説明

湿気硬化性組成物

【課題】加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有し、分散度が狭く、並びに強度、弾性、及び耐久性に優れる硬化物を与える湿気硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の湿気硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有する湿気硬化性組成物であって、上記ビニル系重合体は、リン、窒素、炭素、酸素、ゲルマニウム、スズ、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の中心元素と、該中心元素に結合したハロゲン原子と、を含む化合物からなる触媒の存在下で、リビングラジカル重合により製造された重合体であり、上記ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、2.0未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化性組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、耐候性、耐熱性に優れる硬化物を与え、且つ取り扱い性に優れる湿気硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐候性及び耐熱性に優れる常温硬化型の湿気硬化性組成物としては、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体をベースとする組成物がよく知られている。この湿気硬化性組成物は、建築用途、及び自動車関連用途等に幅広く用いられている。例えば、建築用シーリング材として用いる場合には、サイディング材や金属カーテンウォールなどの経時的に伸縮する部材の隙間に充填して利用されるため、高い破断伸びが求められる。また、長期にわたり性能を維持する耐侯性も要求されている。このように湿気硬化性組成物に対する市場の要求は、年々と厳しくなり、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン系重合体では、市場の要求に十分に対応できなくなりつつある。
【0003】
上記問題点を解決するため、例えば、特許文献1には、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体として、高温及び高圧下での連続塊状重合により得られる重合体が、耐侯性に優れることが開示されている。このように加水分解性シリル基を有するビニル系重合体は耐候性、耐熱性の点では、オキシアルキレン系重合体と比べて高い性能を示す。
【0004】
また、特許文献2には、リビングラジカル重合法を用いてビニル重合体を製造し、その末端に加水分解性シリル基を有するビニル重合体を含有する接着性硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−18748号公報
【特許文献2】特開平11−130931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるような一般のラジカル重合によって製造されるビニル系重合体は、分子量分布、組成分布が、十分に小さいものとはいえない。そして、この重合体を含む組成物を用いて得られる硬化物が有する強度及び弾性等の硬化物特性は、十分満足できるものではない。
【0007】
また、特許文献2に開示される接着性硬化性組成物から得られる硬化物において、触媒として用いられた臭素化合物が重合体に残存した場合、得られる硬化物の耐候性及び耐久性が低下する場合がある。
そして、特許文献2に開示される接着性硬化性組成物から得られる硬化物が有する、強度及び弾性、並びに、耐候性及び耐久性からなる硬化物特性のバランスは、十分満足できるものではないのが現状である。また、特許文献2に開示された製造方法により得られた重合体は、触媒として用いられた銅化合物が残存する場合がある。そして、安全性の観点から、この銅化合物を重合体から取り除く場合には、多大な労力及び経済的負担を要する。また、特許文献2の製造方法では、カルボン酸等の官能基を有する単量体を用いた場合、銅化合物(銅錯体)からなる触媒の活性低下を引き起こす場合がある。従って、特許文献2において、このような官能基を有する単量体単位を有する共重合体は、上記硬化物特性が劣る場合がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、分散度の小さいビニル系重合体を含有し、強度、弾性、耐候性及び耐熱性に優れるに優れる硬化物を与える湿気硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
1.加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有する湿気硬化性組成物であって、
上記ビニル系重合体は、リン、窒素、炭素、酸素、ゲルマニウム、スズ、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の中心元素と、該中心元素に結合したハロゲン原子と、を含む化合物からなる触媒の存在下で、リビングラジカル重合により製造された重合体であり、
上記ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、2.0未満であることを特徴とする湿気硬化性組成物。
2.上記ビニル系重合体が、(メタ)アクリル系重合体である上記1.に記載の湿気硬化性組成物。
3.上記ビニル系重合体の数平均分子量が、3000〜50000である上記1.又は上記2.に記載の湿気硬化性組成物。
4.上記ビニル系重合体が、上記加水分解性シリル基を該ビニル系重合体の分子末端に有する上記1.乃至3.のいずれかに記載の湿気硬化性組成物。
5.上記ビニル系重合体は、メタクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(A)及びアクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(B)を含み、該構成単位(A)、及び該構成単位(B)の質量割合が、両者の合計を100質量%としたときに、それぞれ50〜100質量%、及び0〜50質量%である上記1.乃至4.のいずれかに記載の湿気硬化性組成物。
6.更に、錫化合物からなる硬化触媒を含有する上記1.乃至5.のいずれかに記載の湿気硬化性組成物。
7.上記1.乃至6.のいずれかに記載の湿気硬化性組成物を含有することを特徴とするシーリング材組成物。
8.上記1.乃至6.のいずれかに記載の湿気硬化性組成物を含有することを特徴とする接着剤組成物。
9.上記1.乃至6.のいずれかに記載の湿気硬化性組成物を含有することを特徴とする粘着剤組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の湿気硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有し、上記ビニル系重合体は、特定の触媒を用いて得られた重合体であるため、強度、弾性、耐候性及び耐熱性に優れる硬化物を与える湿気硬化性組成物とすることができる。また、上記ビニル系重合体は、上記の触媒を用いて得られた重合体であるため、触媒由来の銅化合物が残存しない硬化物とすることができる。
また、ビニル系重合体が、(メタ)アクリル系重合体である場合には、より強度及び弾性に優れる硬化物を与えることができる。
また、ビニル系重合体は、メタクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(A)及びアクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(B)を含み、該構成単位(A)、及び該構成単位(B)の質量割合が、両者の合計を100質量%としたときに、それぞれ50〜100質量%、及び0〜50質量%である場合には、より強度及び弾性に優れる硬化物を与えることができる。
また、錫化合物からなる硬化触媒を含有する場合には、強度、弾性、耐候性及び耐熱性に優れる硬化物を効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の湿気硬化性組成物について詳しく説明する。
本発明の湿気硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有する湿気硬化性組成物であって、
上記ビニル系重合体は、リン、窒素、炭素、酸素、ゲルマニウム、スズ、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の中心元素と、該中心元素に結合したハロゲン原子(以下、「ハロゲン原子(a)」ともいう。)と、を含む化合物(以下、「化合物(a)」ともいう。)からなる触媒の存在下で、リビングラジカル重合により製造された重合体であり、
上記ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)(以下、「分散度」ともいう。)が、2.0未満であることを特徴とする。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの一方又は両方を含む意味に用い、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を含む意味に用いる。
更に、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルの一方又は両方を含む意味に用いる。
また、「Ph」とは、フェニル基、又はフェニレン基を意味する。
【0012】
上記ビニル系重合体は、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体である。このビニル系重合体は、リン、窒素、炭素、酸素、ゲルマニウム、スズ、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の中心元素と、該中心元素に結合したハロゲン原子と、を含む化合物からなる触媒の存在下で、リビングラジカル重合による製造方法により得られる重合体である。
上記ビニル系重合体としては、以下の態様が挙げられる。
(1)上記触媒の存在下で、加水分解性シリル基を有さないビニル系単量体をリビングラジカル重合により、第1重合体を製造し、この得られた第1重合体の末端を変性させることにより、加水分解性シリル基を分子末端に有するビニル系重合体(以下、「ビニル系重合体(1)」という。)。
(2)上記触媒の存在下で、加水分解性シリル基を有するビニル系単量体を含む単量体混合物をリビングラジカル重合により得られた、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体(以下、「ビニル系重合体(2)」という。)。
上記態様のビニル系重合体のうち、最終的に得られるビニル系重合体を用いたときに、強度及び弾性に優れる硬化物が得られる点で、上記(1)のビニル系重合体が好ましい。
【0013】
上記(1)の態様におけるビニル系重合体(1)は、加水分解性シリル基を分子末端に有する。このビニル系重合体(1)は、上記触媒の存在下で、ビニル系単量体をリビングラジカル重合により得られた第1重合体に対して、この第1重合体の末端を変性させることにより、加水分解性シリル基を分子末端に有する重合体である。
【0014】
上記ビニル系重合体(1)の製造方法としては、上記第1重合体をリビングラジカル重合により得る重合工程(以下、「第1工程」という。)と、その重合工程により得られた第1重合体の分子末端を変性する分子末端変性工程(以下、「第2工程」という。)とを、順次、備える方法が挙げられる。この方法によれば、第1工程で、分散度が、2.0未満の重合体が得られる。更に、第2工程で、加水分解性シリル基を分子末端に有するビニル系重合体(1)を効率的に得ることができる。即ち、上記第1工程及び上記第2工程による製造方法とすることにより、ビニル系重合体の分子末端に、加水分解性シリル基を円滑に導入することができ、更に、確実に加水分解性シリル基を分子末端に有するビニル系重合体を効率的に得ることができる。
【0015】
上記第1重合体は、上記触媒の存在下で、加水分解性シリル基を有さないビニル系単量体をリビングラジカル重合することにより得られる。このリビングラジカル重合とは、ラジカル重合反応において連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、単量体の重合反応後も、連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、単量体を加えると再び重合反応を開始させることができる。
【0016】
上記(2)の態様におけるビニル系重合体(2)は、加水分解性シリル基を分子中に有する。このビニル系重合体(2)は、上記触媒の存在下で、加水分解性シリル基を有するビニル系単量体を含む単量体組成物をリビングラジカル重合によりビニル重合体(2)を得る重合工程(以下、「重合体(2)重合工程」ともいう。)により得られる。
このビニル系重合体(2)おいても上記ビニル系重合体(1)と同様に、ラジカル重合反応において連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、単量体の重合反応後も、連鎖成長末端が活性を保持する。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、単量体を加えると再び重合反応を開始させることができる。
また、上記第1工程と上記重合体(2)重合工程とを総称して、単に重合工程ともいう。
【0017】
ビニル重合体(2)が有する加水分解性シリル基の位置は、ビニル重合体(2)の分子中であれば、特に限定されないが、好ましくは、末端付近(この末端付近とは末端を含む。以下、同様。)である。
加水分解性シリル基を末端付近に有するビニル重合体(2)は、例えば、重合体(2)重合工程において、一定量の、加水分解性シリル基を有さないビニル系単量体の重合反応が終了した後、即ち、重合反応の後期の時期に、加水分解性シリル基を有するビニル系単量体をその反応系に配合することにより製造できる。
【0018】
上記加水分解性シリル基としては、例えば、下記一般式(X)に示される基が挙げられる。
−Si(R)3−n (X)
〔上記式(X)中、Rは炭素数が1〜20個のアルキル基を示し、Yは加水分解可能な基を示し、nは0、1または2である。なお、R及びYが複数ある場合は、同じ基であっても異なる基であっても良い。〕
上記式(X)におけるRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基及びオクタデシル基等が挙げられる。
上記式(X)におけるYの具体例としてはアルコキシ基、アミノ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基及びイミノオキシ基等の加水分解性基が挙げられ、その中でもアルコキシ基が好ましい。更に、アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基及びメトキシエトキシ基等が挙げられ、特にメトキシ基及びエトキシ基がより好ましい。
また、上記一般式(X)で示される加水分解性シリル基としては、アルコキシシリル基が好ましい。加水分解性シリル基が、アルコキシシリル基であると、湿気硬化性組成物を保存する場合、保存安定性に優れた湿気硬化性組成物とすることができる。更に、硬化物を得る場合、迅速且つ円滑な湿気硬化性を有する湿気硬化性組成物とすることができる。
【0019】
上記触媒は、リン、窒素、炭素、酸素、ゲルマニウム、スズ、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素からなる中心原子と、その中心原子に結合したハロゲン原子と、を含む化合物からなる。
この「中心原子」とは、触媒を構成する原子のうち、ハロゲン原子と結合して主に触媒作用を奏する原子を意味する。一般的に「触媒」において、使用される「中心金属」との用語と同じ意味であるが、本発明において用いられる、リン、窒素、炭素及び酸素等は一般には金属に分類されないことから、誤解を避けるために、一般的に「触媒」における用語として使用される「中心金属」の代わりに、「中心原子」との用語を用いる。
上記中心原子は、上記化合物(a)に少なくとも1つ有すれば良く、2つ以上有していても構わない。上記化合物(a)が複数の中心原子を有する場合、その中心原子の種類は、同一であっても、異なっていてもよい。
上記触媒としては、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記第1工程における第1重合体の製造、又は上記重合体(2)重合工程における重合体(2)の製造に用いる上記触媒としては、上記化合物(a)をそのまま使用することができるが、化合物(a)を形成する化合物(触媒前駆体)を使用することもできる。
【0020】
上記触媒は、第1重合体又はビニル系重合体(2)を得る重合反応の際に、上記有機ハロゲン化合物からハロゲンを引き抜いて、ラジカルを生成させる。これにより、触媒は、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化合物由来の、第1重合体及びビニル系重合体(2)の成長反応を抑制している基をはずして活性種に変換し成長反応をコントロールする。
【0021】
上記触媒を構成する化合物(a)において、ハロゲン原子は、上記の中心原子に結合している。上記化合物(a)が2個の中心原子を有する場合、それぞれの中心原子に対して少なくとも1個ハロゲン原子が結合しており、中心原子に対して、ハロゲン原子が2個以上結合していてもよい。
中心原子に結合している、このハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素の各原子が挙げられる。これらのうち好ましくはヨウ素原子である。このハロゲン原子は、化合物(a)の1分子中に2個以上存在していてもよい。
また、化合物(a)の1分子中に、複数のハロゲン原子が存在する場合、その複数のハロゲン原子は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
上記触媒における中心原子がリン原子又は窒素原子である触媒(以下、「触媒(p)」ともいう。)を構成する化合物(a)の場合、リン原子又は窒素原子からなる中心原子と、この中心原子に結合したハロゲン原子とを含む化合物であれば特に限定されない。例えば、中心原子がリン原子又は窒素原子である化合物(a)としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
(…Z) (1)
上記一般式(1)において、Rはアルキル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリール基、又は置換アリール基であり、Mは中心原子であって、リン原子、又は窒素原子であり、Xはハロゲン原子であり、Zは酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、且つMに結合している。nは0〜(4×h)の整数であり、hは1以上の整数であり、mは1〜(5×h)の整数であり、kは0〜(2×h)の整数であり、hが2以上の場合、R、M及びXは、それぞれ独立して、複数の原子Mのいずれに結合していてもよく、MとZとの結合である「…」は二重結合又は三重結合を示す。
【0023】
上記一般式(1)におけるnは、0〜(4×h)の整数である。例えば、hが1の場合には、nは0〜4であり、hが2の場合には、nは0〜8である。また、nが2以上の場合、全てのRはそれぞれ異なってもよく、一部同一であってもよく、全て同一であってもよい。
【0024】
上記一般式(1)におけるMは、触媒(p)の中心原子であり、リン原子、又は窒素原子である。
また、上記一般式(1)におけるhは、1以上の整数であり、好ましく10以下であり、より好ましくは5以下であり、更に好ましく4以下であり、より更に好ましくは3以下であり、特に好ましくは2以下であり、より特に好ましくは1である。
【0025】
また、hが2以上の整数である場合、複数の原子Mは、同一であっても、異なっていてもよい。好ましくは全て同一の元素である。
また、hが2以上の整数である場合、複数の原子Mは、通常、単結合、二重結合又は三重結合により結合されている。
また、hが2以上の整数である場合、置換基R、及びハロゲン原子Xは、それぞれ独立して、複数の原子Mのいずれに結合してもよい。
【0026】
また、hが2の場合の具体例としては、後述の2つのリン原子が結合した構造(−P=P−)を有する化合物等が挙げられる。また、hが3以上の場合には、(−P=P−P=P−)を有する化合物等が挙げられる。
また、hが2である場合、2つの原子Mが結合した構造をとることができる。例えば、「−M−M−」、「−M=M−」、「−M≡M−」の構造とすることができる。また、中心原子がリンである場合、上記のとおり、2つのリン原子が結合した構造(−P=P−)とすることができる。
また、hが2である場合、置換基R、及びハロゲン原子Xは、それぞれ独立して、2つの原子Mのいずれに結合してもよい。
また、hが3以上である場合、h個の原子Mは、直鎖状に連結されていてもよく、分岐鎖状に連結されていてもよい。
【0027】
上記一般(1)におけるXは、ハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。これらのハロゲン原子のうち、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が好ましく、ヨウ素原子がより好ましい。
【0028】
上記一般式(1)におけるmは、1〜(5×h)の整数であり、好ましくは2〜(5×h)の整数である。例えば、hが1の場合には、mは1〜5であり、hが2の場合には、mは1〜10である。
また、mが2の場合、2つのハロゲン原子Xは、同一であっても、異なっていてもよい。mが3以上の場合、全てのハロゲン原子Xは、それぞれ異なってもよく、一部同一であってもよく、全て同一であってもよい。mが2以上の場合、全てのハロゲン原子Xは、同一であることが好ましい。
【0029】
上記一般式(1)におけるZは、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、好ましくは、酸素原子である。この原子Zは、原子Mに結合している。この原子Zと原子Mとの結合は、二重結合又は三重結合である。
また、上記一般式(1)におけるkは、0〜(2×h)の整数である。例えば、hが1の場合には、kは0〜2であり、hが2の場合には、kは0〜4である。
【0030】
上記一般式(1)において、全てのR、X、及びZは、通常、Mに結合している。また、上記一般式(1)において、n、h、m及びkは化学式(1)の原子価が釣り合うように選択される。
M(中心原子)が、リン原子又は窒素原子の場合、mとnとの和(m+n)は、3又は5であることが好ましい。
【0031】
リン原子を中心原子とする化合物(a)としては、ハロゲン化リン、ハロゲン化ホスフィン、及びハロゲン化亜リン酸誘導体等が挙げられる。
上記ハロゲン化リンとしては、三ヨウ化リン、及び五ヨウ化リン等が挙げられる。
上記ハロゲン化ホスフィンとしては、具体的には、ヨウ化ジフェニルホスフィン(PhPI)等が挙げられる。
上記ハロゲン化亜リン酸誘導体としては、具体的には、ヨウ化亜リン酸ジエチル〔(CO)P(O)I〕、エチルフェニルホスフィネート〔(CO)PhP(O)I〕、ジフェニルホスフィンオキサイド〔PhP(O)I〕等が挙げられる。
【0032】
窒素原子を中心原子とする化合物(a)としては、上記一般式(1)において、nは好ましくは0〜3であり、より好ましくは0〜2である。hは好ましくは1であり、mは好ましくは1〜3である。kは好ましくは0である。また、nが2以上の場合、複数のRとMとにより環構造を形成してもよい。この場合、複数のRは共にアルキルカルボニル、ビニルカルボニル、又はフェニルカルボニルが好ましい。窒素原子を中心原子とする化合物(a)としては、具体的には、三ヨウ化窒素等のハロゲン化窒素;ヨウ化ジフェニルアミン(PhNI)等のハロゲン化アミン;ヨウ化コハク酸イミド、ヨウ化マレイミド、及びヨウ化フタルイミド等のハロゲン化イミド等が挙げられる。
【0033】
次に、上記触媒における中心原子が炭素原子である触媒(以下、「触媒(c)」ともいう。)を構成する化合物(a)の場合、炭素からなる中心原子と、この中心原子に結合したハロゲン原子とを含む化合物である。この場合、更にハロゲン原子以外の原子又は基を有していてもよい。例えば、中心原子に、任意の有機基又は無機基を結合させることが可能である。
【0034】
上記有機基としては、アリール基、ヘテロアリール基、置換アリール基、置換ヘテロアリール基、アルケニル基(例えば、ビニル基等)、アルキニル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基等)、エステル基(例えば、脂肪族カルボン酸エステル等)、アルキルカルボニル基(例えば、メチルカルボニル基等)、ハロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基等)等が挙げられる。これらのうち好ましくは、アリール基、ヘテロアリール基、置換アリール基、置換ヘテロアリール基、アルケニル基、及びアルキニル基である。また、アリール基、ヘテロアリール基、置換アリール基、及び置換ヘテロアリール基を有する化合物を触媒として用いると、ラジカルの活性がより高くなる傾向にあり、より好ましい。即ち、中心原子に結合する有機基としては、好ましくは、フェニル基、炭素数7〜16のアルキルフェニル基、及び炭素数7〜16のアルキルオキシフェニル基等が挙げられる。
また、上記無機基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基などが挙げられる。
【0035】
中心原子である炭素原子に結合する、上記有機基、及び上記無機基の数は特に限定されないが、好ましくは3以下であり、より好ましくは1である。
【0036】
また、中心原子が炭素原子である触媒(c)としては、中心原子に、下記ラジカル安定化用置換基が1〜3個結合した化合物が好ましい。
上記ラジカル安定化用置換基としては、電子吸引性置換基、又はこの中心原子と一緒になって共鳴構造を形成する置換基(以下、「共鳴構造を形成する置換基」ともいう)が挙げられる。このラジカル安定化用置換基が2個存在する場合、ラジカル安定化用置換基は互いに連結されて、中心原子と、2個のラジカル安定化用置換基とにより環構造を形成してもよい。
また、ラジカル安定化用置換基が3個存在する場合、3個のラジカル安定化用置換基のうちの2つが互いに連結されて、この2個の連結されたラジカル安定化用置換基と、中心原子とにより環構造を形成してもよく、3個のラジカル安定化用置換基が互いに連結されて、中心原子と、3個の置換基とにより環構造を形成してもよい。
【0037】
また、上記ラジカル安定化用置換基としては、電子供与性置換基でもよい。この電子供与性置換基が2個存在する場合、電子供与性置換基は互いに連結されて、中心原子と、2個の電子供与性置換基とにより環構造を形成してもよい。
また、電子供与性置換基が3個存在する場合、3個の電子供与性置換基のうちの2つが互いに連結されて、この2個の連結された電子供与性置換基と、中心原子とにより環構造を形成してもよく、3個の電子供与性置換基が互いに連結されて、中心原子と、3個の電子供与性置換基とにより環構造を形成してもよい。
尚、本明細書おいて、上記の電子吸引性置換基、及び電子供与性置換基、並びに中心原子と一緒になって共鳴構造を形成する置換基を総称して、「ラジカル安定化用置換基」ともいう。
【0038】
上記電子吸引性置換基とは、中心原子の炭素に結合して、中心原子の炭素から電子を吸引する置換基である。この電子吸引性置換基としては、ハロゲン原子が好ましい。具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。また、ハロゲン原子以外の電子吸引性置換基としては、ハロゲン原子と同程度に中心原子の炭素原子から電子を吸引する電子吸引性置換基であればよく、例えばカルボニルの酸素(=O)、シアノ基、及びニトロ基等が挙げられる。
【0039】
上記電子供与性置換基とは、中心原子の炭素原子に結合して、中心原子の炭素原子に電子を供与する置換基である。このような置換基としては、例えば、アルコキシ基等が挙げられる。
【0040】
上記共鳴構造を形成する置換基とは、二重結合又は三重結合を有する置換基であり、その二重結合又は三重結合を構成する原子が中心原子(炭素)に結合する構造を有する。即ち、中心原子、及び二重結合又は三重結合を構成する2個の原子との計3個の原子が、下記式(2a)又は(2b)で表される構造になるように結合し、中心原子が二重結合又は三重結合に隣接した構造となっている。
「C−M=M」(2a)
「C−M≡M」(2b)
【0041】
上記式(2a)において、M及びMは、二重結合を構成する原子であり、且つMは中心原子に結合する原子である。また、上記式(2b)において、M及びMは、三重結合を構成する原子であり、且つMは中心原子に結合する原子である。このような構造をとることにより、中心原子が炭素ラジカルとなった際に、炭素ラジカルと、二重結合又は三重結合の電子共鳴効果により、その炭素ラジカルが安定化されて、触媒として高い活性を示す。
【0042】
上記式(2a)におけるMとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素原子、ケイ素原子、リン原子及び窒素原子等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素原子である。また、Mが4価の原子である場合には、Mは更に1価の基を1個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。Mが5価の原子の場合には、Mは更に2価の基を1個又は1価の基を2個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。
【0043】
上記式(2a)におけるMとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素原子、ケイ素原子、リン原子、窒素原子及び酸素原子等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素原子である。また、Mが3価の原子である場合には、Mは更に1価の基を1個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。Mが4価の原子である場合には、Mは更に2価の基を1個又は1価の基を2個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。Mが5価の原子の場合には、Mは更に3価の基を1個、又は、2価の基を1個及び1価の1個、あるいは1価の基を3個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。
【0044】
上記式(2b)におけるMとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素原子、ケイ素原子及びリン原子等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素原子である。また、Mが5価の原子である場合には、Mは更に1価の基を1個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。
【0045】
上記式(2b)におけるMとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素原子、ケイ素原子、リン原子及び窒素原子等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素原子である。また、Mが4価の原子である場合には、Mは更に1価の基を1個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。Mが5価の原子の場合には、Mは更に2価の基を1個又は1価の基を2個有する。そのような基としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。
【0046】
上記のうち好ましくは、M及びMが共に炭素原子である。中心原子が2個の炭素原子間の二重結合を有する置換基を有する場合、(即ち、M及びMが炭素原子である場合、当該炭素原子間の二重結合は、芳香族性の二重結合であってもよく、エチレン性二重結合であってもよい。)例えば、中心原子にアルケニル基、若しくはアルキニル基が結合した構造、又は中心原子にアリール基、ヘテロアリール基、置換アリール基、若しくは置換へテロアリール基が結合した構造が好ましい。また、触媒はラジカル反応(重合工程)の際に、重合しないことが好ましいことから、中心原子にアリール基、ヘテロアリール基、置換アリール基、若しくは置換へテロアリール基が結合した構造がより好ましい。また、エチレン性二重結合の場合には、ラジカル重合反応性が低いものが好ましい。
【0047】
また、中心原子は、上述した二重結合又は三重結合を有する置換基を、2個又は3個有することがより好ましい。即ち、2個又は3個の、二重結合又は三重結合有する原子に中心原子が挟まれた構造を有することがより好ましい。
例えば、2つの二重結合に中心原子が挟まれた構造の場合には、下記式(2c)で表される構造になる。
「M=M−C−M=M」(2c)
ここで、上記式(2c)におけるM及びMは上記Mと同様の原子であり、M及びMは上記Mと同様の原子である。このような構造を有する化合物(a)においては、リビングラジカル重合の際に中心原子の炭素原子が安定な炭素ラジカルとなり、触媒として高い活性を示す。
【0048】
また、共鳴構造を形成する置換基が2個存在する場合、その2個の置換基と中心原子とが全体として1つの共鳴構造を構成することが好ましい。例えば、2個の置換基と中心原子とが全体として芳香族環構造を構成することが好ましい。より具体的な例としては、例えば、ヨードベンゼンは、2位、3位及び4位の炭化水素からなる置換基と、5位、6位の炭化水素からなる置換基が1位の炭素原子に結合しており、そして、4位の炭素と5位の炭素との間で、2個の置換基が連結された構造を有していると考えることができる。そして、その2個の置換基及び中心原子から全体として構成されるベンゼン環が、1つの共鳴構造を構成しており、その共鳴構造により、中心原子におけるラジカルが安定化される。
【0049】
また、中心原子が炭素原子である触媒(c)としては、下記一般式(2d)で表される化合物を用いることができる。
【化1】

上記一般式(2d)において、Xはハロゲン原子を示し、R21、R22及びR23は二重結合又は三重結合を有する有機基、あるいはハロゲン原子である。R21、R22及びR23が二重結合又は三重結合を有する有機基である場合、その二重結合又は三重結合を構成する原子のうちの1つが上記式(2d)中の中心原子である炭素原子に結合しており、R21及びR22が互いに連結されてR21、R22及び中心原子により環構造を形成してもよく、R21及びR23が互いに連結されてR21、R23及び中心原子により環構造を形成してもよく、R22及びR23が互いに連結されてR22、R23及び中心原子により環構造を形成してもよく、R21、R22及びR23が互いに連結されてR21、R22及びR23により環構造を形成してもよく、R21及びR22と中心原子の炭素原子とにより脂肪族不飽和環構造を形成してもよく、R21、R22及びR23と中心原子の炭素原子とにより芳香族環構造を形成してもよい。R21、R22及びR23は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
上記R21、R22及びR23における、二重結合又は三重結合を有する有機基としては、アルケニル基(例えば、ビニル基)、アルキニル基、またはアリール基(例えば、フェニル基)及びヘテロアリール基等が挙げられる。また、アルケニル基又はアルキニル基の場合には、その末端の炭素原子に二重結合または三重結合が存在し、その末端炭素原子に中心原子の炭素原子が結合する。なお、このような構造が好ましいことは、後述する、中心原子が炭素原子である触媒前駆体でも同様である。
【0051】
また、炭素を中心原子とする化合物(a)としては、具体的には、ハロゲン化炭素、ハロゲン化アルキル、及びハロゲン化アリール等が挙げられる。
上記ハロゲン化炭素としては、四ヨウ化炭素(CI)等が挙げられる。
上記ハロゲン化アルキル、及びハロゲン化アリールとしては、下記式(2e)で表される化合物が挙げられる。
CX (2e)
但し、上記式(2e)において、Rはアルキル基又はアリール基を示し、Rが複数ある場合には、そのRは、同一でも異なっていてもよい。Xはハロゲン原子を示す。また、nは1〜3の整数であり、mは1〜3の整数であり、nとmとの和(n+m)は4である。
【0052】
上記式(2e)で表される、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリールとしては、例えば、ヨウ化ジフェニルメタン(PhCI)等が挙げられる。
【0053】
次に、上記触媒における中心原子が酸素原子である触媒(以下、「触媒(o)」ともいう。)を構成する化合物(a)の場合、酸素原子からなる中心原子と、この中心原子に結合したハロゲン原子とを含む化合物であれば特に限定されない。
上記触媒(o)としては、中心原子(酸素原子)が、更に、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子又はリン原子と結合した化合物を用いることができる。また、中心原子(酸素原子)が、ハロゲン原子以外に、更に結合する原子としては、炭素原子が好ましい。
【0054】
また、中心原子(酸素)が結合する原子は隣接する原子(例えば、炭素原子)との間に二重結合又は三重結合を有することが好ましい。即ち、中心原子の酸素原子が結合する原子は、アルケニル基(例えば、ビニル基)、アルキニル基、又はアリール基(例えば、フェニル基)のいずれかの基の不飽和結合を有する炭素原子であることが好ましい。また、アルケニル基又はアルキニル基の場合には、その末端に二重結合又は三重結合が存在することが好ましく、その末端の炭素原子に中心原子の酸素原子が結合することがより好ましい。尚、このような構造が好ましいことは、後述する、中心原子が酸素原子の場合の触媒前駆体でも同様である。
【0055】
二重結合又は三重結合を有する炭素原子が、中心原子である酸素原子に結合していると、酸素原子が、酸素ラジカルになった場合に、共鳴安定化により、この酸素ラジカルが安定になり、リビングラジカル重合の触媒として、良好な触媒活性を示すと考えられる。
【0056】
触媒(o)の中心原子である酸素原子は、更に、任意の有機基又は無機基と結合していてもよい。
上記有機基としては、アリール基(例えば、フェニル基等)、置換アリール基、アルケニル基(例えば、ビニル基等)、アルキニル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、エステル基(例えば、脂肪族カルボン酸エステル等)、アルキルカルボニル基(メチルカルボニル基等)、ハロアルキル基(トリフルオロメチル基)等が挙げられる。これらのうち、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、及びアルキニル基が好ましい。
上記無機基としては、ヒドロキシル基、アミノ基及びシアノ基等が挙げられる。
【0057】
中心原子(酸素)に結合する、上記の有機基又は無機基の数は、好ましくは3以下であり、より好ましくは1である。また、上記の有機基又は無機基が複数存在する場合、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0058】
中心原子が酸素原子である場合の触媒としては、下記一般式(3a)で表される化合物を用いることができる。
(OX (3a)
上記一般式(3a)式において、Rは有機基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは1以上の整数であり、mは1以上の整数を示し、酸素原子(O)は、R及びXの両方に結合している。
【0059】
上記一般式(3a)における有機基Rは、直鎖又は分岐を有する鎖状構造の有機基でも、環状構造の有機基であってもよく、鎖状構造及び環状構造の両方の構造を有する有機基でも構わない。
上記一般式(3a)における有機基Rとしては、具体的には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルカルボキシル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アリール基、及び置換アリール基が挙げられる。これらのうち、好ましくは、アリール基、アルケニル基、及びアルキニル基である。
また、Rが置換アリール基である場合、その置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、及びシアノ基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基及びシアノ基である。
【0060】
上記一般式(3a)におけるnは正の整数であり、1であってもよく、2であってもよく、3以上の整数であってもよい。具体的には、1〜10が好ましく、より好ましくは1〜5であり、更に好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1〜2である。
【0061】
また、一般式(3a)において、Xはハロゲン原子である。mは1以上の整数であり、1であってもよく、2であってもよく、3以上の整数であってもよい。具体的には、1〜10が好ましく、より好ましくは1〜5であり、更に好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1〜2である。
【0062】
また、一般式(3a)において、通常、n及びmは、一般式(3a)に示される化学式の全体の原子価が釣り合うように選択される。
【0063】
酸素原子を中心原子とする触媒(o)としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。酸素を中心原子とする触媒(o)の好ましい具体例としては、ハロゲン化酸素(例えば、ヨウ化酸素)、アルコキシハライドあるいはカルボキシルハライド(ROX、例えば、ヨウ化安息香酸(PhCOOI))、フェノール系化合物中のフェノール性水酸基のH(水素原子)をハロゲンに置換した化合物(例えば、ヨウ化チモール)等が挙げられる。
尚、触媒(o)を構成する化合物(a)としては、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。
【0064】
次に、上記触媒における中心原子がゲルマニウム、スズ又はアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素からなる中心原子である触媒(以下、「触媒(g)」ともいう。)を構成する化合物(a)の場合、上記の中心原子と、この中心原子に結合したハロゲン原子とを含む化合物である。
上記触媒(g)においては、中心原子が、更に、任意の有機基又は無機基と結合していてもよい。
【0065】
上記有機基としては、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基等)、エステル基(例えば、脂肪族カルボン酸エステル等)、ハロアルキル基(トリフルオロメチル基など)などが挙げられる。これのうち、アリール基又は置換アリール基を有する触媒は、ラジカルの活性がより高くなる傾向にあり、好ましい。
【0066】
また、上記無機基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基などが挙げられる。
上記有機基及び無機基の数は特に限定されないが、好ましくは、3以下であり、より好ましくは、1である。
【0067】
尚、触媒(g)の場合には、配位子を配位結合させてなる錯体を重合反応に用いることも可能である。しかし、本発明の触媒は、通常、そのままで重合反応に用いることが可能であり、配位子を加えて錯体を形成する必要がない。従来技術における遷移金属錯体系の触媒においては、一般的に、反応溶液に遷移金属化合物が難溶性であり、適切な配位子を加えて錯体を形成させる必要があったが、本発明においてはそのような必要はない。配位子を用いなければ、材料コストの点でも有利であり、また、触媒の使用重量を減らすことが可能である点でも有利である。また、一般的に配位子に用いられるアミン化合物は、通常、高価であるか、あるいは煩雑な合成が必要である。さらに、アミンの性質を考慮すると、遷移金属のアミン錯体は、生成高分子に吸着されやすいと考えられ、そのため、一層その除去に手間がかかると考えられる。
【0068】
中心原子が、ゲルマニウム原子、スズ原子又はアンチモン原子である場合の触媒(g)としては、下記一般式(4a)で表される化合物を用いることができる。
MX (4a)
ここで、上記一般式(4a)において、Rはアリール基又は置換アリール基を示し、Mはゲルマニウム原子、スズ原子又はアンチモン原子を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは0〜3の整数であり、mは1〜4の整数である。
【0069】
中心原子が、ゲルマニウム原子、スズ原子又はアンチモン原子である場合の触媒(g)は、その多くは公知化合物であり、市販品をそのまま用いることが可能である。また、これらの化合物を公知の方法により合成することが可能である。
【0070】
上記触媒(g)が、ゲルマニウム原子を中心原子とし、そのゲルマニウム原子に有機基R(例えば、アリール基または置換アリール基)が結合した化合物であって、例えば、RGeIである場合、以下のように、有機基Rのヨウ化物RIにヨウ化ゲルマニウムを反応させる方法によって、RGeIを合成することができる。
−I+GeI→RGeI
ヨウ化物RIは、多くの場合、液体であるので、液体の場合は溶媒なしで反応を行うことが可能である。また、必要に応じて、溶媒(例えば、ベンゼン、トルエンなど)を用いても良い。また、ヨウ化物RIが固体である場合には、溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエンなどを用いることができる。尚、特に触媒を使用しなくてもこの反応は進行する。このような反応の具体例については、例えば、文献Journal of Organometallic Chemistry 56,1−39(1973)などに記載されており、この文献に記載された方法を応用することにより、様々な有機基Rがゲルマニウム原子に結合した化合物を合成することができる。
【0071】
また、スズ原子が中心原子であり、そのスズ原子に有機基R(例えば、アリール基または置換アリール基)が結合した化合物を用いる場合、例えば、(RSnにSnIを反応させる方法によって、(RSnI(n+m=4、且つn=1、2、または3)を合成することができる。このような反応の具体例については、例えば、文献Angewandte Chemie 75,225−235(1963)などに記載されており、この文献に記載された方法を応用することにより、様々な有機基Rがスズ原子に結合した化合物を合成することができる。
【0072】
また、アンチモン原子が中心原子であり、そのアンチモン原子に有機基R(例えば、アリール基または置換アリール基)が結合した化合物を用いる場合、例えば、上記ゲルマニウム原子、又はスズ原子の場合と同様の方法によって、合成することができる。
【0073】
上記触媒におけるアルキル基とは、鎖状又は環状の脂肪族炭化水素から水素原子が1つ失われている1価の基をいう。鎖状のアルキル基である場合、直鎖のアルキル基でも、分岐を有するアルキル基でも構わない。また、環状のアルキル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状のアルキル基が結合した構造でも構わない。このアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは1〜10であり、より更に好ましくは1〜5であり、特に好ましくは1〜3である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0074】
上記触媒におけるアルキルカルボキシル基とは、上記アルキル基に含まれる水素原子が、カルボキシル基に置換された基をいう。即ち、このアルキルカルボキシル基は、上記アルキル基をR−と表した場合に、RCOO−で表される基をいう。このアルキルカルボキシル基を形成するアルキル基は、鎖状でも環状でも構わない。鎖状のアルキル基である場合、直鎖のアルキル基でも、分岐を有するアルキル基でも構わない。また、環状のアルキル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状のアルキル基が結合した構造でも構わない。このアルキルカルボキシル基の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは1〜10であり、より更に好ましくは1〜5であり、特に好ましくは1〜3である。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0075】
上記触媒におけるアルキルカルボニル基とは、上記アルキル基に含まれる水素原子が、カルボニル基に置換された基をいう。即ち、このアルキルカルボニル基は、上記アルキル基をR−と表した場合に、RCO−で表される基をいう。このアルキルカルボニル基を形成するアルキル基は、鎖状でも環状でも構わない。鎖状のアルキル基である場合、直鎖のアルキル基でも、分岐を有するアルキル基でも構わない。また、環状のアルキル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状のアルキル基が結合した構造でも構わない。このアルキルカルボニル基の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは1〜10であり、より更に好ましくは1〜5であり、特に好ましくは1〜3である。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0076】
上記触媒におけるハロアルキル基とは、上記アルキル基の水素原子がハロゲン原子で置換された基をいう。このハロアルキル基は、全ての水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよく、一部の水素原子のみが置換されていてもよい。また、このハロアルキル基は、鎖状でも環状でも構わない。鎖状のハロアルキル基である場合、直鎖のハロアルキル基でも、分岐を有するハロアルキル基でも構わない。また、環状のハロアルキル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状のアルキル基、又はハロアルキルが結合した構造でも構わない。また、ハロアルキル基が有するハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。このハロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは1〜10であり、より更に好ましくは1〜5であり、特に好ましくは1〜3である。具体的には、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0077】
上記触媒におけるアルコキシ基とは、上記アルキル基に酸素原子が結合した基をいう。即ち、このアルコキシ基は、上記アルキル基をR−と表した場合に、RO−で表される基をいう。このアルコキシ基を形成するアルキル基は、鎖状でも環状でも構わない。鎖状のアルキル基である場合、直鎖のアルキル基でも、分岐を有するアルキル基でも構わない。また、環状のアルキル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状のアルキル基が結合した構造でも構わない。このアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは1〜10であり、より更に好ましくは1〜5であり、特に好ましくは1〜3である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、n−ペントキシ基、ネオペントキシ基等が挙げられる。
【0078】
上記触媒におけるアリール基とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1つ失われている1価の基をいう。アリール基を構成する芳香族炭化水素の環の数は、好ましくは1〜3である。分子内芳香族炭化水素の環が複数存在する場合、それらの複数の環は縮合していてもよく、縮合していなくてもよい。具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0079】
上記触媒における置換アリール基とは、上記アリールにおける芳香環に置換基が結合している基をいう。この芳香環に結合する置換基としては、例えば、アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基、及びアミノ基等が挙げられる。このアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、より好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは1〜3である。このうち、特に好ましいアルキル基はメチル基である。また、アルキルオキシ基を形成するアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、より好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは1〜3である。このうち、特に好ましいアルキルオキシを形成するアルキル基は、メチル基である。
また、置換アリール基における置換基の数は、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、更に好ましくは1である。
また、置換アリールにおける置換基の位置は、任意に選択される。アリールがフェニルである場合(すなわち、置換アリール基が置換フェニル基である場合)、置換基の位置は中心原子に対してオルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。好ましくは、パラの位置である。
【0080】
上記触媒における置換ヘテロアリール基とは、ヘテロアリールにおける芳香環に置換基が結合している基をいう。この結合する置換基としては、例えば、アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基、及びアミノ基等が挙げられる。このアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり、特に好ましくは、メチル基である。
また、上記アルキルオキシ基におけるアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基であり、さらに好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり、特に好ましくは、メチル基である。
【0081】
また、置換ヘテロアリール基における当該置換基の数は、特に限定されないが、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、さらに好ましくは1である。
上記置換ヘテロアリール基における当該置換基の位置は、任意に選択される。
【0082】
上記触媒におけるアルケニル基とは、二重結合を有する鎖状又は環状の脂肪族炭化水素(アルケン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。鎖状のアルケニル基である場合、直鎖のアルケニル基でも、分岐を有するアルケニル基でも構わない。また、環状のアルケニル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状構造が結合した構造でもよい。この場合、二重結合は、環状構造部分に存在してもよく、鎖状構造部分に存在してもよい。
二重結合を1つ有する鎖状アルケンの場合は、一般に「C2k−1−」(ここで、kは2以上の整数である)で表される。二重結合の数は特に限定されず、1個でも、2個以上でもよい。このアルケニル基の構造としては、特に限定されないが、二重結合と単結合とが、交互に繰り返される構造が好ましい。
アルケニル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、更に好ましくは2〜5であり、特に好ましくは2〜3である。
【0083】
また、上記アルケニル基は、その炭素鎖中の末端の炭素に二重結合を有することが好ましく、より好ましくは、この二重結合を有する末端炭素が中心原子に結合する構造である。即ち、中心原子が酸素原子の場合、その酸素原子と結合する構造(「−O−C=C−」)である。
また、好ましいアルケニル基の構造としては、「−CR31=CR3233」が挙げられる。このR31、R32、R33は水素でも、アルキル基でもよく、その他の置換基(例えば、アルケニル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、アルキルカルボニル基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基及び置換アリール基等)であってもよい。また、R31、R32、R33が全て水素の場合、この基はビニル基である。
【0084】
上記触媒におけるアルキニル基とは、三重結合を有する鎖状又は環状の脂肪族炭化水素(アルキン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。鎖状のアルキニル基である場合、直鎖のアルキニル基でも、分岐を有するアルキニル基でも構わない。また、環状のアルキニル基である場合、環状構造のみから構成さてもよく、環状構造に更に鎖状構造が結合した構造でもよい。この場合、三重結合は、環状構造部分に存在してもよく、鎖状構造部分に存在してもよい。
三重結合を1つ有する鎖状アルキンの場合は、一般に「C2k−3−」(ここで、kは2以上の整数である)で表される。三重結合の数は特に限定されず、1個でも、2個以上でもよい。このアルキニル基の構造としては、特に限定されないが、三重結合と単結合とが、交互に繰り返される構造が好ましい。
アルキニル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、更に好ましくは2〜5であり、特に好ましくは2〜3である。
【0085】
また、上記アルキニル基は、その炭素鎖中の末端の炭素に三重結合を有することが好ましく、より好ましくは、この三重結合を有する末端炭素が中心原子に結合する構造である。即ち、中心原子が酸素原子の場合、その酸素原子と結合する構造(「−O−C≡C−」)である。
また、好ましいアルキニル基の構造としては、「−C≡CR34」が挙げられる。このR34は水素でも、アルキル基でもよく、その他の置換基(例えば、アルケニル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、アルキルカルボニル基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基及び置換アリール基等)であってもよい。
【0086】
上述のように、重合工程における第1重合体、及び上記ビニル系重合体(2)の製造において用いる、上記触媒としては、上述の化合物(a)をそのまま使用することができる(即ち、触媒を、ビニル系単量体と共に重合容器に投入して、第1重合体、又はビニル系重合体(2)を得ることができる)。また、上記化合物(a)を使用することなく、化合物(a)を形成する、1種又は2種以上の化合物(以下、「触媒前駆体」という。)を使用してもよい。ここで触媒前駆体とは、この触媒前駆体が反応系に存在するときに、反応前又は反応中に、上記触媒を形成し得る材料である。即ち、触媒前駆体は、反応容器に投入する(第1重合体を重合する)前の状態では、上記触媒に該当しないが、反応容器中(重合中)において、化学変化(化学反応)により、上記触媒を形成し得るものである。この触媒前駆体を用いても第1重合体、又はビニル系重合体(2)を効率よく形成することができる。
【0087】
第1重合体、又はビニル系重合体(2)を得る重合反応の際に、上記触媒から発生する活性化ラジカルと同様の活性化ラジカルを生成できる化合物は、触媒前駆体に該当する。例えば、リンの水素化物は前駆体に該当する。即ち、過酸化物等により、リンの水素化物の水素が引き抜かれれば、リン化合物の活性化ラジカルが発生し、リビングラジカル重合を行うことができる。また、窒素等の水素化も触媒前駆体に該当する。
【0088】
触媒前駆体としては、中心原子を有する化合物からなる触媒前駆体と、ハロゲン原子を有する化合物からなる触媒前駆体又はハロゲン(ハロゲン単体)と、を組み合わせて使用することができる。これらの触媒前駆体から、触媒が形成される。
従って、重合工程において、触媒をそのまま使用してもよく、触媒を形成する触媒前駆体を使用してもよい。この場合、第1重合体又はビニル系重合体(2)を得る重合反応を行う工程の前に、この触媒前駆体を化学変化させることが好ましい。この触媒前駆体の化学変化は、重合工程における重合反応を行う容器等内で行ってもよく、重合反応を行う容器等と別の容器等で行ってもよい。
【0089】
リン原子を中心原子とする触媒の前駆体となる化合物としては、例えば、次に示される構造〔RPH(=O)〕を有する化合物等が挙げられる。具体的には、(CHCHPH(=O)、(CHCHCHPH(=O)、(CHCH)PhPH(=O)等が挙げられる。
また、亜リン酸ジエチル等も用いることができる。
また、ホスファイトは、ホスホン酸のモノエステルであってもよく、ジエステルであってもよい。
【0090】
窒素原子を中心とする触媒の前駆体となる化合物としては、例えば、アミン化合物及びイミド化合物が挙げられる。具体的には、アミン化合物としては、ジフェニルアミン(PhNH)等が挙げられる。
イミド化合物としては、コハク酸イミド〔(CH(C=O)NH〕等が挙げられる。
【0091】
次に、炭素原子を中心原子とする触媒(c)の前駆体となる化合物(以下。「化合物(c)」ともいう。)としては、上記触媒である化合物(a)中の中心原子である炭素原子に結合したハロゲン原子を水素原子に置換した化合物を用いることができる。ハロゲン原子を水素原子に置換すること以外は、上述した触媒(c)についての説明が、基本的には、そのまま触媒前駆体(化合物(c))にもあてはまる。
【0092】
従って、例えば、化合物(c)としては、中心原子となる炭素原子に、1つまたは2つの水素原子と、2つまたは3つのラジカル安定化用置換基が結合している化合物が好ましく使用できる。ここで、ラジカル安定化用置換基としては、中心原子と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が好ましい。中心原子の炭素原子には、水素原子および安定化ラジカル安定化用置換基以外の置換基が1つ結合していてもよいが、水素原子および安定化ラジカル安定化用置換基以外の置換基が中心原子の炭素原子に結合していないことが好ましい。
【0093】
ただし、上記触媒(c)に関しては、芳香族環に直接ハロゲン原子が結合した化合物を用いることができるが、その化合物のハロゲン原子を水素原子に置換した化合物(即ち、ベンゼン等の芳香族環状炭化水素化合物)は、触媒としての活性が非常に低いため、触媒(c)の触媒前駆体としては好ましくない。
【0094】
また、上記触媒(c)に関しては、メタンの4ハロゲン化物を用いることができるが、その化合物のハロゲン原子をすべて水素原子に置換した化合物(例えば、メタン)は、気体であるために、触媒(c)の触媒前駆体として使用し難く、活性も低いため好ましくない。
【0095】
また、化合物(c)として、触媒(c)の中心原子である炭素原子に結合したハロゲン原子を水素原子に置換した化合物としては、例えば、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子又はリン原子にC−H基が結合した構造を有する化合物が挙げられる。
【0096】
触媒(c)の触媒前駆体は、好ましくは、メチレンに2つの芳香族環が結合した構造を有する化合物等が挙げられる。
【0097】
触媒前駆体(化合物(c))の中心原子となる炭素原子が結合した原子(以下、便宜上、「1位原子」という。)は、好ましくは、炭素原子、窒素原子又はリン原子であり、より好ましくは炭素原子である。1位原子には、当該ヒドロキシル基以外には、炭素原子、及び水素原子から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子に隣接する原子(以下、便宜上、「2位原子」という。)は好ましくは、炭素原子である。2位原子には、炭素原子、酸素原子及び水素原子から選択される原子のみが結合していることが好ましい。また、1位原子と2位原子との間に二重結合が存在することが好ましい。好ましくは、2つの2位原子が存在し、そのうちの1つの2位原子と1位原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体として使用することができる。例えば、1位原子が炭素原子であり、2位原子として2つの炭素原子が存在し、そのうちの1つの炭素原子と1位原子の炭素原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体として使用することができる。また、2つ以上の2位原子が存在することが好ましく、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位炭素原子と1位炭素原子との間の単結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。例えば、1位原子が炭素原子であり、2つの炭素原子が2位原子として存在し、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位原子と1位原子との間の単結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。
【0098】
従って、触媒(c)の触媒前駆体としては、芳香族環に炭化水素基が結合した構造を有する炭化水素化合物が好ましく、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、置換アリール基、又は置換ヘテロアリール基に炭化水素基が結合した化合物が好ましい。例えば、メチレン基に2つの芳香族置換基が結合した化合物が好ましい。ここで、アリール基としては、フェニル基又はビフェニル基が好ましい。ここで、置換アリール基又は置換ヘテロアリール基中の置換基は、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基等が好ましい。このアルキル基、及びアルコキシル基としては、炭素数10以下のアルキル基、及びアルコキシル基がより好ましい。
【0099】
炭素原子が中心原子となる触媒前駆体は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さない化合物である。即ち、触媒(c)の触媒前駆体としては、芳香族二重結合(例えば、ベンゼン環の二重結合)のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合を有していても良い。また、脂肪族二重結合であっても、ラジカルとの反応性が低い二重結合は、触媒前駆体として使用することができる。
【0100】
他方、炭化水素基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物(即ち、1位炭素原子が二重結合または三重結合を有さず、2位炭素原子又はそれ以上に離れた炭素原子が二重結合または三重結合を有する化合物)は、触媒(c)の触媒前駆体としての性能が比較的高くない傾向にある。従って、炭化水素基から離れた位置にのみ二重結合又は三重結合を有する化合物以外の化合物を、触媒(c)の触媒前駆体として選択することが好ましい。
【0101】
また、好ましくは、炭素原子が中心原子となる触媒前駆体としては、ケイ素原子、窒素原子又はリン原子に結合した炭化水素基(即ち、Si−CH、N−CH、P−CH)を有する化合物を用いることもできる。
【0102】
炭素原子が中心原子となる触媒前駆体として、好ましい化合物の構造を以下に例示する。
(2−1)脂肪族二重結合に隣接する炭素原子に水素原子が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの脂肪族二重結合の間に挟まれた炭素原子に水素原子が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの脂肪族二重結合の問に挟まれたメチレンを有する化合物が使用可能である。例えば、下記式(5)で示される構造を有する化合物(1,4−シクロヘキサジエン)が使用可能である。
【化2】

【0103】
また、1,4−シクロヘキサジエンに類似した構造を有する化合物として、1,3−シクロヘキサジエンがあるが、1,3−シクロヘキサジエンにおいては、二重結合と二重結合との間に1つのメチレン基が挟まれる構造ではないために、メチレン基の炭素ラジカルの安定化効果が低く、触媒としては適切ではない。
(2−2)芳香族環に隣接する炭素原子に水素原子が結合した化合物が使用可能である。特に、2つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素原子に水素原子が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの芳香族環の間に挟まれたメチレンを有する化合物。例えば、下記式(6)〜(14)で示される構造を有する化合物が使用可能である。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0104】
(2−3)エステル結合などの二重結合に隣接する炭素原子に水素原子が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素原子に水素原子が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの二重結合の間に挟まれたメチレンを有する化合物が使用可能である。例えば、下記式(15)で示される構造を有する化合物が使用可能である。
【化12】

【0105】
次に、酸素原子を中心原子とする触媒(o)の前駆体となる化合物(以下、「化合物(o)」ともいう。)としては、触媒(o)である化合物(a)中の中心原子である酸素原子に、結合したハロゲン原子を水素原子に置換した化合物を用いることができる。即ち、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子又はリン原子にヒドロキシル基が結合した構造を有する化合物を用いることができる。
【0106】
上記化合物(o)としては、好ましくは、芳香族環に−OH(ヒドロキシル基)が結合した構造を有するフェノール系化合物、又は脂肪族基の炭素に−OH(ヒドロキシル基)が結合した構造を有する脂肪族アルコール系化合物である。
【0107】
化合物(o)において、ヒドロキシル基が結合した原子(以下、便宜上「1位原子」という)は、好ましくは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子又はリン原子であり、これらのうち、より好ましくは、炭素原子である。また、1位原子には、当該ヒドロキシル基以外には、炭素原子及び水素原子から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子に隣接する原子(以下、便宜上「2位原子」という)は、好ましくは、炭素原子である。2位原子には、炭素原子、酸素原子及び水素原子から選択される原子のみが結合していることが好ましい。また、1位原子と2位原子との間に二重結合が存在する構造を有することが、より好ましい。好ましくは、2個の2位原子が存在し、そのうちの1個の2位原子と1位原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒(o)の触媒前駆体として用いることができる。
例えば、1位原子が炭素原子であり、2位原子として2個の炭素原子が存在し、そのうちの1つの炭素原子と1位原子の炭素原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒(o)の触媒前駆体として使用することができる。
また、2個以上の2位原子が存在することが好ましく、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位炭素と1位炭素との間の単結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。
例えば、1位原子が炭素原子であり、2個の炭素原子が2位原子として存在し、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位原子と1位原子との間の単結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。
【0108】
従って、触媒(o)の触媒前駆体としては、芳香族環にヒドロキシル基が結合した構造を有する化合物が好ましい。例えば、アリール基又は置換アリール基と、ヒドロキシル基とからなる化合物が挙げられる。好ましくはフェノール系化合物である。ここで、アリール基としては、フェニル基又はビフェニル基が好ましい。また、置換アリール基の置換基としては、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基などが好ましい。炭素数が10以下の、アルキル基及びアルコキシル基がより好ましい。
【0109】
酸素が中心原子である触媒前駆体は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さない化合物である。即ち、この触媒(o)の触媒前駆体としては、芳香族二重結合(例えば、ベンゼン環の二重結合)のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合を有していても良い。また、脂肪族二重結合であっても、ビタミンC中の二重結合のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合は、触媒(o)の触媒前駆体として使用することができる。従って、ビタミンC等は、触媒(o)の触媒前駆体として使用ことができる。一般に、ヒドロキシル基を有する炭素原子による二重結合は、ラジカルとの反応性は無い。例えば、ビニルアルコール(CH=CH−OH)は、ラジカル重合性モノマーではない。ヒドロキシル基を有する炭素原子による三重結合も同様に、ラジカル反応性はなく、そのような化合物は、ラジカル重合性モノマーではなく、酸素が中心原子である触媒前駆体として使用することができる。
ない。
【0110】
他方、ヒドロキシル基から離れた位置にのみ二重結合、又は三重結合を有する化合物(即ち、1位原子の炭素原子が二重結合または三重結合を有さず、2位原子の炭素原子またはそれ以上に離れた炭素原子が二重結合または三重結合を有する化合物)は、触媒前駆体としての性能が比較的高くない傾向にある。従って、ヒドロキシル基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物以外の化合物を触媒(o)の触媒前駆体として選択することが好ましい。
【0111】
また、酸素が中心原子である触媒(o)の触媒前駆体としては、ビタミンE等の酸化防止剤としての性能を有するヒドロキシル基含有化合物を用いることが好ましい。ただし、酸化防止剤に関しては、一般に、ヒドロキシル基の近くに大きい置換基が存在することが重要であると考えられているが、本発明における触媒前駆体については、そのような限定はなく、ヒドロキシル基の近くに大きい置換基が存在する必要はない。例えば、フェノールのように、水酸基以外に置換基を有さない化合物であっても本発明においては触媒前駆体として好適に用いることができる。
【0112】
また、酸素が中心原子となる触媒前駆体としては、ケイ素、窒素、又はリンに結合したヒドロキシル基(即ち、Si−OH、N−OH、P−OH)を有する化合物を用いることもできる。
【0113】
触媒前駆体となるハロゲン化合物としては、ハロゲン原子を有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、有機ハロゲン化合物、無機ハロゲン化合物等が挙げられる。このうち、有機ハロゲン化合物が好ましい。この有機ハロゲン化合物としては、後述の有機ハロゲン化合物からなる開始剤等が挙げられる。即ち、有機ハロゲン化合物からなる開始剤を触媒前駆体(ハロゲン化合物)としても使用することができる。この場合、中心原子を有する触媒前駆体と、有機ハロゲン化合物からなる開始剤と、を使用することにより、第1重合体、又はビニル系重合体(2)が得られる。
【0114】
また、重合工程において、触媒前駆体を使用する場合、ラジカル発生剤を使用することができる。ラジカル発生剤を使用することにより、触媒前駆体から効率的に触媒が得られる。
上記ラジカル発生剤としては、特に限定されない。このラジカル発生剤としては、例えば、過酸化物系のラジカル発生剤及びアゾ系のラジカル発生剤等が挙げられる。
【0115】
上記過酸化物系のラジカル発生剤としては、有機過酸化物が好ましい。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、及び過酸化ジクミル等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
アゾ系のラジカル発生剤としては、具体的には、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、及び2,2′−アゾビス(メチルイソブチレート)等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0117】
例えば、触媒前駆体、ハロゲン化合物及びラジカル発生剤を使用して触媒を形成させる対応としては、以下に例示される。
触媒前駆体として亜リン酸ジエチル(中心原子を有する触媒前駆体)、及びジヨードキシレン(ハロゲン化合物)を使用し、ラジカル発生剤として過酸化ベンゾイルを使用した場合、以下のように触媒が形成される。
過酸化ベンゾイルから、ラジカルが生じ、この過酸化ベンゾイル由来のラジカルは、亜リン酸ジエチルの水素を引き抜き、過酸化ベンゾイル由来のラジカルはカルボン酸になる。また、水素を引き抜かれた亜リン酸ジエチルはリンラジカルとなり、このリンラジカルはジヨードキシレンのヨウ素、あるいは重合中は、重合体末端のヨウ素を引き抜く。従って、触媒としてのヨウ素リン酸ジエチルが形成される。
また、上記ラジカル発生剤は、重合工程に使用された場合、通常のラジカル開始剤と同様に、重合を進行させる役割も有する。
【0118】
重合工程において用いられる開始剤は、有機ハロゲン化合物であり、炭素原子及びハロゲン原子の結合(以下、「炭素−ハロゲン結合」ともいう。)を、少なくとも1つ有する化合物である。
上記有機ハロゲン化合物を開始剤として用いると、上記触媒の作用により、有機ハロゲン化合物に由来するハロゲン原子(以下、「ハロゲン原子(b)」という。)が、ビニル系単量体が重合して形成される第1重合体等の成長鎖の末端に位置することとなる。そして、上記重合工程において、成長鎖の末端におけるハロゲン原子(b)が、触媒のハロゲン原子(a)と交換されながら、ハロゲン原子(a)又は(b)が重合過程の重合体末端を移動し、リビングラジカル重合での反応途中の成長鎖を保護する保護基となる。
【0119】
有機ハロゲン化合物での有機基において、ハロゲン原子が結合している炭素(以下、「炭素(X)」という。)に結合している水素原子の数は、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0(水素原子を有しない。)が更に好ましい。
また、上記炭素(X)に結合しているハロゲン原子の数は、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1が更に好ましい。
また、上記炭素(X)は、炭素原子が結合していることが好ましい。炭素(X)に結合している炭素原子の数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3が更に好ましい。
【0120】
上記ハロゲン原子(b)としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。これらのハロゲン原子のうち、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が好ましく、ヨウ素が更に好ましい。
また、有機ハロゲン化合物のハロゲン原子(b)は、触媒のハロゲン原子(a)と同一であっても良く、異なってもよい。ハロゲン原子(b)と、ハロゲン原子(a)とが異種のハロゲン原子であっても、有機ハロゲン化合物と触媒との間で、ハロゲン原子を交換することが可能である。但し、ハロゲン原子(b)と、ハロゲン原子(a)とが同一であれば、有機ハロゲン化合物と触媒との間でのハロゲン原子の交換が良好に行われることから好ましい。これらの有機ハロゲン化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
上記開始剤が有する炭素−ハロゲン結合は、ビニル系単量体の重合における官能基として作用する。即ち、炭素−ハロゲン結合を2つ以上有する開始剤は多官能の開始剤となり、そのうち炭素−ハロゲン結合を2つ有する開始剤は2官能の開始剤となる。また、炭素−ハロゲン結合を1つ有する開始剤は単官能の開始剤となる。
また、重合工程において、使用した開始剤が、単官能の開始剤である場合、得られる第1重合体及びビニル系重合体(2)は、片末端のみにハロゲン原子を有する。この場合、ハロゲン原子を備えてないもう一方の末端は、開始剤からハロゲン原子を除いた残部の構造を有する。
また、2官能の開始剤を使用した場合、得られる第1重合体及びビニル系重合体(2)は、両末端にハロゲン原子を有する。
【0122】
上記2官能の開始剤としては、炭素−ハロゲン結合を2つ有する有機ハロゲン化合物であれば、特に限定されない。好ましくは、炭素−ハロゲン結合を有する炭素原子が、異なる炭素原子により構成されている化合物である。例えば、下記一般式(16)〜(25)で表される化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0123】
【化13】

上記一般式(16)において、R51及びR52は、炭素数1〜5の二価のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1〜3の直鎖の二価のアルキレン基であり、より好ましくは、メチレン基(−CH−)であり、R51及びR52は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(16)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0124】
【化14】

上記一般式(17)において、R53及びR54は、炭素数1〜5の二価のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1〜3の直鎖の二価のアルキレン基であり、より好ましくは、メチレン基(−CH−)であり、R53及びR54は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(17)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0125】
【化15】

上記一般式(18)において、R56及びR57は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R56及びR57は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(18)において、R55は、炭素数1〜20の二価のアルキレン基であり、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。
また、上記一般式(18)において、R58及びR59は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、アルキル基の場合は、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。R58及びR59は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(18)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0126】
【化16】

上記一般式(19)において、R61及びR62は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R61及びR62は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(19)において、R60は、炭素数1〜20の二価のアルキレン基であり、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。
また、上記一般式(19)において、R63及びR64は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、アルキル基の場合は、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。R63及びR64は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(19)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0127】
【化17】

上記一般式(20)において、R65、R66、R67、及びR68は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R65、R66、R67、及びR68は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(20)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0128】
【化18】

上記一般式(21)において、R70、R71、R72、及びR73は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R70、R71、R72、及びR73は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(21)において、R69は、炭素数1〜20の二価のアルキレン基であり、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。
また、上記一般式(21)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0129】
【化19】

上記一般式(22)において、R76、R77、R78、及びR79は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R76、R77、R78、及びR79は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(22)において、R75は、炭素数1〜20の二価のアルキレン基であり、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。
また、上記一般式(22)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0130】
【化20】

上記一般式(23)において、R80、R81、R82、及びR83は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R80、R81、R82、及びR83は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(23)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0131】
【化21】

上記一般式(24)において、R84、R85、R86、及びR87は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R84、R85、R86、及びR87は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(24)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0132】
【化22】

上記一般式(25)において、R89、R90、R91、及びR92は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。また、このアルキル基は好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。R89、R90、R91、及びR92は同一であっても、異なっていてもよい。
また、上記一般式(25)において、R88は、炭素数1〜20の二価のアルキレン基であり、分岐を有するものでも、直鎖状のものでも構わない。
また、上記一般式(25)において、Xは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、好ましくはヨウ素原子であり、複数のハロゲン原子は同一であっても、異なっていてもよい。
【0133】
上記2官能の開始剤としては、具体的には、ジヨードキシレン、ジブロモキシレン、ジクロロキシレン、ジエチル−2,5−ジヨードアジペート、ジエチル−2,5−ジブロモアジペート、ジエチル−2,5−ジクロロアジペート等が挙げられる。
【0134】
また、上記単官能の開始剤は、炭素−ハロゲン結合を1つ有する有機ハロゲン化合物ある。例えば、下記一般式(26)で表されるCH(CH)(Ph)I、並びに、下記一般式(27)で表されるC(CH(CN)I、及び下記式(30c)で表される化合物等が挙げられる。
【化23】

〔但し、上記一般式(26)において、R91は、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R92は、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子を示す。〕
【化24】

〔但し、上記一般式(27)において、R93は、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R94は、炭素数1〜5の二価のアルキレン基を示し、R95は、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子を示す。〕
【0135】
また、有機ハロゲン化合物からなる開始剤としては、具体的には、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ブロモメチル、ジブロモメタン、ブロモホルム、ブロモエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ブロモトリクロロメタン、ジクロロジブロモメタン、クロロトリブロモメタン、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、塩化イソプロピル、塩化t−ブチル、臭化イソプロピル、臭化t−ブチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t−ブチル、ブロモジクロロエタン、クロロジブロモエタン、ブロモクロロエタン、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン、2−ヨード−2−ポリエチレングリコシルプロパン、2−ヨード−2−アミジノプロパン、2−ヨード−2−シアノブタン、2−ヨード−2一シアノ−4-メチルペンタン、2一ヨード−2−シアノ4−メチル−4−メトキシペンタン、4−ヨード−4−シアノ−ペンタン酸、メチル−2−ヨードイソブチレート、2−ヨード−2−メチルプロパンアミド、2−ヨード−2,4−ジメチルペンタン、2−ヨード−2−シアノブタノール、4−メチルペンタン、シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−(2−イミダソリン−2−イル)プロパン、2−ヨード−2−(2−(5−メチル−2−イミダソリン−2−イル)プロパン等が挙げられる。これらのハロゲン化物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0136】
第1重合体の製造において、上記開始剤としては、上記の有機ハロゲン化合物をそのまま使用することができる。また、上記開始剤を使用することなく、上記の有機ハロゲン化合物を形成する、1種又は2種以上の化合物(以下、「開始剤前駆体」という。)を使用してもよい。ここで、開始剤前駆体とは、この開始剤前駆体が反応系に存在するときに、反応前又は反応中に、上記開始剤を形成し得る材料である。即ち、開始剤前駆体は、反応容器に投入する(第1重合体を重合する)前の状態では、上記開始剤に該当しないが、反応容器中(重合中)において、化学変化(化学反応)により、上記開始剤を形成し得るものである。この開始剤前駆体を用いても第1重合体を効率よく形成することができる。
【0137】
上記開始剤前駆体としては、開始剤である有機ハロゲン化合物を形成するものであれば、特に限定されない。例えば、アゾ系化合物等の有機化合物からなる開始剤前駆体(以下、「開始剤前駆体(a)」という)と、ハロゲン単体からなる開始剤前駆体(以下、「開始剤前駆体(b)」という)とを併用することができる。具体的には、下記式(30)に示されるように、開始剤前駆体(a)としてアゾ系化合物の4,4−アゾビス−4−シアノ吉草酸(30a)、及び開始剤前駆体(b)としてヨウ素(30b)による開始剤前駆体から、開始剤(30c)が形成される。この開始剤(30c)は、上記一般式(27)に含まれる単官能の開始剤である。
【化25】

【0138】
上記開始剤前駆体(a)としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記アゾ系化合物としては、4,4−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス−{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}及び2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等が挙げられる。
また、上記有機過酸化物としては、Disuccinic acid peroxide(例えば、「パーロイルSA」、日本油脂製)等が挙げられる。
上記開始剤前駆体(b)としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素の単体が挙げられる。これらのハロゲン単体のうち、塩素、臭素及びヨウ素が好ましく、ヨウ素が更に好ましい。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0139】
ビニル系重合体(1)における第1重合体を形成する、加水分解性シリル基を有しないビニル系単量体は、加水分解性シリル基を有さず且つラジカル重合性を有するビニル系不飽和化合物であれば、特に限定されない。ビニル系不飽和化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する不飽和化合物である(メタ)アクリル系化合物、芳香族ビニル化合物、共役ジエン系化合物、マレイミド系化合物、ビニルエステル化合物、ビニルエーテル化合物、アルケン化合物、不飽和酸無水物、不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記(メタ)アクリル系化合物は、不飽和カルボン酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、アルコキシル基含有不飽和化合物、シアノ基含有不飽和化合物、ニトリル基含有不飽和化合物等が挙げられる。以下に化合物を例示するが、(メタ)アクリロイル基を有さない不飽和化合物も含む。
【0140】
上記不飽和カルボン酸化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、α−クロルアクリル酸、桂皮酸、α−クロロアクリル酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0141】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸n−オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0142】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステルや、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノール、o−イソプロペニルフェノール等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0143】
上記アミノ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0144】
上記アミド基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0145】
上記アルコキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0146】
上記シアノ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1−シアノエチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸1−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4−シアノブチル、(メタ)アクリル酸6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチル−6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8−シアノオクチル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0147】
上記ニトリル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩、α−メチルスチレンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0149】
上記共役ジエン系化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、クロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン)等が挙げられる。
【0150】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0151】
上記ビニルエステル化合物としては、メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ギ酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0152】
上記ビニルエーテル化合物としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0153】
上記アルケン化合物としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルとしては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のモノアルキルエステルが挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル等としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のジアルキルエステルが挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、その他のビニル系単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0154】
上記ビニル系重合体(1)におけるビニル系単量体の好ましい使用例は、下記に示される。
上記ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル系化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル化合物がより好ましく、メタクリル酸エステル化合物が更に好ましい。
(メタ)アクリル系化合物の使用割合としては、第1重合体を形成する上記ビニル系単量体全量を100質量%としたときに、40〜100質量%が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
また、第1重合体を形成するビニル系単量体に使用する(メタ)アクリル系化合物の全量を100質量%としたときに、(メタ)アクリル酸エステル化合物の使用割合は、40〜100質量%が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
更に、第1重合体を形成する上記ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステル化合物(メタクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物)を含む場合、メタクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物の使用量の割合は、両者の合計を100質量%としたときに、それぞれ50〜100質量%及び0〜50質量%が好ましく、70〜100質量%及び0〜30質量%がより好ましく、90〜100質量%及び0〜10質量%が更に好ましい。上記化合物の使用割合が上記範囲の場合には、強度及び弾性に優れる硬化物を与えることができる。
【0155】
また、上記ビニル系重合体(2)においては、加水分解性シリル基を有するビニル系単量体、及び加水分解性シリル基を有するビニル系単量体と重合可能なビニル系単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)が用いられる。この他の単量体としては、上述のビニル系重合体(1)における第1重合体を形成するビニル系不飽和化合物を用いることができる。
また、上記の加水分解性シリル基を有するビニル系単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジメチルシラン及びビニルトリクロロシラン等のビニルシラン類;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル及び(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル類等が挙げられる。この中で、上記のビニル系不飽和化合物との共重合性や、湿気硬化性組成物から得られる硬化物の柔軟性等より、メトキシ基又はエトキシ基を有するビニルシラン又はシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。これら加水分解性シリル基を有する単量体についても、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0156】
ビニル系重合体(2)を形成させる、加水分解性シリル基を有するビニル系単量体、及び他の単量体の使用割合(加水分解性シリル基を有するビニル系単量体:他の単量体)としては、ビニル系重合体(2)を形成する単量体全量を100質量%としたときに、(0.5〜15):(85〜99.5)が好ましく、(1〜10):(90〜99)がより好ましく、(2〜8):(92〜98)が更に好ましい。加水分解性シリル基を有するビニル系単量体、及び他の単量体の使用割合が上記範囲内にあると、強度、弾性及び耐久性に優れる硬化物が得られる湿気硬化性組成物とすることができる。
【0157】
また、他の単量体としては、(メタ)アクリル系化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル化合物がより好ましく、メタクリル酸エステル化合物が更に好ましい。
(メタ)アクリル系化合物の使用割合としては、他の単量体全量を100質量%としたときに、40〜100質量%が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
また、他の単量体として、(メタ)アクリル酸エステル化合物(メタクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物)を使用する場合、メタクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物の使用量の割合は、両者の合計を100質量%としたときに、それぞれ50〜100質量%及び0〜50質量%が好ましく、70〜100質量%及び0〜30質量%がより好ましく、90〜100質量%及び0〜10質量%が更に好ましい。上記化合物の使用割合が上記範囲の場合には、強度及び弾性に優れる硬化物を与えることができる。
【0158】
重合工程においては、触媒又は触媒前駆体と、開始剤又は開始剤前駆体と、の存在下で、ビニル系単量体からリビングラジカル重合により、触媒(又は触媒前駆体)、又は開始剤(又は開始剤前駆体)由来のハロゲン原子を末端に有する(末端ハロゲンを有する)第1重合体、及びビニル系重合体(2)が得られる。また、重合工程では、必要に応じて、更にラジカル発生剤を使用することができる。
【0159】
また、重合工程において、使用した開始剤及び開始剤前駆体が、2官能の開始剤又は2官能の開始剤を形成する開始剤前駆体である場合、得られる第1重合体及びビニル系重合体(2)は、両末端にハロゲン原子を有する。一方、使用した開始剤及び開始剤前駆体が、単官能の開始剤又は単官能の開始剤を形成する開始剤前駆体である場合、得られる第1重合体及びビニル系重合体(2)は、片末端のみにハロゲン原子を有する。
【0160】
上記触媒の使用量は、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.001〜2モルあり、より好ましくは0.005〜1モルあり、更に好ましくは0.01〜0.5モルである。触媒の使用量が、上記範囲内にあると、分散度が小さい、第1重合体及びビニル系重合体(2)が効率的に得られる。
【0161】
また、触媒として、触媒前駆体を使用する場合の使用量は、以下のとおりである。中心原子を有する触媒前駆体の使用量が、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.001〜2モル、より好ましくは0.01〜1モル、更に好ましくは0.02〜0.5モルである。また、ハロゲンを有する触媒前駆体又はハロゲン単体の使用量が、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.05〜5モル、更に好ましくは0.1〜3モルである。触媒前駆体の使用量が、上記範囲内にあると、分散度が小さい、第1重合体及びビニル系重合体(2)が効率的に得られる。
【0162】
上記開始剤の使用量は、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.05〜5モル、更に好ましくは0.1〜3モルである。触媒前駆体の使用量が、上記範囲内にあると、分散度が小さい、第1重合体及びビニル系重合体(2)が効率的に得られる。
【0163】
また、開始剤として、開始剤前駆体を使用する場合の使用量は、以下のとおりである。有機化合物からなる開始剤前駆体(a)の使用量は、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.05〜5モル、更に好ましくは0.1〜3モルである。また、ハロゲン単体からなる開始剤前駆体(b)の使用量は、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.05〜5モル、更に好ましくは0.1〜3モルである。開始剤前駆体の使用量が、上記範囲内にあると、分散度が小さい、第1重合体及びビニル系重合体(2)が効率的に得られる。
【0164】
更に、ラジカル発生剤を使用する場合、ラジカル発生剤の使用量は、ビニル系単量体全量100モルに対して、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.05〜5モル、更に好ましくは0.1〜3モルである。ラジカル発生剤の使用量が、上記範囲内にあると、分散度が小さい、第1重合体及びビニル系重合体(2)が効率的に得られる。
【0165】
重合工程における、リビングラジカル重合は、バッチプロセス、セミバッチプロセス、管式連続重合プロセス、及び連続攪拌槽型プロセス(CSTR)等のどのようなプロセスでも重合を行うことができる。これらの重合プロセスの中では、バッチプロセス、セミバッチブロセス及び管式連続重合プロセスが好ましく、バッチプロセスがより好ましい。また、重合形式は溶媒を用いないバルク重合でも、重合溶媒を用いる溶液重合でも構わない。
【0166】
上記リビングラジカル重合が、重合溶媒を用いる溶液重合による場合、この重合溶媒としては、有機炭化水素系化合物が好ましい。具体的には、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル類、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素化合物、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類等、オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、メタノール、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール類等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、重合溶媒の使用量は、ビニル系単量体全量100質量部に対し、好ましくは0〜200質量部であり、より好ましくは0〜100質量部であり、更に好ましくは0〜50質量部である。重合溶媒が200質量部を超えると、重合溶媒に起因する連鎖移動反応が発生し、分子量制御、分子量分布(分散度)制御、及び末端のリビング性等の重合制御が困難になる場合がある。
【0167】
重合工程における重合温度は、好ましくは30℃〜130℃であり、より好ましくは40℃〜110℃であり、更に好ましくは50℃〜110℃である。重合温度が30℃未満であると、重合速度が著しく遅くなる場合がある。一方、重合温度が110℃より高いと加熱のための設備等にコストがかかる場合がある。
【0168】
上記第1重合体及びビニル系重合体(2)の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で、3000〜50000が好ましく、6000〜25000がより好ましく、8000〜15000が更に好ましい。数平均分子量が、上記範囲であれば、強度及び弾性に優れる硬化物を与える湿気硬化性組成物とすることができる。
【0169】
上記第1重合体及びビニル系重合体(2)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、2.0未満(通常1.05以上)であり、好ましくは1.3〜1.8であり、より好ましくは1.6未満である。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、上記範囲であれば、強度及び弾性に優れる硬化物を与える硬化性組成物とすることができる。
【0170】
上記第1重合体及びビニル系重合体(2)は、分子末端に上記触媒又は上記有機ハロゲン化合物由来のハロゲン原子を備える。上記ハロゲン原子を備える分子末端は、第1重合体及びビニル系重合体(2)の少なくとも一方であればよく、上記ハロゲン原子を第1重合体の両末端に備えることがより好ましい。
【0171】
次に、第2工程について、説明する。この第2工程は、第1重合体の分子末端にあるハロゲン原子(末端ハロゲン)を後述の末端変性によって、末端ハロゲンを変性させ、加水分解シリル基を分子末端に有するビニル系重合体(1)とする工程である。
また、ビニル系重合体(2)も、第1重合体と同様に分子末端にハロゲン原子(末端ハロゲン)を有する。従って、ビニル系重合体(2)も以下の第2工程に供することにより、加水分解シリル基を分子末端に有するビニル系重合体とすることができる。ビニル系重合体(2)を末端変性させる場合の工程としては、第1重合体を末端変性させる第2工程をそのまま用いることができる。
【0172】
第2工程における第1重合体の末端変性方法としては、一般的な化学反応を用いることができる。また、上記ビニル系重合体の末端に加水分解性シリル基を導入する際に用いられる化合物(分子末端変性剤)も特に限定されず、一般的な化合物を用いることができる。
この第2工程においては、例えば、以下の態様(方法)が挙げられる。これらの方法によれば、第1重合体を劣化させずに、効率よく末端変性させることができる。
(1)下記一般式(41)で表される化合物と第1重合体とを反応させる、ハロゲン−アミノ置換反応のよる加水分解性シリル基の導入。
【0173】
【化26】

[但し、一般式(41)において、R41は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、R42は単結合、炭素数1〜8の2価のアルキレン基、又は下記一般式(44)示される2価の基であり、R43、R44及びR45は、これらうち少なくとも1つが炭素数1〜3のアルコキシル基〔好ましくはメトキシ基(−OCH)又はエトキシ基(−OC)〕であり、炭素数1〜3のアルコキシル基以外のR43、R44及びR45は、炭素数1〜3のアルキル基〔好ましくはメチル基(−CH)〕である。〕
【化27】

〔但し、一般式(44)において、R46は単結合、又は炭素数1〜8の2価のアルキレン基である。〕
【0174】
(2)下記一般式(42)で表される化合物と第1重合体とを反応させる、ハロゲン−メルカプト置換反応のよる加水分解性シリル基の導入。
【化28】

[但し、一般式(42)において、R41は単結合又は炭素数1〜8の2価のアルキレン基であり、R42は単結合、炭素数1〜8の2価のアルキレン基、又は下記一般式(45)示される2価の基であり、R43、R44及びR45は、これらうち少なくとも1つが炭素数1〜3のアルコキシル基〔好ましくはメトキシ基(−OCH)又はエトキシ基(−OC)〕であり、炭素数1〜3のアルコキシル基以外のR43、R44及びR45は、炭素数1〜3のアルキル基〔好ましくはメチル基(−CH)〕である。〕
【化29】

〔但し、一般式(45)において、R46は単結合、又は炭素数1〜8の2価のアルキレン基である。〕
【0175】
(3)第1重合体が、第1工程において、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する単官能の開始剤を用いて得られた重合体である場合、例えば、上記式(30)に示されるように、アゾ系開始剤(30a)及びヨウ素(30b)から形成される、カルボキシル基を有する単官能の開始剤(30c)を用いて得られた重合体等である場合、得られた第1重合体は、片末端(成長末端)はハロゲン原子を有し、もう一方の末端(開始末端)は開始剤由来のカルボキシル基又はヒドロキシル基を有する。第1重合体が、このような重合体である場合、ハロゲン原子を有する末端には、上記(1)又は(2)の方法により、加水分解性シリル基を末端に導入する。一方、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する末端は、下記一般式(43)で表される化合物と第1重合体とを反応させることにより、加水分解性シリル基を導入することができる。尚、下記一般式(43)で表される化合物は、上記第1重合体が有するカルボキシル基又はヒドロキシル基と反応可能な官能基、及び加水分解性シリル基を有する化合物である。
【0176】
【化30】

[但し、一般式(43)において、R41はグリシジル基又はイソシアネート基であり、R42は単結合、炭素数1〜8の2価のアルキレン基、又は炭素数1〜8の2価のアルキルエーテル基であり、R43、R44及びR45は、これらうち少なくとも1つが炭素数1〜3のアルコキシル基〔好ましくはメトキシ基(−OCH)又はエトキシ基(−OC)〕であり、炭素数1〜3のアルコキシル基以外のR43、R44及びR45は、炭素数1〜3のアルキル基〔好ましくはメチル基(−CH)〕である。〕
【0177】
上記(1)の方法における、上記一般式(41)で表される化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、及び[3‐(メチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記(1)の方法は、第1重合体と上記一般式(41)で表される化合物とを反応させる。そして、第1重合体の分子末端のハロゲンと、上記一般式(41)が有するアミノ基との置換反応により、第1重合体における末端ハロゲン部に、上記一般式(41)で表される化合物由来の、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体(1)が得られる。
上記一般式(41)で表される化合物の使用量は、末端ハロゲン1当量に対して、好ましくは1〜10当量、より好ましくは1〜5当量である。
また、反応を行う場合、使用する溶媒は、特に限定はされないが、この反応は、置換反応であるため、極性溶媒を使用することが好ましい。この極性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、及びアセトニトリル等が挙げられる。
また、この反応における、反応温度は限定されないが、通常、0〜80℃が好ましく、25℃〜70℃がより好ましい。
【0178】
上記(2)の方法における、上記一般式(42)で表される化合物としては、例えば、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、及び(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記(2)の方法は、第1重合体と上記一般式(42)で表される化合物とを反応させる。第1重合体の分子末端のハロゲン原子と、上記一般式(42)が有するメルカプト基との置換反応により、第1重合体における末端ハロゲン部に、上記一般式(42)で表される化合物由来の、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体(1)が得られる。
上記一般式(42)で表される化合物の使用量は、末端ハロゲン1当量に対して、好ましくは1〜10当量、より好ましくは1〜5当量である。
また、反応を行う場合、使用する溶媒は、特に限定はされないが、この反応は、置換反応であるため、極性溶媒を使用することが好ましい。この極性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、及びアセトニトリル等が挙げられる。
また、この反応における、反応温度は限定されないが、通常、0〜80℃が好ましく、25℃〜70℃がより好ましい。
【0179】
上記(3)の方法における、上記一般式(43)で表される化合物としては、例えば、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、及びイソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記(3)の方法は、第1重合体と上記一般式(43)で表される化合物とを反応させる。
但し、(3)の方法においては、第1重合体が、第1工程において、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する単官能の開始剤を用いて得られた重合体である。具体的には、開始剤前駆体(a)として、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有するアゾ系開始剤を用い、開始剤前駆体(b)として、ヨウ素を用いて得られた重合体等である。このカルボキシル基又はヒドロキシル基を有するアゾ系開始剤としては、例えば、4,4−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2‘−アゾビス−{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、及び2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド等が挙げられる。
従って、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有する単官能の開始剤を用いて得られた第1重合体は、分子末端の一方に、開始剤由来のカルボキシル基又はヒドロキシル基を有する。
そして、その第1重合体が末端に有するカルボキシル基又はヒドロキシル基と、上記一般式(43)で表される化合物が有するカルボキシル基又はヒドロキシル基反応可能な官能基とが反応し、上記一般式(43)で表される化合物由来の、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体(1)が得られる。
上記一般式(43)で表される化合物の使用量は、第1重合体が有するカルボキシル基及びヒドロキシル基1当量に対して、好ましくは1〜10当量、より好ましくは1〜5当量である。
また、反応を行う場合、使用する溶媒は、特に限定はされない。例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、及びアセトニトリル等が挙げられる。
また、この反応における、反応温度は限定されない。通常、反応温度は80℃〜200℃であることが好ましく、100℃〜170℃がより好ましく、110℃〜150℃が更に好ましい。反応温度が200℃を越えると末端のニトロオキサイドがはずれ、バックバイティング反応やベータ開裂がおき、低分子量成分が増え、得られる硬化物の強度及び弾性が低下する場合がある。また、80℃より低いと反応が遅く、生産効率を著しく悪くする。
【0180】
また、上記(3)の方法においては、生産効率を高めるために反応触媒を用いることが好ましい。この反応触媒はグリシジル基とカルボキシル基、もしくはイソシアネート基とヒドロキシル基との反応を早め、架橋性シリル基に影響を与えないものであれば特に制限はない。前者に対する好ましい反応触媒としては、トリブチルアンモニウムブロマイドが挙げられる。トリブチルアンモニウムブロマイドであれば、シリル基の反応に影響を与えず、効果的にグリシジル基とカルボキシ基との反応を促進することが出来る。また、後者に対する触媒としては、スズ系触媒が好ましい。
上記反応触媒の添加量は、末端にカルボキシル基もしくはヒドロキシル基を有する第1重合体の質量を100質量%とした場合に、0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1質量%がより好ましく、0.3〜0.5質量%が更に好ましい。触媒量が0.1質量%より少ないと、触媒効果が小さく生産性を向上できない場合がある。一方、触媒量が2質量%を越えると、反応触媒が湿気硬化性組成物の沈殿物となる場合がある。
【0181】
また、第1工程(重合工程)において、使用した開始剤及び開始剤前駆体が、単官能の開始剤又は単官能の開始剤を形成する開始剤前駆体である場合、得られる第1重合体(ビニル系重合体(2))は、片末端のみにハロゲン原子を有する。この場合、ハロゲン原子を備えてないもう一方の末端は、開始剤由来の構造を有する。
【0182】
本発明における、上記加水分解性シリル基を有するビニル系重合体の製造方法としては、上記第1工程及び第2工程、あるいは重合体(2)重合工程に加え、更に、これらの工程の後、残揮発分を取り除く脱溶工程(第3工程)を備えることができる。
この脱溶工程としては、特に限定されないが、一般的に行われている脱溶方法(脱溶プロセス)を用いることがでる。例えば、流下式蒸発機、薄膜蒸発機及び押出機式乾燥機等を使用する方法が挙げられる。
脱溶の温度条件は、好ましくは250℃以下(通常、10℃以上)であり、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは100℃以下である。250℃以下であれば、ビニル系重合体が有する加水分解性シリル基が、ビニル系重合体から解離せず、且つビニル系重合体の分解が生じ難い。一方、250℃を超える場合には、ビニル系重合体が有する加水分解性シリル基が解離する場合があり、また、ビニル系重合体が一部分解し低分子量物が生成される場合がある。また、着色も発生する場合がある。
【0183】
本発明におけるビニル系重合体は、ビニル系単量体由来の構成単位からなる重合体である。
上記ビニル系単量体として、(メタ)アクリル系化合物を用いた場合、本発明により得られるビニル系重合体は、この(メタ)アクリル系化合物に由来する単位を主鎖に含む重合体((メタ)アクリル系重合体)である。本発明においては、ビニル系重合体は、この(メタ)アクリル系重合体が好ましい。
【0184】
本発明におけるビニル系重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)で、3000〜50000が好ましく、より好ましいのは6000〜25000であり、8000〜15000が更に好ましい。Mnが3000より低いと硬化物の架橋密度が高くなりすぎ、硬化物の伸びが著しく小さくなる場合がある。また、Mnが50000より高いと粘度が非常に高くなり、作業性が著しく悪くなる場合がある。
【0185】
また、ビニル系重合体の分散度は、2.0未満(通常1.05以上)であり、好ましくは1.3〜1.8であり、より好ましくは1.6未満である。分散度が、上記範囲であれば、強度及び弾性に優れる硬化物を与える硬化性組成物とすることができる。
【0186】
本発明におけるビニル系重合体は、加水分解性シリル基を有する。好ましくは、加水分解性シリル基を分子末端に有する。また、加水分解性シリル基を分子末端に有するビニル系重合体の場合、分子末端の少なくとも一方に加水分解性シリル基を有し、好ましくは両末端に加水分解性シリル基を有する。
上記ビニル系重合体が有する加水分解性シリル基は、湿気架橋反応性を有する。この架橋反応性は、ビニル系重合体が有する加水分解性シリル基及び湿気(水)が反応して開始される架橋反応に由来する性質である。
【0187】
また、ビニル系重合体(1)が有する加水分解性シリル基の平均数(個数f(Si))は、好ましくは1〜2であり、より好ましくは1.4以上であり、更に好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは1.8以上である。
また、ビニル系重合体(2)は、加水分解性シリル基を含有する不飽和化合物を用いて得られた重合体であり、このビニル系重合体(2)は、分子鎖中にビニル系単量体由来の加水分解性シリル基を有する重合体である。更に、このビニル系重合体(2)が、末端変性された場合、分子末端にも加水分解性シリル基を有する重合体となる。
末端変性されない場合のビニル系重合体が有する加水分解性シリル基の平均数は、好ましくは1.0〜10.0であり、より好ましくは1.4〜4.0であり、更に好ましくは1.8〜3.5である。
また、末端変性された(末端変性後の)ビニル系重合体(2)が有する加水分解性シリル基の平均数は、好ましくは1.0〜10.0であり、より好ましくは1.4〜4.0であり、更に好ましくは1.8〜3.5である。
尚、加水分解性シリル基の平均数(個数f(Si))は、以下のように計算される。
平均数(個数f(Si))=上記ビニル系重合体中の加水分解性シリル基(アルコキシシリル基)の濃度[mol/kg]/(1000/数平均分子量)
平均数(個数f(Si))が、1.0個より小さいと、硬化物は架橋密度が小さいくなり、破断強度が弱くなる場合がある。一方、10.0個より大きいと、架橋密度が高くなり、脆くて伸びない硬化物となる場合がある。
【0188】
本発明の湿気硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有する。湿気硬化性組成物は、上記ビニル系重合体を全量としてもよく、一部に含有するものでもよい。湿気硬化性組成物におけるビニル系重合体の含有量は、湿気硬化性組成物全量を100質量%とした場合、好ましくは10〜100質量%であり、より好ましくは20〜90質量%であり、更に好ましくは30〜80質量%である。ビニル系重合体の含有量がこの範囲であれば、強度及び弾性に優れる硬化物を与える湿気硬化性組成物とすることができる。
【0189】
本発明の湿気硬化性組成物は、本発明の目的が達成される限り、上記ビニル系重合体に加えて、加水分解性シリル基を有する重合体を含有することができる。
この加水分解性シリル基を有する重合体としては、加水分解性シリル基を有するオキシアルキレン重合体、及び、一般のラジカル重合よって合成された、加水分解性シリル基を有するビニル系重合体が挙げられる。
また、加水分解性シリル基を有する重合体を使用する場合の使用量は、ビニル系重合体100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。
【0190】
本発明の湿気硬化性組成物は、本発明の目的が達成される限り、更に、他の成分を含有できる。他の成分としては、無機機フィラー(補強剤、充填剤)、可塑剤、密着性付与剤、溶剤、脱水剤、光安定剤、紫外線吸収剤、チクソ性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0191】
上記無機フィラーは、補強剤又は充填剤として使用される。この無機フィラーは、特に限定されないが、例えば、フュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸及びカーボンブラック等の補強性充填材;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、活性亜鉛華及びシラスバルーン等充填材;石綿、ガラス繊維及びフィラメント等繊維状充填材が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
無機フィラーを用いることにより強度の高い硬化物を得たい場合には、主にヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、カーボンブラック、表面処理微細炭酸カルシウム、焼成クレー、クレー及び活性亜鉛華等の使用が好ましい。この場合の無機フィラーの使用量は、ビニル重合体100質量部に対して0.1〜250質量部が好ましく、80〜180質量部がより好ましい。
また、低強度で伸びが大きい硬化物を得たい場合には、主に酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、酸化第二鉄、酸化亜鉛及びシラスバルーン等の使用が好ましい。この場合の無機フィラーの使用量は、ビニル系重合体100質量部に対して、0.1〜200質量部が好ましく、80〜150質量部がより好ましい。これら無機フィラーは1種類で使用してもよいし、2種類以上混合使用してもよい。
【0192】
上記可塑剤は、特に限定されないが、例えば、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル類;ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等の非芳香族二塩基酸エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート等のポリアルキレングリコールのエステル類;トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸エステル類;ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコールあるいはこれらの水酸基を変換したポリエーテル類;塩化パラフィン類;アルキルジフェニル、部分水添ターフェニル等の炭化水素系油、重量平均分子量(Mw)1000〜7000のTg−10℃以下のポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。尚、これらの可塑剤は、重合工程における工程中に配合することも可能である。
また、上記可塑剤としては、市販品を用いることができる。この市販品としては、東亞合成社製の、(商品名)「ARUFON(登録商標、以下同様) UP1000」、(商品名)「ARUFON UP1010」、(商品名)「ARUFON UP1020」、(商品名)「ARUFON UP1060」、(商品名)「ARUFON UP1080」、(商品名)「ARUFON UP1110」、(商品名)「ARUFON UH2000」、及び(商品名)「ARUFON UH2130」等が挙げられる。
また、上記可塑剤を使用する場合の使用量は、ビニル系重合体100質量部に対して0.1〜400質量部が好ましく、0.1〜200質量部がより好ましく、0.1〜100質量部が特に好ましい。
【0193】
上記密着性付与剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、メチルシラン類等のシラン化合物が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、密着性付与剤を使用する場合の使用量は、ビニル系重合体100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜50質量部がより好ましく、0.1〜30質量部が特に好ましい。
【0194】
上記溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸セロソルブ等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、溶剤は重合体の製造時に用いてもよい。また、溶剤を使用する場合の使用量は、ビニル系重合体100質量部に対して0.1〜400質量部が好ましく、0.1〜200質量部がより好ましく、0.1〜100質量部が特に好ましい。
【0195】
上記密着性付与剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、及びメチルシラン類等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、エポキシシラン、ビニルシラン、及びメチルシラン類は貯蔵安定剤としても用いられる。
【0196】
上記脱水剤としては、オルト蟻酸メチル、及びオルト酢酸メチル等が挙げられる。
上記光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及び蓚酸アニリド系化合物等が挙げられる。
上記チクソ性付与剤としては、アマイドワックス系、及びシリカ系等のチクソ性付与剤が挙げられる。
上記酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物等が挙げられる。
上記老化防止剤としては、上記光安定剤、上記紫外線吸収剤、及び上記酸化防止剤等の混合物が挙げられる。
【0197】
また、本発明の湿気硬化性組成物は、更に、硬化触媒(硬化促進剤)を含有する組成物とすることができる。そして、湿気硬化性組成物は、後述の硬化触媒が添加されることにより、円滑に硬化物とすることができる。
【0198】
上記硬化触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセトアセトナート、ジブチル錫ジエチルヘキサノレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジメチルマレート、ジブチル錫ジエチルマレート、ジブチル錫ジブチルマレート、ジブチル錫ジイソオクチルマレート、ジブチル錫ジトリデシルマレート、ジブチル錫ジベンジルマレート、ジブチル錫マレエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジエチルマレート、ジオクチル錫ジイソオクチルマレート等の錫化合物類;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物類;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等のキレート化合物類;オクチル酸鉛、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)等のアミン系化合物、あるいはこれらのアミン系化合物のカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂、過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤等のシラノール縮合触媒、及びその他の酸性触媒等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0199】
上記の硬化触媒の使用量は、ビニル系重合体100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましい。より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0200】
本発明の湿気硬化性組成物の製造方法は、特に限定されない。具体的には、上記ビニル系重合体、及び、必要により使用される、上記他の添加物等を、攪拌装置及び遊星式攪拌装置等を用いて、適宜混合することにより製造することができる。
【0201】
本発明の湿気硬化性組成物は、すべての配合成分を予め配合した後、その組成物を密封保存し、そして、使用の際に、密閉を開封し、湿気硬化性組成物の使用後に空気中の湿分を吸収することにより硬化させる1成分型の湿気硬化性組成物とすることができる。
また、本発明におけるビニル系重合体を含有しない硬化促進組成物と、硬化触媒等を含有しない湿気硬化性組成物と、を使用前に混合する2成分型として調整することもできる。
尚、上記硬化促進組成物としては、上記硬化触媒、上記充填材、及び上記可塑剤等の成分を配合した組成物とすることができる。
これらのうち、取り扱いが容易あり、使用(施工)時のミスの発生が少ない1成分型がより好ましい。
【0202】
本発明の湿気硬化性組成物の用途としては、特に限定されない。例えば、接着剤、シーリング材、コーティング材及びポッティング材等として使用することができる。具体的には、太陽電池裏面封止材などの電気・電子部品材料、電線・ケーブル用絶縁被覆材などの電気絶縁材料、発泡体、電気電子用ポッティング材、フィルム、ガスケット、注型材料、人工大理石、各種成形材料、及び網入りガラスや合わせガラス端面(切断部)の防錆・防水用封止材等の様々な用途に利用可能である。更に、本発明の湿気硬化性組成物から得られたゴム弾性を示す成形体は、ガスケット、パッキン類を中心に広く使用することができる。例えば自動車分野ではボディ部品として、気密保持のためのシール材、ガラスの振動防止材、車体部位の防振材、特にウインドシールガスケット、ドアガラス用ガスケットに使用することができる。シャーシ部品として、防振、防音用のエンジン及びサスペンジョンゴム、特にエンジンマウントラバーに使用することができる。エンジン部品としては、冷却用、燃料供給用、排気制御用などのホース類、エンジンオイル用シール材などに使用することができる。また、排ガス清浄装置部品、ブレーキ部品にも使用できる。家電分野では、パッキン、Oリング、ベルトなどに使用できる。具体的には、照明器具用の飾り類、防水パッキン類、防振ゴム類、防虫パッキン類、クリーナ用の防振・吸音と空気シール材、電気温水器用の防滴カバー、防水パッキン、ヒータ部パッキン、電極部パッキン、安全弁ダイアフラム、酒かん器用のホース類、防水パッキン、電磁弁、スチームオーブンレンジ及びジャー炊飯器用の防水パッキン、給水タンクパッキン、吸水バルブ、水受けパッキン、接続ホース、ベルト、保温ヒータ部パッキン、蒸気吹き出し口シールなど燃焼機器用のオイルパッキン、Oリング、ドレインパッキン、加圧チューブ、送風チューブ、送・吸気パッキン、防振ゴム、給油口パッキン、油量計パッキン、送油管、ダイアフラム弁、送気管など、音響機器用のスピーカーガスケット、スピーカーエッジ、ターンテーブルシート、ベルト、プーリー等が挙げられる。建築分野では、構造用ガスケット(ジッパーガスケット)、空気膜構造屋根材、防水材、定形シーリング材、防振材、防音材、セッティングブロック、摺動材等に使用できる。スポーツ分野では、スポーツ床として全天候型舗装材、体育館床等、スポーツシューズとして靴底材、中底材等、球技用ボールとしてゴルフボール等に使用できる。防振ゴム分野では、自動車用防振ゴム、鉄道車両用防振ゴム、航空機用防振ゴム、防舷材等に使用できる。海洋・土木分野では、構造用材料として、ゴム伸縮継手、支承、止水板、防水シート、ラバーダム、弾性舗装、防振パット、防護体等、工事副材料としてゴム型枠、ゴムパッカー、ゴムスカート、スポンジマット、モルタルホース、モルタルストレーナ等、工事補助材料としてゴムシート類、エアホース等、安全対策商品としてゴムブイ、消波材等、環境保全商品としてオイルフェンス、シルトフェンス、防汚材、マリンホース、ドレッジングホース、オイルスキマー等に使用できる。その他、板ゴム、マット、フォーム板等にも使用できる。
【0203】
本発明のシーリング材組成物は、本発明の湿気硬化性組成物を含有する組成物である。このシーリング材組成物は、上記湿気硬化性組成物を全量としてもよく、一部に含有するものでもよい。シーリング材組成物における湿気硬化性組成物の含有量は、シーリング材組成物全量を100質量%とした場合、好ましくは1〜100質量%である。
【0204】
また、本発明のシーリング材組成物は、湿気硬化性組成物に加え、更に必要に応じて、その他の添加剤を配合することができる。
【0205】
このシーリング材組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、湿気硬化性組成物及びその他添加剤等を配合し、混合することにより得られる。尚、各成分の配合順序は特に限定されるものではない。
【0206】
本発明の接着剤組成物は、本発明の湿気硬化性組成物を含有する組成物である。この接着剤組成物は、上記湿気硬化性組成物を全量としてもよく、一部に含有するものでもよい。接着剤組成物における湿気硬化性組成物の含有量は、接着剤組成物全量を100質量%とした場合、好ましくは1〜100質量%である。
【0207】
また、本発明の接着剤組成物は、湿気硬化性組成物に加え、更に必要に応じて、その他の添加剤を配合することができる。
【0208】
この接着剤組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、湿気硬化性組成物及びその他の添加剤等を配合し、混合することにより得られる。尚、各成分の配合順序は特に限定されるものではない。
【0209】
本発明の粘着剤組成物は、本発明の湿気硬化性組成物を含有する組成物である。この粘着剤組成物は、上記湿気硬化性組成物を全量としてもよく、一部に含有するものでもよい。粘着剤組成物における湿気硬化性組成物の含有量は、粘着剤組成物全量を100質量%とした場合、好ましくは1〜100質量%である。
【0210】
また、本発明の粘着剤組成物は、湿気硬化性組成物に加え、更に必要に応じて、その他の添加剤を配合することができる。
【0211】
この粘着剤組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、湿気硬化性組成物及びその他の添加剤等を配合し、混合することにより得られる。尚、各成分の配合順序は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0212】
以下に本発明の実施例を比較例と共に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことは言うまでもない。尚、以下において「部」は特に断らない限り質量基準である。
また、合成例、実施例及び比較例における「Mn」は、数平均分子量を意味し、「Mw」は、重量平均分子量を意味し、Mw/Mnは分散度を意味する。この「Mn」及び「Mw」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で算出された値である。
また、実施例及び比較例でのビニル系重合体における、加水分解性シリル基であるアルコキシシリル基の数(平均数)は、H−NMRスペクトルにより測定した積分値から、下記式により算出した平均数である。
アルコキシシリル基数f(Si)=(アルコキシシリル基由来の積分値)/〔(単量体由来の積分値)/(重合度)〕
【0213】
1.加水分解性シリル基を有するビニル系重合体の製造
合成例1〔第1重合体Aの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器(1リットルの褐色セパラブルフラスコ)に、ビニル系単量体としてメタクリル酸ラウリル(以下「LMA」ともいう。)314部及びアクリル酸ブチル(以下「BA」ともいう。)46部と、ジヨードキシレン3.7部と、亜リン酸ジエチル0.18部と、過酸化ベンゾイル(以下「BPO」ともいう。)1.2部と、オルト酢酸メチル(以下「MOA」ともいう。)154部と、を仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を70℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が70℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から3時間後、LMAの重合率を測定したところ、75%であり、BAの重合率を測定したところ、70%であった。次いで、末端変換剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下「APTES」ともいう。)を5.5部加え、更に、1時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Aを得た。得られた重合体AのGPC測定を行ったところ、Mw37000、Mn22000、Mw/Mn1.7であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、235000mPa・sであった。また、重合体Aの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Aの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体AのMw、Mn、Mw/Mn、粘度及び官能基数を表1に示す。
尚、ジヨードキシレンは、触媒前駆体及び開始剤として使用した。亜リン酸ジエチルは触媒前駆体として使用した。
また、上記過酸化ベンゾイルは、ラジカル発生剤として使用した。この過酸化ベンゾイル由来のラジカルは、亜リン酸ジエチルの水素原子を引き抜き、水素原子が引き抜かれた亜リン酸ジエチルは、リンラジカルになる。そして、このリンラジカルは、ジヨードキシレン及び重合中の分子末端のヨウ素原子を引き抜く。そして、ヨウ素リン酸ジエチルからなる触媒が形成される。
【0214】
合成例2〔重合体Bの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器に、ビニル系単量体としてLMA312部及びBA45部と、ジヨードキシレン6.3部と、亜リン酸ジエチル0.30部と、ラジカル発生剤としてBPO2.1部と、溶媒としてMOA135部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を70℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が70℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から3時間後、LMAの重合率を測定したところ、77%であり、BAの重合率を測定したところ、69%であった。次いで、末端変換剤としてAPTESを9.3部加え、更に、1時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Bを得た。得られた重合体BのGPC測定を行ったところ、Mw27000、Mn16300、Mw/Mn1.7であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、165000mPa・sであった。また、重合体Bの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.8であった。また、重合体Bの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体BのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表1に示す。
尚、ジヨードキシレンは、触媒前駆体及び開始剤として使用した。亜リン酸ジエチルは触媒前駆体として使用した。
【0215】
合成例3〔重合体Cの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器に、ビニル系単量体としてLMA315部及びBA46部と、ヨウ素1.3部、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」ともいう)1.7部及び亜リン酸ジエチル0.18部と、溶媒としてMOA136部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を80℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が80℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から6時間後、LMAの重合率を測定したところ、72%であり、BAの重合率を測定したところ、60%であった。次いで、末端変換剤としてAPTESを2.7部加え、更に、1時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Cを得た。得られた重合体CのGPC測定を行ったところ、Mw25000、Mn13300、Mw/Mn1.9であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、223000mPa・sであった。また、重合体Cの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は0.9であった。また、重合体Cの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体CのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表1に示す。
尚、ヨウ素は、触媒前駆体及び開始剤前駆体として使用した。AIBNは、開始剤前駆体として使用した。亜リン酸ジエチルは触媒前駆体として使用した。
【0216】
合成例4〔重合体Dの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器に、ビニル系単量体としてLMA313部及びBA46部と、ヨウ素1.3部、4,4−アゾビス−4−シアノ吉草酸(以下「ACVA」ともいう。)2.8部及び亜リン酸ジエチル0.09部と、溶媒としてMOA136部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を80℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が80℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から6時間後、LMAの重合率を測定したところ、77%であり、BAの重合率を測定したところ、69%であった。次いで、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下「GPTS」ともいう)2.9部、テトラブチルアンモニウムブロマイド(以下「TBAB」ともいう)2.0部、及びAPTES2.7部を加え、更に、4時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のGPTS及びAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Dを得た。得られた重合体DのGPC測定を行ったところ、Mw38900、Mn22100、Mw/Mn1.8であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、253000mPa・sであった。また、重合体Dの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Dの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体DのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表1に示す。
尚、ヨウ素は、触媒前駆体及び開始剤前駆体として使用した。ACVAは、開始剤前駆体として使用した。亜リン酸ジエチルは触媒前駆体として使用した。
また、得られた第1重合体Dは、下記式(50)に示されるように、一方の末端にハロゲン原子を有し、他方の末端に開始剤由来の構造(カルボキシル基)を有する。
【化31】

但し、上記式(50)において、Rは、−C、又は−C1225を示す。
【0217】
合成例5〔重合体Eの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器に、ビニル系単量体としてLMA314部及びBA46部と、N−ヨードコハク酸イミド(以下、「NIS」ともいう。)0.03部と、ジヨードキシレン3.7部と、溶媒としてMOA135部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を70℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が70℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から3時間後、LMAの重合率を測定したところ、76%であり、BAの重合率を測定したところ、71%であった。次いで、末端変換剤としてAPTESを5.5部加え、更に、1時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Eを得た。得られた重合体EのGPC測定を行ったところ、Mw38500、Mn23000、Mw/Mn1.67であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、223000mPa・sであった。また、重合体Eの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Eの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体EのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表1に示す。
尚、NISは、触媒として使用した。ジヨードキシレンは、開始剤前駆体として使用した。
【0218】
合成例6〔重合体Fの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器に、ビニル系単量体としてLMA314部及びBA46部と、ジヨードキシレン3.7部と、ビタミンE1.1部と、ラジカル発生剤としてBPO1.2部と、溶媒としてMOA135部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を70℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が70℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から3時間後、LMAの重合率を測定したところ、74%であり、BAの重合率を測定したところ、70%であった。次いで、末端変換剤としてAPTESを5.5部加え、更に、1時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Fを得た。得られた重合体FのGPC測定を行ったところ、Mw35000、Mn24000、Mw/Mn1.46であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、203000mPa・sであった。また、重合体Fの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Fの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体FのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表1に示す。
尚、ジヨードキシレンは、触媒前駆体及び開始剤として使用した。ビタミンEは、触媒前駆体として使用した。
【0219】
合成例7〔重合体Gの合成〕
オイルジャケットを備えた容積1リットルの加圧式攪拌槽型反応器に、ビニル系単量体としてLMA314部及びBA46部と、ジヨードキシレン3.7部及び1,4−シクロヘキサジエン0.04部と、ラジカル発生剤としてBPO1.2部、溶媒としてMOA135部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を70℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が70℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から3時間後、LMAの重合率を測定したところ、74%であり、BAの重合率を測定したところ、70%であった。次いで、末端変換剤としてAPTESを5.5部加え、更に、1時間反応させた。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液から、過剰のAPTESを精製除去した後、減圧度0.3kPa、80℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Gを得た。得られた重合体GのGPC測定を行ったところ、Mw37000、Mn23800、Mw/Mn1.6であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、254000mPa・sであった。また、重合体Gの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Gの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体GのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表1に示す。
尚、ジヨードキシレンは、触媒前駆体及び開始剤として使用した。1,4−シクロヘキサジエンは、触媒前駆体として使用した。
【0220】
合成例8〔重合体Hの合成〕
オイルジャケットを備えた耐圧式攪拌槽型ガラス反応器において、ビニル系単量体としてBA360部と、下記式(51)に示されるリビングラジカル重合開始剤(以下、「SG1−MAA」ともいう。)9.0部と、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン6.1部と、テトラブチルアンモニウムブロマイド(以下、「TBAB」ともいう)1.8部と、溶媒として酢酸ブチル108部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を120℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が120℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から6時間後、BAの重合率を測定したところ、88%であった。次いで、反応液に3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」ともいう)6.5部を添加し、120℃のまま4時間反応させた。この時点で、BAの重合率を測定したところ95%であった。また、MTMSの重合率を測定したところ98%であった。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液を減圧度0.3kPa、温度90℃で5時間かけ蒸発機で減圧乾燥し、重合体Hを得た。得られた重合体HのGPC測定を行ったところ、Mw39900、Mn14800、Mw/Mn2.7であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、354000mPa・sであった。リビングラジカル重合開始剤(下記式(51))のカルボキシル基の反応率は97%であった。また、重合体Hの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Hの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体HのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表2に示す。
【化32】

【0221】
合成例9〔重合体Iの合成〕
オイルジャケットを備えた耐圧式攪拌槽型ガラス反応器において、ビニル系単量体としてBA339部と、下記式(52)に示されるリビングラジカル重合開始剤(以下、「DBTTC」ともいう。)5.1部と、重合開始剤としてアゾビスイソバレロニトリル(以下、「AIVN」ともいう)0.3部と、溶媒として酢酸ブチル147部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を70℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始した。その際に、反応液の温度が70℃に保たれるようジャケット温度を調整した。重合開始から6時間後、BAの重合率を測定したところ、88%であった。次いで、反応液にMTMS8.7部を添加し、70℃のまま4時間反応させた。この時点で、BAの重合率を測定したところ95%であった。また、MTMSの重合率を測定したところ98%であった。次いで、反応系を冷却した後、得られた反応液を抜き出した。そして、反応液を減圧度0.3kPa、温度90℃で5時間かけ蒸発機で減圧乾燥し、重合体Iを得た。得られた重合体IのGPC測定を行ったところ、Mw38000、Mn18800、Mw/Mn2.0であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、374000mPa・sであった。リビングラジカル重合開始剤(下記式(52))のカルボキシル基の反応率は97%であった。また、重合体Iの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Iの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体IのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表2に示す。
【化33】

【0222】
合成例10〔重合体Jの合成〕
温度制御可能なウォーターバスに攪拌機、温度計、送液ポンプ、窒素導入管及びコンデンサーを備えた2リッター4つ口フラスコ(反応器)において、ビニル系単量体としてBA48.8部と、MTMS1.3部と、重合開始剤としてAIVN0.5部と、溶媒としてMOA350部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を80℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始し、引き続き、BA438.8部、MTMS11.3部、AIVN5部及びMOA150部からなる混合液を4時間にわたりフラスコへ連続供給し、反応器内の反応温度が80℃に一定に保てるように外温度を制御した。同温度で送液終了後、AIVN0.5部を反応液に更に添加し1時間反応(熟成)させ、次いで、反応系を冷却した。1時間の熟成及び冷却後、BAの重合率を測定したところ、96.8%であり、MTMSの重合率を測定したところ、反応率96.3%であった。その後、溶媒と残存モノマー等の揮発成分を除去するために、減圧度0.3kPa、90℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Jを得た。得られた重合体JのGPC測定を行ったところ、Mw99600、Mn25100、Mw/Mn4.0であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、609000mPa・sであった。また、重合体Jの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は2.5であった。また、重合体Jの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体JのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表2に示す。
【0223】
合成例11〔重合体Kの合成〕
温度制御可能なウォーターバスに攪拌機、温度計、送液ポンプ、窒素導入管及びコンデンサーを備えた2リッター4つ口フラスコ(反応器)において、ビニル系単量体としてBA48.8部と、MTMS1.3部と、重合開始剤としてAIVN0.65部と、溶媒としてMOA350部とを仕込んだ。その後、反応器内を、窒素ガスを用いたバブリングにより、十分に脱気した。次いで、内温を80℃とし、反応系を撹拌しながら、重合を開始し、引き続き、BA438.8部、MTMS11.3部、AIVN6.5部及びMOA150部からなる混合液を4時間にわたりフラスコへ連続供給し、反応器内の反応温度が80℃に一定に保てるように外温度を制御した。同温度で送液終了後、AIVN0.65部を反応液に更に添加し1時間反応(熟成)させ、次いで、反応系を冷却した。1時間の熟成及び冷却後、BAの重合率を測定したところ、96.8%であり、MTMSの重合率を測定したところ、反応率96.3%であった。その後、溶媒と残存モノマー等の揮発成分を除去するために、減圧度0.3kPa、90℃で5時間かけて蒸発機で減圧乾燥し、重合体Kを得た。得られた重合体KのGPC測定を行ったところ、Mw76000、Mn19600、Mw/Mn3.9であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、500000mPa・sであった。また、重合体Kの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は1.9であった。また、重合体Kの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体KのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表2に示す。
【0224】
合成例11〔重合体Lの合成〕
オイルジャケットを備えた耐圧式攪拌槽型ガラス反応器において、オイルジャケット温度を200℃に保った。次いで、ビニル系単量体としてBA97部と、MTMS3.0部と、重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(以下、「DTBP」ともいう)0.2部と、溶媒としてイソプロパノール(以下、「IPA」ともいう)10部とからなる単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。次いで、一定の供給速度(48g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給し、反応器内の混合液質量が580部の一定量となるように、重合物を反応器出口から連続的に抜き出した。その際の反応器内温は、180℃となるように、ジャケット温度を185℃に調整した。さらに抜き出した反応物(重合物)を、減圧度20kPa、温度250℃に保った薄膜蒸発機により、連続的に揮発成分を分離し、揮発成分をほとんど含まない重合体を回収した。単量体混合物の供給開始後、反応器内部の温度が安定してから、更に36分経過後を、平衡状態に達したと状態と判断し、この36分経過後を薄膜蒸発後の樹脂の回収開始点とし、回収開始点から180分間、原料の供給を継続した結果、約7000部の重合体Lを得た。得られた重合体LのGPC測定を行ったところ、Mw13000、Mn4200、Mw/Mn3.1であった。また、E型粘度(25℃)の測定を行ったところ、55000mPa・sであった。また、重合体Lの高分子鎖1本あたりのアルコキシシリル基数f(Si)は0.5であった。また、重合体Lの合成に使用したビニル系単量体、開始剤(開始剤前駆体)、触媒(触媒前駆体)、並びに重合体LのMw、Mn、Mw/Mn、E型粘度(25℃)及び官能基数を表2に示す。
【0225】
【表1】

【0226】
【表2】

【0227】
2.実施例1〜7及び比較例1〜7の湿気硬化性組成物の製造及び評価
(1)湿気硬化性組成物の製造
上記により得られた重合体A〜Lと、下記のアクリル系可塑剤、炭酸カルシウム、老化防止剤、アミノシラン、ビニルシラン、硬化触媒及び変性シリコーンとを用いて、表3及び表4に示す配合により湿気硬化性組成物を調製した。
(a)アクリル系可塑剤:商品名「ARUFON UP−1000」(Mw2900、Mn1600)、東亞合成社製
(b)炭酸カルシウム:軽炭(商品名「白艶華CCR」、白石カルシウム社製)と重炭(商品名「スーパーSS」、丸尾カルシウム社製)との混合物。配合割合(軽炭:重炭)は、質量基準で、50:50とした。
(c)老化防止剤:液状紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤の混合物(商品名「チヌビンB75」、チバスペシャリティー社製)
(d)密着性付与剤:アミノシラン、1級及び2級アミノ基を含有するアミノシラン(商品名「A−1120」、日本ユニカー社製)
(e)ビニルシラン:ビニルトリメトキシシラン(商品名「A−171」、日本ユニカー社製)
(f)硬化触媒:ジブチル錫ジアセチルアセトナート
(g)変成シリコーン:シリル基含有ポリアルキレンオキサイド(オキシアルキレン重合体)(商品名「エクセスターESS2420」、旭硝子社製)
【0228】
【表3】

【0229】
【表4】

【0230】
(2)硬化物の評価及び硬化物の評価
(2−1)破断強度及び破断伸び
上記の湿気硬化性組成物を型枠に充填し、23℃、50%RHで6日間、次いで50℃、飽和水蒸気雰囲気下で1日間養生し、厚さ2mmのシート(硬化物)を作製した。
そして、上記シート(硬化物)について、厚さ引張り試験用ダンベル(JIS K 6251 3号型)を作成し、下記条件下で、引張り試験機(東洋精機製、テンシロン200)により、破断強度[Ts(MPa)]、及び破断伸び[EI(%)]を測定した。評価結果を表5及び表6に示す。
試験片;2号ダンベル形状(長さ40mm、幅10mm、厚さ2mm)
つかみ具間距離;40mm
引張速度;5cm/分
温度;23℃
相対湿度;50%
【0231】
(2−2)耐候性評価試験
上記の湿気硬化性組成物を、アルミ基板上に、厚さ2mmで塗布し、23℃、50%RHの条件下で1週間養生して、厚さ2mmのシート(硬化物)を作製した。
そして、上記シート(硬化物)について、メタリングウェザーメーター(商品名「DAIPLA METAL WEATHER KU−R5NCI−A」、ダイプラ・ウィンテス社製)により、促進耐候性試験を行なった。
耐候性の評価は、試験開始から150時間毎に、シートを目視により観察し、シート表面のクラックの有無(発生)を判定し、下記の基準により評価した。評価結果を表5及び表6に併記する。
〇:クラックは発生せず、変化なし。
△:微小なクラックが発生した。
×:クラックが発生した。
【0232】
(2−3)作業性評価試験
上記の湿気硬化性組成物を、アルミ基板上に、ヘラを用いて厚さ2mmで塗布し、塗膜を形成した際の作業性について、下記の基準により評価をした。評価結果を表5及び表6に併記する。
〇:ヘラで容易に塗布でき、得られた塗膜表面が平滑であり、作業性が良好。
△:ヘラで容易に塗布できるが、得られた塗膜表面が平滑でなく、作業性が悪い。
×:ヘラで容易に塗布できなく、得られた塗膜表面も平滑でなく、作業性が非常に悪いと評価した。
【0233】
(2−4)耐熱性評価試験
上記の湿気硬化性組成物を型枠に充填し、23℃、50%RHで6日間、次いで50℃、飽和水蒸気雰囲気下で1日間養生し、厚さ2mmのシート(硬化物)を作製した。そして、そのシート(硬化物)を用いて、長さ20mm、幅20mm、厚さ2mm)の試験片を作製した。この試験片を150℃のオーブンに入れ、24時間後に取り出し、試験片の表面状態を目視により観察し、下記評価基準により評価した。評価結果を表5及び表6に併記する。
○:表面状態は変化なし。
×:表面状態は、クラックが発生し、表面状態が変化していた。
【0234】
(2−5)ブリード性評価試験
上記の湿気硬化性組成物を型枠に充填し、23℃、50%RHで6日間、次いで50℃、飽和水蒸気雰囲気下で1日間養生し、厚さ2mmのシート(硬化物)を作製した。そして、そのシート(硬化物)を用いて、長さ20mm、幅20mm、厚さ2mm)の試験片を作製した。この試験片を23℃、50%RH条件下に30日間放置した後、触手により、液状分のブリードが発生していないか確認し、ブリード性を下記評価基準により評価した。評価結果を表5及び表6に併記する。
○:ブリード無し。
×:ブリード有り。
【0235】
【表5】

【0236】
【表6】

【0237】
表5及び表6の結果より、本発明における触媒を使用して、リビングラジカル重合により得られたビニル系重合体を含有する、実施例1〜7の湿気硬化性組成物から得られる硬化物は、破断強度、破断伸び、耐候性、作業性、耐熱性及びブリード性のいずれにおいても優れていることが分かる。
尚、本発明でのビニル系重合体において、末端変性させることにより分子末端に加水分解性シリル基を有するビニル系重合体は、円滑に加水分解性シリル基を分子末端に導入されており、ほぼ確実に加水分解性シリル基を分子末端に有する重合体である。それにより、このビニル系重合体を含有する本発明の湿気硬化性組成物は、破断強度、破断伸び、耐候性、作業性、耐熱性及びブリード性のいずれにおいても優れる硬化物を得ることができる。
一方、本発明における触媒を使用せずに、リビングラジカル重合により得られたビニル系重合体を含有する湿気硬化性組成物から得られる硬化物において、比較例1では、耐候性、作業性、耐熱性及びブリード性については問題なかったが、破断伸び、及び破断強度と破断伸びとのバランスが劣ることが分かる。また、比較例2では、耐候性も良くなかった。
また、通常のラジカル重合により得られたビニル系重合体を含有する、比較例3〜7の湿気硬化性組成物から得られる硬化物は耐候性が劣り、更に、作業性、耐熱性及びブリード性の劣るものあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基を有するビニル系重合体を含有する湿気硬化性組成物であって、
上記ビニル系重合体は、リン、窒素、炭素、酸素、ゲルマニウム、スズ、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の中心元素と、該中心元素に結合したハロゲン原子と、を含む化合物からなる触媒の存在下で、リビングラジカル重合により製造された重合体であり、
上記ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、2.0未満であることを特徴とする湿気硬化性組成物。
【請求項2】
上記ビニル系重合体が、(メタ)アクリル系重合体である請求項1に記載の湿気硬化性組成物。
【請求項3】
上記ビニル系重合体の数平均分子量が、3000〜50000である請求項1又は2に記載の湿気硬化性組成物。
【請求項4】
上記ビニル系重合体が、上記加水分解性シリル基を該ビニル系重合体の分子末端に有する請求項1乃至3のいずれかに記載の湿気硬化性組成物。
【請求項5】
上記ビニル系重合体は、メタクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(A)及びアクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(B)を含み、該構成単位(A)、及び該構成単位(B)の質量割合が、両者の合計を100質量%としたときに、それぞれ50〜100質量%、及び0〜50質量%である請求項1乃至4のいずれかに記載の湿気硬化性組成物。
【請求項6】
更に、錫化合物からなる硬化触媒を含有する請求項1乃至5のいずれかに記載の湿気硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の湿気硬化性組成物を含有することを特徴とするシーリング材組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の湿気硬化性組成物を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の湿気硬化性組成物を含有することを特徴とする粘着剤組成物。

【公開番号】特開2011−74325(P2011−74325A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229935(P2009−229935)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】