説明

測距環境模擬装置

【課題】本発明は、飛しょう体や航空機等のプラットフォームに搭載され、かつFMCW方式が適用された測距装置の機能試験、あるいはその測距装置を含む系のシステム試験等に供される測距環境模擬装置に関し、測距装置の位置や姿勢の多様な形態に対して柔軟に追従し、測距装置の性能や機能の試験および評価を精度よく実現できることを目的とする。
【解決手段】FMCW方式の測距装置に到来する受信波に付帯するドップラ周波数を算出するドップラシフト算出手段と、前記測距装置によって送信された送信波に同期して、前記ドップラ周波数のドップラシフトとを模擬する周波数変換を前記送信波に施し、前記周波数変換の結果を前記受信波として前記測距装置に与える周波数シフト模擬手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛しょう体や航空機等のプラットフォームに搭載され、かつFMCW方式が適用された測距装置の機能試験、あるいはその測距装置を含む系のシステム試験等に供される測距環境模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCW方式が適用された電波高度計等の測距装置の機能や性能の試験および評価には、地表方向における速度の変化に応じたドップラーシフトに起因する測定誤差を模擬する測距環境模擬装置が用いられる。
【0003】
従来、このような測距環境模擬装置としては、例えば、後述する特許文献1に掲載される「高周波信号の遅延装置、電波高度計の地上試験装置」があった。
【0004】
特許文献1には、「パルス状の高周波信号を分周するための分周手段と、該回路により分周された高周波信号の周波数分析を行うためのフーリエ変換手段と、コントロール信号を入力とし、前記フーリエ変換手段により求められたフーリエ係数に演算を施して、前記コントロール信号に応じた遅延時間と減衰を前記高周波信号に与えるための係数演算手段と、該手段により算出されたフーリエ係数に逆フーリエ変換を施して時間領域の信号を生成するための逆フーリエ変換手段と、該手段により算出された時間領域の高周波信号を逓倍するための逓倍手段とを備える」ことにより、「安価に構成され、かつ任意の高度を容易にシミュレートできる」点に特徴がある高周波信号の遅延装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−20020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来例は、安価に実現され、かつパルスレーダ方式のレーダには適用可能であるが、FMCW方式の電波高度計に適用された場合には、送信波の周波数が広範に変化するにもかかわらずディジタル領域における信号処理によりその送信波と地表から到来した受信波との相関がとられるため、このような相関の精度が低下し、連続して変化する高度の正確な模擬は困難であった。
【0007】
本発明は、測距装置の位置や姿勢の多様な形態に対して柔軟に追従し、かつ測距装置の性能や機能の試験および評価を精度よく実現できる測距環境模擬装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明では、ドップラシフト算出手段は、FMCW方式の測距装置に到来する受信波に付帯するドップラ周波数を算出する。周波数シフト模擬手段は、前記測距装置によって送信された送信波に同期して、前記ドップラ周波数のドップラシフトとを模擬する周波数変換を前記送信波に施し、前記周波数変換の結果を前記受信波として前記測距装置に与える。
【0009】
すなわち、測距装置には、位置、速度、姿勢の如何にかかわらず、機能や性能の試験あるいは評価が行われるべき所望の対地速度で発生するドップラシフトが反映され、かつコヒーレントな受信波が与えられる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、ドップラシフト算出手段は、FMCW方式の測距装置に到来する受信波に付帯するドップラ周波数を算出する。周波数シフト模擬手段は、前記測距装置によって送信された送信波に同期して、前記ドップラ周波数のドップラシフトと、前記測距装置によって計測されるべき距離に相当する前記受信波と前記送信波との周波数の差とを模擬する周波数変換を前記送信波に施し、前記周波数変換の結果を前記受信波として前記測距装置に与える。
【0011】
すなわち、測距装置には、送信波および受信波の伝搬所要時間を模擬する遅延手段が備えられないにもかかわらず、所望の位置、速度、姿勢において、既述のドップラシフトに併せて、上記伝搬所要時間の和に等しい遅延が反映されたコヒーレントな受信波が与えられる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の測距環境模擬装置において、前記周波数シフト模擬手段は、前記送信波に同期して、前記送信波と前記受信波との伝搬所要時間の和に相当する遅延を前記受信波に与える。
すなわち、測距装置には、試験や評価が行われるべき距離が必ずしも一定でない場合であっても、所望の位置、速度、姿勢において、既述のドップラシフトに併せて、上記伝搬所要時間の和に等しい遅延が反映されたコヒーレントな受信波が与えられる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の測距環境模擬装置において、前記周波数シフト模擬手段は、前記送信波および前記受信波の伝搬所要時間の所定のシナリオに基づく模擬が可能な遅延を前記受信波に与える。
【0014】
すなわち、送信波と受信波との双方または何れか一方に与えられる遅延の遅延量は、これらの送信波と受信波との伝搬所要時間に単に等しい値ではなく、上記シナリオの下で変化し、かつ受信波に付帯し得るドップラシフトを模擬できる値に維持される。
【0015】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の測距環境模擬装置において、前記周波数シフト模擬手段は、外部から与えられる要求に応じて、前記ドップラシフトが反映されない形態で前記周波数変換を行う。
すなわち、試験や評価の対象となる測距装置が「受信波に付帯するドップラシフトを相殺し、あるいは補償する機能を持たない場合」であっても、その測距装置には、所望の位置、速度、姿勢において、少なくとも既述の伝搬所要時間の和に等しい遅延が反映されたコヒーレントな受信波が与えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所望の稼働環境における測距装置について、ドップラシフトの補償機能および影響を含む所望の試験および評価が簡便に実現される。
また、本発明によれば、構成が簡略化されるにもかかわらず、所望の稼働環境における測距装置の試験および評価が簡便に実現される。
【0017】
さらに、本発明によれば、試験および評価が行われるべき測距装置の環境の模擬が確度高く実現される。
また、本発明によれば、測距装置の機能や構成に対する柔軟な適応が可能となる。
したがって、多様なシナリオに対する柔軟な追従が可能となり、このようなシナリオに基づく測距装置の試験および評価が精度よく安定に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第一の実施形態の動作を説明する図である。
【図3】本発明の第一の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
【図4】本発明の第二の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
【0020】
図において、送信カプラ11は、試験対象であってFMCW方式が適用された電波高度計20の送信出力に接続され、かつダウンコンバータ12の第一の入力に接続される。ダウンコンバータ12の出力は、アップコンバータ13を介して遅延回路14の入力に接続され、その遅延回路14の第一の出力は受信カプラ15を介して電波高度計20の受信入力に接続される。発振器16の第一の出力はダウンコンバータ12の第二の入力に接続され、その発振器16の第二および第三の出力は、それぞれダウンコンバータ12およびアップコンバータ13の第一の局発入力に接続される。発振器16には分周器16FDが備えられ、その分周器16FDの出力はドップラ発生部17の第一の入力に接続される。ドップラ発生部17の第一および第二の出力は、それぞれダウンコンバータ12およびアップコンバータ13の第二の局発入力に接続される。ドップラ発生部17の第二の入力には制御部18の第一の出力が接続され、その制御部18の第二および第三の出力はそれぞれ遅延回路14および発振器16の制御端子に接続される。遅延回路14の第二の出力は点検判定部19を介して制御部18の入力に接続され、その制御部18は、電波高度計20が取り付けられたプラットフォーム30との連係に必要なパラメータやステータスの引き渡しに供されるポートを有する。プラットフォーム30には加速度センサ41が取り付けられ、その加速度センサ41の出力は電波高度計20の対応する入力に接続される。
【0021】
図2は、本発明の第一の実施形態の動作を説明する図である。
図3は、本発明の第一の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
以下、図1〜図3を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0022】
〔第一の実施形態〕
発振器16は、制御部18の配下で周波数がf0である基準信号Sと、周波数がf1である局発信号L1を生成する。
【0023】
本実施形態では、始動時には、制御部18の配下で各部が下記の通りに連係することにより、本実施形態に係る測距環境模擬装置の動作および機能の正否の確認(以下、「点検判定」という。)を行う。
【0024】
[点検判定における各部の動作]
制御部18には、「点検判定」に適用されるべきパラメータとして、以下の各値が予め与えられる。
【0025】
(1) 電波高度計20の仮想的な複数nの対地高度H1、H2、…、Hn
(2) 電波高度計20の送信波の周波数がFMCW方式に基づいて実際に偏移する帯域の幅(以下、「周波数偏移幅」という。)ΔF
【0026】
(3) 電波高度計20と地表との間における送信波および受信波の伝搬速度c
(4) 送信波の周波数が上記周波数偏移幅ΔFに亘って実際に直線的に偏移するために要する時間(以下、「変調周期」という。)T
【0027】
さらに、制御部18は、上記対地高度H1、H2、…、Hnのそれぞれに応じて、下記の処理を行い、その処理の手順に基づいて各部を以下の通りに連係させる。なお、以下では、対地高度H1、H2、…、Hnの何れにも当てはまる事項については、これらの対地高度H1、H2、…、Hnの添え番号「1」〜「n」の何れにも該当し得ることを示す添え文字「i」(=1〜n)を用いて説明する。
【0028】
電波高度計20の送信波とその送信波に応じて地表から到来するべき受信波との間に対地高度Hiにおいて生じる周波数の差(以下、「ビート周波数」という。)fbiと、上記周波数偏移ΔFと、伝搬速度cと、変調周期Tとに対して下式で与えられるドップラ周波数fdiを適宜算出し、ドップラ発生部17に通知する。
fdi=(2Hi/c)・(ΔF/T)−fbi ・・・(a)
【0029】
ドップラ発生部17は、発振器16に備えられた分周器16FDが既述の局発信号L1を分周することによって生成した分周信号LD1に同期して、周波数が既定の値f2である局発信号L2と、かつその周波数f2と上記ドップラ周波数fdiとの和(=f2+fdi)に等しい周波数の局発信号Ldiとを生成する。
【0030】
ダウンコンバータ12は、電波高度計20によって与えられる送信波(周波数=F)を既述の局発信号L1、L2とに基づいてダウンコンバートすることにより、周波数が(F−(f1+f2))である中間周波信号Iiを生成する。
【0031】
アップコンバータ13は、既述の局発信号L1、Ldiに基づいて上記中間周波信号Iiをアップコンバートすることにより、周波数が((F+fdi)=(F−(f1+f2)+(f1+f2+fdi))) であるドップラ付帯波Rdiを生成する。
【0032】
また、制御部18は、既述のシナリオに基づいて定まり、かつ上式(a) の右辺にある(2Hi/c)にほぼ等しい遅延量Diを求める。
【0033】
遅延回路14は、その遅延量Diに亘る遅延を上記ドップラ付帯波Rdiに与え、点検判定部19に受信波riとして与える。
【0034】
点検判定部19は、制御部18の配下でこのような受信波riの正否を判定し、その判定の結果を制御部18に引き渡す。
【0035】
制御部18は、このような判定が複数nの対地高度H1、H2、…、Hnのそれぞれについて完了すると、これらの判定の結果の何れかが不正常である場合には、音声情報と、表示情報との双方または何れか一方としてその旨をユーザに通知する(図3ステップS1)。なお、これらの音声情報および表示情報は、何れも、例えば、所定の伝送路や通信路を介して他の機器へ引き渡されてもよい。
【0036】
反対に、これらの判定の結果の全てが正常であった場合には、「点検判定」を終了して「通常動作」を開始する(図3ステップS2)。
なお、このような「点検判定」は、以下に示すように簡便に行われてもよい。
(1) 発振器16は、既述の局発信号L1に代えて「擬似的な送信波」を生成する。
(2) 点検判定部19は、複数nの対地高度H1、H2、…、Hnのそれぞれについて、遅延回路14の出力に得られる「擬似的な送信波」の遅延量(ダウンコンバータ12、アップコンバータ13および遅延回路14の総合的な遅延量)の偏差が許容される程度か否かを判定する。
【0037】
[通常動作における各部の連係]
制御部18は、予め決められたシナリオに基づいてプラットフォーム30および電波高度計20の位置や姿勢の設定および変更を適宜行う(図3ステップS3)。
なお、上記シナリオでは、例えば、図2に太い実線の斜線で示すように、対地高度Hが2500メートルからほぼ一定の勾配で減少すると仮定する。
【0038】
各部は、このようにして時系列の順に設定され、あるいは変更される電波高度計20の位置や姿勢の離散値に応じて、後述するように連係する。
【0039】
制御部18は、電波高度計20の対地高度Hと、このような対地高度Hにおいて電波高度計20の送信波とその送信波に応じて地表から到来すべき受信波との間における周波数の差(以下、「ビート周波数」という。)fbとを識別し(図3ステップS4)、これらの対地高度Hおよびビート周波数fbに併せて、既述の周波数偏移幅ΔF、伝搬速度cおよび変調周期Tとに対して下式で与えられるドップラ周波数fdを適宜算出し、ドップラ発生部17に通知する(図3ステップS5)。
fd=(2H/c)・(ΔF/T)−fb ・・・(b)
【0040】
ここに、ドップラ周波数fdは、電波高度計20に到来する受信波の周波数に、その電波高度計20の地表方向における速度に応じて生じるドップラシフトであって、図2に複数の破線の曲線で示すように、対地高度Hの減少に応じて、既定の下限値と上限値とで挟まれた範囲において適宜跳躍する値として与えられる。
【0041】
ドップラ発生部17は、既述の分周信号LD1に同期して、周波数が既定の値f2である局発信号L2と、その周波数f2と上記ドップラ周波数fdとの和(=f2+fd)に等しい周波数の局発信号Ldとを並行して生成する。
【0042】
ダウンコンバータ12は、電波高度計20によって与えられる送信波(周波数=F)を既述の局発信号L1、L2とに基づいてダウンコンバートすることにより、周波数が(F−(f1+f2))である中間周波信号Iを生成する。
【0043】
アップコンバータ13は、既述の局発信号L1、Ldに基づいて上記中間周波信号Iをアップコンバートすることにより、周波数が((F+fd)=(F−(f1+f2)+(f1+f2+fd))) であるドップラ付帯波Rdを生成する。
【0044】
また、制御部18は、既述のシナリオに基づいて定まり、かつ上式(a) の右辺にある(2H/c)にほぼ等しい遅延量Dを求める(図3ステップS6)。
【0045】
遅延回路14は、その遅延量Dに亘る遅延を上記ドップラ付帯波Rdに与え、電波高度計20に受信波として与える。
【0046】
電波高度計20は、加速度センサ41によって与えられる加速度の内、地表方向における成分を積分することにより対地速度を求め、その速度に応じて受信波に付帯するドップラシフトを相殺する。さらに、電波高度計20は、このようにしてドップラシフトが相殺された受信波と上述した送信波との周波数の差に基づいて対地高度hを求め、制御部18に通知する。
【0047】
制御部18は、上記シナリオに基づいて定まる対地高度Hに対するこの対地高度hの偏差が規定の狭い値域内にあるか否かの判定として、そのシナリオで定まる姿勢や位置における電波高度計20の性能および機能の正否を判別する(図3ステップS7)。
【0048】
すなわち、送信波は、既述のドップラシフトを模擬し、かつコヒーレンシーが損なわれない周波数変換が施された後、受信波として電波高度計20に引き渡される。
【0049】
したがって、本実施形態によれば、電波高度計20は、稼働すべき姿勢や位置と、これらの姿勢および位置の変化に応じて受信波に生じるドップラシフトが多様なシナリオに基づいて柔軟に模擬されるため、所望の環境における機能や性能の評価および試験が精度よく効率的に実現される。
【0050】
なお、本実施形態では、局発信号L1、L2の周波数f1、f2は、ドップラ周波数fdi(fd)がダウンコンバータ12およびアップコンバータ13によって十分な精度でドップラ付帯波Rdi(Rd)に反映されるならば、如何なる値であってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、ダウンコンバータ12およびアップコンバータ13は、このようなドップラ周波数fdi(fd)が十分な精度でドップラ付帯波Rdi(Rd)に反映されるならば、1つの周波数変換器、あるいは3つ以上の周波数変換器で代替されてもよい。
さらに、本実施形態では、ドップラ周波数fdi、fdは、既述の式(a)、(b)で示される算術演算によって求められなくてもよく、演算所要時間の増加が許容される限度において所望の精度で求められるならば、例えば、地表方向における電波高度計20の速度に基づいて求められ、あるいはその他の如何なる処理の下で求められてもよい。
また、本実施形態では、遅延回路14の遅延量Dは、必ずしも地表方向の往復の伝搬所要時間に等しくなくてもよく、例えば、図2にD1、D2、D3、…と示すように、対地高度Hが増減する過程におけるドップラ周波数fdi、fdの値域にシナリオが成立するならば、増減してもよい。
【0052】
〔第二の実施形態〕
以下、本発明の第二の実施形態について説明する。
本実施形態と既述の第一の実施形態との構成の相違点は、以下の点にある。
【0053】
(1) 電波高度計20に代えて、加速度センサ41との連係の下で受信波に付帯するドップラシフトを相殺する機能を持たない電波高度計20Aが備えられる。
(2) 点検判定部19に代えて、点検判定部19Aが備えられる。
【0054】
(3) 電波高度計20Aには、加速度センサ41の出力が接続されない。
(4) ドップラ発生部17に代えて、ドップラ発生部17Aが備えられる。
【0055】
図4は、本発明の第二の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
図において、既述の第一の実施形態と同様の処理のステップについては、図3と同じ番号を付与して示す。
以下、図1、図2および図4を参照して本実施形態の動作を説明する。
本実施形態の動作は、図4に示すように、以下に列記する点を除いて既述の第一の実施形態の動作と同じである。
【0056】
(1) 電波高度計20Aは、加速度センサ41と連係することなく作動し、かつ対地速度の識別だけではなく、その対地速度に応じて受信波に付帯するドップラシフトの相殺を図る処理を行わない。
(2) 制御部18は、例えば、図示されない操作部を介して与えられる指示や情報に基づいて、「既述の電波高度計20に代えて電波高度計20Aが送信カプラ11および受信カプラ15に接続された」ことを識別すると、点検判定と通常動作とにおいて、後述するように第一の実施形態と異なる処理を行う。
【0057】
(3) 点検判定における各部の動作
(3-1) 電波高度計20Aの送信波とその送信波に応じて地表から到来するべき受信波との間における周波数の差(以下、「ビート周波数」という。)fbiと、上記周波数偏移ΔFと、伝搬速度cと、変調周期Tとに対して下式で与えられるドップラ周波数fdiを適宜算出する処理を行わず、そのドップラ周波数fdiを「0」としてドップラ発生部17に通知する。
【0058】
(3-2) ドップラ発生部17は、既述の分周信号LD1に同期して、既定の周波数f2と上記ドップラ周波数fdiとの和(=f2+fdi)に等しい周波数の局発信号Ldiを生成することなく、その局発信号LDiに代えて上記局発信号L2をアップコンバート部13に与える。
【0059】
(3-3) アップコンバータ13は、このような局発信号L2および既述の局発信号L1に基づいて上記中間周波信号Iiをアップコンバートすることにより、ドップラ周波数fdiが反映されない周波数F(=(F−(f1+f2)+(f1+f2)))のドップラ非付帯波Riをドップラ付帯波Rdiに代えて生成する。
【0060】
(3-4) 遅延回路14は、上記ドップラ非付帯波Riにその遅延量Diに亘る遅延を与え、点検判定部19Aに受信波riとして与える。
【0061】
(4) 通常動作における各部の連係
(4-1) 制御部18は、以下の処理を行わない。
a) 予め決められたシナリオに基づいてプラットフォーム30および電波高度計20Aの位置や姿勢の設定および変更を適宜行う(図3ステップS3)処理
【0062】
b) 電波高度計20Aの対地高度Hと、電波高度計20Aの送信波とその送信波に応じて地表から到来すべき受信波との間における周波数の差(「ビート周波数」)fbとを識別する(図3ステップS4)処理
c) これらの対地高度Hおよびビート周波数fbに併せて、既述の周波数偏移幅ΔF、伝搬速度cおよび変調周期Tとに対して既述の式(b) で与えられるドップラ周波数fdを適宜算出し、ドップラ発生部17に通知する(図3ステップS5)処理
【0063】
(4-2) ドップラ発生部17は、既述の分周信号LD1に同期して、既定の周波数f2と上記ドップラ周波数fdとの和(=f2+fd)に等しい周波数の局発信号Ldを生成することなく、その局発信号Ldに代えて局発信号L2をアップコンバート部13に与える。
【0064】
(4-3) アップコンバータ13は、このような局発信号L2および既述の局発信号L1に基づいて上記中間周波信号Iをアップコンバートすることにより、周波数F(=(F−(f1+f2)+(f1+f2)))のドップラ非付帯波Rをドップラ付帯波Rdに代えて生成する。
【0065】
(4-4) 遅延回路14は、その遅延量Dに亘る遅延を上記ドップラ非付帯波Rに与え、電波高度計20Aに受信波として与える。
【0066】
(4-5) 電波高度計20Aは、受信波にドップラシフトの補償を施すことなく、その受信波と送信波との周波数の差に基づいて対地高度hを求め、制御部18に通知する。
【0067】
すなわち、電波高度計20Aの送信波は、対地方向における速度に応じたドップラシフトの補償が施されることなく、しかも、局発信号L1(分周信号LD1)に同期して行われる信号処理の下でその電波高度計20Aに受信波として与えられるため、このような受信波のコヒーレンシーが担保される。
【0068】
したがって、本実施形態によれば、加速度センサ41との連係の下で受信波に付帯するドップラシフトを相殺する機能を持たない電波高度計20Aであっても、所望のシナリオに基づく機能や性能の評価および試験が精度よく効率的に実現され、しかも、これらの評価や試験の過程における電波高度計20Aの動揺の省略が可能となる。
【0069】
なお、上述した各実施形態では、電波高度計20(20A)は、サーボスロープ式FMCWレーダと、サーボスロープ式ではないFMCWレーダとの何れであってもよい。
【0070】
また、上述した各実施形態では、遅延回路14は、シナリオに基づいて電波高度計20(20A)の性能や機能の試験あるいは評価が行われるべき対地高度が一定である場合には、備えられなくてもよく、あるいは制御部18の配下で遅延量Dが一定に保たれてもよい。
【0071】
さらに、このような遅延回路14は、電波高度計20(20A)がサーボスロープ式ではないFMCW方式の電波高度計である場合には、備えられず、かつ「上記遅延量Dに応じて生じるビート周波数fbに亘って、制御部18の配下で既述の局発信号L1、L2の和が小さな(大きな)値に設定される処理」で代替されてもよい。
【0072】
また、上述した各実施形態では、点検判定が別途行われ、あるいは不要である場合には、点検判定部19、19Aが備えられず、その点検判定のために制御部18が行う処理と、その処理の下で行われる各部の連係とは行われなくてもよい。
【0073】
さらに、上述した各実施形態では、点検判定は、受信波riの正否だけではなく、電波高度計20(20A)とから与えられる多様な信号や情報が所望の基準を満たすか否かの如何なる判別として実現されてもよい。
【0074】
また、上述した各実施形態では、電波高度計20(20A)と地表との間における送信波および受信波の伝搬損失については、例えば、遅延回路14またはその遅延回路14に代わる回路が制御部18の配下で作動することにより模擬されてもよく、このような伝搬損失がシナリオに基づく性能や機能の試験および評価の対象ではない場合には、模擬されなくてもよい。
【0075】
さらに、上述した各実施形態では、本発明は、電波高度計20(20A)単体の機能や性能の試験および評価に限定されず、その電波高度計20(20A)を含んで構成される上位の系の振る舞いの正否判定を実現する「システム試験」にも同様に適用可能である。
【0076】
また、上述した各実施形態では、遅延回路14は、ダウンコンバータ12の前段と、そのダウンコンバータ12とアップコンバータ13との段間と何れに配置されてもよく、あるいはこれらの前段および段間とアップコンバータ13の後段との全てまたは一部に分散されて配置されてもよい。
【0077】
さらに、本発明は、既述の電波高度計20(20A)に限らず、FMCW方式の測距装置として構成された接岸距離計やレンジファインダにも同様に適用可能である。
【0078】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0079】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に対する記載から除外した発明を「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段」の欄の記載に準じた様式により列記する。
【0080】
[請求項6] 請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の測距環境模擬装置において、
前記周波数シフト模擬手段は、
前記送信波の占有帯域より低い周波数帯で前記周波数変換を行う
ことを特徴とする測距環境模擬装置。
このような構成の測距環境模擬装置では、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の測距環境模擬装置において、前記周波数シフト模擬手段は、前記送信波の占有帯域より低い周波数帯で前記周波数変換を行う。
すなわち、上記周波数変換が行われる周波数帯域が低く設定されるため、受信波に付帯するドップラシフトの模擬は、ドップラ周波数が微少であり、あるいは送信波の周波数に比べて著しく小さい値であっても、精度よく行われる。
したがって、送信波および受信波の伝搬路の特性と、送信波を反射する目標の分布、形状、寸法と、測距装置によって計測されるべき距離との態様な形態に対する柔軟な適応が可能となる。
【符号の説明】
【0081】
11 送信カプラ
12 ダウンコンバータ
13 アップコンバータ
14 遅延回路
15 受信カプラ
16 発振器
16FD 分周器
17,17A ドップラ発生部
18 制御部
19,19A 点検判定部
20,20A 電波高度計
30 プラットフォーム
41 加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCW方式の測距装置に到来する受信波に付帯するドップラ周波数を算出するドップラシフト算出手段と、
前記測距装置によって送信された送信波に同期して、前記ドップラ周波数のドップラシフトとを模擬する周波数変換を前記送信波に施し、前記周波数変換の結果を前記受信波として前記測距装置に与える周波数シフト模擬手段と
を備えたことを特徴とする測距環境模擬装置。
【請求項2】
FMCW方式の測距装置に到来する受信波に付帯するドップラ周波数を算出するドップラシフト算出手段と、
前記測距装置によって送信された送信波に同期して、前記ドップラ周波数のドップラシフトと、前記測距装置によって計測されるべき距離に相当する前記受信波と前記送信波との周波数の差とを模擬する周波数変換を前記送信波に施し、前記周波数変換の結果を前記受信波として前記測距装置に与える周波数シフト模擬手段と
を備えたことを特徴とする測距環境模擬装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の測距環境模擬装置において、
前記周波数シフト模擬手段は、
前記送信波に同期して、前記送信波と前記受信波との伝搬所要時間の和に相当する遅延を前記受信波に与える
ことを特徴とする測距環境模擬装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の測距環境模擬装置において、
前記周波数シフト模擬手段は、
前記送信波および前記受信波の伝搬所要時間の所定のシナリオに基づく模擬が可能な遅延を前記受信波に与える
ことを特徴とする測距環境模擬装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の測距環境模擬装置において、
前記周波数シフト模擬手段は、
外部から与えられる要求に応じて、前記ドップラシフトが反映されない形態で前記周波数変換を行う
ことを特徴とする測距環境模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−242199(P2011−242199A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113033(P2010−113033)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】