説明

湿潤紙力増強紙の離解方法

【課題】湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙を機械的処理だけで離解して、未離解物を含まない製紙用原料に適したパルプとして回収することは非常に困難であり、回収コストも高くなる。さらにこれらの薬剤が多量に使用されるため、排水に溶け込んで環境汚染の問題を引き起こすなどの新たな問題も生じている。本発明は、湿潤紙力増強剤が用いられた湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙の離解を容易にし、製紙用原料としての再利用を促進するための効率的な離解方法を提供するものである。
【解決手段】湿潤紙力増強剤を用いた湿潤紙力増強紙を酵素溶液で酵素処理した後、当該湿潤紙力増強剤に対応した酸化剤、酸、アルカリ剤及び離解促進剤からなる群より選ばれる薬剤を使用して離解処理を行うことを特徴とする湿潤紙力増強紙の離解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿潤紙力増強紙の離解方法に関するものである。更に詳しくはポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂などの湿潤紙力増強剤が添加された湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙を製紙用原料として再利用するための離解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源、省エネルギー、公害防止の立場から古紙の再利用は増加の一途をたどり、ますます再利用が促進される状況にある。しかし、種々の古紙用原料の中で湿潤紙力増強紙は離解が容易ではないため、その利用を進める際の障害となる。
【0003】
一般に使用されている湿潤紙力増強剤としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、尿素−ホルマリン樹脂等があり、これらの湿潤紙力増強剤により湿潤紙力が高められた湿潤紙力増強紙は、損紙あるいは古紙の回収・再生時に水で損紙や古紙を解きほぐし、パルプスラリーにする離解を著しく困難にしている。
【0004】
従来、損紙あるいは古紙の回収再生では、主に機械的処理が行われ、その機械的処理の促進に加熱処理を行ったり、スルファミン酸、塩酸、硫酸、リン酸、硫酸アルミニウムなどの無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ剤やタンパク分解酵素との併用(特許文献1)、セルラーゼやペクチナーゼを使用した脱墨処理や離解処理(特許文献2)が行われてきた。しかし、湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙の回収再生では、これらの処理方法では十分な効果が得られなく、離解処理の促進に次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素などの酸化剤の使用した方法が提案されている(特許文献3)。さらにセルラーゼを用いる方法(特許文献4)、セルラーゼ、又は、セルラーゼとその他の多糖類分解酵素と、酸化剤、アルカリ剤、界面活性剤を配合した離解促進剤又はこれらの薬剤類を適宜組合せて使用する方法(特許文献5)等の方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−2895号公報
【特許文献2】特開平3−882号公報
【特許文献3】特開昭59−21790号公報
【特許文献4】特開平5−279977号公報
【特許文献5】特開平6−41886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙を機械的処理だけで離解することは、未離解物を含まない製紙用原料に適したパルプとして回収することは非常に困難であり、回収コストも高くなる。また、加熱処理又は薬剤を機械的処理と併用して離解する方法も離解促進効果の点ではまだ十分満足しうるものではない。さらにこれらの薬剤が多量に使用されるため、排水に溶け込んで環境汚染の問題を引き起こすなどの新たな問題も生じている。本発明は、湿潤紙力増強剤が添加された湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙の離解を容易にし、製紙用原料としての再利用を促進するための効率的な離解方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく、湿潤紙力増強紙の損紙および古紙を容易に離解する方法について鋭意検討を重ねた結果、パルパー等で離解処理を行う前に湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙にエステラーゼを含む酵素を添加して酵素処理を行い、その後、当該湿潤紙力増強紙に用いられている湿潤紙力増強剤に応じて特定の薬剤を使用して離解処理を行うことによって湿潤紙力増強紙の離解が促進されることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂及びカチオン変性ジアルデヒドスターチの1種以上を含有する湿潤紙力増強剤を用いた湿潤紙力増強紙である場合には、該湿潤紙力増強紙をエステラーゼを含む酵素で酵素処理した後、該湿潤紙力増強剤に対応した特定の酸化剤、アルカリ剤及び離解促進剤からなる群より選ばれる1種以上を使用して離解処理を行うことを特徴とする湿潤紙力増強紙の離解方法であり、メラミン−ホルマリン樹脂及び/又は尿素−ホルマリン樹脂を含有する湿潤紙力増強剤を用いた湿潤紙力増強紙の場合には、該湿潤紙力増強紙を、エステラーゼを含む酵素で酵素処理した後、該湿潤紙力増強剤に対応した特定の酸を使用して離解処理を行うことを特徴とする湿潤紙力増強紙の離解方法である。また、湿潤紙力増強紙をエステラーゼと共にセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素で処理し、該湿潤紙力増強剤に対応した特定の酸化剤、アルカリ剤及び離解促進剤からなる群より選ばれる1種以上あるいは特定の酸を使用して離解処理を行うことを特徴とする湿潤紙力増強紙の離解方法である。
【0009】
本発明で湿潤紙力増強剤として用いられるポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂は、ジカルボン酸(例えばアジピン酸)と多価アミン(例えばジエチレントリアミン)との縮合体にエピクロルヒドリンを付加反応させ、一部を架橋させた重合体である。ジカルボン酸と多価アミンとエピクロルヒドリンとの比率は湿潤紙力増強効果が得られれば、特に限定されるものではないが、通常、ジカルボン酸と多価アミンはモル比で0.8:1〜1:0.8、エピクロルヒドリンはジカルボン酸と多価アミンの縮合物中の2級アミン基に対してモル比で0.01〜0.2の比率で用いられる。分子量は、要求される湿潤紙力増強効果が得られれば、特に限定されるものではないが、通常、2,000〜500,000である。具体的にはアジピン酸とジエチレントリアミン、エピクロルヒドリンとの反応物がよく知られており、市販の湿潤紙力増強剤としては「カイメン557H」(商品名、日本PMC(株)製)が知られている。ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂を含む湿潤紙力増強剤は、通常、酸性からアルカリ性の広い範囲で使用されている。
【0010】
本発明で湿潤紙力増強剤として用いられるポリアミンエピクロルヒドリン樹脂は、多価アミンとエピクロルヒドリンを付加反応させ、一部を架橋させた重合体である。多価アミンとエピクロルヒドリンとの比率は湿潤紙力増強効果が得られれば、特に限定されるものではないが、通常、多価アミンとエピクロルヒドリンはモル比で1:0.2〜1:1.5の範囲で反応させて得られる。分子量は、要求される湿潤紙力増強効果が得られれば、特に限定されるものではないが、通常、2,000〜500,000である。具体的には、ジエチレントリアミンとエピクロルヒドリンの反応物、ポリエチレンイミンとエピクロルヒドリンの反応物、ポリビニルアミンとエピクロルヒドリンの反応物が知られている。この湿潤紙力増強剤は、通常、酸性からアルカリ性の広い範囲で使用されている。
【0011】
本発明で湿潤紙力増強剤として用いられるカチオン変性ジアルデヒドスターチは、デンプンを過ヨウ素酸で酸化して得られた変性デンプンを更に、トリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、エピハロヒドリン等でカチオン変性したジアルデヒドスターチである。この湿潤紙力増強剤は、通常、弱酸性から弱アルカリ性の範囲で使用されている。
【0012】
本発明で湿潤紙力増強剤として用いられるメラミン−ホルマリン樹脂及び/又は尿素−ホルマリン樹脂は、それぞれメラミンとホルムアルデヒドの付加縮合物((トリ)メチロールメラミン)、尿素とホルムアルデヒドの付加縮合物((ジ)メチロール尿素)の縮合物(縮合度10〜30)である。パルプへの定着を改善するために水溶性アミン(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)でカチオン変性したものの用いられている。この湿潤紙力増強剤は、通常、酸性領域で使用される。
【0013】
本発明で用いられるエステラーゼは、エステル結合を分解する酵素であり、比較的短鎖の低級脂肪酸エステルを分解する非特異的エステラーゼのリパーゼやフェルラ酸エステラーゼ等、比較的長鎖の高級脂肪酸エステルを分解する特異的エステラーゼのリパーゼ、コリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ等がある。中でも低級脂肪酸エステルを分解するリパーゼ、フェルラ酸エステラーゼ等が好ましい。具体的なエステラーゼとして、リパーゼにはリパーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、リパーゼ(商品名、ナガセケムテック(株)製)等があり、フェルラ酸エステラーゼにはフェルラ酸エステラーゼ(試薬)、ペクチナーゼPL「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製:ペクチナーゼPL「アマノ」にフェルラ酸エステラーゼが含まれることは平成19年9月30日付け大阪府立大学、修士論文「桂皮酸類の水溶性エステル誘導体の酵素合成法に関する研究」に記載されている)等がある。これらのエステラーゼの1種又は1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
また、好ましくはエステラーゼとセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素が用いられる。エステラーゼとセルラーゼ及びヘミセルラーゼの併用により、予想外にも高い離解促進効果が得られる。本発明の離解促進効果において、エステラーゼとセルラーゼ及びヘミセルラーゼの比率は特に限定されるものではないが、重量比で「エステラーゼ」:「セルラーゼ及びヘミセルラーゼの合計量」=5:1〜1:5が目安となる。また、セルラーゼとヘミセルラーゼの比率も同様に「セルラーゼ」:「ヘミセルラーゼ」=5:1〜1:5が目安となる。具体的なセルラーゼとしては、明治セルラーゼTP(商品名、明治製菓(株)製)、セルライザー(商品名、ナガセケムテック(株)製)、セルクラスト(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)、セルザイム(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)、セルラーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、セルラーゼT「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、ヘミセルラーゼとしてはヘミセルラーゼ「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、パルプザイムHC(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)(ヘミセルラーゼの1種であるキシラナーゼ)等がある。さらにセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素として、スミチームAC(商品名、新日本化学工業(株)製)、スミチームC(商品名、新日本化学工業(株)製)、ハクファイナーBR−100(商品名、伯東株式会社製)、ハクファイナーBR−300(伯東株式会社製)などが挙げられる。中でもクリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ27K(寄託番号VKMF−3500D)の分離培養物から得られる酵素組成物は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ及びフェルラ酸エステラーゼを含み、高い離解促進効果があり、好ましい。エステラーゼとこれらのセルラーゼ、ヘミセルラーゼのそれぞれの1種以上との組み合わせ、あるいは、エステラーゼと、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素のそれぞれの1種以上を組み合わせて用いてもよい。その他にペクチナーゼ、プロテアーゼなどのセルロースの繊維成分やエステル以外を分解しうる酵素を含んでいてもよい。本発明の方法に用いる酵素は、入手の経路及び酵素の安定性を考慮して、粉体の形態で入手されるもの、あるいは溶液の形態で入手されるもののいずれの形態で入手されるものでよく、特に限定されるわけではない。
【0015】
本発明における酵素処理では、粉体の形態の酵素を水で希釈して酵素溶液として使用し、また、液体の形態の酵素ではそのままで使用する、あるいは水で希釈して酵素溶液として使用することが好ましい。酵素溶液による酵素処理は、離解を行うパルパー等の離解処理工程又は離解薬剤を使用する離解処理工程の前の工程に酵素溶液を添加して行うことが好ましい。本発明は、酵素組成物を添加することにより発明の効果が発揮されるものであり、その添加量を一律に決することはできないが、通常、酵素固形分として絶乾損紙又は古紙重量当り0.005〜2%、好ましくは0.02〜1%を目安にする。一般に酵素の添加量が多いほど反応速度も大きくなることが知られており、2重量%以上の酵素を添加しても酵素添加量に見合うだけの離解促進効果の向上が無く、コスト的に不利になる。
【0016】
本発明における酵素溶液は、酵素処理工程後の濃縮工程でろ液として回収し、ろ液を前記酵素処理工程に返送することにより再使用される。また、酵素処理液の再利用については、再使用する際に回収でロスした分だけ新たに酵素処理液を添加すればよい。そのため、本発明の方法は離解促進剤等の薬剤の使用量を従来法より大巾に削減でき、また酵素溶液も再使用できることから、水質汚染等の環境汚染の心配も少なく容易に離解が行え、更に省エネルギー化及び薬品、排水処理のコストダウンが得られる等のメリットがある。
【0017】
酵素溶液を添加する場合のパルパー等における湿潤紙力増強紙の損紙又は古紙は水中に分散されており、そのパルプ濃度は、特に限定されるものではないが、通常1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%である。酵素処理時の温度とpHは、用いる酵素が失活しない範囲で、当該酵素の至適温度、至適pHに調整することが望ましい。一般に酵素処理液の温度は20〜70℃、好ましくは40〜60℃、pHは3.0〜8.0、好ましくは4.0〜6.5である。
【0018】
酵素処理時間は、用いる酵素、対象とする湿潤紙力増強紙の種類及び使用されている湿潤紙力増強剤の種類、酵素処理液のpH等により、一律に決することはできないが、通常、0.5〜10時間である。
【0019】
本発明でポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂及び/又はポリアミンエピクロルヒドリン樹脂を含有する湿潤紙力増強紙の離解処理の場合に用いられる酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が挙げられ、その1種以上が使用できる。これらのうち、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムである。また、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、これらの1種以上が用いられる。中でも好ましくは水酸化ナトリウムである。さらに離解促進剤としては、前記酸化剤とアルカリ剤を適宜組合せたもの、あるいは非イオン界面活性剤(例えばポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤等)を配合したものが使用される。例えば、市販の離解促進剤としては、ハクエースPR−80(伯東株式会社製)等が挙げられる。これらの薬剤は単独で使用してもよいが、加熱処理を併用することにより、離解性は更に促進される。
【0020】
これらの酸化剤、酸、アルカリ剤、離解促進剤による離解条件は、特に制限するものではなく、酸化剤あるいは離解促進剤の添加量は、湿潤紙力増強紙の持つ湿潤強度の程度により適宜選択されるが、好ましくは酸化剤の添加量は有効塩素含有量として絶乾損紙あるいは古紙重量当たり0.01〜10重量%、離解促進剤の添加量は絶乾損紙あるいは古紙重量当たり0.01〜10重量%である。アルカリ剤を使用する場合は離解液のpHで管理するが、好ましくはpHが10〜14の範囲に調整する。
【0021】
メラミン−ホルマリン樹脂、尿素−ホルマリン樹脂を含有する湿潤紙力増強紙の場合に用いられる酸としては、塩酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硫酸アルミニウムなどが挙げられ、これらの1種以上が用いられる。中でも好ましくは硫酸である。酸を使用する場合は離解液のpHで管理するが、好ましくはpHが1〜4の範囲に調整する。これらの薬剤は単独で使用してもよいが、加熱処理を併用することにより、離解性は更に促進される。
【発明の効果】
【0022】
本発明方法で湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙を離解することにより、従来用いられていた薬剤を用いた場合に対比して、湿潤紙力増強紙の離解が効率よく容易に行われ、酸化剤として用いる塩素系物質等の使用量の大幅削減、離解処理時間の大幅な短縮及び回収再生パルプによる水質汚染等の環境汚染の低減を得ることができる。また、本発明の方法により省エネルギー化、薬品や排水処理のコストダウンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤(商品名、カイメン557H、星光PMC株式会社製)を含む中芯原紙を用いて、酵素処理及びアルカリ剤による離解処理を行った。
(1)酵素反応
300mlビーカーに0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlを入れ40℃に加温し、これに幅13mm、長さ40mmに裁断した中芯原紙の紙片6gを浸せきし、1時間静置して酵素処理を行った後、紙片を取り出した。
(2)離解処理
0.02%NaOH水溶液(pH=11.5)200mlを容量250mlの小型ミキサーに入れ、取り出した紙片を入れ、30秒間ミキシングした。
(3)離解性の評価
離解したパルプスラリーを用いて、JISP8222−1998に従って手すき紙を作成し、JISP8112−1994に従って比破裂強度を測定した。離解が十分なほど、比破裂強度は高くなる。その結果を表1に示した。
【0025】
(実施例2)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液12mlと純水138mlを加えて離解を行った。
(実施例3)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.1%リパーゼA「アマノ」水溶液48mlと純水102mlを加えて離解を行った。
(実施例4)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.1%リパーゼA「アマノ」水溶液60mlと純水90mlを加えて離解を行った。
(実施例5)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.1%リパーゼA「アマノ」水溶液120mlと純水30mlを加えて離解を行った。
【0026】
(実施例6)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.01%フェルラ酸エステラーゼ水溶液3mlと純水147mlを加えて離解を行った。
【0027】
(実施例7)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液6ml、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15ml、0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液15mlと純水114mlを加えて離解した。
(実施例8)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液30ml、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液3ml、0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液3mlと純水114mlを加えて離解した。
(実施例9)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液18ml、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液3ml、0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液15mlと純水114mlを加えて離解した。
(実施例10)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液18ml、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15ml、0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液3mlと純水114mlを加えて離解した。
【0028】
(実施例11)
実施例2において、0.02%NaOH水溶液200mlに代えて、0.02%NaOH水溶液200ml及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体のプルロニックL−61(商品名、アデカ(株)製)0.04gを加えて離解を行った。
【0029】
(実施例12)
実施例2において、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤に代えてポリアミンエピクロルヒドリン樹脂(ジエチレントリアミン−エピクロルヒドリン縮重合体)系湿潤紙力増強剤を用い、その他は同様の条件で離解を行った。
【0030】
(実施例13)
実施例12において、0.02%のNaOH水溶液200mlに代えて0.02%のNaOCl水溶液200mlを用い、その他は同様の条件で離解を行った。
【0031】
(実施例14)
実施例2において、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤に代えてメラミン−ホルマリン樹脂系湿潤紙力剤を用い、また、0.02%のNaOH水溶液200mlに代えて0.02%の硫酸水溶液200mlを用い、その他は同様の条件で離解を行った。
【0032】
(実施例15)
実施例2において、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤に代えて尿素−ホルマリン樹脂系湿潤紙力剤を用い、また、0.02%のNaOH水溶液200mlに代えて0.02%の硫酸水溶液200mlを用い、その他は同様の条件で離解を行った。
【0033】
(比較例1)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて純水:150mlとして離解を行った。
【0034】
(比較例2)
比較例1において、純水:150mlに代えて0.02%NaOH水溶液150mlを加え、pH=11.5の離解液として、離解を行った。
【0035】
(比較例3)
実施例1において、0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液3mlと純水147mlに代えて、0.1%セルラーゼA「アマノ」水溶液60ml及び0.1%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液60mlを加え、離解を行った。
【0036】
(比較例4)
比較例3において、0.02%NaOH水溶液200mlに代えて、0.02%NaOH水溶液200ml及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体のプルロニックL−61(商品名、アデカ(株)製)0.04gを加えて離解を行った。
【0037】
(比較例5)
比較例3において、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤に代えてポリアミンエピクロルヒドリン樹脂(ジエチレントリアミン−エピクロルヒドリン縮重合体)系湿潤紙力増強剤を用いて、その他は同様の条件で離解を行った。
【0038】
(比較例6)
比較例3において、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤に代えてメラミン−ホルマリン樹脂系湿潤紙力剤を用い、また、0.02%のNaOH水溶液200mlに代えて0.02%の硫酸水溶液200mlを用い、その他は同様の条件で離解を行った。
【0039】
(比較例7)
比較例3において、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂系湿潤紙力増強剤に代えて尿素−ホルマリン樹脂系湿潤紙力剤を用い、また、0.02%のNaOH水溶液200mlに代えて0.02%の硫酸水溶液200mlを用い、その他は同様の条件で離解を行った。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の実施例1〜実施例5、実施例11〜15の手抄きシートの比破裂強度は、比較例1〜7の手抄きシートの比破裂強度と比べて、8.8%〜40.8%の強度向上を示し、エステラーゼによる湿潤紙力増強紙の離解促進効果を示している。また、実施例7〜実施例10と実施例3の手抄きシートの比破裂強度の比較より、エステラーゼとセルラーゼ及びヘミセルラーゼの併用は、エステラーゼ単独よりも高い湿潤紙力増強紙の離解促進効果を示している。以上のように本発明のエステラーゼを含む酵素処理と、酸化剤、アルカリ剤、離解促進剤のいずれか1種以上との処理を併用して行うことにより湿潤紙力増強紙の離解を促進することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂などの湿潤紙力増強剤が添加された湿潤紙力増強紙の損紙あるいは古紙を製紙用原料を容易に離解し、回収、再利用を促進するために有益である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂及びカチオン変性ジアルデヒドスターチの1種以上を含有する湿潤紙力増強剤を用いた湿潤紙力増強紙を、エステラーゼを含む酵素で処理した後、酸化剤、アルカリ剤及び離解促進剤からなる群より選ばれる1種以上を使用して離解処理を行うことを特徴とする湿潤紙力増強紙の離解方法。
【請求項2】
メラミン−ホルマリン樹脂及び/又は尿素−ホルマリン樹脂を含有する湿潤紙力増強剤を用いた湿潤紙力増強紙を、エステラーゼを含む酵素で処理した後、酸を使用して離解処理を行うことを特徴とする湿潤紙力増強紙の離解方法。
【請求項3】
酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ及びエステラーゼを含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の湿潤紙力増強紙の離解方法。
【請求項4】
エステラーゼが、リパーゼ及び/又はフェルラ酸エステラーゼである請求項1乃至3のいずれかに記載の湿潤紙力増強紙の離解方法。
【請求項5】
酵素が、クリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ27K(寄託番号VKMF−3500D)の分離培養物を含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の湿潤紙力増強紙の離解方法。



【公開番号】特開2010−236098(P2010−236098A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81733(P2009−81733)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】