーダンス波形に基づく上記弁棒6の作動開始点とか作動停止点、あるいはハンマブロー動作等の確認が容易となる。
【0075】
また、このように電動弁1のヨーク3に上記渦電流センサ10を直接取付ける構成によれば、該渦電流センサ10を比較的小さい支持具を介してヨーク3側に固定できる等、10の取付構造の簡略化が促進される。
【0076】
後者の場合、即ち、上記電動弁1と非接触で床面側に固定した上記渦電流センサ10によって上記弁棒6の作動状態を測定する場合には、例えば、上記渦電流センサ10とこれが取付けられる支持具との間のガタツキ等の影響が該渦電流センサ10の測定に及ぶのが可及的に回避され、高精度の測定が可能となる。
【0077】
また、上記渦電流センサ10は、弁棒6に非接触で測定を行う構成であるので、例えば、弁棒とかヨークが熱い場合でもこれに影響されることなく測定でき、その信頼性が高いものであるが、さらにこの渦電流センサ10を上述のように上記電動弁1と非接触で床面側に固定した場合にはその効果はより顕著なものとなる。
【0078】
(I−2) 渦電流センサ10の他の配置例
上記実施形態においては、上記弁棒6の近接させた状態で渦電流センサ10を1個配置する構成としていたが、係る構成に限定されるものではなく、上記渦電流センサ10を複数個用意し、これらを上記弁棒6の周方向へ列設する周方向配置構成とか、上記弁棒6の軸方向へ列設する軸方向配置構成を採用することもできる。
【0079】
(I−2―1) 上記渦電流センサ10の周方向配置構成
図11には、複数の渦電流センサ10の周方向配置構成の例として、二個の渦電流センサ10を、該弁棒6の軸方向の同一位置において、該弁棒6の周方向に略90°の交差角をもって、非接触状態で配置した状態を示している。
【0080】
このように、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の周方向に複数個(この例では2個)配置し、これら各渦電流センサ10によって上記渦電流センサ10の表面との間隔を測定する構成とした場合には、以下のような特有の効果が得られる。
【0081】
(a) 上記渦電流センサ10を二個(複数個)配置し、これら各渦電流センサ10によって上記弁棒6の作動状態をそれぞれ測定し、その測定データを差分処理することで、例えば、上記二個の渦電流センサ10が接近状態で配置されている場合には、電磁ノイズとかセンサ自体の振れによる共通ノイズを除去して本来の測定信号をより明確化することができ、これによって、より高精度の測定が可能になる。
【0082】
(b) 二個の渦電流センサ10を、上記弁棒6の周方向に略90°の交差角をもって配置したことで、例えば、上記弁棒6に曲がりがある場合にはその曲り方向を、また弁棒6の軸線が該弁棒6の移動方向に対して傾斜している場合にはその傾斜方向を、それぞれ知ることができ、この弁棒6の曲り方向とか傾斜方向に関する情報を上記非接触距離センサ10による距離測定に反映させることで、測定装置の測定精度がさらに向上するという付随的な効果が得られる。
【0083】
この場合、上記二個の渦電流センサ10の交差角は「略90°」に限定されるものではなく、任意の交差角に設定し得るものであるが、上記付随的効果をより的確に得るという観点からは、交差角を「略90°」に設定するのが最適と言える。
【0084】
(I−2―2) 上記渦電流センサ10の軸方向配置構成
図12には、複数の渦電流センサ10の軸方向配置構成の例として、二個の渦電流センサ10を、該弁棒6の周方向の同一位置において、該弁棒6の軸方向に所定間隔をもって非接触状態で配置した状態を示している。
【0085】
このように、上記渦電流センサ10を上記弁棒6の軸方向に複数個(この例では2個)配置し、これら各渦電流センサ10によって上記渦電流センサ10の表面との間隔を測定する構成とした場合には、以下のような特有の効果が得られる。
【0086】
(a) 上記渦電流センサ10を二個(複数個)配置し、これら各渦電流センサ10によって上記弁棒6の作動状態をそれぞれ測定し、その測定データを差分処理することで、例えば、上記二個の渦電流センサ10が接近状態で配置されている場合には、電磁ノイズとかセンサ自体の振れによる共通ノイズを除去して本来の測定信号をより明確化することができ、これによって、より高精度の測定が可能になる。
【0087】
(b) 二個の渦電流センサ10を、上記弁棒6の軸方向に所定間隔をもって配置したことで、上記弁棒6の移動方向を知ることができ、この弁棒6の移動方向に関する情報を上記非接触距離センサ10による距離測定に反映させることで、測定装置の測定精度がさらに向上する。
【0088】
この場合、上記二個の渦電流センサ10の上記弁棒6の軸方向における間隔は、各渦電流センサ10によって測定された測定値を演算処理する場合における分解能を高めて高精度化を図るという観点からは、できるだけ間隔が小さいほど良く、究極的にはほぼ零(即ち、軸方向のほぼ同一位置)が好ましいと言える。
【0089】
(I−2―3) 上記渦電流センサ10の合成配置構成
上記渦電流センサ10の配置構成としては、上記周方向配置構成と軸方向配置構成のほかに、これら二つの配置構成を合成した合成配置構成が考えられる。即ち、二個以上の渦電流センサ10を、上記弁棒6の軸方向の異なる位置において、しかも上記弁棒6の周方向には所定の交差角をもたせてそれぞれ近接配置するものである。係る配置構成によれば、周方向配置構成による特有の効果と、軸方向配置構成による特有の効果を同時に得ることができる。
【0090】
また、例えば電動弁側の構造的な理由等から、複数の渦電流センサ10の周方向配置とか軸方向配置ができないような場合でも、これら各渦電流センサ10を合成配置することで、該各渦電流センサ10の配置位置についての制限を排除することができ、それだけ上記渦電流センサ10のレイアウトの自由度が向上する。
【0091】
さらに、合成配置構成によれば、例えば、上記弁棒6のX軸方向とY軸方向(即ち、上記弁棒6の周方向において直交する二方向)とZ軸方向(即ち、弁棒6の軸方向)の情報に加えて、上記弁棒6の移動時間に関する情報を得ることができ、これら各情報に基づいて上記弁棒6の四次元的管理を行うことが可能となる。
【0092】
(I−3) 弁棒6のトレンド管理
上記渦電流センサ10での測定によって取得される上記弁棒6の作動状態に関するデータを継続的に監視することで、あるいは、電流センサやヨーク応力センサと対比することで、弁棒6の作動傾向を取得し、必要に応じて所要の措置を講じることが可能となる。例えば、弁棒6の作動遅れ時間(図5参照)の長大傾向は、例えば、ステムナットの摩耗状態の判断及びその交換時期の判断資料となる。
【0093】
(I−4) 本願発明の空気作動弁への適用
図13は、空気作動弁100の弁棒101の作動状態を、ヨーク102に取付けた渦電流センサ103によって測定する状態を示している。この空気作動弁100の弁棒101は、流量調整弁として使用されることが多く、従って、図14に示すように、開作動と閉作動を繰り返す動作が基本動作となる。この場合、上記渦電流センサ10によれば、弁棒101の開作動における作動開始点と作動停止点、及び閉作動における作動開始点と作動停止点を正確に知ることができ、また、制御状態の振幅や周期、あるいはハンチング動作の振幅や周期を取得することができるなど、空気作動弁100の作動状態の測定手法として好適である。
【0094】
B:第2の実施形態
本願発明の第2の実施形態に係る測定装置は、上記第1の実施形態に係る測定装置が弁棒6の作動状態測定用に渦電流センサ10を備えていたのに対して、図15に示すように、静電容量センサ20を備えたものである。
【0095】
上記静電容量センサ20(以下、必要に応じて、符号を20A〜20Fと表記する)は、上記渦電流センサ10と同様に、非接触距離センサとして機能するものであって、図15に示すように、電気品を内蔵した本体部22と、先端部に電極を内蔵したロッド状の電極部21を備えて構成され、上記電極部21の先端面を上記弁棒6の表面に非接触状態で近接対向させて配置される。そして、この静電容量センサ20は、上記電極部21に発生する電界内の静電容量の変化を検出する。即ち、上記弁棒6の軸方向への移動とか、該弁棒6の形状変化あるいは径方向への振動によって、該弁棒6と上記電極部21の相対距離が変化すると、この相対距離の変化に対応して電界内の静電容量が変化する。この静電容量の変化を、例えば電圧変換回路によって相対距離の変化に対応した電圧に変換してこれを検出し、この検出された電圧信号に基づいて上記弁棒6の作動状態を測定するものである。
【0096】
ところで、上記弁棒6に対する上記静電容量センサ20の配置数とか配置位置は、必要に応じて任意に設定し得るものであるが、この実施形態では、後述する「弁棒6の傾きの検出」を考慮して、図15及び図16に実線図示するように、二つの静電容量センサ20A、20B(弁棒6の傾きを検出する上において必要最小限の数)を用いるものとし、且つこれら両者の交差角α(たとえば、全閉状態においてグランドパッキン押えの直上位置における弁棒6の軸心に対応する点を基準点Pとし、この基準点Pを通る一方の静電容量センサ20Aの指向線「La」と、該基準点Pを通る他方の静電容量センサ20Bの指向線「Lb」との挟角)を「約90°」に設定している。
【0097】
なお、二つの静電容量センサ20の交差角αは、弁棒6の移動方向をZ軸とした場合においてX軸方向とY軸方向の二方向の傾斜成分を検出する必要上、「180°」付近の設定は避けるべきであり、「180°」付近以外の角度範囲内であれば任意に設定できる。従って、図16に例示した静電容量センサ20A〜20Fの配置例においては、上記弁棒6の軸心を挟んで一直線上の対向する組み合わせ(例えば、20Aと20Fの組み合わせとか、20Bと20Dの組み合わせ)以外の組み合わせであれば、任意に設定できる。
【0098】
また、静電容量センサ20の配置個数は、「弁棒6の傾き」を考慮しなければ、一個でも可能であるが、「弁棒6の傾き」を考慮すれば、上述のように静電容量センサ20を少なくとも二個以上配置することが必要である。しかし、静電容量センサ20の配置が可能な部位は左右のヨーク3,3の間隔部分に限られるため、このスペース的な制約を勘案すれば、多くても四個程度とするのが好ましい。
【0099】
なお、上記静電容量センサ20は、その電極部21を磁気シールド材によって遮蔽し得るように構成することもできる。従って、このような遮蔽可能に構成された静電容量センサ20を複数個設置し、例えば、静電容量センサ20を用いて行われる測定の目的等に応じて、実際に使用する静電容量センサ20の数とか配置位置を選択することで、
測定目的に対応した静電容量センサの使用態様の選択が容易となる。
【0100】
次に、上記静電容量センサを用いて上記弁棒6の曲がりや傾きの有無及びその傾き程度を診断する場合の具体的な手法等を説明する。
【0101】
ここでは、図16に実線図示するように、上記交差角αを「略90°」に設定した二つの静電容量センサ20A,20Bを、図15に示すようにその電極部21、21が略同一高さ位置において上記弁棒6の表面に近接対向するように配置した場合を想定する。
【0102】
この状態で、上記弁棒6を、全開位置から全閉位置まで移動させ、さらに全閉位置から全開位置まで移動させる一連の動作を三回繰り返して行い、且つこの場合における上記弁棒6の動きを上記各静電容量センサ20A,20Bによって測定し、その測定結果を、図17及び図18に示す。
【0103】
図17は、一方の静電容量センサ20Aでの測定により得られた出力電圧波形であり、この出力電圧波形によれば、「出力電圧」の電圧レベルは、閉作動期間中は全開位置から全閉位置へ移行するにつれて次第に減少変化し、逆に、開作動期間中は全閉位置から全開位置へ移行するにつれて次第に増大変化しており、且つこの電圧レベルの変化傾向は各測定回の何れにおいても同様である。
【0104】
図18は、他方の静電容量センサ20Bでの測定により得られた出力電圧波形であり、この出力電圧波形によれば、「出力電圧」の電圧レベルは、閉作動期間中は全開位置から全閉位置へ移行するにつれて次第に増大変化し、逆に、開作動期間中は全閉位置から全開位置へ移行するにつれて次第に減少変化しており、且つこの電圧レベルの変化傾向は各測定回の何れにおいても同様である。
【0105】
一方、上記「出力電圧」は、静電容量センサの電極部21とこれに対向する上記弁棒6の表面との距離に反比例し、この距離が大きくなるほど(即ち、電極部21が弁棒6の表面から遠ざかるほど)電圧レベルは小さくなる。
【0106】
従って、この「距離と電圧レベル」の相関関係を上記各静電容量センサ20A、20Bによる測定に当てはめると、
(イ)一方の静電容量センサ20Aの指向方向から見れば、上記弁棒6が降下移動する閉作動時には該弁棒6との距離「L1」が次第に増大変化し(即ち、弁棒6が一方の静電容量センサ20Aから遠ざかり)、上記弁棒6が上昇移動する開作動時には該弁棒6との距離「L1」が次第に減少変化する(即ち、弁棒6が一方の静電容量センサ20Aに近づく)と判断され、
(ロ)他方の静電容量センサ20Bの指向方向から見れば、上記弁棒6が降下移動する閉作動時には該弁棒6との距離「L2」が次第に減少変化し(即ち、弁棒6が他方の静電容量センサ20Bに近づき)、上記弁棒6が上昇移動する開作動時には該弁棒6との距離「L2」が次第に増大変化する(即ち、弁棒6が他方の静電容量センサ20Bから遠ざかる)、と判断され、
(ハ)一方の静電容量センサ20A側における上記距離「L1」と他方の静電容量センサ20B側における上記距離「L2」は、開作動時と閉作動時の何れにおいても「増大変化」又は「減少変化」するのみで、開作動中において又は閉作動中において「増大変化から減少変化に転じる」とか「減少変化から増大変化に転じる」ということがない。
【0107】
上記(イ)〜(ハ)に記載した事実からは、上記弁棒6には曲がり変形はなく直状形体が維持されていること、しかし、弁棒6はその移動線方向(即ち、電動弁の設計上、弁棒6の移動方向として規定された直線方向)に対して傾斜しており、この傾斜状態で移動していること、を知ることができる。
【0108】
一方、静電容量センサ20A、20Bの出力電圧を用いた演算によって、各静電容量センサ20A、20Bの電極部21と上記弁棒6の表面との距離「L1」、「L2」を取得できる。そして、この取得される距離を用いた演算によって、次述のように、上記弁棒6の傾き度合を知ることができる。
【0109】
図19には、上記各静電容量センサ20A、20Bの出力電圧に基づいて(具体的には、三回の測定における測定値の平均値に基づいて)取得された上記距離「L1」、「L2」を、全開位置における距離「L1a」、「L2a」と、全閉位置における距離「L1b」、「L2b」として示している。
【0110】
また、図20には、図19に示した上記距離「L1a」、「L2a」、「L1b」、「L2b」の関係を、弁棒6と上記各静電容量センサ20A、20Bとの相対関係の下で示している。この図20によれば、上記弁棒6は、全開位置においては、静電容量センサ20Aからは距離「L1a」の位置にあり、また静電容量センサ20Bからは距離「L2a」の位置にあったが、全閉位置においては静電容量センサ20Aからは距離「L1b」の位置に変位し、また静電容量センサ20Bからは距離「L2b」の位置に変位したこと、即ち、全開位置から全閉位置への閉作動時には上記弁棒6はその軸心が上記基準点Pに近づくように変移したことが判る。従って、全開位置における弁棒6の位置(距離「L1a」と「L2a」で規定される位置)と、全閉位置における弁棒6の位置(距離「L1b」と「L2b」で規定される位置)を対比することで、弁棒6がどの方向へどの程度傾いているのかを知ることができる。
【0111】
このように、静電容量センサ20を用いた測定手法によれば、上記弁棒6の曲がりや傾きの有無及びその程度を、静電容量センサ20の測定結果(即ち、出力電圧波形の変化傾向等)から容易に判断できるものであり、係る判断の容易化は電動弁の診断において極めて有用である。
【0112】
なお、この実施形態では、図17、図18に示すように、静電容量センサの出力電圧として生波形を用いているが、この静電容量センサの使用目的によってはこの生波形にフィルタ処理とか微分・積分処理を施した状態で用いることもできる。
【0113】
また、この実施形態においては、図15に示すように、上記静電容量センサ20を電動弁1から離れた床面(電動弁1の振動の影響が及ぶ床面又は影響が及ばない床面の場合がある)に設置しているが、本願発明はこのように静電容量センサ20を床面に設置する構成に限定されるものではなく、例えば、上記静電容量センサ20を電動弁1の上記ヨーク3に直接設置するなど、電動弁1の周辺状況、あるいはセンサ信号の活用目的を考慮して、該静電容量センサ20の設置構成を任意に選択することができるものである。
【0114】
この実施形態における測定装置においても、上記第1の実施形態に係る測定装置におけると同様の作用効果を得ることができる。
【0115】
なお、この第2の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、上記静電容量センサを複数個備え、且つこれらの配置構成として、上記周方向配置構成、軸方向配置構成あるいは合成配置構成を適宜選択し得ることは勿論である。
【0116】
また、この実施形態のように、静電容量センサを用いて、上記弁棒6の曲がりや傾きの有無及びその程度を知る手法は、静電容量センサに特有の作用効果ではなく、広く非接触距離センサについて言えるものであり、例えば、上記第1の実施形態のように非接触距離センサとして渦電流センサを用いた場合とか、以下の実施形態において説明するように非接触距離センサとして、超音波センサとかレーザセンサを用いるものにおいても同様である。
【0117】
C:第3の実施形態
本願発明の第3の実施形態に係る測定装置は、上記弁棒6の作動状態測定用に超音波センサを備えたものである。
【0118】
この超音波センサは、上記渦電流センサ10と同様に、非接触距離センサとして機能するものであって、超音波の送受信機能を備えて構成され、該超音波センサから送信される超音波の該超音波センサと上記棒体の表面との間の往復伝播時間に基づいて上記棒体の作動状態を測定する。
【0119】
そして、この超音波センサは、上記渦電流センサ10と同様に、上記弁棒6の表面に非接触で対向配置される(図2参照)。このように、上記超音波センサを上記弁棒6の表面に対して非接触状態で対向配置すると、上記弁棒6の軸方向への移動とか、形状変化あるいは径方向への振動によって該弁棒6の表面と上記超音波センサとの距離が変化すると、この距離の変化に対応して、該超音波センサと上記弁棒6の表面との間での超音波の往復伝播時間が変化する。
【0120】
そして、弁棒6がその軸方向へ移動している場合における往復伝播時間の変化状態と、弁棒6が停止している場合における往復伝播時間の変化状態とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記弁棒6の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記弁棒6の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、弁棒6の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0121】
なお、この第3の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、上記超音波センサを複数個備え、これを上記周方向配置構成、軸方向配置構成あるいは合成配置構成によって上記弁棒6側に配置し得ることは勿論である。
【0122】
D:第4の実施形態
本願発明の第4の実施形態に係る測定装置は、上記弁棒6の作動状態測定用にレーザセンサを備えたものである。
【0123】
このレーザセンサは、上記渦電流センサ10と同様に、非接触距離センサとして機能するものであって、該レーザセンサから発信されるレーザ光の該レーザセンサと上記棒体の表面との間の往復時間に基づいて上記棒体の作動状態を測定する。
【0124】
そして、このレーザセンサは、上記渦電流センサ10と同様に、上記弁棒6の表面に非接触で対向配置される(図2参照)。このように、上記レーザセンサを上記弁棒6の表面に対して非接触状態で対向配置すると、上記弁棒6の軸方向への移動とか、形状変化あるいは径方向への振動によって該弁棒6の表面と上記超音波センサとの距離が変化すると、
この距離の変化に対応して、該レーザセンサと上記弁棒6の表面との間でのレーザ光の往復時間が変化する。
【0125】
そして、弁棒6がその軸方向へ移動している場合におけるレーザ光の往復時間の変化状態と、弁棒6が停止している場合におけるレーザ光の往復時間の変化状態とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記弁棒6の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記弁棒6の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、弁棒6の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0126】
なお、この第4の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、上記レーザセンサを複数個備え、これを上記周方向配置構成、軸方向配置構成あるいは合成配置構成によって上記弁棒6側に配置し得ることは勿論である。
【0127】
E:第5の実施形態
本願発明の第5の実施形態に係る測定装置は、弁棒6の作動状態測定用に磁歪センサを備えたものであって、該弁棒6が、歪の大きさに対応して透磁率が変化するという特殊な磁気特性をもつ素材によって構成されている場合に好適な構成である。
【0128】
即ち、磁歪センサは、上記渦電流センサ10、静電容量センサ、超音波センサ及びレーザセンサと同様に非接触距離センサとして機能するものではあるが、これら各センサとは異なって、弁棒6の歪による透磁率の変化状態を検出し、この透磁率の変化状態に基づいて上記弁棒6の作動状態を測定するものである。そして、この磁歪センサは、上記渦電流センサ10と同様に、上記弁棒6の表面に非接触で配置される(図2参照)が、これに限られるものではなく、上記弁棒6の表面に接触させて配置することもできる。
【0129】
このように、上記磁歪センサを上記弁棒6の表面に対して非接触状態で対向配置すると、上記弁棒6の軸方向への移動状態時には該弁棒6には軸力が作用し該弁棒6に歪が発生することからその歪方向における透磁率が変化しこれが上記磁歪センサによって検出される一方、上記弁棒6の停止状態では該弁棒6には軸力は作用せず歪も発生しないので透磁率は変化しない。
【0130】
従って、この透磁率の変化の有無及び変化状態に基づいて、上記弁棒6の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記弁棒6の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。また、弁棒6の曲がり、傾き等の有無あるいはその程度を知ることができる。
【0131】
また、弁棒6がその軸方向へ移動している場合における透磁率の変化状態と、弁棒6が停止している場合における透磁率の変化状態とは明確に識別し得るものであることから、これら両者によって、上記弁棒6の移動開始・停止位置とか、移動時間・時期を正確に判断することができ、延いては、上記弁棒6の軸方向への移動量や移動速度を演算により取得できる。
【0132】
なお、上記磁歪センサは、この実施形態のように上記弁棒6の作動状態を測定する非接触距離センサとして用いる他に、例えば、ヨークの歪による透磁率の変化状態に基づいて該ヨークに作用する応力を測定するヨーク応力センサとして用いることもできる。また、上記第1の実施形態と同様に、上記磁歪センサを複数個備え、これを上記周方向配置構成、軸方向配置構成あるいは合成配置構成によって上記弁棒6側に配置し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本願発明は、原子力プラント等に設備された電動弁等の弁装置の診断に利用できるものである。
【符号の説明】
【0134】
1 ・・電動弁
2 ・・モータ
3 ・・ヨーク
4 ・・弁駆動部
6 ・・弁棒
7 ・・補助材
10 ・・渦電流センサ
20 ・・静電容量センサ
21 ・・電極部
22 ・・本体部
100 ・・空気作動弁
101 ・・弁棒
102 ・・ヨーク
103 ・・渦電流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波磁界を発生するコイルを備えた渦電流センサを、軸方向へ移動する導電性の棒体の表面に対して非接触状態で対向配置し、上記棒体と上記渦電流センサとの距離の変化や棒体の形状変化に応じて変化する上記コイルのインピーダンス又は該インピーダンスに対応する物理量を測定することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
軸方向へ移動する棒体の表面に対して非接触状態で対向配置されて該表面との間の距離の変化を検出する非接触距離センサを備え、該非接触距離センサの検出信号に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴とする測定装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記非接触距離センサが、高周波磁界を発生するコイルを備えた渦電流センサで構成され、上記棒体との距離の変化や該棒体の形状変化に応じて変化する上記コイルのインピーダンス又は該インピーダンスに対応する物理量に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴とする測定装置。
【請求項4】
請求項2において、
上記非接触距離センサが、電界内の静電容量の変化を検出する静電容量センサで構成され、上記棒体との距離の変化や該棒体の形状変化に応じて変化する静電容量値に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴とする測定装置。
【請求項5】
請求項2において、
上記非接触距離センサが、超音波の送受信機能を備えた超音波センサで構成され、該超音波センサから送信される超音波の該超音波センサと上記棒体の表面との間の往復伝播時間に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴とする測定装置。
【請求項6】
請求項2において、
上記非接触距離センサが、レーザ光の送受光機能を備えたレーザセンサで構成され、該レーザセンサから発信されるレーザ光の該レーザセンサと上記棒体の表面との間の往復時間に基づいて上記棒体の作動状態を測定することを特徴とする測定装置。
【請求項7】
請求項2,3,4,5又は6において、
上記非接触距離センサが、上記棒体の周方向に複数個配置されていることを特徴とする測定装置。
【請求項8】
請求項2,3,4,5又は6において、
上記非接触距離センサが、上記棒体の軸方向に複数個配置されていることを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−185145(P2012−185145A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146944(P2011−146944)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】