説明

溶出制御型農薬粒剤組成物、及び農薬粒剤

【課題】水溶性の高い農薬活性成分を含有する農薬粒剤において、十分な薬剤の溶出効率を保ちつつ薬剤の溶出を長期間維持できるものを提供することにある。さらに、造粒効率を向上させて、工業的製造に耐え得る生産経済性を併せ持つ農薬粒剤の処方及び製造方法を提供することにある。
【解決手段】20℃における水溶解度が100ppm以上の農薬活性成分(A)、C8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる1種又は2種以上の混合物(B)、無機物質(C)、常温液体かつ常圧で200℃以上の沸点を有する石油留分(D)を含有する農薬粒剤組成物が、これを造粒して成る農薬粒剤において、良好な造粒効率が得られると共に、水溶解度の高い農薬活性成分を長期間に亘り溶出を制御できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農薬活性成分の溶出を制御し、溶出期間を長期化させることにより所望の期間の効力を発現させることができる農薬粒剤組成物に関する。詳しくは、農薬活性成分、脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、無機物質、常温液体かつ常圧で沸点が200℃以上の石油留分を含む農薬粒剤組成物を、造粒して得られる農薬粒剤に関し、水溶解度の高い農薬活性成分の溶出を制御し溶出期間を長期化させ、散布回数を減らし省力化を可能にする農薬粒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業従事者の高齢化が益々深刻になり、農作業の省力化が求められている。それに伴い、農薬も省力散布製剤やその散布方法に関する技術が検討されている。さらに、環境負荷低減という面から、農薬の使用量及び使用回数の減少と、使用期間の早期化が望まれる。これらの要請を受け、農薬活性成分の溶出制御、溶出期間の長期化を目的とした農薬粒剤の開発が行われている。そこで、農薬活性成分の土壌中及び水中における、溶出速度を制御する製剤技術の開発が必要となる。農薬活性成分の溶出を制御する製剤として、これまでに様々な製剤基材を用いた農薬粒剤が開発されている。これらの中において脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体や、各種ワックスを基材として用いた溶出制御農薬粒剤が知られている。
例えば特許文献1には、20℃における水溶解度が50ppm以上の殺虫活性成分、炭素数が10〜18の高級脂肪酸の炭素数1〜6のアルキルエステル、吸油性粒状担体からなる農薬粒剤が開示されている。また特許文献2には、アルコール型ワックスを含有することを特徴とする農薬粒剤が開示されている。さらに特許文献3では、モンタンロウ誘導体混合物を含有することを特徴とする農薬粒剤が開示されている。特許文献4では、脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、水難溶性多糖類、無機物質を含有することを特徴とする農薬粒剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−178102号公報
【特許文献2】特開平11−292706号公報
【特許文献3】特開2000−351705号公報
【特許文献4】特開2011−6396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
農薬粒剤を調製するにあたり、農薬粒剤組成物を均一に混合する工程に幾つかの課題がある。すなわち、特許文献2に示した溶出制御粒剤は、構成成分と、その全重量に対して10〜30%の水を、共に混合混練した後、押し出し造粒法によって調製する。このため、加水分解を受け易い農薬有効成分への適用に制限がある。また、造粒工程の後に加熱乾燥するため、粒内の水分が抜けた痕跡として粒内に微細な空隙が生じる。この空隙が粒内から農薬有効成分の外部への放出を助長するため、数日から数週間といった長期の溶出制御はできず、十分な生物効果を得られない。
また、特許文献3の農薬粒剤の製造方法は、基材であるモンタンロウ誘導体と農薬活性成分を加熱溶融して混合した後に、冷却固化したものを破砕造粒することによって得られる。このため、熱に不安定な農薬活性成分には、高温かつ長時間の加熱溶融工程を含む製造方法に適用することができない。また、モンタンロウ誘導体などの脂肪酸誘導体と農薬活性成分を固体のまま直接混合し、加熱工程を経ずに押出造粒を行うと、得られる粒の硬度が低く、保存や輸送時に粒が割れたり欠けたりすることで、粒剤の総表面積が大きくなり望む溶出速度が得られなくなるおそれがある。
一方、特許文献4の農薬粒剤は、組成物の混合において水の添加や加熱溶融工程が不要であり、前述したような農薬粒剤組成物を均一に混合する工程に問題は見られない。しかしながら特許文献4の粒剤は、押し出し造粒の工程において過大な摩擦がかかるため、造粒機から原料が粒形に成形されて出てくるまでに時間を要し、造粒効率の低下が問題となる。
【0005】
本発明の目的は、水溶性の高い農薬活性成分を含有する農薬粒剤において、十分な薬剤の溶出効率を保ちつつ、薬剤の溶出を長期間維持できるものを提供することにある。さらに、造粒効率を向上させて、工業的製造に耐え得る生産経済性を併せ持つ、農薬粒剤の処方及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、農薬粒剤に使用され得る種々の農薬基材や添加素材を用いて検討した結果、水溶解度が特定の農薬活性成分と、特定のカルボン酸、無機物質及び石油留分を含有する農薬粒剤組成物が、これを造粒して成る農薬粒剤において、良好な造粒効率が得られると共に、水溶解度の高い農薬活性成分を長期間に亘り溶出を制御できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は
(1)20℃における水溶解度が100ppm以上の農薬活性成分(A)、C8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる1種以上の脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)、無機物質(C)、常温液体で常圧で200℃以上の沸点を有する石油留分(D)を含むことを特徴とする農薬粒剤組成物
(2)前記無機物質(C)がクレー、タルク、白土、珪藻土、ゼオライト、硫酸バリウム、二酸化チタン、非晶質二酸化珪素(ホワイトカーボン)からなる群から選ばれる1種以上である上記(1)に記載の農薬粒剤組成物、
(3)前記常温液体で常圧で200℃以上の沸点を有する石油溜分(D)が流動パラフィン又はマシン油である上記(1)又は(2)に記載の農薬粒剤組成物、
(4)前記農薬活性成分(A)を3〜25質量%、前記脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)を10〜80質量%、前記無機物質(C)を10〜60質量%、前記常温液体で常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)を1〜30質量%、を含有する上記(1)〜(3)のいずれか一項の農薬粒剤組成物、
(5)前記農薬活性成分(A)がネライストキシン系農薬活性成分である上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の農薬粒剤組成物、
(6)界面活性剤(E)を0.1〜10質量%含有する上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の農薬粒剤組成物、
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の農薬粒剤組成物を粒径2〜10mmに粒状成形してなる農薬粒剤、
(8)界面活性剤(E')を表面コーティングした上記(7)に記載の農薬粒剤、
(9)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の農薬粒剤組成物を混合する混合工程、前記混合工程により得られる混合物を造粒して粒状成形体を調製する造粒工程、前記造粒工程により得られる粒状成形体を加熱処理する加熱工程、を含む農薬粒剤の製造方法、
(10)前記造粒工程が縦型押出造粒機によって行われる上記(9)に記載の農薬粒剤の製造方法、
(11)前記縦型押出造粒機に使用するダイスの厚さが10mm以上である上記(10)に記載の農薬粒剤の製造方法、
(12)前記加熱処理が50〜80℃かつ1〜30分の範囲で行われる上記(9)〜(11)のいずれか一項に記載の農薬粒剤の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の農薬粒剤組成物は、農薬活性成分の溶出を制御できる農薬粒剤を提供できると共に、粒剤調製における造粒効率が向上される効果を備える。すなわち、農薬製剤の生産効率が向上することにより、安定な生産性を確保できると共に、製剤性能の安定化に寄与する。これにより、長期に亘り農業有害生物の防除効果を維持できる溶出制御型農薬粒剤を、安定して提供することができる。
さらに、基材に用いるC8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体の種類や組合せ組成、並びに無機物質、及び常温液体かつ常圧で200℃以上の沸点を有する石油留分の種類や含有量を適宜調整することによって、所望の農薬活性成分の溶出速度に制御することができる。これにより用いる農薬活性成分の至適濃度、対象とする病害虫、散布時期、作用期間に応じた製剤をデザインすることができ、その結果、用いる農薬活性成分の効力が十分に発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の農薬粒剤組成物及び農薬粒剤、並びにその製造方法についてより詳しく説明する。
本発明の農薬粒剤に使用される農薬活性成分(A)は、農薬殺虫活性成分又は農薬殺菌活性成分を指し、一般に農園芸に施用されている、水溶解度が20℃において0.01〜50質量%である殺虫剤、殺菌剤が使用でき、る。農薬活性成分(A)としては、具体的には例えば次のようなものが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0009】
農薬殺虫活性成分としては、例えば1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩;(カルタップ塩酸塩)、5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンシュウ酸塩;(チオシクラムシュウ酸塩)、S,S'‐2‐ジメチルアミノトリメチレン=ジ(ベンゼンチオスルホナート);(ベンスルタップ)等のネライストキシン系殺虫剤、1‐(6‐クロロ‐3‐ピリジルメチル)‐N‐ニトロイミダゾリジン‐2‐イリデンアミン;(イミダクロプリド)、3‐(2‐クロロ‐1,3‐チアゾール‐5‐イルメチル)‐5‐メチル‐1,3,5‐オキサジアジナン‐4‐イリデン(ニトロ)アミン;(チアメトキサム)、(E)‐1‐(2‐クロロ‐1,3‐チアゾール‐5‐イルメチル)‐3‐メチル‐2‐ニトログアニジン;(クロチアニジン)、(RS)‐1‐メチル‐2‐ニトロ‐3‐(テトラヒドロ‐3‐フリルメチル)グアニジン;(ジノテフラン)、3‐(6‐クロロ‐3‐ピリジルメチル)‐1,3‐チアゾリジン‐2‐イリデンシアナミド;(チアクロプリド)、(E)‐N‐(6‐クロロ‐3‐ピリジルメチル)‐N‐エチル‐N'‐メチル‐2‐ニトロビニリデンジアミン;(ニテンピラム)、(E)‐N‐[(6‐クロロ‐3‐ピリジル)メチル]‐N'‐シアノ‐N‐メチルアセトアニジン;(アセタミプリド)等のネオニコチノイド系殺虫剤、S−メチル−N−[(メチルカルバモイル)オキシ]チオアセトイミデート;(メソミル)、2−セコンダリーブチルフェニル−N−メチルカーバメート;(BPMC)等のカーバメイト系殺虫剤、及び(E)−4,5−ジヒドロ−6−メチル‐4−(3−ピリジルメチレンアミノ)−1,2,4−トリアジン−3(2H)−オン;(ピメトロジン)が挙げられる。
【0010】
農薬殺菌活性成分としては、例えば、3−アリルオキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−1,1−ジオキシド;(プロベナゾール)、1,2,5,6−テトラヒドロピロロ[3,2,1−ij]キノリン−4−オン;(ピロキロン)、(E)−2−メトキシイミノ−N−メチル−2−(2−フェノキシフェニル)アセトアミド;(メトミノストロピン)、5−メチル−1,2,4―トリアゾロ[3,4−b]ベンゾチアゾール;(トリシクラゾール)、3'-クロロ−4,4'−ジメチル−1,2,3−チアジアゾール−5−カルボキサニリド;(チアジニル)、[5−アミノ−2−メチル−6−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシシクロヘキシロキシ)テトラヒドロピラン−3−イル]アミノ−α−イミノ酢酸;(カスガマイシン)等が挙げられる。
【0011】
本発明においてはこれらの中でも、ネライストキシン系農薬活性成分が好適に使用され、具体的にはチオシクラムシュウ酸塩が挙げられる。またネオニコチノイド系農薬活性成分も好適に使用され具体的にはイミダクロプリドを挙げることができる。本発明の農薬粒剤組成物にはこれらの農薬活性成分を、2種以上を使用してもよい。
【0012】
本発明の農薬粒剤組成物が含有する農薬活性成分(A)は、この化学的安定性の面で影響を与えない範囲で、他の農薬活性成分を併用することができる。他の農薬活性成分を併用する場合、農薬活性成分(A)としてはネライストキシン系農薬活性成分、及び/又はネオニコチノイド系農薬活性成分が好ましい。
【0013】
他の農薬活性成分としては、例えば殺虫活性成分としては、BPMC(2‐sec‐ブチルフェニル‐N‐メチルカーバメート)、MIPC(2‐イソプロピルフェニル‐N‐メチルカーバメート)、NAC(1‐ナフチル‐N‐メチルカーバメート)、ピラクロホス((RS)‐〔O‐1‐(4‐クロロフェニル)ピラゾール‐4‐イル〕‐O‐エチル‐S‐プロピル‐ホスホロチオエート)、ブプロフェジン(2‐tert‐ブチルイミノ‐3‐イソプロピル‐5‐フェニル‐3,4,5,6‐テトラヒドロ‐2H‐1,3,5‐チアジアジン‐4‐オン)、フルシトリネート((RS)‐α‐シアノ‐3‐フェノキシベンジル‐(S)‐2‐(4‐ジフルオロメトキシフェニル)‐3‐メチルブチラート)、メソミル(S‐メチル‐N‐〔(メチルカルバモイル)オキシ〕チオアセトイミデート)、エトフェンプロックス(2‐(4‐エトキシフェニル)‐2‐メチルプロピル‐3‐フェノキシベンジル−エーテル)、XMC(3,5‐キシリル‐N‐メチルカーバメート)などが挙げられる。
殺菌活性成分としては、IBP(O,O‐ジイソプロピル‐S‐ベンジルチオホスフェート)、トリシクラゾール(5‐メチル‐1,2,4−トリアゾロ〔3,4−b〕ベンゾチアゾール)、フサライド(4,5,6,7‐テトラクロロフタリド)、バリダマイシン、プロベナゾール(3‐アリルオキシ‐1,2‐ベンゾイソチアゾール‐1,1‐ジオキシド)、フェリムゾン((Z)‐2'‐メチルアセトフェノン=4,6‐ジメチルピリミジン‐2‐イルヒドラジン)、フルトラニル(α,α,α‐トリフルオロ‐3'‐イソプロポキシ‐O‐トルアニリド)、フラメトピル((RS)‐5‐クロロ‐N‐(1,3‐ジヒドロ‐1,1,3‐トリメチルイソベンゾフラン‐4‐イル)‐1,3‐ジメチルピラゾール‐4‐カルボキサミド、ペンシクロン(1‐(4‐クロロベンジル)‐1‐シクロペンチル‐3‐フェニル尿素、ジクロメジン(6‐(3,5‐ジクロロ‐4‐メチルフェニル)‐3(2H)‐ピリダジノン)、カスガマイシン一塩酸塩などが挙げられる。
【0014】
本発明の農薬粒剤組成物中の農薬活性成分(A)の含有割合は、通常3〜25質量%、好ましくは4〜15質量%である。組成物中の含有量が3質量%に満たない場合は農薬活性成分の十分な効力発現が期待できず、25質量%を超えると農薬活性成分の水中への溶出が十分に制御し得ないために長期の残効を期待できない。
【0015】
本発明の農薬粒剤組成物は、炭素数8〜40の(C8〜C40)アルキル鎖を有するカルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる1種又は2種以上の混合物である脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)が製剤基材として適用される。C8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体は、常温固体状で、農薬活性成分に対して不活性であれば特に限定されずに使用することができる。
【0016】
本発明に好適なC8〜C40アルキル鎖カルボン酸又はその誘導体において、C10〜C30アルキル鎖カルボン酸又はその誘導体が好ましい。該カルボン酸としては、例えばステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
該カルボン酸誘導体としては、前記カルボン酸が水酸基等の置換基を有する化合物等が挙げられ、例えば12‐ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。さらに、牛硬化油、ヒマシ硬化油、大豆硬化油、パーム硬化油、菜種硬化油といった動物性油脂、若しくは植物性油脂等の脂肪酸エステルを水素添加して得られたワックス状物質なども含まれる。(B)成分は、例えば上記物質の中から選ばれる1種又は2種以上の混合物で、これらは任意に組み合わせて使用することができるが、ヒマシ硬化油の単独使用、牛硬化油とステアリン酸の組合せ、ヒマシ硬化油とステアリン酸の組合せが農薬活性成分の良好な溶出性を示すことから好ましい。
【0017】
C8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる1種又は2種以上の混合物(B)は、本発明の農薬粒剤組成物中に、10〜80質量%の割合で含有させることができる。好ましくは20〜70質量%である。10質量%未満では農薬活性成分の溶出制御効果が期待できず、また農薬粒剤の形状に成形することが困難となる。また、80質量%を超えると、農薬活性成分が十分に水中に溶出されず、粒剤中に残留するため十分な効果が発揮できない可能性がある。本発明の農薬粒剤において、(B)成分の含量を多くすると、農薬活性成分の溶出速度が遅く制御された粒剤を調製できる。逆に当該脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)の含量を少なくすると、早い薬剤溶出パターンを示す農薬粒剤を調製できる。
【0018】
本発明の農薬粒剤組成物は無機物質(C)を含有する。無機物質(C)は農薬粒剤組成物の内部の構造を粗くすることで、農薬活性成分の水中溶出速度を適宜調整する役割を有する。また無機物質(C)は、農薬粒剤の比重を調整して水中沈降性を付与する機能を担う。これにより、基材由来の撥水性を起因とした水面への浮上といった問題を改善し、効力の不均一化や効力不足を招く要因を回避できるようになる。
無機物質(C)は、クレー、珪石、タルク、白土、珪藻土、ゼオライト、アッシュメント、非晶質二酸化珪素(通称:ホワイトカーボン)、硫酸バリウム、二酸化チタン、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどから選ばれる1種又は2種以上の組合せで用いられるが、農薬活性成分の安定性を損なうものでなければ、これに限るものではない。無機物質(C)の粒径は、農薬粒剤の所望の性能に応じ、任意に選択され使用できる。その中でも20〜200μmのものが、製造上及び/又は農薬活性成分の溶出を促す作用を導き出すのに好ましい。
無機物質(C)は、本発明の農薬粒剤組成物中に10〜60質量%の割合で含有させることができる。好ましくは20〜60質量%である。10質量%未満では農薬活性成分の溶出性調整や農薬粒剤の比重調整の効果が期待できない。60質量%を超えると農薬活性成分の溶出制御が困難となるばかりでなく、農薬粒剤としての形状に成形することが難しくなる。
【0019】
本発明の農薬粒剤組成物には、常温液体かつ常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)が含まれる。石油留分(D)は、押し出し造粒の際に、原料が粒状を保つための結合剤として働くと共に、農薬粒剤調製において、粒状成形体の成形性の改善及び造粒成形機からの排出を容易にさせ、造粒効率を上げるための滑剤として働く。また、石油留分(D)は、本発明の農薬粒剤組成物中に含まれる(B)成分と溶融し、(B)成分を粒内に均一に行き渡らせて粒の硬度を高めると共に、粒内の構造を密にして、農薬有効成分の溶出を抑える働きをする。粒剤成形において、特に押し出し造粒工程を採用する場合、通常、農薬製剤組成物に水を添加することが行なわれ、該添加水が、結合剤及び滑剤としての役割を果たしている。しかしながら、水は造粒後の乾燥で粒内から除去されるため、農薬粒剤において粒内の水分布位置に空隙が生じる。この空隙が粒内の農薬有効成分の放出を過剰に促し、長期間の溶出制御を困難にすることが判明した。本発明の農薬粒剤組成物は、この点に着眼し、前記石油留分(D)を必須成分とすることにより、造粒効率を上げる機能並びに粒剤性能の向上の両立を達成し得ることを見出したものである。
【0020】
本発明に用いられる石油留分(D)は、常温(25℃)で液体であり、常圧(1気圧)で沸点が200℃以上の炭化水素系溶剤が好ましい。石油留分(D)は、農薬活性成分の安定性を損なうものでなければ、特に限定されずに用いることができる。具体例として、流動パラフィン、マシン油等を挙げることができる。
石油留分(D)は、本発明の農薬粒剤組成物中に1〜30質量%の割合で含有させることができる。好ましくは5〜20質量%である。1質量%未満では結合剤及び滑剤としての効果が期待できず、造粒工程における生産効率が著しく低下するだけでなく、農薬粒剤としての形状に成形することが困難になる。また、30質量%を超えると農薬活性成分の溶出制御が困難となるばかりでなく、農薬粒剤としての形状に成形することが難しくなる。
【0021】
本発明の農薬粒剤組成物において、界面活性剤(E)を含有することが好ましい。界面活性剤(E)は、ノニオン性及び/又はアニオン性界面活性剤が適用される。アニオン性界面活性剤及び/又はノニオン性界面活性剤は、湛水圃場に本発明の農薬粒剤を散布した際、その水親和性によって、本発明の農薬粒剤の撥水性を抑えて水中沈降性を改善し、速やかに水中に沈降する機能を付与させるものである。また、界面活性剤(E)は、農薬粒剤の親水性を高めて、粒内部に存在する農薬活性成分(A)の水中への溶出を適宜調整する役割も担う。
【0022】
本発明に用いることができる界面活性剤(E)は、農薬活性成分(A)の安定性を損なうものでなければ特に限定されずに、適宜選択して用いることができる。適用できる界面活性剤(E)の具体例を、以下に挙げるが、これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、グリセリルモノステアレート、グリセリルジステアレート、等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、等が挙げられる。
【0023】
界面活性剤(E)がその効果を発揮する使用の形態は、他の農薬粒剤組成物と共に界面活性剤(E)を混合して、農薬粒剤組成物の一体の混合物として用いる態様を挙げることができる。または、他の農薬粒剤組成物を混合した後、造粒した農薬粒状成形体の粒表面に、界面活性剤(E')を均一にコーティングする態様も含まれる。若しくはその両方を併用して、農薬粒剤組成物において当該界面活性剤(E)を予め添加して混合物として、造粒により農薬粒状成形体を調製した後、さらに当該界面活性剤(E')を粒表面にコーティングする態様も本発明に含まれる。農薬粒剤表面のコーティングに用いる界面活性剤(E')は、前述した界面活性剤(E)と同じ種類のものを適用することができ、これら選択肢の中から適宜選択して用いることができる。すなわち、農薬粒剤として一体に混和させる界面活性剤(E)と、粒剤表面にコーティングする界面活性剤(E')は同種であっても、異なる種類であっても良い。
界面活性剤(E')を農薬粒剤表面にコーティングする方法としては、農薬粒剤に、界面活性剤(E')を添加してミキサー等により転動させて、直接コーティングする方法、農薬粒剤の表面にバインダーとなる液体を塗布した後に、当該界面活性剤(E')をホワイトカーボンなどに吸着させた粉体をコーティングする方法等が挙げられる。
界面活性剤(E)または(E')は、本発明の農薬粒剤組成物中に0.1〜30質量%の割合で含有させることができる。より好ましくは0.1%〜10質量%である。0.1質量%未満では当該農薬粒剤を水中に沈降させるには足りず、30質量%を超えると良好な水中沈降性は得られるものの、界面活性剤によって農薬活性成分の水中溶出速度が大幅に促進されるため、溶出制御が困難になる。
【0024】
本発明の農薬粒剤組成物は、前記各成分の含有量を適宜調整することで所望の水中溶出速度を得ることができる。なお、本明細書において界面活性剤(E)または(E')は、組成物中に混合される場合であっても、粒剤にコーティングされた場合であったも区別せず、組成物基準で記載する。
加えて、当該農薬粒剤組成物には前記界面活性剤(E)または(E')を0.1〜10質量%の割合で添加することができ、当該農薬粒剤の水中沈降性ならびに農薬活性成分の水中溶出速度を適宜調整することができる。2種以上の農薬活性成分を本発明の農薬粒剤に含有させる場合には、農薬活性成分の種類によっては農薬活性成分(A)が製剤基材である脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)の内部構造を粗くする作用が生じる場合があり、この場合、農薬活性成分が水中溶出を促進する効果を発揮する。そのため所望の溶出制御を発現させるには用いる農薬活性成分及びその含有量に応じて調整することが好ましい。
【0025】
本発明に係る農薬粒剤組成物において、更に、常温液体の植物性脂肪酸及び/又はその誘導体、水難溶性多糖類、等の他の添加剤を使用することもできる。
常温液体の植物性脂肪酸及び/又はその誘導体は、前記のC8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体である脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)と共に用いるものであり、農薬製剤基材を軟化させて当該農薬粒剤の造粒性が向上する効果を奏する。用いることができる常温液体の植物性脂肪酸及び/又はその誘導体としては、ヒマシ油、菜種油、パーム油、大豆油、綿実油、亜麻仁油等を挙げることができる。当該常温液体の植物性脂肪酸及び/又はその誘導体の混用は、当該粒剤硬度を低下させる懸念もあることから、これを添加する場合は、粒剤中に0.05〜10質量%の範囲において用いられるものである。当該粒剤の造粒性向上と粒硬度の両立の観点から、当該農薬粒剤組成物中で0.1〜5質量%の適用がより好ましい。
【0026】
水難溶性多糖類の添加は、粒剤硬度を向上させることを目的として本発明の組成物中に加えることができる。水難溶性多糖類は、農薬粒剤組成物中でネットワークを形成して、粒の硬度を高める機能を有する。更に圧縮成形性を付与して、押出造粒による圧縮で硬度を持った粒剤が得られる。本発明の農薬粒剤は、水難溶性多糖類を添加することにより、当該農薬粒剤の粒硬度は十分に担保されたものとなる。
本発明の農薬粒剤に用いられる水難溶性多糖類としては結晶セルロース、水不溶性ペクチン、キチン・キトサン等が挙げられる。押出造粒による造粒性を向上し得るもので、当該農薬粒剤中の農薬活性成分の安定性を損なうものでなければこれに限るものではない。
水難溶性多糖類の平均粒子径は1〜45μmのものを用いることができる。好ましくは平均粒径5〜20μmである。農薬粒剤に水難溶性多糖類を用いる場合、0.5〜20質量%用いることで十分な硬度を与えることができる。0.5質量%未満では水難溶性多糖類による圧縮形成性と硬度を与えることができない。また、20質量%を超えると農薬粒剤としての形状に成形することが難しくなる。
【0027】
本願に係る発明は、前記農薬粒剤組成物を混合し、造粒して得られる農薬粒剤もその要旨とする。本発明の農薬粒剤は、その粒剤粒径は2〜10mmが適用される。2mm未満では造粒の際に当該農薬組成物にかかる圧力が足りず、粒剤としての形に成形することが困難となる。また、水田に散布する際に風などの影響を受けて、当該農薬粒剤が狙う水田以外の畦畔等に落下するおそれがある。10mmを超える場合も造粒が難しくなるばかりか、単位面積当たりの散布粒数が少なくなり散布ムラや効力が不均一化する等の問題が起きるおそれがある。
【0028】
本発明の農薬粒剤には、その表面に界面活性剤(E')がコーティングされたものが好ましい。粒表面にコーティングされる界面活性剤(E')とは、前述の農薬粒剤組成物において用いる界面活性剤(E)と同様のものが用いられ、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤が適用できる。
【0029】
本発明の農薬粒剤の製造方法は特に限定されるものではないが、以下の方法が挙げられる。農薬活性成分(A)、C8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる1種又は2種以上の混合物である脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)、無機物質(C)、及び常温液体で常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)、さらに界面活性剤(E)や水難溶性多糖類等の任意の成分を加えてよく混合した後に、この組成混合物を造粒機に投入して造粒する。その後、得られた粒状物に加熱処理を施すことにより当該農薬粒剤を調製することができる。加えて、得られた農薬粒剤の表面に、界面活性剤(E')をコーティングする工程が任意に加えられる。
【0030】
農薬粒剤組成物の混合物を調製する工程において、その混合方法は各農薬組成成分が十分混合できる方法であれば特に限定されない。具体的にはニーダーやスパルタンリューザー、リボンミキサーなどが使用できる。一般的に、押出成形法による農薬粒剤の調製において、農薬活性成分や製剤基材、添加物等の農薬組成物を混合する場合、混練性を高め、各成分を結着させる目的で、水や水溶性高分子バインダー水溶液を加えて混合する。しかしながら、本発明の農薬粒剤組成物は、用いる基材に加工性に優れる脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)を用いること、さらに常温液体かつ常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)を添加した効果により、添加水を用いることなく、当該農薬粒剤組成物自体で結合剤作用および滑剤作用を備え、十分に混合することができる。特に水溶性の農薬活性成分を用いる場合、製剤調製過程において水を添加することは、得られる製剤物性に好ましくない影響を及ぼすことが懸念される。すなわち、造粒時の加圧状態で、農薬活性成分の少なくとも一部を溶解した水が農薬組成混合物内に均一に分散せず、特に粒剤の表面に薬剤の局在化をもたらし、農薬組成混合物内に農薬活性成分が均一に分散しない現象をもたらす。このため均質な農薬組成混合物が得られず、所望の製剤特性が発揮されないものとなる。したがって、本願に係る農薬粒剤の調製の混合工程において水を添加しないことは、製剤特性を発揮させる上で重要である。
【0031】
農薬粒剤組成物の混合物を造粒する工程における成形方法としては、これを押出成形する方法が、粒剤成形方法及び製造操作上において好ましい。すなわち、水や結合剤といった形成助剤の使用、若しくは製剤基材の溶融工程を必要としない。したがって、水や熱による分解が懸念される比較的化学的安定性が低い農薬活性成分を用いた農薬粒剤として、その造粒成形にも適用できるものである。
均一な粒状成形体を調製するために造粒機を用いることが望ましい。特に縦型押出造粒機による造粒方法が好ましい。縦型押出造粒機は、一般に被造粒組成物に圧力をかけて、水平に設置されたダイスから押出して造粒する機器の一般名称で、具体的にはディスクペレッター(不二パウダル社製)等が挙げられる。実際の造粒工程としては、原材料をよく混合した後に、当該造粒機に投入して造粒する。このとき、造粒機のダイスの厚さが10mm以上の用いることが、粒剤粒径が2〜10mmの粒剤を製造する上で重要になる。ダイスの厚さが10mmに満たない場合、原材料にかかる圧力が足りず粒剤としての形に成形することが困難となる。また、粒径が2〜10mmの範囲外の場合、やはり原材料にかかる圧力が足りず粒剤として成形することが難しくなる。
【0032】
農薬組成物を縦型押出造粒機にて粒状物にしただけでは、造粒物の硬度が低く、軽い撹拌や振とうで簡単に粒が崩壊する場合がある。これは常温で液体かつ常圧で沸点が200℃以上の石油留分が、水と同様に滑剤として働くため、造粒工程の製造効率が向上する効果を示す一方、造粒成形の圧力が、十分な硬度を得られる程度まで農薬組成物に与えられないためである。すなわち、粒剤調製における造粒効率の向上と、粒剤硬度の増強は拮抗した相反する作用側面を有する。このような現象を改善し、製造効率を保ちつつ、望む硬度の粒を得る方法として、本発明の農薬粒剤組成物を造粒して粒状成形体とした後、得られた粒状成形体を、製剤基材として用いた脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)の融点以下で短時間、加熱処理を施す方法を採用することが望ましい。この加熱処理により、当該農薬粒剤中の脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)が、常温液体で常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)と溶融混合し、粒内に均一に広がることで、粒内に製剤基材の効果的なネットワークを構築する作用がもたらされると考えられ、その結果、粒剤硬度が向上する。
この加熱処理は、恒温槽や流動層乾燥機を用いて施される方法を挙げることができるが、これに限るものではない。本明細書で言う加熱温度は、当該農薬粒剤を包囲する雰囲気の温度を指すものとする。従って、恒温槽の場合は目的の温度になったことを確認した後、農薬組成物の造粒物を槽内に所望の時間に亘り加熱する。流動層乾燥機の場合は流動層内に農薬組成物の造粒物を投入し、運転開始後、流動槽内が目的とする温度で一定となってから、適切な時間、流動層内で加熱処理を行う。加熱温度は、粒剤基材として用いる前記脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)の融点以下である必要があり、通常50〜100℃である。好ましくは50℃〜80℃である。100℃以上では表面が溶解し粒同士付着してブロッキング現象を起こしてしまう。また、50℃未満では加熱による当該農薬粒剤の構造改良の効果は期待できない。粒の加熱時間はごく短時間でよく、60分以内が適切である。好ましくは1〜60分であり、より好ましくは1〜30分である。
【0033】
上記の加熱工程は硬度向上をもたらすだけでなく、散布直後から短期間で農薬活性成分が過剰に溶出される、いわゆる初期過剰溶出を抑制する働きがある。縦型押出造粒機による造粒で得られた粒の端面は、切断面で形成されており、表面が粗い。このため、粒内部への水の侵入を許し、農薬活性成分の溶出速度、特に散布直後の初期溶出速度を速める原因となる。そこで、当該農薬粒剤を、短時間の加熱処理を施すことにより、脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)と常温液体で常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)が溶融混合して表面を改質し、粒をあたかも継ぎ目のないカプセルのようにすることができる。さらに、前記脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)と、前記常温液体で常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)の溶融混合が粒内部でも起こり、粒内部の構造を密にすることで、散布直後から短期間に溶出する有効性分量を抑制する。したがって、散布直後の農薬活性成分の初期過剰溶出を抑制し、長期間効力を持続させることができる。
【0034】
本発明の農薬粒剤の硬度は、全農が制定した「農薬製剤の製品規格および規格試験法」(昭和62年12月改定)により定められた方法により規定できる。試験法以下の通りである。当該農薬粒剤100gをボールミル用磁製ポット(内径100×内深100mm)に入れる。次に磁製玉(直径30±2mm、重量35g±3g)を任意に3個取り、3個分の全重量が105gとし、ポットに入れる。ふたをし、予め回転を調整(75rpm)しておいた可変ローラーの上にポットを置き、正しく15分間回転させる。回転が終了したら中身を取り出し、標準篩500μmで篩い、通過した微粉を上皿天秤で量る。硬度は次の式で表され、値の小さいものほど硬度が高いと言える。
硬度(%)=500μm通過微粉量(g)/100(g)×100
本発明の農薬粒剤を上記試験方法に供すると、結果として硬度5%以下である。硬度が10%より大きい値の場合、保存及び輸送中に粒が割れたり欠けたりすることで粒剤の総表面積が大きくなり望む溶出速度が得られなくなるおそれがある。
【0035】
本発明の農薬粒剤は、造粒成形体を加熱処理することにより調製することができるが、任意に施される工程として、粒剤表面に界面活性剤(E')をコーティング処理したものが特に好ましい。粒剤表面に界面活性剤(E')をコーティング処理する方法としては、コンクリートミキサーやコーティングパンなどが用いられる。ミキサーに、上記の方法で得られた農薬粒剤、界面活性剤(E')の順に投入し、内部を撹拌することで粒剤表面に均一に界面活性剤をコーティングすることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。本実施例において、農薬活性成分として使用したチオシクラムシュウ酸塩の純度は約90.4%であった。
【0037】
実施例1
チオシクラムシュウ酸塩9.4重量部、ヒマシ硬化油28.0重量部、シルト#500(商品名、丸中白土社製、白土、平均粒子径:約40μm)49.9重量部、NPファイバー(商品名、日本製紙ケミカル社製、微粉結晶セルロース、平均粒子径:10μm)2.5重量部、モレスコホワイトMT−80(商品名、松村石油化学研究所製、流動パラフィン、沸点250℃以上)10.0重量部をよく混合したものを、ディスクペレッター(商品名、不二パウダル社製、縦型押出造粒機、ダイス厚さ20mm、粒径4.0mm)に投入して造粒した。これを3mm(7メッシュ)の篩で篩別した後、流動層乾燥機(ミゼットドライヤー、MDD−400N型、不二パウダル社製)にて70℃、15分間処理した。これをコンクリートミキサーに投入し、更にレオドールTW−O120V(商品名、花王社製、POEソルビタンモノオレート)0.3重量部を加え、攪拌することにより粒剤コーティングし、チオシクラムシュウ酸塩8.4%の粒剤を得た。
【0038】
実施例2
チオシクラムシュウ酸塩9.4重量部、ヒマシ硬化油20.4重量部、ステアリン酸12.4重量部、シルト#500(商品名、丸中白土社製、白土、平均粒子径:約40μm)50.0重量部、NPファイバー(商品名、日本製紙ケミカル社製、微粉結晶セルロース、平均粒子径:10μm)2.5重量部、モレスコホワイトMT−260(商品名、松村石油化学研究所製、流動パラフィン、沸点250℃以上)5.0重量部をよく混合したものを、ディスクペレッター(商品名、不二パウダル社製、縦型押出造粒機、ダイス厚さ20mm、粒径4.0mm)に投入して造粒した。これを3mm(7メッシュ)の篩で篩別した後、流動層乾燥機(ミゼットドライヤー、MDD−400N型、不二パウダル社製)にて70℃、15分間処理した。これをコンクリートミキサーに投入し、更にレオドールTW−O120V(商品名、花王社製、POEソルビタンモノオレート)0.3重量部を加え、攪拌することにより粒剤コーティングし、チオシクラムシュウ酸塩8.4%の粒剤を得た。
【0039】
実施例3
チオシクラムシュウ酸塩9.4重量部、ヒマシ硬化油18.1重量部、ステアリン酸9.7重量部、シルト#500(商品名、丸中白土社製、白土、平均粒子径:約40μm)50.0重量部、NPファイバー(商品名、日本製紙ケミカル社製、微粉結晶セルロース、平均粒子径:10μm)2.5重量部、モレスコホワイトMT−40(商品名、松村石油化学研究所製、流動パラフィン、沸点250℃以上)10.0重量部をよく混合したものを、ディスクペレッター(商品名、不二パウダル社製、縦型押出造粒機、ダイス厚さ20mm、粒径4.0mm)に投入して造粒した。これを3mm(7メッシュ)の篩で篩別した後、流動層乾燥機(ミゼットドライヤー、MDD−400N型、不二パウダル社製)にて70℃、15分間処理した。これをコンクリートミキサーに投入し、更にレオドールTW−O120V(商品名、花王社製、POEソルビタンモノオレート)0.3重量部を加え、攪拌することにより粒剤コーティングし、チオシクラムシュウ酸塩8.4%の粒剤を得た。
【0040】
比較例1
チオシクラムシュウ酸塩11.5重量部、ステアリン酸12.3重量部、ヒマシ硬化油23.3重量部、シルト#500(商品名、丸中白土社製、白土、平均粒子径:約40μm)50.0重量部、ヒマシ油0.35重量部、NPファイバー(商品名、日本製紙ケミカル社製、微粉結晶セルロース、平均粒子径:10μm)2.5重量部をよく混合したものを、ディスクペレッター(商品名、不二パウダル社製、縦型押出造粒機、ダイス厚さ10mm、粒径4.0mm)に投入して造粒した。これを3mm(7メッシュ)の篩で篩別した後、流動層乾燥機(ミゼットドライヤー、MDD−400N型、不二パウダル社製)にて70℃、15分間処理した。これをコンクリートミキサーに投入し、更にペグノールST−9(商品名、東邦化学工業社製、POEアルキルエーテル、HLB:13.3)0.3重量部を加え、攪拌することにより粒剤コーティングし、チオシクラムシュウ酸塩10.3%の粒剤を得た。
【0041】
比較例2
チオシクラムシュウ酸塩9.4重量部、ヒマシ硬化油23.6重量部、ステアリン酸12.4重量部、シルト#500(商品名、丸中白土社製、白土、平均粒子径:約40μm)50.0重量部、ヒマシ油0.35重量部、リン酸1.5重量部、NPファイバー(商品名、日本製紙ケミカル社製、微粉結晶セルロース、平均粒子径:10μm)2.5重量部、水10重量部をよく混合したものを、ディスクペレッター(商品名、不二パウダル社製、縦型押出造粒機、ダイス厚さ20mm、粒径4.0mm)に投入して造粒した。これを3mm(7メッシュ)の篩で篩別したものを、流動層乾燥機(ミゼットドライヤー、MDD−400N型、不二パウダル社製)にて70℃、15分間処理した。これをコンクリートミキサーに投入し、レオドールTW−O120V(商品名、花王社製、POEソルビタンモノオレート)0.3重量部を加え、攪拌することにより粒剤コーティングし、チオシクラムシュウ酸塩8.4%の粒剤を得た。
【0042】
試験例1 水中溶出試験(累積溶出率)
実施例及び比較例の粒剤を各0.5g測り取り、100mL共栓付き三角フラスコに入れ、100mLの蒸留水を静かに注いだ。これを25℃恒温槽に一昼夜静置後、水中に溶出したチオシクラムシュウ酸塩の量をHPLCにより測定した。その後、フラスコから全ての水を除き、改めて100mLの蒸留水を静かに注ぎ、25℃恒温槽に一昼夜静置した。この操作を繰り返してチオシクラムシュウ酸塩の24時間毎の溶出量を経時的に測定した。試験例1の結果を、チオシクラムシュウ酸塩の経時的溶出率としてまとめ、表1に記載した。
【0043】
表1:粒剤からのチオシクラムシュウ酸塩の累積溶出率(%)
実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2
1日後 23 24 41 21 60
3日後 30 39 62 38 100
5日後 38 49 70 46 −
10日後 50 60 88 60 −
【0044】
試験例2 製造効率試験
実施例及び比較例の粒剤調製工程における造粒工程で、一定量の各農薬粒剤組成物を用いて造粒した場合における造粒時間を計測し、単位時間当たりに粒剤として得られる重量を算出した。製造効率試験の結果を、表2にまとめた。
【0045】
試験例3 粒剤硬度試験
実施例及び比較例の農薬粒剤の粒剤硬度測定を、全農が制定した「農薬製剤の製品規格および規格試験法」(昭和62年12月改定)に従い測定した。すなわち、供試農薬粒剤を100g測り取り、ボールミル用磁製ポット(内径100×内深100mm)に入れた。次に磁製玉(直径30±2mm、重量35g±3g)を任意に3個取り、3個分の全重量が105gとし、ポットに入れる。ふたをし、予め回転を調整(75rpm)しておいた可変ローラーの上にポットを置き、正しく15分間回転させる。回転が終了したら中身を取り出し、標準篩500μmで篩い、通過した微粉を上皿天秤で量る。硬度は次の式で表され、値の小さいものほど硬度が高いと言うことができる。農薬粒剤硬度試験結果を表2にまとめた。
硬度(%)=500μm通過微粉量(g)/100(g)×100
【0046】
表2:試験例2(造粒効率試験)及び試験例3(粒剤硬度試験)結果
試験例2:造粒効率(kg/hr) 試験例3:硬度(%)
実施例1 93 1.0
実施例2 97 1.2
実施例3 120 1.3
比較例1 30 4.9
比較例2 122 1.0
【0047】
表1に示したように本発明の農薬粒剤は、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の種類や組成含量を種々調整することによって、様々な農薬活性成分(A)の溶出特性をも持つ粒剤に仕上げることが可能であった。これにより、初期の溶出を抑制するとともに持続的な薬剤溶出制御を達成し、所望の溶出速度の粒剤を得ることができた。一方、造粒時に潤滑剤として水を用いた比較例2は、(B)成分による溶出抑制効果が機能せず、試験開始直後より農薬活性成分であるチオシクラムシュウ酸塩が製剤内から速やかに水中に放出され、持続的な薬剤溶出は得られなかった。
また、表2に示したように、本発明の農薬粒剤は(D)成分を含むことによって、単位時間当たりに十分な量の農薬粒剤を得ることができた。一方で造粒時に潤滑剤として何も加えずに造粒を行った比較例1は、ダイスへの原料の充填、及び排出の段階で過大な摩擦が生じ、造粒効率が著しく低下する結果となった。
粒剤硬度の点でも、本発明の農薬粒剤は(D)成分と(B)成分が溶融後固化することで、粒内にネットワークを形成し、結果として粒剤硬度が上がった。一方、結合剤・滑剤に相当する成分を含まない比較例1は、得られた粒剤の硬度が本発明の農薬粒剤と比較して低い硬度を示した。
これらの結果から、農薬粒剤の調製において、結合剤・滑剤に相当する成分は製造効率を高めると共に、粒剤硬度を増強させる機能を担い、農薬粒剤組成物として添加する事が好ましいと言える。一方、農薬活性成分の溶出制御の観点では、これら結合剤・滑剤成分は不利に働く側面がある。本発明に係る農薬粒剤組成物は、結合剤・滑剤成分として、(D)成分を適用することで、粒剤製造効率、粒剤硬度、農薬活性成分の溶出制御の面を両立させ、優れた性能の溶出制御型農薬粒剤を提供できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における水溶解度が100ppm以上の農薬活性成分(A)、C8〜C40アルキル鎖カルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる1種以上の脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)、無機物質(C)、常温液体で常圧で200℃以上の沸点を有する石油留分(D)を含むことを特徴とする農薬粒剤組成物。
【請求項2】
前記無機物質(C)がクレー、タルク、白土、珪藻土、ゼオライト、硫酸バリウム、二酸化チタン、非晶質二酸化珪素(ホワイトカーボン)からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の農薬粒剤組成物。
【請求項3】
前記常温液体で常圧で200℃以上の沸点を有する石油溜分(D)が流動パラフィン又はマシン油である請求項1又は2に記載の農薬粒剤組成物。
【請求項4】
前記農薬活性成分(A)を3〜25質量%、前記脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体(B)を10〜80質量%、前記無機物質(C)を10〜60質量%、前記常温液体で常圧で沸点が200℃以上の石油留分(D)を1〜30質量%、を含有する請求項1〜3のいずれか一項の農薬粒剤組成物。
【請求項5】
前記農薬活性成分(A)がネライストキシン系農薬活性成分である請求項1〜4のいずれか一項に記載の農薬粒剤組成物。
【請求項6】
界面活性剤(E)を0.1〜10質量%含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の農薬粒剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の農薬粒剤組成物を粒径2〜10mmに粒状成形してなる農薬粒剤。
【請求項8】
界面活性剤(E')を表面コーティングした請求項7に記載の農薬粒剤。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の農薬粒剤組成物を混合する混合工程、前記混合工程により得られる混合物を造粒して粒状成形体を調製する造粒工程、前記造粒工程により得られる粒状成形体を加熱処理する加熱工程、を含む農薬粒剤の製造方法。
【請求項10】
前記造粒工程が縦型押出造粒機によって行われる請求項9に記載の農薬粒剤の製造方法。
【請求項11】
前記縦型押出造粒機に使用するダイスの厚さが10mm以上である請求項10に記載の農薬粒剤の製造方法。
【請求項12】
前記加熱処理が50〜80℃かつ1〜30分の範囲で行われる請求項9〜11のいずれか一項に記載の農薬粒剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−184170(P2012−184170A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46327(P2011−46327)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】