説明

湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置

【課題】高温の湯水が不意に吐水されるのを防止しながら、損傷されにくい湯水混合水栓を提供する。
【解決手段】本発明は、単一の操作レバーにより、吐水温度、吐水流量を調整する湯水混合水栓(2)であって、バルブ本体(30)及び操作ロッド(20a)を備え、操作ロッドの回動により吐水温度、吐水流量が変化される湯水混合バルブユニット(20)と、把持部を備え、操作ロッド受入ボア(14d)が形成された操作レバー(14)と、操作ロッド受入ボアが形成された面の一部に設けられた当接突部(14e)と、バルブ本体の上部に配置され、操作ロッドが所定の高温位置に回動された状態で、操作ロッドを吐水流量を減少させる方向に回動させたとき、当接突部と当接して、操作ロッドが止水状態まで回動されるのを阻止する当接受面(26d)が形成された止水規制部材(26)と、を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置に関し、特に、単一の操作レバーを操作することにより、供給された湯及び水の混合比を変化させると共に、吐水流量を調整する湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単一の操作レバーを左右方向に回動させることにより吐水される湯水の温度が変化し、上下方向に回動させることにより吐水流量が変化する所謂シングルレバー式の湯水混合水栓が広く使用されている。しかしながら、このようなシングルレバー式の湯水混合水栓では、操作レバーが、高温の湯水が吐水される位置に回動された状態で止水状態とされていた場合において、操作レバーを単に上下方向に回動させ、吐水を開始させると、不意に高温の湯水が吐出されるという問題がある。このような高温の湯水が、シャワーヘッドから不意に吐水された場合には、特に不快である。
【0003】
特開平9−178008号公報(特許文献1)には、シングルレバー式混合水栓における安全装置が記載されている。図11に示すように、特開平9−178008号公報記載のシングルレバー式混合水栓101では、湯水を混合するカートリッジケース108から上方に突出したレバー122に、横方向に突出する鍔部123が形成されている。また、レバー122には、使用者が把持・操作するレバーハンドル125が取り付けられている。さらに、カートリッジケース108の上部にはリング129が嵌め込まれており、このリング129の円周の一部には突部132が形成されている。
【0004】
このシングルレバー式混合水栓101においては、レバーハンドル125(レバー122)を高温側に回動させた状態で、止水させるために、レバーハンドル125を下方に回動させると、レバー122の鍔部123の先端がリング129の突部132と干渉する。これにより、レバー108が高温側にある状態のままシングルレバー式混合水栓101が止水状態とされるのを防止している。
【0005】
【特許文献1】特開平9−178008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開平9−178008号公報に記載されたシングルレバー式混合水栓では、レバー122に形成された比較的長い鍔部123の先端に突部132を干渉させることによって、混合水栓の止水を阻止している。このため、強い力でレバーハンドル125が操作された場合、鍔部123の基端部には大きな曲げ応力が作用し、基端部が破損されやすいという問題がある。
【0007】
また、特開平9−178008号公報のシングルレバー式混合水栓では、レバー122の鍔部123よりも先の部分が、レバーハンドル125の基部に受け入れられることにより、レバーハンドル125がレバー122に固定されている。このため、レバー122の長さが、鍔部123の厚さ分長くなり、混合水栓全体が高さ方向に大型化するという問題がある。
さらに、鍔部123の破損を避けるために、鍔部123の厚さを厚く形成すると、その厚さ分だけ混合水栓全体の高さが更に高くなってしまうという問題がある。
【0008】
従って、本発明は、高温の湯水が不意に吐水されるのを防止しながら、大きな力で操作された場合にも損傷されにくい湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置を提供することを目的としている。
【0009】
また、本発明は、高温の湯水が不意に吐水されるのを防止しながら、水栓全体が大型化するのを防止することができる湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、単一の操作レバーを操作することにより、供給された湯及び水の混合比を変化させると共に、吐水流量を調整する湯水混合水栓であって、バルブ本体、及びこのバルブ本体から第1の軸線方向に突出した操作ロッドを備え、この操作ロッドを、第1の軸線を中心に回動させることにより流出される湯水の温度が変化され、第1の軸線に対して直交する第2の軸線を中心に回動させることにより湯水の吐水流量が変化される湯水混合バルブユニットと、この湯水混合バルブユニットを受け入れる水栓本体部と、使用者によって把持・操作される把持部を備え、操作ロッドの先端側を受け入れる操作ロッド受入ボアが形成された操作レバーと、操作ロッド受入ボアが形成された面の一部に設けられた当接突部と、バルブ本体の上部に配置され、操作ロッドが第1の軸線を中心に所定の第1高温位置よりも高温側に回動された状態で、操作ロッドを、第2の軸線を中心に吐水流量を減少させる方向に回動させたとき、当接突部と当接して、操作ロッドが止水状態まで回動されるのを阻止する当接受面が形成された止水規制部材と、を有することを特徴としている。
【0011】
このように構成された本発明においては、操作レバーを第1の軸線を中心に回動させることにより、操作ロッドが第1の軸線を中心に回動され、吐水される湯水の温度が変化される。また、操作レバーを第2の軸線を中心に回動させることにより、操作ロッドが第2の軸線を中心に回動され、吐水される湯水の吐水流量が変化される。さらに、操作ロッドが第1高温位置よりも高温側に回動された状態で、操作ロッドを吐水流量を減少させる方向に回動させると、操作レバーの操作ロッド受入ボアが形成された面に設けられた当接突部と、止水規制部材の当接受面が当接し、操作ロッドの止水状態への回動が阻止される。
【0012】
このように構成された本発明によれば、操作ロッドの止水状態への回動が、操作レバーの当接突部と、止水規制部材の当接受面の当接により阻止されるので、これらの部材には主に圧縮応力が作用する。これにより、操作レバーが大きな力で操作された場合にも損傷されにくい湯水混合水栓を小型に構成することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、さらに、水栓本体部に螺合させることにより、湯水混合バルブユニットを締め付け、これを水栓本体部に固定するバルブ押さえ部材を有し、止水規制部材は、ビスによりバルブ押さえ部材に固定されている。
【0014】
このように構成された本発明によれば、止水規制部材がビスによりバルブ押さえ部材に固定されているので、止水規制部材の当接受面が水平方向以外の方向に向けられる構成においても、止水規制部材が適所から外れるのを防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、さらに、湯水混合バルブユニットと止水規制部材との間の回転位置を位置決めする位置決め手段を有し、止水規制部材には、第1の軸線を中心とする円弧状に延びる長孔が形成されており、ビスは長孔を通してバルブ押さえ部材に形成された雌ねじ穴に螺合される。
【0016】
このように構成された本発明によれば、止水規制部材が円弧状に延びる長孔を通してバルブ押さえ部材にビス止めされるので、水栓本体部に螺合されたバルブ押さえ部材の回転位置に関わらず、止水規制部材を湯水混合バルブユニットに対して所定の回転位置で固定することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、さらに、吐水状態、止水状態に関わらず、操作ロッドが、第1高温位置よりも更に高温側の第2高温位置よりも高温側に回動されるのを阻止する高温規制手段を有する。
【0018】
このように構成された本発明によれば、不意に吐水されると問題がある吐水温度設定における止水が阻止されると共に、更に温度が高く、吐出されることが不適切な湯水の吐出を防止することができる。
【0019】
また、本発明は、吐水装置であって、吐水装置本体と、この吐水装置本体に取り付けられた本発明の湯水混合水栓と、この湯水混合水栓によって混合された湯水を吐水させるシャワーヘッドと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置によれば、高温の湯水が不意に吐水されるのを防止しながら、大きな力で操作された場合の損傷を防止することができる。
また、本発明の湯水混合水栓及びそれを備えた吐水装置によれば、高温の湯水が不意に吐水されるのを防止しながら、水栓全体が大型化するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による吐水装置を説明する。図1は、本実施形態による吐水装置全体を示す斜視図である。図2は、図1に示した吐水装置の、湯水混合水栓が組み込まれた部分を拡大して示した拡大断面図である。図3は、湯水混合水栓の分解斜視図である。図4は、スペーサーリングの(a)正面図、及び(b)背面図である。図5は、操作レバーの(a)正面図、及び(b)背面図である。図6は、湯水混合バルブユニットの(a)正面図、及び(b)背面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態による吐水装置1は、吐水装置本体1aと、供給された湯及び水を混合し、適温にして流出させる湯水混合水栓2と、この湯水混合水栓2から流出した湯水を、オーバーヘッドシャワー又はハンドシャワーに切り替える切替弁4と、オーバーヘッドシャワー用のシャワーヘッド6と、ハンドシャワー用のシャワーヘッド8と、を有する。
【0023】
本実施形態による吐水装置1は、給水管10及び給湯管12から夫々供給された湯及び水を、湯水混合水栓2において適宜混合し、湯水混合水栓2において混合された湯水を、切替弁4の切り替えに応じてオーバーヘッドシャワー用のシャワーヘッド6又はハンドシャワー用のシャワーヘッド8から吐出させるように構成されている。湯水混合水栓2は、所謂シングルレバー式の湯水混合水栓であり、その操作レバー14を上方に上げると吐水が開始され、操作レバー14を左右方向に回動させることにより湯と水の混合比が変更され、吐出される湯水の温度が変更できるように構成されている。また、切替弁4の切替レバー16が鉛直方向に向けられている際にはオーバーヘッドシャワー用のシャワーヘッド6から吐水され、水平方向に向けられている際にはハンドシャワー用のシャワーヘッド8から吐水されるように構成されている。
【0024】
また、図2に示すように、切替弁4は、切替レバー16を回動させることにより、水路内に配置されたシリンダ4aが回動され、シリンダ4aに設けられた開口4bが整合した水路に流路を切り替えるシリンダ式の切替弁である。
【0025】
図2及び図3に示すように、湯水混合水栓2は、水栓本体部18と、この水栓本体部18に収容された湯水混合バルブユニット20と、この湯水混合バルブユニット20を水栓本体部18に固定するバルブ押さえ部材22と、を有する。さらに、湯水混合水栓2は、湯水混合バルブユニット20に取り付けられた操作レバー14と、バルブ押さえ部材22の上に配置されたスリップリング24と、湯水混合バルブユニット20の上部に配置された止水規制部材であるスペーサーリング26と、水栓本体部18に取り付けられ、操作レバー14の基端部を覆うカバーリング28と、を有する。
【0026】
水栓本体部18は、湯水混合バルブユニット20を収容するバルブユニット受入部18aと、湯水混合バルブユニット20で混合され、流出された湯水を切替弁4に導く誘導管18bと、吐水装置1を取り付ける壁面Wに当接される脚部18cと、を有する。また、脚部18cは、壁面Wから突出するように設けられた給水管10及び給湯管12に接続されるように構成されている。水栓本体部18の内部には、給水通路及び給湯通路が形成されており、給水管10及び給湯管12から夫々供給された水及び湯を、バルブユニット受入部18aの底面に設けられた水流出開口18d(図示せず)、及び湯流出開口18eに導くように構成されている。
【0027】
湯水混合バルブユニット20は、操作ロッド20aと、バルブ本体30と、このバルブ本体30の中に収納された固定ディスク32と、この固定ディスク32に対して可動な可動ディスク34と、回転軸受部材36と、を有する。
バルブ本体30は、段付きの概ね円筒状の形状を有し、内部に固定ディスク32、可動ディスク34等を収容している。
【0028】
回転軸受部材36は、概ね円柱状の部材であり、バルブ本体30の直径が小さい円筒部分に、第1の軸線を中心として回動可能に受け入れられている。また、回転軸受部材36には、操作ロッド20aを受け入れる開口が形成されている。さらに、回転軸受部材36には、第1の軸線であるバルブ本体30の軸線に対して直交する第2の軸線方向に向けられた回転軸36aが取り付けられている。操作ロッド20aは回転軸受部材36を貫通して、回転軸36aを中心に回動可能に取り付けられている。これにより、操作ロッド20aは第1の軸線を中心とする回動、及び第2の軸線方向に向けられた回転軸36aを中心とする回動が可能に取り付けられている。
【0029】
固定ディスク32は、水流入口32a、及び湯流入口32b(図6(b))が形成された概ね円板状の部材であり、バルブ本体30に対して固定されている。水流入口32a、及び湯流入口32bは、水栓本体部18に設けられた2本の水流出開口18d(図示せず)、及び湯流出開口18eと夫々整合するように構成されており、供給された水及び湯が水流入口32a、湯流入口32bを通って湯水混合バルブユニット20に流入するようになっている。
【0030】
可動ディスク34は、概ね円板状の部材であり、その正面側にはロッド受入凹部34aが、背面側には通水凹部34bが夫々形成されている。ロッド受入凹部34aは、操作ロッド20aの奥側の先端を受入れており、操作ロッド20aが回転軸36aを中心に回動されることにより、可動ディスク34が固定ディスク32に対して上下方向に移動されるように構成されている。また、操作ロッド20aが湯水混合バルブユニット20の軸線を中心に回動されると、これと係合している可動ディスク34も固定ディスク32に対して回動されるように構成されている。
【0031】
また、可動ディスク34の下面の通水凹部34bは、可動ディスク34が固定ディスク32に対して移動されたとき、固定ディスク32の水流入口32a、湯流入口32bを適宜開閉するような形状に構成されている。即ち、可動ディスク34が、図2に示すように、最も上方に移動された状態では、水流入口32a、湯流入口32bは、可動ディスク34によって完全に閉鎖され、止水状態となる。この状態から、操作ロッド20aを、回転軸36aを中心に回動させ、可動ディスク34を下方に移動させると、固定ディスク32の水流入口32a、湯流入口32bと可動ディスク34の通水凹部34bが重なるようになる。この状態では、水流入口32a、湯流入口32bを通って流入した水及び湯は、通水凹部34bの中に流入して混合され、さらに、バルブ本体30の側面に形成された流出口30aから流出して吐水状態となる。さらに、可動ディスク34を図2における最も下方に移動させた状態では、水流入口32a、湯流入口32bは、最も開放された状態となり、吐水流量も最大になる。
【0032】
一方、操作ロッド20aを、第1の軸線を中心に回動させ、可動ディスク34を回動させた場合には、水流入口32a、湯流入口32bの開度が変化する。即ち、操作レバー14を、図1における左方向に回動させた場合には、湯流入口32bの開度が大きくなり、水流入口32aの開度が小さくなる。これにより、水の流入量が減り、湯の流入量が増えるので、吐水される湯水の温度が高くなる。逆に、操作レバー14を、図1における右方向に回動させた場合には、水の流入量が増え、湯の流入量が減るので、吐水される湯水の温度が低くなる。
【0033】
一方、バルブ押さえ部材22は、概ね円筒状の部材であり、その外周には雄ねじ22a(図3)が形成されている。この雄ねじ22aは、バルブユニット受入部18aの内壁面に形成された雌ねじ18f(図2)に螺合されるように構成されている。雄ねじ22aと雌ねじ18fを螺合させることにより、バルブ本体30の段部をバルブ押さえ部材22で押圧し、湯水混合バルブユニット20を水栓本体部18とバルブ押さえ部材22の間に挟み付けて固定するように構成されている。また、バルブ押さえ部材22の正面側には、外周が六角形に形成された隆起部22bが形成され、この隆起部22bに工具(図示せず)を係合させることによりバルブ押さえ部材22を回転させ、これを水栓本体部18にねじ込むことができるように構成されている。また、隆起部22bの六角形の各頂点近傍には、スペーサーリング26をビス止めするための6つの雌ねじ穴22cが夫々形成されている。
【0034】
スリップリング24(図3)は、バルブ押さえ部材22の隆起部22bの周囲に配置された樹脂製の円環状の部材である。スリップリング24は、操作レバー14が操作されたとき、そのスカート部14cと当接し、バルブ押さえ部材22と操作レバー14の間の摩擦を低減するように構成されている。
【0035】
図2乃至図4に示すように、止水規制部材であるスペーサーリング26は、金属性の円環状の部材であり、バルブ押さえ部材22から前方に突出しているバルブ本体30の前端部を取り囲むように配置されている。また、図4に示すように、スペーサーリング26の内周には、半径方向内方に向けて突出する5つの係合突起26aが形成されている。この係合突起26aが、バルブ本体30の前端部の外周の一部に形成されたスプライン30bと係合することにより、湯水混合バルブユニット20に対するスペーサーリング26の回転位置が、所定の位置に位置決めされる。従って、バルブ本体30のスプライン30b及び係合突起26aは、位置決め手段を構成する。
【0036】
また、スペーサーリング26の、係合突起26aの反対側の部分は、半径方向内方に張り出すように幅が広く形成されており、この幅広部分に沿って、円弧状に延びる長孔26bが形成されている。スペーサーリング26は、2本のビス26c(図3)を、長孔26bを通してバルブ押さえ部材22の雌ねじ穴22cに螺合させることにより、バルブ押さえ部材22に固定される。なお、長孔26bは、中心角約100゜の円弧状に延びているため、湯水混合バルブユニット20を締め付けた結果として、バルブ押さえ部材22が如何なる回転位置にある場合でも、長孔26bは、6つの雌ねじ穴22cのうちの少なくとも2つと整合する。このため、スペーサーリング26を、常に2本のビス26cでバルブ押さえ部材22に固定することができる。
【0037】
さらに、図4(a)に示すように、スペーサーリング26の表側の幅広部分には、概ね扇形に隆起した部分が形成されており、この隆起した部分の表面が当接受面26dを構成している。本実施形態においては、当接受面26dは、第1の軸線に直交する方向に向けられた平面として構成されている。また、後述するように、当接受面26dは、操作レバー14が所定の第1高温位置よりも高温側に回動されている際に、操作レバー14の一部と当接して、湯水混合バルブユニット20が止水状態にされるのを阻止するように構成されている。ここで、スペーサーリング26の幅広部分の裏側は、バルブ本体30の前端面に当接して支持されているため、当接受面26dが操作レバー14の一部により押圧されたとき、スペーサーリング26には主に圧縮応力が作用する。このため、当接受面26dに大きな力が作用した場合にも、スペーサーリング26は変形・損傷されにくい構造になっている。
【0038】
また、図4(b)に示すように、スペーサーリング26の幅広部分の裏面側には、高温規制手段である高温規制突起26eが、湯水混合水栓2の背面側に突出するように形成されている。この高温規制突起26eは、スペーサーリング26が湯水混合バルブユニット20に組み付けられたとき、バルブ本体30と回転軸受部材36の間に挿入される(図6(a)に想像線で図示)。これにより、操作レバー14が第1高温位置よりも高温の第2高温位置まで回動されると、高温規制突起26eと回転軸受部材36の係合端36bが係合し、操作レバー14が第2高温位置よりも高温側に回動されるのを阻止するように構成されている。
【0039】
図5に示すように、操作レバー14は、使用者によって把持・操作される把持部14aと、把持部14aの基端に形成された基端部14bと、を有する。把持部14aは、緩やかに折り曲げられた細長い薄板状に形成されている。また、基端部14bは、把持部14aの基端に形成された概ね円形の部分であり、その周囲には、湯水混合バルブユニット20の側に向かって延びるスカート部14cが形成されている。
【0040】
さらに、図5(b)に示すように、基端部14bの背面側には、湯水混合バルブユニット20の操作ロッド20aを受け入れる操作ロッド受入ボア14dが形成されている。操作ロッド受入ボア14dは、概ね正方形断面の操作ロッド20aを隙間無く受け入れるように形成された概ね正方形断面の凹部である。操作ロッド20aが操作ロッド受入ボア14dに受け入れられた状態で、操作ロッド20aの先端部に螺合された芋ネジ20bを締め付けることにより、操作レバー14が操作ロッド20aに固定される(図2)。
【0041】
また、基端部14bの背面側の、操作ロッド受入ボア14dが形成された面は、中心角にして約90゜の範囲が隆起して形成されており、これにより、当接突部14eを構成している。この当接突部14eは、操作レバー14が第1高温位置よりも高温側に移動されると、スペーサーリング26の当接受面26dと整合し、操作レバー14が止水側に回動されるのを阻止するように位置決めされている。本実施形態においては、当接突部14eの表面は平面状に構成され、当接受面26dに当接される際、当接受面26dと平行になるように形成されている。これにより、当接突部14eと当接受面26dの接触面積が拡大され、当接突部14e又は当接受面26dの損傷を防止することができる。
【0042】
図2及び図3に示すように、カバーリング28は、操作レバー14の基端部14bの外側に配置され、バルブユニット受入部18aの内壁面と、基端部14bの外周との間の隙間を覆うように構成されている。カバーリング28には、「H」及び「C」のインデックスが刻印されており、操作レバー14を操作する方向の高温側及び低温側を表示している。カバーリング28の外周にはOリング28aが配置されており、カバーリング28は、バルブユニット受入部18aの内壁面との間でこのOリング28aを圧縮しながら嵌め込まれることにより、水栓本体部18に固定される。
【0043】
次に、図7乃至図10を参照して、本発明の実施形態による吐水装置1の作用を説明する。図7は、止水状態にある湯水混合水栓2を一部破断して示す斜視図である。また、図8は吐水状態にある湯水混合水栓2を、図9は吐水状態にある湯水混合水栓2が第1高温位置よりも高温側に設定された状態を夫々、一部破断して示す斜視図である。さらに、図10は第1高温位置よりも高温側に設定された湯水混合水栓2の吐水流量を減少させた場合において、操作レバー14の止水状態への回動が阻止された様子を一部破断して示す斜視図である。
【0044】
まず、図7に示す止水状態においては、可動ディスク32が固定ディスク34に設けられた水流入口32a及び湯流入口32bを閉鎖しているので、給水管10及び給湯管12を介して供給された水及び湯は、湯水混合バルブユニット20内に流入せず、止水状態になる。次に、図8に示すように、操作レバー14(操作ロッド20a)を、回転軸36aを中心に上方に回動させると、可動ディスク32は図2における下方に移動され、水流入口32a及び湯流入口32bが開いて吐水状態となる。
【0045】
図8に示すように、操作レバー14が鉛直下方に向けられている場合には、水流入口32a及び湯流入口32bの開度はほぼ等しくなり、ほぼ同量の水及び湯が湯水混合バルブユニット20内に流入する。湯水混合バルブユニット20内に流入した水及び湯は、混合され、バルブ本体30側面の流出口30aから流出される。流出口30aから流出した湯水は、誘導管18bを通って上昇し、切替弁4に流入する。切替弁4に流入した湯水は、切替レバー16の設定に従って、オーバーヘッドシャワー用のシャワーヘッド6又はハンドシャワー用のシャワーヘッド8から吐水される。
【0046】
一方、操作レバー14を、湯水混合バルブユニット20の軸線を中心に右方向又は左方向に回動させることにより、操作ロッド20aも軸線を中心に回動される。これにより、湯水混合バルブユニット20に流入する湯及び水の混合比が変化し、吐水される湯水の温度が調節される。例えば、図9に示すように、操作レバー14を高温側(左側)に回動させた場合には、水流入口32aの開度が小さくなり、湯流入口32bの開度が大きくなるので、シャワーヘッドから吐水される湯水の温度が上昇する。
【0047】
また、操作レバー14を所定の第1高温位置以上に高温側に回動させた場合には、スペーサーリング26の当接受面26d(図4(a))と、操作レバー14の基端部14b背面側の当接突部14e(図5(b))が整合するようになる(図9)。従って、操作レバー14が第1高温位置よりも高温側にある場合には、その状態で止水させるために、操作レバー14を回転軸36aを中心に回動させると、当接受面26dと当接突部14eが干渉する(図10)。このため、操作レバー14の止水位置への回動が阻止される。即ち、操作レバー14が第1高温位置以上の高温側に移動された状態において、湯水混合水栓2を止水状態とすることが防止される。これにより、操作レバー14が高温側に移動されたまま止水状態にされることによって、次に吐水を開始させたときに不意に高温の湯水が吐出されるのを防止することができる。本実施形態においては、第1高温位置は、約40゜Cの湯水が吐出される、操作レバー14が概ね鉛直下方に向けられた位置に設定されている。
【0048】
第1高温位置よりも高温側で湯水を吐出させた後、湯水混合水栓2を止水状態とするには、操作レバー14を一旦、第1高温位置よりも低温側(図9における右側)に回動させ、次いで、操作レバー14を回転軸36aを中心に下方に回動させることにより止水状態とする。
【0049】
また、図9に示す状態から、第1高温位置を越えて更に高温側に操作レバー14を回動させ、所定の第2高温位置に達すると、スペーサーリング26の高温規制突起26e(図4(b))と回転軸受部材36の係合端36bが係合し、操作レバー14を第2高温位置よりも高温側に回動させることができなくなる。即ち、止水状態においては、第1高温位置よりも高温側への操作レバー14の回動は阻止され、一方、吐水状態においては、第1高温位置よりも高温側への回動は許容されるものの、さらに高温の第2高温位置よりも高温側への回動は阻止される。これにより、シャワー吐水としては不適切な高温の湯水が、シャワーヘッドから吐出されることが回避される。本実施形態においては、第2高温位置は、約50〜55゜Cの湯水が吐出される、操作レバー14が鉛直下方から約27.5゜左側(高温側)に回動された位置に設定されている。
【0050】
本発明の実施形態の吐水装置によれば、高温状態における操作ロッドの止水状態への回動が、操作レバーの当接突部と、スペーサーリングの当接受面の当接により阻止される。この際、当接突部及び当接受面には主に圧縮応力が作用するので、操作レバーが大きな力で操作された場合においても、当接突部や当接受面の損傷を防止することができる。また、当接突部が、操作ロッドの中間部ではなく、操作レバーの操作ロッド受入ボアが形成された面に設けられているので、高温状態における止水を阻止する機構を、小型に構成することができる。
【0051】
また、本実施形態の吐水装置によれば、スペーサーリングがバルブ押さえ部材にビス止めされているので、当接受面が鉛直方向に向くように配置される構成においても、スペーサーリングが所定の位置から外れるのを防止することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の吐水装置によれば、スペーサーリングが円弧状に延びる長孔を通してバルブ押さえ部材にビス止めされるので、水栓本体部に螺合されたバルブ押さえ部材の回転位置に関わらず、スペーサーリングを湯水混合バルブユニットに対して所定の回転位置で固定することができる。
【0053】
また、本実施形態の吐水装置によれば、止水状態における操作レバーの第1高温位置よりも高温側への回動が阻止されると共に、吐水状態、止水状態に関わらず、さらに高温の第2高温位置よりも高温側への操作レバーの回動は阻止される。これにより、不意に吐水されると問題がある吐水温度設定における止水が阻止されると共に、更に温度が高く、吐出されることが不適切な湯水の吐出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態による吐水装置全体を示す斜視図である。
【図2】図1に示した吐水装置の、湯水混合水栓が組み込まれた部分を拡大して示した拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態による吐水装置に組み込まれている湯水混合水栓の分解斜視図である。
【図4】スペーサーリングの(a)正面図、及び(b)背面図である。
【図5】操作レバーの(a)正面図、及び(b)背面図である。
【図6】湯水混合バルブユニットの(a)正面図、及び(b)背面図である。
【図7】止水状態にある湯水混合水栓を一部破断して示す斜視図である。
【図8】吐水状態にある湯水混合水栓を一部破断して示す斜視図である。
【図9】吐水状態にある湯水混合水栓が第1高温位置よりも高温側に設定された状態を一部破断して示す斜視図である。
【図10】第1高温位置よりも高温側に設定された湯水混合水栓の吐水流量を減少させた場合において、操作レバーの止水状態への回動が阻止された様子を一部破断して示す斜視図である。
【図11】従来のシングルレバー式混合水栓の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 本発明の実施形態による吐水装置
1a 吐水装置本体
2 湯水混合水栓
4 切替弁
4a シリンダ
4b 開口
6 シャワーヘッド
8 シャワーヘッド
10 給水管
12 給湯管
14 操作レバー
14a 把持部
14b 基端部
14c スカート部
14d 操作ロッド受入ボア
14e 当接突部
16 切替レバー
18 水栓本体部
18a バルブユニット受入部
18b 誘導管
18c 脚部
18d 水流出開口
18e 湯流出開口
18f 雌ねじ
20 湯水混合バルブユニット
20a 操作ロッド
20b 芋ネジ
22 バルブ押さえ部材
22a 雄ねじ
22b 隆起部
22c 雌ねじ穴
24 スリップリング
26 スペーサーリング(止水規制部材)
26a 係合突起
26b 長孔
26c ビス
26d 当接受面
26e 高温規制突起(高温規制手段)
28 カバーリング
30 バルブ本体
30a 流出口
30b スプライン
32 固定ディスク
32a 水流入口
32b 湯流入口
34 可動ディスク
34a ロッド受入凹部
34b 通水凹部
36 回転軸受部材
36a 回転軸
36b 係合端
101 従来のシングルレバー式混合水栓
108 カートリッジケース
122 レバー
123 鍔部
125 レバーハンドル
129 リング
132 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の操作レバーを操作することにより、供給された湯及び水の混合比を変化させると共に、吐水流量を調整する湯水混合水栓であって、
バルブ本体、及びこのバルブ本体から第1の軸線方向に突出した操作ロッドを備え、この操作ロッドを、上記第1の軸線を中心に回動させることにより流出される湯水の温度が変化され、上記第1の軸線に対して直交する第2の軸線を中心に回動させることにより湯水の吐水流量が変化される湯水混合バルブユニットと、
この湯水混合バルブユニットを受け入れる水栓本体部と、
使用者によって把持・操作される把持部を備え、上記操作ロッドの先端側を受け入れる操作ロッド受入ボアが形成された操作レバーと、
上記操作ロッド受入ボアが形成された面の一部に設けられた当接突部と、
上記バルブ本体の上部に配置され、上記操作ロッドが上記第1の軸線を中心に所定の第1高温位置よりも高温側に回動された状態で、上記操作ロッドを、上記第2の軸線を中心に吐水流量を減少させる方向に回動させたとき、上記当接突部と当接して、上記操作ロッドが止水状態まで回動されるのを阻止する当接受面が形成された止水規制部材と、
を有することを特徴とする湯水混合水栓。
【請求項2】
さらに、上記水栓本体部に螺合させることにより、上記湯水混合バルブユニットを締め付け、これを上記水栓本体部に固定するバルブ押さえ部材を有し、上記止水規制部材は、ビスにより上記バルブ押さえ部材に固定されている請求項1記載の湯水混合水栓。
【請求項3】
さらに、上記湯水混合バルブユニットと上記止水規制部材との間の回転位置を位置決めする位置決め手段を有し、上記止水規制部材には、上記第1の軸線を中心とする円弧状に延びる長孔が形成されており、上記ビスは上記長孔を通して上記バルブ押さえ部材に形成された雌ねじ穴に螺合される請求項2記載の湯水混合水栓。
【請求項4】
さらに、吐水状態、止水状態に関わらず、上記操作ロッドが、上記第1高温位置よりも更に高温側の第2高温位置よりも高温側に回動されるのを阻止する高温規制手段を有する請求項1乃至3の何れか1項に記載の湯水混合水栓。
【請求項5】
吐水装置本体と、
この吐水装置本体に取り付けられた請求項1乃至4の何れか1項に記載の湯水混合水栓と、
この湯水混合水栓によって混合された湯水を吐水させるシャワーヘッドと、
を有することを特徴とする吐水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−169890(P2008−169890A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2504(P2007−2504)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】