説明

溶出低減材および溶出低減材の製造方法

【課題】 重金属等の溶出抑制作用が安定して優れている溶出低減材を提供すること、および、重金属等の溶出抑制作用が安定して優れている溶出低減材の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明にかかる溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3とを含む軽焼生成物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として汚染土壌等から有害重金属が溶出することを抑制する溶出低減材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場跡地における土壌汚染や、産業廃棄物等の不法投棄による土壌汚染が社会問題として指摘されるようになり、このような汚染土壌から化学物質が溶出することを抑制する方法が、種々試みられている。
【0003】
例えば、該汚染土壌中に含まれる重金属に対しては、酸化マグネシウム、軽焼ドロマイト、セメント、ゼオライト、鉄塩、高炉スラグなど用いて溶出低減処理を図ることが提案されている。なかでも、ドロマイトは、栃木県葛生地方など日本国内でも大量に産出する鉱物であるため、比較的安価に入手することができ、該ドロマイトを低温で焼成した軽焼ドロマイトは、溶出低減材としても注目されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
ところで、この軽焼ドロマイトは、ドロマイトの主成分であるCaCO3やMgCO3に由来するカルシウムイオンやマグネシウムイオンが、ポゾラン反応やゲル化反応を起こすことによって重金属の溶出を抑制するものと言われているが、従来の軽焼ドロマイトにおいては、天然物であるドロマイトを原料とするため、軽焼条件などによって、得られる軽焼ドロマイトの溶出低減効果が大きく変動する場合があり、安定した溶出低減効果が得ることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−289306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の如き従来技術の問題点に鑑み、重金属等の溶出抑制作用が安定して優れている溶出低減材を提供すること、および、重金属等の溶出抑制作用が安定して優れている溶出低減材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3とを含む軽焼生成物を含有することを特徴としている。
【0008】
本発明に係る溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3とを含む軽焼生成物を含有する溶出低減材であるため、原料として天然の鉱物を用いる場合のように、得られた溶出低減材の性能がばらつくことがない。よって、得られた溶出低減材は安定して優れた溶出抑制作用を発揮できる。
【0009】
尚、本発明における軽焼とは、前記炭酸マグネシウム(MgCO3)を加熱して、前記炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸させることをいう。
【0010】
本発明に係る溶出低減材は、さらに、水溶性硫酸塩を含有することが好ましい。
【0011】
前記水溶性硫酸塩をさらに含有することによって、より高い溶出抑制作用を発揮させることができる。
【0012】
また、本発明において、前記水溶性硫酸塩が硫酸第一鉄であることが好ましい。
【0013】
特に、前記水溶性硫酸塩として硫酸第一鉄を用いた場合には、より一層高い溶出抑制作用を発揮させることができる。
【0014】
本発明に係る溶出低減材の製造方法は、炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物を650〜1000℃の条件下で軽焼するとともに、該軽焼による重量減少率が17〜48%となった時点で該軽焼を終了させて軽焼生成物とし、前記軽焼生成物を用いて溶出低減材を調製することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重金属等の溶出抑制作用が安定して優れている溶出低減材を得ることが可能となり、重金属等の溶出抑制作用が安定して優れている溶出低減材の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る溶出低減材およびその製造方法について実施形態として具体的に説明する。
まず、本実施形態の溶出低減材の製造方法について説明すると、本実施形態の溶出低減材の製造方法は、炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物を650〜1000℃の条件下で軽焼するとともに、該軽焼による重量減少率が17〜48%となった時点で該軽焼を終了させて軽焼生成物とし、前記軽焼生成物を用いて溶出低減材を調製する方法である。
【0017】
原料として用いる前記炭酸マグネシウム精製物としては、例えば、マグネサイトなどの鉱物を粉砕するなどにより精製されることなどにより得られる精製物を用いることができ、無水物あるいは1,3,5水和物などの中から適宜選択して用いることができる。
また、炭酸マグネシウムの純度は、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。
【0018】
本実施形態の溶出低減材の製造方法では、前記炭酸マグネシウム精製物を加熱して、前記MgCxyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)とを含む軽焼生成物が生成されるように軽焼する。
かかる軽焼の際の温度条件としては650〜1000℃の範囲とし、好ましくは690〜890℃とし、さらに好ましくは760〜850℃とする。
また、軽焼時間は温度条件によっても変動するが、通常、10〜60分である。
【0019】
前記のような軽焼を行なうことにより、前記炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部を脱炭酸してMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)を生成することができる。
すなわち、前記軽焼を行なうことにより、前記炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxyとし、前記MgCxyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)との2つの成分を含む軽焼生成物を得ることができる。
前記炭酸マグネシウムを、高温長時間加熱した場合、前記炭酸マグネシウム(MgCO3)が全て脱炭酸化されるため、MgCO3を残存させることができず、前記のような2つの成分を実質的に含む軽焼生成物を得ることができない。
【0020】
前記軽焼生成物は、前記炭酸マグネシウム精製物を軽焼することで質量が減少するが、かかる軽焼による質量減少率は17〜48%、好ましくは19.7〜43.8%、さらに好ましくは21.9〜37.2%、より好ましくは35.0〜37.2%であるように軽焼することが好ましい。
前記軽焼による質量減少率をこのような数値範囲内とすることにより、炭酸マグネシウムからの脱炭酸反応を適切に生じさせ、前記炭酸マグネシウムの一部を残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxyとし、かかる脱炭酸によって生じる前記MgCxyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)とを含む軽焼生成物を適切に生成させることができるものと考えられる。
【0021】
前記軽焼生成物における前記MgCxyは、例えば、MgCO3の基本構造が脱炭酸によって変化し基本構造の規則性が崩れた不定形の形で存在していると考えられる。
【0022】
また、前記軽焼生成物における前記MgCO3および前記MgCxyは、おそらく非晶質であると考えられる。
前記炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウム精製物の一部を脱炭酸してMgCxyとする状態で軽焼を停止することによって、残存するMgCO3および生成されるMgCxyは非晶質化するものと考えられる。
このことは、例えば、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)による成分分析によりから推測しうる。
すなわち、前記軽焼生成物を、XPSによる成分分析を行うと、MgCO3およびMgCxyのピークが検出されるが、同時にXRDによる同定を行うと、MgCO3およびMgCxyは検出されない。これは、XRDでは結晶質のものしか検出できないため、前記軽焼生成物中に含まれる前記MgCO3および前記MgCxyは非晶質化しているものと推定される。
【0023】
前記軽焼生成物が前記のような2つの成分を実質的に含む軽焼生成物であることは、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるスペクトルにおいて示される前記各ピーク値によって明確に確認できる。
例えば、X線光電子分光装置 Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて、前記軽焼生成物を試料ペレットに埋めて表面をエッチング処理等適宜前処理した試料を分析し、検出されるXPSスペクトルのO1sに対応するスペクトルにおけるピークを調べることで、前記軽焼生成物が前記のような2つの成分を含む場合には、各成分のピークが現れる。
【0024】
尚、加熱雰囲気等の他の加熱条件や、加熱に用いる焼成装置については、従来公知の加熱条件および焼成装置を採用することができる。
【0025】
また、本実施形態の溶出低減材の製造方法では、必要に応じて、前記軽焼生成物にさらに、水溶性硫酸塩を添加してもよい。
前記水溶性硫酸塩としては、例えば、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウム等を挙げることができ、中でも、硫酸第一鉄を用いることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、前記水溶性硫酸塩を加える場合には、前記軽焼生成物100重量部に対して、5〜90重量部、好ましくは、5〜30重量部とすることが好ましい。
【0027】
前記のような製造方法によって得られた本実施形態の溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3とを含む軽焼生成物を含有するものである。
【0028】
また、本実施形態の溶出低減材を、例えば、重金属等を含む汚染土壌等に添加する場合には、土壌中の重金属の量に応じて適宜好ましい量を混合することができるが、例えば、汚染土壌に対して20〜200kg/m3、好ましくは50〜150kg/m3の濃度になるように添加することが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明する。
【0030】
溶出低減材(実施例および比較例)の調製
炭酸マグネシウム精製物(住友大阪セメント試作品)を、各々、800℃の電気炉で0分(軽焼せず:生成物1)、5分(生成物2)、10分(生成物3)、15分(生成物4)、30分(生成物5)、60分(生成物6)、120分(生成物7)軽焼することにより、軽焼生成物を調製した。
【0031】
軽焼生成物の成分測定
前記生成物1乃至7の各粉体についてX線光電子分光装置:Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて分析した。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
X線源: AlKα線(1486.6eV)
検出角度:約45°
前処理:試料はInペレットに埋めて平らにし、300秒間のArイオンでスパッタによるエッチング処理。
【0032】
前記各生成物のXPSスペクトルのOs1のスペクトルにおいて、生成物4乃至6からは、MgCO3およびMgCxyのピークが現れていた。
一方、生成物1乃至3からは、MgCO3のピークのみしか現れなかった。
さらに、生成物7からは、MgCO3のピークが現れなかった。
さらに、軽焼前の炭酸マグネシウムの重量に対する軽焼後の軽焼生成物の重量(すなわち、重量減少率(%))を測定した。結果を下記表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
各軽焼生成物の評価
各軽焼生成物を、それぞれ、ヒ素および鉛の5、100mg/lの標準溶液100mlに1gの割合で添加し、4時間撹拌混合した後、ろ過した際のろ液中の重金属濃度をICP分析装置(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド社製、装置名「VARIAN ICP 発光分光分析装置 730−ES」)を用いて測定した。その測定結果より、下記の算出式を用いて吸着除去率として求めた。

吸着除去率[%]=(初期濃度−ろ液中濃度)÷ 初期濃度 × 100

これらの結果を下記表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より、炭酸マグネシウムを15分軽焼して、重量減少率が19.7%である生成物4、30分軽焼して重量減少率が36.1%である生成物5、および60分軽焼して重量減少率が43.8%である生成物6の軽焼生成物は、他の軽焼生成物と比較して、ヒ素や鉛に関して優れた吸着作用を発揮しうるものであることが認められる。
【0037】
溶出低減材の調製
上記のような各軽焼生成物に対し、硫酸第一鉄一水塩(堺化学工業社製)を下記表3に示す割合で添加し、実施例及び比較例の溶出低減材を調製した。
【0038】
【表3】

【0039】
前記のようにして調製された実施例および比較例の溶出低減材を、それぞれ、ヒ素および鉛の5mg/lおよび100mg/lの標準溶液100mlに1gの割合で添加し、4時間撹拌混合した後、ろ過した際のろ液中の重金属濃度をICP分析装置(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド社製、装置名「VARIAN ICP 発光分光分析装置 730−ES」)を用いて測定した。その測定結果より、下記の算出式を用いて吸着除去率として求めた。

吸着除去率[%]=(初期濃度−ろ液中濃度)÷ 初期濃度 × 100

これらの結果を下記表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4より、炭酸マグネシウムに硫酸第一鉄を添加することにより、硫酸第一鉄を無添加の軽焼生成物と比較して、ヒ素や鉛に関して優れた吸着作用を発揮しうるものであることが認められる。
特に、軽焼による重量減少率が36.1%となった時点で該軽焼を終了させて得られた軽焼生成物5に対して硫酸第一鉄を添加した場合には、軽焼生成物5によって高められたヒ素および鉛に対する吸着作用がより一層高められ、極めて優れた吸着作用が発揮されていることが認められる。
【0042】
また表4より、炭酸マグネシウム軽焼生成物に硫酸第一鉄を内割りで5%以上、好ましくは10%以上添加した場合には、ヒ素や鉛に関してより一層優れた吸着作用を発揮しうることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3とを含む軽焼生成物を含有することを特徴とする溶出低減材。
【請求項2】
さらに、水溶性硫酸塩を含有する請求項1に記載の溶出低減材。
【請求項3】
前記水溶性硫酸塩が硫酸第一鉄である請求項1または2に記載の溶出低減材。
【請求項4】
炭酸マグネシウム(MgCO3)精製物を650〜1000℃の条件下で軽焼するとともに、該軽焼による重量減少率が17〜48%となった時点で該軽焼を終了させて軽焼生成物とし、前記軽焼生成物を用いて溶出低減材を調製することを特徴とする溶出低減材の製造方法。
【請求項5】
前記軽焼生成物に対して、さらに水溶性硫酸塩を加える請求項4に記載の溶出低減材の製造方法。

【公開番号】特開2013−31795(P2013−31795A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168642(P2011−168642)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】