説明

測長装置及び測長方法

【課題】微細な測定物の大きさの測定に適用することができて、作業者による測定値のばらつきが発生せず、測定精度が高い測長装置及び測長方法を提供する。
【解決手段】試料搭載部16の上に結晶格子間隔が既知の単結晶試料20を搭載し、STEM検出器17及び画像解析部18により結晶格子像を取得する。画像解析部18は、結晶格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得し、その回折スポット像の回折スポットの位置が理論上の回折スポットの位置と一致するように画像の倍率、縦横比及び歪みを補正する。そして、補正後の回折スポット像を逆フーリエ変換して実空間の画像とするとともに、スケールを逆数に変換して実空間のスケールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細な測定物の大きさを測定する測長装置及び測長方法に関し、特に電子顕微鏡を応用した測長装置及び測長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置(LSI)の高密度化及び高性能化が促進されており、それに伴って半導体装置を構成するトランジスタ等の電子デバイスのより一層の微細化が要求されている。電子デバイスが微細化されると、わずかな形状や大きさの変化により電子デバイスの特性が大きく変化してしまうことがある。そのため、電子デバイスの大きさ(全体の大きさ又は部分的な大きさ:以下同じ)をナノメートル(nm)のオーダーで正確に把握することが要求されている。
【0003】
従来から、微細な測定物の大きさの測定(測長)に走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、「SEM」という)が用いられている。しかし、SEMでは空間分解能に限界があるため、近年の電子デバイスの微細化に対応できなくなってきた。そのため、近年は、SEMよりも空間分解能が高い透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以下、「TEM」という)を用いて電子デバイスの大きさの測定を行っている。
【0004】
しかし、TEMでは、電子レンズの条件や倍率の変更により±5%程度のスケールの誤差が発生する。また、TEMの高倍率における測定では、結晶格子間隔が既知の単結晶の結晶像を用いて実空間で格子間隔を測定し、画像のスケールを校正することが必要となる。このスケールを校正する工程においても、レンズ条件や作業者により倍率や縦横比に誤差が発生する。このため、TEMではナノメートルオーダーでの測長は困難である。
【0005】
そこで、近年、電子デバイスの測長に走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:以下、「STEM」という)が使用されるようになった。STEMでは、収束した電子線を走査して試料の画像を取得するため、画像のスケールが電子レンズの条件に依存しないという利点がある。
【0006】
STEMを用いて微細な測定物の大きさを測定するためには、TEMの場合と同様に結晶格子間隔が既知の単結晶試料を用いてスケールの校正を行うことが必要である。
【0007】
以下、図1(a),(b)を参照して、STEMを用いた従来の測長方法を具体的に説明する。
【0008】
最初に、結晶構造が既知の単結晶試料の結晶格子像を撮影して、実空間で格子間隔を測定する。格子像の解像度(画素数)は、例えば1024ピクセル×1024ピクセルとする。この解像度では、単結晶の結晶構造にもよるが、0.2nmの格子間隔を識別するためには1ピクセルの大きさを0.025nm以下とすることが必要である。すなわち、倍率を40万倍以上の高倍率とすることが必要である。
【0009】
図1(a)はSTEMにより撮影した単結晶試料(シリコン単結晶)の結晶格子像を示す図である。この格子像の原子像(輝点)間の距離を測定してスケールの校正を行う。この場合、1箇所の格子間隔を測定しただけでは誤差が大きくなるため、一般的には10箇所以上で格子間隔を測定して、平均値を算出する。例えば図1(a)に示すように縦方向、横方向及び斜め方向にそれぞれラインを引き、縦方向の格子間隔、横方向の格子間隔及び斜め方向の格子間隔をそれぞれ測定する。そして、それらの測定結果を基に格子間隔の平均値を算出する。
【0010】
このようにしてスケールを校正した後、図1(b)に示すようにSTEMにより測定物の画像を取得し、所望の部分(例えば図中矢印で示す部分)の距離を測定する。
【0011】
なお、本発明に関係すると思われる従来技術として特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1には、STEMにおいて、計算により焦点ずれ量の最適化及び虚像の消去を行う顕微鏡観察方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−249186号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来のSTEMを用いた測長方法では、高倍率におけるスケールの校正に結晶格子間隔が既知の単結晶試料を用いている。しかし、上述した方法では、作業者毎に原子像(輝点)の中心位置やラインを引く角度が若干異なるため、格子間隔の測定誤差が生じるという問題がある。また、作業者が格子像にラインを引いて縦方向、横方向及び斜め方向の格子間隔を合計10箇所以上測定する必要があるため、作業が煩雑である。
【0013】
更に、通常、STEMを用いた測長方法では、図1(b)に示すように明視野STEM像で測定物の観察を行っているため、回折条件によっては測定物のエッジが不鮮明になってエッジの位置を正確に判定することが困難になる。このため、作業者によって測定値にばらつきが発生するという問題もある。
【0014】
更にまた、高倍率におけるSTEM観察と中倍率又は低倍率におけるSTEM観察とでは観察条件が異なるので、高倍率でスケールの校正を行っても、その結果を中倍率又は低倍率に反映させることができない。従来は、一般的に、高倍率におけるSTEM観察では上述したように単結晶試料を用いてスケールの校正を行っており、低倍率におけるSTEM観察では市販の標準試料を用いてスケールの校正を行っている。しかしながら、中倍率におけるSTEM観察では信頼性が高い標準試料がないのが現状である。
【0015】
本発明の目的は、微細な測定物の大きさの測定に適用することができて、作業者による測定値のばらつきが発生せず、測定精度が高い測長装置及び測長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一観点によれば、電子線を発生する電子銃と、前記電子線から放出された電子線を収束する収束レンズと、前記収束レンズにより収束された電子線を走査する走査コイルと、前記走査コイルにより走査された電子線のフォーカスを試料の表面又はその近傍に合わせる対物レンズと、前記試料を透過した電子線を検出する電子線検出器と、前記電子線検出器から出力される信号を入力して電子顕微鏡像を描画し、前記電子顕微鏡像をフーリエ変換する画像解析部とを有する測長装置が提供される。
【0017】
電子顕微鏡により撮影した画像から測定物の大きさを測定するためには、スケールを校正することが必要である。本発明の測長装置においては、スケールを校正する手段として、電子顕微鏡像をフーリエ変換する画像解析部を有している。
【0018】
電子顕微鏡で単結晶試料を観察すると、結晶格子像が得られる。本発明の測長装置では、この結晶格子像を画像解析部でフーリエ変換する。結晶格子像をフーリエ変換すると、回折スポット像が得られる。単結晶試料の結晶格子間隔が既知であるとすると、回折スポットの現れる位置は計算により求めることができるので、結晶格子像をフーリエ変換して得た回折スポット像における回折スポットの位置と、計算により求めた回折スポットの位置(理論上の位置)とを比較することにより、画像の倍率、縦横比及び歪みを補正することができる。その結果に基づいて、画像のスケールを校正することにより、測定物の大きさを高精度で測定することが可能になる。
【0019】
本発明の別の観点によれば、電子顕微鏡を用いた測長方法において結晶格子間隔が既知の単結晶を有する試料を用いて単結晶の格子像を取得する工程と、前記格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得する工程と、前記回折スポット像の回折スポットの位置が理論上の回折スポットの位置と一致するように前記回折スポット像を補正する工程と、補正した回折スポット像を逆フーリエ変換してスケールを校正する工程とを有する測長方法が提供される。
【0020】
本発明においては、電子顕微鏡により単結晶の格子像を取得した後、この格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得し、その回折スポット像における回折スポットの位置を理論上の回折スポットの位置と一致するように、回折スポット像を補正する。実空間と回折スポットが現れる逆格子空間とは逆数の関係にあるので、補正後の回折スポット像を逆フーリエ変換することにより、実空間の画像となる。このとき、スケールを逆数に変換することにより、実空間のスケールとなる。このようにして校正されたスケールを用いることにより、測定物の大きさを高精度に測定することができる。
【0021】
本発明の更に別の観点によれば、電子顕微鏡を用いた測長方法において、測定物を暗視野法により撮影して電子顕微鏡像を取得する工程と、前記電子顕微鏡のラインプロファイルを取得する工程と、前記ラインプロファイルの微分線のピーク間の距離を測定する工程とを有する測長方法が提供される。
【0022】
電子顕微鏡による測定物の電子顕微鏡像は、明視野法により撮影されることが多い。しかし、測定物の大きさを測定する場合は、明視野法により撮影された電子顕微鏡像では測定物のエッジを作業者が正確に判定することが難しく、測定値のばらつきの原因となっていた。
【0023】
本発明においては、測定物を暗視野法により撮影し、撮影された電子顕微鏡像から測定箇所のラインプロファイルを取得する。そして、そのラインプロファイルを微分して微分線を得る。ラインプロファイルを微分すると強度(輝度)の変化がわかるので、測定物のエッジを容易に判断することができる。これにより、作業者毎の測定値のばらつきが回避され、高精度の測長が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【0025】
(測長装置)
図2は、本発明の実施形態に係る測長装置(STEM)の構成を示す模式図である。
【0026】
本実施形態に係る測長装置は、制御部10と、電子銃11と、収束レンズ12a,12bと、収束レンズ絞り13と、走査コイル14と、対物レンズ15と、試料搭載部16と、STEM検出器(電子線検出器)17と、画像解析部18とにより構成される。
【0027】
電子銃11は、制御部10からの信号に応じた加速電圧で電子を加速し、電子線として出力する。電子銃11の下方には、複数段(図2では2段)の収束レンズ12a,12bが配置されている。これらの収束レンズ12a,12bは、制御部10からの信号に応じて、電子銃11から放出された電子線から所望の大きさかつ所望の電流の電子線プローブを形成する。
【0028】
収束レンズ12a,12bの下方には、収束レンズ絞り13が配置されている。収束レンズ12a,12bにより形成された電子線プローブは不要な広がり部分をもつため、この収束レンズ絞り13により不要な広がり部分をカットする。
【0029】
試料20は試料搭載部16の上に搭載される。この試料搭載部16と収束レンズ絞り13との間には、走査コイル14及び対物レンズ15が配置されている。走査コイル14は、制御部10からの信号に応じて電子線を2次元方向に走査する。対物レンズ15は、制御部10からの信号に応じて、試料20の表面又はその近傍で焦点が合うように電子線を屈折する。
【0030】
STEM検出器17は、試料搭載部16の下方に配置される。このSTEM検出器17は試料20を透過した電子線を検出し、その検出結果に応じた電気信号を画像解析部18に出力する。画像解析部18は制御部10により制御され、STEM検出器17から出力された電気信号からSTEM像を生成し、そのSTEM像に対し後述する画像処理を実施してスケールの校正を行う。なお、明視野STEM像を撮影する場合はSTEM検出器17として円状の検出器が使用され、暗視野STEM像を撮影する場合はSTEM検出器17として環状の検出器が使用される。
【0031】
本実施形態の測長装置の基本的な構成は通常のSTEMと同じであるが、STEM検出器17を介して取得したSTEM像に対し画像処理を実施してスケールの校正を行う画像解析部18を有する点が通常のSTEMと異なる。
【0032】
以下、上述した測長装置の画像のスケールの校正方法について説明する。本発明の実施形態においては、測長装置(STEM)により取得される画像のスケールの校正を、40万倍以上の高倍率、10万倍以上かつ40万倍未満の中倍率、10万倍未満の低倍率の3段階に分けて行う。
【0033】
(高倍率におけるスケールの校正)
図3(a),(b)は、40万倍以上の高倍率におけるスケールの校正方法を示す図である。まず、測長装置(STEM)により、結晶格子間隔が既知の単結晶試料の結晶格子像を撮影する。図3(a)は、測長装置により撮像した単結晶試料(シリコン単結晶)の格子像である。ここでは、格子像の解像度(画素数)を1024ピクセル×1024ピクセルとしている。格子像の撮影は明視野法及び暗視野法のいずれでもよいが、フォーカス条件によって格子像の変化が少ない暗視野法で撮影することが好ましい。
【0034】
この格子像をフーリエ変換(Fast Fourier Transformation:FFT)すると、図3(b)に示すような回折スポット像が得られる。この回折スポット像における回折スポット(輝点)の位置を、計算により求めた回折スポットの位置(理論上の回折スポットの位置)と比較して、画像の倍率、縦横比及び画像歪みを補正する。
【0035】
図4(a)は、測長装置により撮影された格子像をフーリエ変換して得た回折スポット像の輝点の位置と、計算により求めた回折スポットの位置とを示す図である。この図4(a)において、無印の白点は計算により求めた回折スポットの位置(補正目標位置)を示し、×印を付加した白点は格子像をフーリエ変換して得た回折スポットの位置(実測位置)を示し、矢印は補正の方向を示している。この図4(a)に示すように、フーリエ変換により得た回折スポットの位置が補正目標位置に重なるように、画像の倍率、縦横比及び歪みを補正する。
【0036】
図4(b)は倍率、縦横比及び歪みを補正した後の回折スポット像を示す図である。この図4(b)に示すように回折スポットの位置が補正目標位置と一致するように倍率、縦横比及び歪みを補正した後、画像のスケールを実空間のスケールに変換する。実空間と回折スポットが現れる逆格子空間とは逆数の関係にあるので、補正後の回折スポット像を逆フーリエ変換(逆FFT)して実空間の画像に戻し、そのときにスケールを逆数に変換して実空間のスケールとする。このようにして高倍率におけるスケールの校正が完了し、高倍率の電子顕微鏡観察において測定物を高精度で測長することが可能になる。
【0037】
(中倍率におけるスケールの校正)
10万倍以上かつ40万倍未満の中倍率におけるスケールの校正では、結晶格子間隔が既知の単結晶をフォトリソグラフィ法によりパターニングして、基準パターンを形成する。この基準パターンは、例えば櫛歯状のパターン又は2次元方向に配列された複数の四角形からなる。
【0038】
図5(a)はシリコン単結晶をパターニングして形成した基準パターンの例を示す図である。この例では基準パターンとして、一辺が50nm(但し、設計値)の正方形パターン31を一定の間隔で2次元方向に配列されたものを用いる。正方形パターン31はシリコン単結晶からなり、それらの正方形パターン31の間は酸化シリコンからなる。
【0039】
この基準パターンを例えば40万倍の倍率で観察すると、結晶格子像が得られる。この格子像をフーリエ変換すると、回折スポット像が得られる。図5(b)は、格子像をフーリエ変換して得た回折スポット像を示す。図5(b)において、画像の中心部と各矢印の先端部とに回折スポットが現れている。この回折スポット像における回折スポットの位置を理論上の回折スポットの位置と比較して、画像の倍率、縦横比及び歪みを補正する。
【0040】
次に、補正後の回折スポット像を逆フーリエ変換して実空間の画像に戻すとともに、スケールを逆数に変換して実空間のスケールとする。そして、そのスケールを用いて正方形パターン31の大きさ、間隔又はピッチ等を測定する。このようにして所定部分の長さが決定された標準パターンを有する試料を、標準試料とする。
【0041】
この標準試料を用いてスケールを校正することにより、中倍率の電子顕微鏡観察において測定物を高精度で測長することが可能になる。
【0042】
なお、図5(a)では基準パターンをシリコン単結晶からなる複数の正方形パターン31により構成しているが、基準パターンの形状はこれに限定されるものではなく、長方形、櫛歯状又はその他の形状であってもよい。基準パターンを正方形又は長方形のパターンにより形成する場合は、一辺の長さ(設計値)を50〜100nmとすることが好ましい。
【0043】
(低倍率におけるスケールの校正)
10万倍未満の低倍率におけるスケールの校正には、中倍率における画像スケールの校正で説明した基準パターンを有する標準試料を用いる。
【0044】
図6は標準試料30に設けられた基準パターンの一例を示す図である。この基準パターンは、正方形パターン31を一定の間隔で2次元方向に配列させて形成されている。ここでは、正方形パターン31の配列ピッチが、中倍率におけるスケールの校正で説明した方法により測定されて既知であるものとする。また、正方形パターン31の一辺の長さは50nmとしている。
【0045】
このような標準試料30を低倍率で観察してSTEM像を取得する。この場合に、STEM像の取得は暗視野法により行うことが好ましいが、明視野法により取得してもよい。その後、STEM像の縦方向、横方向及び斜め方向のラインプロファイルを測定する。すなわち、図7(a)に示すようにSTEM像の縦方向、横方向及び斜め方向にそれぞれラインを引き、各ライン毎に位置と強度(輝度)との関係を求める。図7(b)は、図7(a)の縦方向、横方向及び斜め方向におけるラインプロファイルを示す図である。このラインプロファイルから、正方形パターン31のピッチの平均値を演算してスケールの校正を行う。
【0046】
このようにして、低倍率における画像スケール校正用の標準試料が得られ、低倍率の電子顕微鏡観察において測定物を高精度で測長することが可能になる。
【0047】
(測定物の測長)
上述のように高倍率、中倍率及び低倍率におけるスケールの校正を行った後、所望の倍率において実際に測定物の測定(測長)を行う。
【0048】
測定物の測定を行うには、最初に測長装置(STEM)により測定物の電子顕微鏡像(STEM像)を撮影する。電子顕微鏡像の撮影は、回折条件に依存せずに材料の原子番号や密度分布を把握することができる暗視野法により行うことが好ましい。
【0049】
また、STEMのレンズ条件及びスキャン速度、フライバックタイムなどの測定条件によって測長値が変化するため、STEM像の撮影条件はスケールの校正時と同じにすることが好ましい
更に、暗視野STEM観察では、検出器の取り込み角度によって像強度が回折条件に依存するが、取り込み角度を50mrad以上とすることにより、回折条件に依存しない画像を得ることができる。従って、検出器の取り込み角度は50mrad以上とすることが好ましい。
【0050】
次に、暗視野STEM像から測長する部分のラインプロファイルを抽出する。図8は、測長装置(STEM)により撮影した測定物の暗視野STEM像を示す図である。この図8において、ラインAはラインプロファイルを抽出する部分を示し、ラインBはラインAの位置におけるラインプロファイルを示している。また、ラインCはラインプロファイルを一回微分して得た微分線である。
【0051】
本実施形態では、微分線の変曲点のピーク間隔を測定して測定物の幅とする。従来は、測定物のエッジの位置が明確でないため、作業者や装置によって測定値にばらつきが発生するという問題があった。しかし、本実施形態に係る測長方法では、画像解析部18によりラインプロファイルを抽出し、そのラインプロファイルを微分して微分線を生成し、微分線の変曲点のピーク位置を検出してエッジの位置を自動的に決定するので、作業者や装置による測定値のばらつきが回避され、精度の高い測定が可能となる。
【0052】
図9は、本実施形態の測長装置を用いた測長方法の概要を示すフローチャートである。
【0053】
まず、ステップS11において、測長装置(STEM)の高分解能観察条件を設定する。その後、ステップS12において、結晶格子間隔が既知の単結晶薄膜試料20を測長装置の試料搭載部16上に搭載する。
【0054】
次に、ステップS13において、電子線の試料入射方位を調整する。また、ステップS14において、倍率を調整し、ステップS15において画像サイズを設定する。
【0055】
次に、ステップS16において、電子銃11を駆動して電子線を発生させる。これにより、試料20を透過した電子線がSTEM検出器17により検出され、結晶格子像が得られる。次いで、ステップS17において、画像解析部18により格子像がフーリエ変換され、回折スポット像が生成される。その後、ステップS18に移行し、画像解析部18により回折スポット像の回折スポットの位置と理論上の回折スポットの位置との比較が行われ、画像の倍率、縦横比及び歪みが補正される。ステップS16,17,18は、回折スポット像の回折スポットの位置と理論上の回折スポットの位置との誤差がなくなるまで、すなわち回折スポット像の回折スポットの位置と理論上の回折スポットの位置とが一致するまで繰り返される。
【0056】
このようにしてスケールを校正した後、ステップS19において測定物の電子顕微鏡像を取得する。その後、ステップS20において、測定物の電子顕微鏡像からラインプロファイルを取得する。そして、ステップS21において、ラインプロファイルを校正後のスケールにフィッティングし、ステップS22において距離を測定する。
【0057】
以下、本実施形態の方法を用いて3台の装置(STEM)によりシリコン単結晶の格子定数を測定した結果について説明する。
【0058】
3台の装置(装置A,B,C)を使用して、40万倍の倍率でシリコン単結晶の111面、002面、022面の格子間隔を測定した。その結果を、下記表1に示す。なお、表1において、Si格子定数は各格子面における理論上の格子間隔であり、校正値は各装置で実際に測定した格子間隔である。
【0059】
【表1】

【0060】
この表1に示すように、本実施形態の測長方法では、3台の装置の誤差は±0.006nm以内であり、測長値が装置に依存しないことが確認された。
【0061】
また、これら3台の装置を使用して図8に示す測定物の長さ(縦方向の長さ及び横方向の長さ)を測定した。その結果を下記表2に示す。なお、表2において測定誤差は装置Aによる測定値を基準とし、装置Aによる測長値と装置B又は装置Cによる測定値との差により示した。
【0062】
【表2】

【0063】
この表2からわかるように、各装置間の測長誤差は±0.3%以内であった。
【0064】
上述したように、本発明は、高倍率、中倍率及び低倍率における測長において、装置による測定値のばらつきがなく、高精度の測長が可能である。特に、従来は中倍率の測長において信頼性が高い標準試料がないため、測長値の信頼性が十分でなかったが、本発明によれば中倍率での測長値の信頼性が著しく向上する。
【0065】
また、本発明によれば、回折条件や試料状態に依存しない暗視野法を用いて画像を撮影し、その画像のラインプロファイルを基に測定物のエッジを決定しているので、作業者による測定値のばらつきが発生しない。
【0066】
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0067】
(付記1)電子線を発生する電子銃と、
前記電子線から放出された電子線を収束する収束レンズと、
前記収束レンズにより収束された電子線を走査する走査コイルと、
前記走査コイルにより走査された電子線のフォーカスを試料の表面又はその近傍に合わせる対物レンズと、
前記試料を透過した電子線を検出する電子線検出器と、
前記電子線検出器から出力される信号を入力して電子顕微鏡像を描画し、前記電子顕微鏡像をフーリエ変換する画像解析部と
を有することを特徴とする測長装置。
【0068】
(付記2)前記画像解析部は、前記電子顕微鏡像として単結晶試料の格子像を取得し、その格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得し、当該回折スポット像の回折スポットの位置が回折スポットの理論上の位置と一致するように画像を補正する
ことを特徴とする付記1に記載の測長装置。
【0069】
(付記3)前記画像解析部は、補正後の前記画像を逆フーリエ変換してスケールを校正することを特徴とする付記2に記載の測長装置。
【0070】
(付記4)前記画像解析部は、前記電子顕微鏡像のラインプロファイルを取得し、当該ラインプロファイルの微分線のピーク間の距離を測定する機能を有することを特徴とする付記1に記載の測長装置。
【0071】
(付記5)電子顕微鏡を用いた測長方法において、
結晶格子間隔が既知の単結晶を有する試料を用いて単結晶の格子像を取得する工程と、
前記格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得する工程と、
前記回折スポット像の回折スポットの位置が理論上の回折スポットの位置と一致するように前記回折スポット像を補正する工程と、
補正した回折スポット像を逆フーリエ変換してスケールを校正する工程と
を有することを特徴とする測長方法。
【0072】
(付記6)前記試料としてシリコン単結晶を用いることを特徴とする付記5に記載の測長方法。
【0073】
(付記7)前記格子像を40万倍以上の倍率で取得することを特徴とする付記5に記載の測長方法。
【0074】
(付記8)前記試料が単結晶をパターニングして形成された基準パターンを有し、
更に前記スケールを校正する工程の後に、校正されたスケールを用いて前記基準パターンを測定する工程を有することを特徴とする付記5に記載の測長方法。
【0075】
(付記9)前記基準パターンの測定は、
前記試料を暗視野法により撮影して基準パターンの電子顕微鏡像を取得し、
前記電子顕微鏡像のラインプロファイルを取得し、
前記ラインプロファイルの微分線のピーク間の距離を校正後のスケールにフィッティングする
ことにより行われることを特徴とする付記8に記載の測長方法。
【0076】
(付記10)前記基準パターンを、40万倍未満の電子顕微鏡像における測長に用いることを特徴とする付記9に記載の測長方法。
【0077】
(付記11)電子顕微鏡を用いた測長方法において、
測定物を暗視野法により撮影して電子顕微鏡像を取得する工程と、
前記電子顕微鏡のラインプロファイルを取得する工程と、
前記ラインプロファイルの微分線のピーク間の距離を測定する工程と
を有することを特徴とする測長方法。
【0078】
(付記12)前記電子顕微鏡像を取得する工程において、検出器の取り込み角度を50mrad以上とすることを特徴とする付記11に記載の測長方法。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1(a),(b)は従来の測長方法を示す図であり、図1(a)はSTEMにより撮影した単結晶試料(シリコン単結晶)の結晶格子像、図1(b)は測定物のSTEM像である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る測長装置(STEM)の構成を示す模式図である。
【図3】図3(a),(b)は高倍率におけるスケールの校正方法を示す図であり、図3(a)は測長装置により撮像した単結晶試料(シリコン単結晶)の格子像、図3(b)は格子像をフーリエ変換して得た回折スポット像である。
【図4】図4(a)は測長装置により撮影された格子像をフーリエ変換して得た回折スポット像の輝点の位置と計算により求めた回折スポットの位置とを示す図、図4(b)は倍率、縦横比及び歪みを補正した後の回折スポット像を示す図である。
【図5】図5(a)はシリコン単結晶をパターニングして形成した基準パターンの例を示す図、図5(b)は同じくその基準パターンの格子像をフーリエ変換して得た回折スポット像を示す図である。
【図6】図6は標準試料に設けられた基準パターンの一例を示す図である。
【図7】図7(a)は標準試料のSTEM像においてラインプロファイルを取得する位置を示す図、図7(b)はラインプロファイルを示す図である。
【図8】図8は、測長装置(STEM)により撮影した測定物の暗視野STEM像を示す図である。
【図9】図9は、本実施形態の測長装置を用いた測長方法の概要を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
10…制御部、
11…電子銃、
12a,12b…収束レンズ、
13…収束レンズ絞り、
14…走査コイル、
15…対物レンズ、
16…試料搭載部、
17…STEM検出器、
18…画像解析部、
20…試料
30…標準試料、
31…正方形パターン。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子銃と、
前記電子線から放出された電子線を収束する収束レンズと、
前記収束レンズにより収束された電子線を走査する走査コイルと、
前記走査コイルにより走査された電子線のフォーカスを試料の表面又はその近傍に合わせる対物レンズと、
前記試料を透過した電子線を検出する電子線検出器と、
前記電子線検出器から出力される信号を入力して電子顕微鏡像を描画し、前記電子顕微鏡像をフーリエ変換する画像解析部と
を有することを特徴とする測長装置。
【請求項2】
前記画像解析部は、前記電子顕微鏡像として単結晶試料の格子像を取得し、その格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得し、当該回折スポット像の回折スポットの位置が回折スポットの理論上の位置と一致するように画像を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の測長装置。
【請求項3】
電子顕微鏡を用いた測長方法において、
結晶格子間隔が既知の単結晶を有する試料を用いて単結晶の格子像を取得する工程と、
前記格子像をフーリエ変換して回折スポット像を取得する工程と、
前記回折スポット像の回折スポットの位置が理論上の回折スポットの位置と一致するように前記回折スポット像を補正する工程と、
補正した回折スポット像を逆フーリエ変換してスケールを校正する工程と
を有することを特徴とする測長方法。
【請求項4】
前記試料が単結晶をパターニングして形成された基準パターンを有し、
更に前記スケールを校正する工程の後に、校正されたスケールを用いて前記基準パターンを測定する工程を有することを特徴とする請求項3に記載の測長方法。
【請求項5】
電子顕微鏡を用いた測長方法において、
測定物を暗視野法により撮影して電子顕微鏡像を取得する工程と、
前記電子顕微鏡のラインプロファイルを取得する工程と、
前記ラインプロファイルの微分線のピーク間の距離を測定する工程と
を有することを特徴とする測長方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−82927(P2008−82927A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264384(P2006−264384)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】