説明

湿式成形用セラミックススラリーの製造方法および製造装置

【課題】固形物の発生やセラミックススラリーの均質性を悪化させることなく、脱泡効率を高め、脱泡時間を短縮する。
【解決手段】湿式成形用セラミックススラリーの製造方法は、セラミックス粉末、溶媒およびバインダーを含有する混合物を減圧容器内で撹拌する工程と、減圧下での撹拌により、気泡の膨張により減圧容器内を遡上してきた混合物をセンサーで感知する工程と、感知があったとき、減圧容器上部より混合物に消泡剤を噴射し、膨張した気泡を破壊する工程と、を含む。これにより、固形物の発生やセラミックススラリーの均質性を悪化させることなく、脱泡効率を高め、脱泡時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンシート成形や鋳込成形等の湿式成形に用いられる湿式成形用セラミックススラリーの製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スラリーは、液体中に固形分が分散している流動性のある懸濁液であり、セラミックススラリーは、セラミックス粉末と溶媒、バインダー等からなるスラリーである。溶媒は水もしくは有機溶剤からなり、溶媒に水を用いたセラミックススラリーは一般的に水系スラリーと呼ばれる。
【0003】
このようなセラミックス粉末と溶媒、バインダー等の混合物のスラリーをボールミルやアトライター等の混合機により、混合、撹拌、混練等の工程により分散させることで、湿式成形に用いられる均一性の高いセラミックススラリーが得られる。
【0004】
しかし、上記の工程時にはスラリーに空気が巻き込まれ、混合物のセラミックススラリー中に気泡が分散・混入する。また、成形速度の面から溶媒量を減らし高濃度なセラミックススラリーを作製することが多いため、粘度が増大し破泡性が悪くなり、気泡の混入量が増大する。
【0005】
このため、たとえばセラミックススラリーに消泡剤を添加しておき、減圧容器内にセラミックススラリーを投入し撹拌機等で機械的に泡を破壊する脱泡工程が主に採られている(たとえば非特許文献1参照)。このような脱泡工程では、撹拌機により泡を集合、膨張させて破泡させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−314539号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】南川久人ら、「泡コントロールと消泡・脱泡事例集」、技術情報協会、2007年11月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このような方法ではセラミックススラリーの粘性が高い場合、気泡の除去が難しくなり、減圧下で膨張した気泡が減圧容器を遡上し、吸口部や接続した吸引チューブ内に吸い込まれ、吸引性を悪化させることにより真空度が低下して脱泡効率が低下してしまう。そのため脱泡状態を確認しながら真空度を徐々に上げて行く方策を採る場合がある。その場合には、脱泡時間も長くなり、減圧下にさらされたセラミックススラリーは乾燥が進み、一部成分が固形化する、セラミックススラリーの均質性が悪化する等の問題がある。
【0009】
そこで、たとえば特許文献1記載の方法では、セラミックススラリーを減圧下で撹拌するとともに、そのセラミックススラリーに超音波振動を加えることで脱泡処理能力を高め、高粘度のセラミックススラリーでも脱泡時間を短縮している。
【0010】
しかし、超音波振動を加える場合、超音波振動子が発熱するため、局所的にセラミックススラリーが暖められ、一部成分の固形化が生じる可能性や、セラミックススラリーの均質性が悪化する可能性がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、固形物の発生やセラミックススラリーの均質性を悪化させることなく、脱泡効率を高め、脱泡時間を短縮する湿式成形用セラミックススラリーの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法は、セラミックス粉末、溶媒およびバインダーを含有する混合物を減圧容器内で撹拌する工程と、前記減圧下での撹拌により、気泡の膨張により前記減圧容器内を遡上してきた前記混合物をセンサーで感知する工程と、前記感知があったとき、前記減圧容器上部より前記混合物に消泡剤を噴射し、前記膨張した気泡を破壊する工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
このように、本発明のセラミックススラリーの製造方法では、減圧容器内を遡上してきた混合物を感知して消泡剤を噴射している。これにより、固形物の発生やセラミックススラリーの均質性を悪化させることなく、脱泡効率を高め、脱泡時間を短縮することができる。
【0014】
(2)また、本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法は、前記減圧容器内で撹拌する混合物が、粘度が200mPa・s以上10000mPa・s以下の混合物であることを特徴としている。これにより、破泡性を高め、気泡の混入を防止するとともに、湿式成形の成形時間を短縮できる。
【0015】
(3)また、本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法は、前記減圧容器内の真空度を0.01kPa以上8.0kPa以下にして前記撹拌を行なうことを特徴としている。これにより、効率よく混合物スラリーの気泡を排出することができる。
【0016】
(4)また、本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法は、前記噴射される消泡剤が、実質的にシリコーン系消泡剤および有機系消泡剤からなることを特徴としている。これにより、消泡剤の噴射で効率的にスラリーの泡を破壊することができる。
【0017】
(5)また、本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造装置は、セラミックス粉末、溶媒およびバインダーを含有する混合物を収容する減圧容器と、前記混合物を撹拌する撹拌部と、前記混合物の液面の上昇を感知するセンサー部と、前記センサー部の感知により、前記混合物に消泡剤を噴射する噴射部と、を備えることを特徴としている。これにより、固形物の発生やセラミックススラリーの均質性を悪化させることなく、脱泡効率を高め、脱泡時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高真空度で効率的に脱泡を行ない、脱泡工程時間を短縮するとともに均質性の高い湿式成形用セラミックススラリーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】従来のセラミックススラリーの製造装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
本発明の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法は、セラミックススラリーを減圧下で撹拌し気泡を破壊する脱泡工程時に、減圧により膨張し減圧容器内を遡上する気泡に消泡剤を噴射して破泡させる。その結果、脱泡工程に費やす時間を大幅に短縮し、長時間の脱泡によるセラミックススラリーの不均質化を抑制する。
【0022】
(製造装置の構成)
図1は、湿式成形用セラミックススラリーの製造装置100の構成を示す概略断面図である。セラミックススラリーの製造装置100は、スラリータンク101(減圧容器)、撹拌棒102、撹拌機103、真空ユニット104、真空度調節ユニット105、液面センサー106(センサー部)、噴射制御部106a、ホッパー108および噴射ノズル107から構成される。
【0023】
スラリータンク101は、セラミックス粉末、溶媒およびバインダーを含有する混合物として、未脱泡のセラミックススラリー110を収容して溜める。スラリータンク101は、減圧容器として密閉可能に構成されている。撹拌棒102は、混合物のセラミックススラリー110を撹拌する羽と棒からなる。撹拌機103は、接続された撹拌棒102に動力を伝え、セラミックススラリー110を撹拌する。撹拌棒102および撹拌機103は、混合物を減圧容器内で撹拌する撹拌部を構成する。
【0024】
真空ユニット104は、真空ポンプと冷却トラップ(いずれも図示せず)からなり、真空ポンプは、真空度調節ユニット105に接続している。真空度調節ユニット105は、スラリータンク101内を真空にする真空度計と開放弁(いずれも図示せず)からなる。真空ユニット104および真空度調節ユニット105は、減圧部を構成する。
【0025】
液面センサー106は、液面を感知することで、混合物のセラミックススラリー110に含有する気泡が脱泡時に膨張しスラリータンク101内を遡上したことを感知する。噴射制御部106aは、液面の感知があったとき、スラリータンク101上部より混合物に消泡剤を噴射するように噴射ノズル107を制御する。噴射制御部106aは、PCであってもよいし、回路であってもよい。
【0026】
噴射される消泡剤は、実質的にシリコーン系消泡剤と、エステル系、ポリエーテル系またはアルコール系の有機系消泡剤とからなることが好ましい。エステル系の有機系消泡剤には、ジエチレングリコールラウレートやポリオキシアルキレンソルビタンモノオレート等からなるものが挙げられる。ポリエーテル系の有機系消泡剤には、ポリアルキレングリコールやポリアルキレングリコールアルキルエーテル等からなるものが挙げられる。アルコール系の有機系消泡剤には、エタノールやイソプロピルアルコール、グリーコール類、オクチルアルコール、シクロヘキサノール、高級アルコール等からなるものが挙げられる。
【0027】
噴射制御部106a、ホッパー108および噴射ノズル107は、噴射部を構成する。ホッパー108は、消泡剤109を保持している。噴射ノズル107は、ホッパー108内の消泡剤109をスプレー状に噴射する。
【0028】
(製造方法)
次に、上記のように構成された装置を用いた湿式成形用セラミックススラリーの製造方法を説明する。まず、セラミックス粉末原料、溶媒と分散剤、消泡剤およびバインダー等の添加剤を、ミル等により均質に混合し、混合物として未脱泡セラミックススラリー110を作製する。そして、この未脱泡セラミックススラリー110をスラリータンク101に投入する。
【0029】
その後、撹拌機103と撹拌棒102によりセラミックススラリー110を撹拌しながら、真空度調節ユニット105により開放弁を閉鎖し、真空ユニット104によりスラリータンク101内を減圧する。
【0030】
スラリータンク101内の真空度が高まると未脱泡セラミックススラリー110に含有する気泡が膨張する。このとき撹拌棒102で機械的に破泡するが、破泡しきれずにスラリータンク101内を気泡が遡上する。そして、遡上した気泡を液面センサー106が感知するとスラリータンク101上部に取り付けたホッパー108内の消泡剤109を噴射ノズル107から噴射する。これにより、セラミックススラリー110の気泡を破泡させる。このような脱泡の終了後に真空度調節ユニット105の開放弁を開放し、撹拌機103と真空ユニット104を停止する。
【0031】
なお、脱泡中には、スラリータンク101内の真空度を、真空度調節ユニット105を用いておよそ0.01kPa以上8.0kPa以下にする。なお、0.1kPa以上1.0kPa以下に制御することが好ましい。これは、0.10kPa以下では溶媒の蒸発が急速に進み、コンテント量や粘度が高くなってしまい、1.0kPa以上では気泡の膨張が小さく、脱泡時間が掛かってしまうためである。
【0032】
また、スラリータンク101に投入するセラミックススラリーの粘度は、200mPa・s以上10000mPa・s以下であればよいが、およそ1000mPa・s以上8000mPa・s以下であれば好ましく、1000mPa・s以上4000mPa・s以下であることがさらに好ましい。1000mPa・s以下では保形性が悪く、成形時に液漏れが発生する。一方、8000mPa・s以上では撹拌が困難であり、4000mPa・s以上では混合物中の気泡の含有量の増加や、脱泡性の低下で溶媒の蒸発量が増加するため、脱泡前後でセラミックススラリーの粘度が大きく変わってしまう。
【実施例1】
【0033】
以下に、湿式成形用セラミックススラリーの製造方法の実施例を説明する。
【0034】
チタン酸ジルコン酸鉛粉末100質量部に対して、イオン交換水35質量部と、ポリアクリル酸系バインダーを15質量部とポリアクリル酸系の分散剤を3質量部、ポリエーテル系の消泡剤0.5質量部を秤量した。そして、それらをボールミル混合し、1500mPa・sの粘度を持つ水系スラリーを作製した。
【0035】
上記のように作製した未脱泡の水系スラリーを、図1に示す湿式成形用セラミックススラリーの製造装置を用いて脱泡処理した。なお、消泡剤としてエタノールを使用した。また、比較例として図2に示すセラミックススラリーの製造装置200を用いてセラミックススラリーを製造した。セラミックススラリーの製造装置200は、スラリータンク201、撹拌棒202、撹拌機203、真空ユニット204、真空度調節ユニット205から構成されている。装置内の真空度は0.10〜1.0kPaに制御した。
【0036】
このようにしてセラミックススラリーの製造を行ない、それぞれの装置を使用した場合に要した脱泡時間と脱泡処理した後のセラミックススラリーの粘度を評価した。また、上記のように作製された各セラミックススラリーをシート成形し、得られたセラミックスグリーンシートの引張り強度を評価した。
【0037】
表1は、実験結果を示す表である。比較例の脱泡処理時間が2.0hであるのに対し、実施例の脱泡処理時間は、0.5hであった。このように、脱泡時間を大幅に短縮することができた。また脱泡後のセラミックススラリーの粘度は、比較例では、脱泡前より500mPa・s高くなったが、実施例では、ほぼ粘度に変化がなく、水の蒸発量が少なかった。また、実施例のスラリーで成形した成形シートの引張り強度は、5.0MPa、比較例のスラリーで成形した成形シートの引張り強度は、3.5MPaであり、実施例のものの強度が高かった。これはグリーンシートおよび使用したセラミックススラリーの均質性が高かったことを示している。
【表1】

【0038】
以上より、本発明によるセラミックススラリーの製造方法を実施した場合、脱泡処理にかかる時間を大幅に短縮でき、セラミックススラリーからの溶媒の蒸発量を減らし、一部成分の乾燥による固形化を抑制することで、均質性の高い湿式成形用セラミックススラリーを得られることが実証された。
【符号の説明】
【0039】
100 湿式成形用セラミックススラリーの製造装置
101 スラリータンク(減圧容器)
102 撹拌棒
103 撹拌機
104 真空ユニット
105 真空度調節ユニット
106 液面センサー
106a 噴射制御部
107 噴射ノズル
108 ホッパー
109 消泡剤
110 セラミックススラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末、溶媒およびバインダーを含有する混合物を減圧容器内で撹拌する工程と、
前記減圧下での撹拌により、気泡の膨張により前記減圧容器内を遡上してきた前記混合物をセンサーで感知する工程と、
前記感知があったとき、前記減圧容器上部より前記混合物に消泡剤を噴射し、前記膨張した気泡を破壊する工程と、を含むことを特徴とする湿式成形用セラミックススラリーの製造方法。
【請求項2】
前記減圧容器内で撹拌する混合物は、粘度が200mPa・s以上10000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1記載の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法。
【請求項3】
前記減圧容器内の真空度を0.01kPa以上8.0kPa以下にして前記撹拌を行なうことを特徴とする請求項1または請求項2記載の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法。
【請求項4】
前記噴射される消泡剤は、実質的にシリコーン系消泡剤および有機系消泡剤からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の湿式成形用セラミックススラリーの製造方法。
【請求項5】
セラミックス粉末、溶媒およびバインダーを含有する混合物を収容する減圧容器と、
前記混合物を撹拌する撹拌部と、
前記混合物の液面の上昇を感知するセンサー部と、
前記センサー部の感知により、前記混合物に消泡剤を噴射する噴射部と、を備えることを特徴とする湿式成形用セラミックススラリーの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10670(P2013−10670A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144798(P2011−144798)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】