説明

湿し水不要の感光性平版印刷版

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、湿し水不要の感光性平版印刷版に関するものであり、更に詳しくは耐刷力に優れ、画像再現性が良好であり、しかも水系現像液で現像することができる平版印刷版が得られる湿し水不要の感光性平版印刷版に関する。
[発明の背景]
平版印刷版を用いて印刷する際、通常、その使用時に湿し水を用いて印刷されるが、湿し水不要の感光性平版印刷版においては、基板上に、感光層及び、インキ反撥層としてシリコーンゴム又は含フッ素化合物の層を順次設けたもので、これにより得られた平版印刷版は、印刷時、湿し水を用いないで印刷が行われる。
最近、こような感光性平版印刷版は、種々開発され、例えば、ポジ型感光性平版印刷版としては、特公昭54−26923号公報等が、またネガ型感光性平版印刷版としては、特開昭55−59466号及び特開昭56−80046号等の各公報が実用上すぐれた性能を有するものとして知られており、特に特開昭56−80046号等公報には、基板上に、ナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとフェノールノボラック樹脂との反応物を多官能イソシアネートで架橋したものを含む感光層及び、インキ反撥層としてシリコーンゴム層を順次設けた湿し水不要の感光性平版印刷版が開示されている。
しかしながら、これらの感光性平版印刷版は、感光層が比較的脆く硬いため、印刷時、版面に加わる応力により損傷し易く、印刷枚数が増えるにしたがい非画線部のシリコーンゴム層下の感光層に損傷が起こり、これがシリコーンゴム層にまで拡大し、画像の再現性が低下する等の問題が生じる。その結果、耐刷力不足として現れる。
また特開昭63−213848号公報には、上記耐刷力を改良することを目的として、基板上にキノンジアジド化合物を含有する感光層及びインキ反撥層を順次積層してなる湿し水不要の感光性平版印刷版において、前記の感光層にアクリル酸誘導体共重合体を含有させたものが記載されているが、水を主成分とする現像液である水系現像液で現像した場合に、画像再現性やシリコーンゴムとの接着性を損なうという問題があり、今後の改良余地がある。
この水系現像液は、従来キノンジアジド化合物を含有する感光層とインキ反撥層を順次積層してなる湿し不要の感光性平版印刷版用の現像液として用いられた有機溶剤を主成分とする現像液と比較して安全性や毒性の点で有利であることが知られているが、これまで水系現像液で良好に現像することができるキノンジアジド化合物を含有する感光層を含む湿し不要の感光性平版印刷版は知られていなかった。
そこで、本発明者等は、前記の問題点をについて種々研究を重ねた結果、感光層に加える高分子化合物を選択することにより、柔軟性を有し、かつ可撓性を向上させた感光層が得られ、これより得られた平版印刷版は、耐刷力と画像再現性が優れ、かつ水系現像液を用いて現像できることを見出し、これに基づいて本発明は完成したものである。
[発明の目的]
したがって、本発明の目的は、耐刷力に優れ、画像再現性が良好で、しかも水系現像液で現像することができる平版印刷版が得られる湿し水不要の感光性平版印刷版を提供するものである。
[発明の構成]
前記本発明の目的は、基板上にキノンジアジド化合物を含有する感光層及びインキ反撥層を順次積層してなる湿し水不要の感光性平版印刷版において、前記感光層が下記の一般式で示されるカルボン酸ビニルエステル重合単位を20〜90mol%有する高分子化合物を含有することを特徴とする湿し水不要の感光性平版印刷版によって達成された。
一般式 RCOOCH=CH2[式中、Rは炭素数1〜17の置換基を有していてもよいアルキル基を表す。]
以下に、本発明の構成について、更に具体的に説明する。
本発明の特徴とするところは、前記感光層に加えられる高分子化合物中に、カルボン酸ビニルエステル重合単位を有し、かつ高分子化合物中のカルボン酸ビニルエステル重合単位が20〜90mol%であることにある。
このカルボン酸ビニルエステル重合単位は、好ましくは前記の一般式で表される。
この式において、Rは炭素数1〜17の置換基を有するアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基等が挙げられ、更にこれらの基は、置換基を有していてもよい。
本発明に用いられる高分子化合物は、前記の一般式で示される構造の高分子化合物であれば、任意に用いることができるが、上記の一般式で示される重合単位を構成するためのカルボン酸ビニルエステルモノマーとしては、下記に例示されたものが好ましい。名称と化学式とを併用して示す。
1)酢酸ビニル CH3COOCH=CH22)プロピオン酸ビニルCH3CH3COOCH=CH23)酪酸ビニル CH3(CH22COOCH=CH24)ピバリン酸ビニル (CH33CCOOCH=CH25)カプロン酸ビニル CH3(CH24COOCH=CH26)カプリル酸ビニル CH3(CH26COOCH=CH27)カプリン酸ビニル CH3(CH28COOCH=CH28)ラウリン酸ビニル CH3(CH210COOCH=CH29)ミリスチン酸ビニルCH3(CH212COOCH=CH210)パルミチン酸ビニルCH3(CH214COOCH=CH211)ステアリン酸ビニルCH3(CH216COOCH=CH212)バーサチック酸ビニル

(式中、R1、R2はアルキル基で、その炭素数の和は7である。即ちR1+R2=C7H16
カルボン酸ビニルエステル重合単位としては、カルボン酸の主鎖を構成する炭素数は1〜4のものが好ましい。特に好ましくは、酢酸ビニルがよい。なお前記のRには置換基を有するアルキル基も含み、即ち置換カルボン酸のビニルエステルも重合単位に包含される。
本発明で用いられる高分子化合物は、少なくとも1種のカルボン酸ビニルエステルと、これと共重合し得る他の単量体とを共重合せしめることにより形成することができる。
上記の一般式で示される重合単位と組み合せて用いることができる単量体単位としては、 例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のエチレン系不飽和オレフィン類、 例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等のスチレン類、 例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類、 例えばイタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸類、 例えばマレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジ−2−エチルヘキシル、フマル酸ブチル、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル等の不飽和ジカルボン酸のジエステル類、 例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸フェニル、α−クロロアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、エタクリル酸エチル等のα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類、 例えばアクリロニトリル、メタアクリルニトリル等のニトリル類、 例えばアクリルアミド等のアミド類、 例えばアクリルアニリド、p−クロロアクリルアニリド、m−ニトロアクリルアニリド、m−メトキシアクリルアニリド等のアニリド類、 例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、β−クロロエチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、 塩化ビニル、ビニリデンクロライド、ビニリデンシアナイド、 例えば1−メチル−1−メトキシエチレン、1,1−ジメトキシエチレン、1,2−ジメトキシエチレン、1,1−ジメトキシカルボニルエチレン、1−メチル−1−ニトロエチレン等のエチレン誘導体類、 例えばN−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリデン、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物、等のビニル系単量体、 例えばN−(4−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、o,m,又はp−ヒドロキシスチレン等の芳香族水酸基を有する単量体、 ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール性水酸基を有する単量体、更に特開昭63−213848号に記載された水酸基を有するアクリルモノマー等がある。これらの水酸基を含有する単量体は、シリコーンゴム層との接着性向上のために好ましく用いられる。これらの、ビニル系単量体は不飽和二重結合が開裂した構造で高分子化合物中に存在する。
本発明に用いられる一般式で示されるカルボン酸ビニルエステル重合単位は、高分子化合物中に20〜90mol%含有することが必要であるが、好ましくは、30〜80mol%である。これにより、本発明の効果が顕著に現れる。
本発明において使用する高分子化合物として特に好ましいのは、酢酸ビニル重合単位を分子構造中に有するものである。その中でも、酢酸ビニル重合単位を40〜70mol%有するもの、数平均分子量(MN)が、1,000〜100,000のもの、重量平均分子量(MW)が500〜500,000のものが好ましい。
この場合、酢酸ビニルと共重合して酢酸ビニル重合単位を有する高分子化合物を構成するモノマーとしては、共重合体を形成し得るものであれば任意であり、例えば上記例示の単量体の中から任意に選ぶことができる。
以下に本発明において高分子化合物として用いることができる共重合体を、そのモノマー成分を示すことにより列記する。但し当然のことであるが、以下の例示に限られるものではない。
1)酢酸ビニル−エチレン2)酢酸ビニル−スチレン3)酢酸ビニル−クロトン酸4)酢酸ビニル−マレイン酸5)酢酸ビニル−2−エチルヘキシルアクリレート6)酢酸ビニル−ジ−2−エチルヘキシルマレエート7)酢酸ビニル−メチルビニルエーテル8)酢酸ビニル−塩化ビニル9)酢酸ビニル−N−ビニルピロリドン10)酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル−エチレン11)酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル−2−エチルヘキシルアクリレート12)酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル−クロトン酸13)プロピオン酸ビニル−バーサチック酸ビニル−クロトン酸14)ピバリン酸−ステアリン酸ビニル−マレイン酸15)酢酸ビニル−2−ヒドロキシエチルメタクリレート16)酢酸ビニル−2−ヒドロキシエチルアクリレート17)酢酸ビニル−アクリル酸イソブチル18)酢酸ビニル−アクリル酸イソブチル−2−ヒドロキシエチルアクリレート19)酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル−2−ビドロキシエチルアクリレート20)酢酸ビニル−2−エチルヘキシルアクリレート−2−ヒドロキシエチルアクリレート 本発明において特に好ましく用いられる高分子化合物は、5)、15)、16)、17)、18)、19)、20)、である。
次い、本発明に用いられる感光性組成物は、o−キノンジアジド化合物を含有する。o−キノンジアジド化合物は、感光剤として機能し得るものであれば、任意のものを使用できる。
具体的には例えば、1,2−ベンゾキノンジアジド−4−スルホニルクロライド、1,2−ナフトキノンジアジド−4−スルホニルクロライド、1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルホニルクロライド、1,2−ナフトキノンジアジド−6−スルホニルクロライドと水酸基及び/またはアミノ基含有化合物を縮合させた化合物が好適に用いられる。
水酸基含有化合物としては、例えばトリヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシアントラキノン、ビスフェノールA、フェノールノボラック樹脂、レゾルシンベンズアルデヒド縮合樹脂、ピロガロールアセトン縮合樹脂等がある。また、アミノ基含有化合物としては、例えばアニリン、p−アミノジフェニルアミン、p−アミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルアミン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン等がある。
ここに記載したことを含めてキノンジアジド化合物に関しては、更にジェイ・コザー(J.Kosar)著「ライト・センシティブ・システム」(Light Sensitive System)(ニューヨーク市、ジョンワイリーアンドサンズ社、1965年発行)、及び永松、乾共著「感光性高分子」(講談社、1977年発行)に記載されたところに従うことができる。
また本発明に適用できる感光層としては、上記のキノンジアジド化合物及び本発明に用いられる高分子化合物の混合物を多官能化合物で架橋させるか、あるいは単官能化合物と結合させるなどして変性した構造を有するものも含まれる。
上記の架橋構造を導入させるために用いられる化合物としては、多官能イソシアネート類、例えばパラフェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、もしくはこれらの付加物等、あるいは多官能エポキシ化合物、例えばポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリプロピレンジグリシジルエーテル類、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等がある。
これらの架橋反応は、加熱することにより進行するが、この加熱範囲は、キノンジアジド化合物の熱分解を急速に進行させないためには、通常150℃以下で行うことが好ましく、一般には触媒等が使用される。また変性させる方法としては、該感光性化合物の活性な基を、例えばエステル化、アミド化、ウレタン化すること等が挙げられる。該感光性化合物の活性な基と反応させる化合物としては、低分子であっても比較的高分子であってもよいし、該感光性化合物にモノマーをグラフト重合させる等の方法でもよい。
また本発明に用いられる感光層には、必要に応じて、上記以外の高分子化合物、例えばノボラック樹脂(フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、p−tert−ブチルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂等)、p−ヒドロキシスチレン樹脂、特開昭63−213848号公報に記載されたアクリル酸誘導体共重合体等の高分子化合物、染料、シランカップリング剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。
本発明に用いられるインキ反撥層としては、主としてシリコーンゴム層が用いられるが、シリコーンゴムとしては、次のような一般式[I]で示される繰り返し単位を有する分子量数千〜数十万の主鎖中または主鎖の末端に水酸基を有する線状有機ポリジオルガノシクロキサンを主成分とするものが好ましい。
一般式[I]


ここでnは2以上の整数、Rは炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシル基、ビニル基、アリール基、シラノール基(OH基)、であり、Rの60%以上がメチル基であるものが好ましい。なお上記シラノール基(OH基)は主鎖中または主鎖の末端のどちらにあってもよいが、末端にあることが好ましい。
本発明に用いられるシランカップリング剤(またはシリコーン架橋剤)としては、 RnSiX4-n(式中、nは1〜3の整数であり、Rはアルキル、アリール、アルケニルまたはこれらの組合された一価の基を表し、またこれらの基はハロゲン、アミン、ヒドロキシ、アルコキシ、アリーロキシ、チオール等の官能基を有していてもよい。Xは−OH、−OR2、−OAc、

−Cl、−Br、−I等の置換基を表す。ここでR2、R3は上記のRと同じものを表し、R2、R3はそれぞれ同じであっても異っていてもよい。またAcはアセチル基を表す。)で示されるシラン化合物である。
本発明において有用なシリコーンゴムは、一般式[I]で示されるシリコーン・ベースポリマーと、前記シリコーン架橋剤との縮合反応によって得られるものである。
本発明に用いられるシランカップリング剤の具体例としては、 NH[(CH23Si(OMe)、ビニルトリエトキシシラン、Cl(CH23Si(OMe)、CH3Si(OAc)、HS(CH23Si(OMe)、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等が挙げられる。
前記のシリコーンゴムは市販品としても入手でき、例えば東芝シリコーン社製YE−3085等がある。またその他の有用なシリコーンゴムは、前述の如きベース・ポリマーと、次のような一般式[II]で示される繰り返し単位を有するシリコーンオイルとの反応、あるいはRの3%程度がビニル基であるシリコーンのベース・ポリマーとの付加反応、あるいは該シリコーンオイル同士の反応によっても得ることができる。
一般式[II]


(式中、Rは一般式[I]で示されるポリマーの置換基であるRと同義であり、mは2以上の整数、nは0または1以上の整数である。)
このような架橋反応によってシリコーンゴムを得るためには、架橋反応を触媒を用いて行う。この触媒としては、錫、亜鉛、コバルト、鉛、カルシウム、マンガン、等の金属の有機カルボン酸塩、例えばラウリル酸ジブチルスズ、スズ(II)オクトエート、ナフテン酸コバルト等、あるいは塩化金酸等が用いられる。
またシリコーンゴムの強度を向上させ、印刷作業中に生じる摩擦力に耐えるシリコーンゴムを得るためには、充填剤(フィラー)を混合することもできる。予めフィラーの混合されたシリコーンゴムは、シリコーンゴムストック、あるいはシリコーンゴムディスバージョンとして市販されており、本発明のようにコーティングによりシリコーンゴム膜を得ることが好ましい場合には、RTVあるいはLTVシリコーンゴムのディスバージョンが好んで用いられる。このような例としては、トーレシリコーン社製Syl Off 23、SRX−257、SH237等のペーパーコーティング用シリコーンゴムディスバージョンがある。
本発明においては、縮合架橋タイプのシリコーンゴムを用いることが好ましい。
シリコーンゴム層には、更に接着性を向上させるためにアミノ基を有するシランカップリング剤を含有していることが好ましい。
好ましいシランカップリング剤としては、例えば次のようなものがある。
(a)H2NCH2CH2NH(CH23Si(OCH3(b)H2NCE2CH2NH(CH23Si(OCH3(CH3
(c)H2N(CH23Si(OEt) 本発明に用いられるシリコーンゴム層中には、更に光増感剤を少量含有させることができる。
本発明に用いられるシリコーンゴム層は、シリコーンゴムを適当な溶媒に溶解した後、感光層上に塗布、乾燥硬化する。
本発明の版材料に用いられる支持体としては、通常の平版印刷機にセットできるたわみ性と印刷時に加わる荷重に耐えるものであることが好ましく、例えばアルミニウム、亜鉛、銅、鋼等の金属板、及びクロム、亜鉛、銅、ニッケル、アルミニウム及び鉄等がメッキまたは蒸着された金属板、紙、プラスチックフィルム及びガラス板、樹脂コート紙、アルミニウム等の金属箔が張られた紙等が挙げられる。
これらのうち好ましいものはアルミニウム板である。
上記接着性向上のための支持体自体に対する処理は特に限定されるものではなく、各種粗面化処理等が含まれる。
また支持体に感光層を被覆する前に、感光層と支持体との十分な接着性を得るために、支持体にプライマー層を設けてもよく、該プライマー層には例えポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリルブタジエン、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
また上記プライマー層を構成するアンカー剤としては、例えばシランカップリング剤を用いることができ、また有機チタネート等も有効である。
本発明の版材を構成する各層の厚さは、以下の通りである。即ち支持体は50〜400μm、好ましくは100〜300μm、感光層は0.05〜10μm、好ましくは0.5〜5μm、シリコーンゴム層は0.1〜20μm、好ましくは0.5〜4μmである。
また弗素樹脂層が用いられる場合は、0.01〜10μm、好ましくは0.1〜1μmである。
本発明において、インキ反撥層の上面には必要に応じて保護層を有していてもよい。
本発明の湿し水不要の版材は、例えば次のようにして製造される。
支持体上に、リバースロールコータ、エアーナイフコータ、メーヤバーコータ等の通常のコータあるいはホエラーのような回転塗布装置を用い、感光層を構成すべき組成物溶液を塗布乾燥する。
なお必要に応じて支持体と感光層の間に該感光層と同様の方法でプライマー層を設けてた後、上記感光層上にインキ反撥層を形成し得る溶液を同様な方法で塗布し、通常100〜120℃の温度で数分間処理して、十分に硬化せしめてインキ反撥層を形成する。必要に応じて前記インキ反撥層上にラミネーターを用いて保護フィルムを設けることができる。
次に本発明の湿し水不要の版材料を用いて湿し水不要の印刷版を製造する方法を説明する。
原稿であるネガフィルムを版材表面に真空密着させ、露光する。この露光用の光源は、紫外線を豊富に発生させる水銀灯、カーボンアーク灯、セキノンランプ、メタルハライドランプ、蛍光灯等が用いられる。
次いでネガフィルムを剥がし、現像液を用いて現像する。現像液としては、水系現像液が好ましく用いられ、例えば特開昭61−275759号公報に記載されているもので、水を30重量%以上、有機溶剤、界面活性剤を含む現像液を挙げることができる。更に好ましくはアルカリ剤を含有する。
水を主成分とする現像液に含有する有機溶剤としては、例えば脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、“アイソパーE,H,G"(エッソ化学社製、脂肪族炭化水素類の商品名)或はガソリン、灯油等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、或はハロゲン化炭化水素類(トリクレン等)に下記の極性溶媒を添加したものが好適である。
アルコール類(メタノール、エタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等)、エーテル類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジオキサン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン等)、エステル類(酢酸エチル、メチルセロソルブアセテート、セロソルブアセテート、カルビトールアセテート等)
本発明の現像液に添加される界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性イオン界面活性剤が用いられ、具体的には以下のものが挙げられる。アニオン界面活性剤としては、(1)高級アルコール硫酸エステル類、(例えばラウリルアルコールサルフェートのナトリウム塩、オクチルアルコールサルフェートのアンモニウム塩、ラウリルアルコールサルフェートのアンモニウム塩、第二ナトリウムアルキルサルフェート等)
(2)脂肪族アルコールリン酸エステル塩類(例えば、セチルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩等)
(3)アルキルアリールスルホン酸塩類(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、ジナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩等)
(4)アルキルアミドスルホン酸塩類

(5)二塩基脂肪族エステルのスルホン酸塩類(例えばナトリウムスルホコハク酸ジオクチルエステル、ナトリウムスルコハク酸ジヘキシルエステル等)
(6)アルキルナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド縮合物(例えば、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物等)が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタイン等が挙げられるが、これらの中でもアニオン界面活性剤が適している。
これらの界面活性剤は、単独でもまたは2種以上を組合せて使用することができる。
本発明に用いられる界面活性剤の使用量は、0.5重量%〜60重量%、好ましくは1重量%〜50重量%が適当である。
更に本発明において用いられる界面活性剤は、アルカリ剤と共に用いることが好ましく、該アルカリ剤としては、(1)ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、第二または第三リン酸ナトリウムまたはアンモニウム塩、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の無機アルカリ剤、(2)モノ、ジまたはトリメチルアミン、モノ、ジまたはトリエチルアミン、モノまたはジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノ、ジまたはトリエタノールアミン、モノ、ジまたはトリイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジイミン等の有機アミン化合物等が挙げられる。
またクリスタルバイオレット、アストラゾンレット等の染料を現像液に加えて現像と同時に画像部の染色を行うこともできる。
現像は、例えば上記のような現像液を含む現像用パッドでこすったり現像液を版面に注いだ後に現像ブラシでこする等の方法で行うことができる。
上記現像により、露光部のインキ反撥層が除去されて感光層、プライマー層あるいは支持体が露出し、未露光部はインキ反撥層が残っている印刷版が得られる。
このとき、該感光層が架橋されたり、変性されたりしていない場合には、該感光層の一部もしくは全部が除去され、露出した支持体もしくはプライマー層の表面が受容部となり、該感光層が架橋されたり変性されて現像液に対して不溶化された感光層の場合には、感光層は実質的にその厚みを減ずることなく残存し、その露出した感光層表面がインキ受容部となる。本発明に用いられる感光層としては、前者の現像で感光層が除去されるような感光層に好ましく適用され、水系現像液で良好に現像される湿し水不要の感光性平版印刷版が得られる。
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
実施例1[アルミニウム板aの製造]
厚さ0.2mmのアルミニウム板を3%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して脱脂し、水洗した後、塩酸濃度1%及びホウ酸濃度1%の水溶液中において、温度25℃で3A/dm2の条件で5分間電解エッチングを行い、水洗後、40%硫酸水溶液中において温度30℃で1.5A/dm2の条件で2分間陽極酸化を行い、水洗し、更に温度90℃の水(pH8.5)に25秒間浸漬し、水洗、乾燥してアルミニウム板aを得た。
アルミニウム板aに下記の組成の感光性組成物を塗布し、100℃で2分間乾燥して厚さ0.5μmの感光層を形成した。
[感光性組成物]
(a)エステル化度50%のフェノール−ノボラック樹脂のナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホン酸エステル 40部(b)酢酸ビニル−アクリル酸イソブチル−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体(組成比:40/20/40(モル比)) 60部(c)メチルセロソルブ 900部 ついで、上記の感光層上に下記のシリコーンゴム組成物を塗布し、100℃で10分間乾燥硬化して、厚さ1.5μmのシリコーンゴム層を有する湿し水不要の平版印刷版材料を得た。
[シリコーンゴム層組成物]
(a)両末端に水酸基を有するジメチルポリシロキサン(分子量52,000) 100部(b)ビニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン 8部(c)γ−アミノプロピルトリエチョキシシラン 0.1部(d)ジブチル錫ジアセテート 0.2部(e)アイソパーE(エッソ社製) 900部 上記版材料の上面にネガフィルムを真空密着させた後、光源としてメタルハライドランプを用いて露光した。次に下記の現像液を用いて現像した。現像中に、版材料の表面を現像パッドで擦ることにより、露光部分の感光層とシリコーンゴム層が容易に除去され、小点再現性、シャドウ部再現性共に優れた印刷版が得られた。
[現像液組成]
(a)ペレックスNBL(花王社製、アニオン界面活性剤35%水溶液) 20部(b)ジエタノールアミン 0.5部(c)3−メチル−3−メトキシブタノール 10部(d)SS−1800(三菱石油社製、炭素数10を含むアルキルベンゼンの混合物) 0.5部(e)炭酸カリ 0.5部(f)水 70部[比較例]
実施例1の感光性組成物中の(b)の代りに2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(組成比:80/20(モル比))を用いた以外は、実施例1と同様にして湿し水不要の平版印刷版を得た。ついで現像液で現像を試みたが、印刷版として十分な画質を有するものは得られなかった。
実施例2 実施例1の感光性組成物中の(b)の代りに酢酸ビニル、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体(組成比:50/20/30(モル比))を用いた以外は、実施例1と同様にして版材料を得、同様の現像液で現像を行った。露光部分の感光層とシリコーンゴム層が容易に除去され、小点再現性、シャドウ部再現性共に優れた印刷版が得られた。
[発明の効果]
本発明によれば、耐刷性に優れていることは勿論のこと、画像再現性に優れ、水系現像液を使用できる湿し水不要の平版印刷版材料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上にキノンジアジド化合物を含有する感光層及びインキ反撥層を順次積層してなる湿し水不要の感光性平版印刷版において、前記感光層が一般式で示されるカルボン酸ビニルエステル重合単位を20〜90mol%有する高分子化合物を含有することを特徴とする湿し水不要の感光性平版印刷版。
一般式RCOOCH=CH2〔式中、Rは炭素数1〜17の置換基を有していてもよいアルキル基を表す。〕

【特許番号】第2808457号
【登録日】平成10年(1998)7月31日
【発行日】平成10年(1998)10月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−154988
【出願日】平成1年(1989)6月17日
【公開番号】特開平3−20741
【公開日】平成3年(1991)1月29日
【審査請求日】平成8年(1996)5月22日
【出願人】(999999999)コニカ株式会社
【出願人】(999999999)三菱化学株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭50−50102(JP,A)
【文献】特開 昭50−59103(JP,A)
【文献】特開 昭54−54702(JP,A)
【文献】特開 昭59−187340(JP,A)