説明

湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】油性塗料、水性塗料、油性塗料と水性塗料が混在する種々のブース循環水中の未塗着塗料の不粘着化を改善し、不粘着化された塗料滓と処理水との固液分離を容易にし、当該処理水の清澄性を高める湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供する。
【解決手段】ブース循環水に(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩、(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドを構成単位として含むカチオン共重合体及び(C)(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドを構成単位として含むカチオン共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜11に調整することにより未塗着塗料の不粘着化を改善し、不粘着化された塗料滓と処理水との固液分離を容易にし、当該処理水の清澄性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、家庭電気製品などの塗装工程における湿式塗装ブースの水に捕集された水性塗料あるいは油性塗料又はこれらが混在している場合の未塗着塗料ミストを不粘着化し、塗料滓と処理水との固液分離を容易にする湿式塗装ブース循環水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や電気製品等の塗装法の一種として、油性塗料あるいは水性塗料を被塗装物に噴霧するスプレー塗装法がある。スプレー塗装法では塗料品質の保持及び作業環境の保全のため、湿式塗装ブース内で塗料の噴霧が行われている。この湿式塗装ブースは、被塗装物に塗料を噴霧するための塗装室と、塗装室の空気を吸引するためのファンを有するダクトと、吸引した空気とブース循環水とを接触させるための接触部と、ブース循環水を貯留可能なピットとが備えられている。この湿式塗装ブースでは、被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料がファンによって空気とともにダクト内に吸引される。この際、未塗着塗料は接触部においてブース循環水と接触して捕集され、未塗着塗料を沈殿あるいは浮上させることにより分離される。こうして分離された未塗着塗料は回収され、廃棄処分される。
【0003】
このようなスプレーブース循環水の未塗着塗料処理剤として種々の方法が提案されている。例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を使用する方法(例えば特許文献1参照)、亜鉛、鉄、アルミニウムなどの両性金属塩とヘキサメチレンジアミン・エチレンジクロライド重合体とポリアミド・エピクロリヒドリン樹脂を使用する方法(例えば特許文献2参照)、硫酸アルミニウムとジメチルアミノメタクリレート硫酸塩−(メタ)アクリルアミド共重合体を使用する方法(例えば特許文献3参照)、アルミニウム塩と両性重合体を使用する方法(例えば特許文献4参照)、メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイドを使う方法(例えば特許文献5参照)、尿素−メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイドを使用する方法(例えば特許文献6参照)、水溶性のタンパク質を使う方法(例えば特許文献7参照)、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアニオン性水溶性高分子やポリエチレングリコールなどの非イオン性水溶性高分子とポリ塩化アルミニウムなどの凝結剤を組み合わせる方法(例えば特許文献8参照)、硫酸アルミニウムとカチオン性重合体を組み合せて用いる方法(例えば特許文献9参照)、ベーマイトアルミナを用いる方法(例えば特許文献10参照)などが提案されている。さらに近年、不揮発分を高くした塗料のハイソリッド化に対応して、ブース循環水に捕集された未塗着塗料をジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体とアルミン酸ソーダによる処理する方法(例えば特許文献11参照)も提示されている。アルカリ剤は未塗着油性塗料の表面をケン化し、不粘着化することによって、配管への未塗着油性塗料の付着を防ぐものである。また、カチオンポリマー、無機凝集剤及びメラミン−アルデヒド樹脂酸コロイドは、未塗着塗料の表面に付着し、不粘着化して固液分離を容易化するものである。
【0004】
上記従来のブース循環水の処理方法では、ブース循環水中の未塗着塗料の種類に応じた、適切な塗料処理剤を選択することにより、未塗着塗料の固液分離を容易に行うことができる。しかし、近年においては、有機溶剤の環境への影響を考慮して、油性塗料の改良や水性塗料も多用されるようになった。このため、ブース循環水に油性塗料、水性塗料、油性塗料と水性塗料が混在する場合など種々の状況が生じ、状況に応じて油性塗料用の塗料処理剤、水性塗料用の塗料処理剤の単独使用や併用が行われている。
【0005】
しかし、塗料の改良、周辺環境への影響を考慮すると、従来の処方では、未塗着塗料の不粘着化及び分離したブース循環水の清澄化に満足しうる程度には至っておらず、その改良が強く求められている。
【特許文献1】米国特許第4678586号公報明細書
【特許文献2】特開昭59−155481号公報
【特許文献3】特開平4−334574号公報
【特許文献4】特開平5−253531号公報
【特許文献5】特公平4−2317号公報
【特許文献6】特開昭63−241089号公報
【特許文献7】特開昭63−260970号公報
【特許文献8】特開平1−281172号公報
【特許文献9】米国特許第5192449号公報明細書
【特許文献10】特開平2−18492号公報
【特許文献11】特開2001−212571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、油性塗料、水性塗料、油性塗料と水性塗料が混在する等の種々のブース循環水中の未塗着塗料の不粘着化を改善し、不粘着化された塗料滓と処理水との固液分離を容易にし、当該処理水の清澄性を高める湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは湿式塗装ブース循環水中における塗料の不粘着化について鋭意研究を重ねた結果、特定pH域でフロックを形成するアルミニウム塩と特定の2種以上の異なるカチオン重合体を用い、かつ当該ブース循環水のpHを特定の範囲内にすることにより、塗料の不粘着化が効率よく達成さ、不粘着化された塗料滓と処理水との固液分離を容易になり、処理水の清澄性が高まることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、請求項1記載の発明は、湿式塗装ブース循環水の処理方法であって、(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩、(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドを構成単位として含むカチオン共重合体及び(C)(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドを構成単位として含むカチオン共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜11に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩がアルミン酸ナトリウム及び/又はアルミン酸カリウムであることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、(B)カチオン共重合体がジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミドを20:80〜80:20のモル比で含む共重合体であることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、(C)カチオン共重合体が(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドを20:80〜80:20のモル比で含む共重合体であることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法であり、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリドが、(2−アクリロイルオキシ)エチル)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド及び/又は(2−アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法により、油性塗料、水性塗料、油性塗料と水性塗料とが混在する等の種々の塗料を含むブース循環水であっても、ブース循環水中に捕集された未塗着塗料の不粘着化の効率が改善され、不粘着化された塗料滓と処理水との固液分離が容易になり、装置の保全や作業性の改善及び操業性向上に大きく寄与する。さらに、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法により、当該ブース循環水の処理水の清澄性が著しく向上するため、排出されるブース循環水の再処理コストの大幅な低減がもたらされる。また、その結果、周辺環境に対しても好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、湿式塗装ブース循環水の処理方法であって、(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩、(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドを構成単位として含むカチオン共重合体及び(C)(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリドを構成単位として含むカチオン共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜11に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法である。
【0015】
本発明における湿式塗装ブースで用いられる塗料としては、特に限定されるものではなく通常使用されている油性塗料、水性塗料、油性塗料と水性塗料を併用する場合が対象となる。水性塗料としては、例えば水性アルキッド樹脂塗料、水性ポリエステル樹脂塗料、水性アクリル樹脂塗料、水性ポリウレタン樹脂塗料等が挙げられる。また、油性塗料としては、例えばエポキシ樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノ樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、フェノール樹脂塗料、セルロース誘導体塗料、酒精塗料等が挙げられる。これらの油性塗料、水性塗料の単独使用の場合及び油性塗料と水性塗料を併用する場合等のいずれの場合でもよい。
【0016】
本発明における(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩(以下、「(A)アルミニウム塩」とする)は、湿式塗装ブース循環水のpHを6〜11とすることで当該ブース循環水中の未塗着塗料の不粘着化と、当該不粘着化塗料を除去したブース循環水の清澄化に効果を発揮する。特に(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドを構成単位として含むカチオン共重合体と、(C)(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリドを構成単位として含むカチオン共重合体との共存下、湿式塗装ブース循環水のpHを6〜11とすることで当該ブース循環水中の未塗着塗料の不粘着化と、当該不粘着化塗料を除去したブース循環水の清澄化に予測し得ない相乗効果を発揮する。
【0017】
(A)アルミニウム塩としては、無機系アルミニウム塩及び有機系アルミニウム塩があり、いずれであってもよい。無機系のアルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、カリ明礬、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが挙げられる。有機系のアルミニウム塩としては、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、グルコン酸などのオキシカルボン酸のアルミニウム塩などが挙げられる。また、これらは水和物塩であってもよい。中でもアルミン酸ナトリウム及び/又はアルミン酸カリウムが取り扱い性、入手の容易さから好適である。これらアルミニウム塩は単独あるいは2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0018】
本発明における(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドを構成単位として含むカチオン共重合体(以下、「(B)カチオン共重合体」とする)は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドをモル比で90:10〜10:90、好ましくは20:80〜80:20で含むカチオン共重合体である。ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドのモル比の範囲は、実績から見出されたものであり、この範囲以外であれば、ブース循環水中の未塗着塗料の不粘着化が十分に得られなかったり、当該不粘着化塗料を除去したブース循環水の清澄化が十分に得られない場合がある。
【0019】
(B)カチオン共重合体の分子量は、通常10,000〜10,000,000、好ましくは100,000〜5,000,000、より好ましくは500,000〜3,000,000である。分子量が10,000未満では、未塗着塗料の不粘着化が十分でなく、本発明の効果を得ることができない。一方、分子量が10,000,000を超えては、未塗着塗料の不粘着化と未塗着塗料の凝集が同時に起こるために十分な未塗着塗料の不粘着化が得られない場合がある。また、(B)カチオン共重合体として、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミド以外の構成単位、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリロニトリル、アリルアミン、N、N−ジメチルアリルアミン、N、N−ジエチルアリルアミン、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、スチレン等の重合性ビニル化合物を含んでいてもよい。
【0020】
本発明における(C)(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドを構成単位として含むカチオン共重合体(以下、「(C)カチオン共重合体」とする)は、(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドをモル比で90:10〜10:90、好ましくは20:80〜80:20で含むカチオン共重合体である。(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドのモル比の範囲は、実績から見出されたものであり、この範囲以外であれば、ブース循環水中の未塗着塗料の不粘着化が十分に得られなかったり、当該不粘着化塗料を除去したブース循環水の清澄化が十分に得られない場合がある。
【0021】
(C)カチオン共重合体の分子量は、通常10,000〜10,000,000、好ましくは100,000〜5,000,000、より好ましくは500,000〜4,000,000である。分子量が10,000未満では、未塗着塗料の不粘着化が十分でなく、本発明の効果を得ることができない。一方、分子量が10,000,000を超えては、未塗着塗料の不粘着化と未塗着塗料の凝集が同時に起こるために十分な未塗着塗料の不粘着化が得られない場合がある。
【0022】
(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリドとしては、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリエチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)エチルジメチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ジエチルメチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリプロピルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルプロピルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルブチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルペンチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルヘキシルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ベンジルジエチルアンモニウムクロリド等がある。中でも好ましくは(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ベンジルジメチルアンモニウムクロリドである。また、(C)カチオン共重合体として、(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリド以外の構成単位、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリロニトリル、アリルアミン、N、N−ジメチルアリルアミン、N、N−ジエチルアリルアミン、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、スチレン等の重合性ビニル化合物を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、未塗着塗料を含む湿式塗装ブース循環水に(A)アルミニウム塩、(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体を添加し、当該ブース循環水のpHを6〜11、好ましくは7〜10に調整することにより、当該ブース循環水中の未塗着塗料を不粘着化させ、当該不粘着化塗料の当該ブース循環水からの分離、除去を容易にし、当該ブース循環水中の懸濁物質の凝集をも促進させ、当該ブース循環水を清澄化する湿式塗装ブース循環水の処理方法である。従来、フロックを形成するアンモニウム塩及び/又はカチオン重合体を用いることにより未塗着塗料を不粘着化させることは知られていたが、本発明のように(A)アルミニウム塩と、異なる2種のカチオン重合体である(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体を用いることで、不粘着化と不粘着化された未塗着塗料の分離除去及びブース循環水の清澄化に予想し得なかった優れた相乗効果が得られる。
【0024】
(A)アルミニウム塩の添加量は、目的とする未塗着塗料の不粘着化の程度、当該不粘着化未塗着塗料の分離除去の容易さの要求度及びブース循環水の清澄化の要求程度に応じて適宜選択されるものであるが、通常、ブース循環水の未塗着塗料に対して酸化アルミニウム(Al)として0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜30重量%である。(A)アルミニウム塩の添加量が、0.1〜50重量%未満では本発明の効果が十分発揮されない場合がある。また、50重量%を超えて添加すると添加量の増加につれて効果が向上するが、その効果の向上の程度は添加量の増加に比べて小さく、コストパフォーマンスが小さく経済的メリットが十分得られない場合がある。
【0025】
(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体の添加量は、目的とする未塗着塗料の不粘着化の程度、当該不粘着化未塗着塗料の分離除去の容易さの要求度及びブース循環水の清澄化の要求程度に応じて適宜選択されるものであるが、それぞれカチオン共重合体の有効成分として、ブース循環水の未塗着塗料に対して通常、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体の添加量がそれぞれ0.1重量%未満では、十分な不粘着化と不粘着化された未塗着塗料の分離除去及びブース循環水の十分な清澄化が得られない。また、20重量%を超えて添加しても添加量の増加に見合うだけの効果の向上が無く、経済的メリットが得られない場合がある。
【0026】
(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体の添加量は、それぞれ(A)アルミニウム塩に対して(酸化アルミニウム(Al)として)、重量比で通常1〜50重量%、好ましくは2〜25重量%、かつ(B)カチオン共重合体と(C)カチオン共重合体の合計の添加量が(A)アルミニウム塩に対して(酸化アルミニウム(Al)として)、重量比で通常、2〜100重量%、好ましくは4〜50重量%である。(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体の添加量が、この範囲外では本発明の効果が十分発揮されない場合がある。また、(B)カチオン共重合体と(C)カチオン共重合体の添加量の比は重量比で通常、2:8〜8:2、好ましくは4:6〜6:4である。(B)カチオン共重合体と(C)カチオン共重合体の添加量の比がこの範囲外では、不粘着化と不粘着化された未塗着塗料の分離除去及びブース循環水の清澄化の相乗効果が発揮されない。
【0027】
未塗着塗料を含む湿式塗装ブース循環水に(A)アルミニウム塩、(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体を添加した後の当該ブース循環水のpHの調整は、塩酸、硫酸などの鉱酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ剤を適宜用いて、湿式塗装ブース循環水のpHを6〜11、好ましくは7〜10に調整される。pHが6より低いと不粘着化効果が低下し、また、11を超えると不粘着化効果の低下に加え、循環水の発泡が増加する場合があり好ましくない。
【0028】
(A)アルミニウム塩、(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体の添加方法は特に限定されないが、(A)アルミニウム塩は、固体での添加、あるいは水溶液での添加の何れでもよい。また、(B)カチオン共重合体及び(C)カチオン共重合体は、作業性を考慮してそれぞれ水溶液での添加が好ましい。これらの水溶液の濃度は、添加量、作業性及び添加設備等を考慮して適宜決定されればよいが、通常1〜20重量%水溶液である。
【0029】
具体的に本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、油性塗料及び/又は水性塗料由来の未塗着塗料が含まれる塗料ブース循環水を貯留槽に入れ、(A)アルミニウム塩あるいはその水溶液、(B)カチオン共重合体あるいはその水溶液及び(C)カチオン共重合体あるいはその水溶液を添加し、緩く撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液あるいは硫酸を添加して該ブース循環水のpHを6〜11に調整する。(A)アルミニウム塩あるいはその水溶液、(B)カチオン共重合体あるいはその水溶液及び(C)カチオン共重合体あるいはその水溶液のそれぞれの添加順序は特に限定あれるものではなく、作業性等の条件を考慮して適宜選択されればよい。また、ブース循環水のpHを6〜11に調整し、これを維持しながらする(A)アルミニウム塩あるいはその水溶液、(B)カチオン共重合体あるいはその水溶液及び(C)カチオン共重合体あるいはその水溶液を添加してもよい。
【0030】
(A)アルミニウム塩あるいはその水溶液、(B)カチオン共重合体あるいはその水溶液及び(C)カチオン共重合体あるいはその水溶液の添加により、塗料ブース循環水中の未塗着塗料は次第に不粘着化され、凝集して浮上分離あるいは遠心分離などにより固液分離する。この間に該ブース循環水中の懸濁物質も未塗着塗料不粘着化物に取り込まれて浮上分離あるいは遠心分離される。浮上分離した未塗着塗料不粘着化物をスキーマー等で除去する、あるいは未塗着塗料不粘着化物を遠心分離機により固液分離することにより、塗料ブース循環水中の未塗着塗料を高度に不粘着化及び除去すると共に該ブース循環水の凝集処理による清澄化をも行う。更に分離した水は循環して再度使用が可能となる。場合により未塗着塗料不粘着化物が沈降した場合、定期的に掻き出すことにより未塗着塗料不粘着化物を除去する。
【0031】
また、これらの添加場所は、未塗着塗料を含む循環水中に処理剤が充分に分散される箇所であればよく特に限定されるものではないが、通常循環水の流れが良い箇所、例えば、循環ポンプの手前である。添加方法は、特に限定するものではないが、水溶液にして、ポンプで連続添加、あるいは間欠添加するなど適宜選択される。
【0032】
本発明の効果を妨げない範囲で、従来から使用されてきた他の湿式塗装ブース循環水処理剤、例えば、ヘキサメチレンジアミン・エチレンジクロライド重合体、ポリアミド・エピクロリヒドリン樹脂、ジメチルアミノメタクリレート硫酸塩−(メタ)アクリルアミド共重合体、メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイド、尿素−メラミン−アルデヒド樹脂酸コロイド、水溶性タンパク質、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアニオン性水溶性高分子、ポリエチレングリコールなどの非イオン性水溶性高分子、ポリ塩化アルミニウムなどの凝結剤、ベーマイトアルミナなどを用いてもよく、これを何ら妨げるものではない。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
〔(A)アルミニウム塩〕
A−1:アルミン酸ナトリウム(Alとして19%含有、朝日化学(株)製)の53重量%水溶液
A−2:ポリ塩化アルミニウム溶液(Alとして10%含有、朝日化学(株))A−3:硫酸バンド溶液(Alとして8%含有、朝日化学(株)製)
A−4:硝酸アルミニウム(和光純薬(株)製試薬)の10重量%水溶液
【0035】
〔(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリド−アクリルアミド共重合体〕
B−1:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)−アクリルアミド(AM)共重合体(DADMAC:AM=10:90(モル比)、分子量100万、固形分:10%、SNF社製)
B−2:DADMAC−AM共重合体(DADMAC:AM=20:80(モル比)、分子量100万、固形分10%、SNF社製)
B−3:DADMAC−AM共重合体(DADMAC:AM=50:50(モル比)、分子量100万、固形分10%、SNF社製)
B-3:DADMAC−AM共重合体(DADMAC:AM=80:20(モル)、分子量100万、固形分10%、SNF社製)
B−5:DADMAC−AM共重合体(DADMAC:AM=90:10(モル)、分子量100万、固形分10%、SNF社製)
【0036】
〔(C)アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリド共重合体〕
C−1:アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド共重合体(10:90(モル比)、分子量400万、固形分10%)
C−2:アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド共重合体(20:80(モル比)、分子量400万、固形分10%)
C−3:アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド共重合体(50:50(モル比)、分子量400万、固形分10%)
C−4:アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド共重合体(80:20(モル比)、分子量400万、固形分10%)
C−5:アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド共重合体(90:10(モル比)、分子量400万、固形分10%)
C−6:アクリルアミド−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド共重合体(50:50(モル比)、分子量400万、固形分10%)
【0037】
〔その他処理剤〕
D−1:ポリエチレンイミン「エポミンP−1000」(商品名)(分子量7万、固形分30%、日本触媒(株)製)
D−2:ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合物(分子量5万、固形分50%、旭電化工業(株)製)10重量%水溶液
D−3:ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩−アクリルアミド共重合物「スミフロックFC−250G」(商品名)10重量%水溶液(分子量300万、住友化学工業(株)製))
D−4:メラミン−ホルムアルデヒド樹脂酸コロイド(メラミン:ホルムアルデヒド=1:2.19(重量比)のメチロール化メラミン100gを1.35%の塩酸溶液1000mLに添加して酸コロイドを作成した。)
【0038】
(試験装置及び試験方法)
図1に示した簡易ブース試験装置(保有水量は10リットル、循環水量は20リットル/分)を用いて試験を行った。市水10リットルを簡易ブース試験装置に入れてブース循環水とし、これにブース循環水処理薬品を所定量添加し、水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸にてpHを7.5に調製した水を循環させながら油性塗料(機械部品用アミノアルキド樹脂系焼き付け油性塗料、日本ペイント(株)製、「オルガセレクト120ホワイト」(商品名))を20分間で200gスプレーした。スプレー終了後の塗料滓を取り出し、産業用紙タオル((株)クレシア製、「キムタオル」(商品名))の上に5分間置いて、付着した水を除去してからステンレス板上に移し、別のステンレス板〔50×30(mm)〕を上から被せて塗料滓を挟み、100g×1分間の荷重をかけた。力量計(IMADA社製、「デジタルフォースゲージ・DPRS−10TR」(商品名))にてステンレス板を引っ張り、剥離に要する最大値を付着力とした。この値が小さいほど、不粘着化が良好であることを示す。また、スプレー終了後の試験液を採取し、濁度計で試験液の濁度(積分球式光電光度法(JIS K0101 上水試験法に準拠))を測定した。濁度が低いほど好ましい。試験結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
本発明の(A)アルミニウム塩と異なる2種の(B)カチオン共重合体、及び(C)カチオン共重合体を用いたブース循環水中の未塗着塗料の処理により、水に捕集された塗料はより良好に不粘着化され、しかも循環水の濁度が低下し清澄化が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例に用いた簡易ブース試験装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1:循環水ピット
2:循環ポンプ
3:循環水配管
4:塗料捕集部
5:塗料用スプレーガン




【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブース循環水の処理方法であって、(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩、(B)ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと(メタ)アクリルアミドを構成単位として含むカチオン共重合体及び(C)(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドを構成単位として含むカチオン共重合体を添加し、かつ該循環水のpHを6〜11に調整することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
(A)pHが6〜11の水中においてフロックを形成するアルミニウム塩がアルミン酸ナトリウム及び/又はアルミン酸カリウムである請求項1記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項3】
(B)カチオン共重合体がジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミドを20:80〜80:20のモル比で含む共重合体である請求項1又は2記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項4】
(C)カチオン共重合体が(メタ)アクリルアミドと(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキル(フェニル基を含んでも良い炭素数1〜7のアルキル基)アンモニウムクロリドを20:80〜80:20のモル比で含む共重合体である請求項1乃至3のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項5】
(2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル)トリアルキルアンモニウムクロリドが、(2−アクリロイルオキシ)エチル)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド及び/又は(2−アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリドである請求項1乃至4のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2009−240928(P2009−240928A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90576(P2008−90576)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】