説明

湿式摩擦材

【課題】湿式摩擦材において、摩擦材基材の厚さを変えることなく、湿式摩擦材の重量を増加させることもなく、摩擦面を相手材の表面形状に追従させることによって、摩擦係数が大きくジャダー現象を低減できること。
【解決手段】湿式摩擦材1は、芯金2の両面にリング形状の摩擦材基材3を接着してなり、摩擦材基材3は摩擦面層4及びベース層5の二層から構成され、摩擦面層4はアラミド繊維に充填材及び摩擦調整剤を混合して抄紙し、フェノール樹脂を含浸して加熱硬化させてなる。一方、ベース層5は、セルロース繊維及びアラミド繊維にコルク粒子6を混合して抄紙し、フェノール樹脂を含浸して加熱硬化させてなる。ベース層5のコルク粒子6が弾性変形して、相手材の表面のうねり等の影響を吸収することによって、摩擦面層4の表面(摩擦面)を相手材の表面に追従させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、リング形状の芯金の表面に少なくともベース層及び摩擦面層の二層を設けた湿式摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。
このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、このような湿式油圧クラッチにおいて締結時に発生することがあるジャダー現象、即ち摩擦によって動力を伝達するクラッチやブレーキにおいてスムースに力が作用せず異常振動を起こす現象の低減については、従来の抄紙タイプの摩擦材基材を用いた湿式摩擦材の改良では十分に対応することができなかった。
かかるジャダー現象の発生は、相手材であるセパレータプレート等の表面のうねり等に起因することが分かっている。
このような相手材の表面のうねりを吸収するためには、抄紙タイプの摩擦材基材の厚さを厚くして弾性を増加することが考えられるが、摩擦材基材の厚さの変更は設計変更となるため、摩擦材基材の厚さを変えることなくジャダー現象を低減することが要請されていた。
【0005】
そこで、特許文献1においては、相手材の表面のうねりを吸収して係合時の相手面との偏当りを生じにくくすること等を目的として、摩擦面層の下にゴム組成物層を配置した湿式摩擦材の発明について開示している。
これによって、ゴム組成物層が弾性変形して相手面のうねりを吸収するため、相手面との当りが改善されるとともに、摩擦摺動面側への作動オイルのリークを低減することができるとしている。
【0006】
また、特許文献2においては、二層構造の湿式摩擦材において、固定面側の層を摩擦係数の向上に寄与させることを目的として、摩擦面層の下に弾性変形可能なベース層を、特に発泡ゴムよりなる弾性体を含むベース層を設けたことを特徴とする湿式摩擦材の発明について開示している。
これによって、ベース層が弾性変形することで摩擦面層が相手材の表面形状に追従しながら摩擦摺動するため、相手材との接触面積が増大し摩擦係数を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−100933号公報
【特許文献2】特開2000−161406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、ベース層に比重の大きいゴム組成物を用いるため、湿式摩擦材の重量が増大してしまい、摩擦材係合装置の軽量化の要請に反することになるという問題点があった。
また、上記特許文献2に記載の技術においては、発泡ゴムよりなる弾性体をベース層に用いているため重量は低減されるが、反発力が弱くなるため、締結時の加圧が弱く締結力が小さくなる、相手面との当りの改善性が低下する等の不具合が生じやすいという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであって、摩擦材基材の厚さを変えることなく、湿式摩擦材の重量を増加させることもなく、摩擦面を相手材の表面形状に追従させることによって、摩擦係数が大きくジャダー現象を低減することができる湿式摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、リング形状の芯金と、該芯金の最表面に設けられた摩擦面層と、該摩擦面層と前記芯金との間に設けられたベース層とを具備し、前記ベース層は、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体を含有するものである。
ここで、「リング形状の芯金」は必ずしも平板リング形状でなくても良く、波打ちを有するリング形状の芯金を用いる場合もある。また、「芯金」の材質は金属製に限られるものではない。
更に、「摩擦面層」及び「ベース層」は、隣接する層との境界面が必ずしも明確になっていなくても良い。例えば、「摩擦面層」または「ベース層」に合成樹脂を含有させて、これらの層を隣接する層と合成樹脂で接着した場合には、境界面が不明瞭になる。したがって、「摩擦面層」は摩擦面を有し湿式摩擦材の最表面に位置する部分であれば良く、「ベース層」は摩擦面層と芯金との間に位置する弾力性を有する部分であれば良い。
また、「柔軟性を有する多面マイクロセル構造体」とは、多面体または正多面体で中空の構造体であって、柔軟性を有し、高い弾性力を持つもので、具体的にはコルク粒子等が該当する。
【0011】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記柔軟性を有する多面マイクロセル構造体は、コルク粒子であり、該コルク粒子の含有量は前記ベース層を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内、より好ましくは30重量%〜40重量%の範囲内であるものである。
ここで、「コルク(cork)」とは、コルクガシの樹皮のコルク組織を剥離、加工した弾力性に富む素材であり、またコルクに似せて作った合成素材は合成コルクと呼ばれる。本明細書及び特許請求の範囲においては、合成コルクの粒子をも「コルク粒子」に含めるものとする。
【0012】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記柔軟性を有する多面マイクロセル構造体は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内、より好ましくは30μm〜50μmの範囲内であるものである。
【0013】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項3の何れか1つの構成において、前記ベース層の厚さは、前記摩擦面層の厚さの1倍〜3倍の範囲内、より好ましくは1.5倍〜2.5倍の範囲内であるものである。
【0014】
請求項5の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項4の何れか1つの構成において、前記ベース層の前記柔軟性を有する多面マイクロセル構造体以外の構成が、セルロース繊維及び/またはアラミド繊維と、熱硬化性樹脂とを含有するものである。
ここで、「セルロース繊維及び/またはアラミド繊維」とは、セルロース繊維のみを含有していても良く、アラミド繊維のみを含有していても良く、セルロース繊維とアラミド繊維の両方を含有していても良いという意味である。
【0015】
また、「セルロース(cellulose)」とは、分子式(C6105 )n で表される炭水化物(多糖類)であって、植物細胞の細胞壁及び繊維の主成分で、天然の植物質の3分の1を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物である。
更に、「アラミド(aramid)」とは、ポリアミド(アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマー)の一種であり、ジアミンとカルボン酸の共重合反応で合成される。アラミドにはパラ系アラミドとメタ系アラミドがあり、パラ系アラミドは高い強度と弾性率を持ち、メタ系アラミドは優れた耐熱性を有する。
組織的な命名法ではなく、商標名で呼ばれることが多い。例えば、パラ系アラミドとしては、「ケブラー(Kevlar)」(デュポン社の登録商標)、「トワロン(Twaron)」(帝人アラミド社の登録商標)、「テクノーラ(Technora)(HM−50)」(帝人テクノプロダクツ(株) の登録商標)等があり、メタ系アラミドとしては、「ノーメックス(Nomex)」(デュポン社の登録商標)、「コーネックス」(帝人テクノプロダクツ(株) の登録商標)等がある。
また、「熱硬化性樹脂」としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等がある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、リング形状の芯金と、芯金の最表面に設けられた摩擦面層と、摩擦面層と芯金との間に設けられたベース層とを具備し、ベース層は柔軟性を有する多面マイクロセル構造体を含有することから、中空で軽量である柔軟性を有する多面マイクロセル構造体が弾性変形して、相手材の表面のうねり等の影響を吸収することによって、摩擦面層の表面(摩擦面)を相手材の表面に追従させることができる。
したがって、湿式摩擦材と相手材との締結時におけるジャダーを大幅に低減できるとともに摩擦係数が向上し、湿式摩擦材の重量が増大することもなく、逆に軽量化される。
【0017】
このようにして、摩擦材基材の厚さを変えることなく、重量を増加させることもなく、摩擦面を相手材の表面形状に追従させることによって、摩擦係数が大きくジャダー現象を低減することができる湿式摩擦材となる。
【0018】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体がコルク粒子であり、コルク粒子の含有量はベース層を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内である。
本発明者は、湿式摩擦材におけるジャダー現象を低減するために最適な柔軟性を有する多面マイクロセル構造体の材質とその配合量について、鋭意実験研究を重ねた結果、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体としてコルク粒子を用いて、その含有量はベース層を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内とすることによって、請求項1に係る発明の効果に加えて、より摩擦係数が大きくジャダーの少ない湿式摩擦材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0019】
即ち、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体としてコルク粒子を用いることによって、より確実に摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られ、コルク粒子の含有量がベース層を100重量%とした場合に20重量%未満であると、コルク粒子による弾性変形の効果が小さくなって摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られ難くなり、一方、ベース層を100重量%とした場合にコルク粒子の含有量が50重量%を超えると、ベース層の強度が低下して相手材との締結時において湿式摩擦材が破損してしまう恐れがある。
したがって、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体としてコルク粒子を用い、その含有量はベース層を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内とすることが好ましい。
【0020】
なお、コルク粒子の含有量を、ベース層を100重量%とした場合に30重量%〜40重量%の範囲内とすることによって、より一層確実に摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られることから、より好ましい。
【0021】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材においては、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内である。
本発明者は、湿式摩擦材におけるジャダー現象を低減するために最適な、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体の粒子径について、鋭意実験研究を重ねた結果、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体の粒子径を、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内とすることによって、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、より摩擦係数が大きくジャダーの少ない湿式摩擦材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0022】
即ち、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体のレーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm未満であると、弾性変形の効果が小さくなって摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られ難くなり、一方、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が60μmを超えると、ベース層の強度が低下して相手材との締結時において湿式摩擦材が破損してしまう恐れがある。
したがって、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体の粒子径は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内とすることが好ましい。
【0023】
なお、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体の粒子径を、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が30μm〜50μmの範囲内とすることによって、より一層確実に摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られることから、より好ましい。
【0024】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材においては、ベース層の厚さが摩擦面層の厚さの1倍〜3倍の範囲内である。
本発明者は、湿式摩擦材におけるジャダー現象を低減するために最適な、ベース層の厚さと摩擦面層の厚さの比率について、鋭意実験研究を重ねた結果、ベース層の厚さを摩擦面層の厚さの1倍〜3倍の範囲内とすることによって、請求項1乃至請求項3に係る発明の効果に加えて、より摩擦係数が大きくジャダーの少ない湿式摩擦材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0025】
即ち、ベース層の厚さが摩擦面層の厚さの1倍未満であると、弾性変形の効果が小さくなって摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られ難くなり、一方、ベース層の厚さが摩擦面層の厚さの3倍を超えると、湿式摩擦材全体の強度が低下して相手材との締結時において湿式摩擦材が破損してしまう恐れがある。
したがって、ベース層の厚さを摩擦面層の厚さの1倍〜3倍の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
なお、ベース層の厚さを摩擦面層の厚さの1.5倍〜2.5倍の範囲内とすることによって、より一層確実に摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られることから、より好ましい。
【0027】
請求項5の発明に係る湿式摩擦材においては、ベース層が、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体以外に、セルロース繊維及び/またはアラミド繊維と、熱硬化性樹脂とを含有することから、請求項1乃至請求項4に係る発明の効果に加えて、弾性変形力と強度とを併せ持つベース層となり、より一層確実に摩擦係数を向上させジャダー現象を低減する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の全体構成を示す平面図、(b)は(a)のA−A断面の一部を示す部分断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1の実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材の摩擦材基材の弾性歪み量の測定結果を比較例1の摩擦材基材と比較して示す棒グラフである。
【図3】図3は本発明の実施の形態1の実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材の摩擦性能の測定結果を比較例1の湿式摩擦材と比較して示す棒グラフである。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の全体構成を示す平面図、(b)は(a)のB−B断面の一部を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態においては、芯金は金属製に限られるものではなく、強度と耐油性と耐熱性を有するものであれば、例えばポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス繊維強化PET、環状ポリオレフィン(COP)等のエンジニアリング・プラスチックや、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等のスーパー・エンジニアリング・プラスチックからなるものでも良い。
【0030】
製造し易さという点では、芯金の材料としては、やはり鉄、鋼、合金鋼、ステンレス、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、タングステン合金等の金属が好ましく、特にコスト面等から、鉄、鋼、合金鋼、銅合金が好ましい。
【0031】
リング形状の芯金の上には、少なくとも摩擦面層とベース層が設けられるが、「摩擦面層」としては、従来の湿式摩擦材の摩擦材基材として用いられているような、セルロース繊維等の繊維に必要に応じて充填剤や摩擦調整剤等の添加物を混合して抄紙し、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸して加熱硬化させてなる摩擦材基材から切り出したもの等を用いることができる。
また、「ベース層」としては、セルロース繊維等の繊維に柔軟性を有する多面マイクロセル構造体及び必要に応じて充填剤等の添加物を混合して抄紙し、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸して加熱硬化させてなる摩擦材基材から切り出したもの等を用いることができる。
【0032】
ここで、「柔軟性を有する多面マイクロセル構造体」としては、合成コルクの粒子を含む概念としてのコルク粒子が好ましい。
また、コルク粒子の含有量は、ベース層が強度と弾性変形性を兼ね備える必要があることから、ベース層を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内とすることが好ましく、30重量%〜40重量%の範囲内とすることがより好ましい。
更に、コルク粒子の粒子径は、ベース層が強度と弾性変形性を兼ね備える必要があることから、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内であることが好ましく、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が30μm〜50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0033】
また、ベース層は、多面マイクロセル構造体以外に、セルロース繊維及びアラミド繊維を含有することが好ましく、その含有量は、セルロース繊維及びアラミド繊維ともに、ベース層を100重量%とした場合に10重量%〜25重量%の範囲内とすることが好ましく、15重量%〜20重量%の範囲内とすることがより好ましい。
【0034】
更に、ベース層の厚さは、摩擦面層の厚さの1倍〜3倍の範囲内であることが好ましく、摩擦面層の厚さの1.5倍〜2.5倍の範囲内であることがより好ましい。
また、ベース層と摩擦面層とを互いに貼り合わせて摩擦材基材としてからセグメントピース形状またはリング形状に切り出しても良いし、ベース層と摩擦面層とをそれぞれ別個にセグメントピース形状またはリング形状に切り出してから、まず芯金の表面に切り出したベース層を接着剤で貼り付け、その上に切り出した摩擦面層を接着剤で貼り付けることもできる。
【0035】
以下、本発明の実施の形態に係る湿式摩擦材について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0036】
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の全体構成について、図1を参照して説明する。
図1(a)に示されるように、本実施の形態1に係る湿式摩擦材1は、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面に、リング形状の摩擦材基材3を接着してなるリングタイプ摩擦材である。
リング形状の摩擦材基材3の外径φ1及び内径φ2の大きさは、相手材の大きさ及び湿式摩擦材1に要求される特性に基づいて、任意に設定することができる。
【0037】
図1(b)に示されるように、この摩擦材基材3は、摩擦面層4及びベース層5の二層から構成されており、相手材と接触する摩擦面を有する摩擦面層4は、繊維に充填材及び摩擦調整剤を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなるものである。
一方、ベース層5は、繊維に柔軟性のある多面マイクロセル構造体としてのコルク粒子6を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなるものである。
【0038】
そして、外径φ1及び内径φ2のリング形状に切り出したベース層5を、鋼板製の芯金2の表面に接着剤としてのフェノール樹脂で接着し、更にベース層5の上に同じく外径φ1及び内径φ2のリング形状に切り出した摩擦面層4を接着剤としてのフェノール樹脂で接着して、これらの摩擦面層4及びベース層5から摩擦材基材3を構成することによって、湿式摩擦材1が得られる。
【0039】
なお、図示しない芯金2の裏面にも、同様にして外径φ1及び内径φ2のリング形状に切り出されたベース層5が接着され、ベース層5の上に外径φ1及び内径φ2のリング形状に切り出された摩擦面層4が接着されることによって、摩擦材基材3が構成され、このようにして両面に摩擦面を有するリングタイプ摩擦材としての湿式摩擦材1が製造されている。
【0040】
より具体的には、ベース層5は、繊維としてセルロース繊維及びアラミド繊維を用いて、これらにコルク粒子6を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなる。
セルロース繊維としては叩解してパルプ化したものを使用し、アラミド繊維としてもパルプタイプのものを使用している。なお、このアラミド繊維は、繊維長さが短く、フィブリル化度が高いという特徴を有しており、高い強度と弾性率を有するパラ系アラミドである。
【0041】
ここで、「叩解」とは、『叩解はパルプスラリーを、リファイナー、ビーターなどの回転する向かい合った凹凸の刃の間を通過させることにより、パルプに連続的な圧縮・開放を繰り返して作用させて、パルプ繊維に膨潤、フィブリル化、切断を起こさせることである。』(社団法人日本化学会・編『化学便覧 応用化学編(第6版)』250頁,平成15年1月30日,丸善株式会社発行)である。
また、「フィブリル(fibril)」とは小繊維を意味し、「フィブリル化」とは、繊維内部のフィブリルが摩擦作用で表面に現れて毛羽立ち、ささくれる現象をいう。
【0042】
更に、コルク粒子6としては、合成コルクではない天然のコルクガシの樹皮のコルク組織を剥離、加工したコルクの粒子を用いて、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いたレーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が41.4μmで、粒度分布が10μm〜100μmのものを使用した。
よって、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体としてのコルク粒子6は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内に入っており、30μm〜50μmの範囲内にも入っている。
【0043】
一方、摩擦面層4は、繊維としてアラミド繊維を用いて、これに充填材及び摩擦調整剤を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなる。
アラミド繊維としては、ベース層5と同じく、パルプタイプのものを使用している。なお、このアラミド繊維は、繊維長さが短く、フィブリル化度が高いという特徴を有しており、高い強度と弾性率を有するパラ系アラミドである。
【0044】
そして、摩擦面層4の厚さ:t1=0.35mm、ベース層5の厚さ:t2=0.65mm、摩擦材基材3の全体の厚さ:t=1mmとしている。
したがって、ベース層5の厚さt2は、摩擦面層4の厚さt1の1.86倍である。よって、ベース層5の厚さは、摩擦面層4の厚さの1倍〜3倍の範囲内に入っており、1.5倍〜2.5倍の範囲内にも入っている。
【0045】
本実施の形態1においては、ベース層5を形成するセルロース繊維、アラミド繊維及びコルク粒子の配合率を変化させて、実施例1乃至実施例3の三種類の摩擦材基材3からなる湿式摩擦材1を作製して、その特性を検証した。
また、比較のために、ベース層5を有せず、摩擦材基材が摩擦面層4のみで構成された比較例1の湿式摩擦材をも作製して、実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材1との特性の違いを評価した。
実施例1乃至実施例3に係る摩擦材基材3及び比較例1の摩擦材基材の配合を、表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示されるように、実施例1に係る摩擦材基材3は摩擦面層4及びベース層5の二層から構成されており、ベース層5は、27.78重量%のセルロース繊維と、同じく27.78重量%のアラミド繊維と、44.44重量%のコルク粒子とを混合して湿式抄造することによって、紙質基材が形成されている。
この紙質基材100重量%に対して、40重量%のフェノール樹脂を含浸して加熱成形することによって、ベース層5が構成されている。
【0048】
したがって、実施例1に係る摩擦材基材3のベース層5を100重量%とした場合に、セルロース繊維とアラミド繊維はそれぞれ19.84重量%、コルク粒子は31.74重量%、フェノール樹脂は28.57重量%が含有されている。なお、小数点2桁未満四捨五入した。
よって、コルク粒子の含有量は、ベース層5を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内に入っており、また30重量%〜40重量%の範囲内にも入っている。
また、セルロース繊維及びアラミド繊維ともに、ベース層5を100重量%とした場合に10重量%〜25重量%の範囲内に入っており、更に15重量%〜20重量%の範囲内にも入っている。
【0049】
一方、実施例1に係る摩擦材基材3の摩擦面層4は、44.0重量%のアラミド繊維と、56.0重量%の充填材及び摩擦調整剤とを混合して湿式抄造することによって、紙質基材が形成されている。
この紙質基材100重量%に対して、20.0重量%のフェノール樹脂を含浸して加熱成形することによって、摩擦面層4が構成されている。
したがって、実施例1に係る摩擦材基材3の摩擦面層4を100重量%とした場合に、アラミド繊維は36.67重量%、充填材及び摩擦調整剤は46.67重量%、フェノール樹脂は16.67重量%が含有されている。
【0050】
また、表1に示されるように、実施例2に係る摩擦材基材3のベース層5においては、25.0重量%のセルロース繊維と、同じく25.0重量%のアラミド繊維と、50.0重量%のコルク粒子とを混合して湿式抄造することによって、紙質基材が形成されている。
この紙質基材100重量%に対して、40.0重量%のフェノール樹脂を含浸して加熱成形することによって、ベース層5が構成されている。
【0051】
したがって、実施例2に係る摩擦材基材3のベース層5を100重量%とした場合に、セルロース繊維とアラミド繊維はそれぞれ17.86重量%、コルク粒子は35.71重量%、フェノール樹脂は28.57重量%が含有されている。
よって、コルク粒子の含有量は、ベース層5を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内に入っており、また30重量%〜40重量%の範囲内にも入っている。
また、セルロース繊維及びアラミド繊維ともに、ベース層5を100重量%とした場合に10重量%〜25重量%の範囲内に入っており、更に、15重量%〜20重量%の範囲内にも入っている。
なお、実施例2に係る摩擦材基材3の摩擦面層4の構成は、実施例1に係る摩擦材基材3の摩擦面層4と同様である。
【0052】
また、表1に示されるように、実施例3に係る摩擦材基材3のベース層5においては、22.73重量%のセルロース繊維と、同じく22.73重量%のアラミド繊維と、54.55重量%のコルク粒子とを混合して湿式抄造することによって、紙質基材が形成されている。
この紙質基材100重量%に対して、40.0重量%のフェノール樹脂を含浸して加熱成形することによって、ベース層5が構成されている。
【0053】
したがって、実施例3に係る摩擦材基材3のベース層5を100重量%とした場合に、セルロース繊維とアラミド繊維はそれぞれ16.24重量%、コルク粒子は38.96重量%、フェノール樹脂は28.57重量%が含有されている。
よって、コルク粒子の含有量は、ベース層5を100重量%とした場合に20重量%〜50重量%の範囲内に入っており、また30重量%〜40重量%の範囲内にも入っている。
また、セルロース繊維及びアラミド繊維ともに、ベース層5を100重量%とした場合に10重量%〜25重量%の範囲内に入っており、更に15重量%〜20重量%の範囲内にも入っている。
なお、実施例3に係る摩擦材基材3の摩擦面層4の構成も、実施例1に係る摩擦材基材3の摩擦面層4と同様である。
【0054】
これに対して、比較例1の摩擦材基材はベース層を有しておらず、厚さ1mmの摩擦材基材全体が摩擦面層によって構成されている。
即ち、比較例1の摩擦材基材の摩擦面層においては、44.0重量%のアラミド繊維と、56.0重量%の充填材及び摩擦調整剤とを混合して湿式抄造することによって、紙質基材が形成されている。
この紙質基材100重量%に対して、40.0重量%のフェノール樹脂を含浸して加熱成形することによって、摩擦面層が構成されている。
したがって、比較例1の摩擦材基材の摩擦面層を100重量%とした場合に、アラミド繊維は31.42重量%、充填材及び摩擦調整剤は40.0重量%、フェノール樹脂は28.57重量%が含有されている。
【0055】
以上説明したような構成を有する実施例1乃至実施例3に係る摩擦材基材3及び比較例1の摩擦材基材について、まず、その弾性を評価するために、ロックウェル硬度計を用いて弾性歪み量を測定した。
測定方法としては、加圧部形状がフラットな直径10mmの円筒状の圧子で摩擦材基材を挟み、荷重150kgを15秒かけた後の変位量A(μm)を測定し、その後除圧して15秒後の回復量B(μm)を測定した。なお、摩擦材基材を挟まずに荷重150kgを15秒かけてブランクC(μm)を測定し、そのCの値によって、A,Bの値を補正した。
そして、(B−A)×2の値(μm)を弾性歪み量とした。
実施例1乃至実施例3に係る摩擦材基材3及び比較例1の摩擦材基材の弾性歪み量を図2に示す。
【0056】
図2に示されるように、実施例1乃至実施例3に係る摩擦材基材3は、弾性歪み量が79.0μm,83.1μm,83.3μmといずれも大きく、弾性歪み量が57.3μmである比較例1よりも弾性変形力及び弾性回復力が優れていることが分かる。また、実施例1,実施例2,実施例3と、ベース層におけるコルク粒子の含有量が増加するにしたがって、弾性歪み量が大きくなっている。
これによって、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体であるコルク粒子を混合したベース層5を配することによって、優れた弾性変形力及び弾性回復力を有する摩擦材基材3が得られることが明らかになった。
【0057】
次に、本実施の形態1の実施例1乃至実施例3に係る摩擦材基材3を用いた湿式摩擦材1、及び比較例1の摩擦材基材を用いた湿式摩擦材について、低回転領域における摩擦特性を評価した。
測定方法としては、試験機として低速滑り摩擦試験機を用いて、三角波μ(摩擦係数)−V(回転数)試験を実施した。
試験条件としては、摩擦両面、ディスクサイズが図1に示される外径φ1=130mm,内径φ2=108mm、油温80℃、面圧1.96MPa、回転数(V):0〜400rpmの範囲内で行った。
実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材1、及び比較例1の湿式摩擦材のμ−V特性を、図3に示す。
【0058】
図3に示されるように、実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材1は、0〜400rpmの低回転数の領域における摩擦係数μが比較例1の湿式摩擦材よりも大きく、特に、弾性歪み量の大きさと同じく、実施例1,実施例2,実施例3の順に大きくなっていることが分かる。
また、比較例1の湿式摩擦材が、回転数100rpmの近傍から回転数300rpmにかけて摩擦係数μが減少して、ジャダー現象を示しているのに対して、実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材1は、回転数100rpmから回転数300rpmにかけて摩擦係数μが殆ど変化しておらず、ジャダー現象が大きく低減されていることが明らかとなった。
【0059】
このように、実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材1は、ベース層5のコルク粒子6の含有量が増加するにしたがって0〜400rpmの低回転数の領域における摩擦係数μが大きくなっていることから、ベース層5のコルク粒子6の弾性変形力によって、湿式摩擦材1の摩擦面層4の摩擦面が相手材の表面のうねり等に追従してものと考えることができる。
【0060】
このようにして、本実施の形態1の実施例1乃至実施例3に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材1は、摩擦材基材の厚さを変えることなく、湿式摩擦材の重量を増加させることもなく、摩擦面を相手材の表面形状に追従させることによって、摩擦係数が大きくジャダー現象を低減することができる湿式摩擦材となる。
【0061】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材について、図4を参照して説明する。図4(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の全体構成を示す平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【0062】
図4(a)に示されるように、本実施の形態2に係る湿式摩擦材11は、実施の形態1(リングタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、摩擦材基材から切り出したセグメントピース13を、接着剤(フェノール樹脂)を使用して片面20枚ずつ接着して、複数(片面20本)の油溝17を形成してなるセグメントタイプ摩擦材である。
セグメントピース13の形状は略矩形であり、外周側の左右の角部が面取り加工された形状を有している。
リング形状の芯金2に沿って配置されたセグメントピース13の外径φ3及び内径φ4の大きさは、相手材の大きさ及び湿式摩擦材11に要求される特性に基づいて、任意に設定することができる。
【0063】
図4(b)に示されるように、このセグメントピース13は、摩擦面層14及びベース層15の二層から構成されており、相手材と接触する摩擦面を有する摩擦面層14は、繊維に充填材及び摩擦調整剤を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなるものである。
一方、ベース層15は、繊維に柔軟性のある多面マイクロセル構造体としてのコルク粒子16を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなるものである。
【0064】
そして、所定のサイズで作製した摩擦面層14とベース層15を接着剤としてのフェノール樹脂で接着して摩擦材基材とし、この摩擦材基材から所定形状のセグメントピース13を切り出して、外径φ3及び内径φ4のリング形状に沿って鋼板製の芯金2の表面に接着剤としてのフェノール樹脂で接着して、これらの摩擦面層14及びベース層15からセグメントピース13を構成することによって、湿式摩擦材11が得られる。
【0065】
なお、図示しない芯金2の裏面にも、同様にして外径φ3及び内径φ4のリング形状に沿って、摩擦材基材から切り出された所定形状のセグメントピース13が接着されることによって、両面に摩擦面を有するセグメントタイプ摩擦材としての湿式摩擦材11が製造されている。
【0066】
より具体的には、ベース層15は、繊維としてセルロース繊維及びアラミド繊維を用いて、これらにコルク粒子16を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなる。
セルロース繊維としては叩解してパルプ化したものを使用し、アラミド繊維としてもパルプタイプのものを使用している。なお、このアラミド繊維は、繊維長さが短く、フィブリル化度が高いという特徴を有しており、高い強度と弾性率を有するパラ系アラミドである。
【0067】
また、コルク粒子16としては、実施の形態1と同様に天然のコルクガシの樹皮のコルク組織を剥離、加工したコルクの粒子を用いて、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いたレーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が41.4μmで、粒度分布が10μm〜100μmのものを使用した。
よって、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体としてのコルク粒子16は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内に入っており、30μm〜50μmの範囲内にも入っている。
【0068】
一方、摩擦面層14は、繊維としてアラミド繊維を用いて、これに充填材及び摩擦調整剤を混合して抄紙し、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂を含浸して、加熱硬化させてなる。
アラミド繊維としては、ベース層15と同じく、パルプタイプのものを使用している。なお、このアラミド繊維は、繊維長さが短く、フィブリル化度が高いという特徴を有している。
【0069】
そして、摩擦面層14の厚さ:T1=0.35mm、ベース層5の厚さ:T2=0.65mm、セグメントピース13の全体の厚さ:T=1mmとしている。
したがって、ベース層15の厚さT2は、摩擦面層14の厚さT1の1.86倍である。よって、ベース層15の厚さは、摩擦面層14の厚さの1倍〜3倍の範囲内に入っており、1.5倍〜2.5倍の範囲内にも入っている。
【0070】
本実施の形態2においては、表1の実施例3に示される配合と同一の配合を用いて、実施例4の湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材11を作製して、その特性を検証した。
また、比較のために、表1の比較例1に示される配合と同様に、ベース層15を有せず、セグメントピースが摩擦面層14のみで構成された比較例2の湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材をも作製して、実施例4に係る湿式摩擦材11との摩擦特性の違いを評価した。
【0071】
測定方法としては、試験機として低速滑り摩擦試験機を用いて、三角波μ(摩擦係数)−V(回転数)試験を実施した。
試験条件としては、摩擦両面、ディスクサイズが図4に示される外径φ3=130mm,内径φ4=108mm、油温80℃、面圧1.96MPa、回転数(V):0〜400rpmの範囲内で行った。
【0072】
このように、本実施の形態2の実施例4に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材11について、上述した実施の形態1の場合と同様な条件で、μ−V特性を評価したところ、比較例2のベース層のないセグメントタイプ摩擦材に比較して、低い回転数(V):0〜400rpmの範囲に亘って、摩擦係数μが大きく、かつ、ジャダー現象の低減効果が大きいことが実証された。
【0073】
このようにして、本実施の形態2の実施例4に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材11は、摩擦材基材の厚さを変えることなく、湿式摩擦材の重量を増加させることもなく、摩擦面を相手材の表面形状に追従させることによって、摩擦係数が大きくジャダー現象を低減することができる湿式摩擦材となる。
【0074】
本実施の形態2においては、芯金2の片面当たりにセグメントピースを20枚ずつ貼り付けた場合のみについて説明したが、芯金2の片面当たりのセグメントピースの枚数は20枚に限られるものではなく、何枚でも自由に設定することができる。したがって、芯金2の片面当たりの油溝17の数も20本に限られるものではなく、何本でも自由に設定することができる。
【0075】
上記各実施の形態においては、芯金2の両面にリング形状の摩擦材基材またはセグメントピースを貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、芯金2の片面のみにリング形状の摩擦材基材またはセグメントピースを貼り付けても良い。
【0076】
また、上記各実施の形態においては、リング形状の摩擦材基材またはセグメントピースが摩擦面層とベース層の二層からなる場合のみについて説明したが、リング形状の摩擦材基材またはセグメントピースの全体の厚さを変えなければ、摩擦面層とベース層との間、ベース層と芯金2との間にその他の層を形成した三層以上からなるリング形状の摩擦材基材またはセグメントピースとすることもできる。
【0077】
更に、上記各実施の形態においては、ベース層がセルロース繊維及びアラミド繊維と、コルク粒子とからなる場合のみについて説明したが、必要に応じて、その他の材料を配合することもできる。
【0078】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材及びセグメントタイプ摩擦材のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記各実施の形態及び各実施例に限定されるものではない。
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0079】
1,11 湿式摩擦材
2 芯金
4,14 摩擦面層
5,15 ベース層
6,16 柔軟性を有する多面マイクロセル構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、
リング形状の芯金と、該芯金の最表面に設けられた摩擦面層と、該摩擦面層と前記芯金との間に設けられたベース層とを具備し、
前記ベース層は、柔軟性を有する多面マイクロセル構造体を含有することを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記柔軟性を有する多面マイクロセル構造体は、コルク粒子であり、該コルク粒子の含有量は前記ベース層を100重量%とした場合に20重量%〜40重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記柔軟性を有する多面マイクロセル構造体は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒子径が20μm〜60μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
前記ベース層の厚さは、前記摩擦面層の厚さの1倍〜3倍の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
前記ベース層は、前記柔軟性を有する多面マイクロセル構造体以外に、セルロース繊維及び/またはアラミド繊維と、熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の湿式摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12528(P2012−12528A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151356(P2010−151356)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)