説明

湿分硬化性防汚コーティング組成物

【課題】向上した機械的強度および優れた汚損放出特性を有するワンパッケージ湿分硬化性組成物を提供する。
【解決手段】この組成物は少なくとも1種のシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーまたはシラン末端化ポリオールベースのポリマーを、組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、50〜95%、および少なくとも1種のフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランを5〜50%含み;この組成物は湿分硬化後に、その水接触角が101°より大きい表面を形成する。この組成物は低い表面エネルギーおよび向上した機械的性能を提供する防汚コーティングにおける適用に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した機械的強度および優れた汚損放出(foul releasing)特性を有するポリブタジエン−Si有機−無機ハイブリッドネットワークを形成することができる湿分硬化性組成物に関する。このコーティング組成物は防汚(antifouling)コーティングの分野において容易に適用される。
【背景技術】
【0002】
生物汚損は、船舶の水面下の表面におけるバクテリア、藻類またはフジツボの(barnacle)ような生物の蓄積である。非付着性の汚損放出コーティング表面を達成する汚損放出コーティングが開発されてきた。剛性の架橋シリカネットワークを形成することができるシリカゲルベースの無機コーティングは、良好な疎水性および向上した機械的強度を有すると観察される。低いぬれ性および低い臨界表面張力はコーティングに向上した防汚特性もしくは汚損放出特性、例えば、アオサ(Ulva)遊走子定着の低減、遊走子除去の増大、アオサ生物量除去の増大、およびタテジマフジツボ(Balanus amphitrite)のフジツボ幼生体放出特性の向上を与える。
【0003】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)ベースのシリコンゴム汚損放出コーティングは、その独特の特性、例えば、低い表面エネルギー、低い弾性係数、高い熱酸化安定性、UV耐性および非毒性のせいで、今日広く使用されている。しかし、PDMSは極度に柔らかく、かつコーティングの機械的弱さがそのより広範囲の適用を制限していた。シリコーン成分は容易にすり減るので、シリコーンゴムベースの防汚コーティングは頻繁な再塗装を必要とし、これは非常に煩雑で、コストがかかりかつ時間がかかる。優れた汚損放出特性と機械的強度との双方を有する別のコーティングが望ましい。
【0004】
汚損放出コーティングにおいて、PDMSとの組み合わせにおいて、機械的強度、弾性、付着抵抗性および耐摩耗性の理由でポリウレタンは目立っている。米国特許第6,313,335B1号は汚損放出コーティングのための熱硬化性PU−PDMS分散物を記載する。この提案されたコーティングは(A)ポリオール;(B)ポリイソシアナート;(C)ポリイソシアナートと反応可能な官能基を有するポリオルガノシロキサンを含む混合物を反応させることにより製造される。得られる塗膜は向上した機械的特性および汚損放出特性を示す。しかし、ポリウレタン−PDMSコーティングは、ポリオールおよびヒドロキシルもしくはアミノ官能化ポリオルガノシロキサンの1つのパッケージと、ポリイソシアナートの別のパッケージからなるツーパッケージ熱硬化システムである。このツーパッケージシステムおよび熱硬化性プロセスは適用において、特に熱処理するのが困難な大きな表面のものに対して簡便ではない。PDMS原料は比較的高価である。
【0005】
よって、原料コストを下げ、かつ実際の適用を容易にする、好ましくは、良好な耐久性および容易な架橋プロセス、例えば、湿分硬化性を伴う、新規のワンパッケージコーティング組成物が依然として望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,313,335B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明により取り組まれる課題は、湿分条件下室温で自己架橋されることができ、有機−無機ハイブリッドネットワークを形成することができ、かつ向上した機械的耐久性および優れた汚損放出特性を有するワンパッケージ船舶用塗料における適用に適している新規の汚損放出組成物を見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも1種のシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーまたはシラン末端化ポリオールベースのポリマーを、組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで50〜95%、および式RSi(OR4−n(式中Rはフッ素化された線状、分岐または環式で1〜18個の炭素原子を有するモノもしくはオリゴアルキル基であり、Rはアルキル基であり、(OR)は加水分解基であり、およびnは1〜2の整数である)を有する少なくとも1種の、フルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランを5〜50%含む、ワンパッケージ湿分硬化性組成物に関し、前記シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーは(a)主鎖に、またはポリブタジエンベースのポリマーの骨格の2つの末端の少なくとも一方に、またはポリブタジエンベースのポリマーの側鎖に、少なくとも1つの非加水分解性の有機X基を有するポリブタジエンベースのポリマー(前記X基はヒドロキシル、アミノ、イソシアナート、エポキシ、マレイン酸無水物、チオールおよびアクリル系エステル基から選択される)と(b)オルガノシラン(RO)Si[(CHY]4−n、(式中、Y基はX基と反応することができかつヒドロキシル、アミノ、イソシアナート、エポキシ、マレイン酸無水物、チオール、アクリル系エステルおよびビニル基から選択され、R基は縮合反応に関与することができる加水分解可能な基であり、nは1〜3の整数であり、並びにmは0〜60の整数である)の反応生成物であり;並びに、当該組成物は湿分硬化後に、その水接触角が101°より大きい表面を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、従来のポリオルガノシロキサンシステムとは異なるポリブタジエンシステムにシラン基を導入し、次いで加水分解および共縮合(co−condensing)することによりSi−O−Si結合を生じさせて、当該技術分野で説明される有機−有機ハイブリッドネットワークとは異なる有機−無機ハイブリッドネットワークを形成する、湿分硬化性組成物を達成する。このネットワークによって、塗膜は低い表面エネルギーおよび良好な機械的特性を達成する。
【0010】
湿分硬化性組成物は少なくとも1種のシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーを含む。本明細書における、用語「ポリブタジエンベースのポリマー」は、ポリマー単位が主としてブタジエンである樹脂を意味する。
【0011】
シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーは、1以上の官能性X基を有するポリブタジエンと、式(RO)Si[(CHY]4−n(式中、nは1〜3の整数であり、mは0〜60の整数であり、Xは反応性官能基、例えば、ヒドロキシル、アミノ、イソシアナート、エポキシ、マレイン酸無水物、チオールおよびアクリル系エステル基などを表し、YはX基と反応してシラン−末端化ポリマーを形成できる反応性官能基を表す)の化合物との反応生成物であり得る。適切なY基には、例えば、ヒドロキシル、アミノ、イソシアナート、エポキシ、マレイン酸無水物、チオール、アクリル系エステルおよびビニル基が挙げられる。反応性X基はポリブタジエン骨格の両末端に、または側鎖に、またはポリブタジエンポリマーの主鎖に存在していてよい。
【0012】
ある実施形態においては、Xはヒドロキシル基であり、かつYはイソシアナート基である。よって、形成されるシラン末端化ポリブタジエンの骨格は1以上のウレタン結合を含む。
【0013】
別の実施形態においては、Xはイソシアナート基であり、かつYはアミノ基である。よって、形成されるシラン末端化ポリブタジエンの骨格は1以上の尿素結合を含む。
【0014】
さらに別の実施形態においては、Xはエポキシ基であり、かつYはアミノ基である。よって、形成されるシラン末端化ポリブタジエンの骨格は1以上のエポキシ結合を含む。
【0015】
適切なイソシアナート官能化シランには、例えば、イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、イソシアナトメチルメチルジエトキシシラン、イソシアナトメチルメチルジメトキシシラン、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0016】
湿分硬化性組成物中でのシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーの含量は組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、50〜95%、好ましくは80〜95%、より好ましくは80〜90%である。
【0017】
湿分硬化性組成物は組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、5〜50%、好ましくは5〜20%、より好ましくは10〜20%の少なくとも1種のフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランを含む。フルオロアルコキシ−官能化シランは、例えば、RSi(OR4−n(式中、Rはフッ素化された線状、分岐もしくは環式で1〜18個の炭素原子を有するモノもしくはオリゴアルキル基であり、Rはアルキル基であり、および(OR)は加水分解基である)の式を有することができる。適するポリシロキサンには、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
本発明のフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランは当該技術分野において防汚コーティング組成物の周知成分である。
【0019】
湿分硬化性組成物は、組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下の、上記フルオロアルコキシ官能化シラン以外の少なくとも1種のアルコキシシラン添加剤をさらに含むことができる。組成物に導入されるアルコキシシランは、アルコキシシランの加水分解基のせいで、室温で湿分硬化手順において機能することができる。本明細書において使用されるアルコキシシランは以下の一般式を含む
Si(OR4−m、またはSi(OR
式中、Rは独立してC−C18アルキルおよび/またはC−C20アリール鎖であり、RはC−Cアルキル鎖であり、並びに(OR)基は加水分解基、例えば、ヘキサデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシランまたはテトラエトキシシラン(TEOS)などである。
【0020】
好ましくは、シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーは500〜200,000、より好ましくは1,000〜50,000の範囲の数平均分子量を有する。
【0021】
本発明のある好ましい実施形態においては、湿分硬化性組成物は組成物の乾燥重量を基準にした重量で、50〜95%の少なくとも1種のシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーまたはシラン末端化ポリオールベースのポリマー、および5〜50%の少なくとも1種のフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランを含む。
【0022】
湿分硬化性組成物中の成分のパーセンテージの合計は100%である。コポリマー中で選択的成分増大がある場合には、他の成分はその上限を下げることによりそのパーセンテージを低減させうる。
【0023】
範囲における用語「以下」は0より大きく、その範囲の端点まで、かつ端点を含む何らかの量および全ての量を意味する。
【0024】
本発明の湿分硬化性組成物は実質的に水を含まない。本明細書において「実質的に水を含まない」とは、組成物中に含まれる水がこの組成物の湿分硬化プロセスを開始するのに充分ではないことを意味する。
【0025】
本発明は、上記湿分硬化性組成物を含む防汚コーティング組成物も提供する。このコーティング組成物は、疎水性汚損放出表面を形成するために当該技術分野において従来使用されてきた疎水化剤をさらに含むことができる。適切な疎水化剤には、例えば、Si−ベースの疎水化剤、例えば、シロキサン、シラン、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(PDMS);フルオロ−ベースの疎水化剤、例えば、フルオロシラン、フルオロアルキルシラン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリビニルフルオリドまたは官能性フルオロアルキル化合物;並びに炭化水素疎水化剤、例えば、反応性ワックス、ポリエチレン、またはポリプロピレンが挙げられる。本発明者は、他の添加剤は、適切な濃度である場合に、機械的強度または耐久性のような他の特性を実質的に犠牲にすることなく防汚コーティング組成物中に組み込まれうると考える。このコーティング組成物は染料、顔料、酸化防止剤、UV安定化剤、殺生物剤、増粘剤または粘度増強剤をはじめとする添加剤を、一般的に使用される量で、適用要求に従ってさらに含むことができる。
【0026】
ある好ましい実施形態においては、防汚コーティング組成物は殺生物化合物、例えば、酸化銅、SEA−NINE(シーナイン)(商標)211の商標の下に販売されている4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(DCOI)、またはこれらの組み合わせなどを実質的に含まない。
【0027】
防汚コーティング組成物は、本明細書に記載される湿分硬化性組成物のシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーまたはシラン末端化ポリオールベースのポリマーおよびフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランに加えて、1種以上の追加のポリマー系バインダー、例えば、他のポリオール、エポキシもしくはアクリル系ポリマーなどを含むこともできる。
【0028】
防汚コーティング組成物はコーティング技術分野において周知の技術を用いて製造される。少なくとも1種の顔料は高剪断下でコーティング組成物中に充分に分散されており、例えば、IKAミキサーによって提供されるか、または代替的には、少なくとも1種のあらかじめ分散された顔料が使用されうる。
【0029】
防汚コーティング組成物の固形分量は約50体積%〜約80体積%でありうる。組成物の粘度は、ブルックフィールド粘度計を用いて測定して0.05〜10Pa・s(50cps〜10,000cps)であることができ;様々な適用方法に適切な粘度はかなり変化する。
【0030】
湿分硬化性組成物およびそれから製造されたコーティング組成物は通常の条件で安定な組成物であり、かつ貯蔵、輸送および適用のためのワンパッケージ製品の形態であることができる。
【0031】
湿分硬化性組成物およびそれから製造されたコーティング組成物は室温で湿分によって自己硬化されうる。ある実施形態においては、ヒドロキシル末端化ポリブタジエンが単独でシリネート化され(silynated)ることができ、次いでフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シラン、またはシラン末端化PDMSと混合されて、架橋コーティングシステムを得ることができる。理論的には、フルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランはシラン末端化ポリブタジエンとある程度の適合性を有する。フルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランまたはポリシロキサンは、シラン基の加水分解および共縮合によってポリブタジエンと共有結合する傾向がある。本発明を限定するものではない仮説においては、本発明においては、シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーおよびフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランのシラン基の加水分解および共縮合のせいで、Si−O−Si結合が生じ、よって架橋有機−無機ハイブリッドネットワークが得られると発明者は考える。このSi−O−Si無機結合はハイブリッドネットワークを強くし、かつ向上した機械的性能を提供する。さらに、本発明者は、適切な分子量を有する場合、ポリシロキサン成分またはフルオロ/フルオロアルコキシ鎖は表面エネルギー駆動力のせいで、塗膜の表面に移動すると考える。この移動は低い表面エネルギーを有する塗膜表面を提供する。一方、シラン末端化ポリブタジエンは基体またはプライマーコーティングへの良好な接着性を提供し、かつ優れた機械的特性にも貢献する。
【0032】
防汚コーティング組成物は従来の適用方法、例えば、はけ塗り、ローラー適用、およびスプレー方法、例えば、エアアトマイズドスプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、高体積低圧スプレー、およびエアアシストエアレススプレーなどによって適用されうる。
【0033】
防汚コーティング組成物は基体、例えば、金属、プラスチック、木材、石、コンクリート、前処理された面、あらかじめ塗装された面およびセメント質基体などに適用されうる。基体上にコーティングされたコーティング組成物は典型的には、−10℃〜95℃の温度で乾燥させられるかまたは乾燥可能にされる。
【0034】
塗膜表面の表面エネルギーは、防汚コーティング組成物の汚損放出特性を示すために試験される。フジツボのような海洋生物のコーティング表面への付着強度は概してそのコーティングの表面エネルギーに関連する。通常、海洋微生物は低い表面エネルギーの表面に対して低い付着強度を有する。コーティングの表面エネルギーを反映する一般的なパラメータは接触角である。低い表面エネルギーの表面上の水滴は非常に高い静的接触角を示すであろう。接触角が90°より大きい場合には、その表面は疎水性である。汚損放出コーティング適用のために、水の静的接触角は101°より大きいことが望まれる。フルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランは本来的に良好な疎水性を示し、そして表面エネルギー駆動力のせいでコーティングの表面上で優勢となる。この種の表面に良好に付着するであろう材料はほとんど存在せず、そしてひいてはこの種の表面上に堆積する材料は非常に容易に除去される。
【0035】
本発明のコーティング組成物から形成される塗膜は、形態的に、頑丈なポリブタジエンSi−O−Si架橋ネットワークの下層、および低い表面エネルギーのフッ素が豊富な上層を主として含み、その全てが,耐久性の汚損放出用途に役立つと考えられる。
【0036】
ポリブタジエン−Siハイブリッドシステムの利点には、ワンパッケージ形態で製造され、貯蔵されおよび輸送される可能性、室温での湿分硬化性、低毒性(イソシアナートを含まない)、環境への優しさ、優れた膜形成特性、向上した機械的特性、および優れた汚損放出特性が挙げられる。
【0037】
本明細書においては、それぞれの好ましい技術的解決策およびより好ましい技術的解決策における技術的特徴は互いに組み合わせられて、他に示されない限りは、新たな技術的解決策を形成することができる。簡潔さのために、出願人はこれらの組み合わせについての記載を省略する。しかし、これら技術的特徴を組み合わせることにより得られる全ての技術的解決策は本明細書中に明確に文字通り記載されていると見なされるべきである。
【実施例】
【0038】
I.原料
【表1】

【0039】
II.試験手順
模擬フジツボプルオフ(pull off)強さ試験
この試験は、エルコメーター(Elcometer(商標))プルオフ強さ試験器を用いて、文献(Kohl JG&Singer IL,Pull−off behavior of epoxy bonded to silicone duplex coatings(シリコーン二重コーティングへ結合されたエポキシのプルオフ挙動),Progress in Organic Coatings, 1999,36:15−20)に記載されるような変更された手順に従って行われた。
【0040】
エルコメーター(商標)装置のために、10ミリメートル直径のアルミニウムスタッド(studs)が設計された。コーティングされたパネルの表面にスタッドをのり付けするために、エポキシ接着剤(Araldite(商標)アラルダイト樹脂)が使用された。約1時間の硬化後に、過剰なエポキシは除かれた。次いで、エポキシ接着剤は3日間室温で硬化させられた。次いで、コーティング表面からスタッドが外れるまで、スタッドはエルコメーター(商標)装置によって引っ張り上げられた。各試験について、少なくとも3つの反復サンプルが使用され、プルオフ強さ(MPa)の平均値が記録された。模擬フジツボプルオフ強さが0.5MPa以下である場合には、それはそのコーティングが良好な汚損放出特性を有することを示す。
【0041】
耐衝撃性試験
衝撃試験は、PB−Siハイブリッドコーティングの機械的強度を評価するために、ASTM D2794−93に従って適用された。このコーティングはスチールパネル上に適用され、室温で湿分下で硬化された。このコーティングが完全に硬化した後で、コーティングされたスチールパネルは、0.5インチの直径を有する円形チップを有する2 lbの荷重の下に配置された。この荷重は特定の高さまで持ち上げられ、次いで落とされて、コーティングおよびスチールパネル上に衝撃を発生させた。持ち上げられた荷重の高さが特定の値より高かった場合には、そのコーティングは落下する荷重によって生じた衝撃によって損傷を受けた。コーティングの耐衝撃性能を評価するために、その値が記録された。
【0042】
実施例1
シラン末端化ポリブタジエンの製造:
10.5gのα,ω−ヒドロキシル末端化ポリブタジエンKrasol(商標)(クラソル)LBH−2000が、機械式攪拌装置を備えた250mLの丸底フラスコに導入された。2.73gのIPTESおよび5.67gの酢酸ブチルがこの丸底フラスコ内に添加された。この混合物は75℃で、窒素保護下で攪拌された。0.1重量%の触媒DBTLが添加された。この反応はイソシアナート官能基の完全な消失まで進められ、これはIR分析によって確認された。得られた修飾されたポリブタジエンのサンプルは透明でかつ室温で安定であった。
【0043】
PB−Siゲルハイブリッドコーティングの合成:
直線状磁気攪拌棒を備えたガラスジャー内で、5gのシラン官能化ポリブタジエン溶液(70%固形分)が0.35gのトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランと混合された。この溶液に0.2重量%のp−トルエンスルホン酸が、加水分解およびシラン基の縮合プロセスのための触媒として添加された。この溶液は20分間激しく攪拌された。上記配合物はブレードコーターを用いてアルミニウムパネル(H.J.UnkelLTD.(エイチ.ジェー.ウンケルリミテッド)カンパニー)上にコーティングされた。300μmの厚さを有する湿潤コーティングが清浄なアルミニウムパネル(エイチ.ジェー.ウンケルリミテッドカンパニー)に適用された。コーティングされたパネルは、接触角測定および模擬フジツボプルオフ強さ試験の前に、室温で少なくとも2日間乾燥させられた。接触角はOCA20接触角装置(DataPhysics Company(データフィジクスカンパニー))を用いて測定された。良好な汚損放出特性を有するコーティング表面は101°より大きい静的接触角を示す。
【0044】
模擬フジツボプルオフ試験は、0.2〜0.5MPaの模擬フジツボプルオフ強さの場合に、非常に良好な汚損放出性能を有していたことを示した。
【0045】
この湿分硬化性ゾルゲルベースのコーティングの配合は表1に示された。全ての配合において、IPTESはPB/ポリオールを末端処理する官能化シランとして使用された。
【0046】
【表2】

【0047】
比較サンプル1は、実施例1に記載される方法によって製造された純粋なシリル化PBコーティングであった。
比較サンプル2は文献(Ying Tangら、Biofouling,2005,21,59−71)に従うゾルゲルベースの汚損放出コーティングであった。2.76gのC8−TEOS、2.08gのTEOSおよび5mLのEtOHが混合され、1.6mlの0.1N HCLが添加され、室温で2時間攪拌された。このコーティングは実施例1に記載されるように製造された。このゾルゲルコーティングは劣った汚損放出特性を示した。
比較サンプル3はトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランによってさらに修飾されたゾルゲルコーティングであり、極度に低い表面エネルギーを提供した。0.2gのトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、2.08gのTEOSおよび5mLのEtOHが混合され、1.6mlの0.1N HCLが添加され、室温で2時間攪拌された。このコーティングは実施例1に記載されるように製造された。
比較サンプル4は、以下の手順を用いて米国特許第6,313,335B1号に従って製造された2パッケージPU−PDMSコーティングであった:170g/モルの当量および官能価3を有する1.7gの天然種子油ポリオール、PDMS溶媒および触媒が、磁気攪拌棒を備えた1オンスガラスジャーに計り採られた。この溶液は室温で10分間混合された。次いで、HDIトリマーがこの混合物に添加された。この混合物は20分間攪拌され、次いで、実施例1において上述したようにアルミニウムパネル上にコーティングされた。
【0048】
比較サンプル1は、低い水接触角および模擬フジツボプルオフ強さ試験に基づいて劣った汚損放出特性を示した。比較サンプル2は良好な水接触角を示したが、模擬フジツボプルオフ強さはPB−Si−Fハイブリッドコーティングよりも高かった。トリデカフルオロオクチルトリエトキシシランによるさらなる修飾は比較サンプル3に示されるように、ゾルゲルコーティングをより疎水性にし、かつ許容可能な模擬フジツボプルオフ強さに到達させることができた。純粋な無機Si−O−Siから製造された塗膜は、特に塗膜が湿潤膜で300μmの厚さであった場合に、非常に脆く、そして容易にひび割れしたことが観察された。ゾルゲルコーティングの耐衝撃性は非常に劣っていた。しかし、PBベースのハイブリッドコーティングは、表2に示されるように、弾性でありかつかなり良好な耐衝撃性を示した。ワンパッケージコーティング組成物であるサンプル1〜7は、ツーパッケージPU−PDMSコーティング(比較サンプル4)と同様に良好な機械的特性および汚損放出特性を達成した。
【0049】
【表3】

【0050】
実施例2
シラン末端化ポリブタジエンベースのポリウレタンポリマーの製造。ポリブタジエンベースのポリマーの分子量を増大させるために、NCO/OHモル比=2で、ヒドロキシル末端化ポリブタジエンと過剰のジイソシアナートとの間で反応が行われた。イソシアナート末端化ポリウレタンプレポリマーは、アミノ官能化シランと反応してシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーを得るように設計された。10.5gのα,ω−ヒドロキシル末端化ポリブタジエンKrasol(商標)(クラソル)LBH−2000が、機械式攪拌装置を備えた250mLの丸底フラスコに導入された。1.68gの1,6−ヘキサメチレンジイソシアナートおよび5.20gの酢酸ブチルが丸底フラスコに添加された。0.1重量%のDBTLが添加された。この混合物は75℃で窒素保護下で1時間攪拌された。2.26gのAPTESがこのフラスコに、空気にさらすことなく注意深く添加された。この反応はイソシアナート官能基の完全な消失まで進められ、これはIR分析によって確認された。得られたサンプルは透明でかつ室温で安定であった。
【0051】
ハイブリッドコーティングの合成:
直線状磁気攪拌棒を備えたガラスジャー内で、5gのシラン末端化ポリブタジエンポリウレタン溶液(70%固形分)が0.35gのトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランと混合された。この溶液に0.2重量%のp−トルエンスルホン酸が、加水分解およびシラン基の縮合プロセスの触媒として添加された。この溶液は20分間激しく攪拌された。コーティングは実施例1におけるように製造された。コーティング表面は113°の静的接触角を示し、かつ模擬フジツボプルオフ強さは0.2MPaであった。
【0052】
湿分硬化性ゾルゲルベースのコーティングの配合は表3に示された。全ての配合において、HDIがジイソシアナートとして使用され(NCO/OHの当初モル比=2で)およびAPTESはプレポリマーを末端処理する官能化シランとして使用された。
【0053】
【表4】

【0054】
実施例3
NOPおよびジイソシアナートのモル比がNCO/OH=0.5に変えられたことを除いて実施例2と同じ。シリル化プロセスはイソシアナトプロピルトリエトキシシランをヒドロキシル末端化PBプレポリマーと反応させることによって行われた。コーティングは実施例2におけるように製造された。
【0055】
湿分硬化性ゾルゲルベースのコーティングの配合は表4に示された。全ての配合において、HDIがジイソシアナートとして使用され(NCO/OHの当初モル比=0.5で)およびIPTESはプレポリマーを末端処理する官能化シランとして使用された。
【0056】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のシラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーを組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで50〜95%、および式RSi(OR4−n(式中、Rはフッ素化された線状、分岐または環式で1〜18個の炭素原子を有するモノもしくはオリゴアルキル基であり、Rはアルキル基であり、(OR)は加水分解基であり、nは1〜2の整数である)を有する少なくとも1種のフルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランを5〜50%含むワンパッケージ湿分硬化性組成物であって;
前記シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーは
(a)主鎖に、またはポリブタジエンベースのポリマーの骨格の2つの末端の少なくとも一方に、またはポリブタジエンベースのポリマーの側鎖に、ヒドロキシル、アミノ、イソシアナート、エポキシ、マレイン酸無水物、チオールおよびアクリル系エステル基から選択される少なくとも1つの非加水分解性の有機X基を有するポリブタジエンベースのポリマーと
(b)オルガノシラン(RO)Si[(CHY]4−n(式中、Y基はX基と反応することができ、かつヒドロキシル、アミノ、イソシアナート、エポキシ、マレイン酸無水物、チオール、アクリル系エステルおよびビニル基から選択され、R基は縮合反応に関与することができる加水分解可能な基であり、nは1〜3の整数であり、並びにmは0〜60の整数である)
との反応生成物であり;並びに、
当該組成物は湿分硬化後に、水接触角が101°より大きい表面を形成する、
ワンパッケージ湿分硬化性組成物。
【請求項2】
ポリブタジエンが1,3−ブタジエンの1,2重合もしくは1,4重合、またはその組み合わせの生成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
X基がヒドロキシル基でありかつY基がイソシアナート基であるか、またはX基がイソシアナート基でありかつY基がアミノ基であるか、またはX基がエポキシ基でありかつY基がアミノ基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
フルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランが式RSi(OR4−n(式中、Rはフッ素化された線状、分岐または環式で1〜18個の炭素原子を有するモノもしくはオリゴアルキル基であり、Rはアルキル基であり、(OR)は加水分解基である)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーの量が50〜90重量%の範囲である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
フルオロ/フルオロアルコキシ−官能化シランの量が10〜50重量%の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
シラン末端化ポリブタジエンベースのポリマーが500〜200,000の範囲の数平均分子量を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の湿分硬化性組成物を含むコーティング組成物。
【請求項9】
(a)請求項1に記載の組成物を提供する工程;並びに
(b)前記組成物を基体に適用し、そして湿分に曝露して前記組成物の硬化を開始させる工程;
を含む、基体をコーティングする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の湿分硬化性組成物から得られた塗膜。

【公開番号】特開2012−229407(P2012−229407A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−88011(P2012−88011)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】