説明

湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素、該色素含有組成物、異方性色素膜及び偏光素子

【課題】異方性色素膜に有用な色素、該色素を含む異方性色素膜および偏光素子を提供する。
【解決手段】 遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用のアゾ色素。


(式(1)中、Aは、芳香族炭化水素基等を表す。Bは、2価の芳香族炭化水素基等を表す。mは0または1を表す。R1は、水酸基等を表す。R2は、水素原子、ハロゲン原子等を表す。RおよびRは、水素原子、アルキル基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の表示素子に具備される偏光板等に有用な高い二色性を示すアゾ色素、該色素を含む組成物、異方性色素膜及び偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDでは表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLEDにおいても外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。従来、これらの偏光板(偏光素子)にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために偏光素子に使用した場合、その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。また、その消光色が深い青になり、全可視スペクトル領域にわたって理想的な無彩色偏光素子とは言えなかった。
【0003】
そのため、有機系の色素を二色性物質に使用する偏光素子が検討されている。しかし、これら有機系の色素においてはヨウ素に比べると二色性がかなり劣る程度の偏光素子しか得られないなどの問題点があった。
特に、光の旋光性や複屈折性を表示原理に用いているLCDにおいて偏光素子は重要な構成要素であり、近年、表示性能などの向上を目的に新たな偏光素子の開発が進められている。
【0004】
その一つの方法として、ヨウ素を含む偏光素子と同様に、二色性を有する有機色素(二色性色素)をポリビニルアルコールのような高分子材料に溶解または吸着させ、その膜を一方向にフィルム状に延伸して二色性色素を配向させる方法が挙げられている。しかしながら、該方法では延伸処理等のプロセスに手間がかかる等の問題点があった。
そこで、最近では他の方法が着目されるようになってきた。この方法として、非特許文献1では、ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機色素分子の分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させ、偏光膜(異方性色素膜)を形成している。しかしながら、該文献に記載の方法では、耐熱性の問題があることが知られていた。
【0005】
また、上記ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機色素分子の分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させることは湿式成膜法により達成されるが、湿式成膜法で偏光膜が作製される場合、この色素膜には、使用される色素分子の高い二色性の他に、湿式成膜法のプロセスに適した色素であることが要求される。湿式成膜法におけるプロセスとしては、色素を基板上に堆積、配向させる方法やその配向を制御する方法などが挙げられ、従来の上記延伸処理を経る偏光素子に使用される色素であっても、湿式成膜法には適していないことが多くある。
【0006】
特許文献1〜4では、湿式成膜法のプロセスに適した各種材料が提案されているが、これらの材料では該プロセスに適してはいても、高い偏光特性(消光比)を得ることができないという問題点があった。
【非特許文献1】Dreyer,J.F., Journal de Physique, 1969, 4, 114., "Light Polarization From Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals"
【特許文献1】特開2002−180052号公報
【特許文献2】特表2002−528758号公報
【特許文献3】特開2002−338838号公報
【特許文献4】特表平8−511109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、主に湿式成膜法により形成される異方性色素膜に用いる色素であって、該膜が高い二色性、高い分子配向度を示す異方性色素膜となる色素を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遊離酸の形が下記式(1)で表される色素を用いることにより、湿式成膜法で形成される異方性色素膜において、高い二色性、高い分子配向度を示す異方性色素膜をなすことができ、その異方性色素膜を有する偏光素子は、高い光学性能を有することができることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素、該色素及び溶剤を含有する異方性色素膜用組成物、該色素を含有する異方性色素膜及び該異方性色素膜を有する偏光素子に存する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、Aは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。nは0または1を表し、mは0または1を表す。
1は、水酸基または−NHR5(R5は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基ま
たは置換基を有していてもよいアルキルアシル基を表す)を表す。
2は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいア
ルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子または置換基を有していてもよいアミノ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアシル基または置換基を有していてもよいトリアジニル基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の色素を用いることにより、湿式成膜法で形成される異方性色素膜においても、高い二色性、高い分子配向度を示す異方性色素膜を提供できる。また、このような特性を有する異方性色素膜を用いた偏光素子は、調光素子、液晶素子、有機エレクトロルミネッセンス素子等の表示素子など多方面に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされるものではない。
尚、本発明でいう異方性色素膜とは、色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向
の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。
【0013】
本発明の異方性色素膜は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜として用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
本発明は、遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用のアゾ色素に関する。
【0014】
【化2】

【0015】
(式(1)中、Aは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。nは0または1を表し、mは0または1を表す。
1は、水酸基または−NHR5(R5は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基ま
たは置換基を有していてもよいアルキルアシル基を表す)を表す。
2は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいア
ルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子または置換基を有していてもよいアミノ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアシル基または置換基を有していてもよいトリアジニル基を表す。)
前記式(1)で表される色素は、置換基R1に、水酸基または−NHR5のような、ヘテロ
原子と結合した水素原子を有し、Rが置換したベンゼン環上に、Rから数えてオルト位に置換したアゾ基と水素結合しやすく、Rに水素結合に寄与しうる水素原子を持たない色素に比べ、アゾ基の位置が固定され、分子平面性が高くなると考えられる。その結果として、異方性色素膜用組成物中において、分子会合性がより高く、リオトロピック液晶のような好ましい会合状態を形成し、異方性色素膜中においても、色素分子は高い秩序で配列し、高い二色性を示す異方性色素膜を提供することができるものと考えられる。特に異方性色素膜に使用した際、該色素の副吸収に相当する短波長領域において、従来の色素に比べて高い二色性を示すため、広い吸収帯において高い二色性を示す異方性色素膜を得ることができるものと推測される。
【0016】
以下、本発明の前記式(1)で表される色素について説明する。
<A
式(1)中、Aは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
ここで本発明において、置換基を有していてもよいとは、置換基を1または2以上有していてもよいことを意味する。
【0017】
該芳香族炭化水素基としては、フェニル基またはナフチル基が好ましい。該芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、アゾ化合物の溶解性を高めるために導入される親水性基や色素としての色調を調節するために導入される電子供与性や電子吸引性を有する基が好ましく、具体的には、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシルアミノ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、水酸基、シアノ基またはハロゲン原子等が挙げられる。
【0018】
該アルキル基は炭素数が通常1以上、通常6以下、好ましくは4以下である。該アルキル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換基を有していてもよい低級アルキル基が挙げられる。
【0019】
該アルコキシ基は炭素数が通常1以上、通常6以下、好ましくは3以下である。該アルコキシ基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換基を有していてもよい低級アルコキシ基が挙げられる。
【0020】
該アシルアミノ基は、−NH−COR31で表され、R31は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該アルキル基は、炭素数が通常1以上、通常4以下、好ましくは2以下である。該アルキル基及び該フェニル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。アシルアミノ基の具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0021】
該アミノ基は、通常、−NH、−NHR32、−NR3334で表され、R32〜R34はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該アルキル基は、炭素数が通常1以上、通常4以下、好ましくは2以下である。該アルキル基及び該フェニル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
該カルバモイル基は、無置換のカルバモイル基、置換基を有していてもよいアルキルカルバモイル基、置換基を有していてもよいフェニルカルバモイル基または置換基を有していてもよいナフチルカルバモイル基であることが好ましい。該アルキルカルバモイル基のアルキル基、該フェニルカルバモイル基のフェニル基および該ナフチルカルバモイル基のナフチル基は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい。該置換基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。該置換基のうち、特に水溶化の観点からはスルホ基が好ましい。カルバモイル基の具体例としてはカルバモイル基、フェニルカルバモイル基、ナフチルカルバモイル基等が挙げられる。
【0023】
が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である場合、特に、無置換のフェニル基、無置換のナフチル基、スルホ基で置換されたフェニル基またはスルホ基で置換されたナフチル基であることが好ましい。
が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である場合、該芳香族炭化水素基は上記置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。
【0024】
が置換基を有していてもよい芳香族複素環基である場合 、該芳香族複素環基とし
ては単環または二環性の複素環由来の基が好ましい。芳香族複素環基を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子などのヘテロ原子が挙げられ、中でも窒素原子が好ましい。芳香族複素環基が該へテロ原子を複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。芳香族複素環基として具体的には、ピリジル基、キノリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、
【0025】
【化3】

【0026】
の基などが挙げられる。(式中、R41は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該アルキル基および該フェニル基に置換していてもよい基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、メチルアミノ基等の置換アミノ基、置換カルバモイル基及びシアノ基等が挙げられる)中でもピリジル基、キノリル基或いはフタルイミドイル基が好ましい。
【0027】
該芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、メチルアミノ基等の置換アミノ基、アミド基及びシアノ基等が挙げられる。中でも、無置換の芳香族複素環基或いは水酸基、スルホ基またはカルボキシ基で置換された芳香族複素環基が好ましい。
【0028】
で表される基としては、特に、下記式(2−a)または(2−b)のいずれかの基であることが好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
(式(2−a)および式(2−b)中、R15およびR16は、それぞれ独立に、ハロゲ
ン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシ基またはスルホ基を表す。rは0〜2の整数を表し、sは0〜3の整数を表す。)
上記式(2−a)または(2−b)のいずれかの基が好ましい理由としては、色素分子間で造塩するのに適した構造となるためと考えられる。すなわち、ベンゼン環もしくはナフタレン環に置換したスルホ基の位置が、色素分子のAとは反対の末端に位置するナフチル基の7位に位置するアミノ基と造塩する際に、適切な位置に配置できるため、強く引き合うなどして安定な会合状態を作りやすくなっていると考えられる。
【0031】
15およびR16は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を
有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシ基またはスルホ基を表す。置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基および置換基を有していてもよいアルコキシ基の具体例としては、それぞれ、Aが芳香族炭化水素基の場合に有していてもよい置換基として例示した、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基および置換基を有していてもよいアルコキシ基と同様である。分子の会合促進の観点から、rおよびsは0であることが特に好ましい。
【0032】
<B
式(1)中、Bは、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。
該芳香族炭化水素基としては、フェニレン基またはナフチレン基が好ましい。該芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアシルアミノ基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、シアノ基及びハロゲン原子等が挙げられる。尚、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアシルアミノ基、置換基を有していてもよいカルバモイル基の好ましい炭素数、有していてもよい置換基の例、その具体例は、前記Aが芳香族炭化水素基の場合に有していてもよい置換基として記載したものと同様である。中でも、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子等の極性の小さい基または水素結合性を有する基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましく、水溶化の観点からは、スルホ基が好ましい。
【0033】
該フェニレン基としては1,4−フェニレン基、該ナフチレン基としては1,4−ナフチレン基が、色素どうしが相互作用を示すために好ましい。
該芳香族炭化水素基は、無置換でも、上記置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは置換基を1〜2個有していることである。
該芳香族炭化水素基は、分子会合性の観点から、1,4−ナフチレン基であることが特に好ましく、1,4−ナフチレン基は水溶性の観点から、スルホ基が置換していることがさらに好ましい。また、該スルホ基は、6位に置換していることが好ましい。
【0034】
該芳香族複素環基としては、単環または二環性の複素環由来の基が好ましい。芳香族複素環基を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子などのヘテロ原子が挙げられるが、窒素原子が特に好ましい。芳香族複素環基が該ヘテロ原子を複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。芳香族複素環基として具体的には、ピリジンジイル基、キノリンジイル基、イソキノリンジイル基、ベンゾチアジアゾールジイル基、フタルイミドジイル基等が挙げられる。中でも、キノリンジイル基およびイソキノリンジイル基が好ましい。
【0035】
該芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、メチルアミノ基等のアルキルアミノ基、アセチルアミノ基、アシルアミノ基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、
水酸基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、水酸基、スルホ基、カルボキシ基が好ましい。該芳香族複素環基は、無置換または上記置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは無置換の芳香族複素環基であることまたは上記置換基を1〜2個有している芳香族複素環基であることである。
【0036】
該芳香族複素環基が下記式(3−a)又は(3−b)で表される2価の複素環基であることが好ましい。即ち、含窒素芳香族6員環のp−位で結合する2価の連結基であるか、または、芳香族複素環のベンゼン環のp−位で結合する2価の連結基であると、色素どうしが相互作用を示すために好ましい。例えば、キノリンジイル基の場合には5,8−キノリンジイル基、イソキノリンジイル基の場合には5,8−イソキノリンジイル基が好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
(式中、Q〜Qはそれぞれ独立に炭素原子または窒素原子を表し、Q〜Qのうち1個または2個が窒素原子である。また、Q〜Qは置換基を有していてもよい)
【0039】
【化6】

【0040】
(式中、Xは主鎖に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含み、5〜7員環を形成する2価の連結基を表し、ベンゼン環は置換基を有していてもよい。)
尚、Xが主鎖に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含むとは、該2価の基により形成される環が窒素原子、酸素原子又は硫黄原子をヘテロ原子として含む環になりうることを意味する。また、上記式(3−a)又は(3−b)で表される2価の複素環基が有していてもよい置換基としては、上記Bが芳香族複素環基である場合の、有していてもよい置換基として列記したものが挙げられる。
【0041】
上記式(3−b)におけるXで表される2価の連結基としては、例えば、―N=C−C=C−、−CO―NH−CO―、=N−S―N=、―CH=N―CH=CH−等が挙げられる。但し、CH及びNHにおけるC及びNには、Hの代わりに有機基等の置換基が置換していてもよい。
上記式(3−a)で表される2価の複素環基としては、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン及びピラジンから誘導され、かつ連結位置が互いにp−位にある基が挙げられる。上記式(3−b)で表される2価の複素環基としては、キノリン、イソキノリン、ベンゾチアジアゾール、フタルイミド等から誘導され、かつ連結位置がベンゼン環の互いにp−位にある基が挙げられる。色素全体の平面性の点から式(3−b)の基であることが好ましく、特に、5,8−キノリンジイル基及び5,8−イソキノリンジイル基が特に好ましい

【0042】
<R
式(1)においてR1は、水酸基または−NHR5を表す。ここで、R5は、水素原子、置換
基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
該アルキル基は、炭素数が通常1以上、通常4以下、好ましくは2以下である。該アルキル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換基を有していてもよい低級アルキル基が挙げられる。
【0043】
R5のアシル基は、炭素数が通常2以上、通常5以下、好ましくは3以下である。該アシル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アシル基の具体例としては、アセチル基等が挙げられる。
<R
式(1)においてR2は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を
有していてもよいアルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアミノ基または置換基を有していてもよいアシルアミノ基を表す。尚、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアシルアミノ基、の好ましい炭素数、有していてもよい置換基の例、その具体例は、前記Aが芳香族炭化水素基の場合に有していてもよい置換基として記載したものと同様である。中でも、メチル基、エチル基、メトキシ基、ハロゲン原子等の立体的にかさ高くない基やアミノ基、水酸基のような水素結合性を有する基は、R2からみてオルト位に位置するアゾ基のコンホメーションを固定し、かつ立体的に会合を阻害しないことから分子会合性を向上する点で好ましい。
【0044】
<R及びR
式(1)においてRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアシル基またはトリアジニル基を表す。
該アルキル基及び該フェニル基の有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
【0045】
該アシル基は、置換されていてもよいアルキルアシル基、フェニルアシル基であり、該アルキル基及び該フェニル基の有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
該トリアジニル基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基等のアルキルアミノ基、メチル基、メトキシ基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基等が置換していてもよいフェニルアミノ基、水酸基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0046】
特に、-NRとしては、R及びRが水素原子であるアミノ基、Rが水素原
子及びRがアルキル基であるアルキルアミノ基、Rが水素原子及びRがフェニル基であるフェニルアミノ基などが好ましく、アルキルアミノのアルキル基の炭素数は1〜2が好ましい。
特にR及びRのいずれもが水素原子であることが好ましい。
【0047】
<nおよびm>
nは0または1を表し、1であることが好ましい。mは0または1を表す。本発明の式(
1)で表される色素は、通常ジスアゾ色素またはトリスアゾ色素である。
<分子量>
式(1)で表される色素の分子量としては、遊離酸の形で、600以上が好ましく、1500以下が好ましく、1100以下がさらに好ましい。
【0048】
<異方性色素膜用色素>
式(1)で表される色素は、通常、会合性が高く、高いリオトロピック液晶状態を形成することができる。従って、式(1)で表される本発明の色素は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用の色素として適しており、またその二色比も高いので、該色素を含有する組成物を異方性色素膜に使用すれば、二色性の高い異方性色素膜を得ることが出来る。
【0049】
また、式(1)で表される色素は、通常水溶性の色素である。
<塩>
本発明の色素は式(1)で示されるような遊離酸の形(遊離酸型)のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。塩型の交換方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
【0050】
1) 塩型で得られた色素の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、色素を遊離酸の形で酸析
せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
2) 塩型で得られた色素の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例え
ば、塩化リチウム)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換を行う方法。
【0051】
3) 塩型で得られた色素の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、色素を遊離
酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
4) 予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で処
理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた色素の水溶液を作用させ、塩交換を行う方法。
【0052】
また、本発明で使用される色素は、ここで、酸性基が遊離酸型をとるか、塩型を取るかは、色素のpKaと色素水溶液のpHに依存する。
上記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩が挙げられる。
【0053】
該アンモニウムの塩が有していてもよい置換基であるアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基としては炭素数1〜6の低級アルキル基およびヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキル基が挙げられる。
有機アミンの例として、炭素数1〜6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン等が挙げられる。
【0054】
これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
<具体例>
本発明の色素の具体例としては、遊離酸の形として、例えば以下の(I−1)から(I−21)に示す構造の色素が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
【化9】

【0058】
【化10】

【0059】
<合成法>
式(1)で表される色素は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。例えばNo.(I−7)で示される色素は、下記(A)(B)(C)の工程で製造できる。
(A)6−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸(ダール酸)と3−アミノ−4−クロロフ
ェノールとから常法[例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁第409頁参照]に従って、ジアゾ化、カップリング工程を経てモノアゾ化合物を製造する。
(B)得られたモノアゾ化合物を同様に、常法によりジアゾ化し、8−アミノ−2−ナフ
タレンスルホン酸(1,7−Cleves 酸)とカップリング反応を行い、ジスアゾ化合物を
製造する。
(C)得られたジスアゾ化合物を同様に、常法によりジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフ
トール−3,6−ジスルホン酸(RR酸)とカップリング反応を行い塩化ナトリウムで塩析することにより目的の色素No.(I−7)が得られる。
【0060】
特に、前示構造式(I−7)で示される本発明の色素は、水溶液中でリオトロピック液晶を形成するため、高い二色性を示す異方性色素膜を作製可能であり、特に湿式成膜法に適した有用な色素である。
<組成物>
本発明の異方性色素膜用組成物は、式(1)で表される色素及び溶剤を含有する。組成物中において、式(1)で表される色素を単独で使用できるが、式(1)に記載の色素同士、あるいは配向を低下させない程度に他の色素と混合して用いることができる。これにより、各種の色相を有する異方性色素膜を製造することができる。
(配合用色素)
配合用として好ましい色素の例としては、例えばC.I.Direct Yellow
12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Y
ellow 132、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct Red 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0061】
(溶剤)
本発明の異方性色素膜用組成物に使用される溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等の単独又は二種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0062】
(濃度)
色素を溶解する場合の濃度としては、色素の溶解性やリオトロピック液晶状態などの会合状態の形成濃度にも依存するが、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
(添加剤)
また、本発明の異方性色素膜用組成物は、基材への濡れ性、塗布性を向上させるため、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能である。その添加濃度は通常0.05重量%以上、0.5重量%以下が好ましい。
【0063】
<異方性色素膜>
また、本発明の異方性色素膜は、前記式(1)で表される本発明の色素を含有し、好ましくは湿式成膜法で形成された異方性色素膜である。通常、本発明の異方性色素膜は、前記本発明の異方性色素膜用組成物を基板上に湿式成膜法により形成することにより得られる。
【0064】
上記説明した様に、上記式(1)で表される本発明の色素は、高いリオトロピック液晶状態を形成し、高次の分子配向状態を示すことができ、高い二色性を示すことができる。従って、本発明の異方性色素膜は、高い二色性を示す有用な色素膜となる。
本発明の異方性色素膜は高い二色比を示すが、二色比は9以上のものが好ましく、より好ましくは12以上、特に好ましくは15以上のものが使用される。
【0065】
特に、偏光膜に使用する際には中庸な色調の膜が好ましく、色相として、L***
色系において、√{(a*+(b*}≦30、好ましくは√{(a*+(b*}≦10、さらに好ましくは、√{(a*+(b*}≦5、かつ色素膜の透過率が35%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは44%以上を満たすものが表示素子、特にカラー表示素子用偏光子として好ましい。
【0066】
<湿式成膜法>
本発明においては、湿式成膜法により異方性色素膜を作製する。前記異方性色素膜用組
成物を調製後、ガラス板などの各種基材に塗布し、色素を配向、積層して得る方法など公知の方法が挙げられる。
異方性色素膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の色素は異方性色素膜用組成物中、リオトロピック液晶状態等の良好な分子間相互作用による会合体を形成した状態を形成するので、これをガラス等の基材上に塗布し、剪断力を与えて色素を一定方向に配向させた後、乾燥させることにより、異方性色素膜を得ることができる。
【0067】
基材としては、ガラス、樹脂等からなる厚さ10〜1500μm程度の透明なものが用いられる。樹脂としては、トリアセテート、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース、ウレタン系樹脂などが挙げられる。
基材の表面には、異方性色素膜用組成物中の色素分子の配向方向を制御するために、「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)第226頁〜第239頁などに記載の公知の方法により、配向処理層を施しておいてもよい。
【0068】
基材上へ異方性色素膜用組成物を塗布する方法としては、従来公知の方法で行えばよく、例えば、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)第253頁〜第277頁、または市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)第118頁〜第149頁などに記載の方法や、例えば、あらかじめ配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、フリースパンコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0069】
基材上に塗布した異方性色素膜組成物中の色素に剪断力を与えることにより、色素は一定方向に配向する。バーコート、ロールコート、ブレードコート、フリースパンコート法、ダイコート法などは、塗布と同時に剪断力を与えることができるので好ましい。
塗布時の温度は、好ましくは0℃以上、80℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。乾燥時の温度は好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
【0070】
このようにして得られる異方性色素膜の膜厚は、通常50nm以上であり、100nm以上であることが好ましい。また、その上限は通常50μm以下、好ましくは1μm以下である。
また、異方性色素膜の可視光波長領域における透過率は、好ましくは25%以上である。透過率は高いほどよく、通常35%以上、特に40%以上であるのが好ましい。最も好ましくは44%以上である。透過率が低いと、表示素子、特にカラー表示素子用偏光子として用いるのは難しい。
【0071】
このような方法で製造された異方性色素膜は機械的強度が低い場合もあるので、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜によりラミネーションして形成され、実用に供する。
また、本発明の異方性色素膜をLCDやOLEDなどの各種の表示素子に偏光膜等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板などに直接色素膜を形成したり、色素膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材に用いることができる。
【0072】
前記の方法等で基材上に異方性色素膜を形成する場合、通常乾燥後の膜厚で、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、好ましくは50μm以下、更に好ましくは1μm以下である。
<偏光素子>
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得
る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【0073】
本発明の偏光素子は、上述した本発明の異方性色素膜を用いたものであるが、異方性色素膜のみからなる偏光素子であってもよいし、基材上に異方性色素膜を有する偏光素子であってもよい。本発明において、基材上に異方性色素膜を有する偏光素子は、基材も含めて偏光素子とよぶ。
本発明の異方性色素膜を基材上に形成して偏光素子として使用する場合、基材と形成された異方性色素膜のみで使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0074】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特許第2841377号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開 2002-169025号公報や特開2003-29030 号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択
反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0075】
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【0076】
本発明の色素を用いた異方性色素膜は、ガラスなどの高耐熱性基板上に直接形成することが可能であり、高耐熱性の偏光素子を得ることができるという点から、液晶ディスプレーや有機エレクトロルミネッセンスディスプレーだけでなく液晶プロジェクタや車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0077】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例中、二色比は、ヨウ素系偏光素子を入射光学系に配した分光光度計で異方性色素膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:色素膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:色素膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
(実施例1)
水84部に色素No.(I−1)のリチウム塩を16部加え、撹拌溶解後濾過してpH
7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。この色素水溶液は、リオトロピック液
晶性を示した。
【0078】
一方、基材としてガラス基板上にスピンコート法によりポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1.1mm、ポリイミド膜厚約800Åのポリイミド配向膜をあらかじめ布でラビング処理を施したもの)を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0079】
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めたその二色比(D)を表1に示す。得られた偏光膜は、短波長領域(500nm)および色素の極大吸収波長(565nm)のいずれにおいても偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0080】
(実施例2)
水72部に色素No.(I−2)のナトリウム塩を28部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。この色素水溶液は、リオトロピック
液晶性を示した。
スライドガラス(松浪硝子工業製 スライドグラス白縁磨フロストNo.1)に前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0081】
得られた異方性色素膜の二色比(D)を表1に示す。得られた偏光膜は、短波長領域(500nm)および色素の極大吸収波長(560nm)のいずれにおいても偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
(実施例3)
水80部に色素No.(I−7)のナトリウム塩を20部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。この色素水溶液は、リオトロピック
液晶性を示した。
【0082】
一方、基材としてガラス基板上にスピンコート法によりポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1.1mm、ポリイミド膜厚約800Åのポリイミド配向膜をあらかじめ布でラビング処理を施したもの)を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ5μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0083】
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めたその二色比(D)を表1に示す。得られた偏光膜は、短波長領域(500nm)および色素の極大吸収波長(615nm)のいずれにおいても偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0084】
(実施例4)
水80部に色素No.(I−8)のリチウム塩を20部加え、撹拌溶解後濾過してpH
7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。この色素水溶液は、リオトロピック液晶性を示した。
一方、基材としてガラス基板上にスピンコート法によりポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1.1mm、ポリイミド膜厚約800Åのポリイミド配向膜をあらかじめ布でラビング処理を施したもの)を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ20μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自
然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0085】
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めたその二色比(D)を表1に示す。得られた偏光膜は、短波長領域(500nm)および色素の極大吸収波長(615nm)のいずれにおいても偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0086】
(実施例5)
水74部に色素No.(I−13)のリチウム塩を26部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。この色素水溶液は、リオトロピック
液晶性を示した。
一方、基材としてガラス基板上にスピンコート法によりポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1.1mm、ポリイミド膜厚約800Åのポリイミド配向膜をあらかじめ布でラビング処理を施したもの)を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0087】
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めたその二色比(D)を表1に示す。得られた偏光膜は、短波長領域(500nm)および色素の極大吸収波長(625nm)のいずれにおいても偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0088】
【表1】

【0089】
(比較例1)
【0090】
【化11】

【0091】
色素No.(II−1)のナトリウム塩のあらゆる濃度の水溶液を作製したが、リオト
ロピック液晶性は確認されなかった。
(比較例2)
【0092】
【化12】

【0093】
色素No.(II−2)のナトリウム塩のあらゆる濃度の水溶液を作製したが、リオトロピック液晶性は確認されなかった。
(比較例3)
【0094】
【化13】

【0095】
色素No.(II−3)のナトリウム塩およびリチウム塩のあらゆる濃度の水溶液を作製したが、リオトロピック液晶性は確認されなかった。
(比較例4)
【0096】
【化14】

【0097】
色素No.(II−4)のナトリウム塩およびリチウム塩のあらゆる濃度の水溶液を作製したが、リオトロピック液晶性は確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素。
【化1】

(式(1)中、Aは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。nは0または1を表し、mは0または1を表す。
1は、水酸基または−NHR5(R5は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基ま
たは置換基を有していてもよいアルキルアシル基を表す)を表す。
2は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいア
ルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子または置換基を有していてもよいアミノ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアシル基または置換基を有していてもよいトリアジニル基を表す。)
【請求項2】
上記式(1)中、Aが下記式(2−a)または(2−b)のいずれかの基で表されることを特徴とする、請求項1に記載の湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素。
【化2】

(式(2−a)および式(2−b)中、R15およびR16は、それぞれ独立に、ハロゲ
ン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシ基またはスルホ基を表す。rは0〜2の整数を表し、sは0〜3の整数を表す。)
【請求項3】
上記式(1)中、Bが置換基を有していてもよい1,4−ナフチレン基であることを
特徴とする、請求項1または2に記載の湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の異方性色素膜用色素及び溶剤を含有することを特徴とする、異方性色素膜用組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の異方性色素膜用色素を含有することを特徴とする、湿式成膜法により形成された異方性色素膜。
【請求項6】
請求項5に記載の異方性色素膜を有する偏光素子。

【公開番号】特開2008−81700(P2008−81700A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266581(P2006−266581)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】