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湿式摩擦材及びその仕上げ処理方法
説明

湿式摩擦材及びその仕上げ処理方法

【課題】短時間の処理でμ−V特性が正勾配となる湿式摩擦材とする。
【解決手段】 400℃〜 700℃に加熱された相手材の平滑表面に摩擦材を圧接させながら摺動させる。繊維成分に含浸し硬化されたバインダー成分が熱によって軟化するとともに、摺動による剪断力と加圧力によって押し潰されると考えられ、繊維成分周囲が平滑化されるとともに平面部分が多くなる一方、空孔も十分に残存するため、摩擦係数が安定するとともに、少なくとも摩擦係合初期のμ−V特性が正勾配となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材とその製造方法に関する。すなわち、平板リング状の芯金にセグメントピースに裁断した摩擦材を全周両面若しくは片面に接合してなるセグメントタイプ摩擦材、及び平板リング状の芯金の両面若しくは片面にリング状の摩擦材を接合してなるリング状摩擦材と、その仕上げ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機用の湿式摩擦材としては、平板リング状の芯金の片面又は両面に、ペーパー状の摩擦材基材から切り出したリング状摩擦材を接合したもの、あるいは摩擦材基材から切り出した複数個のセグメントピースを接合したものが使用されている。これらの摩擦材は、油中において回転するライニング面がディスク等に押し付けられることで回転力が伝達されるものである。
【0003】
自動変速機におけるジャダーは、用いられている湿式摩擦材のμ−V特性を正勾配とすることで抑制できることが知られている。ところが一般の湿式摩擦材では、使用初期におけるμ−V特性が負勾配となってしまう。この原因としては、湿式摩擦材の表層にバインダー成分が多く分布すること、湿式摩擦材中の充填材などによって繊維間の気孔が埋められること、潤滑油の添加剤が熱分解して析出すること、など、様々な要因が考えられている。
【0004】
そこで例えば特公平06−037909号公報には、湿式摩擦材をセパレータに圧接した状態で相対的に回転させて摺り合わせ、摩擦面を150〜300 ℃に昇温させる仕上げ方法が提案されている。このように新品の湿式摩擦材に対して初期ならしを行うことで、摩擦面の未硬化の樹脂成分を硬化させることができ、摩擦係数が安定化する。
【0005】
また特開平09−039144号公報には、バインダーの含浸後に表層の余剰バインダーを吸引除去すると共に、バインダーが不完全硬化の状態で表面を平滑化する湿式摩擦材の製造方法が記載されている。このような製造方法で製造された湿式摩擦材は、表層に余剰樹脂が少ないのでフェード現象を防止することができる。また相手摺動面との接触面積が大きいので、摩擦係数が高まり安定性も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平06−037909号公報
【特許文献2】特開平09−039144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが特許文献1に記載された仕上げ方法は、湿式摩擦材及びディスクを実際の製品装置と同様の装置に組み込んで行われるものであるため、目的の摩擦係数が得られるまでかなりの時間を要し、製造工数の増加、製造時間の遅延を招いて製造コストの低減を図ることができなかった。またμ−V特性の正勾配化の程度も僅かであり、さらなる正勾配化が求められている。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、短時間の処理でμ−V特性が正勾配となる湿式摩擦材とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の湿式摩擦材の仕上げ処理方法の特徴は、繊維成分とバインダーとを含む湿式摩擦材の摩擦面を、平滑表面をもち 400℃〜 600℃に加熱された相手材の該平滑表面に圧接させながら摺動させることにある。
【0010】
また本発明の湿式摩擦材の特徴は、本発明の仕上げ処理方法で処理され、摩擦面の負荷曲線において断面曲線の頂点から切断レベル5%における負荷長さ率(tp)が40〜90%の範囲にあり、摩擦係合初期のμ−V特性が正勾配であることにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の仕上げ処理方法によれば、繊維成分に含浸し硬化されたバインダー成分が熱によって軟化するとともに、摺動による剪断力と加圧力によって押し潰されると考えられ、繊維成分周囲が平滑化されるとともに平面部分が多くなる一方、空孔も十分に残存する。したがって本発明の湿式摩擦材によれば、使用時における相手部材との接触面積が高まるとともに潤滑作用も奏される結果、摩擦係数が安定するとともに摩擦係合初期のμ−V特性が正勾配となる。
【0012】
また本発明の仕上げ処理方法によれば、約30秒程度の処理で摩擦係合初期のμ−V特性が正勾配となるので、製造工数の増加、製造時間の遅延などの不具合を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1に係る摩擦材の仕上げ処理方法に用いた仕上げ処理装置の半部断面図である。
【図2】実施例1で処理された摩擦材表面のSEM画像である。
【図3】比較例1で処理された摩擦材表面のSEM画像である。
【図4】比較例2で処理された摩擦材表面のSEM画像である。
【図5】実施例1で処理される前の摩擦材表面のSEM画像である。
【図6】負荷長さ率を示すグラフである。
【図7】μ−V特性を示し、サイクル数と三角波Δμとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の湿式摩擦材は、繊維成分と、バインダーとから主として構成される。繊維成分としては、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、シリカ−アルミナ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維、金属繊維などの無機繊維、リンターパルプ、木材パルプ、合成パルプ、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、炭素繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維などの有機繊維の一種又は複数種を用いることができる。
【0015】
バインダーとしては、フェノール樹脂などの耐熱性に優れた有機熱硬化性樹脂、金属アルコキシド及び有機基置換金属アルコキシドの少なくとも一方を加水分解して調製されたゾル溶液を乾燥・焼成してなる有機無機質の複合バインダー、などを用いることができる。本発明の場合には、バインダー中に少なくともフェノール樹脂を含むことが望ましい。フェノール樹脂は有機無機質の複合バインダーに比べて軟質であるので、仕上げ処理時に容易に平滑化することができ、より短時間で処理を終えることが可能となる。
【0016】
本発明の湿式摩擦材には、従来と同様に各種充填材を含有することが好ましい。この充填材としては、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化珪素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化珪素、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、ジルコニア、カシューダスト、ラバーダスト、珪藻土、グラファイト、タルク、カオリン、酸化マグネシウム、二硫化モリブデン、ニトリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどの一種又は複数種を適量用いることができる。この充填材の粒径は、50μmを超えると摩擦材表面の凹凸が大きくなり相手部材との総接触面積が相対的に小さくなるため、50μm以下とすることが望ましい。
【0017】
それぞれの成分の組成比は、繊維成分と充填材との合計量 100体積%に対してバインダーが固形分で10〜70体積%の範囲とするのが好ましい。バインダー量がこれより少ないと繊維成分の結合強度が低下して耐久性が低下し、これより多くなると摩擦特性が低下する。また繊維成分と充填材の比率は、体積比で繊維成分/充填材=90/10〜 1/99の範囲とすることができる。充填材の量がこの範囲から外れると摩擦特性、強度などが低下し、相手部材の摩耗が大きくなる場合もある。
【0018】
本発明の仕上げ処理方法では、相手材の平滑表面に湿式摩擦材の摩擦面が圧接される。湿式摩擦材の摩擦面とは、使用時に相手部材と摺接する湿式摩擦材の表面をいう。相手材は金属製あるいはセラミックス製のものであり、平滑表面を有している。この相手材は、 400℃〜 700℃に加熱されている。この加熱温度が 400℃未満ではμ−V特性を正勾配とするのが困難となり、 700℃を超えると摩擦面が炭素化して摩擦特性の低下や強度の低下が生じるようになる。 500℃〜 600℃の範囲が特に好ましい。
【0019】
湿式摩擦材と相手材との圧接の加圧力は、0.5MPa〜2.0MPaの範囲とするのが好ましく、1.0MPa〜1.5MPaの範囲とするのがより好ましい。加圧力が0.5MPaより低いと処理時間が長くなり、2.0MPaより高くなると摺動抵抗が大きくなり設備仕様が大きくなる。
【0020】
湿式摩擦材の摩擦面と相手材の平滑面とは、上記のように加圧されながら摺動する。摺動方向は特に制限されないが、湿式摩擦材の形状は一般にリング状であるので、回転方向の摺動とするのが望ましい。この場合、摺動速度は、10rpm〜100rpmの回転速度とするのが好ましい。10rpm未満では処理時間が長くなり、100rpmを超えると摩擦材表面が炭化し強度が低下してしまう。
【0021】
こうして得られた本発明の湿式摩擦材は、摩擦面の負荷曲線において断面曲線の頂点から切断レベル5%における負荷長さ率(tp)が40〜90%の範囲にあり、摩擦係合初期のμ−V特性が正勾配となる。したがって、ジャダーを抑制することができ、初期から安定した摩擦係数が発現される。
【0022】
負荷長さ率(tp)が40%未満では潤滑性が低くなってμ−V特性が負勾配となり、負荷長さ率(tp)が90%を超えると摩擦係合初期のμ−V特性が負勾配となる場合がある。この負荷長さ率(tp)は40〜90%であることが好ましく、60〜90%であることがさらに望ましい。
【0023】
なお摩擦面の負荷曲線は表面粗さ測定器で計測されるものであり、断面曲線はJIS-B0671に規定されている。切断レベル5%における負荷長さ率(tp)は、断面曲線から所定の測定長さ(L)を抜き取り、その平均線に平行でかつ最高山頂から最大谷深さの5%だけ下側にある直線で切断された表面の切断部分の長さを所定の長さ(L)に対する百分率で表したものである。
【0024】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施態様を説明する。
【実施例1】
【0025】
先ず繊維質材料としてのアラミド繊維を水中に投入し撹拌して分散させ、抄造機を用いて抄紙して抄紙体とした。これを乾燥し、ペーパー状の基材を調製した。
【0026】
次にペーパー状の基材を外径φ238mm、内径φ206mmのリング状の摩擦材の形状にプレスで打ち抜き、フェノール樹脂溶液中に浸漬してフェノール樹脂を含浸させた。そしてオーブンにて 250℃で7分間加熱して熱硬化させ、本実施例の湿式摩擦材(厚さ1mm)とした。フェノール樹脂は基材 100重量部に対して30重量部含浸されている。
【0027】
得られた摩擦材1を、図1に示すロックアップクラッチのピストン2の表面に貼着した。ピストン2は略円盤状をなし、摩擦材1はその外周端に貼着されている。摩擦材1が貼着されたピストン2を治具3に固定し、治具3を回転駆動しながら予め加熱されている熱板4に摩擦材1を押圧する仕上げ処理を行った。熱板4は固定状態にあり、ピストン2と共に回転する摩擦板1が治具3の表面と摩擦摺動する。そのときの条件を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
熱板4の表面は、ロックアップクラッチのピストン2が押圧される相手材であるディスクと同一形状をなし、外周縁部にテーパー面40が形成されている。摩擦材1は、その外周縁部がテーパー面40に押圧され、仕上げ処理の進行に伴って内周側から外周側に向かって厚さが薄くなるテーパー面10が形成される。この仕上げ処理後の摩擦材を実施例1の摩擦材とした。なおテーパー面10は、熱板4に摩擦摺動させる前に予め研磨等の加工によって形成しておくこともあり得る。
【0030】
[比較例1]
実施例1と同様の仕上げ処理前の摩擦材1を用意し、ロックアップクラッチのピストン2の表面に貼着し、それをオートマチックトランスミッションに組付け、表2に示す条件で初期ならし運転を行った。このとき、摩擦材1は相手材のディスクと摺動し、実施例1と同様のテーパー面10が形成された。初期ならし運転後の摩擦材を比較例1の摩擦材とした。
【0031】
【表2】

【0032】
[比較例2]
実施例1と同様の仕上げ処理前の摩擦材1を用意し、摩擦材1の摩擦される表面にレーザー光を照射し、極く表層を改質した。その後、ロックアップクラッチのピストン2の表面に貼着し、研磨粉の飛散防止などの理由からATFを吹き付けながら研磨した。この研磨時に、実施例1と同様のテーパー面10が形成された。この摩擦材を比較例2の摩擦材とした。
【0033】
<表面観察>
実施例1、比較例1及び比較例2の摩擦材について、表面の SEM画像(×200倍)を図2、図3、図4にそれぞれ示す。また、実施例1の仕上げ処理前の摩擦材1の表面の SEM画像(×200倍)を図5に示す。実施例1の摩擦材は、比較例1および比較例2の摩擦材と類似した表面外観をなし、仕上げ処理前に比べて平坦面が多くなっていることがわかる。そこで実施例1、比較例1及び比較例2の摩擦材について表面粗さを測定し、摩擦面の負荷曲線において断面曲線の頂点から切断レベル5%における負荷長さ率(tp)を算出した。結果を図6に示す。この負荷長さ率は、摩擦摺動時の摺動面積の指標である。
【0034】
図6より、実施例1の摩擦材は、比較例2の摩擦材と同等の値を示し、比較例1の摩擦材より摺動面積が大きくなっている。したがって実施例1の摩擦材は、比較例2の摩擦材と同等の摩擦特性を示し、比較例1の摩擦材より摩擦特性が優れていることが推察される。
【0035】
<スリップ耐久試験>
そこで実施例1の摩擦材と、比較例1及び比較例2の摩擦材について、表3に示す条件にてスリップ耐久試験を行い、μ−V特性を調査した。このとき、200rpmのときのμと20rpmのときのμの差Δμ{μ(200rpm)−μ(20rpm)}を各サイクル毎に算出し、結果を図7に示す。Δμが正であればμ−V特性が正勾配、Δμが負であればμ−V特性が負勾配と判定される。
【0036】
【表3】

【0037】
図7より、比較例1の初期ならしされた摩擦材では40,000サイクル程度までμ−V特性が負勾配となり、比較例2のレーザー処理後にATFを吹き付けて研磨された摩擦材では15,000サイクル程度までμ−V特性が負勾配となっている。これらに対し実施例1の摩擦材では、スリップ耐久試験中μ−V特性が常に正勾配となり、これは本発明の仕上げ処理方法を行ったことによる効果であることが明らかである。
【0038】
以上、本発明をロックアップクラッチに使用する摩擦材について説明してきたが、本発明は同様の抄紙基材を使用するペーパーフェーシングを用いた湿式クラッチ等へも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、湿式クラッチ、ブレーキ摩擦材、ロックアップクラッチ用摩擦材など、油中に浸した状態で摩擦摺動される湿式摩擦材の処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1:摩擦材 2:ピストン 3:治具
4:熱板(相手材) 10:摩擦材のテーパー面
40:熱板のテーパー面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成分とバインダーとを含む湿式摩擦材の摩擦面を、平滑表面をもち 400℃〜 700℃に加熱された相手材の該平滑表面に圧接させながら摺動させることを特徴とする湿式摩擦材の仕上げ処理方法。
【請求項2】
前記摺動時の加熱温度は 500℃〜 600℃の範囲である請求項1に記載の湿式摩擦材の仕上げ処理方法。
【請求項3】
前記摺動時の加圧力は0.5MPa〜2.0MPaの範囲である請求項1又は請求項2に記載の湿式摩擦材の仕上げ処理方法。
【請求項4】
前記摺動は回転摺動であり、10rpm〜100rpmの回転速度で行う請求項1〜3のいずれかに記載の湿式摩擦材の仕上げ処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の仕上げ処理方法によって処理されてなるペーパー状の湿式摩擦材であって、
摩擦面の負荷曲線において断面曲線の頂点から切断レベル5%における負荷長さ率(tp)が40〜90%の範囲にあり、少なくとも摩擦係合初期のμ−V特性が正勾配であることを特徴とする湿式摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2624(P2013−2624A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138095(P2011−138095)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】