説明

測温プローブ

【課題】サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域における接合性を高め、長寿命化に有利な測温プローブを提供する。
【解決手段】測温スリーブは、加熱状態の測温対象物Wに接触する有底状の先端部32と先端部32に連設され軸状の中空室30を形成する筒部33とをもち金属とセラミックスとを含有する伝熱材料で形成されたサーメット管3と、サーメット管3の中空室30に挿入され溶鋼等の測温対象物Wの温度を測定する測温接点44をもつ熱電対要素4と、サーメット管3のうち筒部33の外周壁面3pを被覆すると共にセラミックスとカーボンとを含有する保護材料で形成された保護スリーブ5とを有する。サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37には、目地層が介在していない。サーメット管3の外周壁面3pおよび保護スリーブ5の内周壁面5iは、互いに対面している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測温対象物の温度を測定する測温プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2等には、測温対象物の温度を測定する測温プローブが提供されている。更に、図4に示すような従来形態に係る測温プローブが提供されている。図4に示すように、測温プローブは、モリブデンとジルコニアとを含有する伝熱材料で形成されたサーメット管3Xと、サーメット管3Xの中空室30Xに挿入され測温接点44Xをもつ熱電対要素4Xと、サーメット管3Xのうち筒部33Xの外周壁面を被覆する保護スリーブ5Xとを有する。保護スリーブ5Xは、アルミナにカーボンを混合した混合材料で形成されている。サーメット管3Xの外周壁面と保護スリーブ5Xの内周壁面との境界には、目地層50Xが介在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−241394号公報
【特許文献2】特開2003−344170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーメット管3Xの外周壁面と保護スリーブ5Xの内周壁面との境界を目地層50Xで埋めることができるものの、測定対象物Wである溶鋼の温度が高温であるときには、溶鋼が目地層50Xを劣化させる。このため測温プローブの長寿命化には限界があった。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域における接合性を高め、長寿命化に有利な測温プローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る測温スリーブは、加熱状態の測温対象物に接触する有底状の先端部と先端部に連設され軸状の中空室を形成する筒部とをもち金属とセラミックスとを含有する伝熱材料で形成されたサーメット管と、サーメット管の中空室に挿入され測温対象物の温度を測定する測温接点をもつ熱電対要素と、サーメット管のうち筒部の外周壁面を被覆すると共にカーボンを含有するセラミックス系の保護材料で形成された保護スリーブとを具備しており、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界には目地層が介在しておらず、サーメット管の外周壁面および保護スリーブの内周壁面は互いに対面していることを特徴とする。
【0007】
使用時には、サーメット管の有底状の先端部は、加熱状態の測温対象物に接触する。測温対象物の温度は熱電対要素の測温接点に伝熱され、測温接点により測定される。測温対象物としては炭素鋼、合金鋼、鋳鉄、アルミ合金、チタン合金、銅合金、亜鉛合金等の金属溶湯、あるいは、空気、アルゴンガス、窒素、酸素等の気体が挙げられる。
【0008】
測定時には、測温プローブの保護スリーブが測定対象物の温度またはそれ付近に加熱される。このため、測定が長期にわたり継続されたり、測定回数が多数回繰り返されたりすると、保護スリーブを構成する保護材料に含有されているカーボンがサーメット管の外周壁面側に拡散する。この場合、サーメット管の外周壁面側において、サーメット管に含有されている金属がカーボンと反応して金属炭化物を形成する。このように保護スリーブを構成する成分と、サーメット管を構成する成分とが化合物(金属炭化物)を形成する。このため、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域が強化され、境界域における接合性が向上される。よって、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域に測定対象物が進入することが抑制される。このため、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域における劣化が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、測定時には保護スリーブが測定対象物の温度またはそれ付近に加熱される。このため、測定が長期にわたり継続されたり、測定時間が長期にわたり継続されたり、測定回数が多数回繰り返されたりすると、保護スリーブを構成する保護材料に含有されているカーボンがサーメット管の外周壁面側に拡散する。この場合、サーメット管の外周壁面側において、サーメット管に含有されている金属がカーボンと反応して金属炭化物を形成する。このため、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域における接合性が向上される。よって、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域に測定対象物が進入することが抑制される。このため、サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界域における劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1に係り、測温プローブを示す図である。
【図2】実施形態1に係り、測温プローブの先端付近を示す断面図である。
【図3】実施形態2に係り、測温プローブの先端付近を示す断面図である。
【図4】従来形態に係り、測温プローブの先端付近を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、次の形態が採用できる。
・サーメット管の外周壁面と保護スリーブの内周壁面との境界には目地層が介在しておらず、サーメット管の外周壁面および保護スリーブの内周壁面は互いに対面して接触している。
・保護スリーブを形成する保護材料におけるセラミックスはアルミナ、ジルコニア、マグネシア、スピネル、ムライト、炭化珪素のうちの少なくとも1種で形成されている。サーメット管を形成する伝熱材料における金属は、モリブデンおよびタングステンのうちの少なくとも1種で形成されており、サーメット管のセラミックスはアルミナ、ジルコニア、マグネシア、スピネル、ムライト、炭化珪素、イットリアのうちの少なくとも1種で形成されている。他のセラミックスとしても良い。
【0012】
(実施形態1)
図1および図2は実施形態1の概念を示す。本実施形態に係る測温プローブは、本体1と、本体1の先端部に設けられたプローブ部2とをもつ。測温プローブのプローブ部2は、軸状の中空室30を形成するサーメット管3と、サーメット管3の中空室30に挿入され測温接点44をもつ熱電対要素4と、サーメット管3のうち筒部33の外周壁面3pを被覆する保護スリーブ5とを有する。サーメット管3は、高温状態の測温対象物Wに接触する有底状の先端部32と、先端部32に連設された筒部33とを有する。
【0013】
サーメット管3は、金属であるモリブデンとセラミックスであるジルコニアとで形成されている伝熱材料(サーメット材)で構成されており、有底状をなしている。サーメット材では、質量比で、モリブデンは65〜90%、特に70〜85%とされ、ジルコニアは35〜10%とされ、特に30〜15%とされている。サーメット管3のサーメット材は高融点を示すため、サーメット管3は高融点管である。サーメット管3は緻密体が好ましく、気孔率は例えば0〜5%、0〜4%、0.1〜3%の範囲内とされている。サーメット管3は保護スリーブ5よりも緻密体である。
【0014】
保護スリーブ5は、セラミックスであるアルミナとカーボンとを混合させた混合材料である保護材料で形成されている。ここで、カーボンは、保護スリーブ5の伝熱性を高めて測温応答性を高めると共に、耐熱衝撃性を高める。保護スリーブ5を構成する混合材料では、質量比で、アルミナは65〜90%、特に65〜80%、カーボンは10〜35%、特に20〜35%とされている。カーボンとしては、黒鉛、カーボンブラックなどを例示できる。保護スリーブ5は複数の細孔をもち、気孔率は1〜20%程度、2〜10%程度、3〜8%程度にできる。一般的には、保護スリーブ5の気孔率はサーメット管3の気孔率よりも高い。
【0015】
サーメット管3の中空室30には、アルミナ等のセラミックスで形成された有底状の保護管6が挿入されている。保護管6の中空室60には熱電対要素4が挿入されている。熱電対要素4は、挿入孔41をもつアルミナ等の絶縁材料で形成された絶縁管42と、挿入孔41に挿入された熱電対本体43と、熱電対要素4の先端に設けられ測定対象物Wの温度を測定する測温接点44とを有する。測温接点44は、保護管6の底部61に対面しており、サーメット管3の先端部32付近に配置されている。なお、サーメット管3と保護管6との間には、セラミックス粉末粒子38(アルミナ、ジルコニア、マグネシア、スピネル、ムライト等の粉末粒子)が挿入されている。この場合、熱電対要素4を保持する保護管6の保持の安定性を高めると共に、サーメット管3と保護管6との間における酸素ガスの低減に貢献できる。
【0016】
本実施形態によれば、図2に示すように、サーメット管3の外周壁面3pおよび保護スリーブ5の内周壁面5iは、軸芯P1回りの全周にわたり、互いに直接対面して接触している。従って、サーメット管3の円筒形状をなす外周壁面3pと、保護スリーブ5の円筒形状をなす内周壁面5iとの境界には、目地層が介在されていない。
【0017】
なお本実施形態によれば、サーメット管3を構成する材料を成形型のキャビティに装填すると共に、保護スリーブ5を構成する材料を成形型のキャビティに装填した圧縮体を形成し、圧縮体を所定温度の焼成温度に加熱して焼成させることにより、保護スリーブ5およびサーメット管3を一体的に形成しても良い。これに限らず、予め形成したサーメット管3の周囲に、保護スリーブ5を構成する材料を装填し、焼成させることにしても良い。更に、焼成された保護スリーブ5と焼成されたサーメット管3とを用い、外周側の保護スリーブ5および内周側のサーメット管3の焼き嵌め、あるいは、冷やし嵌め等を利用して取り付けることにしても良い。上記した製造方法に限定されるものではない。
【0018】
さて測温対象物Wの温度を測定するときには、測温プローブのサーメット管3の先端部32は、測定対象物Wに接触する。この場合、測温プローブの保護スリーブ5が測定対象物Wの温度またはそれ付近に加熱される。測定対象物Wの種類によっては相違するものの、例えば、500〜1700℃、800〜1600℃に加熱される。このように測温プローブが高温雰囲気に晒されるため、測定時間が長期にわたり継続されたり、測定回数が多数回繰り返されたりすると、保護スリーブ5を構成する保護材料に含有されているカーボンがサーメット管3の外周壁面3p側に拡散する。拡散速度は基本的には温度に比例する。この場合、サーメット管3の外周壁面3p側において、サーメット管3に含有されている金属がカーボンと反応して金属炭化物を形成する。このように保護スリーブ5を構成する成分(カーボン)とサーメット管3を構成する成分(モリブデン)とが化合物である炭化モリブデンを、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37において形成するため、当該境界域37における接合性が向上される。
【0019】
よって、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37に、測定対象物W(例えば、溶鋼、アルミニウム合金等の金属溶湯、あるいは、空気等のガス)が進入することが抑制される。このため、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37における劣化が抑制される。
【0020】
仮に、保護スリーブ5の熱膨張係数がサーメット管3の熱膨張係数よりも大きいときであっても、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37における隙間の生成が抑制され、測定対象物W(例えば、溶鋼、アルミニウム合金等の金属溶湯、あるいは、空気等のガス)が当該境界域37に進入することが抑制される。このため、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37における劣化の進行が抑制される。従って、測温プローブの長寿命化を図るのに貢献できる。
【0021】
図3に示す従来形態に係る測温プローブと、図2に示す従来形態に係る測温プローブとについて、溶鋼の温度を測定する試験を実施した。従来形態に係る測温プローブでは、1550℃の溶鋼の場合、測定時間が10時間あたりから、目地層の劣化が確認され、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37における劣化が進行していた。これに対して本実施形態に係る測温プローブでは、同じ測定回数、同じ測定時間であっても、サーメット管3の外周壁面3pと保護スリーブ5の内周壁面5iとの境界域37における劣化が抑制されていた。
【0022】
(実施形態2)
図3は実施形態2の概念を示す。保護スリーブ5は、相対的に内側に位置する筒形状の内層5Fと、相対的に外側に位置する筒形状の外層5Sとを同軸的に有する。内層5Fは、アルミナとカーボンとを混合させた混合材料である保護材料で形成されている。外層5Sは、アルミナとカーボンとを混合させた混合材料である保護材料で形成されている。内層5Fにおけるカーボン含有%(質量比)は、外層5Sにおけるカーボン含有%(質量比)よりも多く設定されている。このため、保護スリーブ5の内層5Fを構成する保護材料に含有されているカーボンがサーメット管3の外周壁面3p側に拡散する拡散量の増加を期待できる。故に、サーメット管3の外周壁面3p側において、サーメット管3に含有されている金属がカーボンと反応して金属炭化物(炭化モリブデン)を形成し易くなり、当該境界域37における接合性が良好に確保される。
【0023】
(その他)
上記した実施形態によれば、サーメット管3は、モリブデンとジルコニアとで形成されているが、これに限らず、モリブデンとアルミナとで形成されていても良いし、あるいは、モリブデンとマグネシアとで形成されていても良いし、あるいは、タングステンとジルコニアとで形成されていても良い。要するにサーメット材は金属およびセラミックスを含有していれば良い。保護スリーブ5はアルミナとカーボンとを混合させた混合材料で形成されているが、これに限らず、マグネシアとカーボンとを混合させた混合材料で形成されていても良いし、あるいは、ジルコニアとカーボンとを混合させた混合材料で形成されていても良いし。あるいは、スピネルとカーボンとを混合させた混合材料で形成されていても良い。または保護スリーブ5は炭化珪素で形成されていても良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0024】
3はサーメット管、30は中空室、32は先端部、33は筒部、37は境界域、4は熱電対要素、42は絶縁管、43は熱電対本体、44は測温接点、5は保護スリーブ、6は保護管、60は中空室、61は底部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱状態の測温対象物に接触する有底状の先端部と前記先端部に連設され軸状の中空室を形成する筒部とをもち金属とセラミックスとを含有する伝熱材料で形成されたサーメット管と、
前記サーメット管の前記中空室に挿入され前記測温対象物の温度を測定する測温接点をもつ熱電対要素と、
前記サーメット管のうち前記筒部の外周壁面を被覆すると共にカーボンを含有するセラミックス系の保護材料で形成された保護スリーブとを具備しており、
前記サーメット管の外周壁面と前記保護スリーブの内周壁面との境界には目地層が介在しておらず、前記サーメット管の外周壁面および前記保護スリーブの内周壁面は互いに対面して接触していることを特徴とする測温プローブ。
【請求項2】
請求項1において、前記保護材料におけるセラミックスはアルミナ、ジルコニア、マグネシア、スピネル、ムライト、炭化珪素のうちの少なくとも1種で形成されており、前記伝熱材料における金属は、モリブデンおよびタングステンのうちの少なくとも1種で形成されており、前記伝熱材料におけるセラミックスはアルミナ、ジルコニア、マグネシア、スピネル、ムライト、炭化珪素のうちの少なくとも1種で形成されていることを特徴とする測温プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−169798(P2011−169798A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34778(P2010−34778)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】