説明

測定電極、腐食監視装置及び腐食監視方法

【課題】腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態、特に腐食速度を電気化学的に検出するための測定電極、腐食監視装置及び腐食監視方法を提案する。
【解決手段】腐食媒体Fにより腐食する被検体Mの腐食状態を電気化学的に検出するために、腐食媒体Fに接触させる測定電極20であって、被検体Mと同一の金属材料からなる試験体層22及び被検体Mと異なる金属材料からなる下地層23を積層して形成されると共に試験体層22のみが腐食媒体Fに接触可能な第一極21と、被検体Mと同一材料からなる第二極25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に検出するための測定電極、これを用いた腐食監視装置及び腐食監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラント、化学プラント、各種水処理分野等においては、水等の腐食媒体に触れる配管や貯蔵槽等の設備の腐食状態を監視し、その結果に基づいて腐食対策を施すことが必要となっている。
配管等の設備の腐食状態を監視する方法としては、クーポン法、電気抵抗法、分極抵抗法、交流インピーダンス法、電位測定法、AE法、電気化学ノイズ法等が知られている。このうち、電気化学ノイズ法(ENA:Electrochemical Noise Analysis)が注目されている。
【0003】
電気化学ノイズ法は、クーポン法のように試験片を採取する必要がなく、非破壊で監視できる点で有利である。また、電気抵抗法、分極抵抗法、交流インピーダンス法のように外部から電気を印加する必要がないので、自然状態での腐食速度を測定できる利点があり、腐食媒体が引火性を有する場合であっても適用できる。
電気化学ノイズ法は、腐食している金属(電極)と腐食媒体の界面で発生する電流や電圧ノイズの変動を評価することによって、孔食などの局部腐食の発生を検出するものである。腐食媒体に接触(浸漬)させる測定電極としては、二極式や三極式があり、これら各測定電極は同一材料、同一寸法に形成される。
【特許文献1】特開2005−221381号公報
【特許文献2】特開平5−11397号公報
【非特許文献1】井上、「電気化学ノイズ測定の基礎」、社団法人腐食防食協会、材料と環境[Zairyo-to-Kankyo]、平成15年9月15日発行、第52巻、第9号、p.444−451
【非特許文献2】宮澤、「腐食モニタリングによる化学プラントの腐食管理」、社団法人腐食防食協会、材料と環境[Zairyo-to-Kankyo]、平成15年9月15日発行、第52巻、第9号、p.501−504
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電気化学ノイズ法を用いたとしても、腐食現象と腐食速度を正確に把握するのは困難である。すなわち、電気化学的手法において腐食現象に関係する信号と腐食に関係しないノイズとの区別が難しく、また、その系の電気化学ノイズと腐食速度の相関関係を予め求めておく必要がある。更に、測定電極(二極・三極)は同時に腐食されるので相対的な電流(短絡電流)や電位差しか測定できない、という問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態、特に腐食速度を電気化学的に検出するための測定電極、腐食監視装置及び腐食監視方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る測定電極、腐食監視装置及び腐食監視方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に検出するために、前記腐食媒体に接触させる測定電極であって、前記被検体と同一の金属材料からなる試験体層及び前記被検体と異なる金属材料からなる下地層を積層して形成されると共に前記試験体層のみが前記腐食媒体に接触可能な第一極と、前記被検体と同一材料からなる第二極と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記被検体と同一材料からなる第三極を備えることを特徴とする。
また、少なくとも前記第一極及び前記第二極を複数組備え、前記試験体層のそれぞれの膜厚が異なることを特徴とする。
【0008】
また、少なくとも前記第一極及び前記第二極を、その先端のみが露出するように覆う絶縁部材を有することを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に監視する腐食監視装置であって、前記腐食媒体に接触させる測定電極として、第1の発明に係る測定電極と、前記測定電極間の電流及び/又は前記第一極と前記第二極間の電位差を測定する測定器と、を備えることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に監視する腐食監視方法であって、第1の発明に係る測定電極を前記腐食媒体に接触させる工程と、前記測定電極間の電流及び/又は前記第一極と前記第二極間の電位差を測定し、その経時変化を監視する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記経時変化に基づいて前記被検体の腐食速度を求める工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
腐食媒体に接触する測定電極が、前記被検体と同一の金属材料からなる試験体層及び前記被検体と異なる金属材料からなる下地層を積層して形成されると共に前記試験体層のみが前記腐食媒体に接触可能な第一極と、被検体と同一材料からなる第二極と、から構成されるので、第一極の試験体層が腐食することで、第一極の下地層と第二極との間に大きな電位差及び電流が発生するようになる。
これにより、試験体層(被検体)の腐食状態を検知することができる。また、試験体層の膜厚と電位差及び電流の発生時間(経過時間)から、試験体層(被検体)の腐食速度を求めることができる。
この際、第一極の下地層と第二極との間に発生する大きな電位差及び電流は、ホワイトノイズに影響されないで容易に検出できるので、確実に腐食状態の検出・監視が可能となる。
【0013】
また、このような測定電極を複数設け、各試験体膜の膜厚を異ならせることで、試験体層(被検体)の腐食速度を高精度に求めることができる。
【0014】
また、少なくとも第一極及び第二極を、絶縁部材により、これらの先端のみが露出するように覆うことで、測定電極の取り扱いが容易となる。
また、絶縁部材を管形に形成し、少なくとも第一極及び第二極の先端が管内面に露出するように配設することで、腐食媒体Fを取り扱う各種設備の配管に容易に取り付け可能となる。
したがって、腐食媒体Fを取り扱う各種設備の配管等の腐食状態、特に腐食速度を容易かつ確実に測定・監視することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る測定電極、腐食監視装置及び腐食監視方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、第一実施形態に係る腐食監視装置10の構成を示す模式図である。
腐食監視装置10は、各種金属からなる被検体Mが腐食媒体F(例えば、水、海水、酸、アルカリ等:液体、気体、粉体等)により腐食する状態を電気化学的に監視する装置であって、腐食媒体Fに浸漬(接触)される測定プローブ20と、測定プローブ20が接続される電流計Aと、電流計Aの検出データを取得して、任意の時間毎にこの検出データを記録(蓄積)し、更に外部に出力可能なデータロガー12と、データロガー12から出力された各種データを処理して表示、記録等を行うパソコンPC等から構成される。
【0016】
測定プローブ20は、試験極21と対極25を有する二極式である。
試験極(第一極)21は、被検体Mと同一の金属材料からなる試験体層22及び被検体Mと異なる金属材料からなる下地層23が積層されて形成される。電流計Aに接続する基端には下地層23が、腐食媒体Fに接触する先端には試験体層22が配置される。下地層23は、略均一な膜厚に形成された試験体層22により被膜され、腐食媒体Fに接触しないようになっている。なお、試験体層22の膜厚は、例えば、200〜300μm程度である。
試験極21(下地層23)の形状は、棒形、板形等のいずれであってもよい。好ましくは、試験極21(下地層23)の先端には平面が形成され、この平面に試験体層22が均一に成膜する。これにより、試験体層22が腐食媒体Fにムラなく接触するようになる。
【0017】
対極(第二極)25は、被検体Mと同一の金属材料から形成される。対極25の形状は、試験極21と略同一であり、好ましくは先端には平面が形成される。
そして、試験極21及び対極25は、これらよりも耐腐食性の高く、また絶縁性を有する材料(樹脂を含む)からなる絶縁部28により、それぞれの先端(面)のみが露出するように覆われる。
【0018】
そして、図1に示すように、測定プローブ20(試験極21,対極25)を腐食媒体Fに浸漬すると、試験極21と対極25の間に発生する自然状態での電流Zが、電流計Aによって検出できるようになっている。
電流計Aの検出データは、データロガー12により取得され、任意の時間毎に記録・保存される。これにより、電流計Aの検出データの経時変化を観察することが可能となっている。そして、電流計Aの検出データの経時変化は、パソコンPCによりグラフ化(可視化)され、またそのグラフ等の情報がプリントアウト等できるようになっている。
【0019】
図2は、電流計Aの検出データの経時変化を示す図である。
測定プローブ20(試験極21,対極25)を腐食媒体Fに浸漬すると、試験極21及び対極25のそれぞれは、絶縁部28から露出する先端部分が徐々に腐食し始める。
試験極21の先端に露出する試験体層22と、試験極21とは同一材料からなるため、腐食速度等は同一である。図2に示すように、電流計Aにより検出される電流Zは、略一定の値を取り続ける。
そして、測定プローブ20を腐食媒体Fに浸漬してからt0時間が経過すると、図2に示すように、電流計Aにより検出される電流Zは瞬間的に大きな値に変化し、その後は変化後の値を取り続けるようになる。
【0020】
このように、t0時間経過後に電流Zが瞬間的に大きな値に変化するのは、測定プローブ20の試験極21の先端に形成された薄膜の試験体層22が腐食して、下地層23が露出するからである。すなわち、試験体層22に孔食等の局部腐食が発生することで、下地層23が僅かでも露出すると、下地層23と対極25間の電流Zの変化が電流計Aによって検出されるようになる。
【0021】
上述したように、試験極21の先端に形成された試験体層22の膜厚は、例えば、200μmである。そして、電流Zが瞬間的に大きな値に変化した時間t0が求められる。これにより、試験体層22、すなわち被検体Mの腐食媒体Fに対する腐食速度を推定することが可能となる。
【0022】
例えば、時間t0が5000時間であれば、試験体層22(被検体M)の腐食媒体Fに対する腐食速度は、
(試験体層22の膜厚)/(経過時間t0)=200μm/5000h=0.04μm/h
と計算できる。
【0023】
図3は、腐食監視装置10が複数組の測定プローブ20を備える場合を示す図である。図4は、複数の電流計Aの検出データの経時変化及び腐食速度を示す図である。
腐食監視装置10は、例えば、3組の測定プローブ20(20a,20b,20c)と、それぞれの測定プローブ20が接続される3つの電流計A(Aa,Ab,Ac)と、3つの電流計Aが接続されるデータロガー12と、パソコンPC等から構成される。
【0024】
3組の測定プローブ20a〜20cの構成は、図1の場合と同一であるが、それぞれの測定プローブ20a〜20cの試験極21(21a,21b,21c)は、試験体層22(22a,22b,22c)の膜厚がそれぞれ異なるように設定されている。
例えば、測定プローブ20aの試験体層22aの膜厚は200μm、測定プローブ20bの試験体層22bの膜厚は400μm、測定プローブ20aの試験体層22bの膜厚は600μmに設定される。
【0025】
このような測定プローブ20a〜20cを腐食媒体Fに浸漬すると、電流計Aa〜Acには、図4(a)に示すように、電流Za,Zb,Zcが検出される。
各測定プローブ20a〜20cの試験体層22a〜22cの膜厚が異なるので、電流Za〜Zcが瞬間的に大きな値に変化する時間が、測定プローブ20aはt1時間後、測定プローブ20bはt2時間後、測定プローブ20cはt3時間後となる。
そこで、電流Z(Za〜Zc)が瞬間的に大きな値に変化した時間と、試験体層22(22a〜22c)の膜厚との関係をグラフ化すると、図4(b)に示すように、試験体層22a〜22c、すなわち被検体Mの腐食媒体Fに対する腐食速度(傾き)を求めることができる。特に、複数の試験体層22a〜22cを用いることで、一つの試験体層22のみの場合に比べて高精度に腐食速度を求めることができる。
【0026】
図5は、測定プローブ20(20a〜20c)を各種設備の配管50に配置した例を示す模式図である。
被検体Mとしては、石油精製プラント、化学プラント、各種水処理装置等の設備・施設を構成する配管や貯蔵槽等が挙げられる。これら配管・貯蔵槽等は、水や海水等の腐食媒体Fに触れるため、徐々に腐食する。
そこで、これら配管・貯蔵槽等の近傍に、腐食監視装置10の測定プローブ20を配置して、配管・貯蔵槽等が触れる腐食媒体Fにより、測定プローブ20(の先端部分)を同時に腐食させる。
これにより、例えば、ステンレス鋼や鋳鉄等の各種金属からなる配管・貯蔵槽等(被検体M)の腐食状態(特に腐食速度)を、腐食監視装置10により検出、観察することが可能となる。
【0027】
図5に示すように、測定プローブ20(20a〜20c)は、上述した絶縁部28と同一の材料からなり、両端にフランジ32を有する円管30に対して、一部が露出するように埋め込まれている。具体的には、この円管30(絶縁部28)の内面に、各測定プローブ20a〜20cの試験極21a〜21c及び対極25a〜25cのそれぞれの先端部分が露出するように配置されている。
【0028】
測定プローブ20(20a〜20c)が配置された円管30は、被検体Mである水処理装置等の配管50に対して並列に接続される。そして、配管50及び円管30内に水等の腐食媒体Fを流すことで、円管30の内面に露出する各測定プローブ20が、水等の腐食媒体Fにより腐食し始める。
そして、各測定プローブ20からの検出データを監視することで、被検体Mである配管50の腐食状態(腐食速度)を間接的に監視することが可能となる。
【0029】
なお、測定プローブ20が配置された円管30を配管50に対して直列に接続する場合であってもよい。
また、測定プローブ20(20a〜20c)の配置は任意である。配置により腐食状態が変化するものではないからである。
【0030】
図6は、被検体M及び腐食媒体Fの種類、の試験体層22及び下地層23の材料及び組み合わせを説明する図である。
例えば、被検体Mがステンレス鋼からなる海水冷却装置の配管であり、腐食媒体FがpH8付近の中性(〔Cl〕20000ppm)の場合には、試験体層22にはステンレス鋼(材料P)が、下地層23には亜鉛(材料Q)が、それぞれ用いられる。
【0031】
試験体層22と下地層23の材料の組み合わせは、例えば、試験体層22を形成する材料Pと下地層23を形成する材料Qを水や海水に浸漬した場合に、電位差を有するような組み合わせである(つまり、貴な金属と卑な金属との組み合わせ)。
例えばSUS304等のステンレス鋼(材料P)の海水中での電位は、約−0.5Vvs.SCEであり、亜鉛(材料Q)の海水中での電位は、約−1.0Vvs.SCEである(腐食防食協会編、腐食防食ハンドブック、p.174)。このため、ステンレス鋼(試験極21、材料P)と下地層23には亜鉛(下地層23、材料Q)の間には、約0.5Vの電位差が発生する。
電位化学的に0.5Vの電位差が発生すれば、この電位差は容易に検出できる。また、同時に、この電位差によって生じる電流も容易に検出できる。つまり、図2(a)及び図4(a)に示した、電流Z(Za〜Zc)の瞬間的な変化を検出することができる。
したがって、電流計Aによる測定では、ホワイトノイズ(腐食反応に関係しない電位、電流の乱れ)に対する対策を厳密に講じる必要はない。
【0032】
なお、試験体層22と下地層23とを物理的に組み合わせる方法(製法)としては、
ステンレス鋼(試験体層22)上に亜鉛(下地層23)をメッキしたり、鋳鉄や銅(試験体層22)上にニッケル(下地層23)を電鋳したり、また、溶接やや常温溶射法等を用いて肉盛してもよい。試験体層22上に下地層23を成膜してもよいし、逆に下地層23上に試験体層22を成膜してもよい。
【0033】
このように、第一実施形態の測定電極、腐食監視装置及び腐食監視方法によれば、腐食媒体Fに接触する測定プローブ20が、被検体Mと同一の金属材料からなる試験体層22及び被検体Mと異なる金属材料からなる下地層23を積層して形成されると共に試験体層22のみが腐食媒体Fに接触可能な試験極21と、被検体Mと同一材料からなる対極25と、から構成されるので、試験極21の試験体層22が腐食することで、試験極21の下地層23と第二極25との間に大きな電位差及び電流が発生するようになる。
これにより、試験体層22(被検体M)の腐食状態を検知することができる。また、試験体層22の膜厚と電位差及び電流の発生時間(経過時間)から、試験体層22(被検体M)の腐食速度を求めることができる。
この際、試験極21の下地層23と対極25との間に発生する大きな電位差及び電流は、ホワイトノイズに影響されないで容易に検出できるので、確実に腐食状態の検出・監視が可能となる。
【0034】
また、このような測定プローブ20を複数設け、各試験体膜22の膜厚を異ならせることで、試験体層22(被検体M)の腐食速度を高精度に求めることができる。
【0035】
また、試験極21及び対極25を、絶縁部材28により、これらの先端のみが露出するように覆うことで、測定プローブ20の取り扱いが容易となる。
また、絶縁部材28を円管30に形成し、試験極21及び対極25の先端が管内面に露出するように配設することで、腐食媒体Fを取り扱う各種設備の配管50に容易に取り付け可能となる。したがって、腐食媒体Fを取り扱う各種設備の配管50等の腐食状態、特に腐食速度を容易かつ確実に測定・監視することが可能となる。
【0036】
〔第二実施形態〕
図7は、第二実施形態に係る腐食監視装置110の構成を示す模式図である。
なお、第一実施形態と同一の部材等については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
腐食監視装置110では、電流計Aに代えて、高入力抵抗型の電圧計Vを用いて、測定プローブ20の対極25(参照極として用いる)に対する試験極21の電位(電位差)を測定する。
【0037】
この場合にも、図2に示したのと同様な検出データの経時変化を得ることができる(縦軸は電位差)。
また、複数の測定プローブ20及び電圧計Vを用意することで、図4に示したのと同様な検出データの経時変化、腐食速度を求めることができる。
また、図7に示した円管30をそのまま用いることができる。
したがって、第二実施形態に係る腐食監視装置110においても、第一実施形態に係る腐食監視装置10と同様の効果を得ることができる。
【0038】
〔第三実施形態〕
図8は、第三実施形態に係る腐食監視装置210の構成を示す模式図である。
なお、第一実施形態及び第二実施形態と同一の部材等については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
測定プローブ220は、試験極21と対極25と参照極29を有する三極式である。
参照極29は、対極25と同様に、被検体Mと同一の金属材料から形成される。対極25の形状は、試験極21及び対極25と略同一であり、好ましくは先端には平面が形成される。
そして、試験極21と対極25と参照極29は、絶縁部28により、それぞれの先端(面)のみが露出するように覆われる。
【0039】
試験極21と対極25は、電流計Aに接続される。また、試験極21と参照極29は、ポテンショスタットPSに接続される。ポテンショスタットPSは、試験極21と参照極29の間の電位を一定に維持するものであって、参照極29に対して試験極21の電位を正確に制御する。つまり、電流計Aには、定電位制御下における、試験極21と対極25の間の電流Zが検出される。
【0040】
この場合にも、図2に示したのと同様な検出データの経時変化を得ることができる。
また、複数の測定プローブ220、電流計A及びポテンショスタットPSを複数組用意することで、図4に示したのと同様な検出データの経時変化、腐食速度を求めることができる。
【0041】
図9は、測定プローブ220(220a〜220c)を各種設備の配管50に配置した例を示す模式図である。
円管230は、上述した円管30と同様に、上述した絶縁部28と同一の材料をからなり、両端にフランジ32を有する円管30に対して、複数の測定プローブ220(220a,220b,220c)がそれぞれ一部を露出するように埋め込まれている。
この円管230(絶縁部28)の内面には、各測定プローブ220a〜220cの試験極21a〜21c、対極25a〜25c及び参照極29a〜29cのそれぞれの先端部分が露出するように配置されている。
【0042】
円管230は、円管30と同様に、被検体Mである水処理装置等の配管50に対して並列に接続される。そして、配管50及び円管230内に水等の腐食媒体Fを流すことで、円管230の内面に露出する各測定プローブ220が、水等の腐食媒体Fにより腐食し始めるので、各測定プローブ220からの検出データを監視することで、被検体Mである配管50の腐食状態(腐食速度)を間接的に監視することが可能となる。
【0043】
このように、第三実施形態に係る腐食監視装置210においても、第一,第二実施形態に係る腐食監視装置10,110と同様の効果を得ることができる。
【0044】
〔第四実施形態〕
図10は、第四実施形態に係る腐食監視装置310の構成を示す模式図である。
なお、第一実施形態〜第三実施形態と同一の部材等については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
測定プローブ220は、試験極21と対極25と参照極29を有する三極式である。
そして、試験極21と対極25は、電流計Aに接続される。また、試験極21と参照極29は、電圧計Vに接続される。
したがって、電流計Aにより試験極21と対極25の間の自然状態の電流が、電圧計Vにより試験極21と参照極29の間の電位差が、それぞれ測定される。
【0045】
この場合にも、図2に示したのと同様な検出データ(電流、電位差の2種類)の経時変化を得ることができる。
また、複数の測定プローブ20、電流計A及び電圧計Vを複数組用意することで、図4に示したのと同様な検出データの経時変化、腐食速度を求めることができる。
また、図9に示した円管230をそのまま用いることができる。この場合には、いわゆる電気化学ノイズ法を用いることができ、本発明の手法と合わせることにより、より詳細に腐食状態を把握し、高精度に腐食速度を算出することができる。
したがって、第二実施形態に係る腐食監視装置310においても、第一〜第三実施形態に係る腐食監視装置10,110,210と同様の効果を得ることができる。
【0046】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0047】
例えば、測定プローブ20,220としては、必ずしも絶縁部28は必須ではなく、図11に示すように、試験極21の下地層23の全体が試験体層22により均一に覆われる場合であってもよい。
【0048】
また、円管30,230に配設される複数の測定プローブとしては、二極式(測定プローブ20)、三極式(測定プローブ220)を組み合わせてもよい。電流を測定する二極式,三極式、と電位差を計測する二極式,三極式とを混在させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第一実施形態に係る腐食監視装置10の構成を示す模式図である。
【図2】電流計Aの検出データの経時変化を示す図である。
【図3】腐食監視装置10が複数の測定プローブ20を備える場合を示す図である。
【図4】複数の電流計Aの検出データの経時変化及び腐食速度を示す図である。
【図5】測定プローブ20を各種設備の配管に配置した例を示す模式図である。
【図6】被検体M及び腐食媒体Fの種類、試験体層22及び下地層23の材料及び組み合わせを説明する図である。
【図7】第二実施形態に係る腐食監視装置110の構成を示す模式図である。
【図8】第三実施形態に係る腐食監視装置210の構成を示す模式図である。
【図9】測定プローブ220を各種設備の配管に配置した例を示す模式図である。
【図10】第四実施形態に係る腐食監視装置310の構成を示す模式図である。
【図11】プローブの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10,110,210,310…腐食監視装置
20,220…測定プローブ(測定電極)
21…試験極(第一極)
22…試験体層
23…下地層
25…対極(第二極)
28…絶縁部(絶縁部材)
29…参照極(第三極)
30,230…円管
50…配管(被検体)
A…電流計(測定器)
V…電圧計(測定器)
F…腐食媒体
M…被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に検出するために、前記腐食媒体に接触させる測定電極であって、
前記被検体と同一の金属材料からなる試験体層及び前記被検体と異なる金属材料からなる下地層を積層して形成されると共に前記試験体層のみが前記腐食媒体に接触可能な第一極と、
前記被検体と同一材料からなる第二極と、
を備えることを特徴とする測定電極。
【請求項2】
前記被検体と同一材料からなる第三極を備えることを特徴とする請求項1に記載の測定電極。
【請求項3】
少なくとも前記第一極及び前記第二極を複数組備え、
前記試験体層のそれぞれの膜厚が異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の測定電極。
【請求項4】
少なくとも前記第一極及び前記第二極を、その先端のみが露出するように覆う絶縁部材を有することを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の測定電極。
【請求項5】
腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に監視する腐食監視装置であって、
前記腐食媒体に接触させる測定電極として、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の測定電極と、
前記測定電極間の電流及び/又は前記第一極と前記第二極間の電位差を測定する測定器と、
を備えることを特徴とする腐食監視装置。
【請求項6】
腐食媒体により腐食する被検体の腐食状態を電気化学的に監視する腐食監視方法であって、
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の測定電極を前記腐食媒体に接触させる工程と、
前記測定電極間の電流及び/又は前記第一極と前記第二極間の電位差を測定し、その経時変化を監視する工程と、
を有することを特徴とする腐食監視方法。
【請求項7】
前記経時変化に基づいて前記被検体の腐食速度を求める工程を有することを特徴とする請求項6に記載の腐食監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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