説明

湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置、および湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定方法

【課題】湿潤土壌の酸化還元電位を自動で経時測定することができる測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の土壌の酸化還元電位を測定する測定装置100は、測定用電極1および参照用電極2と、測定用電極1と参照用電極2との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録する測定部10と、測定用電極1と参照用電極2との間に流れる電流を低減する抵抗12と、1回の測定時間が各測定間隔よりも短くなるように測定用電極1と参照用電極2との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで測定用電極1と参照用電極2との間に流れる電流を遮断するスイッチ11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置、および湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化還元電位の測定は、ある系で起こっている化学反応を把握するために有効な方法である。一般的な酸化還元電位の測定では、溶液などの均一系であって、かつ、化学反応が平衡状態になった状態を対象にする。このように、本来は均一系を対象にした測定方法を土壌などの不均一系に適用した場合、測定された酸化還元電位はたとえ正確に測定したものであっても理論的な意味づけが難しいといった主張がある。とはいえ、起こっている化学反応を大まかに推定できるため、系内で進行している化学反応を把握するための有用な方法である。
【0003】
例えば、非特許文献1〜5には、手動により数日間隔で土壌の酸化還元電位を測定することが記載されている。また、非特許文献6には、土壌の酸化還元電位の経時変化を自動測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】加藤、他2名、「水田土壌から放出されるメタンに対する微生物資材の効果」、HortResearch 62: 39-44 (2008)
【非特許文献2】石田、他3名、「水田への米糠及びケナフチップの施用が土壌Ehと田面水の無機成分濃度に及ぼす影響」、日作四国支報(Shikoku J. Crop Sci.)41: 42-43 (2004)
【非特許文献3】野副、他3名、「鉱さい含鉄資材の水田土壌中への添加が土壌のpHおよびEhの変化に及ぼす影響」、日本土壌肥料科学雑誌 74(1): 81-83 (2003)
【非特許文献4】花木、他2名、「土壌型の異なる稲わら施用水田からのメタン放出に対する不耕起栽培の影響」、日本土壌肥料科学雑誌 73(2): 135-143 (2002)
【非特許文献5】Rashid、他1名、「Selenium Chemistry in Amorphous Iron (hydr)oxide-Applied Soil as Influenced by Redox Potential (Eh) and pH」、Soil Sci. Plant Nutr. 48(2), 261-269 (2002)
【非特許文献6】村上、他1名、「水田土壌のEh測定に用いる白金電極の反応」、土壌の物理性 106: 3-10 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来行なっていた土壌の酸化還元電位の測定には、次の問題がある。
【0006】
まず、不均一系である土壌の酸化還元電位が安定するまで測定を継続するため、1回の測定に時間がかかる。また、酸化還元電位を測定するためには、通常、2本の電極を土壌中に挿入するが、長時間の測定では土壌がもつ電位を消耗させてしまい、さらには電極に酸化物質または還元物質などの被膜を生じさせる。よって、実際の農地等の土壌において自動で長時間の経時測定を行なうことは難しい。
【0007】
また、自動計測を行なった特許文献6では、計測値の安定性を把握することを重視して、起電力の消耗を調べておらず、計測によって起電力の消耗が起きなかったか、すなわち適切に計測できたかについて確認できない。さらに、特許文献6では、土壌が存在した原位置ではなく、土壌を採取して乾燥してから屋内で測定している。土壌を乾燥させた場合、土壌の有機物が分解しやすくなり、それを餌とする微生物の活動が活発になるために酸素の消費量が多くなって、土壌の還元が進む。このため、土壌の起電力が強まって、測定による起電力の消耗が顕在化しにくい。したがって、特許文献6の方法は、起電力の消耗を考慮しなくてもよい場合に限られた計測法である。一方、屋外にある湿潤な土壌は、分解されやすい有機物はすでに分解されており、自然にこのような強い乾燥を受けることもないため、土壌還元の進行は乾燥した土壌に比べて穏やかで、土壌の起電力は弱く、測定による起電力の消耗が顕在化しやすい。このため、特許文献6の方法では、起電力の消耗を考慮する必要がある、一般的な湿潤土壌の酸化還元電位を適切に測定できない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、湿潤土壌の酸化還元電位を自動で経時測定することができる測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(1)1回の測定時間を短時間にすること、(2)測定時以外は電極間に流れる電流を完全に遮断すること、および(3)測定時の電流を少なくすることで大きな電位消耗が起きないことを見出し、本発明を開発するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置は、測定用電極および参照用電極と、上記測定用電極と上記参照用電極との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録する測定手段と、上記測定用電極と上記参照用電極との間に流れる電流を低減する抵抗と、1回の測定時間が各測定間隔よりも短くなるように上記測定用電極と上記参照用電極との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで上記測定用電極と上記参照用電極との間に流れる電流を遮断するスイッチとを備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置では、上記スイッチの接続時間は測定間隔の1/1000以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置では、上記スイッチの接続時間は1秒以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置では、上記抵抗が、20Mオーム以上、200Mオーム以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置では、上記スイッチは物理的に接続が遮断されるリレーであることがより好ましい。
【0015】
本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置は、農地の酸化還元電位を測定することがより好ましく、湛水した状態になる水田の酸化還元電位を測定することがさらに好ましい。
【0016】
また、本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定方法は、測定用電極と参照用電極との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録する測定ステップを含み、上記測定ステップでは、1回の測定時間が各測定間隔の1/1000よりも短くなるように上記測定用電極と上記参照用電極との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで上記測定用電極と上記参照用電極との間を遮断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、湿潤土壌の酸化還元電位を自動で経時測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図2】製造例1において作製した測定装置の構成を示す図である。
【図3】電位差の自動測定値と手動測定値とを比較したグラフである。
【図4】リレーを短絡させたときの影響を示すグラフである。
【図5】リレーをFETに切り替えたときの影響を比較したグラフである。
【図6】測定装置を新たに接続したときの影響を示すグラフである。
【図7】抵抗を短絡したときの影響を示すグラフである。
【図8】製造例2において作製した測定装置の構成を示す図である。
【図9】水稲種子を水田に播種した後の酸化還元電位の推移を示すグラフである。
【図10】畑土壌の酸化還元電位の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
〔土壌の酸化還元電位を測定する測定装置〕
図1は、本発明の一実施形態に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定装置100(以下、単に「測定装置100」という)の構成を示す図である。
【0021】
本実施形態に係る測定装置100は、測定用電極1と、参照用電極2と、測定部10(測定手段)と、スイッチ11と、抵抗12とを備えている。測定用電極1は抵抗12およびスイッチ11を介して測定部10の接続端子3に接続されており、参照用電極2は直接接続端子3に接続されている。
【0022】
測定装置100は、土壌の酸化還元電位を測定するための装置である。具体的には、測定用電極1および参照用電極2を測定対象13である土壌中に挿入し、これら電極間の電位差を測定する。本実施形態の測定装置100によれば、(1)1回の測定時間を短時間にし、(2)測定時以外は電極間に流れる電流を完全に遮断して、(3)測定時の電流を少なくすることにより、大きな電位消耗が生じることを防ぐ。よって、湿潤土壌の酸化還元電位を自動で経時測定することができる。
【0023】
測定装置100の測定対象は土壌であれば特に限定されるものではなく、例えば、農地であり、中でも、灌漑によって湛水した状態にする水田、または降雨によって湛水状態になりやすい畑等が挙げられる。屋外(特に、圃場)における酸化還元電位の測定は、待機時間が長いので作業者にとって体力的な負担が極めて大きく、また、局所環境に敏感なために、電極に触れて動かしてしまい、測定に失敗してデータが使用できないことも多い。本実施形態の測定装置100によれば、経時測定が自動でできるために、待機が必要なくなり、体力的な負担が少ない。また、測定のたびに装置に触れる必要がないために、電極を動かすことなく適切な測定値が得られる。
【0024】
測定用電極1としては、特に限定されるものではないが、例えば、白金電極等を用いることができる。また、参照用電極2としては、特に限定されるものではないが、例えば、銀・塩化銀内極式の電極等を用いることができる。
【0025】
測定部10は、図1に示すように、接続端子3、制御部4、操作部7および表示部8を備え、制御部4は演算部5および記録部6を有する構成である。測定部10は、測定用電極1と参照用電極2との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録するようになっている。
【0026】
具体的には、スイッチ11がONのときに、接続端子3が測定した電位差に基づいて測定用電極1と参照用電極2との間の電位差を演算部5が算出する。演算部5が求めた値は記録部6に送られて記録される。また、測定部10には操作部7が具備されており、使用者による操作を受け付けて、例えば、測定時間または測定回数など種々の設定を行なうことができるようになっている。また、表示部8は、例えば、電位差の測定結果および使用者が設定する際の各種項目などを表示する。測定部10としては、特に限定されるものではなく、例えば、市販の電圧ロガー等を用いることができる。
【0027】
測定用電極1と参照用電極2との間の電位差の算出方法としては、例えば、接続端子3の計測負極14と計測正極16との間で測定された電位に基づいて算出する方法が挙げられる。接続端子3に含まれる制御正極15と制御負極17とはスイッチ11のON/OFFを制御しており、制御正極15と制御負極17とが接続するとスイッチ11がONになって計測負極14と計測正極16との間がつながり、通電する。このとき、計測負極14と計測正極16との間に生じる電位差に対して、計測負極14と計測正極16との間の抵抗値に対する回路全体の抵抗値の比を乗じることにより、測定用電極1と参照用電極2との間の電位差が算出される。この値は土壌の酸化還元電位の理論値とみなされる。
【0028】
スイッチ11は、測定用電極1と参照用電極2との間に電流を流したり遮断したりするようになっている。具体的に、スイッチ11は、1回の測定時間が各測定間隔の1/1000よりも短くなるように測定用電極1と参照用電極2との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで測定用電極1と参照用電極2との間に流れる電流を遮断する。
【0029】
本明細書においてスイッチ11による「遮断」では、物理的に回路を切断して電流の流れを遮断することが望ましい。よって、FET(Field Effect Transistor)などの半導体素子によるスイッチの切り替えによって電流の流れを遮断するものではない方が望ましい。そのようなスイッチ11としては、回路を物理的に遮断できる限り特に限定されるものではなく、例えば、電磁リレー、電動式ロータリスイッチ等を用いることができる。
【0030】
抵抗12は、測定用電極1と参照用電極2との間に流れる電流を低減するようになっている。抵抗12としては、特に限定されるものではなく、一般的な抵抗器を用いることができる。抵抗12としては、10Mオーム以上であればよく、20Mオーム以上、200Mオーム以下であることがより好ましく、50Mオーム以上、150Mオーム以下であることがさらに好ましい。抵抗12の値がこの範囲であれば、大きな電位消耗が起きず、土壌の酸化還元電位をより正確に経時測定することができる。
【0031】
なお、本発明に係る測定装置は、図1に示す測定装置100の回路構成に限定されるものではない。すなわち、本発明に係る測定装置では、測定時以外に電極間に流れる電流を遮断できる位置にスイッチが配され、測定時の電流をより少なくするように抵抗が配されている限り、スイッチおよび抵抗の位置は特に限定されるものではない。また、制御正極15、制御負極17、計測負極14および計測正極16に対する回路の接続配置も図1に示すものに限定されない。すなわち、制御正極15および制御負極17がスイッチのON/OFFを制御可能であり、計測負極14および計測正極16がこれらの間に生じる電位差に基づいて土壌の酸化還元電位を求めることが可能な配置である限り、接続の順番、正負の向き等、種々の変更が可能である。
【0032】
〔土壌の酸化還元電位の測定方法〕
本発明に係る土壌の酸化還元電位を測定する測定方法(以下、単に「本発明の測定方法」という)は、測定ステップを含めばよい。
【0033】
測定ステップとは、測定用電極と参照用電極との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録するステップである。つまり、測定ステップでは、自動的に経時測定を行なっている。ここでいう時間間隔とは、測定開始時から次の測定開始時までの時間であり、特に限定されるものではないが、例えば、5分以上であることがより好ましく、1時間以上であることがさらに好ましい。測定間隔がこの範囲であれば、大きな電位消耗が起きず、還元が進みにくい(すなわち、起電力が弱い)土壌においても、酸化還元電位をより正確に経時測定することができる。なお、測定ステップにおいて測定する回数は特に限定されるものではなく、目的および装置の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
また、測定ステップでは、1回の測定時間が各測定間隔の1/1000よりも短くなるように測定用電極と参照用電極との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで上記測定用電極と上記参照用電極との間を遮断すればよい。これにより、大きな電位消耗を防ぎ、土壌の酸化還元電位を自動で経時測定することができる。
【0035】
本発明の測定方法では、測定時間が短時間である。1回の測定時間としては、各測定間隔よりも短い、すなわち測定していない時間があればよいが、1秒以内であることがより好ましい。言い換えると、スイッチ11の接続時間は1秒以内であることがより好ましく、0.5秒以内であることがさらに好ましい。測定時間がこの範囲であれば、電位消耗量を好適に低減させることができる。
【0036】
土壌の酸化還元電位の測定では、従来、値が安定化するまで測定していた。しかし、土壌のような不均一系はそもそも電位が安定しておらず、そのような状況で均一系のように安定化するまで測定するよりも、起電力を消耗させないことが重要である。また、本発明の測定方法では自動経時測定が可能であるために長期的な推移傾向として捉えることができる。よって、個々の瞬間の測定における精度が低かったり、また、測定に失敗したりする問題が生じたとしても、前後の時間に測定した値から推定できるため問題にならない。
【0037】
なお、本発明の測定方法は、上述の測定装置100を用いることにより、好適に酸化還元電位を測定することができる。つまり、測定装置100は、スイッチ11を備えることにより、1回の測定ごとに回路を物理的に遮断して電極間に常に電流が流れないようにしている。また、スイッチ11は回路が接続されるタイミング、すなわち電極間に電流が流れるタイミングを極めて短時間に設定可能である。さらに、測定装置100は抵抗12を備えているため、測定中に電極間に流れる電流を少なくしている。よって、測定装置100では電位消耗をほとんど生じない。このような構成の測定装置100を用いて酸化還元電位を測定することにより、経時測定を問題なく行なうことができる。
【実施例】
【0038】
〔酸化還元電位測定装置の製造例1〕
土壌の酸化還元電位を測定するために、図2に示す装置を作製した。図2は、本実施例において作製した測定装置200の構成を示す図である。まず、測定用電極21として市販の白金電極(EP−201型、藤原製作所製)、参照用電極22として比較電極(イオン電極用比較電極 REF4400−0.65C型、TOA−DKK製)、および測定部20としてロガー(LR5041、インピーダンス約4MΩ、日置電機製:測定手段)を用意した。これらを上述の図1に示す測定装置100のように、リレー27(3V小型リレー、HSIN DA Y14H−1C−3DS:スイッチ)および抵抗28(カーボン抵抗1/4W 5% 10MΩ×10本)と接続して、測定装置200を作製した。
【0039】
製造例1の測定部20は、1回ごとの測定間隔を60分に設定することが可能である。測定部20には、測定前後の約0.5秒間と測定時の約0.5秒間(すなわち、合計約1秒間のみ通電するように設定できる制御正極24および制御負極26がある。また、測定部20には計測負極23および計測正極25があり、制御正極24と制御負極26が接続すると、約3V(単4電池2個を直列)の電圧によってリレー27の電磁石が働き、計測正極25と計測負極23とがつながる。このとき、計測正極25と計測負極23との間の電位差を測定することにより、土壌の酸化還元電位を測定できる。
【0040】
測定装置200では、計測正極25と計測負極23との間に100MΩの抵抗を配置し、計測正極25と計測負極23との間がつながったときにもできるだけ電流が流れないようにした。なお、使用した測定部20のインピーダンスが約4MΩであるため、計測正極25と計測負極23とをつなぐ回路における抵抗の合計は約100MΩ(抵抗)+約4MΩ(ロガー)=約104MΩである。よって、以下の式(1)に示すように、測定部20の計測正極25および計測負極23によって測定される電位差を約26倍(104MΩ/4MΩ)にして測定用電極21と参照用電極22との間の電位差の理論値を算出した。
【0041】
理論値=測定値×104÷4
=測定値×26 ・・・(1)
〔実施例1:湛水土壌に生じる起電力の測定〕
乾土100gに相当する量の水田湿潤土壌(福岡県筑後市の水田にて採取、湿潤の状態で冷蔵保管)を直径約7cmの円筒形容器に採取した。この容器に、150mLの水溶液(乾土100kg/m換算で0.1molK/mとなるように塩化カリウムを溶解)を、土壌が分散しないように添加した。容器にフタをして室温で1時間ほど振盪した後、4℃で2日間静置した。作製した湛水土壌は、土層が約3.5cm、土壌表面上の水層が約1cmであった。
【0042】
この容器の土層に、製造例1にて作製した測定装置200の測定用電極21と参照用電極22とを底まで挿し込み、動かないように容器に固定した。そして、30℃の恒温器内に静置し、測定装置200で測定用電極21と参照用電極22との電位差を60分間隔で自動測定した。これと並行して、土壌用Ehメーター(EHS−120型、藤原製作所製)を用いて、任意の間隔で手動により白金電極と比較電極との電位差を測定した。その結果を図3に示す。
【0043】
図3は、電位差の自動測定値と手動測定値とを比較したグラフである。図3に示すように、製造例1において作製した測定装置200によって参照用電極22に対する測定用電極21の電位を測定し、抵抗の比(26倍)で補正した自動測定値(図3中、「B」で示す実線)は、6日間で約0.1Vから約−0.3Vまで低下した。この自動測定値は、任意の間隔で土壌用Ehメーターにより測定した手動測定値(図3中、「A」で示す丸)とほぼ一致した。
【0044】
なお、経過日数が0.6日の手動測定後の自動測定値が一時低下し、4.0日および4.6日の手動測定後の自動測定値が一時上昇したが、これらは自動測定の直前に手動測定を行なったことが原因と考えられる。つまり、手動測定により土壌の起電力が消耗し(すなわち、電位差が0に近づいた)、土壌の起電力が回復されないまま自動測定を行なったためと推測される。このことから、製造例1で作製した測定装置200は市販の測定器を用いて手動で測定したときよりも土壌の起電力に影響を与えないため、経時測定に適している。
【0045】
〔実施例2:リレーの必要性〕
実施例2では、製造例1で作製した測定装置200に具備されるリレー27の必要性を検討した。検討のため、測定の途中でリレー27を短絡して、土壌の起電力の消耗を調べた。
【0046】
リレー27の短絡処理前後の起電力を把握するため、1台の測定装置200(A)を用いて参照用電極22に対する測定用電極21の電位差を測定し続け、さらにこれら測定用電極21および参照用電極22に別の測定装置200(B)(すなわち、測定用電極21および参照用電極22は(A)の測定装置200のものを利用)を接続するように設計して、測定の途中で短絡処理を行なった。また、処理の影響を顕著に示すため、土壌の起電力が回復しにくいように、2台の測定装置200(AおよびB)の測定間隔を実施例1の60分よりも短い5分にして測定した。
【0047】
リレー27の必要性を検討するため、測定装置200(B)を、リレー27が機能している状態からリレー27がない状態(リレー27の前後を電線により直結、すなわち、「短絡」)に変えて、測定装置200(A)によって土壌の起電力への影響を調べた。その結果を図4に示す。図4は、リレー27を短絡させたときの影響を示すグラフである。
【0048】
図4に示すように、測定装置200(B)のリレー27を短絡すると0.1V以上も電位差が消耗し(図4中、日数「0.0」の時点で短絡)、平衡状態に達した。よって、経時測定にはリレー27が必要であることは明らかである。
【0049】
〔実施例3:半導体素子によるスイッチの検討〕
実施例3では、測定装置200の物理的に回路を遮断するリレー27から半導体素子によるスイッチであるFET(Field Effect Transistor)に変えたときの電位差の変化を調べた。FETとしては、測定に用いる電圧ロガー(LR5041、日置電気製)の制御正極と制御負極との間に存在するものと利用した。具体的には、計測負極23−制御負極26−(FET)−制御正極24−参照用電極22−(土壌)−測定用電極21−100MΩの抵抗28−計測正極25の順で接続した。その結果を図5に示す。図5は、リレー27をFETに切り替えたときの影響を比較したグラフである。
【0050】
図5に示すように、リレー27をFETに切り替えると(図5中、日数「0.0」の時点)、0.002V程度とわずかに電位差が消耗した。このように、わずかではあるが電位差の消耗がみられたことから、経時測定にFETを使用しない方がよいと結論づけた。また、FETは電流の方向に影響を受ける可能性がある。そのため、土壌の起電力の測定では電位差の正負が変わる(例えば、図3のグラフでは約2.5日目に正から負に変化)ことからも、FETを使用しない方がよいと考えられる。
【0051】
〔実施例4:測定装置200が土壌の電位差に与える影響〕
実施例4では、測定装置200が土壌の電位差に与える影響を検討した。この検討は、測定装置200(A)にもう1台の測定装置200(B)を接続したときの土壌の起電力への影響を、測定装置200(A)により測定して調べた。図6は、測定装置200を新たに接続したときの影響を示すグラフである。
【0052】
図6に示すように、2台目の測定装置200(B)を接続しても(図6中、日数「0.0」の時点)土壌の起電力にまったく影響しないという結果が得られた。この結果から、測定装置200を用いれば、電位差の経時測定を好適に行なうことができることが確認された。
【0053】
〔実施例5:抵抗の必要性〕
実施例5では、抵抗の必要性を検討した。そのため、上述のように2台の測定装置200を接続した状態において、測定の途中で測定装置200(B)を抵抗28(100MΩ)のある状態からない状態にして(具体的には、抵抗28の前後を電線で直結して短絡)、測定装置200(A)で測定することにより土壌の起電力への影響を調べた。図7は、抵抗を短絡したときの影響を示すグラフである。
【0054】
図7に示すように、100MΩの抵抗28を短絡すると(図7中、日数「0.0」の時点)、0.01V以上も電位差が消耗した。この結果から、経時測定には100MΩ程度の抵抗が必要であることがわかった。
【0055】
〔酸化還元電位測定装置の製造例2〕
製造例1において作製した測定装置200と測定部および抵抗のみが異なる測定装置300を作製した。図8は、製造例2において作製した測定装置300の構成を示す図である。測定部30としては、電圧ロガー(3645、インピーダンス0.46MΩ、日置電機製)を使用し、抵抗38は50MΩ(カーボン抵抗1/4W 5% 10MΩ×5本)にした。なお、測定時間および測定間隔は製造例1の測定装置200と同じ設定にした。
【0056】
〔実施例6:水田湛水土壌の酸化還元電位の測定〕
製造例2にて作製した測定装置300を用いて、実際の水田土壌の酸化還元電位を測定した。図9は、水稲種子を水田に播種した後の酸化還元電位の推移を示すグラフである。比較電極(イオン電極用比較電極 REF4400−0.65C型、TOA−DKK製)を用いて測定する場合、製造例1の測定装置で得られた電位差に0.206Vを足せば、標準水素電極との電位差である酸化還元電位の値が求められる。
【0057】
水田に水稲種子を播種した時点から、土壌のみ(すなわち、種子近傍でない)、および種子近傍の土壌の酸化還元電位を測定した。理論値は以下の式(2)により求めた。
【0058】
理論値=測定値×50.46÷0.46
=測定値×109.7 ・・・(2)
その結果、図9に示すように、酸化還元電位の推移を把握することができた。起電力の消耗があれば、酸化還元電位が0.206V(実際に計測した電位が0.000Vのときに対応。用いた電極と標準水素電極との補正電位差0.206Vを足した値。)に収束する傾向が現れ、0.206Vを境に傾きが変わるはずであるが(0.206V以上ではより負に傾き、0.206V以下ではより正に傾くはず。)、そのような傾向はみられなかった。よって、使用する抵抗の値は50MΩ程度であっても、起電力の消耗は顕在化せず、問題がないことが確認できた。
【0059】
〔実施例7:畑土壌の酸化還元電位の測定〕
製造例2にて作製した測定装置300を用いて、実施例6と同様に、実際の畑土壌の酸化還元電位を測定した。図10は、大麦畑の土壌の酸化還元電位の推移を示すグラフである。春の雨によって土壌が還元する様子を把握するため、2月上旬から4月下旬までの土壌の酸化還元電位を計測した。理論値は実施例6と同様に式(2)により求めた。
【0060】
その結果、図10に示すように、酸化還元電位の推移(図10中、「E」で示す折れ線)を把握することができた。参考のため、図10に日降雨量を合わせて示した(図10の上部に示す棒グラフ)。降雨のあとに酸化還元電位が低下する様子を把握でき、降雨が土壌還元を進行させることが示唆された。以上から、畑土壌の酸化還元電位を把握するためにも有用であることが示された。
【0061】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、湿潤土壌の酸化還元電位の測定に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 測定用電極
2 参照用電極
10 測定部(測定手段)
11 スイッチ
12 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用電極および参照用電極と、
上記測定用電極と上記参照用電極との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録する測定手段と、
上記測定用電極と上記参照用電極との間に流れる電流を低減する抵抗と、
1回の測定時間が各測定間隔よりも短くなるように上記測定用電極と上記参照用電極との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで上記測定用電極と上記参照用電極との間に流れる電流を遮断するスイッチとを備える、湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置。
【請求項2】
上記スイッチの接続時間は、上記測定間隔の1/1000以下である、請求項1に記載の湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置。
【請求項3】
上記スイッチの接続時間は1秒以下である、請求項1または2に記載の湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置。
【請求項4】
上記抵抗が、20Mオーム以上、200Mオーム以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置。
【請求項5】
上記スイッチは物理的に接続が遮断されるリレーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置。
【請求項6】
上記湿潤土壌が農地である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の土壌の酸化還元電位を測定するための測定装置。
【請求項7】
測定用電極と参照用電極との間の電位差を時間間隔をあけて複数回測定し、記録する測定ステップを含み、
上記測定ステップでは、1回の測定時間が各測定間隔の1/1000よりも短くなるように上記測定用電極と上記参照用電極との間を接続し、1回の測定が終了する毎に次の測定開始まで上記測定用電極と上記参照用電極との間を遮断する、湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−237730(P2012−237730A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108609(P2011−108609)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)