説明

準揮発性有機化合物の放散量測定方法および準揮発性有機化合物の放散量測定装置

【課題】被測定物からの準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量をより正確で高精度に求めることが可能な、準揮発性有機化合物の放散量測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】被測定物2から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法である。チャンバー3内に被測定物2と、被測定物2から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源4とを配置し、チャンバー3内の特定点Pを濃度測定位置に決定する。チャンバー3内に一方向層流の気流を生じさせ、その状態で濃度測定位置において空気を捕集する。捕集した空気中の準揮発性有機化合物の濃度と標準物質の濃度とを測定する。標準物質の濃度測定結果と標準物質の理論濃度との関係に基づき、準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して準揮発性有機化合物の放散量を求める。チャンバー3内の特定点Pは、一方向層流の気流中において、被測定物2の下流側となる点を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバー内に設置した被測定物から放散する準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量を測定する、方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機化合物等の化学物質による空気の汚染が社会的な問題となっている。世界保健機構(WHO)では、有機化合物の沸点により、これらの化学物質を以下の4グループに分類している。
【0003】
(1)沸点が<0〜50−100℃の超(高)揮発性有機化合物(VVOC:Very Volatile Organic Compounds)
(2)沸点が50−100〜240−260℃の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)
(3)沸点が240−260〜380−400℃の準揮発性有機化合物(SVOC:Semi−volatile Organic Compounds)
(4)沸点が>380℃の粒子状有機化合物(POM:Particulate Organic Compounds)
【0004】
超揮発性有機化合物(VVOC)に属する代表的な化学物質としては、ホルムアルデヒドがあり、揮発性有機化合物(VOC)属する化学物質としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、スチレンなどがある。また、準揮発性有機化合物(SVOC)に関しては、Dodecamethylcyclohexasiloxane (D6)、Butylated hydroxyltoluene (BHT)、Tributyl phosphate (TBP)、Tris (2-chloroethyl) phosphate (TCEP)、Dietyl phthalate (DEP)、Dibutyl phthalate (DBP)、Di (2-Ethylhexyl) phthalate (DEHP)、Dibutyl Adipate (DBA)、Di (2-Ethylhexyl) adipate (DOA)等がある。粒子状有機化合物(POM)としては、リン酸トリクレシル(TCP)殺虫剤、防蟻剤に用いられるクロルピリホス、ホスキム、ピリダフェンチオンなどがある。
【0005】
特に、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどの超揮発性有機化合物(VVOC)や揮発性有機化合物(VOC)については、健康に有害で、シックハウス症候群を引き起こす原因と考えられ、注目されており、厚生労働省のガイドラインにおいて、これら化学物質の室内濃度における指針値が定められている。
【0006】
そのため、揮発性有機化合物(VOC)の放散量(放散速度:単位時間当たりに放散されるVOCの質量)を正確に高精度で測定する必要がある。揮発性有機化合物(VOC)に関しては、測定方法の規格化が進められた結果、最近になって、JIS−A1901 「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法−小形チャンバー法」としてJIS化されている。
【0007】
一方、準揮発性有機化合物(SVOC)に関しては、これらの化学物質はプラスチックなどに可塑剤、難燃剤として多く含まれており、それらの中には内分泌攪乱作用や発ガン性、神経毒性を示すものもある。また、これらは揮発性有機化合物(VOC)より沸点が高いにもかかわらず、放散されることから、揮発性有機化合物(VOC)と同様に健康に影響を及ぼすおそれのある化学物質として、懸念されている。
【0008】
したがって、揮発性有機化合物(VOC)の場合と同様に、その放散量を正確に高精度で測定する必要がある。
ところが、準揮発性有機化合物(SVOC)は揮発性有機化合物(VOC)と異なり、室温条件下ではそのほとんどが室内壁面に吸着してしまう。そのため、被測定物を濃度測定用のチャンバーに配置し、このチャンバーの排気口で準揮発性有機化合物の濃度を測定しても、ほとんど準揮発性有機化合物が検出されず、正確な放散量の測定が極めて困難であった。したがって、準揮発性有機化合物(SVOC)の測定に、前記JIS−A1901の小形チャンバー法をそのまま応用することはできなかった。
【0009】
このような背景のもとに従来では、チャンバー内壁面への準揮発性有機化合物(SVOC)の吸着による測定誤差を少なくし、正確・高精度に測定を行うことができ、さらにチャンバーの加熱や洗浄が不要であり、被測定物を非破壊で測定することができる、準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量測定方法及び測定装置が提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
前記提案における放散量測定方法は、チャンバー内に設置した被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、流体力学シミュレーションにより前記チャンバー内の気流を解析して、前記チャンバー内に設置した前記被測定物から放散する化学物質の濃度が、瞬時一様拡散濃度を100とした時に、100±1〜20%となる領域を特定する工程(a)と、実際に前記チャンバー内に前記被測定物を設置して換気し、前記瞬時一様拡散濃度を100とした時に、100±1〜20%となる領域の空気を捕集し、前記準揮発性有機化合物の汚染濃度を測定する工程(b)を有する方法である。
【特許文献1】特開2006−275627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記方法によれば、瞬時一様拡散濃度を100とした時に、100±1〜20%となる領域を特定し、この領域の空気を捕集して準揮発性有機化合物の汚染濃度を測定しているので、ある程度信頼性が高い測定を行うことができる。しかしながら、もともとが微量濃度の測定であり、しかも、健康に影響を及ぼすおそれのある化学物質の濃度の測定であることから、より正確でより高精度に測定を行うことができる手法の提供が、強く望まれている。
【0012】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、被測定物からの準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量と、特定点で測定された測定値との間で良好な相関が得られ、これによって準揮発性有機化合物の放散量をより正確で高精度に求めることが可能な、準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量測定方法及び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明の準揮発性有機化合物の放散量測定方法では、チャンバー内に設置した被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、
前記チャンバー内に前記被測定物を配置するとともに、該被測定物の近傍に、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源を配置する工程と、
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる工程と、
前記一方向層流の気流を生じさせている状態で、前記濃度測定位置において空気を捕集する工程と、
前記捕集した空気中の前記準揮発性有機化合物の濃度を測定するとともに、該空気中の前記標準物質の濃度を測定する工程と、
前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求める工程と、を備え
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記一方向層流の気流中において、前記被測定物の下流側となる点を選択することを特徴としている。
【0014】
この準揮発性有機化合物の放散量測定方法によれば、被測定物の下流側となる点を特定点とし、ここで捕集した空気中の準揮発性有機化合物の濃度と標準物質の濃度とを測定し、さらに、前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求めるので、測定については容易に行うことが可能であり、さらに標準物質についての測定結果に基づく補正を行うことで、準揮発性有機化合物の放散量をより正確で高精度に求めることが可能になる。
【0015】
また、本発明の別の準揮発性有機化合物の放散量測定方法では、家電製品及び事務機器よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、
チャンバー内に前記対象物を被測定物として配置するとともに、該被測定物の近傍に、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源を配置する工程と、
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる工程と、
前記一方向層流の気流を生じさせている状態で、前記濃度測定位置において空気を捕集する工程と、
前記捕集した空気中の前記準揮発性有機化合物の濃度を測定するとともに、該空気中の前記標準物質の濃度を測定する工程と、
前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求める工程と、を備え
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記一方向層流の気流中において、前記被測定物の下流側となる点を選択することを特徴としている。
家電製品、事務機器は、室内で使用され、使用されているプラスチック中の可塑剤や難燃剤として、準揮発性有機化合物が比較的多く含まれているので、特に準揮発性有機化合物の測定が必要であり、これらを被測定物とすることにより、これらが健康に及ぼす影響を正確に把握することが可能になる。
【0016】
また、本発明のさらに別の準揮発性有機化合物の放散量測定方法では、建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、
チャンバー内に前記対象物を被測定物として配置するとともに、該被測定物の近傍に、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源を配置する工程と、
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる工程と、
前記一方向層流の気流を生じさせている状態で、前記濃度測定位置において空気を捕集する工程と、
前記捕集した空気中の前記準揮発性有機化合物の濃度を測定するとともに、該空気中の前記標準物質の濃度を測定する工程と、
前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求める工程と、を備え
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記一方向層流の気流中において、前記被測定物の下流側となる点を選択することを特徴としている。
建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品は、一定空間内での使用がなされ、使用されているプラスチック中の可塑剤や難燃剤として、準揮発性有機化合物が比較的多く含まれているので、準揮発性有機化合物の測定が必要であり、これらを被測定物とすることにより、これらが健康に及ぼす影響を正確に把握することが可能になる。
【0017】
また、前記放散量測定方法においては、前記一方向層流が鉛直層流であり、前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記被測定物の直上に位置する点を選択してもよい。
一方向層流を鉛直層流することにより、気流に対して重力の影響が偏ってしまうことがなく、したがって測定をより正確で高精度に行うことが可能になる。
【0018】
また、前記放散量測定方法においては、前記標準物質発生源を配置する工程では、前記標準物質発生源を、前記被測定物に接しない状態で該被測定物の側方に配置するのが好ましい。
被測定物に接しないようにすることで、準揮発性有機化合物を放散する表面を標準物質発生源で塞いでしまうことがなくなる。また、被測定物の側方に配置することにより、被測定物の周辺を通過しその下流側に流れる気流に対する影響が最小限に抑えられる。
【0019】
また、前記放散量測定方法においては、前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程では、流体力学シミュレーションを用いて特定点を決定するのが好ましい。
流体力学シミュレーションを用い、例えば前記の特許文献1においてなされるように、瞬時一様拡散濃度を100とした時に、100±1〜20%となる領域を特定し、この領域に特定点を決定するようにすれば、測定をより正確で高精度に行うことが可能になる。
【0020】
また、本発明の準揮発性有機化合物の放散量測定装置は、チャンバー内に設置した被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する装置であって、
給気口及び排気口を備え、前記被測定物を配置する前記チャンバーと、
前記チャンバー内の前記被測定物の近傍に配置される、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる気流発生手段と、
前記チャンバー内の予め決定した特定点で空気を捕集する捕集手段と、
前記捕集手段で捕集した空気中の、前記準揮発性有機化合物の濃度と前記標準物質の濃度とを測定する分析装置と、を備えたことを特徴としている。
【0021】
この準揮発性有機化合物の放散量測定装置によれば、一方向層流の気流を生じさせたチャンバー内において、予め決定した特定点で空気を捕集し、捕集した空気中の準揮発性有機化合物の濃度と標準物質の濃度とを分析装置で測定することで、それぞれの測定結果を得ることができる。したがって、前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正することにより、前記準揮発性有機化合物の放散量をより正確に高精度に求めることが可能になる。
【0022】
また、この準揮発性有機化合物の放散量測定装置においては、前記チャンバー内に給気される空気を清浄化するための空気清浄装置と、前記チャンバー内に給気される空気の温度を制御する温度制御装置と、前記チャンバー内に給気される空気の湿度を制御する湿度制御装置と、前記チャンバー内の換気量を計測するための流量計と、前記捕集手段に備えられる空気捕集ポンプと、を有しているのが好ましい。
このようにすることで、測定をより正確でより容易に行うことが可能になる。
【0023】
また、この準揮発性有機化合物の放散量測定装置においては、前記チャンバーが、前記給気口を、前記被測定物と前記標準物質発生源とが設置される面積を除く床面全面に有し、前記排気口を、天井面全面に有したものであるのが好ましい。
このようにすれば、前記一方向層流を鉛直層流にすることができ、したがって、気流に対して重力の影響が偏ってしまうことを抑え、測定をより正確で高精度にすることが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量測定方法及び測定装置によれば、被測定物の下流側である特定点で測定した標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して準揮発性有機化合物の放散量を求めるので、測定については容易に行うことができ、さらに標準物質についての測定結果に基づく補正を行うことで、準揮発性有機化合物の放散量をより正確で高精度に求めることができる。したがって、従来では困難であった準揮発性有機化合物の放散量を測定を、より容易にかつより正確に行えることで、例えば家電製品や事務機器から放散される準揮発性有機化合物の、健康に及ぼす影響等をより容易にかつより正確に解明することができる。また、例えば建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品から放散される準揮発性有機化合物の、健康に及ぼす影響等をより容易にかつより正確に解明することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳しく説明する。
まず、本発明の準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量測定装置の一実施形態について説明する。
[準揮発性有機化合物の放散量測定装置]
図1は、本発明における準揮発性有機化合物(以下、単にSVOCと記すこともある)の放散量測定装置の、一実施形態の概略構成を示す図であり、図1中符号1は準揮発性有機化合物の放散量測定装置(以下、放散量測定装置と記す)である。
【0026】
この放散量測定装置1は、内部に被測定物2を配置するチャンバー3と、このチャンバー3内において前記被測定物2の近傍に配置される標準物質発生源4と、分析装置5とを備えて概略構成されたものである。
チャンバー3は、図2に示すように例えば幅(W)2700mm、奥行き(D)2700mm、高さ(H)2700mmの立方体状のもので、ステンレス等の金属やガラスで形成された密閉可能なものである。ステンレス等の金属製とした場合、内面はそのままでもよく、ガラスまたは石英などでコーティングしてもよい。このチャンバー3は、4畳半の広さの居室にほぼ相当するため、テレビ(例えば、幅(w)600mm、奥行き(d)1200mm、高さ(h)600mm)などの被測定物2をそのままの状態で設置できるようになっている。
【0027】
このチャンバー3には、換気を行うべく気流を生じさせるため、給気口6及び排気口7が設けられている。給気口6は、チャンバー3の床面3a全体に形成されたもので、図1に示したように、この給気口6を介してチャンバー3の下方には前室8が設けられている。一方、排気口7は、チャンバー3の天井面3b全体に形成されたもので、この給気口6を介してチャンバー3の上方には後室9が設けられている。前記床面3aは、例えばステンレスからなるグレーチングによって形成されたもので、これによってこの床面3aのほぼ全体に、ほぼ均一に給気口6が形成されている。また、前記天井面3bは、例えばステンレスからなるパンチングメタルによって形成されたもので、これによってこの天井面3bのほぼ全体に、ほぼ均一に排気口7が形成されている。なお、床面3aや天井面3bとしては、前記のグレーチングやパンチングメタル以外にも、強度上支障がなければ、メッシュ板などを用いることもできる。
【0028】
前記前室8には、該前室8を介して給気口6よりチャンバー3内に空気を供給し、チャンバー3内に一方向層流の気流、本実施形態では鉛直層流を生じさせ、かつ、換気量を一定に制御できる気流発生手段10が設けられている。この気流発生手段10は、送風ファンやコンプレッサーなどからなる空気供給源11と、この空気供給源11から供給された空気を清浄化する空気清浄装置12と、流量調節器13と、流量計14とを備えて構成されたものである。
【0029】
空気清浄装置12は、塵埃等を除去するフィルターや、有機化合物の蒸気等を吸着除去する活性炭等の吸着剤などを有して構成されたものである。このような空気清浄装置12を備えることにより、チャンバー3内に十分に清浄な空気を供給することができ、したがって測定に関してのバックグラウンド濃度を十分に低く抑えることができる。
流量計14は、チャンバー3内への給気量、すなわちチャンバー3内の換気量を計測するためのもので、前記空気清浄装置12側に配設されたバルブ等の流量調節器13によって調節された空気の流量を示すものである。これら流量調節器13と流量計14とによってチャンバー3内への給気量(換気量)を設定した値にすることで、前記したようにチャンバー3内に鉛直層流(一方向層流)を生じさせることができる。
【0030】
なお、図示しないものの、この気流発生手段10には温度制御装置が設けられており、これによってチャンバー3内に供給する空気の温度が、所定の温度、例えば28±1.0℃に調整できるようになっている。
また、前記気流発生手段10には、例えば前記流量計14と前記前室8との間に湿度制御装置15が接続されている。この湿度制御装置15は、例えば前室8を介してチャンバー3内に流入する空気に対し、一定量の水分を付加することなどにより、この空気の湿度を所定の湿度、例えば相対湿度50±5%に調整するものである。
なお、これら温度制御装置や湿度制御装置15は、後述する温湿度モニタリング装置で検知された温度、湿度に基づいて自動制御され、チャンバー3内に流入する空気を前記の所定温度、所定湿度に調整するように構成されている。
【0031】
チャンバー3内には、図2に示したようにその床面3aに被測定物2が載置されるようになっており、また、その近傍には標準物質発生源4が配置されるようになっている。
被測定物2としては、電子計算機及び関連製品(例えば、パーソナルコンピュータ、表示装置、補助記憶装置)、音声機器(例えば、ステレオセット、デジタルオーディオディスプレーヤ)、映像機器(テレビ受像器、ビデオディスク録画再生機、ビデオカメラ)並びに冷蔵庫、電子レンジ、エアコンなどの家電製品とプリンター、コピー機などの消耗品を利用する事務機器が対象となる。なお、これら家電製品や事務機器等については、稼働中であるか否かは問わず、いずれもが被測定物2としての対象となる。
【0032】
また、この被測定物2としては、建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品も、準揮発性有機化合物の放散が問題となるので、対象となる。
【0033】
さらに、この被測定物2としては、プラスチック製、表面塗装した金属製などの非破壊状態の室内製品、建築設備機器、例えば、家庭用・オフィス用・教育施設用・公共施設用・店舗用の家具、什器、並びに建具なども対象となる。具体的には、タンス、本棚、書棚、食器棚、棚、仏具、ベット、カウンター、机、テーブル、サイドボード、ロッカー、ラック、いす、ベンチ、ソファー、スツール、黒板、掲示板、スタンド、ハンガー、ケース、保管庫、ワゴン、キャリアーなどの家具・什器;パーティション、間仕切り、障子、襖、ドアなどの建具などが挙げられる。
【0034】
標準物質発生源4は、前記被測定物2から放散しない標準物質を発生するものである。この標準物質としては、例えば通常の気中で殆ど検出されない重水素化物質、具体的にはToluene-d8、Styrene-d8、Ethylbenzene-d8等の揮発性有機化合物(VOC)の重水素化物質及びDBP、DEP等の準揮発性有機化合物(SVOC)の重水素化物質が用いられる。標準物質を入れる容器としては、従来公知のディフュージョンチューブが好適に用いられる。ディフュージョンチューブは、例えば直径が0.5〜1cm、拡散長さが約5.0cm 程度のものが用いられる。そして、このようなディフュージョンチューブに前記の標準物質が入れられたものが、本実施形態において標準物質発生源4として用いられる。なお、標準物質としては、前記の揮発性有機化合物(VOC)に代えて、準揮発性有機化合物(SVOC)を用いることもできる。
【0035】
このような構成からなる標準物質発生源4は、一定の条件のもとで、一定の速度(流量)で前記標準物質を発生するものとなる。なお、この標準物質発生源4は、測定対象となる被測定物2の近傍に配置され、これによって発生する標準物質が被測定物2から放散されるSVOCとほぼ同じ挙動を示すように構成される。ただし、被測定物2はその表面全体がSVOCの放散面となる可能性が高いため、この被測定物2に接しない状態で、標準物質発生源4を配置するのが好ましい。このように配置することで、この標準物質発生源4によって被測定物2のSVOCの放散面を塞いでしまうことがなく、したがってより正確に被測定物2からのSVOCの放散量を測定することができる。また、標準物質発生源4は、例えば被測定物2の上方に配置することなく、その側方に配置するのが好ましい。このようにすることで、被測定物2の周辺を通過しその下流側に流れる気流(鉛直層流)に対して標準物質発生源4が影響を与え、この気流を乱してしまうといったことを抑えることができる。
【0036】
また、チャンバー3内には、図1に示したようにその側壁面に温湿度モニタリング装置16が設けられている。この温湿度モニタリング装置16は、チャンバー3内の空気の温度と湿度とを検知し、前記の温度制御装置や湿度制御装置15にフィードバックするものである。このような構成のもとに前記の温度制御装置や湿度制御装置15は、前述したように、チャンバー3内に流入する空気を前記の所定温度、所定湿度に調整するようになっている。
【0037】
また、チャンバー3内には、予め決定された特定点Pにおいて、空気を捕集する捕集手段17が設けられている。特定点Pは、チャンバー3内において被測定物2から放散するSVOCの濃度の、空間代表性が最も高い地点とされる。このような地点は、例えば前記の特許文献1に記載されているように、流体力学シミュレーションを用いて決定することができる。すなわち、流体力学シミュレーションを用い、例えば瞬時一様拡散濃度を100とした時に、100±1〜20%となる領域を特定し、この領域に特定点を決定することができる。
【0038】
ここで、流体力学シミュレーションでは、市販の数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamic)シミュレーションソフトを組み込んだパソコン、大型コンピュータなどにより、チャンバー3内の気流を解析し、チャンバー3内に被測定物2を設置して換気した場合の被測定物2から放散する化学物質の濃度分布を、チャンバー内壁面に準揮発性有機化合物(SVOC)が吸着する現象も含めて、理論解析できるようになっている。
なお、本発明では、このような流体力学シミュレーションに代えて、実験のトレーサガス追跡法で特定点Pを選定(決定)することもできる。
【0039】
さらに、本発明では、前記の流体力学シミュレーションやトレーサガス追跡法を用いることなく、簡易的に特定点Pを決定することもできる。すなわち、本発明では気流を一方向層流としているので、この気流において、被測定物2から所定の距離をおいた下流側を、特定点Pとすることができる。つまり、本実施形態のように一方向層流を鉛直層流とした場合には、被測定物2の下流側はこの被測定物2の上方(真上)となる。そこで、被測定物2の高さをhとすると、床面3aからの特定点Pの高さHを、前記高さhの5〜10倍程度とするのが好ましく、5〜6倍程度とするのが望ましい。本発明者の実験によれば、特定点Pの高さHを高さhの5〜10倍程度にし、したがって被測定物2からの距離を(H−h)とすることで、被測定物2からのSVOCの放散量のバラツキが、5〜10%程度の範囲内に収まることが確認されている。
【0040】
なお、被測定物2から放散するSVOCは、平面視した場合に、被測定物2を中心にして放射状に拡がる。したがって、SVOCの壁面(側壁面)への吸着による影響を少なくするためには、被測定物2をチャンバー3の床面3aの中心部に配置するのが好ましく、特定点Pについても、被測定物2の直上にするべく、平面視した場合に、床面3aの中心部に一致する点とするのが好ましい。よって、本実施形態では、このような点を特定点Pとしている。このように特定点Pを被測定物2の直上にすることにより、鉛直層流である気流に対して重力の影響が偏ってしまうことがなく、したがって測定をより正確で高精度に行うことができる。
【0041】
このような特定点Pに配置される捕集手段17は、ガラスビーズ等の捕集剤を充填した捕集管18と、捕集管18に接続される空気捕集ポンプ19とを有して構成されたものである。空気捕集ポンプ19は、一定速度で空気を吸引するようになっており、これによって捕集管18は、チャンバー3内の空気を一定流量で該捕集管18中に通過させ、空気中に含まれるSVOCや前記標準物質を捕集剤で吸着・捕集するようになっている。
【0042】
捕集管18としては、例えばTenax−TA吸着管などの公知の空気捕集管や、図3に示すようなロート型のサンプラー50が用いられる。サンプラー50は、空気捕集ポンプ19に接続する管部51に比べ、チャンバー3内に開口させられる開口部52の方が開口径が格段に大きいので、空気捕集ポンプ19によって所定の速度(流量)で空気を吸引した際、開口部52から吸引する空気の線速(流速)u1を十分小さくすることができる。したがって、この線速u1をチャンバー3内の気流(鉛直層流)の線速(流速)u2と同じかこれより小さくすることにより、被測定物2や標準物質発生源4を通過してくる気流を乱すことなく、これらから放散された物質を含む空気をより自然なかたちで吸入することができる。
【0043】
また、このような捕集管18は、チャンバー3内の空気を所定量通過させてSVOCや標準物質を捕集剤で捕集した後、この捕集剤からSVOCや標準物質を脱着させることでこれらを回収できるようになっている。
なお、空気捕集ポンプ19はチャンバー3の外に配置されており、したがってこの空気捕集ポンプ19と捕集管18との間には接続管(図示せず)が設けられる。この接続管については、チャンバー3の天井面や側壁面に密着させて配置し、チャンバー3内の気流の性状への影響を最小限に抑えるようにしておく。
【0044】
分析装置5は、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)、又は、水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(GC/FID)などの市販の分析機器からなるものであり、前記捕集管18から回収されたSVOCや標準物質を定量するものである。
また、チャンバー3には、前述したように排気口7を介して後室9が設けられており、この後室9には、チャンバー3内に所望の鉛直層流を生じさせるため、流量計20と捕流量調節器21とが備えられている。そして、これら流量計20および捕流量調節器21と、前記気流発生手段10の流量調節器13と流量計14とにより、チャンバー3内の換気量が予め設定した所定の量となるように調節される。
【0045】
[準揮発性有機化合物の放散量測定方法]
次に、本発明における準揮発性有機化合物の放散量測定方法の一実施形態を、図1に示した放散量測定装置1を用いた測定方法に基づいて説明する。
この放散量測定方法では、図4の工程図に示すように、まず、チャンバー3内に被測定物2を配置するとともに、該被測定物2から放散されるSVOCの測定点(捕集点)となる特定点Pの位置を決定する(工程A)。そして、この特定点Pを濃度測定位置とし、ここに前記捕集手段17の捕集管18を配置する。
【0046】
特定点Pの決定については、前述したように、流体力学シミュレーションを用いたり、実験のトレーサガス追跡法を用いて行うこともできるが、本実施形態では前記した簡易的な手法で特定点Pを決定する。すなわち、鉛直層流の気流中において前記被測定物2の下流側となるように、該被測定物2の中心(重心)位置のほぼ直上(鉛直方向上方)であり、該被測定物2の高さhに対し、5〜6倍程度の高さ位置を特定点Pとする。また、この工程Aと同時に、あるいはその前後において、前記被測定物2の近傍に標準物質発生源4を配置する。その際、この標準物質発生源4を、記被測定物2に接しない状態で該被測定物2の側方に配置し、かつ、標準物質を発生する側を上に向けて配置する。
【0047】
次に、気流発生手段10を作動させ、給気口6よりチャンバー3内に空気を供給することにより、チャンバー3内に一方向層流(鉛直層流)を生じさせる(工程B)。その際、気流発生手段10の流量調節器13と後室9側に設けられた捕流量調節器21とを調節し、流量計14、流量計20によってチャンバー3の入口側とで出口側の流量を確認することにより、チャンバー3内が所定の換気量で鉛直層流を生じるようにする。本実施形態では、チャンバー3内の鉛直層流の平均風速を0.04m/sとする。
【0048】
このようにしてチャンバー3内に所定風速の鉛直層流を生じさせると、被測定物2から放散したSVOCはこの鉛直層流に同伴されて上昇する。同様に、標準物質発生源4から発生した標準物質も、鉛直層流に同伴されて上昇する。ただし、これらSVOCや標準物質は、鉛直層流に同伴されて上昇しつつ、側方に放射状に拡散する。しかし、前記したように濃度測定位置となる捕集管18の位置を、予め決定した特定点Pとしているので、SVOCや標準物質が放射状に拡散してチャンバー3の内側面(壁面)に吸着されることによる測定への影響、つまり誤差要因が、最小限に抑えられている。
【0049】
なお、チャンバー3内に給気される空気については、空気清浄装置12を通ることで十分に清浄化され、さらに、温度が28±1.0℃に調整されるとともに、相対湿度が50±5%に調整されている。また、チャンバー3内の温湿度モニタリング装置16によってチャンバー3内を流れる空気の温度と湿度とが検知され、温度、湿度ともに前記の所定範囲を維持するように、自動調整されている。
【0050】
このようにしてチャンバー3内に所定風速の鉛直層流を生じさせたら、捕集手段17の空気捕集ポンプ19を作動させ、前記特定点Pの捕集管18の開口部より、一定の流量で所定の時間空気を吸入し、捕集する(工程C)。これにより、吸入した空気中に存在するSVOCと標準物質、すなわち被測定物2から放散したSVOCと標準物質発生源4から発生した標準物質とを、捕集管18内の捕集剤に吸着・捕集する。
【0051】
次いで、このようにしてSVOCと標準物質とを捕集した捕集管18をチャンバー3から取り出し、捕集剤から脱着させたSVOC及び標準物質の量をそれぞれ分析装置5によって定量する。これにより、捕集した空気中のSVOCの濃度と、標準物質の濃度とをそれぞれ測定(算出)する(工程D)。
ここで、捕集剤からSVOC及び標準物質を脱着させる方法としては、熱脱着法または溶媒脱着法が用いられる。
【0052】
熱脱着法は、前記捕集管18を所定温度で加熱し、捕集剤からSVOC及び標準物質を脱着させてこれらを別に用意した再捕集部に再度吸着させ、ここで濃縮する方法である。このようにして再捕集部にSVOC及び標準物質を濃縮吸着させた後、この再捕集部を前記分析装置5に直結させる。その後、この再捕集部を加熱してSVOC及び標準物質を再度脱着させてこれらを分析装置5内に導入し、それぞれの量を測定することにより、濃度を求める。
溶媒脱着法は、前記捕集管18の捕集剤から溶媒を用いてSVOC及び標準物質を溶出させる。そして、このSVOC及び標準物質を溶出させた溶液を直接前記分析装置5に導入することにより、SVOC及び標準物質のそれぞれの量を測定し、濃度を求める。
【0053】
ここで、測定対象となる準揮発性有機化合物(SVOC)は、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)などのフタル酸エステル;アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOA)などのアジピン酸エステル;トリブチルホスフェート(TBP)、トリ(クロロエチル)ホスフェート(TCEP)などのリン酸エステル;ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、シロキサン、ヘキサデカン、エイコサンなどの脂肪族炭化水素;2−エチル−1−ヘキサノールなどのアルコール等が挙げられる。
また、標準物質としては、前記したようにToluene-d8、Styrene-d8等が用いられる。
【0054】
その後、求めたSVOCの濃度をC(S)1とし、標準物質の濃度をC(標)1とすると、標準物質の濃度C(標)1(濃度測定結果)と該標準物質の理論濃度C(標)2との関係に基づき、準揮発性有機化合物(SVOC)の濃度C(S)1(濃度測定結果)を補正して、準揮発性有機化合物(SVOC)の補正後の濃度、つまり放散量C(S)2を算出する(工程E)。
【0055】
すなわち、標準物質の理論濃度C(標)2とその測定結果である濃度C(標)1との関係から、以下の式に示すように希釈流量Qが求まる。
Q=C(標)2/C(標)1
したがって、この希釈流量Qを用いることにより、以下の式に示すように準揮発性有機化合物(SVOC)の濃度C(S)1(濃度測定結果)を補正し、前記被測定物2から放散される準揮発性有機化合物(SVOC)の濃度、すなわち放散量C(S)2が求められる(算出される)。
C(S)2=C(S)1×Q
【0056】
なお、前記の標準物質の理論濃度C(標)2については、標準物質発生源4の重量を測定前と測定後で秤量し、減少した標準物質の重量と、チャンバー3内の換気量、捕集管18に通気させた空気量、及び時間等から換算して求める。
また、前記測定濃度C(標)1、C(S)1については、予めバックグランウンド濃度を測定しておき、この濃度を差し引いた濃度とする。ただし、標準物質については、前記したように通常の気中で殆ど検出されない重水素化物質(Toluene-d8、Styrene-d8等)を用いている場合、これのバックグランウンド濃度はゼロとして、予め測定しておく必要はない。
【0057】
そして、前記各濃度C(標)1、C(標)2、C(S)1、C(S)2については、それぞれチャンバー3内の換気量や捕集管18に通気させた空気量、時間等から換算することにより、被測定物をチャンバー3内に入れてから経過時間tにおける単位個数当たりの拡散速度EFu[μg/(unit・h)]を、以下の式で求めることができる。
EFu=Q×(C(S)t−C(S)b)
(ただし、前記式中のC(S)tは、被測定物をチャンバー3内に入れてから経過時間tにおけるSVOCの測定濃度[μg/m]であり、C(S)bは予め求めたSVOCのバックグランウンド濃度[μg/m]である。)
【0058】
本実施形態の測定装置1とこれを用いた測定方法によれば、被測定物2の下流側となる点を特定点Pとし、ここで捕集した空気中の準揮発性有機化合物(SVOC)の濃度と標準物質の濃度とを測定し、さらに、希釈流量Qを求めてこの希釈流量Qから準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正し、被測定物2から放散される準揮発性有機化合物の量(放散量)を例えば単位個数当たりの拡散速度EFuとして求めるので、測定については容易に行うことができ、さらに標準物質についての測定結果に基づく補正を行うことで、準揮発性有機化合物の放散量をより正確で高精度に求めることができる。したがって、例えば家電製品や事務機器から放散される準揮発性有機化合物の、健康に及ぼす影響等をより容易にかつより正確に解明することができる。
【0059】
また、チャンバー3の内壁面への準揮発性有機化合物(SVOC)の吸着による影響をほとんど受けることなく測定できるため、チャンバー3内を加熱して吸着している成分を脱着させてわざわざ捕集する必要や、チャンバー3内を溶剤などで洗浄し、壁面に吸着している成分を溶出して分析する必要がなく、したがってエネルギーコスト、手間などの点で簡略な手法となり、大型チャンバーへの適用も容易になる。
また、被測定物2を非破壊状態でチャンバー内に設置し、室温で測定できるため、被測定物2を破損したり悪影響を及ぼすことがなく、測定終了後、被測定物2をそのまま通常どおり使用することができる。
【0060】
なお、本発明の測定装置及び測定方法は、測定対象の化学物質を準揮発性有機化合物(SVOC)としているが、これ以外の化学物質の測定にも応用することができる。このため、準揮発性有機化合物(SVOC)と同時に、チャンバー内壁面への吸着の程度を考慮して、超揮発性有機化合物(VVOC)や揮発性有機化合物(VOC)を測定することも可能である。
【0061】
また、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、前記実施形態では、図1に示したようにチャンバー3内に発生させる気流である一方向層流を鉛直層流としたが、これに代えて、図5に示すように水平層流としてもよい。
すなわち、図5に示すようにチャンバー3として風洞型のものを用い、一方の側(入口側)から他方の側(出口側)に向けて、水平に気流(水平層流)を生じさせるようにしてもよい。その際にも、入口側に被測定物2と標準物質発生源4とを配置し、被測定物2の下流側、すなわち出口側に、所定距離をおいて特定点Pを決定する。その際、被測定物2の幅(奥行き)をdとすると、この被測定物2の入口側の面からの特定点Pまで距離Dを、前記幅dの5〜10倍程度とするのが好ましく、5〜6倍程度とするのが望ましい。本発明者の実験によれば、このように水平層流とした場合にも、特定点Pまでの距離Dを幅dの5〜10倍程度にし、したがって被測定物2からの距離を(D−d)とすることで、被測定物2からのSVOCの放散量のバラツキが、5〜10%程度の範囲内に収まることが確認されている。
したがって、このようにしても、特定点PでのSVOCについての測定結果を希釈流量Qで補正することにより、被測定物2からの準揮発性有機化合物の放散量を、より正確で高精度に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る準揮発性有機化合物の放散量測定装置の、一実施形態の概略構成図である。
【図2】チャンバーとその内部の概略構成を示す図である。
【図3】捕集管の一例を示す図である
【図4】放散量測定方法の工程図である。
【図5】一方向層流を水平層流とした場合のチャンバーの概略構成図である。
【符号の説明】
【0063】
1…準揮発性有機化合物(SVOC)の放散量測定装置、2…被測定物、3…チャンバー、4…標準物質発生源、5…分析装置、6…給気口、7…排気口、10…気流発生手段、11…空気供給源、12…空気清浄装置、13…流量調節器、14…温湿度制御装置、16…温湿度モニタリング装置、17…捕集手段、18…捕集管、19…空気捕集ポンプ、20…流量計、21…流量調節器、P…特定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に設置した被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、
前記チャンバー内に前記被測定物を配置するとともに、該被測定物の近傍に、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源を配置する工程と、
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる工程と、
前記一方向層流の気流を生じさせている状態で、前記濃度測定位置において空気を捕集する工程と、
前記捕集した空気中の前記準揮発性有機化合物の濃度を測定するとともに、該空気中の前記標準物質の濃度を測定する工程と、
前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求める工程と、を備え
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記一方向層流の気流中において、前記被測定物の下流側となる点を選択することを特徴とする準揮発性有機化合物の放散量測定方法。
【請求項2】
家電製品及び事務機器よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、
チャンバー内に前記対象物を被測定物として配置するとともに、該被測定物の近傍に、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源を配置する工程と、
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる工程と、
前記一方向層流の気流を生じさせている状態で、前記濃度測定位置において空気を捕集する工程と、
前記捕集した空気中の前記準揮発性有機化合物の濃度を測定するとともに、該空気中の前記標準物質の濃度を測定する工程と、
前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求める工程と、を備え
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記一方向層流の気流中において、前記被測定物の下流側となる点を選択することを特徴とする準揮発性有機化合物の放散量測定方法。
【請求項3】
建築材料、自動車内装材、半導体材料を含む各種材料及び半導体関連製品よりなる群から選択される1種以上の対象物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する方法であって、
チャンバー内に前記対象物を被測定物として配置するとともに、該被測定物の近傍に、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源を配置する工程と、
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる工程と、
前記一方向層流の気流を生じさせている状態で、前記濃度測定位置において空気を捕集する工程と、
前記捕集した空気中の前記準揮発性有機化合物の濃度を測定するとともに、該空気中の前記標準物質の濃度を測定する工程と、
前記標準物質の濃度測定結果と該標準物質の理論濃度との関係に基づき、前記準揮発性有機化合物の濃度測定結果を補正して前記準揮発性有機化合物の放散量を求める工程と、を備え
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記一方向層流の気流中において、前記被測定物の下流側となる点を選択することを特徴とする準揮発性有機化合物の放散量測定方法。
【請求項4】
前記一方向層流が鉛直層流であり、
前記チャンバー内の特定点を決定する工程では、前記被測定物の直上に位置する点を選択することを特徴とする請求項1、2又は3のいずれか一項に記載の準揮発性有機化合物の放散量測定方法。
【請求項5】
前記標準物質発生源を配置する工程では、前記標準物質発生源を、前記被測定物に接しない状態で該被測定物の側方に配置することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の準揮発性有機化合物の放散量測定方法。
【請求項6】
前記チャンバー内の特定点を濃度測定位置に決定する工程では、流体力学シミュレーションを用いて特定点を決定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の準揮発性有機化合物の放散量測定方法。
【請求項7】
チャンバー内に設置した被測定物から放散する準揮発性有機化合物の放散量を測定する装置であって、
給気口及び排気口を備え、前記被測定物を配置する前記チャンバーと、
前記チャンバー内の前記被測定物の近傍に配置される、前記被測定物から放散しない標準物質を発生する標準物質発生源と、
前記チャンバー内に、一方向層流の気流を生じさせる気流発生手段と、
前記チャンバー内の予め決定した特定点で空気を捕集する捕集手段と、
前記捕集手段で捕集した空気中の、前記準揮発性有機化合物の濃度と前記標準物質の濃度とを測定する分析装置と、を備えたことを特徴とする準揮発性有機化合物の放散量測定装置。
【請求項8】
前記チャンバー内に給気される空気を清浄化するための空気清浄装置と、
前記チャンバー内に給気される空気の温度を制御する温度制御装置と、
前記チャンバー内に給気される空気の湿度を制御する湿度制御装置と、
前記チャンバー内の換気量を計測するための流量計と、
前記捕集手段に備えられる空気捕集ポンプと、を有することを特徴とする請求項7記載の準揮発性有機化合物の放散量測定装置。
【請求項9】
前記チャンバーが、前記給気口を、前記被測定物と前記標準物質発生源とが設置される面積を除く床面全面に有し、前記排気口を、天井面全面に有したものであることを特徴とする請求項7又は8に記載の準揮発性有機化合物の放散量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−38700(P2010−38700A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201297(P2008−201297)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「家電製品などから放散される準揮発性有機化合物の放散量測定方法及び測定装置開発に関する研究」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【出願人】(591061208)株式会社三菱化学アナリテック (17)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】