説明

湿式不織布用熱接着性複合繊維

【課題】セルロース系繊維との接着性が良好で、効率良く安定して、地合いの均一な不織布を製造できる湿式不織布用熱接着性複合繊維を提供することにある。
【解決手段】繊維形成性成分と熱接着性成分とからなる熱接着性複合繊維であり、不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸無水物を含むビニルモノマーがグラフト共重合された変性ポリオレフィン又は該変性ポリオレフィンと他のポリマーとの混合ポリマーを熱接着性成分とし、該変性ポリオレフィンより融点の高いポリマーを繊維形成性成分とし、少なくとも該熱接着性成分が表面に露出するように両成分が複合化された熱接着性複合繊維であって、該熱接着性複合繊維表面に油剤が付着し、下記(1)〜(6)を満足していることを特徴とする熱接着性複合繊維。
(1)不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物を有するビニルモノマーの含有率が熱接着性成分の重量を基準として、0.005〜0.04モル/kgであること
(2)熱接着性成分のメルトインデックスが15〜200g/10分であること
(3)熱接着性成分の複合繊維に占める割合が40〜95重量%であること
(4)繊維長が2〜30mmであること
(5)油剤がポリエステル・ポリエーテル共重合体であること
(6)油剤付着率が0.01重量%以上であること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式不織布用熱接着性複合繊維に関し、さらにはパルプ等のセルロース系繊維との接着性が良好であり、効率よく安定して、地合いの均一な不織布を製造できる湿式不織布用熱接着性複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、湿式不織布用熱接着繊維として、共重合ポリエステル系の複合繊維が広く用いられている。
例えば、結晶融点を持たない非晶性共重合ポリエステルを熱接着性成分とし、融点が220℃以上のポリアルキレンテレフタレートを繊維形成性成分とする湿式不織布用熱接着性複合繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、本出願において提案された湿式不織布用熱接着性繊維は、ポリアルキレンテレフタレートに対しては、良好な接着性を示すものの、セルロース系繊維に対する接着性は不十分であった。
【0003】
一方、不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸無水物を有するビニルモノマーがグラフト共重合された変性ポリオレフィン、又は、該変性ポリオレフィンと他のポリマーとの混合ポリマーを熱接着性成分とし、該変性ポリオレフィンより融点の高いポリマーを繊維形成性成分とするエアレイド不織布用の熱接着性複合繊維が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。本出願において提案された複合繊維はセルロース系繊維に対して、良好な接着性を示すものの、水中での分散性に劣るため、得られる湿式不織布の地合いは満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−227089号公報
【特許文献2】特開2004−270041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、セルロース系繊維との接着性が良好で、効率良く安定して、地合いの均一な不織布を製造できる湿式不織布用熱接着性複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、熱接着性成分を構成するポリオレフィンの種類、熱接着性複合繊維の複合状態および形状などが、セルロース系繊維との接着性に大きく影響することに着目し、変性量の少ないポリオレフィンを熱接着成分に用いた複合繊維でも、セルロース系繊維との接着性が悪くならず、同時に、効率良く品位の優れた湿式不織布が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
かくして、本発明によれば、繊維形成性成分と熱接着性成分とからなる熱接着性複合繊維であり、不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸無水物を含むビニルモノマーがグラフト共重合された変性ポリオレフィン又は該変性ポリオレフィンと他のポリマーとの混合ポリマーを熱接着性成分とし、該変性ポリオレフィンより融点の高いポリマーを繊維形成性成分とし、少なくとも該熱接着性成分が表面に露出するように両成分が複合化された熱接着性複合繊維であって、該熱接着性複合繊維表面に油剤が付着し、下記(1)〜(6)を満足していることを特徴とする熱接着性複合繊維が提供される。
(1)不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物を有するビニルモノマーの含有率が熱接着性成分の重量を基準として、0.005〜0.04モル/kgであること
(2)熱接着性成分のメルトインデックスが15〜200g/10分であること
(3)熱接着性成分の複合繊維に占める割合が40〜95重量%であること
(4)繊維長が2〜30mmであること
(5)油剤がポリエステル・ポリエーテル共重合体であること
(6)油剤付着率が0.01重量%以上であること
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱接着性複合繊維はセルロース系繊維との接着性が良好であるだけでなく、かかる複合繊維によれば、湿式不織布の地合いを均一なものとすることができる。このため、本発明の複合繊維からは、極めて高品質の不織布を製造することができる。加えて、本発明の複合繊維は、熱接着性成分の変性ポリオレフィンの量が少なくて済むため、従来よりも安価な熱接着性繊維を提供できるといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の複合繊維は、繊維形成性成分と熱接着性成分とからなる熱接着性複合繊維であり、不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸無水物を含むビニルモノマーがグラフト共重合された変性ポリオレフィン又は該変性ポリオレフィンと他のポリマーとの混合ポリマーを熱接着性成分とし、該変性ポリオレフィンより融点の高いポリマーを繊維形成性成分とする熱接着性複合繊維である。
【0010】
上記不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物を含むビニルモノマーの具体例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸又はメタクリル酸などを挙げることができる。これらのビニルモノマーをポリオレフィンに共重合させることにより、セルロース系繊維表面の水酸基との親和性を向上させることができる。殊に無水マレイン酸は、無水カルボン酸基が開裂してセルロース系繊維表面の水酸基と共有結合するために、セルロース系繊維との接着性がきわめて良好であり、ポリオレフィンへの共重合量が少なくても上記のような効果が得られる。
【0011】
上記ビニルモノマーを共重合する、変性ポリオレフィンの幹ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1などが挙げられる。ポリエチレンは高密度、直鎖状低密度、低密度ポリエチレンを用いることができる。また、これらのポリマーはホモポリマーあるいは他のオレフィンとの共重合であってもよい。これらのポリマーの中では、融点の範囲、グラフト反応の容易性を考慮するとポリエチレンが好ましい。
【0012】
前述のビニルモノマーを上記幹ポリマーにグラフト共重合するのは通常の方法で行うことができ、ラジカル開始剤を用いて、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物とビニルモノマーを混合してランダム共重合体からなる側鎖を導入するか、あるいは異種モノマーを順次重合することによるブロック共重合体からなる側鎖を導入することができる。
【0013】
また、幹ポリマーには、前述のビニルモノマー以外に、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、あるいは同様なアクリル酸エステル類などのビニルモノマーが共重合されていてもよい。
【0014】
熱接着性成分を構成するポリマーとしては、上記変性ポリオレフィン単独であっても、該変性ポリオレフィンと他のポリマーとの混合ポリマーであってもよい。ここで他のポリマーとしてはポリオレフィンが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリスチレン、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも変性ポリオレフィンの幹ポリマーと同種のポリオレフィンがより好ましい。つまり、幹ポリマーがポリエチレンである場合は、熱接着性成分として混合される他のポリマーもポリエチレンであることが好ましい。
【0015】
本発明の繊維形成性成分を構成する、熱接着性成分より融点の高いポリマーとしては、前記変性ポリオレフィンの幹ポリマー、あるいはポリエステル、ポリアミドなどの結晶性ポリマーを挙げることができる。特にポリエステル、中でもポリエチレンテレフタレートが、不織布の地合いを均一にでき、紡出量を高くできる傾向にあり、好ましい。融点の測定評価は通常当業者が行っている方法を採用することができ、DSC測定(示差走査熱量測定)により結晶融解現象に基づき観測されるピーク温度を持って融点と定めることなどの手法を挙げることができる。上記の熱接着性成分および繊維形成性成分に使用されるポリマーには、本発明の効果を妨げない範囲でさらに、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤などの添加剤が必要に応じて含有されていてもよい。
【0016】
本発明の複合繊維は、少なくとも熱接着性成分が該繊維の表面に露出している複合繊維であり、熱接着性成分と繊維形成性成分が並列型に複合化されたもの(サイドバイサイド型)、熱接着性成分を鞘成分とし繊維形成性成分を芯成分とし、両成分が同芯鞘芯型又は偏芯鞘芯型に複合化された複合繊維であることが好ましい。本発明の熱接着性複合繊維においては、熱接着性成分の該熱接着性複合繊維表面に占める割合が小さくても高い接着力を示すが、セルロース系繊維を均一に濡らすことができる点で鞘芯型に複合化させるのが特に好ましい。また本発明の複合繊維は、湿式不織布を製造する際の複合繊維の水への分散性の観点から複合繊維表面に油剤が付着していることを必要とする。
【0017】
本発明においては、前述の複合繊維が前述した(1)〜(6)の要件を同時に満足していることが肝要である。これにより、上記各要件の奏する効果があいまって、セルロース系繊維との接着性を良好とすることと、効率良く地合いの均一な湿式不織布を製造することの両方の課題を同時に達成することができる。
【0018】
つまり、従来の技術では、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸の酸無水物を有するビニルモノマーの変性ポリオレフィン中の含有量が多く、湿式不織布を効率良く安定して生産することができず、また地合いの均一な不織布を得ることが難しかった。しかしながら、本発明においては、(2)〜(6)の要件を同時に満足させることによって、(1)に規定するように不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸の酸無水物を有するビニルモノマーの熱接着性成分の重量を基準とした含有率を低減しても、セルロース系繊維との高い接着性を維持でき、同時にもう一方の課題も達成することができる。以下、上記(1)〜(6)の各要件について説明する。
【0019】
まず、本発明においては、(1)不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸の酸無水物を有するビニルモノマーの含有率を、熱接着性成分の重量に対して0.005〜0.04モル/kgとする必要がある。上記含有率が0.04モル/kgを超えると、繊維−繊維間の摩擦係数が高くなり、水中での分散性が阻害され、得られる湿式不織布の地合いが不均一なものとなる。一方、上記含有率が0.005モル/kg未満では、セルロース系繊維との接着性が不十分となり、十分な強力の湿式不織布が得られない。より好ましい含有率は0.01〜0.035モル/kgの範囲である。
【0020】
次に、(2)熱接着性成分のメルトインデックス(MI)を15〜200g/10分とする必要がある。上記MIが15g/10分未満であると、溶融してセルロース系繊維の表面を十分濡らすだけの熱流動性に欠け、該繊維との接着性が不十分となり、十分な強力の湿式不織布が得られない。一方、上記MIが200g/10分を超えると、溶融粘度が低く過ぎ、後述するような熱接着性成分の比率を40〜95重量%の範囲として複合紡糸するのが難しくなり、断糸が多くなる。MIとしては20〜150g/10分の範囲であり、より好ましくは40〜100g/10分の範囲である。メルトインデックスをこの範囲とするには、熱接着性成分となる変性ポリオレフィンの(重量)平均分子量(溶融粘度)、他のポリマーを混合している場合にはそのポリマーの(重量)平均分子量(溶融粘度)、変性させる不飽和カルボン酸等の種類含有率を適宜調整することにより実現することができる。
【0021】
また、(3)熱接着性成分の複合繊維に占める割合を40〜95重量%とする必要がある。40重量%未満では、セルロース系繊維表面を十分濡らすだけのポリマー量がないため、該セルロース系繊維との熱接着性が不十分となり、十分な強力の湿式不織布が得られない。95重量%を超えると、複合繊維の安定した溶融紡糸が困難となる。上記割合としては45〜90重量%の範囲が好ましく、より好ましくは50〜80重量%の範囲である。
【0022】
さらに(4)繊維長は、2〜30mmとする必要がある。繊維長が2mmを下回ると、セルロース系繊維を強固に接着させるためのネットワークが形成しにくくなり、一方、繊維長が30mmを超えると、抄紙の際に十分な分散性が得られず、好ましくない。繊維長としては、3〜20mmが好ましい。
【0023】
また、本発明の複合繊維に使用する油剤は、(5)親水性の高いポリエステル・ポリエーテル共重合体を主たる構成成分とする必要がある。ポリエステル・ポリエーテル共重合体以外の油剤を使用すると、抄紙の際に十分な分散性が得られず、好ましくない。抄紙の際には水中に複合繊維を分散させることが一般に採用されるので、水への分散性を考慮してポリエーテル部分には主にポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン単位を有することが好ましい。
【0024】
また、本発明の複合繊維には油剤が付着しており、(6)油剤付着率を0.01重量%以上にする必要がある。油剤付着率が0.01重量%を下回ると、抄紙の際に十分な分散性が得られず、好ましくない。油剤付着率としては、0.1重量%以上がより好ましい。油剤付着率は油剤を含まない熱接着性複合繊維の重量を基準として油剤の固形成分の重量率を持って表すことが一般に採用されている。本発明の複合繊維の繊度は特に限定されないが、0.1〜3デシテックスの範囲がセルロース系繊維との熱接着性をより強固にでき好ましい。特に繊度を細くすればするほど構成本数を多くでき、得られる湿式不織布の強力が高くなるため有利である。
【0025】
本発明の複合繊維をセルロース系繊維と混綿して用いる場合、該複合繊維が湿式不織布中に3〜30重量%程度含まれるようにすれば、セルロース繊維との十分な接着性能を発揮できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)繊度
JIS L 1015 7.5.1 A法に記載の方法により測定した。
(2)繊維長
JIS L 1015 7.4.1 C法に記載の方法により測定した。
(3)固有粘度([η])
オルトクロロフェノールを溶媒として、35℃の温度でウベローデ粘度管にて測定した。
(4)メルトインデックス(MI)
JIS K 7210 条件4に記載の方法により測定した。
(5)ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(6)シートの引張り強さおよび地合い
熊谷理機工業株式会社製角型シートマシンを使って、熱接着性複合繊維50%とNBVKPパルプ50%とを水中でよく撹拌、混合して分散させ、大きさが約25cm×約25cmで、目付けが約50g/cmのシートを作製する。該シートを濾紙の間に挟んで、熊谷理機工業株式会社製の高温用回転型乾燥機を使って表面温度140℃の条件で、熱処理を行う。この熱処理されたシートを、JIS P8113に従って引張り強さを測定し、裂断長で表した。熱処理されたシートについては下記の判定基準で地合いの良否も目視で判定した。
地合い○:構成繊維の分布が均一であり、斑が非常に少ない。
地合い△:構成繊維の分布がやや不均一であり、斑がやや目立つ。
地合い×:構成繊維の分布が非常に不均一であり、斑が目立つ。
【0027】
[実施例1]
MIが40g/10分、Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)のチップと、MIが80g/10分、Tmが98℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を幹ポリマーとし、無水マレイン酸が0.20モル/kg、アクリル酸メチルが0.8モル/kgグラフト共重合された変性ポリエチレン(MPE−1)のチップを87:13の割合で混合し、これを二軸エクストルーダーで溶融し、250℃の溶融混合ポリマーとした。この溶融混合ポリマー(熱接着性成分)の無水マレイン酸含有率は0.026モル/kg、MIは43g/10分であった。一方、120℃で16時間真空乾燥した固有粘度[η]が0.61のポリエチレンテレフタレート(Tm=256℃)のペレットをエクストルーダーで溶融し、280℃の溶融ポリマー(繊維形成性成分)とした。両溶融ポリマーを、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとし、かつ重量比がA:B=65:35となるように、直径0.3mmの丸穴キャピラリーを900孔有する公知の芯鞘型複合紡糸口金から、複合化して溶融吐出させた。この際、口金温度は285℃、吐出量は615g/分であった。さらに吐出ポリマーを30℃の冷却風で冷却し、1150m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を72℃の温水中で3倍に延伸した後、酸成分がモル比でテレフタル酸が80%、イソフタル酸が20%と数平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%とを共重合した数平均分子量が約10000のポリエーテル・ポリエステル共重合体のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、110℃で乾燥した後、5mmの繊維長にカットした。ポリエーテル・ポリエステル共重合体の油剤の付着率は0.24%であった。得られた短繊維の繊度は2.3デシテックスであった。得られた繊維を使用して作製したシートの引張り強さと地合いを表1に示した。
【0028】
[比較例1]
MIが40g/10分、Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)のチップを二軸エクストルーダーで溶融し、250℃の溶融ポリマー(熱接着性成分)とした。一方、120℃で16時間真空乾燥した固有粘度[η]が0.61のPETのペレットをエクストルーダーで溶融し、280℃の溶融ポリマー(繊維形成性成分)とした。両溶融ポリマーを、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとし、かつ重量比がA:B=65:35となるように、直径0.3mmの丸穴キャピラリーを900孔有する公知の芯鞘型複合紡糸口金から、複合化して溶融吐出させた。この際、口金温度は285℃、吐出量は615g/分であった。さらに吐出ポリマーを30℃の冷却風で冷却し、1150m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を72℃の温水中で3倍に延伸した後、酸成分がモル比でテレフタル酸が80%、イソフタル酸が20%と数平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%とを共重合した数平均分子量が約10000のポリエーテル・ポリエステル共重合体のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、110℃で乾燥した後、5mmの繊維長にカットした。得られた短繊維の繊度は2.3デシテックスであった。得られた繊維を使用して作製したシートの引張り強さと地合いを表1に示した。
【0029】
[比較例2]
MIが40g/10分、Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)のチップと、MIが80g/10分、Tmが98℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を幹ポリマーとし、無水マレイン酸が0.20モル/kg、アクリル酸メチルが0.8モル/kg共重合された変性ポリエチレン(MPE−1)のチップを87:13の割合で混合し、これを二軸エクストルーダーで溶融し、250℃の溶融混合ポリマーとした。この溶融混合ポリマー(熱接着性成分)の無水マレイン酸含有率は0.026モル/kg、MIは43g/10分であった。一方、120℃で16時間真空乾燥した固有粘度[η]が0.61のPETのペレットをエクストルーダーで溶融し、280℃の溶融ポリマー(繊維形成性成分)とした。両溶融ポリマーを、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとし、かつ重量比がA:B=65:35となるように、直径0.3mmの丸穴キャピラリーを900孔有する公知の芯鞘型複合紡糸口金から、複合化して溶融吐出させた。この際、口金温度は285℃、吐出量は615g/分であった。さらに吐出ポリマーを30℃の冷却風で冷却し、1150m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を72℃の温水中で3倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変性シリコーン=80/20からなる油剤のエマルジョン(濃度2%)を通過させ、約12%の水分率になるように絞った後、110℃で乾燥した後、5mmの繊維長にカットした。得られた短繊維の繊度は2.3デシテックスであった。得られた繊維を使用して作製したシートの引張り強さと地合いを表1に示した。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の熱接着性複合繊維はセルロース系繊維との接着性が良好であるだけでなく、かかる複合繊維によれば、湿式不織布の地合いを均一なものとすることができる。このため、本発明の複合繊維からは、極めて高品質の不織布を製造することができる。加えて、本発明の複合繊維は、熱接着性成分の変性ポリオレフィンの量が少なくて済むため、従来よりも安価な熱接着性繊維を提供できるといった効果を奏するものである。そのためそのようにして得られた不織布はフィルターなど濾過機能を要求される用途に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維形成性成分と熱接着性成分とからなる熱接着性複合繊維であり、不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸無水物を含むビニルモノマーがグラフト共重合された変性ポリオレフィン又は該変性ポリオレフィンと他のポリマーとの混合ポリマーを熱接着性成分とし、該変性ポリオレフィンより融点の高いポリマーを繊維形成性成分とし、少なくとも該熱接着性成分が表面に露出するように両成分が複合化された熱接着性複合繊維であって、該熱接着性複合繊維表面に油剤が付着し、下記(1)〜(6)を満足していることを特徴とする熱接着性複合繊維。
(1)不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物を有するビニルモノマーの含有率が熱接着性成分の重量を基準として、0.005〜0.04モル/kgであること
(2)熱接着性成分のメルトインデックスが15〜200g/10分であること
(3)熱接着性成分の複合繊維に占める割合が40〜95重量%であること
(4)繊維長が2〜30mmであること
(5)油剤がポリエステル・ポリエーテル共重合体であること
(6)油剤付着率が0.01重量%以上であること
【請求項2】
不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物を含むビニルモノマーが、無水マレイン酸であることを特徴とする請求項1記載の熱接着性複合繊維。
【請求項3】
熱接着性複合繊維が、熱接着性成分を鞘、繊維形成性成分を芯とする芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱接着性複合繊維。
【請求項4】
繊維形成性成分がポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3のいずれかに記載の熱接着性複合繊維。

【公開番号】特開2011−74505(P2011−74505A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224591(P2009−224591)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】