説明

溶剤を含有するカーボンナノチューブ水性分散体

本発明は、共有結合された親水性種を有する官能化カーボンナノチューブを用意し、前記カーボンナノチューブを極性溶剤の水溶液に添加し、そして前記水溶液中に前記カーボンナノチューブを分散させることを含んで成る分散体を形成する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共有結合された親水性種を有する官能化カーボンナノチューブの分散体を形成する方法であって、極性溶剤の水溶液中にカーボンナノチューブを分散させる前に、カーボンナノチューブが極性溶剤の水溶液に添加される、方法に関する。この方法は、増強された分散性と、導電性フィルム又はパターン化構成要件を形成するのに適したより高いパーセントの固形分とを有するカーボンナノチューブ分散体を提供する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT: Single wall carbon nanotube)は本質的に、巻かれて中空円筒体にされ、これにより、六角形及び五角形を成して配列されたsp2混成カーボンから成る外径0.4 nm〜10 nmの細管をもたらすグラフェンシートである。これらのSWCNTの各端部は典型的には、SWCNTの直径に適したサイズの半球形フラーレン(バッキーボール)でキャップされる。しかしながら、これらのエンドキャップは、細管をキャップしない状態で残す適切な処理技術によって除去することもできる。SWCNTは、単一の細管として、或いは、典型的にはロープ又はバンドルと呼ばれる集合形態で存在することができる。これらのロープ又はバンドルは、チューブ間の間隔がほぼ3〜4Åである三角格子を形成する、ファンデルワールス相互作用によって集合させられた数百のSWCNTを含有することができる。SWCNTロープは、連携するSWCNTバンドルから成ることができる。
【0003】
SWCNTの固有の特性は、多くの用途における使用にとってこれらを魅力的なものにする。SWCNTは高い(例えば金属伝導率)電子伝導率、高い熱伝導率、高いモジュラス及び引張り強度、高いアスペクト比、及びその他の独自の特性を有することができる。さらに、SWCNTは、炭素原子の幾何学的配列及びSWCNTの物理的寸法に応じて、金属、半金属、又は半導体であってよい。単層カーボンナノチューブのサイズ及び構造を特定するために、システムが開発され、下記に説明され、そして現在利用されている。SWCNTは指数(n, m)によって記述され、n及びmは、単一の六角形グラファイト・ストリップを、このストリップが巻かれて円筒形にされたときにその縁部が継ぎ目なしに接合するように、どのように切断するかを記述する整数である。n=m、例えば(n, n)である場合、結果として得られるチューブは、「ひじ掛け椅子」又は(n, n)型であると言われる。それというのも、チューブがチューブ軸に対して垂直に切断されると、六角形の辺だけが露出され、そしてチューブ縁部の周囲の六角形のパターンは、ひじ掛け椅子のひじ掛けとシートとがn回繰り返されたものに似ているからである。m=0の場合、その結果として生じたチューブは、「ジグザグ」又は(n, 0) 型であると言われる。それというのもチューブがチューブ軸に対して垂直に切断されると、エッジはジグザグのパターンになるからである。n≠m及びm≠0の場合、その結果として生じたチューブはキラル性を有する。電子特性は構造に依存し、例えばひじ掛け椅子型チューブは金属であり、極めて高い導電性を有している。他のチューブ・タイプはこれらの構造に応じて金属、半金属、又は半導体である。SWCNTはキラル性とは無関係に、極めて高い熱伝導性及び引張り強度を有している。SWCNTの金属(ほぼ4.7 eV)タイプ及び半導体(ほぼ5.1 eV)タイプの作業機能は異なる。
【0004】
炭素同素体(例えばグラファイト、ダイヤモンド)の他の形態と同様に、これらのSWCNTは、扱いにくく、また、たいていの溶剤(有機及び水性など)中に本質的に不溶性である。従って、SWCNTは、種々の用途のために加工するのが極めて困難であった。しばしば、SWCNTをプリスティン状態、すなわち、SWCNTが欠陥又は表面(内側又は外側)官能性を本質的に含まない状態で利用することが望ましい場合がある。このようなプリスティン・チューブはたいていの溶剤、特に水性系中で扱いにくい。SWCNTを種々の溶剤中に可溶性にするいくつかの方法が採用されている。1つのアプローチは、SWCNTの端部を親水性又は疎水性部分で共有結合的に官能化することである。第2のアプローチは、SWCNTを可溶化するのを助けるために、高レベルの界面活性剤及び/又は分散剤(小分子又は高分子)を添加することである。
【0005】
Haddon他は米国特許第6,368,569号明細書において、単層又は多層カーボンナノチューブに分枝状又は非分枝状脂肪族長鎖、例えば長鎖アミン(例えばドデシルアミン、ペンタコシルアミンなど)を共有結合することにより、有機溶剤(THF、ジクロロベンゼン、DMF、クロロホルム、ベンゼン、トルエンなど)中にSWCNT及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を可溶化する方法を開示している。これらの有機溶剤の使用は、溶剤のコスト、及び溶剤の有害性により望ましくない。長鎖脂肪族化合物は、所期用途にとって有用ではない、しかもSWCNTの材料特性を妨げるおそれのある高いレベルの化学材料が添加される可能性により、望ましくない。このような長鎖脂肪族は後処理工程において除去することができるが、このような工程は望ましくないコスト及び時間を増大させる。
【0006】
Bin Zhao、Hui Hu、及びRobert Haddonによる「水溶性単層カーボンナノチューブ-ポリ(m-アミノベンゼンスルホン酸)(PABS)グラフトコポリマーの合成及び特性(Synthesis and Properties of a Water-Soluble Single-Walled Carbon Nanotube-Poly(m-aminobenzene sulfonic acid)(PABS) Graft Copolymer)」と題される最近の刊行物(学術論文Advanced Functional Materials 2004, 第14巻、第1号、第71頁)には、官能化されたSWCNT電子伝導性材料のための組成物が開示されている。Zhaoは、SWCNTの壁上に共有結合的にグラフトされたPABSを有するSWCNTを開示している。官能化されたSWCNTの導電率は、5.6×10-3 S/cmであることが見いだされ、これは、電子デバイスには十分ではない。
【0007】
Connell他は、米国特許出願公開第2003/0158323号明細書において、電子伝導性であり透明であるポリマー/SWCNT複合体を製造する方法を記載している。ポリマー(ポリイミド、コポリイミド、ポリアミド酸、ポリアリーレンエーテル、ポリメチルメタクリレート)、及びSWCNT又はMWCNTは、可視スペクトルにおける種々の透過率とともに、10-5〜10-12 S/cmの導電率を有する皮膜を流延するために、有機溶剤(DMF、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリジノン、トルエン)中で混合される。加えて、結果として生じるポリマーのモノマーを、好適な溶剤中でSWCNTと混合し、種々の重量比を有する複合体をもたらすために、これらのSWCNTの存在において重合することもできる。これらのポリマー複合体中で達成される導電率は、桁違いに低すぎ、電子伝導体又はEMIシールドとしてたいていの電子デバイス内で使用するのに最適ではない。加えて、使用される有機溶剤は毒性であり、高価であり、そして処理の問題を引き起こす。さらに、使用又は重合されるポリマーは、導電性ではなく、そしてチューブ間の接触を妨げて、複合体の抵抗率をさらに高めるおそれがある。
【0008】
Kuper他は国際公開第03/060941号パンフレットにおいて、懸濁されたカーボンナノチューブを形成するための組成物を開示している。これらの組成物は、好適な界面活性剤(臭化/塩化/ヨウ化セチルトリメチルアンモニウム)とともに液体、及びSWCNT又はMWCNTから成っている。例に提供されたSWCNTに対する界面活性剤の重量比は1.4〜5.2である。この方法は、SWCNTを可溶化するために極めて高いレベルの界面活性剤を必要とするため問題をはらむ。界面活性剤は絶縁性であり、この組成物から堆積された皮膜の導電性を妨害する。界面活性剤を皮膜から洗浄することはできるが、しかしこの工程は複雑さを増し、そして処理の効率を減少させるおそれがある。さらに、このような組成物から堆積された皮膜から形成される構造に起因して、界面活性剤すべてを除去することは極めて難しくなる。
【0009】
Smalley他は米国特許第6,645,455号明細書において、種々の溶剤中の溶媒和(分散)を容易にするためにSWCNTを化学的に誘導体化するための方法を開示している。最初に、種々の誘導基(アルキル鎖、アシル、チオール、アミノ、アリールなど)は、SWCNTの端部に添加される。SWCNTの側壁は主としてフッ素基で官能化され、フッ素化SWCNTを生じさせる。2-プロパノール中のこのような「フルオロチューブ」の溶解度限界は、ほぼ0.1 mg/mLであり、水又は水/アセトン混合物中では溶解度は本質的にゼロである。メチル化SWCNTを産出するために、フッ素化SWCNTに更なる化学反応を施し、これらのチューブはクロロホルム中で低い溶解度を有するが、しかしその他の溶剤中には溶解度を有さない。このような低い濃度は大量生産において有用なほとんどの堆積技術にとって実際的でなく、そして使用不能である。さらに、このような高い液体ロード率は、余分の乾燥を考慮に入れる必要があり、そして過剰の溶剤からの混合に起因して、パターン化された画像を破壊するおそれがある。加えて、この方法は、種々の官能化基(アシル、アリール、アラルキル、ハロゲン、アルキル、アミノ、ハロゲン、チオール)による細管端部の官能化を開示するが、しかし、端部官能化だけでは、可溶化を介して実現可能な分散体を製造するのに十分でないことがある。さらに、側壁官能化はフッ素だけで行われ、このことはアルコール中の溶解度を制限し、このような溶解度制限は、製造及び製品加工をより難しくするおそれがある。加えて、フッ素化SWCNTはフッ素化に起因して絶縁体であり、そしてこれにより、特に電子伝導体としては電子デバイスにとって有用でない。さらに、SWCNTの終点にこれらの官能基を添加するために必要な化学転換は、有害であり高価であり得る追加の処理工程及び化学物質を必要とする。
【0010】
Smalley他は米国特許第6,683,783号明細書において、長さ5〜500 nmのSWCNTをもたらす、SWCNT材料の精製方法を開示している。この特許明細書の中では、水中に0.1 mg/mLのSWCNTを分散させるために、0.5重量%の界面活性剤Triton X-100を使用する配合物が開示されている。このような低い濃度のSWCNTは、大量生産において有用なほとんどの堆積技術にとって実際的でなく、そして使用不能である。さらに、このような高い液体ロード率は、余分の乾燥を考慮に入れる必要があり、そして過剰の溶剤からの混合に起因して、パターン化された画像を破壊するおそれがある。加えて、この方法は、種々の官能化基(アシル、アリール、アラルキル、ハロゲン、アルキル、アミノ、ハロゲン、チオール)による細管端部の官能化を開示するが、しかし、端部官能化だけでは、可溶化を介して実現可能な分散体を製造するのに十分でないことがある。さらに、SWCNTの終点にこれらの官能基を添加するために必要な化学転換は、有害であり高価であり得る追加の処理工程及び化学物質を必要とする。また、上記特許明細書は、少なくとも99重量%の単層カーボン分子である当該組成物を開示しており、このことは明らかに、SWCNT上に配置することができる官能化量を制限し、これにより、その可溶化レベル及び処理可能性を制限する。
【0011】
Elkovitchは、米国特許出願公開第2004/0232389号明細書において、ナノサイズの分散剤を使用して、ポリマー樹脂中にカーボンナノチューブを乾式配合することにより製造された導電性組成物を開示している。この方法は、複合体を形成するための乾式混合法を用いるにすぎず、分散効果を制限するので不利である。加えて、カーボンナノチューブをポリマーマトリックス中に良好に分散させるために、コストを増大させるナノ粒子(クレー、金属酸化物)が使用される。
【0012】
Rinzler他は、国際公開第2004/09884号パンフレットにおいて、波長3 umにおいて200オーム/□及び少なくとも30 %の透過率を達成するように、多孔質膜上にSWCNT膜を形成する方法を開示している。この方法は、多数のサブミクロン孔を備えた高容積の孔を有する多孔質膜(例えばポリカーボネート又は混合セルロースエステル)を必要し、このことは、前記孔を通してかなりな量のSWCNT分散体を失い、これにより、かなりな量の材料を無駄にするおそれがあるので不利である。また、このような膜は、多くの電子デバイス、例えばディスプレイに必要とされる光学透明度を有さない場合がある。さらに膜は、真空濾過システム内部に設けられ、このことは、このようなシステムの処理可能性を重度に制限し、そしてSWCNT溶液のロール間塗布用途を不可能にする。さらに、SWCNT膜を形成するために使用された分散体の重量パーセントは、水溶液中0.005 mg/mLであった。このような重量パーセントはこのような高液体ロード率とともにたいていの塗布システム及び堆積システムにおいて実際的でなく、使用不能である。このような高液体ロード率は、溶剤の広がり、ひいては画像のにじみ/破壊に起因して、パターン化された画像を形成するのを事実上不可能にする。
【0013】
Chenは欧州特許出願公開第1359169号明細書及び同第1359121号明細書において、SWCNTを可溶化するための材料及び方法を開示する。ナノチューブの直径の周りにではなく、実質的にナノチューブの長さに沿って、カーボンナノチューブと非共有結合するために使用される剛性主鎖ポリマーが記載されている。
【0014】
Arthur他は国際公開第03/099709号パンフレットにおいて、カーボンナノチューブ塗膜をパターン化する方法を開示している。イソプロピルアルコール(IPA)及び水(粘度改質剤を含むことができる)中のSWCNTの希薄分散体(10〜100 ppm)が基板上に噴霧塗布される。SWCNT塗膜の適用後、バインダーが像様印刷され、そして硬化される。或いは、標準的なフォトリソグラフィ法を用いて画像を形成するために、光画定性バインダーを使用することができる。バインダーで基板に保持されない材料は、洗浄によって除去される。粘度改質剤を含むイソプロピルアルコール(IPA)及び水中のSWCNTの希薄分散体(10〜100 ppm)が、基板上にグラビア塗布される。イソプロピルアルコール(IPA)及び水中のSWCNTの希薄分散体(10〜100 ppm)が、基板上に噴霧塗布される。SWCNTの電子特性を有意に変化させるために、塗布された皮膜は次いで、マスクを通して高強度光源に当てられる。この工程に続いて、バインダー塗布が行われる。これらの方法において用いられる分散体濃度は、直接堆積(インクジェットなど)技術を介して画像を生成するのを極めて難しくする。さらに、低固形分分散体に起因して溶剤ロード率がこのように高くなることにより、長い処理時間及び過剰溶剤の取り扱いの難しさがもたらされる。加えて、これらのパターン化方法は、追加の除去工程を介してSWCNT材料を不必要に廃棄し、これによりコスト及びプロセス時間を招く減法プロセスである。この出願はまた、このような組成物から導電性組成物及び塗膜を形成する方法を開示してはいるが、満足できる方法も、このような方法を実施するための組成物も教示していない。
【0015】
上に示したように、当業者は種々様々なSWCNT分散スキーム及び組成物を開示している。しかしながら、高い導電率及び透明度を維持しながら、高速高容積塗布技術、例えばインクジェット印刷、ロール塗布、及びオフセット印刷を容易にするために、最小限の分散剤を使用して固形分ローディング率が高められた、安定な水性SWCNT組成物がなおも当業者にとって必要不可欠である。
【0016】
本発明が目指すのは、従来技術よりも効果的に種々様々な商業的ニーズに見合った、電子伝導性の、パターン化可能な、好ましくはウェブ塗布可能な、このように改善された官能化SWCNT及び官能化SWCNT組成物を提供するという目標である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明によって解決するべき問題点は、カーボンナノチューブの水性分散体中に典型的に使用される高いレベルの永久分散剤の必要性である。このような従来技術の永久分散剤は、乾燥させられた層内の隣接するカーボンナノチューブの点間接触を妨げるおそれがあり、このことは、導電性の減少を招く。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、共有結合された親水性種を有する官能化カーボンナノチューブの分散体を形成する方法であって、前記カーボンナノチューブを極性溶剤の水溶液に添加し、そして次いでこの水溶液中に前記カーボンナノチューブを分散させる、方法を提供する。
【0019】
本発明はさらに、極性溶剤のこのような水溶液を使用することから生じる増強された特性を有する塗布用組成物、及び乾燥カーボンナノチューブ皮膜を提供し、前記極性溶剤は、揮発性分散体及び塗布助剤として機能する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、永久分散剤を事実上含まない安定な高固形分カーボンナノチューブ塗布用組成物を製造する容易な方法を提供する。本発明の塗布用組成物は、高導電性のカーボンナノチューブ乾燥皮膜を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
これらの、そしてその他の利点が、下記詳細な説明から明らかになる。
本発明による方法は、分散体の形成、官能化カーボンナノチューブを含有する塗布用組成物の塗布及びこれに続く乾燥に関与する。本発明は、容易な堆積、及び高導電性であり且つ高透明である皮膜を生成するのに適した皮膜形成を可能にする安定な、高固形分カーボンナノチューブ分散体及び塗布用組成物を提供する。
【0022】
本発明において有用な好適な分散プロセスは、数分間から1時間にわたって高剪断混合装置(ホモジナイザー、マイクロ流動化装置、カウル・ブレード高剪断ミキサー、自動媒体ミル、ボールミル)を採用することができ、或いは、約2〜24時間にわたる超音波処理及び浴超音波処理を採用することができる。好ましくは、本発明において用いられる分散プロセスは、超音波処理及び浴超音波処理である。
【0023】
本発明の分散法は、カーボンナノチューブを用意し、そしてこれらを極性溶剤の水溶液中に分散させることを伴う。任意には、この混合物に高分子バインダーを提供することができる。カーボンナノチューブが液状媒質中に十分に分散されるまで、この混合物には分散エネルギーが提供される。標準的な浴超音波処理時間は約2〜24時間である(親水性官能化レベル及び極性溶剤の選択に依存する)。分散プロセス前、分散プロセス中、分散プロセス後、pHは所望の範囲に調節することができる。大きな粒子を除去するために、遠心分離又は濾過プロセスが用いられる。遠心分離又は濾過工程後に、pHが再び調節されてよい。結果として得られる分散体は、静止状態で数か月にわたって安定となる(親水性官能化レベルに依存する)。この分散体は、採用された典型的な塗布技術に関して単一パス・モードで導電性塗膜を生成するのに十分に高い固形分ローディング率を有する。
【0024】
カーボンナノチューブは、当業者に知られた任意の方法(レーザ・アブレーション、CVD、アーク放電)によって形成することができる。好ましくは、カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブ(SWCNT)である。これらのSWCNTは、このような合成法において使用され得る金属の不純物、及び単層カーボンナノチューブではない炭素質不純物(グラファイト、非晶質、ダイヤモンド、非管状フラーレン、多層カーボンナノチューブ)を最小限にしか又は全く有さないことが好ましい。金属不純物及び炭素質不純物が減少するのに伴って、透明度が著しく増大することが判っている。金属不純物及び炭素質不純物の量が減少するのに伴って、層均一性、表面粗さ、及び粒子の低減によって証明される皮膜品質も改善される。
【0025】
高電子伝導性を達成するために、金属SWCNTが最も好ましいタイプであるが、しかし半金属及び半導体を使用することもできる。プリスティンなSWCNTは、SWCNTの表面が、合成調製、不純物の酸洗浄、アニーリング、又は指向性官能化を介して共有結合的に官能化された材料を含まないことを意味する。SWCNT官能化と組み合わされた極性溶剤混合物が、本発明の好ましい態様であり、好ましくは、官能基は、カルボン酸、カルボン酸アニオン(カルボン酸塩)、ヒドロキシル、硫黄含有基、カルボニル、リン酸塩、硝酸塩、又はこれらの親水性種の組み合わせから選択される親水性種である。硫黄含有基は、スルフェン酸、スルフィン酸、及び/又はスルホン酸、及び/又は対応するアニオン又はこれらの混合物を含有してよい。いくつかの用途において、他のタイプの官能基、例えばポリマー、小分子、又はこれらの組み合わせが必要とされることがある。例えばこのような官能化は、特定のポリマーマトリックス中のSWCNTの相容性を改善することができる。しかし、このような官能化スキームは、高導電率及び高透明度の皮膜を生成するのに必要な塗布用組成物に対して必要とされる高固形分ローディング率を提供することはない。
【0026】
図1に目を転じると、開いた又は閉じた端部を有するプリスティンなSWCNTが示されている。プリスティンであるSWCNTは、高レベルの分散剤を使用することなしには、たいていの溶剤中、特に水性溶剤中で本質的に扱いにくい。従って、水性塗布用組成物を生成するために、プリスティンなSWCNT及び水だけを使用することは可能でない。図2は、共有結合的に官能化されたSWCNTの基礎構造を例示する。図2におけるXは、上記親水性種のうちの1つから選択することができる。SWCNTの外面又は内面、開いた又は閉じた端部、又は側壁上の任意の点にXを位置決めできることは注目に値する。潜在的にほとんどの効果のために、Xは外面全体にわたって均一に分配されることが好ましい。
【0027】
最も好ましい共有結合的な表面官能基は、カルボン酸又はカルボン酸塩、又はこれらの混合物(以後、単にカルボン酸と呼ぶ)である。カルボン酸に基づく官能化の場合、SWCNT上の好ましい官能化炭素レベルは0.5〜100原子パーセントである。この場合、1原子パーセントの官能化炭素は、SWCNT中の100個の炭素毎に1つが、共有結合された官能基を有することを意味する。官能化炭素は、ナノチューブ上のいかなる場所に存在していてもよい(開いた又は閉じた端部、外側又は内側の側壁)。既に述べたように、好ましくは、官能化は、SWCNTの外面上で行われる。より好ましくは、官能化パーセント範囲は、0.5〜50原子パーセントであり、最も好ましくは0.5〜20原子パーセントである。これらの原子パーセント範囲内でこれらの基でSWCNTが官能化されると、コンベンショナルな塗布手段によって高導電性透明皮膜を形成するのに必要な固形分ローディング率で、安定した分散体を調製するのが可能になる。この塗布用組成物は、実質的に水性の分散体中の極めて効果的な分散を可能にし、そして分散助剤を必要としない。透明度は、可視波長範囲内の光のバルク透過率が60 %を上回る層として定義される。官能化は多数のルートによって実施することができる。典型的には原材料(官能化されていない)SWCNTは、混合物であってよい強酸化剤(塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、オレウム、硝酸、クエン酸、シュウ酸、クロロスルホン酸、リン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、氷酢酸、一塩基性有機酸、二塩基性有機酸、過マンガン酸カリウム、過硫酸塩、セレート、臭素酸塩、過酸化水素、重クロム酸塩)の浴に添加される。1時間〜数日間のプロセス時間にわたって適宜に撹拌しながら、SWCNTと強酸化剤とのこの混合物の環流において、20〜120℃の温度が用いられるのが典型的である。このプロセスが終了すると、原材料SWCNTは今や官能化SWCNTである。残留する酸化剤は、官能化SWCNT(主としてカルボン酸官能化)の粉末が、乾燥するまで行われる適宜の加熱後に残されるように、分離技術(濾過洗浄、遠心分離、横流濾過)を介して除去される。
【0028】
分散体及び塗布用組成物のpHは重要である。pHがより高くなる(カルボン酸基のpKaを上回る)につれて、カルボン酸はイオン化され、これによりカルボン酸アニオンを、安定性を助成することができる嵩高な反発性の基にする。好ましいpHは、3〜10 pHである。より好ましいpHは3〜6である。
【0029】
SWCNTの長さは20 nm〜1 mであってよい。SWCNTは、個々のSWCNTとして、又はSWCNTバンドルとして存在することができる。導電性層内のSWCNTの直径は、0.5 nm〜5 nmであってよい。バンドル形態を成すSWCNTの直径は、1 nm〜1 μmであってよい。好ましくはこのようなバンドルの直径は、50 nm未満であり、好ましくは20 nm未満である。電子の輸送を容易にするために、より大きい表面積が達成され、そして、より小さなバンドル・サイズを有し、これにより、バンドルの内側位置に位置していてアクセスすることができないSWCNTの表面を露出させることにより、より大きい有効表面積が達成されることが重要である。SWCNTの端部は、適宜のサイズの半球形バッキーボールによって閉じることができる。或いは、SWCNTの端部の両方が開いていてもよい。いくつかの事例では、一方の端部が開いており、そして他方の端部が閉じていることを見いだすことができる。
【0030】
0.05重量%〜10重量%の範囲の固形分ローディング率を有する実質的に水性の分散体を形成するために、官能化SWCNT(上記のように製造されるか又は供給元から購入される)が使用される。固形分ローディング率の好ましい範囲は、0.05重量%〜5重量%である。最も好ましい範囲は、0.05重量%〜1重量%である。この好ましい範囲は、基板上へコンベンショナルな方法によって塗布するのに十分な高さの重量%のナノチューブを有する最も安定な分散体を提供する。実質的に水性とは、分散体中の水が少なくとも50重量%であることを意味する。官能化SWCNTはしばしば、粉末/フレーク形態を成しており、分散させるためにエネルギーを必要とする。
【0031】
本発明の実施に際して、揮発性分散剤及び塗布助剤として、極性溶剤が採用される。本発明において使用される揮発性分散剤は、溶液状態では安定化をもたらすが、しかし分散体をコンベンショナルに処理して塗膜を形成している間に、そして具体的にはコンベンショナルな乾燥条件において除去される分散剤であるので、揮発性分散剤は、結果として生じる塗膜から除去される。溶液安定化をもたらすために、永久分散剤が同様に使用されるが、しかし永久分散剤は、結果として生じる塗膜の一部として残される。
【0032】
有機溶剤をこれらの溶解度パラメータによって分類できることは、塗装・塗布業界においてよく知られている。溶解度パラメータは、凝集エネルギー密度の平方根として定義され、そして(MPa)1/2という単位で表される。このような単位はしばしば「ヒルデブランド(Hildebrand)」と呼ばれる(Rodriguez, Ferdinand, 1989「Principles of Polymer Systems(ポリマー系の原理)」−第3版、第28〜37頁参照)。溶解度パラメータは、非極性、極性、及び水素結合の関与を表す3つの成分に分けることができる。本発明者は、これらの溶解度成分が、本発明の好ましい溶剤を選択する際の基準となる特性を定義する上で極めて重要であることを見いだした。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の目的にとって好ましい極性溶剤は、8〜27 (MPa)1/2の水素結合溶解度パラメータを有し、そして、8.1〜14.4 (MPa)1/2の極性溶解度パラメータを有している。ここで図5を参照すると、この図は、望ましい分散特性及び塗布特性を提供する種々の溶剤に関する、水素結合溶解度パラメータと極性溶解度パラメータとの好適な組み合わせのプロットを示す。
【0035】
最も好ましくは、これらの溶解度パラメータを有する溶剤はまた、1メートル当たり14〜30ミリニュートン(mN/m)の表面張力を有している。ここで図4を参照すると、この図は、望ましい分散特性及び塗布特性を提供する、種々の溶剤に関する表面張力と水素結合溶解度パラメータとの好適な組み合わせのプロットを示す。ここで図3を参照すると、この図は、望ましい分散特性及び塗布特性を提供する、種々の溶剤に関する表面張力と極性溶解度パラメータとの好適な組み合わせのプロットを示す。理論に縛られることはないが、特定の範囲内の表面張力が、カーボンナノチューブのバンドルの間に介在してカーボンナノチューブの分散を改善することを介して、改善された分散性を提供すると考えられる。加えて、理論に縛られることはないが、選択された極性溶解度パラメータ及び水素結合溶解度パラメータは、親水性官能化カーボンナノチューブとの極性相互作用及び水素結合相互作用を介して、分散を増強すると考えられる。本発明において有用な好適な溶剤は、メタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、エタノール、アセトン、及びこれらの混合物から成る群から選択される。さらに、n-ブチルアセテートに対して50〜2000の蒸発速度範囲内の溶剤を選択することが、塗布・乾燥効率の観点から望ましい。
【0036】
本発明の分散体は、導電性層を形成するために使用することができ、本発明の導電性層は、乾燥塗膜重量約0.1〜約1000 mg/m2の官能化SWCNTを含有するべきである。好ましくは、導電性層は、乾燥塗膜重量約0.5〜約500 mg/m2の官能化SWCNTを含有するべきである。適用されるSWCNTの実際の乾燥塗膜重量は、採用される特定の導電性官能化SWCNTの特性によって、そして特定の用途のための要件によって決定され、要件は、例えば、層の導電率、透明度、光学濃度、コストなどを含んでよい。
【0037】
導電性層は、電子伝導又は熱伝導又はその両方のために採用することができる。導電性層は、温度範囲全体にわたって100〜10,000ジーメンス/cmの電子伝導率を有することが好ましい。この電子伝導性層は、連続層であるか、又は所定の構造に従ってパターン化されてよい。
【0038】
好ましい態様の場合、導電性層は、温度範囲全体にわたって100〜50,000 W/m-Kの熱伝導率を有することになる。この熱伝導性層は、連続層であるか、又は所定の構造に従ってパターン化された層であってよい。
【0039】
好ましい態様の場合、導電性SWCNTを含有する層は:
a) 式Iに基づくSWCNT:
【0040】
【化1】

【0041】
(上記式中、R1及びR2のそれぞれは独立してカルボン酸、カルボン酸アニオン(カルボン酸塩)、ヒドロキシル、硫黄含有基、カルボニル、リン酸塩、硝酸塩を表し、そしてチューブは、実質的に六角形形態を成す炭素原子から構成された単層カーボンナノチューブである)、及び任意選択的に
b) 分散剤、及び任意選択的に
c) 高分子バインダー
を含有する混合物を適用することにより調製される。
【0042】
R1及びR2置換基は、SWCNT全体にわたって均一又は不均一に分配されてよい。分散体中の分散剤ローディング率は、最小限ないしは無しであることが好ましい。最大分散剤ローディング率は、SWCNTの重量の20重量%であることが好ましい。典型的には、分散剤ローディング率は、SWCNTの重量の10重量%未満である。最も好ましい分散剤ローディング率は、SWCNTの重量の1重量%未満である。選択することができる数多くの分散剤がある。好ましい分散剤は、TX-100、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリ(スチレンスルホネート)、ナトリウム塩、ポリ(ビニルピロリドン)、Pluronics、Brij 78、Brij 700、及び臭化セチルトリメチルアンモニウム又は臭化ドデシルトリメチルアンモニウムである。これらの分散剤の好適な混合物を利用することができる。
【0043】
加えて、本発明の官能化のための好ましい態様では、好ましくは、親水性種が:
SOxZy
から選択された硫黄含有基であることが可能であり、xは1〜3であってよく、そしてZは、水素原子、又は、Na、Mg、K、Ca、Zn、Mn、Ag、Au、Pd、Pt、Fe、Coのような金属の金属カチオンであってよく、そしてyは0又は1であってよい。
【0044】
上記硫黄含有基は、スルフェン酸、スルフィン酸、及び/又はスルホン酸、及び/又は対応するアニオン又はこれらの混合物を含有してよい。共有結合表面官能化のための最も好ましい硫黄含有基は、スルホン酸又はスルホン酸塩又はこれらの混合物である。
【0045】
環境上の理由から、実質的に水性の系(分散体中少なくとも60重量%の水を意味する)が好ましい。SWCNTは高分子バインダーの添加なしに適用することができる一方、好ましくは、付着力、皮膜形成、平滑化、層の物理特性を改善し、且つ/又は塗布用組成物の吸収性を改善するために、バインダーが採用される。このような好ましい態様の場合、導電性層は、約0.05〜98 %の高分子バインダーを含んでよい。好ましい高分子バインダー範囲は、0.10 %〜50.0 %である。高分子バインダーの最適な重量パーセントは、官能化SWCNT、高分子バインダーの化学組成、及び特定の用途の要件に応じて変化する。
【0046】
本発明の導電性層内で有用な高分子バインダーの一例としては、水溶性又は水分散性の親水性ポリマー、例えばゼラチン、ゼラチン誘導体、マレイン酸、無水マレイン酸コポリマー、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、ジアセチルセルロース、及びトリアセチルセルロース)、ポリビニルアルコール、及びポリ-N-ビニルピロリドンが挙げられる。他の好適なバインダーは、エチレン系不飽和型モノマー、例えばアクリル酸を含むアクリレート、メタクリル酸を含むメタクリレート、アクリルアミド及びメタクリルアミド、イタコン酸及びその半エステル及びジエステル、置換型スチレンを含むスチレン、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル、ビニルアセテート、ビニルエーテル、ハロゲン化ビニル及びビニリデン、及びオレフィン、並びにポリウレタン及びポリエステルイオノマーの水性分散体から調製された付加型ホモポリマー及びコポリマーの水性エマルジョンを含む。加えてバインダーとして、ラテックス系を使用することもできる。ラテックス粒子は用途に応じて、10 nm〜100 μmであってよい。
【0047】
本発明の目的において水性塗布用組成物を採用するときには、親水性皮膜形成高分子バインダー、例えばゼラチン、ゼラチン誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、スルホン酸ナトリウム塩ポリエステルイオノマー、及び水性ポリウレタンを利用することが有利である。
【0048】
官能化SWCNTを含有する層又は塗布用組成物中に含むことができるその他の成分の一例としては、粘着防止剤、界面活性剤又は塗布助剤、増粘剤又はレオロジー改質剤、硬化剤又は架橋剤、殺生剤、保湿剤、及び乾燥防止剤、安定剤、顔料又は色素、潤滑剤、湿潤助剤、及び当業者に容易に明らかなその他のコンベンショナルな塗布用添加物が挙げられる。印刷された電極パターンの視覚的な記録を提供することが望ましい場合には、印刷溶液中に色素及び顔料を使用することができる。
【0049】
連続形態又はパターン化形態で皮膜を堆積した後、層は、室温から約250℃までの温度で乾燥させることができる。
【0050】
SWCNTを含有する層は、所期用途に応じて種々の基板上に適用することができる。本発明の導電性層は、任意の剛性又は可撓性基板上に形成することができる。剛性基板は、ガラス、金属、セラミック及び/又は半導体を含むことができる。好適な基板は、ガラス、高分子フィルム、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリオレフィン、及びよく知られたその他のポリマーフィルム、紙、シリコンウェハー、ガラス強化エポキシなどを含む。導電性層は、任意の好適な塗布方法、例えばスピン塗布、ホッパー塗布、ローラ塗布、エアナイフ塗布などを用いて適用することができる。
【0051】
基板は、透明、反射性、半透明又は不透明であることが可能であり、そして着色されているか又は無色であってよい。可撓性基板、特にプラスチック基板を含む可撓性基板が、これらの万能性、並びに製造、塗布、及び仕上げの容易さのために好ましい。
【0052】
可撓性プラスチック基板は、導電性高分子層を支持する任意の可撓性の自己支持型プラスチック・フィルムであってよい。「プラスチック」は、他の成分、例えば硬化剤、充填剤、強化剤、着色剤、及び可塑剤と組み合わせることができる、通常、高分子合成樹脂から形成された高分子化合物を意味する。プラスチックは熱可塑性材料及び熱硬化性材料を含む。
【0053】
可撓性プラスチック基板は、自己支持型であるのに十分な厚さと機械的完全性とを有するが、しかし、剛性であるほどには厚くあるべきではない。可撓性プラスチック基板材料の別の重要な特徴は、そのガラス転移温度(Tg)である。Tgは、プラスチック材料がガラス状態からゴム状態に変化するときのガラス転移温度として定義される。Tgは、材料が実際に流動する前の所定の範囲を含む。可撓性プラスチック基板に適した材料は、ガラス転移温度が比較的低い、例えば150℃までの熱可塑性材料、並びに、ガラス転移温度がより高い、例えば150℃を上回る材料を含む。可撓性プラスチック基板のための材料は、製造プロセス条件(例えば堆積温度及びアニール温度)、並びに製造後条件(例えばディスプレイ製造業者のプロセス・ライン内の条件)のようなファクターに応じて選択される。下記のプラスチック基板のうちの或る特定のものは、少なくとも約200℃まで、いくつかのものは300〜350℃までのより高い処理温度に、損傷なしで耐えることができる。
【0054】
典型的には、可撓性プラスチック基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステルイオノマーを含むポリエステル、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、硝酸セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニルアセテート)、ポリスチレン、ポリオレフィンイオノマーを含むポリオレフィン、ポリアミド、脂肪族ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(メチルx-メタクリレート)、脂肪族又は環状ポリオレフィン、ポリアリーレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、テフロン(登録商標)、ポリ(ペルフルオロ-アルコキシ)フルオロポリマー(PFA)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エチレンテトラフルオロエチレン)フルオロポリマー(PETFE)、及びポリ(メチルメタクリレート)及び種々のアクリレート/メタクリレートコポリマー(PMMA)天然及び合成紙、樹脂を塗布又はラミネートされた紙、高分子発泡体を含むボイド含有ポリマー、ミクロボイド含有ポリマー及びミクロ孔性材料、又は布地、又はこれらの任意の組み合わせである。
【0055】
脂肪族ポリオレフィンは、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び、延伸ポリプロピレン(OPP)を含むポリプロピレンを含んでよい。環状ポリオレフィンは、ポリ(ビス(シクロペンタジエン))を含んでよい。好ましい可撓性プラスチック基板は、環状ポリオレフィン又はポリエステルである。種々の環状ポリオレフィンが可撓性プラスチック基板に適している。その例は、日本国東京在、Japan Synthetic Rubber Co.によって製造されたArton(登録商標);日本国東京在、Zeon Chemicals L.P.によって製造されたZeanor T;及び独国Kronberg在、Celanese A.G.によって製造されたTopas(登録商標)を含む。Artonは、ポリマーフィルムであるポリ(ビス(シクロペンタジエン))縮合物である。或いは、可撓性プラスチック基板はポリエステルであってもよい。好ましいポリエステルは芳香族ポリエステル、例えばAryliteである。基板は透明、半透明又は不透明であってよいが、ほとんどのディスプレイ用途にとっては、透明基板を含む透明部材が好ましい。プラスチック基板の種々の例を上に示したが、可撓性基板は他の材料、例えば可撓性ガラス及びセラミックから形成することもできることは言うまでもない。
【0056】
可撓性プラスチック基板は、硬質塗膜で強化することができる。典型的には、硬質塗膜はアクリル塗膜である。このような硬質塗膜は典型的には、厚さ1〜15ミクロン、好ましくは2〜4ミクロンであり、そしてラジカル重合によって提供することができる。ラジカル重合は、適切な重合性材料を熱又は紫外線によって開始される。基板に応じて、種々異なる硬質塗膜を使用することができる。基板がポリエステル又はArtonの場合、特に好ましい硬質塗膜は、「Lintec」として知られる塗膜である。LintecはUV硬化型ポリエステルアクリレート及びコロイドシリカを含有する。Arton上に堆積される場合には、硬質塗膜は水素を除いて、35原子%のC、45原子%のO、及び20原子%のSiから成る表面組成を有する。別の特に好ましい硬質塗膜は、ウィスコンシン州New Berlin在Tekra Corporationによる「Terrapin」の商品名で販売されているアクリル塗膜である。
【0057】
最も好ましい可撓性プラスチック基板はその優れた機械特性及び熱特性により、そして、適度な価格で大量に利用できるという理由から、ポリエステルである。使用のために選択される特定のポリエステルは、所望に応じて、ホモ-ポリエステル又はコ-ポリエステル、又はこれらの混合物であってよい。ポリエステルは、所望に応じて、結晶性又は非晶質、又はこれらの混合物であってよい。ポリエステルは通常、有機ジカルボン酸と有機ジオールとの縮合によって調製され、従って有用なポリエステルの例を、これらのジオール及びジカルボン酸の前駆体に関して、本明細書において下に記載する。
【0058】
本発明における使用に適したポリエステルは、芳香族、脂環式、及び脂肪族のジオールと、脂肪族、芳香族及び脂環式ジカルボン酸との縮合から誘導されたポリエステルであり、そして脂環式、脂肪族、又は芳香族ポリエステルであってよい。本発明の実施において利用することができる有用な脂環式、脂肪族、又は芳香族ポリエステルの例は、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンドデケート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(エチレン(2,7-ナフタレート))、ポリ(メタフェニレンイソフタレート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(エチレンスクシネート)、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(エチレンセバケート)、ポリ(デカメチレンアゼレート)、ポリ(エチレンセバケート)、ポリ(デカメチレンアジペート)、ポリ(デカメチレンセバケート)、ポリ(ジメチルプロピオラクトン)、ポリ(パラ-ヒドロキシベンゾエート)(Ekonol)、ポリ(エチレンオキシベンゾエート)(A-tell)、ポリ(エチレンイソフタレート)、ポリ(テトラメチレンテレフタレート)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタレート)、ポリ(デカメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(trans)、ポリ(エチレン1,5-ナフタレート)、ポリ(エチレン2,6-ナフタレート)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(Kodel)(cis)、及びポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(Kodel)(trans)である。
【0059】
ジオールと芳香族ジカルボン酸との縮合から調製されたポリエステル化合物が、本発明における使用に好ましい。このような有用な芳香族カルボン酸の一例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、及びα-フタル酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4'-ジフェニルジカルボン酸、4,4'-ジフェニルスルホン-ジカルボン酸、1,1,3-トリメチル-5-カルボキシ-3-(p-カルボキシフェニル)-イダン、ジフェニルエーテル4,4'-ジカルボン酸、及びビス-p(カルボキシ-フェニル)メタンなどが挙げられる。前述の芳香族ジカルボン酸のうち、ベンゼン環に基づくもの(例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸)が、本発明の実施における使用にとって好ましい。これらの好ましい酸前駆体の中で、テレフタル酸が特に好ましい酸前駆体である。
【0060】
本発明の実施における使用のために好ましいポリエステルは、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)及びポリ(エチレンナフタレート)、及びこれらのコポリマー及び/又は混合物を含む。これらのポリエステルの選択肢の中では、ポリ(エチレンテレフタレート)が最も好ましい。
【0061】
ディスプレイ・デバイスにおける使用に有用な前記基板は、平面形及び/又は湾曲形であってよい。基板の曲率は、曲率半径によって特徴付けることができる。曲率半径はいかなる値を有してもよい。或いは基板は、所定の角度を形成するように曲げられてもよい。これらの角度は0°〜360°(これらの間の全ての角度及びこれらの間の全ての範囲を含む)の任意の角度であってよい。基板が導電性である場合、基板と導電性ポリマーとの間に、絶縁材料、例えば非導電性ポリマーを配置することができる。
【0062】
基板は任意の厚さ、例えば10-8 cm〜1 cm(これらの間の全ての値及びこれらの間の全ての範囲を含む)であってよい。より厚い層及びより薄い層を使用することもできる。基板は均一の厚さを有する必要はない。いかなる形状のものも使用することはできるが、好ましい形状は正方形又は長方形である。基板に導電性ポリマーを塗布する前に、例えばラビングによって、画像の適用によって、パターン化された電気的コンタクト領域の適用によって、区別可能な領域内の1つ又は2つ以上の色の存在によって、エンボシング、マイクロエンボシング、マイクロ複製などによって、基板を物理的且つ/又は光学的にパターン化することができる。
【0063】
前記基板は、必要に応じて単層又は多層を含むことができる。多数の層は、任意の数の補助層、例えば静電防止層、タイ層、又は付着促進層、耐摩耗層、カール制御層、搬送層、バリヤ層、スプライス提供層、UV吸収層、光学効果提供層、例えば反射防止・防眩層、防水層、接着剤層、及び画像形成層などを含むことができる。
【0064】
ポリマー基板は、当業者に知られている任意の方法、例えば押出し、同時押出し、急冷、延伸、ヒートセット、ラミネーション、塗布及び溶剤流延を伴う方法によって形成することができる。ポリマー基板が、当業者に知られている任意の好適な方法によって、例えばフラットシート・プロセス又は気泡又は管プロセスによって形成された延伸シートであることが好ましい。フラットシート・プロセスは、スリットダイを通るシート材料を押出すか又は同時押出しし、そして、シートの高分子成分がその凝固温度未満に急冷されるように、冷却された流延ドラム上で、押出しされた又は同時押出しされたウェブを急冷することを伴う。
【0065】
次いで急冷されたシートを、ポリマーのガラス転移温度を上回る温度で、互いに垂直の方向で延伸することにより、二軸延伸する。シートは一方の方向で、次いで第2の方向で延伸することができ、或いは両方向で同時に延伸することもできる。任意の方向における好ましい延伸比は、少なくとも3:1である。シートが延伸された後、両延伸方向における後退が生じないようにシートを或る程度拘束しながら、ポリマーを結晶化させるのに十分な温度まで加熱することにより、シートをヒートセットする。
【0066】
シートの特性、例えば印刷適性、バリヤ特性、ヒートシール性、スプライス性、他の基板及び/又は画像形成層との付着力を改善するために、押出し、同時押出し、延伸などの後に、又は流延と完全延伸との間に、ポリマーシートに任意の数の塗布及び処理を施すことができる。このような塗膜の例は、印刷適性のためのアクリル塗膜、ヒートシール特性のためのポリハロゲン化ビニリデンであってよい。このような処理の例は、塗布性及び付着力を改善するための、火炎、プラズマ及びコロナ放電処理、紫外線処理、オゾン処理及び電子ビーム処理であってよい。更なる処理例は、ウェブ表面に対する特定の効果を得るための、カレンダリング、エンボシング、及びパターン化であってよい。ポリマーシートはさらに、ラミネーション、接着、コールド又はヒート・シーリング、押出し塗布、又は当業者に知られた任意の他の方法によって、任意の他の好適な基板内に内蔵することができる。
【実施例】
【0067】
下記例は、本発明の実施を示す。これらの例は、本発明の全ての可能な変更形を包括することを意図するものではない。特に断りのない限り、部及びパーセンテージは重量で示される。
【0068】
図3〜図5は、本発明によりSWCNTを分散させるために水性混合物中に使用される溶剤特性スペースを示している。影付き領域は、前記SWCNTを分散させるための溶剤を選択するのに最も有用なスペースを示す。溶解度パラメータと表面張力との組み合わせは、最も効果的な分散力を可能にする。下記例において、表2及び表3に示されているような分散体中の種々の重量パーセントの溶剤においてSWCNTを分散させるために溶剤を選択する際に、図3〜図5を使用した。
【0069】
塗布用組成物(分散体)のための成分
(a) TX-100: Rohm & Haasによって供給された非イオン性界面活性剤
(b) P3 SWCNT:Carbon Solutions Inc.によって供給された共有結合カルボン酸(下記原子%)を有する単層カーボンナノチューブ
(c) P2 SWCNT:Carbon Solutions Inc.によって供給された共有結合カルボン酸(下記原子%)を有する単層カーボンナノチューブ
(d) RFP SWCNT:Carbon Solutions Inc.によって供給された共有結合カルボン酸(下記原子%)を有する単層カーボンナノチューブ
(e) HiPCO SWCNT:Carbon Nanotechnologies Inc.によって供給された共有結合カルボン酸(下記原子%)を有する単層カーボンナノチューブ
【0070】
各タイプのSWCNT上のカルボン酸の原子%が、下記のような滴定法によって測定された。表1は、我々が各SWCNTに関して測定したカルボン酸レベルを示す。
【0071】
【表2】

【0072】
共有結合されたカルボン酸量を測定するために用いられる方法を以下に説明する。
【0073】
単層カーボンナノチューブにおける強酸レベルの滴定
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)における強酸の測定のために、非水性滴定手順が与えられる。50/2(v/v)蒸留テトラヒドロフラン(THF)/メタノールの溶剤系中に、試料を分散させる。分散体を、0.1 N水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(HDTMAH)で滴定する。典型的には2つの終点を記録する。第1の終点は、SWCNTと連携する、より強い酸に起因する。これらの酸は、表面誘導体化反応からの残留鉱物酸、又はSWCNT表面に結合された酸官能基であり得る。第2の終点も観察されるが、しかし典型的には、定量的に利用するにはあまりにもノイズが大きすぎる。SWCNT中のカルボン酸の正味レベルを提供するために水酸化ナトリウム逆滴定を行うことにより見いだされた全酸から、SWCNT試料中の強酸が差し引かれる。
【0074】
設備
1) Brinkmann Titrino Workcellソフトウェアを有し、また1-ml琥珀色ガラス・ビュレットを備えたMetrohm Model 716 Titrino、又は同等のもの。
【0075】
2) 指示電極-組み合わせガラスpH/Ag/AgCl基準。Metrohm Model 6.0202.100又は同等のもの。電極のための充填溶液は、メタノール中0.1 N塩化テトラメチルアンモニウムである。
【0076】
試薬
1) ほぼ9:1(v)トルエン:メタノール中の0.1 N水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(HDTMAH)(注1)
2) 蒸留テトラヒドロフラン(THF)(注2)
3) メタノール、試薬等級、例えばJ. T. Baker 9093-33
【0077】
手順
1) ほぼ30〜150 mgのSWCNT試料を100 mlビーカー内に、0.1 mgまでの概数として秤量して入れる(注3)。
2) 50 mlの蒸留THF及び2 mlのメタノールを添加する。
3) Parafilmで覆い、そして15分間撹拌する。
4) 1 mlビュレットを備えたTitrinoを利用して、0.1 N HDTMAHで試料を滴定する。
5) 同じ条件下で50/2 THF/MeOHのブランクを滴定する。
【0078】
計算
Titroprocessorは、電位差終点を自動的にマークする。最初の終点(正のHNP)だけが、下記計算に使用される。後続の終点は無視される。
【0079】
EP = 終点
【0080】
強酸(meq/g) = [(ml EP #1)−(mlブランク)]×NHDTMAH (試料のグラム数)
正味カルボン酸(meq/g) = [全酸(NaOH逆滴定から)(meq/g)]−[強酸(meq/g)]
【0081】
注記
1) HDTMAHは、Acros Organicsから、25 %(w/v)メタノール溶液として入手可能である。カタログ番号41142-1000。この材料は通常、滴定用途に適するようになる前に広範囲な精製を必要とする。
【0082】
2) THFは、滴定を妨害する過酸化物阻害剤BHTを除去するために蒸留される。蒸留THFは、潜在的な過酸化物形成体であり、そして24時間を上回る時間にわたって貯蔵されるべきである。その残留物が潜在的に爆発性なので、いかなる状況においても、蒸留THFは乾燥するまで蒸発させておくべきではない。我々は、BHTを除去するには、1フィートVigreauxカラムを通した蒸留で十分であることを見いだした。
【0083】
3) 試料のサイズは、SWCNT試料上のカルボキシル化の予期レベルに応じて、大幅に変化する。特定された試料範囲はこれまでの経験に基づいている。
【0084】
単層カーボンナノチューブにおける全酸レベルの滴定
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)における全酸の測定のために、水性滴定手順が与えられる。過剰の0.1N NaOHを含有する水中に、試料を分散させる。SWCNT上のいかなる酸をも反応させるのに十分な時間の後に、過剰塩基を電位差測定終点まで0.1N HClで滴定する。SWCNTを有さない0.1N NaOHのブランクを、0.1N HClで測定する。ブランク及び試料の滴定間の差から、SWCNT中の酸の全レベルが得られる。
【0085】
設備
1) Brinkmann Titrino Workcellソフトウェアを有し、また1-mlガラス・ビュレットを備えたMetrohm Model 716 Titrino、又は同等のもの。
2) 指示電極-組み合わせガラスpH/Ag/AgCl基準。Metrohm Model 6.0202.100又は同等のもの。電極のための充填溶液は、飽和型KClである。
【0086】
試薬
1) 水中の0.1 N HCl。4-アミノピリジンに対して標準化(一次標準等級)
2) 0.1 N NaOH。安息香酸に対して標準化(一次標準等級)
【0087】
手順
1) ほぼ30〜150 mgのSWCNT試料を100 mlビーカー内に、0.1 mgまでの概数として秤量して入れる(注1)。
2) 50 mlの蒸留水を添加する。
3) Aクラス・ピペットによって、1.0 mlの0.1N NaOHを添加する。
4) Parafilmで覆い、そして2時間にわたって撹拌する。
5) 1 mlビュレットを備えたTitrinoを利用して、0.1N HClで試料を滴定する。
6) 同じ条件下で50 mlの蒸留水中1.0 mlの0.1N NaOHのブランクを滴定する。
【0088】
計算
Titroprocessorは、電位差終点を自動的にマークする。概ね、2つの終点が試料及びブランクの両方に見られる。最初の終点(水酸化物)間の差が、下記計算に使用されるべきである。
【0089】
全酸(meq/g) = [(EP #1ブランクにおけるml HCl)−(EP #1試料におけるml HCl)]×NHCl (試料のグラム数)
【0090】
注記
1) 試料のサイズは、SWCNT試料上のカルボキシル化の予期レベルに応じて、大幅に変化する。もし知られているならば、好適な試料サイズを計算することができる。もし知られていないならば、試験しなければならない。特定された試料範囲はこれまでの我々の経験に基づいている。
【0091】
下記表2は、分散体を形成するために、極性溶剤/水中の官能化チューブだけが使用される場合に形成された種々の分散体タイプに関して見いだされる分散体の安定性/品質を示す。この表は、好適なカルボン酸官能化レベル、及び溶剤混合物(本発明による)を選択することにより、より高いSWCNT固形分ローディング率で分散させる分散体の品質及び能力全体が著しく改善されることを明示している。凡例は次の通りであり、割り当てられた数値は、これが5に近づくにつれてより良好な分散特性を有する:
【0092】
格付け1:分散体は安定ではなく、そして急速に凝集体を形成し、そしてSWCNTは溶液から落下する。
格付け2:分散体は安定性が低く、容器の底部に沈泥を形成するかなりな量の凝集体を伴う。
格付け3:分散体は良好であり、溶液中に低レベルの沈泥又は凝集体を有する。
格付け4:分散体は極めて良好であり、より低レベルの沈泥又は凝集体を有する。
格付け5:分散体は優秀であり、より長時間の沈降後でさえ見るのが難しい極めて低レベルの沈泥又は凝集体を有する。
【0093】
下記表2は、所与の溶剤濃度の0.1 % P3 SWCNTを蒸留水に添加し、そして24時間にわたって浴超音波処理装置内で超音波処理した。行われた観察と、割り当てられた格付けとが、本発明による極性溶剤混合物の効果を示す。
【0094】
表3は、101.6ミクロンの基板上にロール塗布法を用いて、表2の分散体を塗布したことを示す。使用された基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)であった。PET基板は、厚さ102 m及び表面粗さRa 0.5 nmの写真等級であった。PETの塗布側(表側)には、薄い塩化ビニリデンコポリマー・プライマー層が厚さ80 nmで適用された。
【0095】
塗膜のシート抵抗Rs(オーム/□)を、4点電気プローブによって測定した。P3 SWCNTのレイダウン率をmg/ft2で示し、そして結果として生じた塗膜外観を示す。
【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
上記例によって示されるように、分散体、及び続いて形成されるこれらの塗膜が、上述のプロット指定(図3、4及び5)外で、又は50 %を上回る極性溶剤レベルで調製されたときには、比較結果は、格付け3を下回る凝集された分散体となり、また塗布時には、不良の外観、低い導電性をもたらし、又は塗布不能であった。本発明の例は、3以上の分散体格付けを維持し(比較例とは対照的)、そして塗布時には、外観が良好又は極めて良好であり、そして良好な導電性を達成した。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、開いた又は閉じた端部を有する、プリスティンなSWCNTを示す。
【図2】図2は、開いた又は閉じた端部を有する、共有結合的に官能化されたSWCNTを示す。
【図3】図3は、種々の溶剤に関する極性溶解度パラメータ対表面張力のプロットを示し、該当スペースを影付き領域として示す図である。
【図4】図4は、種々の溶剤に関する水素結合溶解度パラメータ対表面張力のプロットを示し、該当スペースを影付き領域として示す図である。
【図5】図5は、種々の溶剤に関する水素結合溶解度パラメータ対極性溶解度パラメータのプロットを示し、該当スペースを影付き領域として示す図である。
【図1a】

【図1b】

【図2a】

【図2b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有結合された親水性種を有する官能化カーボンナノチューブを用意し、前記カーボンナノチューブを極性溶剤の水溶液に添加し、そして前記水溶液中に前記カーボンナノチューブを分散させることを含んで成る分散体を形成する方法。
【請求項2】
前記溶剤の沸点が30℃〜150℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶剤が、メタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、エタノール、アセトン、及びこれらの混合物から成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶剤が、n-ブチルアセテートに対して50〜2000の蒸発速度範囲を有している請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶剤が、10.2〜27 (MPa)1/2の水素結合溶解度パラメータと、9.5〜14 (MPa)1/2の極性溶解度パラメータとを有している請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶剤が、1メートル当たり14〜30ミリニュートンの表面張力を有している請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記分散体が、実質的に界面活性剤を含有しない請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記極性溶剤が、前記水溶液の3〜25パーセントの量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液が塗布助剤をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液が高分子バインダーをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブが、前記カーボンナノチューブの少なくとも0.5原子%の量で、カルボン酸、硝酸塩、ヒドロキシル、硫黄含有基、カルボン酸塩、及びリン酸塩から成る群から選択された、共有結合された親水性種を有する単層カーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブが、前記分散体の少なくとも0.05重量%の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記分散体のpHが、3〜10である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブが、前記分散体の0.05〜10 %の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブが、前記分散体の0.05〜1 %の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記親水性種が、0.5〜5原子%の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記親水性種が、カルボン酸、又はカルボン酸塩、又はこれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記親水性種が:
SOxZy
(上記式中xは1〜3であり、そしてZは、水素原子、又は、Na、Mg、K、Ca、Zn、Mn、Ag、Au、Pd、Pt、Fe、Coのような金属の金属カチオンであってよく、そしてyは0又は1であってよい)
から選択された硫黄含有基を含む請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記カーボンナノチューブの外径が、0.5〜5ナノメートルである請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記カーボンナノチューブの長さが、20ナノメートル〜50ミクロンである請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記カーボンナノチューブが、分散後に長さ20ナノメートル〜50ミクロンのバンドルを含む請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記カーボンナノチューブが、金属カーボンナノチューブである請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記親水性種が、スルホン酸又はスルホン酸塩、又はこれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記カーボンナノチューブが開放端カーボンナノチューブである請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記共有結合された親水性種が、前記カーボンナノチューブの外壁上に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項25】
極性溶剤の水溶液中に、共有結合された親水性種を有する官能化カーボンナノチューブを含む分散体を用意し、前記分散体を基板上に塗布し、そしてカーボンナノチューブ層を形成するために、前記極性溶剤の水溶液を除去することを含む、導電性層を形成する方法。
【請求項26】
前記極性溶剤の水溶液の前記除去が、前記層が極性溶剤を実質的に含有しなくなるまで行われる請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記極性溶剤の水溶液が完全に揮発性である請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記分散体が、分散界面活性剤を実質的に含有しない請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記分散体が、塗布助剤なしに形成された層と比較して、乾燥後に層の電気抵抗をほとんど増大させない塗布助剤をさらに含む請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記塗布がロール塗布である請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記塗布がインクジェットによる請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記溶剤の沸点が30℃〜150℃である請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記溶剤が、メタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、エタノール、アセトン、及びこれらの混合物から成る群から選択される請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記溶剤が、n-ブチルアセテートに対して50〜2000の蒸発速度を有している請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記溶剤が、1メートル当たり14〜30ミリニュートンの表面張力を有している請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記溶剤が、10.2〜27 (MPa)1/2の水素結合溶解度パラメータと、9.5〜14 (MPa)1/2の極性溶解度パラメータとを有している請求項25に記載の方法。
【請求項37】
前記溶剤が、4〜13 (cal/cm3)1/2の水素結合溶解度パラメータを有している請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記極性溶剤が、前記水溶液の3〜25パーセントの量で存在する請求項25に記載の方法。
【請求項39】
前記水溶液が塗布助剤をさらに含む請求項25に記載の方法。
【請求項40】
前記水溶液が高分子バインダーをさらに含む請求項25に記載の方法。
【請求項41】
前記カーボンナノチューブが、前記カーボンナノチューブの少なくとも0.5原子%の量で、カルボン酸、硝酸塩、ヒドロキシル、硫黄含有基、カルボン酸塩、及びリン酸塩から成る群から選択された、共有結合された親水性種を有する単層カーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブが、前記分散体の少なくとも0.05重量%の量で存在する請求項25に記載の方法。
【請求項42】
前記カーボンナノチューブが、前記分散体の0.05〜10 %の量で存在する請求項25に記載の方法。
【請求項43】
前記親水性種が、0.5〜5原子%の量で存在する請求項25に記載の方法。
【請求項44】
前記親水性種が、カルボン酸、又はカルボン酸塩、又はこれらの混合物を含む請求項25に記載の方法。
【請求項45】
前記親水性種が:
SOxZy
(上記式中xは1〜3であり、そしてZは、水素原子、又は、Na、Mg、K、Ca、Zn、Mn、Ag、Au、Pd、Pt、Fe、Coのような金属の金属カチオンであってよく、そしてyは0又は1であってよい)
から選択された硫黄含有基を含む請求項25に記載の方法。
【請求項46】
前記カーボンナノチューブの外径が、0.05〜5ナノメートルである請求項25に記載の方法。
【請求項47】
前記カーボンナノチューブの長さが、20ナノメートル〜50ミクロンである請求項1に記載の方法。
【請求項48】
前記カーボンナノチューブが、金属カーボンナノチューブである請求項1に記載の方法。
【請求項49】
前記親水性種が、スルホン酸又はスルホン酸塩、又はこれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−502726(P2009−502726A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524983(P2008−524983)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/027452
【国際公開番号】WO2008/002317
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】