説明

湿式塗装ブースにおける塗料粕捕集回収装置、及びそれを用いた塗料粕捕集回収方法

【課題】湿式塗装ブースの粕池の水面上に浮上した、不粘着化した大きな塗料粕や泡状の塗料粕であっても効率的に捕集回収でき、かつ、粕池液面とポンプ設置部の高低差が大きい場合も、十分なポンプ揚程が得られる塗料粕捕集回収装置とそれを用いた塗料粕捕集回収方法を提供する。
【解決手段】開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部17が上部に比べて延伸された形状を有する塗料粕吸引捕集部16と、容積式ポンプを接続することによって構成される塗料粕捕集回収装置、及びそれを用いた塗料粕捕集回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブースの粕池の水面上に浮上した塗料粕を捕集し回収する装置、及びそれを用いた塗料粕を捕集し回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電気製品等の塗装法の一種として、塗料を被塗装物に噴霧するスプレー塗装法がある。スプレー塗装法では塗料品質の保持及び作業環境の保全のため、湿式塗装ブース内で塗料の噴霧が行われている。この湿式塗装ブースは、被塗装物に塗料を噴霧するための塗装室と、塗装室の空気を吸引するためのファンを有するダクトと、吸引した空気とブース循環水とを接触させるための接触部と、ブース循環水を貯留可能な粕池とが備えられている。
【0003】
この湿式塗装ブースでは、被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料がファンによって空気とともにダクト内に吸引される。この際、未塗着塗料は接触部においてブース循環水と接触して捕集され、未塗着塗料を沈殿あるいは浮上させることにより分離される。こうして分離された未塗着塗料は回収される。
【0004】
未塗着塗料の沈殿あるいは浮上、及びその回収は主に粕池で行われるが、沈殿した塗料粕の回収は塗装工場が一定期間操業を休止する時期に合わせて行われる粕池清掃時に主に人力で実施されることが通常であり、操業日程との調整、多量のブース循環水の排水もしくは一時貯留、及び回収した多量の塗料粕の処理など、多くの問題点があった。一方、浮上した塗料粕の捕集回収は塗装工場が操業中であっても連続的に実施できるため、多くの塗装ブースで塗料粕の浮上回収が採用されるようになった。
【0005】
塗料粕の浮上回収に用いる塗料粕捕集回収装置、及び方法としては、バケットによる汲み取り、フロートポンプによる吸引、あるいはスキマーによる掻き寄せなどの手段が知られており、特にフロートポンプによる吸引を主として他の手段を組み合わせた装置や方法が多く提案されている。例えば、特許文献1にはフロートポンプにより回収した塗料粕を傾斜式固液分離装置に送る塗料粕の固液分離方法が開示されており、特許文献2にはフロートポンプのフロート近傍の液面を揺動させて波を生成させて、フロートポンプの吸込口に引っ掛かった大きな塗料粕を吸込口に落とし込む液面浮遊物の吸取装置が開示され、更に特許文献3の図2には、フロートポンプの吐出側から吸引側へ吐出液の一部を戻してエジェクタ効果を発揮させ、吸入効率を上げる構成が示されている。特許文献4には前記のエジェクタノズルに替えて空気吸入口を設け、後続の分離層での塗料粕の浮上分離効率を上げる工夫が示されている。
【0006】
これらの従来技術では粕池にフロートポンプを浮かべて浮上した塗料粕を回収するという技術思想が共通しており、通常、フロートポンプの開口部である吸込口は、ブース循環水の水面に対して平行方向のやや水面下に、上方に開口して設置され、周辺水面から塗料粕とブース循環水を吸引する。しかし、この開口部の欠点は、大きな塗料粕が開口部の外縁部に引っ掛かって、上手く吸込口に落下しないことである。その対策として、上記特許文献2にはフロートポンプのフロート近傍の液面を揺動させて波を生成させて、フロートポンプの吸込口に引っ掛かった大きな塗料粕を吸込口に落とし込む液面浮遊物の吸取装置が開示されているが、そのような対策を追加すると、捕集回収装置の操作が複雑になり、効率的な塗料粕回収を達成することが難しくなる。また、他の欠点は、ブース循環水の水面上に浮上した泡状の粕は軽いので、泡の下部のブース循環水だけを吸込み、泡状の粕を捕集することが難しい。一方、フロートポンプは、遠心ポンプや軸流ポンプの水中ポンプであるが、後続の固液分離装置等との高低差が大きい場合は揚程を高くするために羽根車とポンプケーシングの隙間(ギャップ)を小さくしなければならず、送液量が低下して効率的な塗料粕捕集回収が達成できなくなるとともに、小さい隙間には大きな塗料粕が詰まりやすくなり、ポンプの運転停止を引き起こす。更に、該フロートポンプ及び付帯する装置、機材に不具合が生じた場合は、粕池のいわゆる「岸」にフロートポンプを中心とする捕集回収装置を引き寄せ、あるいは岸に引き上げて修理する必要があり、このような作業は煩雑で手間のかかるものである。
【0007】
一方、特許文献5、6には、開口部(=吸込口)がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口する、すなわち、横方向に開口して設置されている塗料粕吸引捕集部と、それに接続するポンプ部分をいわゆる粕池の岸に置く塗料粕捕集回収装置が開示されている。このような方向の開口部であれば、吸込口に大きな塗料粕が引っ掛かる、泡状の粕を捕集できないなどの、上方に開口して設置される形式の吸込口の欠点は解消されるが、開口部の上下位置が下過ぎると、浮上した塗料粕以外にブース循環水を多く吸込み、逆に上過ぎると空気を多く吸込むという欠点がある。特許文献6の図2には、水位監視装置をエアシリンダーと連動させ、吸込口をエアシリンダーで押すことによって吸込口の上下位置を微調節する方法が示されている。しかし、このような付帯機器を常に調節して適正な位置を維持し続けることは煩雑である。また、特許文献5、6の、いわゆる粕池の岸の地上部分に設置したポンプの種類や性能については何ら記載されておらず、示唆する記載も無いが、一般に多用される遠心ポンプでは、吸込んだ空気によるキャビテーション現象やエアハンマ現象を起こしやすく、また、最近の工場用地の有効利用によって粕池が地下、ポンプが地上に設置される場合は、高いポンプ揚程も要求される。
【0008】
以上のことから、湿式塗装ブース粕池のブース循環水の表面に浮上した塗料粕が大きな塗料粕や泡状の塗料粕であっても、効率的に捕集回収でき、かつ、粕池液面とポンプ設置部の高低差が大きい場合も、十分なポンプ揚程が得られる塗料粕捕集回収装置とそれを用いた塗料粕捕集回収方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−47354号公報
【特許文献2】特開平8−252577号公報
【特許文献3】特開2003−284978号公報
【特許文献4】特開2004−237175号公報
【特許文献5】実開昭55−28451号公報
【特許文献6】特開平7−882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、湿式塗装ブースの粕池の水面上に浮上した塗料粕を捕集回収する装置、及びそれを用いた塗料粕を捕集回収する方法であって、大きな塗料粕や泡状の塗料粕であっても効率的に捕集回収でき、かつ、粕池液面とポンプ設置部の高低差が大きい場合も、十分なポンプ揚程が得られる塗料粕捕集回収装置とそれを用いた塗料粕捕集回収方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口する、すなわち、横方向に開口して設置されている塗料粕吸引捕集部の開口部(=吸込口)の下部が上部に比べて延伸された形状であれば、大きな塗料粕や泡状の塗料粕であっても効率的に捕集回収でき、かつ、延伸された下部構造が開口部の下層からブース循環水の吸込みを抑え、その下部の先端部で必要最小限のブース循環水をすくい取るように吸引できることができることを見出した。また、この塗料粕吸引捕集部に、キャビテーション現象が起こらず、エアハンマ現象も起こしにくい容積式ポンプを接続することによって、粕池液面とポンプ設置部の高低差が大きい場合も、十分なポンプ揚程が得ることができ、本発明を成すに至った。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する塗料粕吸引捕集部と、容積式ポンプを接続する塗料粕捕集回収装置であって、その塗料粕吸引捕集部の開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする塗料粕捕集回収装置である。
【0013】
請求項2に係る発明は、湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する塗料粕吸引捕集部と、容積式ポンプを接続する塗料粕捕集回収方法であって、その塗料粕吸引捕集部の開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする塗料粕捕集回収方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗料粕捕集回収装置と塗料粕捕集回収方法によれば、大きな塗料粕や泡状の塗料粕であっても効率的に捕集回収でき、かつ、粕池液面とポンプ設置部の高低差が大きい場合も、十分なポンプ揚程が得られるため、安定で効率的な湿式塗装ブースの塗料粕捕集回収を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例における全体構成を説明するための概略図である。
【図2】本発明の塗料粕捕集回収装置における、水面に対して垂直方向に開口し、横向きに吸引する形状であって、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有する塗料粕吸引捕集部の一例を示す図である。
【図3】比較例1の塗料粕捕集回収装置における、水面に対して垂直方向に開口し、横向きに吸引する形状であって、該開口部の下部と上部が同じ長さ・垂直位置にある形状を有する塗料粕吸引捕集部の一例を示す図である。
【図4】比較例2、3の塗料粕捕集回収装置における、水面に対して水平方向に開口し、上向きの吸込口を有する塗料粕吸引捕集部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する塗料粕吸引捕集部と、容積式ポンプを接続する塗料粕捕集回収装置、及びそれを用いた塗料粕捕集回収方法であって、その塗料粕吸引捕集部の開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする塗料粕捕集回収装置、及びそれを用いた塗料粕捕集回収方法である。
【0017】
本発明における湿式塗装ブースは、自動車や電気製品等の塗装法の一種であるスプレー塗装法において、被塗装物に塗料を噴霧するための塗装室と、塗装室の空気を吸引するためのファンを有するダクトと、吸引した空気とブース循環水とを接触させるための接触部と、ブース循環水を貯留可能な粕池とが備えている形式の塗装ブースである。
【0018】
本発明における、湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕は、ブース循環水の水面上に浮いた塊状の大きな塗料粕やブース循環水の水面上に浮上した泡状の粕等を含み、それらの塗料粕は浮上処理、又は浮上分散処理によって得ることができる。
【0019】
前記の浮上処理、又は浮上分散処理に用いられる不粘着化剤としては、メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイド、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリオレフィン樹脂エマルション、高級脂肪酸エマルション、高級アルコールエマルション、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミナゾル、ベントナイト、セピオライトなどが使用でき、対象となる塗料の種類や性状に合わせて適宜選択できるが、好ましくは、メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイド、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリオレフィン樹脂エマルション、高級脂肪酸エマルション、高級アルコールエマルション、アルミナゾルである。
【0020】
該不粘着化剤の添加量は、対象となる塗料の種類や性状に合わせて適宜選択できるが、通常は3〜10重量%対未塗着塗料である。
【0021】
また、前記の浮上分散処理には、通常、高分子凝集剤が併用され、その高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、ポリアクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリルアミド−アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド共重合体、アクリルアミド−メタクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド共重合体、アクリルアミド−[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロライド・[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム共重合体、DADMAC−アクリルアミド共重合体などが使用でき、対象となる塗料の種類や性状に合わせて適宜選択できるが、好ましくは、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、アクリルアミド−アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド共重合体、アクリルアミド−メタクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド共重合体、アクリルアミド−[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロライド・[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム共重合体である。
【0022】
該高分子凝集剤の添加量は、対象となる塗料の種類や性状に合わせて適宜選択できるが、通常は0.1〜2重量%対未塗着塗料である。
【0023】
本発明における塗料粕吸引捕集部は、湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する構造物であり、その開口部(=吸込口)がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする。
【0024】
本発明で用いる容積式ポンプは、往復ポンプと回転ポンプに分類され、往復ポンプの種類として、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ベローズポンプ、及びダイヤフラムポンプ等があり、回転ポンプの種類として、ギアーポンプ(=歯車ポンプ)、ベーンポンプ、ネジポンプ、及びローラーポンプ等があり、一般的に高い揚程が得られ、キャビテーション現象が起こらず、エアハンマ現象も起こし難い特徴がある。中でも、捕集した大きな塗料粕が比較的壊されずに移送できる往復ポンプが好ましく、更に送液量の大きいダイヤフラムポンプが特に好ましい。
【0025】
また、本発明で用いる容積式ポンプの動力源としては、モーター駆動、ソレノイド駆動、又はエア駆動等の種類があるが、いずれも適用でき、適宜選択できる。
【0026】
本発明の塗料粕捕集回収装置に後続する固液分離装置は、各種の装置が選択でき、例えば、デカンターやスキマー付き加圧浮上装置などが挙げられるが、特に加圧浮上装置は、往復ポンプによって大きな塗料粕が壊されずに導入されれば、良好な固液の浮上分離効率が得られるため、本発明の塗料粕捕集回収装置に往復ポンプを採用した場合には、後続する固液分離装置として適している。
【0027】
本発明の塗料粕捕集回収方法は、湿式塗装ブースの粕池において、前記の浮上処理、又は浮上分散処理によって得られた、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する塗料粕吸引捕集部と、容積式ポンプを接続する塗料粕捕集回収装置を用いた塗料粕捕集回収方法であって、その塗料粕吸引捕集部の開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする。
【0028】
本発明の塗料粕捕集回収方法について、例えば、図1に基づいて、塗料粕吸引捕集部の開口部(=吸込口)の上下位置の設定方法について説明すると、塗料粕吸引捕集部5にフロート6を付属させ、ブース循環水の水面に横向きに開口部を設置して粕池に浮かべ、その開口部の上部に比べて延伸された下部構造を水面からやや水面下に設置し、吸引するブース循環水の表層部分が流動性を保つために必要な最小限のブース循環水をすくい取るように、塗料粕吸引捕集部5の上下位置をフロート6で調節する。この塗料粕吸引捕集部の、ブース循環水の水面に対する位置が上過ぎると、吸引されるブース循環水の表層部分の流動性を保つために必要なブース循環水の割合が減り、かつ、不要な空気を吸引し、送液運転の安定性に支障を来たす。また、塗料粕吸引捕集部の、ブース循環水の水面に対する位置が下過ぎると、ブース循環水の割合が増えて吸引物の流動性は良くなるが、水面上に浮上している不粘着化した塗料粕7の捕集率が低下し、効率的な塗料粕回収を達成することが難しくなる。
【0029】
該塗料粕吸引捕集部5はホースで容積式ポンプ8に接続されるが、このホースは一旦、粕池に沈めた後、水面から立ち上げて容積式ポンプ8に接続することにより、不要な空気を吸引することを防ぐ。容積式ポンプ7は粕池の「岸」の地上部に設置する。このようにして捕集回収された塗料粕は後続の固液分離装置(図1ではスキマー付き加圧浮上装置9)に移送されて、より濃縮された塗料粕を得ることができる。
【0030】
本発明の効果を減じない範囲で、本発明の塗料粕捕集回収装置、及び塗料粕捕集回収方法に、他の処理剤や他の装置を併用することができる。例えば、臭気対策処理剤、微生物製剤、及び消泡剤(ただし、完全に泡を消すと塗料粕の捕集率が低下する)などを併用することができ、また、粕池に曝気装置などを設置するのもよい。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
本発明の実施形態の一例を図1に示す。湿式塗装ブースには、被塗装物に塗料を噴霧するための塗装室1、未塗着塗料をブース循環水に接触させてブース循環水中に捕集する接触部2、ブース循環水を貯留可能な粕池3、及びブース循環水を循環する循環ポンプ4が備えられている。接触部2においてブース循環水中に捕集された未塗着塗料は、そのブース循環水に循環ポンプ4の吸入側で添加されていた不粘着化剤14によって不粘着化され、更に接触部2から粕池への落ち口近傍に添加された高分子凝集剤15によって凝集し、粕池のブース循環水表面に浮上し不粘着化した塗料粕7が形成される。フロート6で上下位置を調整した塗料粕吸引捕集部5は容積式ポンプ8に接続され、容積式ポンプ8を稼動させることにより、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕7、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を塗料粕吸引捕集部5で吸引捕集する。容積式ポンプ8は粕池の「岸」の地上部に設置した。このようにして捕集回収された塗料粕は容積式ポンプ8から後続のスキマー付き加圧浮上装置9に移送され、加圧水10(コンプレッサー等は省略)と混合されて加圧浮上装置9の水面に浮上分離しスキマー11で掻き取られ、より濃縮された塗料粕12として回収される。また、塗料粕を分離した後の処理水13は粕池3に戻される。
【0033】
実施例1は、図1の実施形態に従って実施したものであり、使用塗料は自動車用の水性ベース塗料であって、不粘着化剤14としては、メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイドを5重量%対未塗着塗料、高分子凝集剤15としては、アクリルアミド−アクリル酸共重合体を0.5重量%対未塗着塗料を用いた。塗料粕吸引捕集部5の開口部(=吸込口)はブース循環水の水面に対して垂直方向に開口しており、ブース循環水の表層部分を横向きに吸引する形状であって、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有する。その開口部の模式図を図2に示した。また、容積式ポンプ8としては、エア駆動式ダイヤフラムポンプであるウェルデンポンプ(商品名:Wilden Pump&Engineering社(アメリカ)製)を用いた。このウェルデンポンプは粕池の「岸」の地上部に設置し、その送液量は、約100L/分であり、また、粕池水面からの揚程は約10mであった。
【0034】
効果は、(3日間に発生した未塗着塗料の総乾燥重量+3日間に添加した薬剤の総乾燥重量)に対する3日間に加圧浮上装置によって回収された塗料粕の総乾燥重量の割合(%)で算出される、3日間運転後の塗料粕回収率で評価した。
【0035】
(実施例2)
実施例2は、使用塗料を自動車用の油性クリア塗料に替えた以外は、実施例1と同じ条件であった。
【0036】
(実施例3)
実施例3は、使用塗料を自動車用の水性ベース塗料と油性クリア塗料の2種併用に替えた以外は、実施例1と同じ条件であった。その水性ベース塗料と油性クリア塗料の未塗着塗料重量比は約2:1であった。
【0037】
(比較例1)
比較例1は、塗料粕吸引捕集部5を、図3に示した、開口部(=吸込口)がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口しており、ブース循環水の表層部分を横向きに吸引する形状であるが、該開口部の下部と上部は同じ長さ・垂直位置にある形状の塗料粕吸引捕集部に取り替えた以外は、実施例1と同じ条件であった。
【0038】
(比較例2)
比較例2は、塗料粕吸引捕集部5を、図4に示した、開口部がブース循環水の水面に対して水平方向に開口し、上向きの吸込口からブース循環水の表層部分を吸引する形状の塗料粕吸引捕集部に取り替えた以外は、実施例1と同じ条件であった。
【0039】
(比較例3)
比較例3は、塗料粕吸引捕集部5と容積式ポンプ8(ウェルデンポンプ)を従来のフロートポンプ(上向きの吸込口に水中ポンプを直結した形式)に替えた以外は、実施例1と同じ条件であった。
【0040】
実施例1〜3と比較例1〜3の結果を表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜3では、良好な塗料粕回収率が得られた。比較例1では、開口部(=吸込口)の下層からもブース循環水を吸引するため、相対的に塗料粕の吸引量が低下し、効率的な塗料粕の回収ができず、塗料粕回収率は低い値となった。比較例2では、塗料粕吸引捕集部の吸込口の外縁部に大きい滓が引っ掛かり、吸込口への浮上塗料粕の回収が妨げられたため、塗料粕回収率は低い値となった。比較例3では、フロートポンプの揚程が短いため、加圧浮上装置まで安定的に送液することができず、塗料粕の回収はほとんどできなかった。
【0043】
以上の結果から、本発明の塗料粕捕集回収装置と塗料粕捕集回収方法によれば、湿式塗装ブース粕池のブース循環水の表面に浮上した塗料粕が大きな塗料粕や泡状の塗料粕であっても、必要最小限のブース循環水を吸引する吸込口形状によって効率的に捕集回収でき、かつ、粕池液面とポンプ設置部の高低差が大きい場合も、十分なポンプ揚程が得られ、キャビテーション現象やエアハンマ現象を起こして稼動停止になることの無い、安定で効率的な湿式塗装ブースの塗料粕捕集回収を達成することができることが示された。
【符号の説明】
【0044】
1:塗装室
2:接触部
3:粕池
4:循環ポンプ
5:塗料粕吸引捕集部
6:フロート
7:粕池ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕
8:容積式ポンプ
9:スキマー付き加圧浮上装置
10:加圧水
11:スキマー
12:より濃縮された塗料粕
13:処理水
14:不粘着化剤
15:高分子凝集剤
16:水面に対して垂直方向に開口し、横向きの吸込口を有する塗料粕吸引捕集部
17:水面に対して垂直方向に開口し、横向きの吸込口の延伸された下部構造
18:フロート
19:塗料粕吸引捕集部と容積式ポンプを接続するホース
20:水面に対して水平方向に開口し、上向きの吸込口
21:水面

:ブース循環水の表層部分の流れを示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する塗料粕吸引捕集部と、容積式ポンプを接続する塗料粕捕集回収装置であって、その塗料粕吸引捕集部の開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする塗料粕捕集回収装置。
【請求項2】
湿式塗装ブースの粕池において、ブース循環水の表面に浮上した不粘着化した塗料粕、及びブース循環水を含むブース循環水の表層部分を吸引する塗料粕吸引捕集部と、容積式ポンプを接続する塗料粕捕集回収方法であって、その塗料粕吸引捕集部の開口部がブース循環水の水面に対して垂直方向に開口し、該開口部の下部が上部に比べて延伸された形状を有することを特徴とする塗料粕捕集回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−200693(P2012−200693A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69051(P2011−69051)
【出願日】平成23年3月27日(2011.3.27)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】