説明

湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置

【課題】高圧で圧縮成形を行った場合にも金型の内隅部を起点としたクラック発生が起こらず、磁性粉等の高硬度の原料粉末を高圧で圧縮成形可能とする。
【解決手段】コアロッド20の外周面21に凹所状のキャビティ30を形成し、このキャビティ30に摺動自在に挿入される上下のパンチでキャビティ30に供給した原料粉末を圧縮して湾曲板状部品の圧粉体を成形する。キャビティ30の直角状の内隅部34をダイス10の内周面11とコアロッド20の外周面21とで形成することにより、内隅部34にかかる圧縮成形時の応力をダイス10の内周面11とコアロッド20の外周面21との接合境界面60にリークさせ、内隅部34を起点としたクラック発生を防ぎ、高圧での成形を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲板状部品を粉末冶金法で得る過程において、原料粉末を該部品に近似した圧粉体に圧縮成形する際に用いる圧粉体成形金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型内のキャビティに供給した原料粉末をパンチで圧縮することにより目的の部品形状に近似した圧粉体を成形し、この圧粉体を焼結して部品を得る粉末冶金法は、精密、かつ複雑な形状のものを大量生産可能な方法として知られている。例えば、軸受等の円筒状部品は、金型のダイス内に形成された上下方向に開口する円筒状キャビティに原料粉末を供給し、キャビティ内に摺動自在に挿入される上下のパンチで原料粉末を軸方向に圧縮して成形される(特許文献1等参照)。
【0003】
さて、粉末冶金法によって、上記湾曲板状部品を製造することが試みられている。この場合の湾曲板状部品とは、例えば図20の符号100で示すように、均一厚さの矩形状平板を、一辺方向は直線状のまま他辺方向をR状に湾曲させた形状のもの、言い換えると、円筒の一部を矩形状に切り取った形状のものを言う。
【0004】
このような湾曲板状部品100の圧粉体を、従来の圧粉体成形法を適用して成形するには、図21および図22に示すように、ダイス110内に形成した湾曲板状部品に対応するキャビティ130に原料粉末Pを供給し、キャビティ130内に挿入される上下のパンチ140,150で原料粉末Pを圧縮する。キャビティ130は、直線状の一辺方向が上下方向に沿った状態に形成されており、したがって原料粉末Pは円筒状部品と同様に軸方向に圧縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−251302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、磁性粉等の硬さの高い原料粉末は、塑性変形し難いため高密度化が困難であるといった特性がある。そのような硬さの高い原料粉末を圧縮成形する場合には、通常よりも高い圧力で原料粉末を圧縮して圧粉体を得るようにしている。ところが、硬さの高い原料粉末により、図20で示したような湾曲板状部品100の圧粉体を、図21および図22で示した金型装置によって成形すると、図23に示すように、ダイス110のキャビティ130の直角状の内隅部131,132にパンチ圧力による応力が集中し、それら内隅部131,132を起点としてクラック(矢印Hで示す)が生じる場合があった。クラックが生じたダイスは使用不能となり、したがって高コスト化や生産性の低下を招くといった問題を招くことになるため、改善策が要望された。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、高圧で圧縮成形を行った場合にも金型の内隅部を起点としたクラック発生を防ぐことができ、磁性粉等の高硬度の原料粉末を適確に成形することができる湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置は、湾曲板状部品の圧粉体を成形する金型装置であって、円筒状の内周面で形成される中空部を有するダイスと、円筒状の外周面を有し、前記ダイスの前記中空部に摺動自在に挿入されるコアロッドと、前記湾曲板状部品に対応する形状のパンチとを備え、前記ダイスの前記内周面または前記コアロッドの前記外周面のいずれかに一方に、前記湾曲板状部品に対応する形状のキャビティが凹所状に形成されるとともに、このキャビティの周方向間には前記ダイスと前記コアロッドとの間の一部を閉塞してキャビティの内側面を形成する湾曲板状の凸部が配設され、前記ダイスの前記中空部に前記コアロッドを挿入した金型セット状態で、前記キャビティが該ダイスと該コアロッドとにより区画され、該キャビティに供給された原料粉末が前記パンチにより軸方向に圧縮されて前記湾曲板状部品の圧粉体が成形されることを特徴とする。
【0009】
本発明では、キャビティがダイスの内周面に形成されている場合には、湾曲板状部品の圧粉体は、外周面がキャビティの底面で形成され、内周面がコアロッドの外周面で形成され、両側面が凸部の側面すなわちキャビティの内側面で形成される。一方、キャビティがコアロッドの外周面に形成されている場合には、湾曲板状部品の圧粉体は、外周面がダイスの内周面で形成され、内周面がコアロッドのキャビティの底面で形成され、両側面がキャビティの内側面で形成される。
【0010】
本発明の金型のキャビティの周方向両端の内隅部は、ダイスとコアロッドとで形成される内隅部と、キャビティの底面と内側面とで形成される内隅部の2つがあるが、このうち、前者の内隅部は分割されるダイスとコアロッドとで形成されており、これらダイスとコアロッドとの接合境界面が内隅部の外方に延びている。このため、パンチで原料粉末を圧縮成形した際、ダイスとコアロッドとで形成される内隅部に応力がかかると、その応力は上記接合境界面にリークし、この内隅部への応力集中が起こらない。その結果、この内隅部を起点としたクラック発生が防がれる。
【0011】
一方、キャビティの底面と内側面とで形成される内隅部は、従来のように応力が集中しやすい。そこで本発明では、キャビティの底面と内側面とで形成される内隅部がR状に形成され、応力が集中しにくい構造とすることを形態を好ましいものとする。
【0012】
また、本発明は、金型セット状態におけるキャビティは、軸方向の一端側に開口し、他端側がダイスまたはコアロッドに形成された段部によって閉塞され、一端側の開口からパンチが該キャビティ内に挿入される形態を含む。この形態によれば、パンチは1つで構成することができ、キャビティ内の原料粉末は、そのパンチと段部との間に挟まれて軸方向に圧縮成形される。
【0013】
ダイスまたはコアロッドに上記段部を有する場合には、段部の内隅部をR状に形成することにより、この段部の内隅部への応力集中が抑えられるため、好ましい形態とされる。
【0014】
また、ダイスまたはコアロッドに上記段部を有する場合には、その段部が形成されたダイスまたはコアロッドは、該段部を境界として、キャビティを含む本体側と、該段部を含む段部側とに、軸方向に分割されることを形態を含む。この形態によれば、段部の内隅部が本体側と段部側との2部材で構成され、その内隅部の外方に本体側と段部側との接合境界面が延びている。このため、段部の内隅部への応力集中は起こらず、この内隅部を起点としたクラック発生が防がれる。
【0015】
次に、本発明の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置は、湾曲板状部品の圧粉体を成形する金型装置であって、円筒状の内周面で形成される中空部を有するダイスと、円筒状の外周面を有し、前記ダイスの前記中空部に、ダイスの内周面との間に隙間が空く状態に挿入されるコアロッドと、前記隙間に摺動自在に挿入され、周方向間に、前記湾曲板状部品に対応する形状のキャビティを形成する湾曲板状の中間型と、前記湾曲板状部品に対応する形状のパンチとを備え、前記ダイスの前記中空部に前記コアロッドを挿入するとともに、これらダイスの内周面とコアロッドの外周面との間に形成される前記隙間に前記中間型を挿入した金型セット状態で、該ダイスの内周面、該コアロッドの外周面および該中間型により前記キャビティが区画され、該キャビティに供給された原料粉末が前記パンチにより軸方向に圧縮されて前記湾曲板状部品の圧粉体が成形されることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、湾曲板状部品の圧粉体は、外周面がダイスの内周面で形成され、内周面がコアロッドの外周面で形成され、両側面が中間型の側面で形成される。本発明の金型では、キャビティの周方向両端の外周側の内隅部は、ダイスと中間型とで形成され、両者の接合境界面がその内隅部の外方に延びている。一方、内周側の内隅部は、コアロッドと中間型とで形成され、両者の接合境界面がその内隅部の外方に延びている。すなわち、外周側および内周側のいずれの内隅部も2部材で形成され、それら部材の接合境界面が内隅部の外方に延びている。このため、それら内隅部への応力集中が起こらず、この内隅部を起点としたクラック発生が防がれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金型の内隅部を起点としたクラック発生を防ぐことができ、その結果、高圧での圧縮成形を可能として磁性粉等の高硬度の原料粉末を適確に成形することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧粉体成形金型装置の平面図である。
【図2】第1実施形態の金型装置の斜視図である。
【図3】図1のA−A断面に対応する図であって、(a)キャビティに原料粉末を供給した状態、(b)原料粉末をパンチで圧縮成形した状態を示す。
【図4】第1実施形態の金型装置のコアロッドの一部拡大平面図である。
【図5】第1実施形態の金型装置で形成されるキャビティを示す平面図である。
【図6】第1実施形態の金型装置で成形された湾曲板状部品の圧粉体の(a)平面図、(b)内周面側から見た正面図、(c)斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態においてコアロッドを変更した変更例1のコアロッドを示す(a)斜視図、(b)段部を示す断面図である。
【図8】同変更例1の金型装置の断面図であって、(a)キャビティに原料粉末を供給した状態、(b)原料粉末をパンチで圧縮成形した状態を示す。
【図9】本発明の第1実施形態においてコアロッドを変更した変更例2のコアロッドの分解斜視図である。
【図10】同変更例2のコアロッドの下部断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る圧粉体成形金型装置の平面図である。
【図12】第2実施形態の金型装置のコアロッドの一部拡大平面図である。
【図13】第2実施形態の金型装置で形成されるキャビティを示す平面図である。
【図14】第2実施形態の金型装置で成形された湾曲板状部品の圧粉体の平面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る圧粉体成形金型装置の平面図である。
【図16】図15のB−B断面に対応する図であって、(a)キャビティに原料粉末を供給した状態、(b)原料粉末をパンチで圧縮成形した状態を示す。
【図17】第3実施形態の金型装置で形成されるキャビティを示す平面図である。
【図18】第3実施形態の金型装置で成形された湾曲板状部品の圧粉体の平面図である。
【図19】本発明の金型装置で形成されるキャビティの他形態を示す平面図である。
【図20】湾曲板状部品の一例を示す図であって、(a)平面図、(b)内周面側から見た正面図、(c)斜視図である。
【図21】図20に示した湾曲板状部品の圧粉体を成形するための従来の金型装置の一例を示す平面図である。
【図22】図21のC−C断面に対応する図であって、(a)キャビティに原料粉末を供給した状態、(b)原料粉末をパンチで圧縮成形した状態を示す。
【図23】図21のD部拡大図であって、キャビティの内隅部にクラックが生じた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置に係る実施形態(第1〜第3実施形態)を説明する。いずれの実施形態も、図20に示した湾曲板状部品100と同様形状のものを原料粉末から圧粉体に成形するものである。
【0020】
(1)第1実施形態
図1〜図3は、本発明の第1実施形態に係る金型装置1を示している。この金型装置1は、軸方向が上下方向に沿って設置される円筒状のダイス10と、ダイス10に摺動自在に挿入される円柱状のコアロッド20と、ダイス10とコアロッド20との間に区画されるキャビティ30に摺動自在に挿入される上下のパンチ40,50とを備えている。
【0021】
ダイス10の軸心には、断面円形状の中空部15が貫通形成されている。中空部15を形成するダイス10の内周面11の内径は、得るべき湾曲板状部品の外周面の外径と同等に設定されている。コアロッド20はダイス10の軸方向長さよりも長く、ダイス10の中空部15に同心状、かつ摺動自在に挿入される。コアロッド20の外周面21は円筒状に形成され、ダイス10への挿入時にはこの外周面21がダイス10の内周面11に摺動する。その外周面21の円周等分複数箇所(この場合、2箇所)には、湾曲板状部品に対応する形状のキャビティ30が凹所状に形成されている。
【0022】
キャビティ30はコアロッド20の全長にわたって形成されており、その底面31は、コアロッド20の外周面21と同心状の周面に形成されている。底面31の外径は、得るべき湾曲板状部品の内周面の内径と同等に設定されている。コアロッド20の、キャビティ30の周方向間には、コアロッド20の全長にわたって湾曲板状の凸部22が形成されている。図4に示すように、凸部22の側面はキャビティ30の内側面32を形成する。また、凸部22の外周面は、コアロッド20の外周面21を構成する。コアロッド20がダイス10の中空部15に挿入されると、上記のように外周面21がダイス10の内周面11に摺動し、ダイス10とコアロッド20との間が部分的に凸部22で閉塞された状態となる。
【0023】
図5に示すように、キャビティ30の、底面31と内側面32とで形成される周方向両端の内周側の内隅部33は、R状に加工されている。また、キャビティ30の、凸部22の外周面21とキャビティ30の内側面32とで形成される周方向両端の外周側の内隅部34は、直角状に形成されている。
【0024】
上下のパンチ40,50は同一構成であって湾曲板状部品に対応する湾曲板状に形成されたもので、キャビティ30に嵌合可能な寸法および形状を有している。
【0025】
以上が第1実施形態の金型装置1の構成であり、次いで、この金型装置1により湾曲板状部品の圧粉体を成形する手順を説明する。まず、図3(a)に示すように、ダイス10の中空部15にコアロッド20を下側から挿入してコアロッド20の上端面をダイス10の上端面の高さ位置に合わせ、金型セット状態とする。この金型セット状態で、図5に示すように、キャビティ30は、ダイス10の内周面11と、コアロッド20のキャビティ30の底面31および内側面32により囲まれて区画される。
【0026】
続いて、キャビティ30に下側から下パンチ50の上端部を挿入した後、キャビティ30に上方の開口から所定量の原料粉末Pを供給する。次に、図3(b)に示すように、キャビティ30に上側から上パンチ40を挿入するとともに、下パンチ50を適宜に上昇させ、原料粉末Pを上下のパンチ40,50で挟み込んで軸方向に所定圧力で圧縮する。
【0027】
これにより、キャビティ30内の原料粉末Pは湾曲板状部品に近似する形状の圧粉体P1に成形される。この後は、コアロッド20に対しダイス10を相対的に下降させ、次いで上下のパンチ40,50を上昇させるなどの操作を行って圧粉体を金型装置から抜き出す。
【0028】
図6は得られた圧粉体P1を示しており、この圧粉体P1は厚さが均一であって、例えば、外径r1:15〜20mm、内径r2:12〜18mm、厚さt:1〜5mm、周方向角度α:100〜150°といった寸法を有するものであり、厚さtに対する外周長さlの比(l/t)が5〜25程度の薄肉の湾曲板状の圧粉体である。
【0029】
図6(a)と、キャビティ30を示す図5を対比すれば明らかなように、圧粉体P1は、外周面1aがダイス10の内周面11で形成され、内周面1bがコアロッド20側のキャビティ30の底面31で形成され、両側面1cがキャビティ30の内側面32で形成される。また、周方向両端の内周側の外隅部1dは、キャビティ30のR状の内隅部33が転写されて直角を面取り加工したようなR状に形成され、外周側の外隅部1eは、コアロッド20側のキャビティ30の内側面32とダイス10の内周面11とで形成される直角状の内隅部34が転写されて直角状に形成される。得られた圧粉体P1は焼結され、焼結体からなる湾曲板状部品とされる。
【0030】
上記第1実施形態の金型装置によれば、圧粉体P1の周方向両端における外周側の外隅部1eは、上記のようにキャビティ30の内側面32とダイス10の内周面11とで形成される直角状の内隅部34が転写されて直角状に形成される。すなわちこのキャビティ30の外周側の内隅部34は、分割されるダイス10とコアロッド20とで直角状に形成されており、この内隅部34からは、図5に示すように、ダイス10の内周面11とコアロッド20の凸部22の外周面21との接合境界面60が周方向に沿って外方に延びている。
【0031】
このため、上下のパンチ40,50で原料粉末Pを圧縮成形した際に上記内隅部34に応力がかかると、その応力は、この内隅部34から上記接合境界面60にリークし、内隅部34への応力集中は起こらない。その結果、内隅部34を起点としたクラック発生が防がれる。一方、キャビティ30の内周側の内隅部33はコアロッド20のみで形成されているものの、R状に形成されているため、応力集中が生じにくくなっている。これらのことから、比較的高圧で原料粉末Pを圧縮成形することが可能となり、例えば原料粉末Pが磁性粉等の高硬度のものであっても、高圧で圧縮成形することにより目的形状の圧粉体を適確に成形することができる。なお、応力集中を緩和するためには、R状に形成された内隅部33の半径を1mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることがさらに好ましい。
【0032】
次に、キャビティ30が形成されている上記第1実施形態のコアロッド20の構成を変更した変更例1,2について説明する。
【0033】
(2)第1実施形態の変更例1
図7(a)は、変更例1のコアロッド20を示している。このコアロッド20は、上記第1実施形態のコアロッド20におけるキャビティ30の下端部に、下パンチ50の代わりとして、その下端部を埋めて凸部22と一体化され、凸部22の外周面21に連続する同一径の外周面を有する閉塞部23が形成されている。この閉塞部23の上端面は軸方向に直交する平らな段部24となっている。図7(b)に示すように、この円弧状の段部24とキャビティ30の底面31とで形成される直角状の内隅部25は、R状に形成されている。
【0034】
図8(a)は、変更例1のコアロッド20をダイス10に挿入した金型装置1の金型セット状態を示しており、この場合のキャビティ30は、軸方向の一端側すなわち上側に開口し、他端側がコアロッド20の段部24を含む閉塞部23によって閉塞される。原料粉末Pはそのキャビティ30に上側から供給され、この後、図8(b)に示すように、キャビティ30の開口30aから上パンチ40をキャビティ30内に挿入するとともにコアロッド20を適宜に上昇させ、原料粉末Pを上パンチ40と閉塞部23の段部24で挟み込んで軸方向に所定圧力で圧縮する。これにより、図6に示す圧粉体P1が成形される。
【0035】
変更例1によれば、下パンチ50が不要であるためパンチは上パンチ40の1つで構成することができ、したがって上記第1実施形態よりも構成が簡素となるといった利点がある。また、コアロッド20の段部24とキャビティ30の底面31とで形成される直角状の内隅部25がR状に形成されているため、この内隅部25への応力集中が生じにくくなっており、内隅部25を起点としたクラック発生が防がれる。
【0036】
(3)第1実施形態の変更例2
図9は、変更例2のコアロッド20を示している。このコアロッド20は、上記変更例1のコアロッド20において、段部24を境界として、キャビティ30および凸部22を含む本体側26と、段部24および閉塞部23を含む段部側28とに、軸方向に分割される構成となっている。すなわち、本体側26はキャビティ30および凸部22が形成されており、段部側28は、凸部22の外周面21と同径の外周面28aを有する円形台状に形成されている。図10に示すように、段部側28の上面28bの中心には円板状の突起29が形成されており、本体側26の下面26bには突起29が嵌合する凹部27が形成されている。
【0037】
このコアロッド20は、図10に示すように、本体側26の下面26bの凹部27に段部側28の突起29を嵌合し、本体側26の下面26bと段部側28の上面28bとを合わせた状態に組み立てられる。凹部27および突起29は組み立てる際の位置決め手段であり、凹部27に突起29が嵌合することにより、本体側26と段部側28の外周面21,28aが同心状に一致する。この組み立て状態でコアロッド20は上記変更例1のコアロッド20と同一形状となり、図10に示すように、段部側28の上面28bの、キャビティ30によって露出する円弧状の外周縁が段部24を構成する。
【0038】
この変更例2では、コアロッド20を本体側26と段部側28とに分割する構成としたことにより、図10に示すように段部24とキャビティ30の底面31とで形成される内隅部35は直角状となり、この内隅部35からは、本体側26の下面26bと段部側28の上面28bとの接合境界面61が軸方向と直交する方向に延びている。したがってこの内隅部35への応力集中は起こらず、その結果、内隅部35を起点としたクラック発生が防がれる。
【0039】
(4)第2実施形態
次に、図11〜図14を参照して本発明の第2実施形態に係る金型装置を説明する。
第2実施形態の金型装置2は、上記第1実施形態と同様に、ダイス10、コアロッド20および上下のパンチ40,50を備えているが、原料粉末Pが供給され、上下のパンチ40,50が挿入されるキャビティ30がダイス10に形成されている点が第1実施形態とは異なり、これ以外の構成については同じである。
【0040】
すなわち、ダイス10の内周面11の円周等分複数箇所(この場合、2箇所)に、湾曲板状部品に対応する形状のキャビティ30が全長にわたって凹所状に形成されている。キャビティ30の底面31は、ダイス10の内周面11と同心状の周面に形成されている。キャビティ30の周方向間には湾曲板状の凸部12が形成され、図12に示すように、凸部12の側面はキャビティ30の内側面32を形成する。また、凸部12の内周面は、ダイス10の内周面11を構成する。コアロッド20がダイス10の中空部15に挿入されると、コアロッド20の外周面21がダイス10の凸部12の内周面11に摺動し、ダイス10とコアロッド20との間が部分的に凸部12で閉塞された状態となる。
【0041】
図11および図13に示すように、ダイス10の中空部15にコアロッド20を挿入した金型セット状態で、キャビティ30は、コアロッド20の外周面21と、ダイス10のキャビティ30の底面31および内側面32により囲まれて区画され、上下のパンチ40,50は、このキャビティ30に摺動自在に挿入される。
【0042】
図13に示すように、キャビティ30の、底面31と内側面32とで形成される周方向両端の外周側の内隅部36は、R状に加工されている。また、キャビティ30の、凸部12の内周面11とキャビティ30の内側面32とで形成される周方向両端の内周側の内隅部37は、直角状に形成されている。
【0043】
第2実施形態の金型装置2による圧粉体の成形手順は、第1実施形態と同様であり、上記のように金型セット状態としてから、キャビティ30への下パンチ50の挿入、キャビティ30への原料粉末Pの供給、キャビティ30への上パンチ40の挿入とともに上下のパンチ40,50による原料粉末Pの圧縮といった工程を経て、圧粉体が成形される。
【0044】
図14は、金型装置2で成形された圧粉体P2の端面を示しており、この図14と、キャビティ30を示す図13を対比すれば明らかなように、圧粉体P2は、外周面1aがダイス10側のキャビティ30の底面31で形成され、内周面1bがコアロッド20の外周面21で形成され、両側面1cがキャビティ30の内側面32で形成される。また、周方向両端の外周側の外隅部1eは、キャビティ30のR状の内隅部36が転写されて直角を面取り加工したようなR状に形成され、内周側の外隅部1dは、ダイス10側のキャビティ30の内側面32とコアロッド20の外周面21とで形成される直角状の内隅部37が転写されて直角状に形成される。
【0045】
上記第2実施形態の金型装置によれば、圧粉体P1の周方向両端における内周側の外隅部1dは、上記のようにキャビティ30の内側面32とコアロッド20の外周面21とで形成される直角状の内隅部37が転写されて直角状に形成される。すなわちこのキャビティ30の内周側の内隅部1dは、分割されるダイス10とコアロッド20とで直角状に形成されており、この内隅部1dからは、図13に示すように、コアロッド20の外周面21とダイス10の凸部12の内周面11との接合境界面62が周方向に沿って外方に延びている。
【0046】
このため、上下のパンチ40,50で原料粉末Pを圧縮成形した際に上記内隅部37に応力がかかると、その応力は、この内隅部37から上記接合境界面62にリークし、内隅部37への応力集中は起こらない。その結果、内隅部37を起点としたクラック発生が防がれる。一方、キャビティ30の外周側の内隅部36はダイス10のみで形成されているものの、R状に形成されているため、応力集中が生じにくくなっている。これらのことから、第1実施形態と同様に、原料粉末Pが磁性粉等の高硬度のものであっても、高圧で圧縮して目的形状の圧粉体を適確に成形することができるといった効果が奏される。
【0047】
なお、上記第2実施形態においても、第1実施形態の変更例1,2を適用することができる。すなわち、変更例1を適用する場合には、ダイス10側のキャビティ30の下端部に、下パンチ50の代わりとして、その下端部を埋めて凸部12と一体化され、凸部12の外周面11に連続する同一径の内周面を有する閉塞部を形成し、この閉塞部の上端面を段部とする。原料粉末は、この段部と上パンチ40とで挟み込まれ、軸方向に圧縮される。また、変更例2を適用する場合には、その段部を含む段部側と、キャビティ30および凸部12を含む本体側とに分割する構成とすることにより、実施することができる。
【0048】
(5)第3実施形態
次に、図15〜図18を参照して本発明の第3実施形態に係る金型装置を説明する。
第3実施形態の金型装置3は、上記第1および第2実施形態と同様に、ダイス10、コアロッド20および上下のパンチ40,50を備えているが、キャビティ30はダイス10やコアロッド20には形成されておらず、キャビティ30を形成するための中間型70が、別部材として装備される。
【0049】
図15および図16に示すように、ダイス10の内周面11とコアロッド20の外周面21は単純な円筒状に形成されており、ダイス10の中空部15に同心状に挿入されるコアロッド20の外周面21とダイス10の内周面11との間には、一定距離の隙間19が全周にわたって形成される。この隙間19は、得るべき湾曲板状部品の厚さと同等の寸法に設定される。そしてこの隙間19の円周等分複数箇所(この場合、2箇所)に、中間型70が摺動自在に挿入される。
【0050】
中間型70は、湾曲板状部品に近似した形状・寸法を有し、隙間19に挿入されると、中間型70の側面71、ダイス10の内周面11およびコアロッド20の外周面21で囲まれるキャビティ30が形成される。キャビティ30は、湾曲板状部品に対応する形状に形成され、これらキャビティ30に、上下のパンチ40,50が摺動自在に挿入される。
【0051】
図17に示すように、キャビティ30の、コアロッド20の外周面21と中間型70の側面71とで形成される周方向両端の内周側の内隅部38と、ダイス10の内周面11と中間型70の側面71とで形成される周方向両端の外周側の内隅部39は、いずれも直角状に形成される。
【0052】
第3実施形態の金型装置3によって圧粉体を成形するには、まず、図16(a)に示すように、ダイス10の中空部15にコアロッド20を挿入し、ダイス10とコアロッド20との間の隙間19に中間型70を挿入して金型セット状態とする。そして、ダイス10、コアロッド20および中間型70で区画されたキャビティ30に下側から下パンチ50の上端部を挿入してから、キャビティ30に原料粉末Pを供給する。次いで図16(b)に示すように、キャビティ30に上側から上パンチ40を挿入するとともに、下パンチ50を適宜に上昇させ、原料粉末Pを上下のパンチ40,50で挟み込んで軸方向に所定圧力で圧縮する。
【0053】
図18は成形された圧粉体P3の端面を示しており、この図18と、キャビティ30を示す図17とを対比すれば明らかなように、圧粉体P3は、外周面1aがダイス10の内周面11で形成され、内周面1bがコアロッド20の外周面21で形成され、両側面1cが中間型70の側面71で形成される。また、周方向両端の内周側および外周側の各外隅部1d,1eは、それぞれキャビティ30の直角状の内隅部38,39が転写されて直角状に形成される。
【0054】
上記第3実施形態の金型装置3によれば、圧粉体P3の周方向両端における内周側および外周側の外隅部1d,1eは、それぞれキャビティ30の直角状に形成された各内隅部38,39によって形成される。図17に示すように、キャビティ30の内隅部38,39のうち、内周側の内隅部38は、コアロッド20の外周面21と中間型70の側面71とで形成され、この内隅部38からは、コアロッド20の外周面21と中間型70の内周面72との接合境界面63が周方向に沿って外方に延びている。一方、外周側の内隅部39は、ダイス10の内周面11と中間型70の側面71とで形成され、この内隅部39からは、ダイス10の内周面11と中間型70の外周面73との接合境界面64が周方向に沿って外方に延びている。
【0055】
このため、上下のパンチ40,50で原料粉末Pを圧縮成形した際に各内隅部38,39に応力がかかると、その応力は、内周側の内隅部38においては上記接合境界面63にリークし、外周側の内隅部39においては上記接合境界面64にリークする。したがって、これら内隅部38,39への応力集中は起こらず、内隅部38,39を起点としたクラック発生が防がれる。その結果、第1および第2実施形態と同様に、原料粉末Pが磁性粉等の高硬度のものであっても、高圧で圧縮して目的形状の圧粉体を適確に成形することができるといった効果が奏される。
【0056】
なお、上記各実施形態では、キャビティ30の外周側と内周側とが同心状であることから、得られる湾曲板状部品の圧粉体は厚さが均一となっているが、本発明の湾曲板状部品は厚さが均一であることには限定されない。例えば図19に示すように、キャビティ30の外周側30bよりも内周側30cの径が大きく同心状ではない形態も含まれる。この場合、図19(a)のキャビティ30で成形される湾曲板状部品は、周方向中央から両端に向かうにしたがって厚さがしだいに薄くなる断面形状であり、図19(b)のキャビティ30で成形される湾曲板状部品は、周方向一端から他端に向かうにしたがって厚さがしだいに薄くなる断面形状である。また、キャビティ30の数は任意であり、少なくとも1つが形成されるものとする。
【符号の説明】
【0057】
1,2,3…金型装置
10…ダイス
11…ダイスの内周面
12…ダイスの凸部
15…ダイスの中空部
19…隙間
20…コアロッド
21…コアロッドの外周面
22…コアロッドの凸部
24…段部
26…コアロッドの本体側
28…コアロッドの段部側
30…キャビティ
31…キャビティの底面
33〜39…キャビティの内隅部
40…上パンチ
50…下パンチ
60〜64…接合境界面
70…中間型
100…湾曲板状部品
P…原料粉末
P1,P2,P3…圧粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲板状部品の圧粉体を成形する金型装置であって、
円筒状の内周面で形成される中空部を有するダイスと、
円筒状の外周面を有し、前記ダイスの前記中空部に摺動自在に挿入されるコアロッドと、
前記湾曲板状部品に対応する形状のパンチと、
を備え、
前記ダイスの前記内周面または前記コアロッドの前記外周面のいずれかに一方に、前記湾曲板状部品に対応する形状のキャビティが凹所状に形成されるとともに、このキャビティの周方向間には前記ダイスと前記コアロッドとの間の一部を閉塞してキャビティの内側面を形成する湾曲板状の凸部が配設され、
前記ダイスの前記中空部に前記コアロッドを挿入した金型セット状態で、前記キャビティが該ダイスと該コアロッドとにより区画され、
該キャビティに供給された原料粉末が前記パンチにより軸方向に圧縮されて前記湾曲板状部品の圧粉体が成形されること
を特徴とする湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置。
【請求項2】
前記キャビティの前記底面と前記内側面とで形成される内隅部が、R状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置。
【請求項3】
前記金型セット状態における前記キャビティは、軸方向の一端側に開口し、他端側が前記ダイスまたは前記コアロッドに形成された段部によって閉塞され、一端側の開口から前記パンチが該キャビティ内に挿入されることを特徴とする請求項1または2に記載の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置。
【請求項4】
前記段部の内隅部が、R状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置。
【請求項5】
前記段部が形成された前記ダイスまたは前記コアロッドは、該段部を境界として、前記キャビティを含む本体側と、該段部を含む段部側とに、軸方向に分割されることを特徴とする請求項3に記載の湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置。
【請求項6】
湾曲板状部品の圧粉体を成形する金型装置であって、
円筒状の内周面で形成される中空部を有するダイスと、
円筒状の外周面を有し、前記ダイスの前記中空部に、ダイスの内周面との間に隙間が空く状態に挿入されるコアロッドと、
前記隙間に摺動自在に挿入され、周方向間に、前記湾曲板状部品に対応する形状のキャビティを形成する湾曲板状の中間型と、
前記湾曲板状部品に対応する形状のパンチと、
を備え、
前記ダイスの前記中空部に前記コアロッドを挿入するとともに、これらダイスの内周面とコアロッドの外周面との間に形成される前記隙間に前記中間型を挿入した金型セット状態で、該ダイスの内周面、該コアロッドの外周面および該中間型により前記キャビティが区画され、
該キャビティに供給された原料粉末が前記パンチにより軸方向に圧縮されて前記湾曲板状部品の圧粉体が成形されること
を特徴とする湾曲板状部品の圧粉体成形金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−18045(P2013−18045A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155585(P2011−155585)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】