説明

溝加工装置を備えたエレベータ装置

【課題】 工具破損の発生を抑えつつ、要求の溝形状に修正できる溝加工装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
エレベータ装置は、ロープで懸架されたかごと、ロープが巻き掛けられ、径方向の位置基準となる基準面を有する溝車と、旋削工具と、旋削工具を溝車の径方向に移動する第1の可動部と、旋削工具を溝車の回転軸方向に移動する第2の可動部と、溝車の基準面の位置を計測する位置測定装置と、旋削工具の送り量の基準となる基準送り設定値と位置測定装置で計測された位置測定値を記憶し、基準送り設定値と位置測定値に基づいて第1の可動部と第2の可動部の位置を制御する制御装置とを備えている。制御装置は、溝車の旋削開始時に計測された基準面の位置測定値と溝車の旋削中に計測された基準面の位置測定値の差と基準送り設定値から旋削工具の径方向の送り量を算出し、この算出された送り量に基づいて第1の可動部を溝車の径方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータ装置に関し、特に、ロープの回転により磨耗する溝車の再生に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ、クレーン、リフト、ロープウエイ、ケーブルカー等はロープ駆動装置を備えている。ロープ駆動装置では、駆動機の動力によって溝車が回転すると、ロープとロープ溝との間に摩擦力が発生する。溝車に形成されたアンダーカット溝がロープを確実に把持するので、安定した摩擦力が確保される。溝車の回転に連動してロープは移動し、かごが昇降する。ロープ溝は、長期間使用されるうちに、ロープの微小すべり等によって徐々に摩耗する。ロープ溝の摩耗の進行速度は溝ごとに異なる。所望の摩擦力と送り出し量が得られなくなると、駆動力の伝達効率は低下する。
【0003】
特許文献1は、溝加工装置を備えたロープ駆動装置を開示している。ロープ溝はロープの断面形状に近似された断面を持つ回転型の研削砥石(ボール砥石)を用いて修正加工される。修正加工の効率化を図るため、砥石に対する、研削負荷と溝車の径方向の相対位置が測定され、加工位置の制御が行われる。溝加工装置は、ロープが巻き掛けられていない部分に設置されているため、ロープ溝の修正加工時にロープを取り外す必要はない。特許文献2は、工具位置調整機構(バイト台など)を備えたロープ駆動装置において、ロープを取り外して溝修正加工を行う方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−87132号公報
【特許文献2】特開昭61−65703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の溝加工装置にあっては、溝車がその回転軸方向に変位した場合、工具に強制変位が発生する。その結果、工具に過負荷がかかり、工具が破損することが考えられる。破損に至らないまでも、所望の溝形状が得られない、工具が回転砥石であるためアンダーカット溝の深さを修正できないなどの課題が存在する。ロープ溝の修正加工を行うたびに、アンダーカット溝の深さが減少すると、ロープの把持力が低下するため、駆動力の伝達効率が低下する。
【0006】
アンダーカット溝の修正加工用工具を、回転砥石から旋削バイトに変更することを考えてみる。回転工具を対象にする負荷検出装置を用いたとしても、旋削の加工負荷(切り込み負荷)を直接測定することは困難である。旋削バイトは回転軸方向の位置を固定して加工することが一般的なので、回転軸方向に変位する被加工物を旋削バイトで加工すると、旋削バイトが破損する。
【0007】
この発明は、上記のような溝加工装置における課題を解決するためになされたものであり、工具破損の発生を抑えつつ、形状精度の高い溝加工を実現することを目的とする。その結果として、溝修正加工に要する時間の短縮を目指す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る溝加工装置を備えたエレベータ装置は、ロープで懸架されたかごと、ロ
ープが巻き掛けられ、径方向の位置基準となる基準面を有する溝車と、溝車に対向する位置に配置される旋削工具と、旋削工具を溝車の径方向に移動する第1の可動部と、旋削工具を溝車の回転軸方向に移動する第2の可動部と、溝車の基準面の位置を計測する位置測定装置と、旋削工具の送り量の基準となる基準送り設定値と位置測定装置で計測された位置測定値を記憶し、基準送り設定値と位置測定値に基づいて第1の可動部と第2の可動部の位置を制御する制御装置とを備えている。制御装置は、溝車の旋削開始時に計測された基準面の位置測定値と溝車の旋削中に計測された基準面の位置測定値の差と基準送り設定値から旋削工具の径方向の送り量を算出し、この算出された送り量に基づいて第1の可動部を溝車の径方向に移動する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、溝車の軸受けの回転ブレによる食い付き傷或いは工具破損を防止できるので、不適正な溝形状を避けて、要求される溝形状を確実に実現できる。また、工具の摩耗や、異物の噛み込みなどによる急激な加工異常にも対応でき、食い込み傷や過負荷による工具破損、装置故障を防止できる。工具交換、傷修正、装置修理等の非加工時間が短縮され、ロープを取り外す必要も無いので、結果として、効率的に溝の修正加工を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本願に関わるエレベータ装置と溝加工装置の関係を示す側面概略構成図である。
【図2】新規設置直後の駆動綱車の形状を示す概略図である。
【図3】溝加工装置と制御装置の関係を示す図である。
【図4】溝加工によって加工粉が発生している状態を示す側面図である。
【図5】磨耗が進行した駆動綱車の形状を示す概略図である。
【図6】そらせ車の形状を示す側面図である。
【図7】エレベータ装置の昇動作で生じる、溝車の回転軸方向への移動量と溝車の径方向への移動量を測定したグラフである。
【図8】実施の形態1に関わる溝加工装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態2に関わる溝加工装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態3に関わる溝加工装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図11】実施の形態4に関わる溝加工装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図12】実施の形態5における溝加工装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明における溝加工装置を備えたエレベータ装置を示す側面概略構成図である。エレベータ装置100はかご1、ロープ2、釣合い重り3、ロープ駆動装置10などから構成されている。ロープ駆動装置10は溝車(駆動綱車)4、固定体5、溝車(そらせ車)6、溝加工装置7(7aおよび7b)などから構成されている。かご1はロープ2で懸架されている。ロープ2は、一端がかご1に固定され、他端は釣合い重り3に固定されている。溝車4と溝車6にはロープ2が巻き掛けられている。溝車4と溝車6は固定体5に固定され、機械室等に設置される。溝車6はかご1と釣合い重り3の懸架位置を合わせるために使われる。溝加工装置7aは、固定体5に上向きに取り付けられていて、溝車4のロープ溝を修正加工する。溝加工装置7bは、固定体5に下向きに取り付けられていて、溝車6を修正加工する。
【0012】
図2はエレベータ装置の新規設置直後の溝車4の形状を示す概略断面図である。溝車4は、スムースなロープ駆動を狙い、その溝形状は高精度(通常50〜100μm)に加工されている。溝車4は駆動機(巻上げ機)11によって回転する。駆動機11は固定体5に固定されている。溝車4には、ロープ2を巻き掛けるため複数のロープ溝4aが形成さ
れている。ロープ溝4aにはアンダーカット溝4cが底に形成され、クサビ作用によりロープ2を確実に把持する。溝車4は回転軸方向(X方向:図2の紙面の左右方向)の基準面4xと、径方向(Z方向:図2の紙面の上下方向)の基準面4zを基準にして加工される。ロープ2による摩耗を受けないように、基準面4xは溝車の側面に、基準面4zは溝車の上辺部に、それぞれ設けられている。
【0013】
図3は溝加工装置7aと溝車4の関係を示す側面図である。溝加工装置7bと溝車6の関係も同様である。溝車4には対向する位置に工具(旋削バイト)9が配置されている。取付部8は溝加工装置7の基部を成し、固定体5に溝加工装置7を着脱自在に固定する。工具9は工具ホルダ91に取り付けられていて、ロープ溝4aを旋削加工する。可動支持部13はX方向可動部14とZ方向可動部15から構成され、取付部8と工具9の間に設けられる。X方向可動部14は工具9を溝車4の回転軸方向に移動する。Z方向可動部15は工具9を溝車4の径方向に移動する。制御装置23はX方向可動部14とZ方向可動部15に接続ケーブル51で接続されている。集塵機18は工具ホルダ91に接続される。工具9と集塵機18と工具ホルダ91などが溝加工装置7の加工部になる。
【0014】
位置測定装置20はZ方向可動部15に取り付けられ、溝車4の基準面4zの位置を測定する。位置測定装置48(48aおよび48b)はロープ駆動装置の固定体5に取り付けられ、溝車4の基準面4xの位置を測定する。例えば、位置測定装置48aと位置測定装置48bは、溝車4の回転中心に対して対称に配置されていて、基準面4xの異なる部分を測定する。負荷測定装置22は、工具9の径方向の、移動(切り込み)負荷、または、その位置に保持する保持負荷を測定する。負荷測定装置49は、工具9の回転軸方向の、移動負荷または保持負荷を測定する。制御装置23は、位置測定装置20からの径方向の位置測定値、位置測定装置48からの回転軸方向の位置測定値、負荷測定装置22からの径方向の負荷測定値、負荷測定装置49からの回転軸方向の負荷測定値をもとにX方向可動部14とZ方向可動部15の送り量を算出し、可動支持部13に出力する。X方向可動部14とZ方向可動部15は算出された送り量に基づいて工具9を移動するので、工具9は溝車4の適切な位置を加工する。
【0015】
アンダーカット溝4cMは、溝車4に複数個設けられたアンダーカット溝4cのうち、再生が済んだものを指している。溝車4と溝車6を、工具9によって旋削除去加工すると加工粉が発生し、加工粉は重力により鉛直下方に落下する。図4は溝加工装置7aで溝車4を旋削加工している状態を示している。集塵機18は集塵孔19を通じて加工粉17を収集する。集塵孔19は、工具9のおおよそ鉛直下方になるように、また、加工に際して邪魔にならない位置に、配置する。この例では、集塵孔19を工具ホルダ91に取り付けている。集塵孔19の開口は加工粉17の飛散に若干の広がりを考慮した面積を有する。集塵機18は、周囲の空気と一緒に、集塵孔19に捕捉された加工粉17を吸い込むので、加工粉17をほぼ100%収集する。
【0016】
通常、加工粉17のロープ2への付着によるロープすべりの増加を防止するために、十分な清掃作業が加工後に必要である。集塵機18によって確実な加工粉17の回収が可能なため、加工粉17のロープ2への付着やロープ溝への付着を防止できる。加工粉17によるX方向可動部14とZ方向可動部15の摺動面への侵入や、工具9の刃先の噛み込みなども抑制され、加工精度の低下を防止できる。さらに、加工中や加工後の清掃作業を省略でき、修正加工作業を効率的に実施できる。なお、上記説明では集塵孔19を工具ホルダ91に取り付けるとしたが、鉛直下方であれば、このような取り付け関係に限定する必要はなく、加工において邪魔にならなければどこでもよい。
【0017】
図5は磨耗が進行した溝車4の形状を示す概略図である。溝車4は、軸受けにより回転自在に保持されている。軸受の内部にある転動体(ボールやコロなど)は、使用初期にお
いて同一径でも、長期使用で摩耗が進行すると径の差異は数十μmにもなる。転動体の磨耗の進行とともに、溝車4の回転は完全な円運動から不正回転に移る。溝車4の回転中の状態を知るために、本願に関わる溝加工装置7aは、基準面4xの回転中の位置を測定する位置測定装置48と、基準面4zの回転中の位置を測定する位置測定装置20を備えている。
【0018】
図6は溝車(そらせ車)6の形状を示している。溝車6は、軸受けにより回転自在に保持され、ロープ2の摩擦力によって回転する。溝車6には、溝車4と同様に、半円状のロープ溝6aが形成されているが、アンダーカット溝はない。溝車6は回転軸方向の基準面6xと径方向の基準面6zを基準にして加工される。溝加工装置7bは、基準面6xの回転中の位置を測定する位置測定装置48と、基準面6zの回転中の位置を測定する位置測定装置20を備えている。
【0019】
図7は、溝車4の回転中に計測された、溝車の回転軸方向への移動、および、溝車の径方向への移動、を示す測定グラフである。この図に基づいて摩耗の進行した溝車4,6の回転状態を説明する。測定グラフはエレベータ装置を最下階(1階)から最上階に直通運転した場合に得られた。位置測定装置20で測定した径方向の位置変化は、停止状態を基準にすると30〜50μmであり、溝車の1回転周期の変動と不規則な変動が重ね合わさっている。位置測定装置48で測定した回転軸方向の位置変化は、停止状態を基準にすると50〜300μmであり、溝車の1回転周期の変動と不規則な変動と、さらにある高さ毎の段階的な位置変化が重ね合わさっている。
【0020】
この状態では、工具の送り量が急激に増加し、食い込み傷が生じる。不正回転に周期性があれば、ある程度対策はとれるが、原因である転動体の位置関係が周期的に再現される可能性は低い。不正回転の周期性に着目しても、この食い込み等を回避することは不可能であるため、正常な加工制御は行えない。今回、回転軸方向の位置変化が、実は、径方向の位置変化以上に大きいことがわかった。その変化は通常要求される形状精度(約100μm)よりも大きく約300μmにもなる。
【0021】
本発明によれば、要求される形状に、ロープ溝とアンダーカット溝を、効率よく修正することができる。加工手順について概略を先ず説明する。制御装置23は工具9の標準的な送り量である基準送り設定値Zbを予め記憶している。位置測定装置20を用いて、溝車4と溝加工装置7aの径方向(Z方向)の位置関係を測定する。制御装置23は、溝車と工具9の位置が設定どおりに確保されるように工具9の送り量を計算し、Z方向可動部15を制御する。溝車6についても同様に制御する。
【0022】
図8は位置測定装置20による位置測定値(測定位置)によって切り込み量を制御する手順を示すフローチャートである。実際には制御装置23にて計算・判断・実行される。まず、制御装置23は加工開始時のZ方向の基準面4zの位置(測定位置Z0)を記憶する(ステップS0)。次に、加工時の基準面4zのZ方向の位置(測定位置Z1)を測定する(ステップS1)。加工時の測定位置Z1と加工開始時の測定位置Z0を比較して、位置変化量△Z(=Z1−Z0)を求める(ステップS2)。位置変化量△Zを基準送り設定値Zbに加え、送り量Z(Zb+△Z)とする(ステップS3)。Z方向可動部15を駆動し、送り量ZのZ方向送り(切り込み)を実施する(ステップS4)。以下、この動作を繰り返すので、安定した送り量を確保できる。
【0023】
実施の形態2.
旋削加工において、工具9の切り込む方向以外への溝車4の移動は、工具9の刃の付いていない方向への切り込みとなるため、加工に寄与しないが、工具9はその方向に強制変形させられる。この変形による応力が工具9の破壊応力を越えれば当然ながら、工具9は
破壊する。通常の工具は硬いため、つまりヤング率が高いため、僅かな変形でも発生する応力は大きい。つまり、切り込み方向以外の溝車の移動は、工具の破壊(欠けや折損など)を引き起こし、加工不能状態となる。本願では、溝車の被加工場所の移動があった場合その移動分だけ工具を移動するので、工具破壊等が発生しないで、要求される形状で修正加工が実現できる。
【0024】
実施の形態2では、X方向(回転軸方向)の制御を扱う。図9は本発明による位置測定装置(48aまたは48b)による工具位置を制御する手順を示すフローチャートであり、制御装置23にて計算・判断・実行される。まず、加工開始時のX方向の基準面4xの測定位置X0を記憶する(ステップS10)。次に、新たに基準面4xのX方向の位置(測定位置X1)を測定する(ステップS11)。測定位置X1と加工開始時の測定位置X0を比較して、位置変化量△X(=X1−X0)を求める(ステップS12)。この位置変化量△Xに負号を付けて、戻り量(―△X)とする(ステップS13)。位置変化量△Xまたは戻り量(―△X)を元にX方向可動部14を駆動し、位置変化量△Xが減少する方向に工具9の送りを実施する(ステップS14)。以下、この戻し送りする動作を旋削中に繰り返すので、X方向の加工位置は常に定位置となり安定した加工を確保できる。
【0025】
この発明では、位置測定装置48(48aおよび48b)により溝車の位置を常に監視制御しているため、加工位置を安定化でき、かつ、確実に要求どおりの溝形状が得られる。よって、溝加工装置7の性能を十分に発揮できる効率的な加工が実現できる。さらに、溝車4の軸受の不正回転運動による加工への影響(食い付き傷の発生や加工効率の低下など)を抑制できる。
【0026】
通常の加工中は、エレベータの電磁駆動機(モータ)が起動しているため、位置測定装置20、48の近傍にはかなりの電磁ノイズが存在する。位置測定装置20、48のアナログ信号にはノイズが乗り、正確な位置測定が妨げられることがある。この対策として、特に光学式スケールや磁気スケールなどのデジタルスケールを有する位置測定装置が有効である。デジタルスケールを有する位置測定装置からの信号は、信号の有無で位置の変化を例えば1μm単位で表す。強固なノイズが乗っていても信号の有無は容易に判断ができるので、確実に位置測定ができる。
【0027】
位置測定装置20、48は、基準面の位置を測定でき、加工において邪魔にならなければどの位置に取り付けてもよい。制御には実際に切削が進行している加工点の位置情報が必要であるが、加工点の位置を直接測定することは工具があるため、原理的に不可能である。位置測定装置を複数個取り付ければ、より高精度に刃先の位置を計算することが可能になる。
【0028】
実際の溝車の運動は、回転とX方向、Z方向の平行移動だけではなく、角度変化もある。測定値は、現実の測定面に存在する粗さやうねり、ゴミ等による測定誤差を含む。Z方向の位置測定装置20とX方向の位置測定装置48aだけでは溝車の正確な運動(つまり加工点の位置)は計算できないが、測定点数を増やせば計算精度は高まる。位置測定装置20,48a、48bから得られる3個以上の測定値で計算により求めた加工点の計算値を用いて図8〜図11の加工制御を行えば、より精度良く加工が可能になる。つまり、より効率的に形状精度良く、溝修正加工が実現できる。
【0029】
実施の形態3.
実施の形態3ではZ方向の負荷測定装置22を使用する。旋削加工では、加工効率の向上のために工具や装置が故障しない範囲で、できるだけ大きな切り込み速度を設定する。一方、溝車の回転運動は上記したように径方向(Z方向)つまり切り込み方向に不規則に偏芯する。工具が破損しないように溝車(駆動綱車)が最も近づいたときの切り込み量に
合わせて、一定の切り込み速度(送り速度)を設定すると、最も溝車が逃げたときは、切り込みがゼロとなる場合もある。これでは工具等の破損は回避できるが、加工効率が著しく低い。実施の形態3では、Z方向の負荷測定装置22でZ方向可動部15の負荷を測定する。測定した負荷が設定値の範囲内になるように切り込み量(送り量)を、制御装置23で計算し、Z方向可動部15の制御を行う。
【0030】
図10は負荷測定装置22によって切り込み量を制御する手順を示すフローチャートである。実際は制御装置23の内部で処理される。まず、十分な加工効率を得られる「下限設定負荷Lzd」と、装置の故障を防ぐために工具に許容される「上限設定負荷Lzu」を、予備実験やZ方向可動部15の仕様書などのデータから決め、制御装置23に記憶する。次に、負荷測定装置22により負荷測定を行い、測定負荷Lz1を得る(ステップS21)。この測定負荷Lz1と下限設定負荷Lzdを比較し(ステップS22)、測定負荷Lz1が下限設定負荷Lzdより低いときは、Z方向の送り量Zを、例えば通常の基準送り設定値Zbの2倍にして(ステップS24)、Z方向送りを実施する(ステップS27)。
【0031】
測定負荷Lz1が下限設定負荷Lzdと上限設定負荷Lzuの間の場合は、送り量Zを基準送り設定値Zbのままとし(ステップS23、S25)、Z方向送りを実施する(ステップS27)。もし、測定負荷Lz1が上限設定負荷Lzuを越えた場合は、装置の故障を防止するために、基準送りの方向とは逆の方向に工具を後退させる。実際は制御装置23の内部で、送り量Zを後退送り設定値(負の送り量)Znとして(ステップS23、S26)、Z方向可動部15に指令を出す(S27)。例えば、Znを−Zbとする。以下、この動作を繰り返せば、最も効率的で、かつ、安定した加工を実現できる。
【0032】
つまり、工具9で常に適正な切り込み量で加工することで、旋削能力を最大限に引き出し、加工効率の高効率、安定化が実現でき、実加工時間の短縮を可能にする。また、工具9の異物の噛み込みなどによる急激な加工異常にも対応でき、刃先の欠けや装置故障などを防止できる。この加工異常は位置測定装置では検出できない。また、工具刃先の摩耗等の監視も行え、工具交換時期を適切に把握でき、無理な加工による加工面のむしれ等の溝形状の変化を防止できる。結果として、溝加工装置の性能を十分に発揮できる効率的な修正加工を実施できる。なお、負荷測定方法は、Z方向可動部15のモータヘの供給動力(電圧、電流など)などから算出してもよい。
【0033】
実施の形態4.
実施の形態4では、X方向の負荷測定装置49について説明する。旋削加工において工具の切り込む方向以外の方向への溝車の移動は、刃の付いていない方向への切り込みとなり、加工されない。工具もその方向に強制変形させられる。この変形による応力が工具の破壊応力を越えれば当然ながら、工具は破壊する。通常の工具は硬いため、つまりヤング率が高いため、僅かな変形でも発生する応力は大きい。つまり、切り込み方向以外の移動は、工具の破壊(欠けや折損など)を引き起こし、加工不能状態となる。本実施の形態では、移動があった場合その移動分だけ工具を移動するので、工具破壊等が発生しないで、要求される形状で修正加工が実現できる。
【0034】
実施の形態4では、X方向の負荷測定装置49でX方向可動部14の負荷を測定し、測定した負荷が設定値以上にならないように、X方向可動部14を駆動する、Z軸方向の切り込み量(送り量)を減らす、または、加工を中止する、等の制御を行う。図11は負荷測定装置49によって工具の破損を防止する手順を示すフローチャートであり、実際は制御装置23の内部で処理される。
【0035】
まず、工具9の破壊応力に応じて設定負荷Lxを仕様書などのデータから決め、制御装
置23に記憶する。次に、負荷測定を行い、測定負荷Lx1を得る(ステップS31)。この測定負荷Lx1と設定負荷Lxを比較し(ステップS32)、測定負荷Lx1が設定負荷Lx以下の場合は、そのまま加工を継続し、ステップS31に戻る。測定負荷Lx1が設定負荷Lxを越えた場合は、装置の故障を防止するために、工具9に加わる負荷が減少する方向に工具9を移動する(ステップS32,33)。負荷を減少させるには、Z軸方向に後退させる(切り込み量を減らす)、あるいは負荷と反対方向にX軸移動させる方法が考えられる。次に移動後の測定負荷Lx2を計測し(ステップS34)、測定負荷Lx2が設定負荷Lx以下の場合は、そのまま加工を継続し、ステップS31に戻る(ステップS35)。測定負荷Lx2の低減がない場合、加工を中止する(ステップS35,S36)。要するに、計測された負荷と設定負荷Lxの比較を繰り返して行い、計測された負荷が設定負荷Lxよりも続けて大きいと判定された場合、旋削加工を停止する。制御装置で、この動作を制御するので、工具破損を回避しつつ、修正加工を継続できる。
【0036】
実施の形態4によれば、工具9の破損を回避ことにより、工具交換の多発、装置の修理等の無駄時間の発生をなくせて、実加工時間の短縮を可能にする。工具9の異物の噛み込みなどによる急激な加工異常にも対応でき、刃先の欠けや装置故障などを防止できる。結果として、溝加工装置の性能を十分に発揮できる効率的な修正加工を実施できる。この加工異常は位置測定装置では検出できない。なお、負荷測定方法は、X方向可動部14のモータヘの供給動力(電圧、電流など)などから算出してもよく、工具や工具ホルダの変形等を歪みゲージなどで検出しても良く、特に限定するものではない。
【0037】
溝車の回転軸方向や径方向への運動は不規則ではあるものの、概ね回転に同期した周期性を有している。あらかじめの測定により、この周期性を確認すれば、制御装置23は、この周期性を利用して制御量を計算しても良い。つまり、あらかじめ1回転分の位置測定値の変化量を記憶しておき、実測した位置との差分のみにより制御量の計算を行えば、数値データ量が小さくなり、計算精度および計算速度は向上し、制御計算精度が向上する。よって、より効率的に、より精度良く、溝修正加工が実現できる。また、制御装置23の扱うデータ量が低減するので、制御装置を安価なものに置き換え可能になる。
【0038】
特に、周期性が著しく良い場合は、あらかじめ測定した1回転分の位置測定量で周期的に制御し、上記したリアルタイムの計測制御を行わなくても良い。この場合、制御装置の計算が簡単になり、安価な制御装置の実現が可能である。また、加工中に位置測定装置を取り付けなくても良く、センサの取付作業、センサの干渉回避作業等が省略可能となり、作業時間が短縮する。
【0039】
実施の形態5.
図12はこの発明の実施の形態5における溝加工装置を示す正面図である。図中、実施の形態1と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。工具ホルダ91は、工具9を複数本(図では4本)把持可能なものとした。かつ、工具9の把持ピッチは、ロープ溝4aのピッチに等しくしてある。このように工具を複数本把持することで、溝修正加工を複数溝同時に実現可能となり、より効率的に溝修正加工を実現できる。
【符号の説明】
【0040】
1 かご、2 ロープ、3 釣合い重り、4 溝車、4a ロープ溝、4c アンダーカット溝、4x 基準面、4z 基準面、5 固定体、6 溝車、7 溝加工装置、8 取付部、9 工具、91 工具ホルダ、11 駆動機、13 可動支持部、14 X方向可動部、15 Z方向可動部、17 加工粉、18 集塵機、19 集塵孔、20 位置測定装置、22 負荷測定装置、23 制御装置、48 位置測定装置、49 負荷測定装置、100 エレベータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープで懸架されたかごと、
前記ロープが巻き掛けられ、径方向の位置基準となる基準面を有する溝車と、
前記溝車に対向する位置に配置される旋削工具と、
前記旋削工具を前記溝車の径方向に移動する第1の可動部と、
前記旋削工具を前記溝車の回転軸方向に移動する第2の可動部と、
前記溝車の基準面の位置を計測する位置測定装置と、
前記旋削工具の送り量の基準となる基準送り設定値と前記位置測定装置で計測された位置測定値を記憶し、前記基準送り設定値と前記位置測定値に基づいて前記第1の可動部と前記第2の可動部の位置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記溝車の旋削開始時に計測された前記基準面の位置測定値と前記溝車の旋削中に計測された前記基準面の位置測定値の差と前記基準送り設定値から前記旋削工具の径方向の送り量を算出し、この算出された送り量に基づいて前記第1の可動部を前記溝車の径方向に移動することを特徴とする溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項2】
ロープで懸架されたかごと、
前記ロープが巻き掛けられ、回転軸方向の位置基準となる基準面を有する溝車と、
前記溝車に対向する位置に配置される旋削工具と、
前記旋削工具を前記溝車の径方向に移動する第1の可動部と、
前記旋削工具を前記溝車の回転軸方向に移動する第2の可動部と、
前記溝車の基準面の位置を計測する位置測定装置と、
前記旋削工具の送り量の基準となる基準送り設定値と前記位置測定装置で計測された位置測定値を記憶し、前記基準送り設定値と前記位置測定値に基づいて前記第1の可動部と前記第2の可動部の位置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記溝車の旋削開始時に計測された前記基準面の位置測定値と前記溝車の旋削中に計測された前記基準面の位置測定値の差から前記旋削工具の回転軸方向の送り量を算出し、この算出された送り量に基づいて前記第2の可動部を前記溝車の回転軸方向に移動することを特徴とする溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項3】
旋削工具は、溝車に形成されたロープ溝の間隔と同じ間隔で溝車の回転軸方向に複数個配列されていることを特徴とする請求項2に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項4】
旋削工具は、工具ホルダに支持され、この工具ホルダに旋削屑を収集する集塵機が備え付けられていることを特徴とする請求項2に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項5】
ロープで懸架されたかごと、
前記ロープが巻き掛けられた溝車と、
前記溝車に対向する位置に配置される旋削工具と、
前記旋削工具を前記溝車の径方向に移動する第1の可動部と、
前記旋削工具を前記溝車の回転軸方向に移動する第2の可動部と、
前記第1の可動部に加わる負荷を計測する負荷測定装置と、
前記旋削工具の送り量の基準となる基準送り設定値と前記旋削工具に許容される負荷の大きさに対応して決められる上限値と旋削速度の下限に対応する負荷の下限値とを記憶し、前記基準送り設定値と前記上限値と前記下限値に基づいて前記第1の可動部と前記第2の可動部の位置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記溝車の旋削中に前記負荷測定装置で計測された負荷を、前記下限値および前記上限値と比較し、前記計測された負荷が前記下限値よりも大きく前記上限値よりも小さい場合、前記基準送り設定値に基づいて前記第1の可動部を前記溝車の径方向に移動することを特徴とする溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項6】
制御装置は、負荷測定装置で計測された負荷が下限値よりも小さい場合、旋削工具の送り量を基準送り設定値よりも大きい値に設定することを特徴とする請求項5に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項7】
制御装置は、負荷測定装置で計測された負荷が上限値よりも大きい場合、旋削工具を基準送りの方向とは逆の方向に移動することを特徴とする請求項5に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項8】
旋削工具は、溝車に形成されたロープ溝の間隔と同じ間隔で溝車の回転軸方向に複数個配列されていることを特徴とする請求項5に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項9】
旋削工具は、工具ホルダに支持され、この工具ホルダに旋削屑を収集する集塵機が備え付けられていることを特徴とする請求項5に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項10】
ロープで懸架されたかごと、
前記ロープが巻き掛けられた溝車と、
前記溝車に対向する位置に配置される旋削工具と、
前記旋削工具を前記溝車の径方向に移動する第1の可動部と、
前記旋削工具を前記溝車の回転軸方向に移動する第2の可動部と、
前記第2の可動部に加わる負荷を計測する負荷測定装置と、
前記旋削工具の送り量の基準となる基準送り設定値と前記旋削工具に許容される回転軸方向の負荷の大きさに応じて決められる設定値を記憶し、前記基準送り設定値と前記設定値に基づいて前記第1の可動部と前記第2の可動部の位置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記溝車の旋削中に前記負荷測定装置で計測された負荷と前記設定値を比較し、前記計測された負荷が前記設定値よりも小さい場合、前記基準送り設定値に基づいて前記第1の可動部を前記溝車の径方向に移動することを特徴とする溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項11】
制御装置は、溝車の旋削中に負荷測定装置で計測された負荷と設定値を比較し、前記計測された負荷が前記設定値よりも大きい場合、前記旋削工具を前記負荷が減少する方向に移動することを特徴とする請求項10に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項12】
制御装置は、溝車の旋削中に、旋削工具を負荷が減少する方向に移動する動作を実施し、負荷測定装置で負荷を再度計測する動作を続けて行い、この再度計測された負荷が前記設定値よりも大きいと判断すると、加工を停止することを特徴とする請求項11に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項13】
旋削工具は、溝車に形成されたロープ溝の間隔と同じ間隔で溝車の回転軸方向に複数個配列されていることを特徴とする請求項10に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。
【請求項14】
旋削工具は、工具ホルダに支持され、この工具ホルダに旋削屑を収集する集塵機が備え付けられていることを特徴とする請求項10に記載の溝加工装置を備えたエレベータ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112471(P2013−112471A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259781(P2011−259781)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】