説明

湿式塗装ブース循環水の浄化装置

【課題】湿式塗装ブース1の循環水に吸収または溶解して増加するオーバースプレー塗料の塗滓の回収効率を上げると同時に、循環水中の有機物を電気分解によって浄化するための浄化装置及び方法を提供する。
【解決手段】湿式塗装ブース循環水を、不溶性電極8及び電源装置9からなる電解処理装置を用いて電気分解し、循環水中に吸収または溶解した塗料成分の凝集及び電気分解によって生じた泡を用いて循環水中に混入した塗滓の浮上促進によって回収性を向上させると同時に、循環水中に混入した有機物を酸化分解する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブース1の循環水に混入してくるオーバースプレー塗料の塗滓の回収、及び循環水の浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディーや部品などを連続的に塗装する際、スプレーガンから被塗物に塗料を吹き付けて、被塗物に塗着しなかった塗料飛沫をオーバースプレー塗料と呼び、このオーバースプレー塗料を湿式塗装ブースと呼ばれる装置の循環水に吸収させている。
【0003】
循環水は、滓池2から塗装ブース送水ポンプ4により湿式塗装ブースに送水され、オーバースプレー塗料を吸収した循環水が塗装ブース戻り口5より滓池に戻る構造となっている。湿式塗装ブースの使用を繰り返していると、オーバースプレー塗料が次第に循環水中に塗滓として蓄積、もしくは循環水中に溶解し循環水が汚染されていく。
【0004】
そこで、循環水にペイントキラー剤と呼ばれる循環水中に分散、溶解した塗料の凝集及び塗滓に非粘着性を与える薬剤を少量添加しておき、循環水を良好な状態に保つよう処理されている。
【0005】
また、循環水の処理によって生じた塗滓は回収することで、塗滓の塗装ブース内への蓄積を防ぎ、薬剤による処理を行っていない循環水と比較して長期利用が可能となる。また、塗滓の蓄積による臭気や塗装ブース内への付着によるランニングでのトラブルも少なくなり、臭気による作業環境の悪化を防ぎ、塗装ブースのメンテナンス性向上にもつながる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ペイントキラー剤の使用のみでは、循環水中の塗滓を連続的に回収していても塗料中の溶剤成分は回収できないので、化学的酸素要求量(COD値)の上昇や循環水からの悪臭の発生といった問題を引き起こしている。
【0007】
COD値は有機物の混入量の指標となる数値であるが、排水処理設備でも処理が困難なことから、定期的に循環水の一部を排水することによって、循環水中のCOD値の上昇を抑えている。
【0008】
また、循環水に溶解した溶剤は腐敗により悪臭が生じることもあり、工場内の作業環境の悪化や、近隣からの苦情に繋がることもあり、循環水への消臭剤の添加により対応を行っている。
【0009】
ただし、これらの対応はCODの上昇や悪臭の発生を一時的に解決するだけのもので、根本的な対策として循環水中に混入している溶剤を除去する必要がある。
【0010】
また、湿式塗装ブース内に混入した塗滓は、回収設備や手回収によって回収されているが、回収率は100%ではないため、回収されなかった塗滓は湿式塗装ブース及び滓池底部に徐々に堆積または付着し、メンテナンス性が著しく低下する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、これらの問題を解決するために、湿式塗装ブース循環水を電気分解による有機物の分解及び混入塗滓の浮上促進効果により、効率よく循環水の浄化を行う浄化装置を提案するものである。
【0012】
不溶性電極及び電源装置からなる電解処理装置を、滓池または滓池から電解処理槽送水ポンプ6で送水される電解処理槽3内に設置し、電解処理を行うことによって循環水中の有機物を酸化分解し循環水の浄化を行うと同時に、電気分解によって生じた泡で循環水中に混入した塗滓を浮上促進させることにより、回収設備及び手回収時の回収率が上がり循環水を効率的に浄化できる。
【0013】
湿式塗装ブース循環水の浄化装置として、アルミニウム等の溶解性電極を用いた電解処理装置があるが、溶解性電極を使用した場合、金属フロックの発生による産廃量の増加、電極の定期交換が必要となり、メンテナンス頻度が高くなってしまう等の問題がある。
【0014】
不溶性電極では、電極の洗浄のみで長期間使用が可能でありメンテナンスが簡素化できることと、金属フロックの発生がないため塗滓量も溶解性電極より少なくなり、回収した塗滓を廃棄する際の産廃コストの低減が可能であるといった特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、湿式塗装ブース循環水の電解処理による浄化を行うことにより、循環水から発せられる腐敗臭の抑止効果、循環水の浄化によって循環水の更新頻度を減らすことができ、使用水量の低減、産廃処理コストの低減、廃水量が減ることによる環境負荷の軽減といった効果を得られる。
【0016】
また、循環水中の塗滓を浮上促進させることによって回収設備、および回収作業が効率化でき、循環水中に混入した塗滓量も減少することによって塗装ブースのメンテナンス性も向上する。
【0017】
なお、この浄化装置は、ペイントキラー剤と組み合わせて使用することも可能である。
ペイントキラー剤を併用した場合は、凝集した塗滓の浮上性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
湿式塗装ブース循環水をポンプで電解処理槽に送り、電解処理槽内で塗装ブース滓池の水量に見合った電極を設置して電解処理を行い、処理後の水は連続的にオーバーフローで塗装ブースに戻し、浮上した塗滓はフロートポンプ、かきとり板、手作業等によって回収する。
【0019】
連続的に電解処理を行う事で、循環水中の有機物を効率的に分解し、COD値低減を可能とする。
【実施例】
【0020】
滓池に水50Lを入れ、水性塗料(自動車車体カラーベース用塗料)を2000ppm添加し循環水を作成した。
【0021】
滓池から電解処理槽送水ポンプで循環水を電解処理槽へ送水する。電解処理槽内には仕切り板を設け、浮上した塗滓は不溶性電極8側に溜まるようにし、循環水はオーバーフローさせ電解処理槽戻りオーバーフロー口より滓池に戻す。
【0022】
電解処理槽内で電解処理を行い、循環水中に溶解した有機物の分解が進むと循環水中に溶解または分散した塗料が凝集し、電解処理時に発生した泡の作用で塗滓を電解処理槽内に浮上させる。
【0023】
電解処理槽内に浮上した塗滓は、手回収により容易に回収することが可能であり、循環水もほぼ透明となり水溶性塗料の分離性も良好であった。
【0024】
また、24時間連続して電解処理装置を運転することで、循環水のCOD値を500ppmから80ppmまで低下した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
比較的大規模な湿式塗装ブースで、使用水量が多く頻繁な循環水の入れ替えが困難な場合に、本発明が有効である。本発明によって、循環水中に蓄積する有機物の低減が可能となり循環水をより長期間使用可能となる。
【0026】
特に、COD値の上昇による排水処理設備のトラブル、循環水からの悪臭の発生が多いブース、廃水処理コストが高いといった問題を抱えているブースへの利用可能性は非常に有望である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係わる浄化装置の構成概要全体を示す説明図
【符号の説明】
【0028】
1…湿式塗装ブース、2…滓池、3…電解処理槽、4…塗装ブース送水ポンプ、5…塗装ブース戻り口、6…電解処理槽送水ポンプ、7…電解処理槽オーバーフロー戻り口、8…不溶性電極、9…電源装置、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性電極及び電源装置より構成されることを特徴とする水の浄化装置であって、水の電気分解の際発生する気泡により水中の懸濁物質を浮上させると同時に水中に含まれる有機物を電気分解により酸化分解する浄化装置。
【請求項2】
請求項1の水が湿式塗装ブース循環水であることを特徴とする浄化装置。
【請求項3】
請求項1の懸濁物質が塗滓であることを特徴とする浄化装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224527(P2011−224527A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108729(P2010−108729)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(591069891)株式会社ケミコート (11)
【Fターム(参考)】