説明

溶出制御体および水溶性物質の溶出制御方法

【課題】一定期間安定して肥料等の水溶性物質を水中に溶出できる溶出制御容器に肥料等が封入された溶出制御体ならびに当該溶出制御体を用いた水溶性物質の溶出制御方法を提供する。
【解決手段】ナイロン、ポリ乳酸またはポリエステルで作製された布帛3および該布帛3を被覆するポリ乳酸、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも1種以上からなる多孔性膜2で構成された溶出制御膜1の容器中に、肥料、栄養源及び薬剤のいずれか1種以上の水溶性物質が封入されてなる溶出制御体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出制御体および水溶性物質の溶出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海中、淡水中あるいは汽水中における栄養状態の改善は、水産関係者等にとっては非常に重要な問題である。
【0003】
たとえば、海苔養殖においては、栄養塩(特に窒素・リン成分)の低下による海苔の生育抑制や色落ちの問題があり、養殖中に雨が少ないと河川からの栄養塩の流入も少なくなり、色落ちが発生するので、このような状況では海中での急速な栄養塩補給が必要となる。
【0004】
このような対策として、肥料に被覆などの加工を施して肥料の溶出を遅くし、長期的に溶出させることも提案されているが、水中で肥料を固定することは難しく、またそのような肥料の製造にはコストがかかり、高価なものとなるという問題がある。
他方、肥料を、溶出制御機能を有する容器に封入し、容器からの溶出を制御する方法も提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、5mm以下の細孔を有する多孔状構造の施肥容器に緩効性肥料を収容し、施肥容器をロープまたはネットに取り付け、海苔養殖網の上部に設置し施肥する方法が開示されている。この方法では、肥料として肥料表面に高分子物質で被覆した緩効性肥料が用いられているので、実際に施肥が開始されるまでに時間がかかり、また一般的な肥料に比べて価格が高いという問題があり、通常の化成肥料にくらべて5倍程度の価格のものもある。
【0006】
加えて、肥料を被覆していた高分子物質を肥料溶出後に除去しなければならないという問題がある。また、容器の孔径が2mm〜5mmと大きいため、粉末状の肥料は海中に逸散するので使用ができないし、ある程度大きな粒径の肥料を用いても溶出に伴い肥料が次第に小さくなるとやはり水中に逸散してしまい最後まで溶出の制御ができないという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献2には、一辺の長さまたは直径が2.5mm以下で、開口率が1〜50%の多孔性樹脂容器に肥料をいれたものが提案されている。しかし、この容器は、ポンチ式カッターで開口するか、または熱可塑性樹脂を加熱下に線状高分子物質となるよう押し出して交絡させて製造するものであるため、孔径がある程度の大きさ以下にはできず、一般的な化成肥料では溶出が制御できないので、緩効性肥料(被覆性)を使用せざるを得ない。
【0008】
また、特許文献3には、海藻の着底基質となる天然石及び可溶性材料の袋に入れられた魚かすを、番線を編んで作成された籠に入れて沈める方法が開示されている。しかし袋を構成する可溶性材料が可溶性の植物繊維または生分解性プラスチックであり、また筵を二つ折りにして袋状として用いるなど、袋自体にも特段の工夫はなされておらず、袋生地の織組織も一般的なものである。
【0009】
そのため、袋内への水の透過性がよく、溶出速度は、魚かす等の有機物の分解時間に依存するので、この袋は溶出制御を行うものとは言い難く、充分な効果が得られるとはいえない。しかも、魚かすの分解に時間がかかることから、魚かすが分解しないまま散逸していくおそれがあり、短期的に設置海域の栄養塩濃度を高める効果は低いと考えられる。
【0010】
特許文献4には、特定の管径、管長および肉厚を有する管状容器に、孔径0.1〜1mmの孔を2〜200個設け、かつ孔の全表面積と管状容器の全表面積との比が0.000002〜0.0002の容器に尿素を封入した施肥器が開示されている。
【0011】
しかし、この施肥器は、尿素の高い溶解性を制御するために、開口面積を少なくしたものであるので、溶解性の高い肥料は使用できるが、溶解性の低い肥料をこの容器に封入した場合には、溶出が遅くなりすぎ溶出制御できない。また溶解性の高い肥料でも、比較的早く溶出させたい場合には使用できないという問題がある。
【0012】
特許文献5には、複数の孔を有する内径50〜250mm、長さ500〜2,000mmの筒状容器であって、少なくとも筒の一方に開閉口部を有し、かつ複数の細孔を有する肥料充填用容器を内装した海苔養殖用施肥容器が開示されている。この容器は筒状容器と内装容器の2重構造によって、肥料の溶出制御を行うというものであるので、内装容器の細孔4数と筒状容器の細孔数のバランスをとることが難しく、一旦、特定の肥料についての細孔4数の均衡がとれれば継続して実施できるが、他の肥料に変更した場合や容器の形状を変更した場合には、溶出制御が簡便に行えるものとは言い難いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−84904号公報
【特許文献2】特開2002−84905号公報
【特許文献3】特開2004−166513号公報
【特許文献4】特開2009−273424号公報
【特許文献5】特開2009−273425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、海中等への肥料または栄養塩の補給方法が提案されているが、長期から短期にわたり、水中への肥料や栄養塩の溶出を安定して制御できる容器や方法はいまだ提案されていないのが現状である。
【0015】
本発明者らは、布帛の表面に、高分子物質を水と親水性有機溶媒の溶液に溶解した溶液を布帛表面に塗布し、乾燥して多孔性被膜を形成した場合には、当該多孔性膜によって、水中で水溶性物質の溶出速度を制御できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0016】
本発明の目的は、一定期間安定して肥料等の水溶性物質を水中に溶出できる溶出制御体ならびに当該溶出制御体を用いた水溶性物質の溶出制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、布帛および該布帛を被覆する多孔性膜で構成された溶出制御膜の容器中に、水溶性物質が封入されてなることを特徴とする溶出制御体である。
【0018】
また、本発明は、溶出制御膜が、布帛1平方メートル当たり5〜50gとなる量の多孔性膜で布帛が被覆されてなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、溶出制御膜を構成する布帛がナイロン、ポリ乳酸またはポリエステルのいずれかであり、多孔性膜がポリ乳酸、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種以上で構成されてなることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、水溶性物質が水棲生物用の肥料、栄養源および薬剤のいずれか1種以上であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、肥料が、水棲生物に対して窒素供与源、リン酸供与源、カリウム供与源または重金属供与源となりうる肥料であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、肥料が、無機酸のアンモニウム塩、硝酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩または鉄、マンガン、コバルトもしくは亜鉛から選ばれる金属錯体のいずれか1種以上であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、布帛がポリ乳酸繊維の布帛であり、多孔性膜がポリ乳酸からなる膜であり、水溶性物質が硫酸アンモニウムであることを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明は、布帛および該布帛を被覆する多孔性膜で構成された溶出制御膜の容器中に、水溶性物質が封入されてなる溶出制御体を、水中に設置することを特徴とする水中における水溶性物質の溶出制御方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、布帛および該布帛を被覆する多孔性膜で構成された溶出制御膜の容器中に水溶性物質が封入されてなるので、溶出制御容器が柔軟性に富んでおり、取扱いが容易であるうえ、溶出制御膜によって容器内部の水溶性物質の溶出を制御できるので、長期間にわたり比較的低濃度の水溶性物質を溶出させることができるほか、短期間に比較的高濃度の水溶性物質を溶出させることができるなど、水溶性物質の溶出速度を調整できるという効果を奏する。
【0026】
しかも、本発明の溶出制御膜は、水溶液を封入した場合でも、常圧下では外部に漏出ないし流出しないので、これまで使用できなかった液体状の水溶性物質でも使用することができ、これまで溶出制御ができなかった液肥等の物質についても溶出速度を任意に制御することができるという極めて大きな効果を奏する。
【0027】
また本発明に従えば、溶出制御膜が、布帛1平方メートル当たり5〜50gとなる量の多孔性膜で布帛が被覆されているので、汎用される水溶性物質の溶出に適している。しかも、多孔性膜の布帛における塗工量を調整することによって、水溶性物質の溶出速度を任意に変更できる。したがって、水溶性物質を供給すべき対象の状況に応じた供給が可能となる。また封入される水溶性物質は水溶性であればどのような水溶性物質でも使用できる。
【0028】
また本発明に従えば、溶出制御膜を構成する布帛がナイロン、ポリ乳酸またはポリエステルのいずれかであり、多孔性膜がポリ乳酸、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂およびポリブチレンサクシネートの少なくとも1種以上であるので、水中における耐久性や耐摩耗性に富み、海中において長期間、安定して水溶性物質の溶出を制御することができる。
【0029】
また本発明に従えば、水溶性物質が水棲生物用の肥料、栄養源および薬剤のいずれか1種以上であるので、いそ焼けの予防や回復、海苔の色おちの予防や改善、養魚施設における栄養成分の供給や疾病の予防や治療など、種々の目的に使用することができる。
【0030】
また本発明に従えば、肥料が、水棲生物に対して窒素供与源、リン酸供与源、カリウム供与源または重金属供与源となりうる肥料であるので、海草、魚類、魚介類の生育に好影響を与えることができる。またこれらの肥料を長期間にわたり、安定かつ水棲生物に適した濃度が維持されるような速度で溶出させることができるので、環境に対する負担が小さく、かつ漁業従事者の負担も軽減することができる。
【0031】
また本発明に従えば、肥料が、無機酸のアンモニウム塩、硝酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩または鉄、マンガン、コバルトもしくは亜鉛から選ばれる金属錯体のいずれか1種以上であるので、殆どの海草や魚類、魚介類に適しており、汎用性に富んだ肥料として利用することができる。
【0032】
また本発明に従えば、布帛がポリ乳酸繊維の布帛であり、多孔性膜がポリ乳酸であり、肥料が硫酸アンモニウムであるので、長期間放置しても多孔性膜が環境汚染を引き起こすことがなく、また硫酸アンモニウムはもっとも汎用される肥料であるため、使用範囲が広い。
【0033】
さらに、本発明によれば、布帛および該布帛を被覆する多孔性膜で構成された溶出制御膜の容器中に、水溶性物質が封入されてなる溶出制御体を、水中に設置することを特徴とする水中における水溶性物質の溶出制御方法を、水中に設置することを特徴とする水中における水溶性物質の溶出制御方法であるので、水溶性物質が安定した速度で水中に溶出し、継続的に周囲の環境に水溶性物質を供給することができる。
【0034】
しかも、容器は柔軟性に富んでおり、設置場所がどのような場所であっても設置可能であるほか、液体状の水溶性物質も使用できるので、設置直後から水溶性物質を溶出させることができ極めて効率的な溶出制御方法である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の溶出制御膜およびその製造方法の1例を模式的に示した図である。
【図2】実験例1および2で使用した実験装置を示す図である。
【図3】実験例1の結果を示すグラフである。
【図4】実験例2の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1で使用した肥料封入溶出制御体を示す図である。
【図6】実施例1の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の溶出制御体の1例を示す図である
【図8】図7の溶出制御体の水中における設置例を示す図である。
【図9】本発明の溶出制御体の1例を示す図である
【図10】図8の溶出制御体の水中における設置例を示す図である。
【図11】本発明の肥料封入溶出制御体の水中における設置例を示す図である。
【図12】本発明の肥料封入溶出制御体の水中における設置例を示す図である。
【図13】本発明の肥料封入溶出制御体の水中における設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の溶出制御膜の製造方法の1例を模式的に示した図である。
図1において、溶出制御膜1は、高分子物質の多孔性膜2と布帛3で構成される。
多孔性膜2は、布帛3上に高分子物質溶液4が塗布され所望の厚さに調整された高分子物質溶液層5を加熱・乾燥させることによって形成される。
【0037】
本発明においては、多孔性膜2は、布帛1平方メートルあたりの膜重量(乾燥後重量、以下塗工量ということもある)を変化させることによって、水溶性物質の溶出速度を制御することができる。
【0038】
多孔性膜2の量は、たとえば前記高分子物質溶液4を布帛3上に塗布したのち、ナイフコータ6で布帛3上に所望の量の高分子物質溶液層5が形成されるよう、過剰の高分子物質溶液4を掻きとることによって調整される。
【0039】
ついで、高分子物質溶液層5は、加熱・乾燥手段7を通過する間に加熱・乾燥され、高分子物質溶液層5から有機溶媒と水が蒸発して、多孔性膜2が布帛3上に形成される。
【0040】
かくして形成された多孔性膜2は、膜中に空孔を有しており、その空孔の膜に対する比率(以下、開口率という)は、1〜20%である。
【0041】
この開口率は、多孔性膜2の製造時の水分含有量を増減することによって調整でき、好ましい範囲としては1〜7%である。
【0042】
本願発明においては、多孔性膜2による制御は、前記のとおり、布帛3上の多孔性膜2の塗工量を増減させることによって、または多孔性膜2中の開口率を変化させることによって、あるいはこれらを組み合わせることによって、水溶性物質の溶出制御を行う。
【0043】
本発明において、溶出制御膜として布帛3を被覆する高分子物質としては、親水性有機溶媒に溶解し、製膜性があるものであれば、どのようなものでも使用することができる。
【0044】
かかる高分子物質としては、たとえば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクタム、エチルセルロール、酢酸ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミノ酸樹脂、ポリアミド樹脂などの高分子物質があげられる。このうち、ポリ乳酸、ウレタン樹脂、アクリル樹脂が好ましく、とりわけポリ乳酸が好ましい。
【0045】
また、これらの高分子物質は市販のものを好適に使用することができ、ポリ乳酸の場合には、バイオエコール(商品名、東洋紡績株式会社製)、BE−A910(Lラクチド、Dラクチドおよびカプロラクトンの共重合体、商品名、東洋紡績株式会社製)、BE−450E(Lラクチド、Dラクチドおよびカプロラクトンの共重合体、商品名、東洋紡績株式会社製)、BE−400(LラクチドおよびDラクチドの共重合体、商品名、東洋紡績株式会社製)、ランディ(ミヨシ油脂株式会社製)PL−1000、同PL−2000などがあげられる。また、ウレタン樹脂の場合には、ハイムレンATX−10(商品名、大日精化工業株式会社製)、ゾルテックスPX−550(商品名、株式会社DIC製)などがあげられる。さらにアクリル樹脂の場合には、トアアクロンXE−5105S改(商品名、株式会社トウペ製)、トアアクロンXE−3574(商品名、株式会社トウペ製)、トアアクロンXE−4675H改(商品名、株式会社トウペ製)などがあげられる。
【0046】
本発明において、前記多孔性膜2で被覆される布帛3(以下、溶出制御膜1という)は、前記のとおり、溶出制御を行う多孔性膜2を保持し、保護し、かつ柔軟性を付与するものであり、この目的に適うものであれば、どのような布帛3であっても使用することができる。
【0047】
かかる布帛3としては、たとえば、木綿、麻、絹、リンネル、モへヤ、ウール、カシミヤ、ガラスウールなどの植物、動物または鉱物由来の天然繊維で構成される布帛35、キュプラ、レーヨン、ポリノジック、リヨセル(テンセル)、アセテート、フリースなどの再生繊維で構成される布帛、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維で構成される布帛があげられる。
【0048】
天然繊維製布帛は、吸水により溶出制御にかかわる繊維間の空隙に変化が生じ溶出速度が変わること、吸水による物理的強度が低下による衝撃耐性の低下、分解による強度の保持期間が短いことなどから、比較的短期間の使用に適している。
【0049】
一方、再利用や耐久性などの面を重視する場合には、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ビニール等の疎水性合成繊維で構成された布帛が適している。
【0050】
さらに、ポリ乳酸などの生分解性高分子物質は、たとえば、磯焼けの進んだ海域に、肥料等が封入された容器を投入し、容器が一定期間経過後には分解・消滅することにより、容器を回収することなく繰り返し投入できるので、容器を回収し、洗浄して再利用するよりも、自然に分解させることがコストの面でも優れている。そのため、容器回収を意図しないときは、生分解性高分子物質を使用すればよい。
【0051】
とりわけ、ポリ乳酸の場合には、吸水が少なく、繊維が水中でも安定していることに加え、布帛3および多孔性膜2が、共に同じポリ乳酸で製造できるので、分解、消滅時期を一致させることができる。
【0052】
これらのうち、より好ましい布帛3としては、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンなどの繊維で構成された布帛3があげられ、とりわけ好ましい布帛3としては、ナイロン、ポリエステル、ポリ乳酸などの繊維で構成された布帛3があげられ、もっとも好ましい布帛3としてはポリ乳酸で構成された布帛3があげられる。
【0053】
本発明において、溶出制御膜1の容器は、水溶性物質封入口を密閉出来る形態であれば特に制限されず、袋、籠、箱、円筒、多角形立方体など、種々の形態とすることができる。
【0054】
また容器を構成するにあたり、溶出制御膜1の多孔性膜2が肥料封入容器の内側となるように構成してもよく、あるいは多孔性膜2が肥料封入容器の外側にくるように構成してもよい。
【0055】
また、本発明の溶出制御容器は、溶出制御膜1のみで構成された容器でもよく、他の素材と溶出制御膜1を組み合わせて容器を構成してもよい。容器と他の素材との接合や、容器の密閉は主に熱融着で行うことができるが、樹脂を接着剤として塗布し、密閉することもでき、容器の素材がポリ乳酸であれば、ポリ乳酸樹脂を接着剤のように用いることもできる。
【0056】
図7および図9は、本発明の溶出制御体23の1例を示す図である。
この場合、本発明の溶出制御機能を生かすために、他の素材としては、プラスチックや金属など、肥料や水を透過させないものを好適に使用することができる。たとえばプラスチックや金属製の円筒、多角形立方体、箱などの1平面もしくはその一部または数平面を切り取った平面に、溶出制御膜1を張り付けた容器としてもよい。かかる容器の例を図7および9に示す。これらの図において、溶出制御体23は、その一部に本発明の溶出制御膜を用いたものである。
【0057】
このような他の素材を併用した容器は、岩やサンゴなどが存在する岩礁地帯に溶出制御体23を設置する場合において、海流によって溶出制御膜1の損傷を避けるために有効であり、たとえば制御型容器の底部から側部をプラスチックまたは金属製部材で構成した容器は、海流によって岩に衝突した場合でも損傷によって当該部材が破断することがないので、封入された水溶性物質が散逸することがない。
【0058】
また、水溶性物質の溶出を容器の全周囲ではなく、特定の方向のみに行う必要がある場合も、前記他の素材と組み合わせることによって可能となる。この場合には、水溶性物質を溶出させる方向に面した部分を、溶出制御膜1で構成し、水溶性物質の溶出が必要ない方向に面した部分をプラスチックや金属製の部材で構成すれば、溶出制御膜1を備えた面から水溶性物質が溶出し、プラスチックや金属製の部材で構成された方向には水溶性物質は溶出しないので、所望の方向にのみ水溶性物質を溶出させることができる。
【0059】
また、プラスチックまたは金属製の支持体または骨組を本発明の溶出制御膜1の容器中に装着し、水中においても常に一定の形状を保つように構成してもよい。
このような容器内部に支持体または骨組を装着した場合には、水中で容器表面積が一定となるため、常に安定した溶出が維持でき、長期にわたり、水溶性物質を水中に供給する場合には、特に有効である。
【0060】
本発明において、溶出制御容器に封入される水溶性物質としては、水棲生物用の肥料、栄養源および薬剤のいずれか1種以上があげられる。
【0061】
本発明において、前記水溶性物質は、本発明の溶出制御膜が水溶液でも容器内に保持できるので、水に溶解するものであればどのようなものであってもよい。
【0062】
その理由は次のとおりである。本発明の溶出制御体は、水溶液であっても外部に当該水溶液が漏出することがないので、水に対する溶解度が極めて高い物質の場合には溶出制御体中に溶液状態で存在し、多孔性膜の溶出制御効果によって外部に溶出していく。
【0063】
また、水溶性物質がそれほど水に対する溶解度が高くないものであっても、一部は水溶液となって溶出制御体中に存在するので、溶液中の水溶液物質が多孔性膜の溶出制御効果によって外部に溶出するとともに、溶出制御体に外部から浸透する水に未溶解の水溶性物質が溶解し、外部に溶出するということを繰り返す。
【0064】
さらに、水に対する溶解度が低いかまたは難溶性の物質であっても、その一部が溶解すれば、前記のとおり、外部への溶出と浸透する水への溶解が繰り返される。
【0065】
したがって、本発明においては、水不溶性ないし極めて難溶性の物質をのぞき、殆どの物質が好適に使用できる。
【0066】
好ましい水溶性物質の一例を溶解速度で示せば、25℃の海中において1g/h以上の溶解速度のものがあげられ、好ましくは10g/h以上の溶解速度を有する物質があげられる。
【0067】
また、本発明において、水棲生物としては、アマモなどの海草類、コンブ、海苔、ワカメ、テングサ、モズク、ヒジキなどの海藻類、タイ、ハマチ、マグロ、ヒラメ、チョウザメ、メバル、アユ、コイなどの魚類、貝類、タコ、イカなどの頭足類、ウニ、ナマコなどの棘皮動物、エビ、カニなどの甲殻類があげられる。
【0068】
本発明の溶出制御体は、これらの生物の生育環境の悪化、いわゆるいそ焼けといわれる状態の改善にも使用することができる。
【0069】
肥料としては、前記水棲生物の生育に有用なものであればどのようなものであってもよく、またいそ焼けの防止や海苔の色おちなどの防止や回復のために使用されるものであればどのようなものでも用いることができる。
【0070】
また本発明で使用される肥料としては、たとえば、窒素またはリン酸を含む無機肥料、窒素成分またはリン酸成分を含む有機肥料があげられる。
【0071】
窒素を含む無機肥料としては、石灰窒素のほか、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機酸アンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩があげられ、窒素を含む有機肥料としては、尿素があげられる。
【0072】
リン酸を含む無機肥料としては、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸カリウムなどのリン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩があげられる。
【0073】
さらに、窒素とリン酸を併せ有する肥料のリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等を使用することができる。
加えて、鉄、マンガン、コバルトもしくは亜鉛から選ばれる金属錯体があげられる。
【0074】
これらの肥料その他の成分は単独で使用してもよく、また配合により反応して肥料またはその他の成分の本来の効果を減じる場合をのぞき、2種以上を混合して使用することもできる。
【0075】
これらの肥料は、そのまま容器に封入することによって、所望の溶出速度を得ることができるが、取り扱いや水中での設置のし易さを考慮して、顆粒状、球状、粉末状など種々の形態や大きさとしてもよい。
【0076】
また、本発明においては、多孔性膜2の開口率に関係なく、液状の肥料も容器から漏れ出すことがないので、従来の技術では不可能であった、液体状の肥料をそのまま使用することができる。
【0077】
液体肥料としては、たとえば、前記の肥料を水等に溶解したものであればよいが、たとえばアミノ酸や有機酸、核酸、金属錯体など、溶液の方が適している成分が含まれる場合は液肥の方が施肥効率の点で好ましい。
【0078】
特に、アミノ酸が含有されている場合や、金属錯体溶解している液肥が、海域では特に有利である。
【0079】
アミノ酸は魚類に効果があり、2価鉄錯体(Fe−EDTAなど)やマンガン、コバルト、亜鉛などのEDTA等のキレート剤による金属錯体などは、海藻の養分として使用することができる。
【0080】
また、無機肥料成分のみの液肥であっても、速やかに溶出するので、即効性があり、固体のまま使用し、容器外側から海水が浸入して中の肥料が溶けたのちに効果が発揮されるまでのタイムロスをなくすることができる。
【0081】
さらに、水棲生物に対する栄養源としては、栄養補給として投与されるアミノ酸、ミネラルおよびビタミンあげられる。
【0082】
アミノ酸としては、リシン、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン、トリプトファン、バリン、プロリン、グリシン、アラニン、グルタミン、タウリンなどのアミノ酸があげられる。
【0083】
さらに、水棲生物に対する栄養補給として投与されるミネラルとしては、硫酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸銅、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、リン酸水素ナトリウムなどのミネラルがあげられる。
【0084】
さらに、水棲生物に対する栄養補給として投与されるビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類があげられる。
【0085】
さらに、水棲生物に対する疾病の予防または治療のための薬剤としては、アンピシリン、スルフィソゾールナトリウム、スルファモノメトキシン、オルメトプリム、エリスロマイシン、塩酸オキシテトラサイクリン、チアンフェニコール、オキソリン酸、ニフルスチレン酸ナトリウム、メチレンブルーなどがあげられる。
【0086】
また、薬剤以外の天然生理活性物質である、カプサイシン、オイゲノール、シネオール、シトロネラール、メントール、リナリールアセテート、フェルラ酸と乳酸の混合物なども、疾病予防または治療への適用が検討されており、これらも本発明の溶出制御体に好適に使用することができる。
【0087】
これらの水溶性物質は、単独で溶出制御容器に封入してもよく、また目的、用途、用法に応じて、それぞれ数種を溶出制御容器に封入して用いてもよい。
【0088】
本発明の溶出制御膜1は、前記多孔性膜2を構成する高分子物質溶液または単量体溶液を布帛3に付与する被覆工程と、
加熱して高分子物質溶液の組成変化により開口を生じさせる開口工程を逐次実施することによって製造することができる。
【0089】
被覆工程および開口工程は、布帛3を高分子物質で被覆する常法によって実施することができる。
【0090】
たとえば、高分子物質としてポリ乳酸を用いる場合には、ポリ乳酸を親水性有機溶媒と水との混合液に溶解してポリ乳酸溶液を調製し、これを布帛3上に塗布したのち、所望の塗工量となるよう布帛3上のポリ乳酸層を調整することによって被覆工程を実施することができる。ついで、布帛3上のポリ乳酸層を乾燥して、ポリ乳酸層に含まれる水分を除去することによって、開口工程が完了する。
【0091】
また、高分子物質としてウレタン樹脂を用いる場合には、ウレタン樹脂をジメチルホルムアミドに溶解してウレタン溶液を調製し、所望の塗工量となるよう布帛3上のポリ乳酸層を調整することによって被覆工程を実施することができる。ついでこの布帛3を水中に通過させて、ウレタン樹脂層中のジメチルホルムアミドを水中に溶解することによって、膜に空孔を生じさせたのち、乾燥することによって多孔性膜2とすることができる。
【0092】
前記被覆工程において、使用する樹脂に応じて、架橋剤や撥水剤などを加えてもよく、架橋剤を加えると、膜と生地との密着力が増すことと、膜そのものの強度が上がるなどの利点があり、また、撥水剤を加えると耐水圧が上がり水溶性物質の溶出速度を遅くすることができる。
【0093】
架橋剤としてはたとえばイソシアネート、メラミンなどを用いることができ、撥水剤としては、水系フッ素樹脂を用いることができる。
【0094】
高分子物質を溶解する水と親水性有機溶媒の混合溶媒に使用される有機溶媒としては、前記高分子物質を溶解し、かつ水と混和するものであれば特に制限されることなく使用することができる。
かかる有機溶媒としては、たとえば、メチルエチルケトンがあげられる。
【0095】
本発明において、高分子物質を溶解する溶媒における水の含有量は、0〜30重量%であればよく、好ましくは、5〜25重量%である。
【0096】
水の含有量は、高分子物質に応じて決定することができるが、水の比率が多くなると開口率が大きくなり、水の比率が少なくなると開口率が小さくなる。
【0097】
ついで、高分子物質層が塗布された布帛3を加熱することによって、高分子物質層から有機溶媒と水分が除去され、生成した多孔性膜2が布帛3に密着して固化する。
【0098】
加熱温度は、高分子物質によっても相違するが、概ね50〜150℃の範囲で適宜選択することができる。好ましくは60〜120℃である。加熱は、一定温度でおこなってもよく、また樹脂溶液の組成や多孔性膜の厚みに応じて段階的に昇温させて行うこともでき、たとえば前記温度の範囲内で2〜4段階に分けて温度を変えて実施することができる。
【0099】
本発明において、溶出制御体23を、水中に設置して水中における水溶性物質の溶出制御を行う方法は、淡水中であっても海水中であっても、さらにこれらが混じり合った汽水中であっても実施することができ、所望の速度で水溶性物質を溶出させることができる。
【0100】
図8は図7の溶出制御体23の水中における設置例を示す図である。
図10は図9の溶出制御体23の水中における設置例を示す図である。
図11は本発明の肥料封入溶出制御体23の水中における設置例を示す図である。
図12は本発明の肥料封入溶出制御体23の水中における設置例を示す図である。
図13は本発明の肥料封入溶出制御体23の水中における設置例を示す図である。
設置場所としては、図8、図11〜図13に示すとおり、淡水中であれば、河川、湖沼など、溶出対象の水中に、溶出制御体23を川底、湖底などにアンカー29などの固定手段とともに沈めるか、または一端を水面上のフロート28に他端をアンカー29に固定したロープ27やネットに取り付けて、水溶性物質を溶出させればよい。
【0101】
本発明の溶出制御体23を淡水や海水における養殖施設などで使用するときは、当該養殖施設の水面付近にロープ27またはネットを用いて溶出制御体23を固定し、水溶性物質を溶出させることによって、実施することができる。
【0102】
また、水溶性物質を溶出させる対象地域がいそ焼けを起こした地域であるときは、海底部から海中の所望の場所に、水溶性物質として肥料を封入した溶出制御容器23を必要な数だけ固定することによって海中への肥料の溶出制御を行うことができる。また、コンブやホンダワラなどの海藻類または海草類を多数移植していそ焼けを回復させるような場合には、本発明の肥料封入溶出制御体23を当該海草の移植地帯付近にロープ27、ネットに固定して肥料を溶出させることができる。
【0103】
さらに、本発明の肥料封入溶出制御体23を海苔の色落ち防止などに使用するときは、容器を水面下、また海苔養殖網の周囲及び/又は上部に設置して肥料を溶出させることによって、一定期間にわたり海苔に必要な窒素を供給し、海苔の色落ち防止を防ぐことができる。
【0104】
実験例1
<樹脂塗工量による栄養塩溶出速度の制御>
1)目的
樹脂塗工量を変化させたポリ乳酸の溶出制御膜1を用いて、栄養塩溶出速度を測定する。得られた結果から、塗工量による溶出速制御効果を検討する。
2)材料
ポリ乳酸製繊維で平織した布帛3、高分子物質としてポリ乳酸樹脂を用いた。
3)方法
ポリ乳酸(バイオエコールBE―400)100重量部をメチルエチルケトン200重量部に加えて溶解する。これに水57重量部を加えた後、撹拌機にて30分混合して水を分散させ、ポリ乳酸塗布液を調整する。
【0105】
ついで、布帛3に、ポリ乳酸塗布液を、形状を異にする3種類のナイフコータを用いて、布帛3上の塗布量が3段階に異なるポリ乳酸層を設け、ついで100℃で1分間加熱して、開口率が5%で、塗工量のみが異なる3種類の溶出制御膜1を得た。
【0106】
図2に示すように、塩化ビニル樹脂製の管9を縦46mm×横30mm×高さ30mmの大きさになるよう加工し、下面にポリ乳酸の多孔性膜2で被覆された布帛3を接着剤で貼り付ける。この容器に硫酸アンモニウム肥料(アンモニア性窒素21%)13.8g入れ、水5ml加える(深さ約1cm)。
【0107】
次に、別の容器に水150ml入れ、ここに先ほどの硫酸アンモニウムを入れた容器を、上からゆっくりと浸漬し、内側と外側とで水位が一定になるように固定する。ここを試験開始時点として、24時間後のアンモニア態窒素溶出量を調べた。なお、測定は3回行い平均値を求めた。
【0108】
得られた結果から、生地接触面1m、24時間経過した場合の値に換算を行い、ポリ乳酸の多孔性膜2の塗工量とアンモニア態窒素溶出量との相関を調べた。
【0109】
<結果>
図3は、実験例1で得られた実験結果を示すグラフである。結果は表1および図3に示すとおりであり、膜厚に応じて、窒素溶出量が変化しており、多孔性膜2の塗工量に応じて、肥料の溶出を制御できることがわかる。
【0110】
【表1】

【0111】
実験例2
<多孔性膜2における開口率の制御>
高分子物質溶液における水の含有量を変えることにより、多孔性膜2の開口率および開口率に応じて溶出速度を制御できることを示す。
【0112】
<材料>
実験例1と同じポリ乳酸、溶媒を用い、溶媒中の水の含有量を変える以外は、実験例1と同様にして、開口率が異なる4種類の多孔性膜2を得た。
【0113】
なお、溶媒中の水分が変動させたため、布帛3上のポリ乳酸溶液層を一定としたが、加熱による開口率が変化したので、乾燥後の塗工量は、多孔性膜24種類の間で若干変動している。
【0114】
<方法>
実験例1と同様にして、アンモニア態窒素溶出量を調べ、ポリ乳酸の多孔性膜2の開口率とアンモニア態窒素溶出量との相関を調べた
【0115】
<結果>
図4は、実験例2で得られた実験結果を示すグラフである。
結果は、表2、表3および図4に示すとおりであり、水の含有量に応じて多孔性膜2の開口率が変化していること、開口率に対応して、アンモニア態窒素溶出量が変化していること、すなわち、開口率を制御することによって、肥料の溶出を制御できることが確認できた。
【0116】
なお、開口率は、多孔性膜を走査電子顕微鏡で観察した倍率100倍の写真(縦70mm×横100mmで現像)から各孔の面積を測定し、以下の式により、全面積に対する孔面積合計の割合を開口率とした。
開口率(%)=(多孔性膜の各孔面積の総合計/多孔性膜の全面積)×100
【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
実施例1
(実海域におけるポリ乳酸ミクロポーラス加工生地の栄養塩溶出)
図4は実施例1で使用した肥料封入溶出制御体23を示す図である。
布帛3として、ポリ乳酸製繊維で平織した布帛3を用い、高分子物質としてポリ乳酸樹脂(バイオエコールBE−400、商品名、東洋紡績株式会社製)100重量部をメチルエチルケトン200重量部に加えて溶解する。これに水57重量部を加えた後、撹拌機にて30分混合して水を分散させ、ポリ乳酸塗布液を調整する。
【0120】
ついで、布帛3に、ポリ乳酸塗布液を、ナイフコータ形状は丸刃、ナイフ深度1.0mm、送り出しテンション55%、巻き取りテンション120V、布速毎分10mのコーティング条件で塗布し、100℃で風量を調整しつつ加熱することによって、多孔性膜2の塗工量が22g/mで、開口率が5%の溶出制御膜を得た。
【0121】
この溶出制御膜の3辺を熱融着して、10cm×12cmの大きさの袋に加工し、中に硫酸アンモニウム(N21%)を27g入れた後、残る1辺を熱融着して完全に密閉し、図4に示す容器を製造した。
【0122】
ついで、この容器を福井県内実海域に水深3mになるようにロープで固定して設置し、容器内硫酸アンモニウムの量の経時変化を調べた。調査は毎週1回程度調査し、1ヶ月間経過を見た。
【0123】
図6は実施例1の結果を示すグラフである。
結果は、図6に示すとおりであり、本発明の溶出制御容器は実海域においてもほぼ一定の速度で溶出していることがわかった。
【0124】
実施例2
ウレタン樹脂(ハイムレンATX−10、大日精化工業株式会社製)120重量部にメチルエチルケトン25重量部、水60重量部とメチルエチルケトン5重量部の混合液を混合し、架橋剤としてイソシアネート(レザミンX−100、大日精化工業株式会社製)2部を加え、ウレタン樹脂塗布液を調製した。
【0125】
ついで、このウレタン樹脂塗布液をポリエステル製の布帛3に多孔性膜2を重量が乾燥重量で布帛1平方メートル当たり10g/mになるように塗布して、80℃で30秒間乾燥し、ついで130℃で30秒間乾燥することにより、溶出制御膜を得た。
【0126】
この溶出制御膜を40cm×50cmの大きさの袋状となるよう三方を融着し、内部に硫酸アンモニウム12kgと、過リン酸石灰1kgを入れて、融着して密閉することにより、本発明の溶出制御体を得た。
【0127】
実施例3
アクリル樹脂(株式会社トウペ製 商品名:トアアクロンXE−5105S改)100重量部にメチルエチルケトン50重量部と水50重量部を混合し、架橋剤としてイソシアネート(レザミンX−100、大日精化工業株式会社製)2部を加え、アクリル樹脂塗布液を調製した。
【0128】
ついで、このアクリル樹脂塗布液を、ナイロン製の布帛3に、乾燥後の膜重量が布帛1平方メートル当たり10g/mとなる量塗布して、80℃で30秒間乾燥し、ついで130℃で1分間乾燥することにより、溶出制御膜を得た。
【0129】
この溶出制御膜を、直径14cm×高さ50cmの樹脂製円筒容器の側面のみにスリット加工を施し、該スリット部を覆うように前記溶出制御膜を接着し、容器内部にアミノ酸溶液(主成分 アルギニン、リシン)6kgを入れた後、容器を密閉することにより、本発明の溶出制御体を得た。
【符号の説明】
【0130】
1 溶出制御膜
2 多孔性膜
3 布帛
4 高分子物質溶液
5 所定の厚さに調整された高分子物質層
6 ナイフコ−タ
7 加熱手段
8 布帛3の移動方向
9 塩化ビニル樹脂製の管
10 ポリ乳酸の多孔性膜2で被覆された布帛3
11 試験装置の容器
12 硫酸アンモニウム肥料溶液
13 水
14 試験装置
15 実験例1の結果を示すグラフ
16 実験例2の結果を示すグラフ
17 実施例1で使用した肥料封入溶出制御体
18 肥料封入溶出制御体の熱融着部
19 海中における硫酸アンモニウムの残存量の経時変化を示すグラフ
20 樹脂製容器の本体
21 樹脂製容器に設けられた開口部
22 溶出制御膜
23 溶出制御体
24 樹脂製容器の蓋
25 水面
26 水底
27 ロープ
28 フロート
29 おもり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛および該布帛を被覆する多孔性膜で構成された溶出制御膜の容器中に、水溶性物質が封入されてなることを特徴とする溶出制御体。
【請求項2】
溶出制御膜が、布帛1平方メートル当たり5〜50gとなる量の多孔性膜で布帛が被覆されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の溶出制御体。
【請求項3】
溶出制御膜を構成する布帛がナイロン、ポリ乳酸またはポリエステルのいずれかであり、多孔性膜がポリ乳酸、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種以上で構成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の溶出制御体。
【請求項4】
水溶性物質が水棲生物用の肥料、栄養源および薬剤のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の溶出制御体。
【請求項5】
肥料が、水棲生物に対して窒素供与源、リン酸供与源、カリウム供与源または重金属供与源となりうる肥料であることを特徴とする請求項4に記載の溶出制御体。
【請求項6】
肥料が、無機酸のアンモニウム塩、硝酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩または鉄、マンガン、コバルトもしくは亜鉛から選ばれる金属錯体のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の溶出制御体。
【請求項7】
布帛がポリ乳酸繊維の布帛であり、多孔性膜がポリ乳酸からなる膜であり、水溶性物質が硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の肥料封入溶出制御体。
【請求項8】
布帛および該布帛を被覆する多孔性膜で構成された溶出制御膜の容器中に、水溶性物質が封入されてなる溶出制御体を、水中に設置することを特徴とする水中における水溶性物質の溶出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−56819(P2012−56819A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203776(P2010−203776)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】