説明

湿式不織布および繊維製品

【課題】優れた抗菌性または消臭性を有する湿式不織布、および該湿式不織布を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリエステルからなり単繊維径(D)が500〜1000nmかつ該単繊維径(D)nmに対する繊維長(L)nmの比(L/D)が600〜3000の範囲内である極細ポリエステル繊維Aを含む湿式不織布に抗菌剤または消臭剤を付着させることにより、目付けが10〜50g/mの、抗菌性または消臭性に優れる湿式不織布を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌性または消臭性を有する湿式不織布、および該湿式不織布を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗菌性または消臭性を有する湿式不織布として、ポリプロピレン繊維を用いたもの、金属イオンを用いたものなど種々のものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
他方、近年の健康ブームにより、さらに優れた抗菌性や消臭性を有する繊維製品が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−7000号公報
【特許文献2】特開平10−168722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた抗菌性または消臭性を有する湿式不織布、および該湿式不織布を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、極めて繊度が小さい繊維を用いて湿式不織布を得た後、該湿式不織布に抗菌剤または消臭剤を付着させると、湿式不織布を構成する繊維の表面積が大きいため、極めて優れた抗菌性または消臭性を有する湿式不織布が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「目付けが10〜50g/mの湿式不織布であって、ポリエステルからなり単繊維径(D)が500〜1000nmかつ該単繊維径(D)nmに対する繊維長(L)nmの比(L/D)が600〜3000の範囲内である極細ポリエステル繊維Aを含み、かつ抗菌剤または消臭剤が付着してなることを特徴とする湿式不織布。」が提供される。
【0007】
その際、前記抗菌剤または消臭剤が植物由来エキスであることが好ましい。また、前記抗菌剤または消臭剤の付着量が、湿式不織布全重量に対し1〜10重量%の範囲内であることが好ましい。また、前記極細ポリエステル繊維Aが、ポリエステルからなりかつ島径(D)が500〜1000nmである島成分と前記のポリエステルよりもアルカリ水溶液易溶解性ポリマーからなる海成分とを有する複合繊維にアルカリ減量加工を施すことにより、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。また、湿式不織布において、前記極細ポリエステル繊維Aの混率が10〜50重量%の範囲内であることが好ましい。また、湿式不織布の通気度が5〜100cc/cm/secの範囲内であることが好ましい。
【0008】
また、本発明によれば、前記の湿式不織布を用いてなり、エアフィルター、花粉用マスク、防塵用マスク、および抗ウイルス用マスクからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた抗菌性または消臭性を有する湿式不織布、および該湿式不織布を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の湿式不織布において、目付けが10〜50g/m(より好ましくは15〜45g/m)の範囲内であることが肝要である。該目付けが10g/mよりも小さいと、花粉やウイルスなどの捕集効率が低下するため好ましくない。逆に、該目付けが50g/mよりも大きいと、通気性が低下するため好ましくない。
【0011】
また、本発明の湿式不織布は、ポリエステルからなり単繊維径(D)が500〜1000nmかつ該単繊維径(D)nmに対する繊維長(L)nmの比(L/D)が600〜3000の範囲内である極細ポリエステル繊維Aを含む。かかる極細ポリエステル繊維Aを含まない場合は、優れた抗菌性または消臭性が得られず好ましくない。
【0012】
ここで、前記極細ポリエステル繊維Aにおいて、単繊維径が500nm未満では、極細ポリエステル繊維A同士が擬似膠着しやすく均一分散しにくいため、優れた抗菌性または消臭性が得られないおそれがある。逆に、該単繊維径が1000nmより大きいと、極細ポリエステル繊維としての効果が低くなり、優れた抗菌性または消臭性が得られないおそれがある。なお、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には外接円の直径を単繊維径とする。また、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0013】
また、前記極細ポリエステル繊維Aにおいて、単繊維径(D)nmに対する繊維長(L)nmの比(L/D)が600〜3000(好ましくは800〜1500)の範囲内であることが肝要である。該比(L/D)が600未満では、繊維長が短くなり過ぎるため、他の繊維との絡みが小さくなり、繊維が脱落する可能性が高くなり好ましくない。逆に、該該比(L/D)が3000を越える場合、繊維長が長くなりすぎ、極細ポリエステル繊維A自身の絡みが大きくなり、均一分散が阻害されるおそれがあり好ましくない。
【0014】
前記極細ポリエステル繊維Aを形成するポリエステルの種類としては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。
【0015】
前記のような極細ポリエステル繊維Aの製造方法としては特に限定されないが、国際公開第2005/095686号パンフレットに開示された方法が好ましい。すなわち、単繊維径およびその均一性の点で、ポリエステルポリマーからなりかつその島径(D)が500〜1000nmである島成分と、前記のポリエステルポリマーよりもアルカリ水溶液易溶解性ポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」ということもある。)からなる海成分とを有する複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。なお、前記島径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。なお、島の形状が丸断面以外の異型断面である場合には、前記の島径(D)は、その外接円の直径を用いる。
【0016】
ここで、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成するポリエステルポリマーに対する溶解速度比が200以上(好ましくは300〜3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の超極細繊維が得ることができないおそれがある。
【0017】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。更に具体例を挙げれば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。これ以外にも、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶剤、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0018】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が10重量%以上になると、溶融粘度低下作用があるので、好ましくない。
【0019】
一方、島成分を形成するポリエステルポリマーとしては、前述のとおりである。なお、海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の超極細繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤、等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0020】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0021】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0022】
次に島数は、100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。また、その海島複合重量比率(海:島)は、20:80〜80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方20%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0023】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200〜5000m/分であることが望ましい。200m/分以下では生産性が悪い。また、5000m/分以上では紡糸安定性が悪い。
【0024】
得られた未延伸糸は、海成分を抽出後に得られる極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程あるいはその後の抽出工程に供してもよいし、目的とする強度・伸度・熱収縮特性に合わせるために、延伸工程や熱処理工程を経由して、カット工程あるいはその後の抽出工程に供することができる。延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもかまわない。
【0025】
次に、かかる複合繊維を、島径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が前記の範囲内となるようにカットした後、アルカリ減量加工を施すことにより前記海成分を溶解除去するか、または、アルカリ減量加工を施すことにより前記海成分を溶解除去した後、カットする。かかるカットは、未延伸糸または延伸糸をそのまま、または数十本〜数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることが好ましい。
【0026】
前記のアルカリ減量加工は、不織布の製造後であってもよいし、不織布の製造前であってもよい。かかるアルカリ減量加工において、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1〜5%である事が好ましく、さらには0.4〜3%である事が好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%以上では繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)
【0027】
また、アルカリ減量加工の処理時間は5〜60分である事が好ましく、さらには10〜30分である事が好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分以上では島成分までも減量されるおそれがある。
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2%〜10%である事が好ましい。2%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
【0028】
本発明の湿式不織布において、前記極細ポリエステル繊維Aの混率としては10〜50重量%の範囲内(すなわち、他の有機繊維Bの混率が90〜50重量%)であることが好ましい。前記極細ポリエステル繊維Aの混率が10重量%未満では、花粉やウイルスなどの捕集効率が低下するおそれがある。逆に前記極細ポリエステル繊維Aの混率が50重量%よりも大きいと、通気性が低下するおそれがある。
【0029】
その際、他の有機繊維Bの単繊維繊度が0.05〜3.0dtexの範囲内であることが好ましい。該単繊維繊度が0.05dtex未満では、風合いが柔らかくなるものの、抄紙工程における水流の影響を受け易く地合いが悪くなるおそれがある。逆に、該単繊維繊度が3.0dtexを越えると、柔軟性が損われるおそれがある。なお、単繊維繊度が0.05〜3.0dtexであれば、通常、単繊維径は1000nmよりも大となる。
【0030】
前記有機繊維Bの繊維長は3〜20mmの範囲内にあること好ましい。該繊維長が3mm未満では、不織布の強度が低下するおそれがある。逆に、該繊維長が20mmを越えると、抄紙法による繊維分散が極めて悪くなり、地合いが悪化するおそれがある。
【0031】
なお、前記有機繊維Bの繊維種類としては特に限定されず、前記のようなポリエステル繊維やポリオレフィン繊維などの合成繊維や、レーヨン繊維、綿繊維などいずれでもよい。さらには、通常バイダー繊維として用いられる、未延伸ポリエステル繊維、低融点の共重合ポリエステル繊維、鞘部に低融点ポリエチレンが配され、芯部にポリエステルが配された芯鞘型複合繊維などでもよい。
【0032】
また、本発明の湿式不織布において、抗菌剤または消臭剤が付着している。かかる抗菌剤または消臭剤としては、植物由来エキスや光触媒などが例示される。
ここで、植物由来エキスは、植物または藻類または菌類の全部、または花、葉、茎、果実、樹皮、根、種、樹脂等の特定の部位を、そのまま、または圧搾、乾燥粉砕もしくは発酵等を加えてから、常温又は加温下で溶媒により抽出することにより得られるもので、水、エタノール、プロピレングリコール又は油脂に溶解するものをいう。あるいは、該抽出液を希釈し、濃縮し、または乾燥したものでもよい。さらに、水蒸気蒸留法、抽出法、クロマトグラフィー法等を用いて精油としたものでもよい。
【0033】
かかる植物エキスとしては、アスナロエキス、イザヨイバラエキス、オウゴンエキス、オタネニンジンエキス、カミツレエキス、キハダ樹皮エキス、クララエキス、クロレラエキス、シラカバエキス、セイヨウノコギリソウエキス、チューベロース、ハマメリスエキス、ビワ葉エキス、ブナエキス、メリッサエキス、ユーカリエキス、ユーカリ油、ユキノシタエキス、ユリエキス、ヨモギエキス、褐藻エキス、緑茶エキス、柿タンニンエキスなどが好適である。
【0034】
前記抗菌剤または消臭剤の付着量としては、湿式不織布全重量に対し1〜10重量%の範囲内であることが好ましい。該付着量が1重量%未満では、十分な抗菌性または消臭性が得られないおそれがある。逆に、該付着量が10重量%よりも多く付着させても効果が飽和してしまいコストアップとなるおそれがある。
【0035】
前記の湿式不織布は、例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、前記の極細ポリエステル繊維Aまたはその前駆体(海島型複合繊維)を用意する。その際、前記の極細ポリエステル繊維Aまたはその前駆体(海島型複合繊維)と、前記の有機繊維Bとを、極細ポリエステル繊維A(海島型複合繊維の海成分を溶解除去した後の重量)と有機繊維Bとの重量比が(前者/後者)10/90〜50/50の範囲内となるように用意することが好ましい。
【0036】
次いで、湿式抄造法によりウェブを形成した後、熱処理工程を経てから、必要に応じて高圧水流処理やカレンダー加工を施しても良いし、湿式抄造法により得られたウェブを未乾燥のまま、高圧水流処理やカレンダー加工を施しても良い。なお、前記高圧水流を行う際、シートは単体でもよいし、原綿組成を互いに異にするシートを2層以上積層してもよい。また、前記高圧水流を行う際、前記シートと他の布帛とを積層してもよい。次いで、必要に応じて、前述のようにアルカリ減量加工を施すことにより、海島型複合繊維の海成分を溶解除去する。
【0037】
次いで、該湿式不織布に抗菌剤または消臭剤を付着させることにより、本発明の湿式不織布が得られる。その際、抗菌剤または消臭剤を付着させる方法は公知の方法でよく、例えば、抗菌剤または消臭剤と、必要に応じてバインダー樹脂とを含む分散体を、パデング法やスプレー法などにより湿式不織布に付与し、乾燥させるとよい。
【0038】
かくして得られた湿式不織布において、通気度が5〜100cc/cm/sec(より好ましくは10〜50cc/cm/sec)の範囲内である好ましい。該通気度が5cc/cm/secよりも小さいと、空気の通りが悪く顔マスクなどと使えないおそれがある。逆に、該通気度が100cc/cm/secよりも大きいと、抗菌性または消臭性が低下するおそれがある。
【0039】
本発明の湿式不織布には前記のような極めて繊度が小さい繊維が含まれており、該繊維の表面積が大きいため、極めて優れた抗菌性または消臭性を奏する。
次に、本発明の繊維製品は前記の湿式不織布を用いてなり、エアフィルター、花粉用マスク、防塵用マスク、および抗ウイルス用マスクからなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。
これらの繊維製品は前記の湿式不織布を用いているので、極めて優れた抗菌性または消臭性を奏する。
【実施例】
【0040】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスによって5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度―溶解温度で浴比100として、溶解時間と溶解量から減量速度を算出した。
(2)溶解速度測定
海成分および島成分のポリマーを各々、径0.3mm、長さ0.6mmのキャピラリーを24孔もつ口金から吐出し、1000〜2000m/分の紡糸速度で引き取って得た未延伸糸を残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、83dtx/24フィラメントのマルチフィラメントを作成した。これを所定の溶剤および溶解温度で浴比100として、溶解時間と溶解量から減量速度を算出した。
(3)島径との測定
透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し、測定した。TEMの機械によっては測長機能を活用して測定し、また無いTEMについては、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。ただし、繊維径は、繊維断面におけるその外接円の直径を用いた。(n数5の平均値)
(4)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の極細短繊維を基盤上に寝かせた状態とし、20〜500倍で測定した。SEMの測長機能を活用して測定した(n数5の平均値)
(5)目付
JIS P8124(紙の坪量測定方法)に基づいて測定した。
(6)厚み
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の試験方法)に基づいて測定した。
(7)密度
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の試験方法)に基づいて測定した。
(8)バクテリア濾過効率(BFE)
ASTM F 2010(細菌濾過効率測定法)に基づいて測定した。
(9)通気度
JIS L1096 8.27.1A法(フラジール法)に基づいて測定した。
(10)アンモニア消臭率
SEK(消臭加工繊維製品認定基準)に基づいて測定した。
【0041】
[実施例1]
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=10:90の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/minで引き取った。海成分と島成分とのアルカリ減量速度比は1000倍であった。これを3.9倍に延伸した後、4%NaOH水溶液で75℃にて25%減量したところ、繊維径が比較的均一な極細繊維が生成していることを確認、該繊維をギロチンカッターにて1mmにカットして極細短繊維を得た。本繊維を極細ポリエステル繊維Aとした(単繊維径(D)が700nm、繊維長(L)が1000000nm、L/Dが1429)。
【0042】
一方、基本ベースの原綿はポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度2.2dtex、繊維長5mm)を用い、バインダー繊維として、低融点ポリエステル繊維(単繊維繊度0.2dtex、繊維長3mm)と、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部に低融点ポリエチレンが配された複合繊維(単繊維繊度1.2dtex、繊維長5mm)とを用いた。
【0043】
ついで、前記極細ポリエステル繊維A(15重量%)/基本ベースの前記ポリエチレンテレフタレート繊維50重量%/低融点ポリエステル繊維10重量%/複合繊維25重量%を混合攪拌した後、湿式抄紙機にて目付20g/mの湿式不織布を得た。得られた湿式不織布に、パデング法により緑茶エキス含有の水分散体を付与した後、乾燥させることにより、緑茶エキスを湿式不織布重量に対して有効成分で2重量%付与した。得られた不織布物性を表1に示す。
次いで、該湿式不織布を用いて花粉用マスクを得て使用したところ、花粉の捕集効率に優れていた。
【0044】
[実施例2]
実施例1で得られた湿式不織布を2枚重ねた。得られた不織布物性を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
実施例1において、基本原綿の材料をポリプロピレン繊維に変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた不織布物性を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
実施例1において、緑茶エキスを有効成分0.5重量%付与すること以外は実施例1と同様にした。得られた不織布物性を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
実施例1において、不織布に緑茶エキスを有効成分11.0重量%付与すること以外は実施例1と同様にした。得られた不織布物性を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、極細ポリエステル繊維Aを、単繊維繊度0.1dtexのポリエチレンテレフタレート繊維からなる極細繊維に変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた不織布物性を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
実施例1における不織布の目付を8g/mに変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた不織布物性を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
実施例1における不織布の目付を60g/mに変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた不織布物性を表1に示す。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、優れた抗菌性または消臭性を有する湿式不織布、および該湿式不織布を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目付けが10〜50g/mの湿式不織布であって、ポリエステルからなり単繊維径(D)が500〜1000nmかつ該単繊維径(D)nmに対する繊維長(L)nmの比(L/D)が600〜3000の範囲内である極細ポリエステル繊維Aを含み、かつ抗菌剤または消臭剤が付着してなることを特徴とする湿式不織布。
【請求項2】
前記抗菌剤または消臭剤が植物由来エキスである、請求項1に記載の湿式不織布。
【請求項3】
前記抗菌剤または消臭剤の付着量が、湿式不織布全重量に対し1〜10重量%の範囲内である、請求項1または請求項2に記載の湿式不織布。
【請求項4】
前記極細ポリエステル繊維Aが、ポリエステルからなりかつ島径(D)が500〜1000nmである島成分と前記のポリエステルよりもアルカリ水溶液易溶解性ポリマーからなる海成分とを有する複合繊維にアルカリ減量加工を施すことにより、前記海成分を溶解除去したものである、請求項1〜3のいずれかに記載の湿式不織布。
【請求項5】
湿式不織布において、前記極細ポリエステル繊維Aの混率が10〜50重量%の範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の湿式不織布。
【請求項6】
湿式不織布の通気度が5〜100cc/cm/secの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の湿式不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の湿式不織布を用いてなり、エアフィルター、花粉用マスク、防塵用マスク、および抗ウイルス用マスクからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2012−92466(P2012−92466A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242195(P2010−242195)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】