説明

湿式抄造材及び繊維強化複合材

【課題】湿式抄造時の材料歩留りや抄造シート取り扱い性が良好な湿式抄造材、ならびに、これを加熱加圧成形してなる引張強度の優れた繊維強化複合材を提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物を湿式抄造してなる湿式抄造材であって、前記フィブリル化処理有機繊維は、JIS P8121「パルプのろ水度試験方法」により測定された濾水度がフィブリル化処理前の初期濾水度の70〜95%であることを特徴とする湿式抄造材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式抄造材及び繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック繊維、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材は、強度、剛性に優れているため、電気・電子用途、土木・建築用途、自動車用途、航空機用途等に広く用いられている。なかでも強化繊維が均一に分散した基材を用いた繊維強化複合材は、力学特性が等方的になり、さらには高強度を発現する材料であれば適用可能な用途は非常に多くなる。
【0003】
強化繊維を均一かつ等方的に分散し、繊維強化複合材を作製する方法として、湿式抄造法が検討されている。例えば特許文献1においては、フェノール樹脂粉末と強化繊維としてガラス繊維とアラミド繊維を水中に分散し抄造したウェブ状の成形材料を、成形金型にて加熱加圧成形(圧縮成形)して繊維強化のフェノール樹脂成形品を作製している。また、特許文献2には、ガラス繊維とビニロン繊維をフェノール樹脂の微粒子と共に水中に分散させ、これらを抄造し乾燥してシート状の成形材料を得た後に、金型内で加熱加圧成形して板状成形品を作製することが記載されており、抄造する強化繊維および分散混抄する樹脂を選定することで、機械的特性を中心とした成形品特性の改良検討が精力的に行われている。
【0004】
湿式抄造法は、マトリックス樹脂粒子と強化繊維を水中に分散し、漉きとることによって均一に分散複合した湿式複合材を形成する方法であり、抄造する時に構成する材料、特に樹脂等の粒子物が抄造メッシュを通過して排出されないことが、構成材料の配合割合の再現性や材料歩留りの点で好ましい。この様な粒子状材料の抄造時の捕捉について、特許文献3には、繊維を機械的に叩解することで作製したフィブリルの網目状構造を有するフィブリル化繊維を用いて、活性炭粒子の細かな粉体を捕捉し、強固に接着固定化して脱落し難くすることが記載されている。このような手法により粒子物の捕捉率の向上は確認されるものの、抄造材料のシート強度については言及されていない。
【0005】
繊維強化複合材への繊維パルプ添加による湿式抄造材の歩留り、取り扱い性、繊維強化複合材の引張強度への影響を検討した結果、高フィブリル化処理したパルプを用いることで、樹脂粒子の捕捉率が向上し材料歩留りが向上するだけでなく、繊維にパルプが絡み合い湿式抄造材の取り扱い性が良くなるものの、パルプは加熱加圧成形した繊維強化複合材への引張強度寄与率が低いだけでなく、繊維と繊維との絡み合いに寄与するパルプ成分の塊が生じることやパルプ塊の偏在が生じ、繊維強化複合材の引張強度低下を引き起こす現象が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−95024号公報
【特許文献2】特開平10−166361号公報
【特許文献3】特開2003−166118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、湿式抄造時の材料歩留りや抄造シート取り扱い性が良好な湿式抄造材、ならびに、これを加熱加圧成形してなる引張強度の優れた繊維強化複合材を提供することを目
的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(4)により達成される。
(1)マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物を湿式抄造してなる湿式抄造材であって、上記フィブリル化処理有機繊維は、JIS
P8121「パルプのろ水度試験方法」により測定された濾水度がフィブリル化処理前の初期濾水度の70〜95%であることを特徴とする湿式抄造材。
(2)上記フィブリル化処理有機繊維は、上記濾水度が初期濾水度の85〜95%である、上記(1)に記載の湿式抄造材。
(3)上記材料組成物全体に対して、マトリックス樹脂5〜80重量%、基材繊維10〜90重量%、及び、フィブリル化処理有機繊維1〜50重量%を含有するものである、上記(1)又は(2)に記載の湿式抄造材。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の湿式抄造材を加熱加圧成形してなる繊維強化複合材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の湿式抄造材は、添加されるフィブリル化処理有機繊維がわずかに表面をフィブリル化処理されたものであるので、湿式抄造材製造時の材料歩留りが向上するとともに、湿式抄造材の粒子物脱落や折れ曲がり等が生じず、取り扱い性の良好な湿式抄造材とすることができる。
そして、この湿式抄造材を加熱加圧成形した繊維強化複合材は、引張強度等の機械的特性を向上させることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の湿式抄造材は、マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物を湿式抄造してなる湿式抄造材であって、上記フィブリル化処理有機繊維は、JIS P8121「パルプのろ水度試験方法」により測定された濾水度がフィブリル化処理前の初期濾水度の70〜95%であることを特徴とする。
また、本発明の繊維強化複合材は、上記本発明の湿式抄造材を加熱加圧成形してなるものである。
まず、本発明の湿式抄造材について説明する。
【0011】
本発明の湿式抄造材に用いられるマトリックス樹脂としては特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を挙げることができる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂が例示される。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンやその酸変性物、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、フェノール系樹脂およびフェノキシ樹脂が例示される。
このうち、リサイクル性やリペア性の観点から熱可塑性樹脂が好ましい。また、樹脂は湿式抄造により基材繊維等と複合化することから、常温で粒子状であり、水に不溶であることが良い。配合量としては、マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物全体に対して、好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%、特に好ましくは30〜60重量%である。これにより、湿式抄造体を加熱加圧成形した場合に、外観が良好で且つ樹脂偏在の少ない繊維複合材を作製することができる。
【0012】
本発明の湿式抄造材に用いられる基材繊維としては特に限定されないが、リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹などの天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維やその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維やその共重合体、アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維、またガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、金属繊維などの無機繊維を、単一または複数種組み合わせて用いることができる。その種類や形態、組合せ、配合比率等は特に限定されるものではなく、その配合量としては、マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物全体に対して、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは30〜70重量%である。これにより、湿式抄造体を加熱加圧成形した場合に、外観が良好で且つ繊維偏在の少ない繊維複合材を作製することができる。
【0013】
本発明の湿式抄造材に用いられるフィブリル化処理有機繊維としては、リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹などの天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維やその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維やその共重合体、アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維をフィブリル化したパルプ状繊維、好ましくはフィブリル化パラ型全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。
有機繊維のフィブリル化方法については特に限定されないが、有機繊維を水に分散させた水スラリーとしてビーターもしくはリファイナーなどで叩解することにより、フィブリル化処理有機繊維を作製することができる。叩解時のスラリー濃度は任意であるが、固形分濃度0.1〜10重量%が好ましい。
本発明に用いられるフィブリル化処理有機繊維は、JIS P8121「パルプのろ水度試験方法」により測定された濾水度がフィブリル化処理前の初期濾水度の70〜95%である。さらに好ましくは、85〜95%である。これにより、粒子状材料の捕捉性能を有し、繊維単体の機械強度の低下を抑えたフィブリル化有機繊維とすることができる。
フィブリル化処理有機繊維の配合量としては、マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物全体に対して、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは3〜30重量%、特に好ましくは5〜20重量%である。これにより、材料歩留りが高く、取り扱い性に優れた湿式抄造体を得ることが出来、その抄造体を加熱加圧成形した場合に、機械特性の良好な繊維複合材を作製することができる。
【0014】
本発明の湿式抄造材に用いられる材料組成物には、抄造薬剤を添加することができる。
抄造薬剤は、基材繊維、フィブリル化処理有機繊維、及び、マトリックス樹脂の間に介在し各構成材料を結合する役割を担う。
抄造薬剤としては例えば、アクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンオキシド等の熱可塑性樹脂が挙げられ、これらより選ばれる1種、または2種以上が用いられる。また、熱可塑性樹脂は、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、カルボン酸塩基及び酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、2種以上を有していてもよい。中でも、アミノ基を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0015】
本発明の湿式抄造材に用いられる材料組成物には、さらに添加剤を添加することができる。
添加剤としては、充填剤、導電性付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制震剤、防臭剤、摺動性改質剤、帯電防止剤が例示される。
【0016】
充填剤としては、破砕ガラス、マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカが例示される。
【0017】
次に、本発明の湿式抄造材の製造方法について説明する。
まず、マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物を水に分散させたスラリー組成物を調製する。スラリー組成物を調製する際の水への各材料の投入順序等は特に限定されず、マトリックス樹脂、基材繊維、フィブリル化処理有機繊維の分散状態を確認しながら順次水中に投入することができる。
スラリー組成物の混合は、パルパーなどの公知のミキサーを用いることができる。各抄造材料を均一に攪拌混合した後に、抄造薬剤を添加して、抄造用のスラリー組成物を作製する。これらの工程で、混合の際、気泡の発生を抑制する目的で、一般の抄造の際に用いられる公知の消泡剤を用いることができる。
【0018】
次に、このスラリー組成物を抄造し、紙状物を得る。抄造は、長網抄紙機や丸網抄紙機といった連続抄紙機や、箱型抄紙機など公知の抄造装置を用いて抄造することができ、また抄造後、連続抄紙機の場合はそのまま乾燥工程を経てローラーへ巻き取る。箱型抄紙機などのバッチ式での抄紙機の場合は、抄造後の紙状物を金枠等に保持し、乾燥機などで乾燥する。
これらの操作により、湿式抄造材を製造することができる。
【0019】
次に、本発明の繊維強化複合材について説明する。
本発明の繊維強化複合材は、上記本発明の湿式抄造材を加熱加圧成形してなるものである。
湿式抄造材の加熱加圧成形方法としては特に限定されないが、乾燥させた湿式抄造材を加熱プレスや金型による加熱圧縮成形等により成形する。加熱プレスの方法としては、特に規定はなく、公知のプレス機などを用いることにより行うことができる。このときの、プレス温度やプレス圧、加圧・加熱時間については特に規定はなく、マトリックス樹脂の組成や硬化温度、また最終の繊維強化複合材の厚みや密度を考慮した条件で行えば特に問題はない。更に、その後、マトリックス樹脂を完全に硬化させる目的で、後硬化を行うこともできる。この後硬化条件については、特に規定はなく用いたマトリックス樹脂の硬化温度等を考慮して適宜決定できる。
【0020】
以上に説明したように、本発明の湿式抄造材は、マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物を湿式抄造してなる湿式抄造材であって、上記フィブリル化処理有機繊維は、JIS P8121「パルプのろ水度試験方法」により測定された濾水度がフィブリル化処理前の初期濾水度の70〜95%であることを特徴とするものである。
このような湿式抄造材は、僅かにフィブリル化した表面を有する繊維を混抄しているの
で、粒子状材料の歩留が良く、粉落ち等が少ない取り扱い性に優れたものとすることができる。そして、これを加熱加圧成形してなる繊維強化複合材において、フィブリル化を僅かに抑えている事により、フィブリル化処理有機繊維単体の機械特性の低下を僅かに抑える事が出来ることから、強いフィブリル化処理を行ったフィブリル化処理有機繊維を同量配合した繊維強化複合材と比較して、機械強度を向上させることができるものである。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
本実施例に使用した物性項目の測定法は下記の通りで行った。
【0022】
1)フィブリル化処理有機繊維の濾水度
下記試験方法・条件により濾水度を測定した。
準拠規格:JIS P8121 パルプのろ水度試験方法 (1)カナダ標準ろ水度試験方法
試験機:カナディアンフリーネステスター 改良型No.2580−B(熊谷理機工業社製)
温度:室温
試料濃度:0.3重量%
測定結果は表1に示す。
【0023】
2)繊維強化複合材の引張強度
下記試験方法・条件により引張強度を測定した。
準拠規格:JIS K7113 プラスチックの引張試験方法
温度:室温
試験機:島津オートグラフ AG−5kNUS MS (島津製作所社製)
試験片:JIS K7113 ダンベル1(1/2)号
試験速度:1mm/min
つかみ具間距離:58mm
測定結果は表1に示す。
【0024】
<実施例1>
JIS P8221−1 パルプ−こう解方法−第1部:ビーター法に準拠して、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維(商品名「テクノーラ T32PNW
3−12」・帝人テクノプロダクツ社製)にフィブリル化処理を施した。ここで得られたフィブリル化処理有機繊維1の濾水度は718mlCSFであり、初期濾水度の95%であった。
基材繊維としては、パラ型アラミド繊維(商品名「テクノーラ T32PNW 3−12」・帝人テクノプロダクツ社製)、マトリックス樹脂としては、固形レゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト社製)を用いた。
これらをそれぞれ表1に示す配合で配合した後に定着剤を添加してスラリー組成物を調製し、これを抄造、脱水、乾燥して湿式抄造材を得た。
その後、この湿式抄造材を熱プレス機を用いて200℃で10分間、面圧300MPaで熱プレスを行った。ここで得られた成形シートを更に180℃で2時間後硬化を行い、繊維強化複合材を得た。この繊維強化複合材の室温での引張強度を測定した。得られた結果を表1に示す。
この結果、引張強度は315MPaであり、後述する高フィブリル化処理有機繊維(アラミドパルプ)を使用した比較例1の引張強度257MPaやフィブリル化処理有機繊維とマトリックス樹脂のみからなる比較例2の引張強度169MPa、フィブリル化処理繊維を使用しない比較例3の引張強度236MPaに対して明らかに引張強度が向上している。
また、この繊維強化複合材の歩留りは98.5%であり、フィブリル化処理有機繊維を使用しない比較例3の歩留り95.4%に対して3.1%向上しており、更にシート取り扱い性も改善している。
【0025】
<実施例2>
KRK高濃度ディスクレファイナーNo.2500−1(熊谷理機社製)を使用して、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維(商品名「テクノーラ T32PNW 3−12」・帝人テクノプロダクツ社製)にフィブリル化処理を施した。ここで得られたフィブリル化処理有機繊維2の濾水度は660mlCSFであり、初期濾水度の87%であった。その他の材料や方法は実施例1と同一で繊維強化複合材を得た。この繊維強化複合材料の室温での引張強度を測定した。得られた結果を表1に示す。このものは、実施例1と同様、比較例1、2、3に対して引張強度が向上しており、歩留りにおいても比較例3に対して良好である。
【0026】
<比較例1>
実施例1の配合に際し、フィブリル化処理有機繊維1を全量高フィブリル化処理繊維アラミドパルプ(商品名「Kevlar ウェットパルプ」、東レ・デュポン社製、濾水度は417mlCSFであり、初期濾水度の55%)と置き換え、その他の材料や方法は実施例1と同一で繊維強化複合材を得た。この繊維強化複合材の室温での引張強度を測定した。得られた結果を表1に示す。得られた繊維強化複合材は引張強度において実施例1に劣るものであった。
【0027】
<比較例2>
比較例1の配合に際し、パラ型アラミド繊維(基材繊維)を全量、フィブリル化処理有機繊維2と置き換え、その他の材料や方法は実施例1と同一で繊維強化複合材を得た。この繊維強化複合材の室温での引張強度を測定した。得られた結果を表1に示す。得られた繊維強化複合材は引張強度において実施例1に劣るものであった。
【0028】
<比較例3>
実施例1の配合に際し、フィブリル化処理有機繊維1を全量フィブリル化処理を施していないパラ型アラミド繊維(基材繊維)と置き換え、その他の材料や方法は実施例1と同一で繊維強化複合材を得た。この繊維強化複合材の室温での引張強度を測定した。得られた結果を表1に示す。得られた繊維強化複合材は引張強度において実施例1に劣るものであった。また、歩留りや取り扱い性について実施例1に劣るものであった。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、樹脂と繊維を含んでなる湿式抄造材から成形する繊維強化複合材において、抄造時の歩留りやシート取り扱い性が良好で、機械強度の優れた繊維強化複合材として有
用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂、基材繊維、及び、フィブリル化処理有機繊維を含有する材料組成物を湿式抄造してなる湿式抄造材であって、前記フィブリル化処理有機繊維は、JIS P8121「パルプのろ水度試験方法」により測定された濾水度がフィブリル化処理前の初期濾水度の70〜95%であることを特徴とする湿式抄造材。
【請求項2】
前記フィブリル化処理有機繊維は、前記濾水度が初期濾水度の85〜95%である、請求項1に記載の湿式抄造材。
【請求項3】
前記材料組成物全体に対して、マトリックス樹脂5〜80重量%、基材繊維10〜90重量%、及び、フィブリル化処理有機繊維1〜50重量%を含有するものである、請求項1又は2に記載の湿式抄造材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の湿式抄造材を加熱加圧成形してなる繊維強化複合材。

【公開番号】特開2012−7254(P2012−7254A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142128(P2010−142128)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】