説明

準周期信号を高分解能で抽出する方法及びシステム

【課題】信号対雑音比が高く、時間分解能が低い光プレチスモグラムと、信号対雑音比が低く、時間分解能が高い心音図を使用して、高分解能の準周期信号を得る。
【解決手段】不充分な時間的局在化(temporal localization)を呈する信号特徴を含む高い信号対雑音比を持つ準周期信号を処理して、波形時間基準点を特定し、また、それらの波形時間基準点を使用して、低い信号対雑音比を持つ第2の関連する準周期信号において高い時間的局在化を持つ信号特徴の代表的な波形を抽出する時間基準点を与える。その結果得られる代表的な波形は、上記第2の関連する準周期信号に含まれる時間的詳細を保持しながら、信号対雑音比が大幅に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年10月26日に出願されたカナダ特許出願第2,524,507号の利益を主張している。
【0002】
本発明は、信号を得ることに関し、特に、本発明は、高分解能の準周期信号を得ることに関する。
【背景技術】
【0003】
信号対雑音比が高いが、時間分解能が低い準周期信号は、信号対雑音比が低いが、時間分解能が高い関連する信号と同時に存在することがある。この信号の準周期的な性質は、従来の相関及びスペクトル推定技法を容易に適用できないことを意味している。このような例の1つは、心音図と、それに関連するプレチスモグラムである。正確で、高分解能の心音図を得ることは、動きアーチファクト、呼吸、外部雑音、咳、振幅の大きい他の一時的な外乱のために、困難である。様々な雑音源が、心音図に対して、低い信号対雑音比の原因となっている。また一方では、プレチスモグラムは、高い信号対雑音比を提供するが、時間分解能の低い心拍波形を提供する。
【0004】
心臓機能や心臓イメージングに関する研究、さらには他の医学研究が、心臓周期における時間基準点を特定することを必要とする。心臓研究と心臓イメージングの双方における該当分野は、心臓の信号と画像を、高い時間分解能で処理することを求めている。これらの信号や画像を高分解能で得て、かつ記録することができれば、研究者や臨床医は、ノイズから信号を抽出する最新式の技法を利用して、心臓が健康である指標として、これらの信号の微細構造を調べることができる。
【0005】
もっとも頻繁に使用される基準点は、EKGで示されるR波のピークである。しかしながら、EKG(心電図)は、心臓の機械的活動の記録ではなくて、心臓の電気的刺激の記録である。心雑音や他の心音を理解するの利用されるのは機械的活動であることが多い。R波の使用により、R波のピークと、心臓の機械的応答との間には一定の関係があると想定される。さらに、EKGを利用するには、複数の電線(ワイヤ)を要する人体への電気接続も必要となり、その結果、複雑さと準備時間が増す。
【0006】
それゆえ、心臓の機械的活動に対する時間基準点の方が望ましい。
【0007】
しかしながら、今までのところ、電気信号、圧力信号、音響信号を含む(ただし、それらには限定されない)準周期信号を高分解能で検出し、処理し、復元するのに充分な分解能と精度で、時間基準点を特定する堅牢なやり方はなかった。
【0008】
例えば、解析のためにも、臨床医のトレーニングのためにも、心音図から心音情報を抽出することができる。1つには、これは、心音図信号を得るのに用いられる心音計器が、患者の胸部にマイクを固定するように臨床医に求めるだけという長所があるからであり、また、1つには、他の手段では容易に入手できない情報を、この心音図信号が臨床医に提供するからである。
【0009】
しかしながら、動きアーチファクト、咳、呼吸、過度の体脂肪、心音計マイクの位置の変動、バックグラウンド・ノイズのために、模範的な心音図の解析がしばしば困難である。臨床医が聞きたいと思っている音は、振幅が非常に小さいものであり、また、識別するのが難しいこともある。これらの音は、治療と取扱いに影響を及ぼす重大な心臓状態の指標であることもある。言い換えれば、上記心音図信号は、信号対雑音比が低くなりがちである。
【0010】
先に説明されたように、心音計信号解析の問題は、信号対雑音比が低いが、時間分解能が高い関連する信号と同時に存在する、信号対雑音比が低いが、時間分解能が高い準周期信号の解析や復元の際に直面することになる問題の一例である。
【0011】
それゆえ、準周期信号の解析、例えば、心音の解析は、アーチファクトを実際の信号と区別する手段を必要とする。これは、多くの場合に、いわゆる「ボックスカー積分」を通じて、多数の心音をまとめて平均することで達成される。心拍間の相違が雑音によるものであるという仮定のもとに、この技法は、多くの心拍において、該当する地点をまとめて平均し、それにより、基本型(プロトタイプ)心拍を構築する。それぞれの心拍に対する時間基準点が、高精度でセットされなければならないから、周期信号には、ボックスカー積分がうまくいく。心拍の準周期性は、その時間基準点をセットすることが困難である。標準の相関技法を用いると、この信号中の高周波数情報が失われる。スペクトル推定に基づく技法も適さない。
【0012】
心音図などの準周期信号を得て、解釈しようとする試みがいくつかなされてきた。
【0013】
特許文献1は、100Hz〜600Hzにある心音図の一部を記録して、解析することで、心臓音響信号から情報を抽出して、冠動脈疾患を特定する方法及び装置を記載している。PCGデータの拡張期窓(diastolic window)の正確な位置を示すために、心電図を記録して、調べる。このようなデータ窓は、自己相関解析とスペクトル解析を受け、それにより、偏相関係数の指数とパワー密度の指数が得られる。
【0014】
特許文献2は、閉塞冠動脈中の血流の乱れに関係する低レベルの聴覚成分を特定するために、拡張期心音を解析する方法を記載している。このような聴覚成分の存在が、高雑音条件のもとで確実に示されるように、上記拡張期心音をモデル化する。「窓」配置技法を通じて、心音記録の拡張期区分を自動的に識別して、切り離す方法も記載されている。
【0015】
特許文献3は、心臓の運動を非侵襲的(非観血的)に監視して、冠動脈疾患を示す心臓の運動の虚血誘発変化を検出して、表示する方法及び装置を記載している。
【0016】
特許文献4は、心臓性能パラメータ(heart performance parameter)、特に虚血性心疾患の陽性・陰性診断に対して、「数値」を生み出す震動性心拍記録波形(seismocardiographic waveform)のコンピュータベースの自動化を記載している。
【0017】
特許文献5は、ニューラルネットワークを用いて、心臓音響信号から特徴を抽出する方法を教示している。ウェーブレットを分解して、時間・周波数情報を抽出し、また、その抽出された時間・周波数情報に施されるニューラルネットワークを用いて、基本心音を識別する。
【0018】
特許文献6は、心臓信号を感知する検出回路と、感知された心臓信号の或るモルフォロジカル・コンテキストを利用することで、心拍を検出する検出プロセッサとを有する心臓律動管理システムを教示している。
【0019】
しかしながら、従来技術の方法及びシステムは、2つの関連する準周期信号、すなわち、信号対雑音比が高く、時間分解能が低いという特徴のある準周期信号と、信号対雑音比が低く、時間分解能が高いという特徴のある準周期信号を使用して、高分解能の準周期信号を得るか、あるいは、高分解能の準周期信号中の時間基準点を特定する方法については教示していない。
【0020】
【特許文献1】Duff氏らによる米国特許第4,905,706号明細書
【特許文献2】Semmlow氏らによる米国特許第5,109,863号明細書
【特許文献3】Zanetti氏らによる米国特許第5,159,932号明細書
【特許文献4】Schlager氏らによる米国特許第6,024,705号明細書
【特許文献5】Watrous氏らによる米国特許第6,572,560号明細書
【特許文献6】Sweeney氏による米国特許第6,950,702号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
それゆえ、新規な方法及びシステムは、利用可能な信号解析法を使用可能とするために、心拍上で同一時点を示す時間基準点を、準周期信号中に見つけ出すことが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、帯域幅が小さいために、信号対雑音比が高いが、時間分解能が低いという特徴のある第1の準周期信号、例えば、光プレチスモグラムを使用し、かつ、信号対雑音比が低いが、時間分解能が高いという特徴のある第2の準周期信号、例えば、心音図を得る第2のセンサであって、時間分解能の高い準周期信号を形成する信号イベント、例えば、この心拍周期の心音イベント、と同一の関係にある上記準周期信号中の一組の一貫したトリガ点を、共同で決定できるようにする2つのセンサを使用している。
【0023】
本発明は、心音に跨がる時間領域を特定する第2の準周期信号の特徴を検出する。次に、この時間領域を解析して、高分解能で、一貫した時間的トリガ点を見つけ出す。
【0024】
本発明の一実施態様は、準周期信号中の複数の時間基準点を決定する方法であって、低い時間分解能と高い信号対雑音比とを持つ第1の準周期信号を得るステップ、上記第1の準周期信号と関係があって、かつ、高い時間分解能と低い信号対雑音比とを持つ第2の準周期信号を得るステップと、上記第1の準周期信号のもっとも共通の周波数成分を決定することで、上記第1の準周期信号の公称間隔を決定するステップ、上記第1の準周期信号の上記公称間隔と勾配交差(slope crossings)を用いて、上記第1の準周期信号に対して形状フィルタ(shape filter)を構築し、提供するステップ、上記第1の準周期信号に対してテンプレートを形成するステップ、上記テンプレートを上記第1の準周期信号と比較することで、上記第1の準周期信号の時間基準点を特定するステップ、上記時間基準点を用いて、第2の準周期信号に対して包絡線を提供するステップ、上記包絡線内で、上記第2の準周期信号の基準点を推定するステップ、上記第2の準周期信号に対して第2のテンプレートを形成するステップ、上記基準点の周りで、上記第2のテンプレートを上記第2の準周期信号と相互相関させて、最大相関ピークを得るステップ、上記基準点を、上記最大相関ピークの時間にセットするステップを含む方法が提供される。
【0025】
添付図面を参照することで、本発明、及び例示される実施形態がより良く理解され、また、本発明、及び例示される実施形態の多数の目的、利点、特徴が当業者には明らかになろう。これらの図面において、本発明の限定的でなく、すべてを尽くしていない実施形態の様々な見方を通して、同じ参照番号は同じ部分をさす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明を実施するために本発明者が予想する最良の態様を含め、本発明のいくつかの特定の実施形態を詳しく参照する。これらの特定の実施形態の例は、添付図面に示されている。本発明は、これらの特定の実施形態といっしょに述べられているが、本発明を、これらの述べられた実施形態に限定するつもりはない。それどころか、併記の特許請求の範囲で定義される本発明の精神と範囲内に含めることのできる代替例、変更例、等価例をカバーするつもりである。以下の説明では、本発明を充分理解するために、多数の具体的な詳細が記述されている。本発明は、これらの具体的な詳細の一部又は全部がなくても、実施できる。他の場合には、本発明をいたずらにわかりにくくしないように、良く知られている処理作業は詳述されていない。
【0027】
本明細書の全体にわたって、「一実施形態」又は「ある実施形態」を参照することは、その実施形態に関連して述べられた特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味している。したがって、本明細書の全体にわたって様々な場所に記載されている「一実施形態、ある実施形態では」のフレーズはすべて、必ずしも同一の実施形態を意味するとは限らない。さらに、これらの特定の特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態の中に、適切な任意のやり方で組み合わされることがある。
【0028】
本明細書及び併記の特許請求の範囲では、「a」、「an」、「the」という単数形は、特にその前後関係が明確に指定しない限り、複数の参照用語を含む。特に定義しない限り、本明細書で使用されているすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野における通常の熟練者に普通に理解されるものと同一の意味を持っている。
【0029】
「準周期信号」という語は、信号部分、雑音とアーチファクトで汚染された信号部分、様々な長さと数値を持つ信号部分を表す順序である信号を表している。
【0030】
「トリガ点」という語は、この準周期信号の代表的な部分に対して、任意であるが、ただし同一の関係を持っている時間基準点を含めている。
【0031】
「高い時間分解能」という語は、この信号を、非常に短い時間範囲内に時間的に局在化できることを意味している。このような信号は、信号が所与の任意のしきい値を越える時間を正確にかつ明確に決定できるように、高勾配の振幅(high slope magnitude)を持つことがある。「低い時間分解能」という語は、この信号を、短い時間範囲内に時間的に局在化することはできないが、もっと適切に言えば、この信号がいつ上記しきい値を越えるかに関して、かなり不確かであることを意味している。
【0032】
本発明は、ウェーブパターン、例えば信号対雑音比が低い波形、例えば、心音計で与えられる心音図における、心拍のウェーブパターンに対して、高い時間分解能の準周期信号中の、例えば、心拍周期中の時間基準点(又は、「トリガ点」)を特定する手段を提供する。次に、これらの時間基準点は、そのウェーブパターン、例えば時間分解能及び精度が高い心臓の音波パターンを抽出する基準点として使用される。このような抽出は、例えば「ボックスカー積分」によって、達成される。ただし、これには限定されない。他の適切な技法には、トリガされるウェーブレット解析や、時間的にトリガされる短期スペクトル解析がある。
【0033】
図1を参照すると、本発明の一実施形態は、準周期信号として心拍波形の例を用いて示されている。この心音計で測定される心音(110、112、114)は、心臓の機械的な運動により生じるから、また、この運動は繰り返すから、最初の心音の波形は、それぞれの後続する心拍に対して、同一であると見なされることがある。
【0034】
心音計で収集された連続する心拍(110、112、114)の音は、電子計測、電波雑音、あらゆる形式の機械類(機械装置)からの電気雑音116だけでなく、音響雑音、動きアーチファクト、咳、呼吸によっても干渉を受ける。その結果、毎回の心拍の間、心音図における各地点は、次式の通り、基本型心拍中の上記地点の値Φ(〜)iに雑音ζiを加えたものと見なされる。
【0035】
Φi=Φ(〜)i+ζi (1)
【0036】
雑音サンプルζiは、次の2つの項を持つものと見なされる。
【0037】
ζi=ζ(^)i+ρi (2)
【0038】
ここで、ζ(^)i、∀iは、ゼロ平均正規分布のまったく同一に分布した別々のサンプルであると仮定され、また、ρiは、時々起こる咳、運動、胃腸運動性、及び他の一時的なイベントを考慮に入れている未知の分布から得られたサンプルである。
(訳注:(〜)や(^)はそのカッコの前の文字の上に括弧内の記号が付くことを意味する)
【0039】
本発明の一実施形態により、上記Φiの項が抽出されて、ζ(^)iとρiが両方とも抑制される。
【0040】
心音図104は、心拍間の時間間隔IB(秒で表す)を持つ一連の基本型心拍信号Φであると見なることもでき、これは、次式で与えられる。
【0041】
IBj=60/H+νj (3)
【0042】
ここで、IBjは、j番目の心拍間の間隔の持続時間であり、これは、図1(B)中の118として表され、また、Hは、1分当たりの公称心拍数であり、さらに、νjは、この心拍間隔の変化を取り込むゼロ平均確率変数であり、そのインスタンスは、図1(B)中の120、121として表されている。νjの項は、この心拍を準周期的なものにし、これは相関及びスペクトル推定技法には適さない。
【0043】
本発明の一実施形態により、高い信号対雑音比と低い時間分解能の第1の信号は、低い信号対雑音比と高い時間分解能の第2の信号中の、高分解能の時間的トリガ点を抽出するために処理を行っている位置を特定するために、使用される。この第1の信号は、準周期的なものである。さらに図2を参照すると、二次センサ、例えば、光プレチスモグラフ・センサ202は、心拍が発生する時間間隔を特定するために使用される。二次センサの他の例には、EKG、垂直運動加速度計、フォースプレート、静電荷感知ベッドなどがあるが、ただし、それらには限定されない。心拍は、まず最初に、二段階改善プロセスを用いて、光プレチスモグラフ信号102中で検出される。これらの心拍の発生時間は、tp,i122,すなわち、プレチスモグラム時間基準点を与える。tp,i−1124とtp,i122との間の時間間隔は、最初の2つの心音を見出す「窓」126である。これらの心音は、心音図104において、心房収縮の終了時に僧帽弁を閉めることと、心室収縮の終了時近くで大動脈弁を閉めることにより起こされる。
【0044】
次に、最初の2つの心音(112、113)を、心音図104から切り離す。これは、tp,i−1とtp,iで区画される領域ri内の心音図心音包絡線のピークの上記心音の時間の初期推定値(t(〜)S1,iとt(〜)S2,i)を、まず最初に求めることで、達成される。それぞれの領域ri内の2つの最大包絡線ピークのうち、早い方のピークは、t(〜)S1,iという心拍発生時間の初期推定値を用いて、その心拍に対する最初の心音によるものであると考える。
【0045】
先に決定された心拍間の間隔に等しい長さの窓(その中心にt(〜)S1,iが位置する)にわたって、最初の心音110のポイント・バイ・ポイント四分位数間平均値を算出して、初期S1基本型を作り出す。
【0046】
最後に、高分解能の時間基準点tS1は、上記初期S1基本型との心音図の修正相互相関のピークを求めることで、特定される。次に、このS1のテンプレートTS1は、この時間基準に対して、tS1,iを用いて、ポイント・バイ・ポイント四分位数間平均値を算出することで、生み出される。このポイント・バイ・ポイント四分位数間標準偏差はまた、このテンプレートの信頼度尺度(confidence measure)を与えるためにも算出される。
【0047】
本発明の一実施形態では、光プレチスモグラフ102と心音図104を使用する。光プレチスモグラフ102は、指又は耳たぶ(ただし、それらには限定されない)などの末梢組織中の瞬時血液密度を取り込む。当業界で周知のように、この瞬時血液密度は、心臓の心拍のために、脈動する。その結果得られる光プレチスモグラム102は、信号対雑音比が高いが、時間分解能が低い心拍を表し、その心拍の心室収縮からの遅延が著しい。
【0048】
心音図104は、心音計入力206で受け取られる、心臓から出された音の記録である。心音図104は、一般に低い信号対雑音比を持っているが、ただし、心音図104中の波形は、急激に振幅が変化し、それにより、高い時間分解能を有する。
【0049】
一実施形態では、本発明は、光プレチスモグラム信号と心音図信号とを組み合わせて、高い信号対雑音比と高い時間分解能を両方とも持つ高分解能の代表的な心拍音波形を生み出す手段を提供する。
【0050】
一実施形態では、この光プレチスモグラムは、適切な増幅器及び信号調整回路204を介して、マルチチャネル・アナログ・デジタル(A/D)変換器210の1チャネルに接続された指の光プレチスモグラフ202を用いて得られる。心音図102は、適切な信号調整ユニット208を介して、A/D変換器210の第2のチャネルに接続された音響センサ(例えば、電子聴診器206)を用いて得られる。光プレチスモグラフ102と心音計104からの信号は、プロセッサ212により、マルチチャネルA/D変換器210から同時に得られる。これらのデータは、一定の期間にわたって得られる。また、これらのデータは、さらなる処理のために、コンピュータのディスクドライブ214上に格納される。
【0051】
本発明の一実施形態では、この処理は、データ収集が完了すると行われる。本発明の他の実施形態では、途切れない収集と処理が考えられている。データ収集装置に組み込まれたか、あるいはデータ収集装置と一体化した1つ又は複数の専用形又は汎用形の計算装置で処理を行う他の実施形態も考えられている。運動や光後方散乱を感知するのに適した構造照明(structured illumination)付きのカメラなどの非接触光学手段を用いて、光プレチスモグラムと心音図を得るさらに他の実施形態も考えられている。第1のセンサが、静電荷感知ベッド、モアレ干渉測定法又は他の視覚的技法を用いる視覚的な運動測定、局在化された電磁界での妨害の測定、容量検出、計画に入れられる他の手段を含む(ただし、それらに限定されない)さらに他の実施形態も考えられている。
【0052】
図3は、プレチスモグラムと心音図を用いることで、本発明の一実施形態により、準周期信号中の時間基準点を決定する模範的な実施例を示している。
【0053】
図1〜図3を参照すると、プレチスモグラム(PG)102のデータは、記憶媒体214から読み取られる(304)か、あるいは、適切なセンサから得られる。プレチスモグラム102に、低域フィルタリングを施す(306)。プレチスモグラムの平均値を算出して、その値を、プレチスモグラムから減算する。その結果得られた時間領域内のゼロ平均プレチスモグラムは、例えば高速フーリエ変換を用いて、周波数領域に変換される(308)。この周波数領域内のピーク振幅に対応する周波数は、公称心拍数(311)であると考えられる。
【0054】
次に、図3(B)を参照して、この公称心拍数と、それに対応する公称間隔(311)を用いて、このプレチスモグラムのモルフォロジカル・オープニングを算出する。モルフォロジカル・オープニングは、数学的モルフォロジー(数理形態学)の分野からの演算である。信号のモルフォロジカル・オープニングは、信号形状フィルタの一形式である。この形式では、例えば、信号ピークなど振幅の大きい狭い領域を除き、この信号のすべてが保存される。除去されるべき領域の幅は、その構造要素のサイズにより決定される。次に、プレチスモグラムのモルフォロジカル・オープニングを、このプレチスモグラムから減算する(312)。図4を参照すると、プレチスモグラム402が、図4(A)に示されており、また、図4(B)中のモルフォロジカル・オープニング404は、その心拍間の間隔のサイズの1/2である構造要素を用いている。その結果得られる減算されたプレチスモグラム406が、図4(C)に示されている。このベースラインを補償した後で、その結果の最大値408を求める(314)。
【0055】
ベースラインから最大値までの範囲にわたる複数のしきい値(好ましくは、等間隔にある)が生み出される。それぞれのしきい値に対して、この信号のうち、特定符号の勾配(例えば、正勾配)を持つ部分と、しきい値との交差の数が生み出される(315)。さらに、図5(A)を参照すると、10個のしきい値502が示されている。時間軸において、このしきい値を左から右に横に動かせば、模範的な正勾配交差の数をカウントできる。その結果は、図5(B)に示されている。例えば、しきい値7に対して8つの交差がある(504)。もっとも頻繁に発生する正勾配しきい値交差数が求められる(316)。図5に示される例では、もっとも頻繁に発生する交差数は、10の交差であり(506、508)、これらは、しきい値2、しきい値3、しきい値4、しきい値5、しきい値6に対応している。このようなしきい値交差数を持つ連続するしきい値の範囲の中点510を求める(318)。中点510は、この例では、しきい値4である。次に、上記プレチスモグラムを、このしきい値と比較し、このしきい値の正勾配交差(320)の時間t(〜)p,iを、交差iのそれぞれに対して記録する(322)。
【0056】
次に、図3(C)を参照すると、この推定されたプレチスモグラム時間基準点t(〜)p,i(323)を改善して、さらに正確な基準点tp,iを生み出す。プレチスモグラムのテンプレートPTの堅牢(ロバスト)な推定値(例えば、四分位数間平均値)が、その四分位数間平均値を用いて算出される(324)。
【0057】
この四分位数間平均値を算出するために、長さΔt=60/H×1000サンプルの窓wの中心を、それぞれのtp,i(すべてのiに対して)に置く。次に、それぞれのj(j=1...Δt)に対して、プレチスモグラム値Pt(〜)p,i―(Δt)/2+j∀i<nの分類リストLを作成して、昇順に分類する。ここで、nは心拍数である。Lk(n/4≦k≦3n/4)点の平均値を算出して、点jでのプレチスモグラムのテンプレートPTjを、この値に等しくセットする。
【0058】
このプレチスモグラム時間基準点tp,i(i∈n)(329)は、PをPTに相互相関させて(326)、中心がt(〜)p,iに置かれた窓wの中で、その相関のピークを求める(328)ことにより、そのt(〜)p,iから算出される。
【0059】
図3(D)を参照して、心音図104を読み取る(303)。心音図104に、低域フィルタリングを施す(305)。心音図信号Sの単純な包絡線を算出する(330)。最初のピークからスタートして(332)、tp,iとtp,i+1の間隔内で、i=1の場合に、2つの最大心音図包絡線ピークを特定する(334)。これらのピークのうち最初のピークは、最初の心音S1によるものと見なされ、また、2番目のピークは、2番目の心音S2によるものと見なされる。このサンプル数値t(〜)S1,iは、S1の発生時間の推定値として記録される(334)。1≦i≦nで、繰り返す(338)。その結果は、心拍ごとに、最初の心音の推定時間のリストである(341)。
【0060】
次に、これらの推定値t(〜)S1,iを改善して、心音図時間基準点tS1,i,∀i≦nを生み出す。
【0061】
図3(E)を参照すると、最初の心音のロバストな初期テンプレートS(〜)Tは、プレチスモグラムのテンプレートPTを算出するのに用いられるものと同様なやり方で、中心が推定心音図時間基準点t(〜)S1,iに置かれた幅Δtの窓wの中において、心音図から生み出される(342)。この心音図と、この心音図初期テンプレートS(〜)Tをクリッピングして、最小値と最大値を経験的に決定する(344)。このクリッピングされたS(〜)Tを、そのクリッピングされた心音図と相互相関させて、その結果を、低域フィルタを用いてフィルタリングする(346)。この波形をクリッピングすることで、その相互相関の結果は、これらの信号の振幅ではなくて、これらの信号遷移の場所の影響を受けやすい。最初のピークからスタートして(348)、この相関の最大値は、[t(〜)S1,i,t(〜)S1,i−1]∀1≦i≦nとして、上記推定心音図時間基準点により区画された間隔にて、求められる(350)。これらのピークが発生する時間は、求められる心音図時間基準点tS1,iである(352)。データを使い尽くすまで、すべての間隔を繰り返す(354)。
【0062】
次に、求められる基本型心音図S1心音のテンプレートSTを作成する。それぞれの時間基準点tS1,i(i=1...n−1)に対して、その四分位数間平均値と四分位数間標準偏差は、PT、すなわち、プレチスモグラフ信号のロバストな推定値を算出するのに用いられるものと同様なやり方で算出される(358)。その平均値と標準偏差は、この実施形態では、コンプータのハードディスク上に格納される(360)。
【0063】
この結果は図6に示されており、また、この図において、中央の曲線602により示される心音図の平均値は、基本型心音図S1心音のテンプレートを表している。上部曲線604は、この平均値に1つの標準偏差を加えたものを表し、また、下部曲線606は、この平均値から1つの標準偏差を引いたものを表している。
【0064】
本発明の特定の実施形態が図示されて、説明されてきたが、本発明の真の範囲から逸脱しなければ、このような実施形態に対して、変更や修正を行うことができる。本発明の限定的でない一例は、時間には左右されない予測変数であるかもしれない。他の例として、心電図や呼吸音信号などの他の医療・衛生関連の信号があるが、ただし、それらには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】A:光プレチスモグラムの一例を示す。B:心音図信号の一例を示す。
【図2】本発明の一実施形態によるシステムの一例である。
【図3A】本発明の一実施形態による流れ図を示す。
【図3B】本発明の一実施形態による流れ図を示す。
【図3C】本発明の一実施形態による流れ図を示す。
【図3D】本発明の一実施形態による流れ図を示す。
【図3E】本発明の一実施形態による流れ図を示す。
【図4】A:心音図を示し、B:この心音図のモルフォロジカル・オープニングを図示し、C:減算された心音図である。
【図5】しきい値と勾配の交差を示す。
【図6】最初の心音の高分解能テンプレートTS1を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
準周期信号中の複数の時間基準点を決定する方法であって、
低い時間分解能と高い信号対雑音比とを持つ第1の準周期信号を得るステップ(304)と、
前記第1の準周期信号と関係があって、かつ、高い時間分解能と低い信号対雑音比とを持つ第2の準周期信号を得るステップと、
前記第1の準周期信号のもっとも共通の周波数成分を決定して、前記第1の準周期信号の公称間隔を決定するステップ(310)と、
勾配交差を決定する(320)ために、前記公称間隔を用いて前記第1の準周期信号に対して形状フィルタを構築し、提供するステップ(312)と、
前記第1の準周期信号に対してテンプレートを形成するステップ(324)と、
前記テンプレートを前記第1の準周期信号と比較することで、前記第1の準周期信号の時間基準点を特定するステップ(328)と、
前記時間基準点を用いて、前記第2の準周期信号に対して包絡線を提供するステップ(330)と、
前記包絡線内で、前記第2の準周期信号の基準点を推定するステップ(336)と、
前記第2の準周期信号に対して第2のテンプレートを形成するステップ(342)と、
最大相関ピークとなる(350)前記基準点の周りで、前記第2のテンプレートを前記第2の準周期信号と相互相関させるステップ(346)と、
前記基準点を、前記最大相関ピークの時間にセットするステップ(352)と、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の準周期信号が最初の心拍波形であり、また、前記第2の準周期信号が2番目の心拍波形である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2番目の心拍波形が心音図である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記最初の心拍波形が、複数の血液密度パルスを持つプレチスモグラムである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記公称心拍数を決定するステップが、
前記第1の準周期信号に低域フィルタリングを施すステップ(306)と、
前記低域フィルタリングを施した第1の準周期信号のフーリエ変換後に、周波数領域内の最大周波数成分を決定するステップ(310)と、
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該当する信号イベントを特定する形状フィルタがモルフォロジカル・オープニングである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらにしきい値を与えるステップを含み、それが、
前記第1の準周期信号から、前記第1の準周期信号のモルフォロジカル・オープニングを減算するステップ(312)と、
前記減算された第1の準周期信号の最大値を求めるステップ(314)と、
ベースラインと前記最大値との間に複数のサブしきい値を与えるステップと、
前記複数のサブしきい値のそれぞれに対して、勾配交差を求めて(316)、同一の交差数をそれぞれが持つサブしきい値・グループを得るステップと、
前記複数のサブしきい値の中点を求めるステップ(318)と、
前記中点を前記しきい値として与えるステップと、
をさらに含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記時間基準点を特定するステップが、
前記第1のテンプレートを前記第1の準周期信号と相互相関させて、前記時間基準点を特定するステップ(326)をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記時間基準点を推定するステップが、
前記第2の準周期信号の前記間隔において、2つの最大ピークを求めるステップ(334)と、
前記2つの最大ピークのうちの最初のピークの発生時間に基準点をセットするステップ(336)と、
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記相互相関させるステップが、前記第2のテンプレートと前記第2の準周期信号をクリッピングするステップ(344)をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記サブしきい値が等間隔である請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記勾配交差が正の勾配交差である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の準周期信号又は前記第2の準周期信号がデータ記憶装置に格納され、前記データ記憶装置から得られる請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の準周期信号又は前記第2の準周期信号が遠方から与えられる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
準周期信号中の複数の時間基準点を求めるシステムであって、
低い時間分解能と高い信号対雑音比とを持つ第1の準周期信号を得る手段と、
前記第1の準周期信号と関係があって、かつ、高い時間分解能と低い信号対雑音比とを持つ第2の準周期信号を得る手段と、
前記第1の準周期信号のもっとも共通の周波数成分を決定することで、前記第1の準周期信号の公称間隔を決定する手段と、
勾配交差を決定するために、前記公称間隔を用いて前記第1の準周期信号に対して形状フィルタを構築し、提供する手段と、
前記第1の準周期信号に対してテンプレートを形成する手段と、
前記テンプレートを前記第1の準周期信号と比較することで、前記第1の準周期信号の時間基準点を特定する手段と、
前記時間基準点を用いて、前記第2の準周期信号に対して包絡線を提供する手段と、
前記包絡線内で、前記第2の準周期信号の基準点を推定する手段と、
前記第2の準周期信号に対して第2のテンプレートを形成する手段と、
前記基準点の周りで、前記第2のテンプレートを前記第2の準周期信号と相互相関させて、最大相関ピークを得る手段と、
前記基準点を、前記最大相関ピークの時間にセットする手段と、
を備えるシステム。
【請求項16】
準周期信号中の複数の時間基準点を決定する方法を実行するために、コンピュータで実行されるコンピュータプログラムであって、
低い時間分解能と高い信号対雑音比とを持つ第1の準周期信号を得るコード手段と、
前記第1の準周期信号と関係があって、かつ、高い時間分解能と低い信号対雑音比とを持つ第2の準周期信号を得るコード手段と、
前記第1の準周期信号のもっとも共通の周波数成分を決定することで、前記第1の準周期信号の公称間隔を決定するコード手段と、
勾配交差を決定するために、前記公称間隔を用いて前記第1の準周期信号に対して形状フィルタを構築し、提供するコード手段と、
前記第1の準周期信号に対してテンプレートを形成するコード手段と、
前記テンプレートを前記第1の準周期信号と比較することで、前記第1の準周期信号の時間基準点を特定するコード手段と、
前記時間基準点を用いて、前記第2の準周期信号に対して包絡線を提供するコード手段と、
前記包絡線内で、前記第2の準周期信号の基準点を推定するコード手段と、
前記第2の準周期信号に対して第2のテンプレートを形成するコード手段と、
前記基準点の周りで、前記第2のテンプレートを前記第2の準周期信号と相互相関させて、最大相関ピークを得るコード手段と、
前記基準点を、前記最大相関ピークの時間にセットするコード手段と、
を含むコンピュータプログラムをコード化する前記コンピュータで読取り可能な記憶媒体。
【請求項17】
準周期信号に対して高分解能テンプレートを提供する方法であって、
低い時間分解能と高い信号対雑音比とを持つ第1の準周期信号を得るステップ(304)と、
前記第1の準周期信号と関係があって、かつ、高い時間分解能と低い信号対雑音比とを持つ第2の準周期信号を得るステップと、
前記第1の準周期信号のもっとも共通の周波数成分を決定することで、前記第1の準周期信号の公称間隔を決定するステップ(310)と、
勾配交差を決定する(320)ために前記公称間隔を用いて前記第1の準周期信号に対して形状フィルタを構築し、提供するステップ(312)と、
前記第1の準周期信号に対してテンプレートを形成するステップ(324)と、
前記テンプレートを前記第1の準周期信号と比較することで、前記第1の準周期信号の時間基準点を特定するステップ(328)と、
前記時間基準点を用いて、前記第2の準周期信号に対して包絡線を提供するステップ(330)と、
前記包絡線内で、前記第2の準周期信号の基準点を推定するステップ(336)と、
前記第2の準周期信号に対して第2のテンプレートを形成するステップ(342)と、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−513193(P2009−513193A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536892(P2008−536892)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001751
【国際公開番号】WO2007/048238
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508127764)クールメトリクス・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】