説明

湿式摩擦材及びその製造方法

【課題】高い摩擦係数及び耐久性を有し、しかも生産性に優れた湿式摩擦材を提供する。
【解決手段】摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化させてなる湿式摩擦材、並びに、摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化する湿式摩擦材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式摩擦材に関し、特に、高い摩擦係数及び耐久性を有し、しかも生産性に優れた湿式摩擦材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機において、リングプレート状の金属製基板(芯金)の両面に湿式摩擦材を接着した複数のディスクプレート(摩擦プレート)と、同じくリングプレート状の一般に鋼材からなる摩擦相手材としての複数のセパレートプレート(カウンタプレート)とを交互に配した多板形クラッチが組込まれ、潤滑油として使用されるATF(オートマチックトランスミッションフルード)の中で、これらのプレートを相互に圧接し、また開放することによって、駆動力を伝達または遮断するようにしている。また、この自動変速機には、反力要素を固定し、また解放するために、同様の多板形ブレーキまたはバンドブレーキも組込まれている。
【0003】
このような潤滑油中で使用されるクラッチ、ブレーキ等においてフェーシングまたはライニングとして用いられる摩擦材は、従来より、ペーパー摩擦材とも呼ばれるペーパー系の湿式摩擦材が一般的である。
ペーパー摩擦材は、例えば、パルプに各種の摩擦調整剤などを配合したのち、抄紙を行い、更にフェノール樹脂に代表される結合用樹脂を含浸し、その後、硬化させて製造される。このペーパー摩擦材は適度な摩擦係数を有していることより、広範囲の用途に用いられている。
しかしながら、昨今の車両のエンジン出力アップ、燃費向上の為の摩擦係数向上、車両重量の増加などによる湿式摩擦材への負荷増大に対する耐久性の向上など、解決すべき問題が多い。さらに、近年の環境負荷を軽減すべく各種の研究がなされている。
例えば、特許文献1には、基材の結合剤として用いる樹脂では、乾性油とカシューナッツ殻液とにより変性された乾性油及びカシューナッツ殻液変性フェノール樹脂からなるフェノール樹脂を用いた湿式摩擦材が開示され、特許文献2には、メソフェーズピッチの粉体を混合分散した熱硬化性樹脂を用いた湿式摩擦材が開示されています。
しかし、特許文献1及び2の湿式摩擦材は、高い摩擦係数及び耐久性を維持しているものの、生産性が不十分であった。
【特許文献1】特開平9−59599号公報
【特許文献2】特開平11−5850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、高い摩擦係数及び耐久性を有し、しかも生産性に優れた湿式摩擦材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、結合剤としてベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を用いることにより、前記の目的を達成することを見出し本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化させてなる湿式摩擦材、並びに、摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化する湿式摩擦材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法により湿式摩擦材を製造すると、高い摩擦係数及び耐久性を有しつつ、しかも高い生産性で湿式摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の湿式摩擦材は、摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化させてなる湿式摩擦材である。
このようなベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーは、特に限定されないが、高度な耐熱性を有するものが好ましく、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0008】
ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、o−イソプロピルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−sec−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、p−クロロフェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール、p−ブロモフェノール等のフェノール類、α−ナフトール、β−ナフトール等のナフトール類、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール等のキシレノール類等の一価フェノール類;レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4'−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1'−ビス(ジヒドロキシフェニル)メタン、1,1'−ビス(ジヒドロキシナフチル)メタン、テトラメチルビフェノール、ビフェノール、ヘキサメチルビフェノール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のナフタレンジオール類等の二価フェノール類;トリスヒドロキシフェニルメタン等の三価フェノール類を用いた樹脂を挙げることができる。
また、ノボラック型フェノール樹脂としては、キシリレン基を有するフェノール・アラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン骨格構造を有するフェノール樹脂等が挙げられる。
【0009】
これらの中でも、特に、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、ナフトール類、2,2−ビス(4'−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6−キシレノール、レゾルシン、ハイドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンを用いた樹脂が好ましい。
【0010】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、ベンゼン環を有するフェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アラルキルジフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
以上の樹脂は、単独でもしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0011】
前記ポリマーの分子量は、重量平均分子量(Mw)が1000〜3000であると好ましく、1500〜2500であるとさらに好ましい。Mwが3000以下であれば、湿式摩擦材としての十分な摩擦特性が得られる。また、Mwが1000以上であれば、湿式摩擦材としての十分な耐久性が得られる。
【0012】
また、前記ポリマーの主鎖に導入する不飽和基は、架橋点として機能する。
その場合、不飽和基をポリマーに導入する方法としては、例えば、ポリマーがノボラック型フェノール樹脂の場合、グリシジル(メタ)アクリレートのようなフェノール性水酸基に反応することのできるグリシジル基等の官能基をその構造中に有し、かつ、メタクリレートのような二重結合を合わせもつ物質を反応させる方法や、N−メチロールアクリルアミドの様に、フェノールに対して反応性を有し、かつ、アクリルの二重結合を有する物質を反応させることで方法が挙げられる。
また、ポリマーがノボラック型エポキシ樹脂の場合は、アクリル酸のような酸と二重結合を合わせ持つ物質を反応させる方法が挙げられる。
【0013】
ポリマーの主鎖に反応させるべき物質は、主鎖官能基1モル当り、不飽和基当量で通常0.25以上であり、0.5〜0.8モルが好ましい。0.25モル以上であれば、最終架橋密度が十分で、耐熱性、耐久性が良好である。
本発明の湿式摩擦材に用いる摩擦基材としては、特に限定されず、公知の常用のものを用いれば良く、例えば、リンターパルプ及び充填材を水に分散させた分散液から通常の方法で抄紙することにより得た紙状シート等を用いることができる。
【0014】
本発明の湿式摩擦材の製造方法としては、例えば、摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を含浸させ、硬化するなど、諸条件は特に限定されず、公知の方法によって製造すれば良い。
樹脂の硬化方法としては特に限定するものではなく、公知の方法により硬化すれば良いが、熱、又は光もしくは電子線のエネルギー線照射により硬化させると好ましく、特に、電子線のエネルギー線照射が好ましい。また、電子線の照射量としては、通常25〜300kGyであり、50〜200kGyであると好ましい。50kGy以上であれば、十分な硬化性が得られる。
【0015】
具体的な製造方法としては、例えば、リンターパルプに摩擦調整剤として、グラファイト、二硫化モリブデン、硫酸バリウム、シリカ粉末等の無機質粉状物質、カシューダスト、フッ素樹脂粉末等の有機質粉状物質や、紙の強度向上の為、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、スチールなどの金属繊維等を配合し、水に分散させた後、通常の方法で抄紙して紙状シートにし、このシートに熱又は光による硬化を行う場合には公知である光重合開始剤又は有機過酸化物開始剤等のラジカル重合開始剤を前述した樹脂に対して0.2〜5.0質量%程度添加し、リンターパルプに含浸して硬化させ、リング状に打ち抜いた後、芯板にフェノール樹脂系接着剤で接着し、得ることができる。
【実施例】
【0016】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1
1Lの三つ口セパラブルフラスコに市販のノボラック型フェノール樹脂BRG−558(商品名:昭和高分子株式会社製)100重量部、メチルエチルケトン40重量部、グリシジルメタクリレート104.5重量部、トリエチルアミン2重量部を仕込み、80℃で6時間反応させた。この時のノボラック型フェノール樹脂のフェノール性水酸基とグリシジルメタクリレートの当量比は約100:75である。このとき、ポリスチレン換算重量平均分子量2500の不飽和基含有樹脂を得た。
この不飽和基含有樹脂を、リンターパルプからなる基材に対して40質量%となるように含浸し、室温で30分乾燥した。このシートを電子線を片面100kGyずつ約2秒で照射して硬化させ、得られたシートをリング状に打ち抜き、常法の方法にて目的の湿式摩擦材を作成した。この湿式摩擦材の性能を表1に示す条件(SAE♯2測定条件)にて測定したところ摩擦係数は0.132、摩耗量6μmと、高い摩擦係数を有し、かつ、耐久性にも優れていた。
【0017】
【表1】

【0018】
実施例2
1Lの三つ口セパラブルフラスコに市販のエポキシ樹脂N−740(商品名:大日本インキ化学工業株式会社製)181重量部、メタクリル酸86重量部、メチルハイドロキノン0.2重量部、トリジメチルアミノメチルフェノール1.5重量部を仕込み、105℃で30分反応後、117℃で2時間反応させ、メチルエチルケトン115重量部を添加した。この時のエポキシ樹脂のエポキシ基とメタクリル酸の当量比は約100:100である。このとき、ポリスチレン換算重量平均分子量2300の不飽和基含有樹脂を得た。
この不飽和基含有樹脂を、リンターパルプからなる基材に対して40質量%となるように含浸し、室温で30分乾燥した。このシートを電子線で片面100kGyずつ約2秒で照射して硬化させ、得られたシートをリング状に打ち抜き、常法の方法にて目的の湿式摩擦材を作成した。この湿式摩擦材の性能を表1に示す条件にて測定したところ摩擦係数は0.133、摩耗量8μmと、高い摩擦係数を有し、かつ、耐久性にも優れていた。
【0019】
比較例1
市販のフェノール樹脂BLS−3855(商品名:昭和高分子株式会社製)を、メタノールで樹脂分約35%となるように希釈し、リンターパルプからなる基材に対して40質量%となるように含浸し、220℃で10分間硬化させ、得られたシートをリング状に打ち抜き、常法にて目的の湿式摩擦材を作成した。この湿式摩擦材の性能を表1に示す条件にて測定したところ摩擦係数は0.132、摩耗量8μmと、高い摩擦係数を有し、かつ、耐久性にも優れていた。
【0020】
比較例2
市販ペーパー湿式摩擦材において、表1で示す条件に従い摩擦特性を測定したところ、摩耗量は8μmと良好な耐久性を示したが、摩擦係数は0.114とそれほど高い値は発現しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上詳細に説明したように、本発明の湿式摩擦材の製造方法によると、高温で、長時間加熱する必要が無い様々な硬化システムをとることが出来、環境負荷を低減させた製法を用いることが出来、高い生産性で湿式摩擦材を提供することができる。また、得られた湿式摩擦材は、高い摩擦係数及び耐久性を有し、自動車用クラッチ、湿式ブレーキ等に極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化させてなる湿式摩擦材。
【請求項2】
前記ポリマーがノボラック型フェノール樹脂である請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記ポリマーがノボラック型エポキシ樹脂である請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
熱、又は光もしくは電子線等のエネルギー線照射により前記不飽和基含有樹脂を硬化させてなる請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
摩擦基材に、ベンゼン環がメチレン架橋している主鎖を有するポリマーの主鎖に不飽和基を導入した不飽和基含有樹脂を結合剤として用い、硬化する湿式摩擦材の製造方法。

【公開番号】特開2009−263412(P2009−263412A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111324(P2008−111324)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)