説明

準揮発性有機化合物の捕集管、準揮発性有機化合物の測定方法及び測定装置

【課題】吸引により測定箇所の周囲の気流を変化させることなく、準揮発性化学物質(SVOC)を良好に捕集することができる捕集管を提供する。また、このような捕集管を用いて捕集したSVOC量の測定方法、及び測定装置を提供する。
【解決手段】両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口6を成すと共に他方の開口部が気体の流出口8を成す管状体2と、流入口6に配置された通気口を有する捕集板4と、を備え、流出口8の開口面積よりも流入口6の開口面積が大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、準揮発性有機化合物(SVOC)の捕集管、準揮発性有機化合物の測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製品から放散される有機化合物などの化学物質による室内空気の汚染が社会的な問題となっている。世界保健機構(WHO)では、有機化合物の沸点によって、これらの化学物質を、以下の4グループに分類している。
【0003】
(1)沸点が<0〜50−100℃の超(高)揮発性有機化合物(VVOC:Very
Volatile Organic Compounds)
(2)沸点が50−100〜240−260℃の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)
(3)沸点が240−260〜380−400℃の準揮発性有機化合物(SVOC:Semi−volatile Organic Compounds)
(4)沸点が>380℃の粒子状有機化合物(POM:Particulate Organic Compounds)
【0004】
これらの化合物に起因した健康被害を防止するため、製品から放散される有機化合物の放散量についての測定方法が検討されている。
【0005】
例えば、揮発性有機化合物(VOC)は、主に建材や家具などから放散され、シックハウス症候群を引き起こす原因と考えられていることから、厚生労働省のガイドラインにおいて、これら化学物質の室内濃度における指針値が定められている。これに対して、VOCについては、JIS−A1901「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法−小形チャンバー法」として測定方法が規格化されている。
【0006】
また、準揮発性有機化合物(SVOC)には、プラスチックの可塑剤、難燃剤として使用されている有機化合物が多く該当し、プラスチックを多量に使用する家電製品や事務機器等の電気製品から多く放散される。このような化合物の中には、内分泌攪乱作用や発ガン性、神経毒性を示すものがあり、健康に及ぼす影響が懸念されている。
【0007】
ところが、通常電気製品は駆動により発熱するため、駆動時/非駆動時でSVOCの放散量が異なる。そのため、工業製品の一部を試験片として切り出し、小型のチャンバーにて放散量を測定するという、上記JIS−A1901の小形チャンバー法では、実状を反映した測定とならず、そのまま適用することはできなかった。また、SVOCは沸点が高いため、通常の室内使用条件下では、そのほとんどが室内壁面等に吸着してしまうと言う点も測定を困難にしていた。
【0008】
そこで、測定対象となる工業製品を収納可能な大型のチャンバー内に設置し、チャンバー内に所定の一方向に流れる気流を発生させ、測定対象に対して気流の下流側に流れてくるSVOCを捕集して放散量を測定するというSVOCの測定方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で挙げられているチャンバー内の気流の流速は、通常の室内使用環境との大きな条件の乖離を避けるため、数cm/秒程度の遅いものとなっている。
【0009】
この方法では、工業製品を非破壊で測定することが可能であると共に、一方向に気流を制御して下流でSVOCを捕集することで、チャンバー壁面への吸着の影響を受けにくくなっているため、正確で高精度な測定を可能としている。
【特許文献1】特開2006−275627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、空気中に放散された化学物質(放散物質)の捕集には、内径が数mmの均一な太さのガラス管に捕集材が充填された、細長い捕集管を用いている。このような捕集管は、一端から捕集管内に測定箇所の空気を取り入れ、捕集管内を通すことで、管内の捕集材に空気中の放散物質を吸着させる。吸着された放散物質は加熱または溶媒により脱着され、測定器にて放散量の測定を行う。
【0011】
しかし、このような通常の捕集管を用いて上記特許文献1に提案された測定を行う場合には次のような問題が生じる。
【0012】
製品から放散されるSVOCの量は微量であるため、測定可能な量を捕集するためには捕集管に多量の空気を吸引し、管内に多量の空気を通す必要がある。ところが、図9に示すように、捕集ポンプPによる吸引速度がチャンバー内の気流の流速を超えると、捕集管1000への吸引によりチャンバー内の気流を乱し、且つ測定箇所の周囲の空気をも吸引してしまう。そのため、気流にのって測定箇所に達するSVOCのみを捕集することができず、正確な測定が出来ないおそれがある。一方、吸引速度をチャンバー内の気流の流速より遅く設定すると、測定に必要な量を捕集するために要する時間が長時間となり、効率的ではない。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、吸引により測定箇所の周囲の気流を変化させることなく、SVOCを良好に捕集することができる捕集管を提供することを目的とする。また、このような捕集管を用いて捕集したSVOC量の測定方法、及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明に係る準揮発性有機化合物の捕集管は、両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口を成すと共に他方の開口部が気体の流出口を成す管状体と、前記流入口に配置された通気口を有する捕集板と、を備え、前記流出口の開口面積よりも前記流入口の開口面積が大きいことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る別形態の準揮発性有機化合物の捕集官は、両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口を成すと共に他方の開口部が気体の流出口を成す管状体と、前記流入口に配置された通気口を有する捕集板と、を備え、前記流出口の開口面積よりも前記流入口の開口面積が大きく、家電製品及び事務機器よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物を捕集することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る更に別形態の準揮発性有機化合物の捕集官は、両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口を成すと共に他方の開口部が気体の流出口を成す管状体と、前記流入口に配置された通気口を有する捕集板と、を備え、前記流出口の開口面積よりも前記流入口の開口面積が大きく、建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物を捕集することを特徴とする。
【0017】
これらの構成によれば、開口面積の広い流入口から低濃度のSVOCを含む気体を取り入れるため、わずかにSVOCを含む気体から効率よくSVOCを捕集することができる。また、流出口と比べ流入口の開口面積が大きいため、流出口での吸引速度に対して流入口の吸引速度が遅くなり、捕集管を介して空気を取り込む際に、捕集箇所の周囲の気流を乱しにくくなる。そのため、良好にSVOCを捕集することが可能な捕集管とすることができる。
【0018】
本発明においては、前記捕集板や前記管状体はガラスまたは石英で形成されていることが望ましい。
金属材料を用いると、金属の触媒作用により捕集したSVOCの分解が促進されるため、捕集量が正確に測定できないおそれがある。また、樹脂材料を用いると、捕集管の形成材料に由来する有機化合物との判別が困難になり、SVOCの捕集量を正確に測定できないおそれがある。本発明の構成によれば、ガラスまたは石英を形成材料とするため、SVOCを好適に捕集することができる。
【0019】
本発明においては、前記管状体と前記捕集板とに囲まれた空間に捕集材を充填すると、捕集部分の表面積が広がり、より効率的にSVOCを捕集することが可能となる。
【0020】
本発明においては、前記捕集材は、ガラスビーズまたは石英ビーズであることが望ましい。
捕集材の形成材料がガラスや石英であるため、SVOCを好適に捕集することができる。また、ここで「ビーズ」とは、例えばシリカゲルのように積極的に細孔を設けたものではなく、実質的に表面に凹凸形状を備えないものを指す。本発明の捕集管は、SVOCの捕集能力が高いことが求められると同時に、捕集したSVOCを良好に脱着させることができることも求められる。捕集材が細孔を備えると、SVOCを脱着させる場合に脱着が困難になるおそれがあるが、ビーズ状であるため脱着が容易である。そのため、良好な捕集と脱着とを両立する捕集管とすることができる。
【0021】
本発明の準揮発性有機化合物の測定方法は、被測定物から大気に放散する準揮発性有機化合物の放散量の測定方法であって、上述した本発明の捕集管を用い、該捕集管が備える気体の流入口から前記捕集管内に前記大気を取り入れ、前記大気中の前記準揮発性有機化合物を捕集する捕集工程と、前記準揮発性有機化合物を捕集した捕集管を加熱して前記準揮発性有機化合物を放出する脱着工程と、前記捕集管から脱着した前記準揮発性有機化合物を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る別形態の準揮発性有機化合物の測定方法は、家電製品及び事務機器よりなる群から選択される1種以上の被測定物から大気に放散する準揮発性有機化合物の放散量の測定方法であって、上述した本発明の捕集管を用い、該捕集管が備える気体の流入口から前記捕集管内に前記大気を取り入れ、前記大気中の前記準揮発性有機化合物を捕集する捕集工程と、前記準揮発性有機化合物を捕集した捕集管を加熱して前記準揮発性有機化合物を放出する脱着工程と、前記捕集管から脱着した前記準揮発性有機化合物を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る更に別形態の準揮発性有機化合物の測定方法は、建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品よりなる群から選択される1種以上の被測定物から大気に放散する準揮発性有機化合物の放散量の測定方法であって、上述した本発明の捕集管を用い、該捕集管が備える気体の流入口から前記捕集管内に前記大気を取り入れ、前記大気中の前記準揮発性有機化合物を捕集する捕集工程と、前記準揮発性有機化合物を捕集した捕集管を加熱して前記準揮発性有機化合物を放出する脱着工程と、前記捕集管から脱着した前記準揮発性有機化合物を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
この方法によれば、上述する捕集管を用いて効率的にSVOCを捕集し、捕集したSVOCを加熱脱着させることができるため、微量のSVOCを効率よく測定することができる。
【0025】
本発明においては、前記捕集工程は、所定の一方向に流れる気流の上流側に前記被測定物を配置すると共に、前記気流の下流側に前記捕集管が備える気体の流入口を前記上流側に対向して前記捕集管を配置し、前記気流の流速よりも遅い流速で前記捕集管を介した大気の吸引を行うことが望ましい。
この方法によれば、捕集管の周囲の気流を変化させることなく、被測定物から放散され気流に乗って下流に到達するSVOCを捕集することができる。そのため、捕集箇所の周囲の空気を吸引して正確な測定が出来ないという不具合を回避することができる。
【0026】
本発明においては、前記脱着工程では、前記捕集管の加熱に先立って前記捕集管内を不活性ガスで置換することが望ましい。
この方法によれば、捕集管にて捕集したSVOCと空気中の酸素とが反応しSVOCが分解することを防ぎ、捕集されていたSVOCの損失を低減することができる。そのため、効率的な測定を行うことができる。
【0027】
本発明の測定装置は、被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する測定装置であって、上述した本発明の捕集管と、前記捕集管が備える気体の流入口と接続し、前記捕集管内に不活性ガスを供給するガス供給手段と、前記捕集管が備える気体の流出口と接続する再捕集手段と、前記再捕集手段と接続する測定器と、少なくとも前記捕集管を加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、SVOCを捕集した捕集管を加熱装置で加熱し、ガス供給手段により供給される不活性ガスで加熱脱着するSVOCを押し流し、再捕集手段でSVOCを再度捕集することで、微量のSVOCを濃縮することができる。濃縮したSVOCは、再捕集手段と測定器を用いたダイナミックヘッドスペース法による測定によって測定することができる。したがって、捕集管で捕集した微量のSVOCの量を確実に測定することができる。
【0028】
本発明においては、前記ガス供給手段は、前記流入口側で前記捕集管を戴置する戴置台を備え、前記戴置台は、前記捕集管が嵌合する溝部と、前記流入口内に前記不活性ガスを供給する複数の供給口を有すると共に、前記加熱手段は、前記戴置台を加熱することが望ましい。
この構成によれば、捕集管が動かないように戴置させることが容易である。また、捕集管内に供給する不活性ガスが加熱された戴置台を通過することから、供給される不活性ガスと加熱される捕集管とに温度差が無くなる。そのため、脱着するSVOCが不活性ガスにより再度冷却されて再付着するという不具合を回避し、加熱脱着を良好に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図5を参照しながら、本発明の実施形態に係る準揮発性有機化合物(SVOC)の捕集管、および当該捕集管を用いたSVOCの放散量の測定方法、測定装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0030】
本発明のSVOCは、ガスクロマトグラフィによる評価において、無極性カラムでの分離条件でn−トリデカン(C13:沸点234℃)と、n−ヘキサコサン(C26:沸点399.8℃)との間で溶出する有機物を指す。
【0031】
[準揮発性有機化合物(SVOC)の捕集管]
図1は、本実施形態に係るSVOCの捕集管を示す説明図である。捕集管1A(捕集管1)は、両側が開口した管状体2と、管状体2の内部に配置された捕集板4と、を備えている。
【0032】
捕集管1Aの形成材料は、ガラス、石英ガラスであることが好ましい。金属材料を用いると、後述する加熱脱着の工程で、金属の触媒作用により捕集したSVOCの分解が促進されるため、捕集量が正確に測定できないおそれがある。また、樹脂材料を用いると耐熱性が低い上、捕集管1Aの形成材料が熱分解した分解物、または捕集管1Aの形成材料に含まれるSVOCを測定してしまい、捕集量を正確に測定できないおそれがある。本実施形態では、パイレックス(登録商標)ガラスを用いて作成した。
【0033】
管状体2は、均一な内径を備える導入部2b、導入部より小さい均一な内径を備える排出部2c、導入部2bと排出部2cとに連通し徐々に内径が変化する本体部2aとを備えている。本体部2aは、管軸方向に対して垂直な断面での形状が略円形の円錐状とし、導入部2b,排出部2cは、いずれも管軸方向に対して垂直な断面での形状が略円形の円筒状とした、漏斗状の形状を備えている。後述するSVOCの脱着を容易にするため、内壁にシラン処理を施すと良い。
【0034】
本実施形態では、漏斗型の管状体2の断面形状は略円形であることとしているが、これに限らず、断面形状が略方形、多角形、楕円形等の形状である漏斗状の管状体であってもよい。
【0035】
本実施形態の管状体2の管軸方向の長さh1を70mm、導入部2bの内径dを53.5mm、管軸方向の長さh2を10mm、排出部2cの内径を3mm、管軸方向の長さh3を30mmとした。各寸法はこれに限るものではない。
【0036】
捕集板4は、管状体2の内部の、本体部2aと導入部2bとの接続部分に配置されている。捕集板4は、100μmの径の細孔(通気口)を無数に有したガラスろ過板である。
【0037】
また、図2に示すように、管状体2と捕集板4とに囲まれた空間内に捕集材10を充填した捕集管1B(捕集管1)とすることもできる。捕集材10は、ガラスビーズまたは石英ビーズを用いることが好ましい。ここで「ビーズ」とは、例えばシリカゲルのように積極的に細孔を設けたものではなく、実質的に表面に凹凸形状を備えないものを指す。細孔を備えると、後述する加熱脱着の工程において、SVOCの脱着が困難になるおそれがあるためである。
【0038】
捕集材10を充填することで、捕集管1の捕集可能部分の表面積が増え、気体状のSVOCのみならず、揮発した後に空気中で凝結し微粒子状となって浮遊するSVOCも効率的に捕集することができる。
【0039】
捕集材10に用いるガラスビーズまたは石英ビーズの粒子径は、60〜80メッシュ(60メッシュ篩を非通過、80メッシュ篩を通過)のものを用いる。これより小さい粒子径のものを用いると、捕集性能は高まるが、加熱脱着の工程においてSVOCの脱着が困難になるおそれがある。また、これより小さい粒子径のものでは、SVOCを捕集する効率が低下するためである。
【0040】
このような形状の捕集管1A,1Bは、管状体2の導入部2b側の開口部を空気の流入口6とし、排出部2c側の開口部を空気の流出口8として用いる。SVOCの捕集時には、流入口6から捕集管1A内に空気を取り入れて流出口8へ通過させる。その際に、空気中のSVOCは、捕集板4あるいは捕集材10に捕集される。本発明の捕集管は、以上のような構成となっている。
【0041】
[準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量の測定方法、測定装置]
続いて、図3から図5を用いて、SVOCの測定方法および測定装置を説明する。
【0042】
本実施形態のSVOCの測定方法は、家電製品や電化製品等の被測定物からのSVOC放散量測定試験の一部を構成する。まず、上述した捕集管を用いて被測定物から放散されるSVOCを捕集し(捕集工程)、SVOCの測定装置を用いてSVOCを捕集した捕集管からSVOCを脱着させて放散量を測定する(測定工程)。以下、順に説明する。
【0043】
[1]捕集工程
図3は、上述した捕集管1を用いたSVOCの捕集工程の一例を示す模式図であり、被測定物(対象物)Tから放散するSVOCを捕集するための捕集装置100を用いた捕集の様子を示すものである。本実施形態で用いる捕集装置100は、被測定物Tを収容する大型のテストチャンバ101と、上述した捕集管1と、捕集管1の流出口8と接続する捕集ポンプ110と、を備えている。
【0044】
本実施形態では、被測定物Tと共に、VOCなどの検出が容易な物質を内部標準物質として、内部標準法を用いてSVOC量を測定する。内部標準物質としては、被測定物Tから放散される物質でも良く、別途内部標準物質を用意することとしても良い。
【0045】
被測定物Tから放散されるVOCを内部標準物質とする場合は、被測定物Tから放散されるトルエンなどのVOCの定常状態の放散量を求め、該放散量と比較した内部標準法を用いる。
【0046】
内部標準物質を別途容易する場合には、例えば、内部標準物質を放散する内部標準物Sを配置し、内部標準物Sから放散する内部標準物質と、被測定物Tから放散するSVOCとを同時に捕集し、内部標準法を用いてSVOC量を測定する。別途容易する場合には、被測定物Tに由来しない物質を用いることが好ましく、例えば重水素置換されたトルエン-d8などのVOCを用いると良い。
【0047】
本実施形態に用いるテストチャンバ101は、被測定物Tを戴置する床面全面がグレーチングとなっており、給気口102を成している。また、天井面全面がパンチングとなっており、排気口103となっている。更には、給気口102に接続される不図示の空気供給装置を備えている。また、テストチャンバ101は、温度を28±1℃に保ち、相対湿度を50±5%の範囲内で制御可能となっている。
【0048】
このような構成のテストチャンバ101では、気流が下から上へと一方向(鉛直方向)にしか流れない鉛直層流換気方式で、一様な気流を形成している。また、床面及び天井面のほとんど全面に給排気口を設けて、空気の流れがテストチャンバ101内で気流が滞留しないようになっている。
【0049】
本実施形態に用いるテストチャンバ101は、幅2700mm、奥行き2700mm、高さ2400mmの直方体状のステンレスなどの金属製で密閉可能なものである。テストチャンバ101の内面はそのままでもよいし、ガラスまたは石英などでコーティングしてもよい。テストチャンバ101は、容積約17.5mで4畳半の広さの居室に相当するため、テレビ(例えば、幅600mm、奥行き1200mm、高さ600mm)や冷蔵庫(例えば、幅800mm、奥行き1000mm、高さ1800mm)などの被測定物Tをそのままの状態で設置できる大きさになっている。
【0050】
テストチャンバ101の床面に配置した被測定物Tの鉛直方向には、流入口6が被測定物Tに対向して捕集管1が配置されている。捕集管1の流出口8にはテストチャンバ外に配置された捕集ポンプ110が接続している。捕集管1に接続した捕集ポンプ110を稼動させることにより、流入口6からテストチャンバ101内の空気を捕集管1内に取り込み、SVOCを捕集する構成となっている。
【0051】
捕集管1の配置位置は、例えばCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)解析を行って被測定物Tから放散するSVOCの濃度分布を求めることで、測定に好適な捕集箇所を選択することができる。また、被測定物Tを配置する前に、被測定物Tの配置位置にVOC等を放散するダミーサンプルを配置し、該ダミーサンプルから放散するVOCの濃度を実測することでVOCの濃度分布を求め、該濃度分布から測定に好適なSVOCの捕集箇所を選択することとしても良い。
【0052】
図4は、捕集ポンプ110を用いた捕集管1によるSVOCの捕集の様子を示す説明図である。捕集工程では、捕集管1の流入口6での吸引速度V1は、テストチャンバ内の気流の速度V2よりも遅く制御して吸引する。すると、捕集管1に吸引された気流に含まれるSVOCは捕集板4で捕集されると共に、捕集管1に吸引しきれない気流は、捕集管1さけて逸流する。このような速度で吸引することで、被測定物Tから放散され気流にのって捕集管1に到達したSVOCのみを捕集することができ、捕集管1の周囲の空気を吸引して正確な測定が出来ないという不具合を回避することができる。本実施形態では、吸引速度V1は0.03m/sであり、気流の速度V2は0.05m/sである。
【0053】
[2]測定工程
次いで、捕集工程で捕集したSVOCを測定する測定工程について説明する。
【0054】
[2−1]測定装置
図5は、測定工程で用いる測定装置の説明図であり、図5(a)は測定装置の全体構成を示し、図5(b)は測定装置が備える捕集管の戴置台を示す概略図である。
【0055】
図5(a)に示すように、測定装置200は、捕集管1をSVOCの沸点程度の温度にまで加熱しSVOCを脱着させる加熱装置(加熱手段)210と、捕集管1の流入口6と接続し、不活性ガスを供給するガス供給装置(ガス供給手段)220と、捕集管1の流出口8と接続し、捕集管1から脱着し不活性ガスと共に運ばれるSVOCを再度捕集する再補集管(再捕集手段)260と、捕集管1と再捕集管260との間を接続する接続管270と、再捕集管260と接続されSVOCの量・種類を測定する測定器280と、を備えている。捕集管1と再捕集管260との間は、接続管270にて接続されている。また、再捕集管260と測定器280との間から分岐され、再捕集管260を介して、捕集管1から脱着するSVOCを吸引する捕集ポンプ290が接続されている。
【0056】
加熱装置210は、内部に捕集管1を収容可能なオーブン装置であり、捕集管1を300℃程度に加熱することが可能である。捕集管1を加熱することで、捕集管1に捕集していたSVOCが気化し、脱着させることが可能となる。加熱装置210内の昇温速度を制御する制御装置を備えることが望ましい。本実施形態では、加熱装置210として、ジーエルサイエンス株式会社製MSTD258を用いた。
【0057】
ガス供給装置220は、ガス制御装置230と、戴置台240と、接続管250とを備えている。
【0058】
ガス制御装置230は、不活性ガスを貯蔵するガスボンベや、不活性ガスの供給量を調整するガス流量調節器を備え、不活性ガスの流量を計測する流量計や、不活性ガスの温度を調節する温調器などを必要に応じて有する。不活性ガスは、高純度の窒素、アルゴン、ヘリウムなどを用いることができる。本実施形態ではヘリウムを用いる。
【0059】
戴置台240は、加熱装置210内に設置され捕集管1を戴置する。捕集管1の内部には戴置台240を介して不活性ガスが供給される。
【0060】
接続管250は、ガス供給装置230と戴置台240とを接続し、ガス制御装置230から供給される不活性ガスを捕集管1へ導く。接続管250は、一部が加熱装置210内に設置されており、捕集管1に供給する不活性ガスを加熱・保温することができる仕様となっている。
【0061】
再捕集管260は、例えばTenax−TA(ジーエルサイエンス社製)などの捕集材を充填した捕集管を用いる。再捕集管260は、捕集管1から脱着するSVOCを再度捕集し濃縮する濃縮管として機能する。
【0062】
接続管270は極力短いものを用い、内壁にシラン処理を施したガラス製のものとすることが望ましい。加熱装置210内に配置される接続管270は、加熱装置210により加熱・保温することができる仕様となっている。また、加熱装置210外に配置される接続管270は、不図示の保温装置により加熱装置210内の温度と同じ温度に保つ構成とする。このようにすることで、内壁吸着によるSVOCの損失を防ぐことができる。
【0063】
測定器280は、例えば水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(GC/FID)やガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)などを用いる。測定器280は、測定器280が備えるキャピラリーカラムの前段に、液体窒素やペルチェ素子などによる冷却及び250℃以上の温度への急速加熱が可能な中空細管、または細管に適当な吸着剤などを充填したものからなるクライオフォーカス部を備えている。ガスクロマトグラフィの分離能は、キャリアガスの分子量が小さいほど良くなることが知られており、測定器280の分離能を上げるために、キャリアガスとしてヘリウムを用いることが好ましい。
【0064】
図5(b)に示すように、戴置台240は、平面視略円形の本体241と、本体241の捕集管1が戴置される面に形成され、捕集管1が嵌合して捕集管1を固定する平面視略円形の溝部242と、捕集管1と平面的に重なる領域に複数(図では4つ)形成され、捕集管1の内部に不活性ガスを供給する供給口243と、本体241の捕集管1と対向しない面に形成され、本体241を支持する固定台244と、を備える。溝部242の形状は戴置する捕集管1に対応したものである。
【0065】
本実施形態の戴置台240は、本体241の直径d1は75mm、溝部242の外周d2は54mm、内周d3は48mmであり、本体241の高さh4は10mmである。
【0066】
[2−2]測定方法
上記のような構成の測定装置200を用いて、捕集管1で捕集したSVOCの量を測定する。まず、SVOCを捕集した捕集管1を測定装置200の加熱装置210内に設置し、ガス供給装置230および接続管270を捕集管1に接続する。
【0067】
次いで、ガス供給装置230から所定の流量で不活性ガスを供給し、捕集管1内の空気を不活性ガスに置換した後、加熱装置210を例えば300℃程度の、SVOCの沸点近傍の温度にまで昇温する。このようにすると、空気中の酸素とSVOCとの反応が抑えられSVOCの分解を抑制することができ、捕集管1で捕集されていたSVOCを少ない損失で脱着させることができる。
【0068】
加熱前の不活性ガス供給時間は、5分間以上30分間以下とすると良い。5分間より短いと、不活性ガスによる置換が不十分であり、30分間より長いと、わずかずつ蒸発するSVOCが不活性ガスにより流され失われるおそれが生じる。
【0069】
捕集ポンプ290を稼動させ、脱着するSVOCを不活性ガスとともに吸引すると、SVOCは再捕集管260において再度捕集される。捕集ポンプ290の吸引速度(捕集流量)に対して、ガス供給装置230からの不活性ガスの供給速度はやや大きいと良い。例えば、捕集流量が0.20L/minである場合、0.25L/min程度のガス供給速度であると良い。ガス供給速度が捕集流量と比較して例えば倍以上に速く、供給量が多くなると、戴置台240と捕集管1とが接する面から不活性ガスが漏れ、漏れる不活性ガスと共にSVOCが漏れ出ることでSVOCの再捕集の効率が低下するおそれがある。
【0070】
再捕集管260にて濃縮されたSVOCは、ダイナミックヘッドスペース法を用い測定器280で測定し、捕集量を特定することができる。以上のようにしてSVOC量を測定することで、捕集管1で捕集した微量のSVOCが、例えば溶媒脱着法では測定不可能であるほど微量であったとしても、測定することが可能となる。
【0071】
[3]放散速度の計算
上述した各装置や方法を用いて得られる測定値を元に、被測定物Tから放散されるSVOC量を測定する。本発明の装置・方法を用いたSVOC放散量の測定試験では、単位時間あたりの被測定物TからのSVOC放散量を放散速度として求める。
【0072】
測定においては、予め図3に示す捕集装置100内のバックグラウンド濃度を測定し(バックグラウンド測定)、捕集環境の影響を測定しておく。バックグラウンド濃度とは捕集装置100に由来する環境濃度であり、テストチャンバ101内に清浄空気を吸気し、被測定物Tをテストチャンバ101内に配置しない条件で測定したSVOCおよび内部標準物質の濃度のことである。バックグラウンド測定は複数回行い、平均値を採用する。
【0073】
また、捕集装置100内に、内部標準物質を封入し上部に細管を有する容器(ディフュージョンチューブ)を内部標準物Sとして配置し、放散される内部標準物質の量も測定しておく(内標放散速度測定)。
【0074】
バックグラウンド測定では、捕集装置100を用いた捕集工程におけるバックグラウンド濃度C(μg/m)が得られる。
【0075】
内標放散速度測定では、試験前後の内部標準物Sの重量を精秤することで、内部標準物Sから放散した内部標準物質の重量W(mg)と、捕集管1に捕集された内部標準物質の濃度Cis(μg/m)と、が得られる。試験開始時点から規定する経過時間をtとすると、単位時間当たりに放散される内部標準物質の量(内部標準物質放散速度:EFis(μg/h))が次の式(1)から得られる。
【0076】
【数1】

【0077】
また、局所領域で放散された内部標準物質を希釈するのに有効な換気流入量(希釈流量:PFR(m/s))を次の式(2)から求めることが出来る。
【0078】
【数2】

【0079】
更に、上述した本発明の測定装置・測定方法を用いると、捕集管1に捕集されたSVOCの濃度C(μg/m)が得られる。ここで、内部標準物質について得られる希釈流量PFRが、SVOCの希釈流量と等しいとすると、試験開始時点から規定する経過時間において、被測定物Tの単位個数当たりに被測定物Tから放散されるSVOCの量(単位個数放散速度:EF(μg/(h・unit)))が次の式(3)から得られる。
【0080】
【数3】

【0081】
また、単位個数放散速度EFを被測定物Tの表面積で除した値である単位面積放散速度EF(μg/(h・m)を求めることもできる。以上のようにして、被測定物Tからの放散速度を測定することができ、放散速度を元に被測定物から放散するSVOCの放散量の大小を判断することができる。
【0082】
以上のような構成の捕集管1によれば、開口面積の広い流入口6から低濃度のSVOCを含む気体を取り入れるため、わずかにSVOCを含む気体から効率よくSVOCを捕集することができる。また、流出口8と比べ流入口6の開口面積が大きいため、流出口8での吸引速度に対して流入口6の吸引速度が遅くなり、捕集管1を介して空気を取り込む際に、捕集箇所の周囲の気流を乱しにくくなる。そのため、良好にSVOCを捕集することが可能な捕集管1とすることができる。
【0083】
また、本実施形態では、捕集管1はガラスで形成されていることとしている。そのため、SVOCの分解や夾雑物の混入を防ぎ好適に捕集することができる。
【0084】
また、以上のようなSVOCの測定方法によれば、効率的にSVOCを捕集し、捕集したSVOCを加熱脱着させることができるため、捕集管1で捕集した微量のSVOCを効率よく測定することができる。
【0085】
また、本実施形態では、捕集工程において、一方向に流れる気流の上流側に被測定物Tを配置すると共に、気流の下流側に捕集管1Aが備える気体の流入口6を上流側に対向して捕集管1Aを配置し、気流の流速V2よりも遅い流速V1で捕集管1Aを介した空気の吸引を行うこととしている。そのため、捕集管1Aの周囲の気流を変化させることなく、被測定物Tから放散され気流に乗って下流に到達するSVOCを捕集することができ、捕集箇所の周囲の空気を吸引して正確な測定が出来ないという不具合を回避することができる。
【0086】
また、本実施形態では、SVOCを捕集した捕集管1Aの加熱に先立って、捕集管1A内を不活性ガスで置換することすることとしている。そのため、SVOCの酸化・分解を防ぎ捕集下限を引き下げ、効率的な測定を行うことができる。
【0087】
また、以上のようなSVOCの測定装置によれば、捕集管1Aで捕集した微量のSVOCの量を確実に測定することができる。
【0088】
また、本実施形態では、ガス供給手段220は、捕集管1Aの流入口6と対向して捕集管1Aを戴置する戴置台240を備え、戴置台240は、捕集管1Aが嵌合する溝部242と、流入口6内に不活性ガスを供給する複数の供給口243を有すると共に、戴置台240は加熱装置210内に配置され、加熱装置210により加熱されることとしている。そのため、捕集管1Aが動かないように戴置させることが容易である。また、捕集管1A内に供給する不活性ガスが加熱された戴置台240を通過することから、供給される不活性ガスと加熱される捕集管1Aとの間に温度差が無くなる。そのため、脱着するSVOCが不活性ガスにより再度冷却されて再付着するという不具合を回避し、加熱脱着を良好に実施することができる。
【0089】
なお、本実施形態においては、捕集工程における気流の流れ方向が鉛直方向としたがこれに限らない。例えば、水平方向の気流を設定し、気流の上流に被測定物Tを配置して、気流の下流で被測定物Tから放散するSVOCを捕集することとしても良い。また、空調設備等による気流が生じている部屋の中で捕集することとしても良い。
【0090】
また、捕集管に残存する汚れや、試験中の輸送時等における汚染を考慮するため、空気捕集を除く全ての操作についてSVOCを捕集した捕集管1と同様に行った捕集管についてもSVOC量を測定し、この測定値(トラベルブランク)を考慮して放散量を求めると良い。
【実施例】
【0091】
次に、本発明の実施例について説明する。ここで説明する実施例では、測定精度の向上のため、SVOCの捕集工程に先立って、以下に説明する操作を行った。即ち、まず捕集管1の性状や大きさ、加熱装置での加熱条件等の測定条件を選択するため予備測定を行って測定条件を決定し、次いで決定した測定条件における測定器280のSVOCの検量線を作成した。予備測定としては、捕集管1を用いたSVOCの回収率と、捕集管1に捕集されず透過してしまう破過(ブレイクスルー)率とを測定した。
【0092】
捕集管1は、用いる前にアセトンを用いて表面の油分・ほこり等の汚れをふき取り、超音波洗浄機により純水で洗浄して、250℃の乾燥機の中で2時間乾燥させたものを使用した。
【0093】
(回収率測定)
回収率の測定は、まず、捕集管1Aの捕集板4に、後述するSVOCの0.1重量%エタノール溶液(標準溶液)を塗布して既知量のSVOCを捕集板4に吸着させ、その後、測定装置200を用いて捕集管1AからSVOCを加熱脱着させ、ダイナミックヘッドスペース法にて再捕集管260に回収した量(回収量)を測定した。
【0094】
一方、上記既知量と同量のSVOCを直接再捕集管260に吸着させ、ダイナミックヘッドスペース法にて再捕集管260に回収した量(全回収量)を測定した。両方の測定結果より、全回収量に対する回収量の比を求め、吸着させたSVOCの回収率を求めた。
【0095】
回収率測定に用いるSVOCとしては、測定対象とする任意のSVOCを選ぶことができる。例えば、被測定物から放散されることが予想されるSVOCを選択すると良い。本実施例では12種類のSVOCを選択して、各SVOCの標準溶液を作成し、図6に示すようにマイクロシリンジ30を用いて1μL塗布して吸着させた。標準溶液の濃度および塗布量から、吸着させたSVOCの正確な値を求めることができる。
【0096】
本実施例の標準溶液の作成に用いたSVOCは、ヘキサデカン(C16:n-Hexadecane)、エイコサン(C20:n-Eicosane)、2エチル−1−ヘキサノール(2E1H:2-Ethyl-1-hexanol)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT: Butylated hydroxyltoluene)、シロキサン6量体(D6:Dodecamethyl cyclohexasiloxane)、フタル酸ジエチル(DEP:Diethyl phthalate)、フタル酸ジブチル(DBP:Di-n-butyl phthalate)、フタル酸−2−エチルヘキシル(DEHP:Di (2-Ethylhexyl) phthalate)、アジピン酸ジブチル(DBA:Dibutyl adipate)、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOA:Di (2-Ethylhexyl) adipate)、リン酸トリブチル(TBP:Tributyl phosphate)、リン酸トリフェニル(TPP:Triphenyl phosphate)であった。標準溶液は、メタノール溶液としても良い。
【0097】
(破過率測定)
破過率の測定は、まず上述の標準溶液を塗布して既知量のSVOCを吸着させた捕集管1Aを、測定装置200を用いて捕集管1Aから常温(30℃)で5時間SVOCを脱着させ、上記方法を用いて回収率を測定した。次いで、30℃での回収率を求めた同じ捕集管1Aを用いて加熱脱着させ、上記方法を用いて回収率を測定した。両方の測定結果より、加熱脱着での回収率に対する常温での回収量の比を求め、捕集管1Aの破過率を求めた。
【0098】
回収率が80%を超える条件を選択すると、対象とするSVOCについて測定精度が高まり、より正確な測定を行うことができる。また、破過率が5%を越える場合には、石英ビーズ等の捕集材を充填した捕集管1Bを用い、捕集の効率を高めると良い。回収率測定および破過率の測定結果をもとに捕集管の種類を変更した場合には、再度回収率、破過率の測定を行う。
【0099】
(検量線作成)
回収率、破過率から測定可能な条件を求めた後、測定器280の検量線を作成し、捕集管1の校正を行った。上述した標準溶液を用い、捕集管1に10ng、50g、100ng、200ngのSVOCを吸着させ、得られる測定値および既知の回収率より検量線を作成した。
【0100】
以上のようにして決定した測定装置200の測定条件は、図7の表に示す通りである。図7(a)は、加熱装置210、ガス供給装置220、再捕集管260、捕集ポンプ290の各条件を示す。図7(b)(c)は、再捕集管260で捕集したSVOCの加熱脱着条件であり、(b)は液体窒素トラップ方式、(c)ペルチェ素子冷却トラップ方式による加熱脱着条件である。図7(d)は、測定器280の運転条件を示す。
【0101】
以上のような測定条件・計算条件を用い、被測定物としてテレビを測定した結果を図8の表に示す。本実施例では、被測定物であるテレビから放散されるトルエンの定常状態における放散量を求め、該放散量と比較した内部標準法を用いた。表に示すように、これまで困難であった、電化製品から放散する微量のSVOCの量を測定することができた。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明に係るSVOCの捕集管を示す説明図である。
【図2】本発明に係るSVOCの捕集管を示す説明図である。
【図3】本発明に係る捕集管を用いたSVOCの捕集工程の一例を示す模式図である。
【図4】本発明に係る捕集管を介した空気の吸引の様子を示す説明図である。
【図5】本発明に係る測定装置の説明図である。
【図6】本発明の捕集管にSVOCの標準溶液を付着させる様子を示す模式図である。
【図7】本発明の測定装置の測定条件の一例を示す表である・
【図8】実施例の測定結果を示す表である。
【図9】従来例の捕集管を介した空気の吸引の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0104】
1,1A,1B…捕集管、2…管状体、4…捕集板、6…流入口、8…流出口、10…捕集材、200…測定装置、210…加熱装置(加熱手段)、220…ガス供給装置(ガス供給手段)、240…戴置台、242…溝部、243…供給口、260…再捕集管(再捕集手段)、270…測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口を成すと共に他方の開口部が気体の流出口を成す管状体と、
前記流入口に配置された通気口を有する捕集板と、を備え、
前記流出口の開口面積よりも前記流入口の開口面積が大きいことを特徴とする準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項2】
両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口を成すと共に他方の開口部が気体の流出口を成す管状体と、
前記流入口に配置された通気口を有する捕集板と、を備え、
前記流出口の開口面積よりも前記流入口の開口面積が大きく、家電製品及び事務機器よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物を捕集することを特徴とする準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項3】
両端が開口し、一方の開口部が気体の流入口を成すと共に他方の開口部が気体の流出口を成す管状体と、
前記流入口に配置された通気口を有する捕集板と、を備え、
前記流出口の開口面積よりも前記流入口の開口面積が大きく、建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物を捕集することを特徴とする準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項4】
前記捕集板は、ガラスまたは石英で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項5】
前記管状体は、ガラスまたは石英で形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項6】
前記管状体と前記捕集板とに囲まれた空間に捕集材が充填されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項7】
前記捕集材は、ガラスビーズまたは石英ビーズであることを特徴とする請求項6に記載の準揮発性有機化合物の捕集管。
【請求項8】
被測定物から大気に放散する準揮発性有機化合物の放散量の測定方法であって、
請求項1から7に記載の捕集管を用い、該捕集管が備える気体の流入口から前記捕集管内に前記大気を取り入れ、前記大気中の前記準揮発性有機化合物を捕集する捕集工程と、
前記準揮発性有機化合物を捕集した捕集管を加熱して前記準揮発性有機化合物を放出する脱着工程と、
前記捕集管から脱着した前記準揮発性有機化合物を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする準揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項9】
家電製品及び事務機器よりなる群から選択される1種以上の被測定物から大気に放散する準揮発性有機化合物の放散量の測定方法であって、
請求項1から7に記載の捕集管を用い、該捕集管が備える気体の流入口から前記捕集管内に前記大気を取り入れ、前記大気中の前記準揮発性有機化合物を捕集する捕集工程と、
前記準揮発性有機化合物を捕集した捕集管を加熱して前記準揮発性有機化合物を放出する脱着工程と、
前記捕集管から脱着した前記準揮発性有機化合物を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする準揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項10】
建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品よりなる群から選択される1種以上の被測定物から大気に放散する準揮発性有機化合物の放散量の測定方法であって、
請求項1から7に記載の捕集管を用い、該捕集管が備える気体の流入口から前記捕集管内に前記大気を取り入れ、前記大気中の前記準揮発性有機化合物を捕集する捕集工程と、
前記準揮発性有機化合物を捕集した捕集管を加熱して前記準揮発性有機化合物を放出する脱着工程と、
前記捕集管から脱着した前記準揮発性有機化合物を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする準揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項11】
前記捕集工程は、所定の一方向に流れる気流の上流側に前記被測定物を配置すると共に、前記気流の下流側に前記捕集管が備える気体の流入口を前記上流側に対向して前記捕集管を配置し、
前記気流の流速よりも遅い流速で前記捕集管を介した大気の吸引を行うことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の準揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項12】
前記脱着工程では、前記捕集管の加熱に先立って前記捕集管内を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の準揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項13】
被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する測定装置であって、
請求項1から7のいずれか1項に記載の捕集管と、
前記捕集管が備える気体の流入口と接続し、前記捕集管内に不活性ガスを供給するガス供給手段と、
前記捕集管が備える気体の流出口と接続する再捕集手段と、
前記再捕集手段と接続する測定器と、
少なくとも前記捕集管を加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする準揮発性有機化合物の測定装置。
【請求項14】
前記ガス供給手段は、前記流入口側で前記捕集管を戴置する戴置台を備え、
前記戴置台は、前記捕集管が嵌合する溝部と、前記流入口内に前記不活性ガスを供給する複数の供給口を有すると共に、
前記加熱手段は、前記戴置台を加熱することを特徴とする請求項13に記載の準揮発性有機化合物の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−38701(P2010−38701A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201298(P2008−201298)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「家電製品などから放散される準揮発性有機化合物の放散量測定方法及び測定装置開発に関する研究」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【出願人】(591061208)株式会社三菱化学アナリテック (17)
【Fターム(参考)】