説明

湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】 本発明は、不揮発分が10重量%以上、50%未満の油性塗料を使用している湿式塗装ブースにおいて、当該油性塗料の未塗着塗料の不粘着化を改善し、未塗着塗料による関連設備の循環水の閉塞をなくし、塗装設備全般の操業効率の向上と経済性の向上および装置保全の向上を図ることにある。
【解決手段】 不揮発分が10重量%以上、50重量%未満である油性塗料を使用している湿式塗装ブースにおいて、湿式塗装ブース循環水にジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜10に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、家庭電気製品などの塗装工程で油性塗料を用いている湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家庭用電気製品などの塗装工程では一般に塗装ブース内でポリアクリル樹脂系やポリエステル樹脂系の油性塗料を噴霧して塗装し、対象物に塗着しなかった未塗着塗料は水で捕集し処理されている。水に捕集された未塗着塗料は粘着性が高いため、ポンプ、循環水配管、シャワーノズルなどに付着して水の循環を悪くし、さらに塗料の捕集効率を著しく低下させる原因となる。これは作業効率の低下ばかりでなく、装置寿命の短期化、塗料ミストの屋外排出、臭気の発生などの問題を引き起こすことになる。
【0003】
これらの問題を解決するために、スプレーブース循環水の処理として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を使用する方法(例えば特許文献1参照)、亜鉛、鉄、アルミニウムなどの両性金属塩とヘキサメチレンジアミン・エチレンジクロライド重合体とポリアミド・エピクロリヒドリン樹脂を使用する方法(例えば特許文献2参照)、硫酸アルミニウムとジメチルアミノメタクリレート硫酸塩−(メタ)アクリルアミド共重合体を使用する方法(例えば特許文献3参照)、アルミニウム塩と両性重合体を使用する方法(例えば特許文献4参照)、メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイドを使う方法(例えば特許文献5参照)、尿素−メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイドを使用する方法(例えば特許文献6参照)、水溶性のタンパク質を使う方法(例えば特許文献7参照)、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアニオン性水溶性高分子やポリエチレングリコールなどの非イオン性水溶性高分子とポリ塩化アルミニウムなどの凝結剤を組み合わせる方法(例えば特許文献8参照)、硫酸アルミニウムとカチオン性重合体を組み合せて用いる方法(例えば特許文献9参照)、ベーマイトアルミナを用いる方法(例えば特許文献10参照)などが提案されている。さらに近年、不揮発分を高くした塗料のハイソリッド化に対応して、ブース循環水に捕集された未塗着塗料をジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体とアルミン酸ソーダによる処理する方法(例えば特許文献11参照)も提示されている。しかし、未だに大量に用いられている低不揮発分油性塗料(塗料固形分濃度50重量%に満たない低固形分濃度塗料)の不粘着化効果や処理コストに満足できる方法は得られていない。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4678586号公報明細書
【特許文献2】特開昭59−155481号公報
【特許文献3】特開平4−334574号公報
【特許文献4】特開平5−253531号公報
【特許文献5】特公平4−2317号公報
【特許文献6】特開昭63−241089号公報
【特許文献7】特開昭63−260970号公報
【特許文献8】特開平1−281172号公報
【特許文献9】米国特許第5192449号公報明細書
【特許文献10】特開平2−18492号公報
【特許文献11】特開2001−212571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、不揮発分が10重量%以上、50重量%未満である油性塗料を使用している湿式塗装ブースにおいて、当該油性塗料の未塗着塗料の不粘着化を改善し、未塗着塗料による関連設備の循環水の閉塞をなくし、塗装設備全般の操業効率の向上と経済性の向上および装置保全の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは低不揮発分の油性塗料を使用している湿式塗装ブースにおける未塗着塗料の不粘着化について鋭意研究を重ねた結果、特定のカチオン性重合体が低不揮発分油性塗料の不粘着化に有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、不揮発分が10重量%以上、50重量%未満である油性塗料を使用している湿式塗装ブースにおいて、湿式塗装ブース循環水にジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜10に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、湿式塗装ブース循環水量に対する塗料負荷が5〜100(mg/L−ブース循環水)であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、油性塗料がアクリル樹脂系塗料であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、油性塗料がメタリック系塗料であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドをモル比で90:10〜10:90で含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、不揮発分が10重量%以上、50重量%未満である油性塗料を使用する湿式塗装ブース循環水に捕集された塗料は効率よく不粘着化され、また塗料滓の固液分離に用いる遠心分離器内部への付着が大幅に減少する。これにより、従来よりもコストパフォーマンスに優れた未塗着塗料の不粘着化処理ができ、湿式塗装ブース及びその付帯装置の保全及び操業性向上に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、不揮発分が10重量%以上、50重量%未満である油性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて、ブース循環水にジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜10に調整して、未塗着塗料の不粘着化を行うものである。
【0014】
本発明の対象とする湿式塗装ブースは、自動車、家庭電化製品、金属加工製品、金属製事務機器などの金属製品の塗装工程で使用される塗装吹きつけ工程での未塗着塗料を水で捕集する設備及びその付帯設備一式を含めた水による未塗着塗料捕集システムである。
【0015】
本発明で対象とする油性塗料(以下「油性塗料」とする。)は、メラミン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アルキッド樹脂系塗料(アミノアルキッド樹脂を含む)、ポリエステル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料及びこれらの1種以上を含む油性塗料である。中でもアクリル樹脂系塗料に好適である。アクリル樹脂系塗料は、一般に上塗りクリア塗料として多用されている。また、油性塗料の不揮発分は10重量%以上、50重量%未満であり、中でも不揮発分が15%以上、40%未満の油性塗料が好適である。不揮発分が15%以上、40%未満の油性塗料の油性塗料としては、メタリック系塗料が挙げられる。
【0016】
本発明におけるブース循環水の塗料負荷は、5〜100(mg/L−ブース循環水量)であり、好ましくは10〜70(mg/L−ブース循環水量)である。ここで塗料負荷とは、湿式塗装ブース循環水:1Lによって捕集される塗布直後の未塗着油性塗料の重量(mg)を意味する。塗料負荷が100(mg/L−ブース循環水量)を超える場合、本発明の効果が得られない場合がある。
【0017】
本発明のジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体(以下、「DADMAC−AM共重合体」とする。)は、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)とアクリルアミド(AM)を共重合体の構成単位として含む重合体である。ジアリルジメチルアンモニウムクロライドが共重合体において10〜90モル%、好ましくはジアリルジメチルアンモニウムクロライドが20〜80モル%含有する共重合体である。また、アクリルアミドは共重合体において10〜90モル%、好ましくはアクリルアミドが20〜80モル%含有する共重合体である。ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アクリルアミドのモル%の範囲は、実績から見出されたものであり、この範囲以外であれば、本発明の効果を得ることができない。また、DADMAC−AM共重合体中のジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドの比率は、モル比で90:10〜10:90、好ましくは80:20〜80:20である。
【0018】
また、DADMAC−AM共重合体の分子量は、10,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜500,000である。分子量が10,000未満では、未塗着塗料の不粘着化が十分でなく、本発明の効果を得ることができない。一方、分子量が1,000,000を超えては、未塗着塗料の不粘着化と未塗着塗料の凝集が同時に起こるために十分な未塗着塗料の不粘着化が得られない場合がある。
【0019】
DADMAC−AM共重合体の添加量は、塗布直後の未塗着油性塗料に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。DADMAC−AM共重合体の添加量が0.1重量%未満では、十分な不粘着化硬化が得られない。また、20重量%を超えて添加しても添加量の増加に見合うだけの効果の向上が無く、経済的メリットが得られない場合がある。
【0020】
従来、油性塗料の湿式塗装ブースにおいて、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを含む共重合体単独で油性塗料の不粘着化処理を行う方法が有効であることは知られていない。特に、不揮発分が10重量%以上、50重量%未満の油性塗料では、湿式塗装ブース循環水量に対する塗料負荷が5〜100(mg/L−ブース循環水量)の範囲で、従来では予想し得ない優れたコストパフォーマンスを有する不粘着化効果を発揮し、未塗着塗料の処理を容易にするものである。
【0021】
DADMAC−AM共重合体の添加場所は、未塗着塗料を含む循環水中に処理剤が充分に分散される箇所であればよく特に限定されるものではないが、通常循環水の流れが良い箇所、例えば、循環ポンプの手前である。また、DADMAC−AM共重合体の添加方法は、特に限定するものではないが水溶液にして、ポンプで連続添加あるいは間歇添加するなど適宜選択される。
【0022】
本発明における湿式塗装ブース循環水のpHは6〜10である。湿式塗装ブース循環水のpHが6よりも低いと不粘着化効果が低下し、pHが10を超えると不粘着化効果の低下に加えて湿式塗装ブース循環水の発泡が増加する場合があり、好ましくない。pHの調整には、塩酸、硫酸などの無機酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ剤を適宜選択して調整される。
【0023】
本発明の効果に支障をきたさない範囲で他の湿式塗装ブース循環水処理剤を用いてもよく、これを何ら妨げるものではない。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔ジアリルジメチルアンモニウムクロリド−アクリル酸アミド(DADMAC−AM)共重合体〕
A−1:DADMAC−AM共重合体[DADMAC:AM=90:10(モル比)共重合体〔分子量:100万、固形分8%〕
A−2:DADMAC−AM共重合体[DADMAC:AM=80:20(モル比)共重合体〔分子量:100万、固形分10%、SNF社製、「D6080」(商品名)〕
A−3:DADMAC−AM共重合体[DADMAC:AM=70:30(モル比)共重合体〔分子量:100万、固形分10%、SNF社製、「D6070」(商品名)〕
A−4:DADMAC−AM共重合体[DADMAC:AM=30:70(モル比)共重合体〔分子量:100万、固形分8%、SNF社製、「D6030」(商品名)〕
A−5:DADMAC−AM共重合体[DADMAC:AM=20:80(モル比)共重合体〔分子量:100万、固形分10%、SNF社製、「D6020」(商品名)〕
A−6:DADMAC−AM共重合体[DADMAC:AM=10:90(モル比)共重合体〔分子量:100万、固形分10%:SNF社製、「D6010」(商品名)〕
【0025】
〔本発明以外のカチオン性重合体〕
B−1:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)(固形分20%、分子量70万)〔「PRP4520」(商品名)、SNF社製〕
B−2:ポリアクリルアミド(分子量600万)〔「ダイヤフロックNP−800L」(商品名)、ダイヤフロック(株)製〕
B−3:ポリエチレンイミン(固形分:30%、分子量7万)〔「エポミンP−1000」(商品名)、日本触媒(株)製〕
B−4:ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合物(固形分50、分子量5万)〔旭電化工業(株)製〕
B−5:ジメチルアミン−ジメチルアミン-エピクロルヒドリン−アンモニア縮合物(固形分45%、分子量8万)〔旭電化工業(株)製〕
B−6:ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩−アクリルアミド共重合物(分子量300万)〔「スミフロックFC−250G」(商品名)、住友化学工業(株)製〕
B−7:ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩−アクリル酸−アクリルアミド共重合物(分子量550万)〔「アロンフロックCX−100」(商品名)、東亜合成(株)製〕
【0026】
〔その他処理剤〕
C−1:アルミン酸ナトリウム(Alとして10.6%含有)〔「SA−2019」(商品名)、昭和軽金属(株)製〕
C−2:ポリ塩化アルミニウム溶液(Alとして5.8%含有)〔住友化学工業(株)製〕
C−3:硫酸バンド溶液(Alとして4.2%含有)〔住友化学工業(株)製〕
C−4:硝酸アルミニウム〔和光純薬(株)製試薬〕
C−5:メラミン−ホルムアルデヒド樹脂酸コロイド〔メラミン:ホルムアルデヒド=1:2.19(重量比)のメチロール化メラミン100gを1.35%の塩酸溶液1L中に攪拌下、添加して酸コロイドを作成した。〕
C−6:カゼインナトリウム〔関東化学(株)試薬〕
【0027】
(塗料不粘着化試験)
図1に示した試験装置(保有水量は100リットル、循環水量は50リットル/分)を用いて試験を行った。市水100Lを循環水ピット1に入れ、DADMAC−AM共重合体(A−1)を75g添加し、循環ポンプ3を作動させて水を循環させ、DADMAC−AM共重合体(A−1)均一に溶解させた。希塩酸あるいは希水酸化ナトリウム水溶液でDADMAC−AM共重合体(A−1)水溶液のpHを7.5に調製し、塗料不粘着化試験用の循環水2とした。循環水2を50L/分で循環させながら、スプレーガン6と圧縮空気8を用いて油性塗料〔機械部品用アミノアルキッド樹脂系焼き付け油性塗料、日本ペイント(株)製、「オルガセレクト100スーパーホワイト」(商品名)、不揮発分40%〕7を塗料捕集部5に向けて20分間で60gをスプレー塗布した。スプレー終了後、浮上分離した塗料滓9を取り出し、指触にて不粘着化効果を判定した。指触による不粘着化の判定は、「○:不粘着化良好」、「×:不粘着化不良」とした。同様にして、種々のDADMAC−AM共重合体及びその他の処理剤を用いて塗料不粘着化試験を行った。その結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
低不揮発分(40%)油性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて、本発明のDADMAC−AM系共重合体によりブース循環水中の未塗着塗料は不粘着化され、浮上分離あるいは遠心分離などにより該不粘着化された塗料滓の固液分離が容易となり、更に分離した水は循環して再度使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】試験装置
【符号の説明】
【0031】
1:循環水ピット
2:循環水
3:循環ポンプ
4:循環水配管
5:塗料捕集部
6:スプレーガン
7:塗料
8:圧縮空気
9:塗料滓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発分が10重量%以上、50重量%未満である油性塗料を使用している湿式塗装ブースにおいて、湿式塗装ブース循環水にジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜10に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
湿式塗装ブース循環水に対する塗料負荷が5〜100(mg/L−ブース循環水)である請求項1記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項3】
油性塗料がアクリル樹脂系塗料である請求項1又は請求項2記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項4】
油性塗料がメタリック樹脂系塗料である請求項1又は請求項2記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項5】
ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドを構成単位として含む共重合体が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドをモル比で90:10〜10:90で含む請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−126109(P2008−126109A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311662(P2006−311662)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】