説明

溶剤型再剥離用粘着剤組成物および再剥離用粘着製品

【課題】光学部材用表面保護フィルム等に適用することを目的として、相反する特性である高速剥離性となじみ性が両立でき、低速粘着力にも優れ、かつ、帯電防止性能に優れた粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物を見出し、良好な特性の再剥離用粘着製品を提供する。
【解決手段】帯電防止能に優れた粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、この溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成されている粘着製品を作製し、この粘着製品の23℃、相対湿度65%におけるアクリル板に対する180゜粘着力を測定したときに、30m/分の高速剥離で1.6N/25mm以下であり、高速剥離における粘着力を0.3m/分の低速剥離における粘着力で除した値が18.0以下となり、かつ、粘着剤層の表面抵抗率が1013Ω未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に貼着した後、再度剥離される再剥離用であって、高速剥離でも優れた剥離性を示し、かつ帯電防止性能にも優れた再剥離用粘着製品と、この粘着製品を製造するための溶剤型の粘着剤組成物に関する。より詳細には、光学用偏光板(TAC)、位相差板、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩(アンチグレア)フィルム、反射防止フィルム等といった光学部材の表面を保護するための再剥離用粘着製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等には、種々の機能を有する光学用フィルム、例えば、光学用偏光板(TAC)、位相差板、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等が積層されて用いられている。これらの光学用フィルムは、ディスプレイの製造工程中や性能検査段階での表面の損傷を防止するために、その表面に保護フィルムが貼着されており、最終的に機能複合フィルム製造時や液晶パネル組み立て工程で剥離除去される。
【0003】
表面保護フィルムとしては、性能検査を妨害しない透明性、気泡等を噛み込むことなく被着体に速やかに貼ることのできる「なじみ性」(濡れ性、貼り付け性)が必要であると共に、被着体への貼付後の粘着力増加や被着体への被着体汚染がないこと等が重要である。さらに、最近では、ディスプレイの大型化に伴って保護フィルムも大面積化してきたため、剥離工程が機械化され、その結果、機械による高速剥離が簡単に行えることも重要な要求特性となっている。
【0004】
この高速剥離性を確保するために、単純に粘着剤ポリマーのTgを高めると、低速剥離時の粘着力やなじみ性が低下してしまい、実用的ではない。低速剥離時の粘着力が低いと、例えば偏光板の製造工程においては、打ち抜き加工、検査、位相、パネル組み立て等の各工程中に、表面保護フィルムが剥がれてしまうという不都合が起こる。また、なじみ性が悪いと、偏光板表面と表面保護フィルムとの間に気泡が入り、特にオートクレーブ処理やエージング処理を行うことでフクレやトンネリングを発生し、検査工程の支障となる。
【0005】
よって、表面保護フィルムにおいては、高速剥離性、低速剥離性、なじみ性等が重要な特性である。しかし一方で、機械による高速剥離の際に静電気が発生して、電子部材が故障したり、埃等が光学部材へ付着する等のトラブルを防止するため、粘着剤層には帯電防止性能も要求される。従来は帯電防止剤として働く界面活性剤を粘着剤層に添加していたが、ブリードアウト等により表面汚染の原因となる。
【0006】
そこで、アルキレンオキサイド構造を有する粘着剤ポリマーと金属塩化合物とを組み合わせて粘着剤層に導電性を付与することが行われた(例えば、特許文献1、2等)。これらの技術について検討したところ、帯電防止性能は良好であるが、なじみ性(濡れ性)がよい粘着剤は高速剥離性が大き過ぎ、高速剥離性を下げるために粘着剤ポリマーの架橋度を調整すると低速剥離粘着力が大幅に低下してしまうことがわかった。すなわち、高速剥離性、なじみ性、低速剥離時の粘着力の全ての特性が良好な粘着剤を得ることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−206776号公報
【特許文献2】特開2005−314579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、光学部材用表面保護フィルム等に適用することを目的として、相反する特性である高速剥離性となじみ性が両立でき、低速粘着力にも優れ、かつ、帯電防止性能に優れた粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物を見出し、良好な特性の再剥離用粘着製品を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、帯電防止性能に優れた粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、
この溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成されている粘着製品を作製し、この粘着製品の23℃、相対湿度65%におけるアクリル板に対する180゜粘着力を測定したときに、30m/分の高速剥離で1.6N/25mm以下であり、高速剥離における粘着力を0.3m/分の低速剥離における粘着力で除した値が18.0以下となり、かつ、粘着剤層の表面抵抗率が1013Ω未満であることを特徴とする。
【0010】
上記粘着製品から、4cm角の試料を切り出して、凹凸高低差が5〜6μmである表面を有する被着体上に載置したときに、上記試料の全面が上記被着体に対して濡れるまでの時間が60秒以下であることが好ましい。
【0011】
本発明には、上記溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた粘着剤層が支持基材の少なくとも片面に形成されている再剥離用粘着製品も包含され、この再剥離用粘着製品は光学部材用表面保護フィルムに用いることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、粘着剤ポリマーが含まれた溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、この粘着剤ポリマーが、ガラス転移温度が0℃以上のポリマー構造と、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)および官能基含有モノマー(C)を必須成分として含む原料モノマー成分から合成されたポリマー構造とを有すると共に、金属塩化合物が配合されてなることを特徴とする。
【0013】
上記粘着剤ポリマーはガラス転移温度が0℃以上のポリマー構造を側鎖に有するグラフトポリマーであることが好ましく、このグラフトポリマーはガラス転移温度が0℃以上のポリマー構造を有するマクロモノマー(E)を共重合したものであることが好ましい。このとき、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%中、アルキル(メタ)アクリレート(A)が25〜85質量%、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)が5〜70質量%、官能基含有モノマー(C)が0.3〜8質量%、その他のモノマー(D)が0〜10質量%、マクロモノマー(E)が3〜30質量%であることが好ましい。
【0014】
上記アルキレンオキサイド鎖含有モノマーが下記式(1)で示されるモノマーであることは、本発明の好ましい実施態様である。
【0015】
【化1】

[式(1)中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基であり、RとR’は、いずれかが水素原子でいずれかがメチル基であるか、いずれもが水素原子であり、R2は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基であり、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であって1〜50である。]
【0016】
本発明には、上記粘着剤ポリマーが、上記ガラス転移温度が0℃以上のポリマーと、上記アルキル(メタ)アクリレート(A)、上記アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)および上記官能基含有モノマー(C)を必須成分として含む原料モノマー成分から合成されたポリマーとの混合物である溶剤型再剥離用粘着剤組成物(混合物タイプ)も含まれる。この場合において、ガラス転移温度が0℃以上のポリマーと、アルキル(メタ)アクリレート(A)、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)および官能基含有モノマー(C)を必須成分として含む原料モノマー成分から合成されたポリマーとの合計を100質量%としたとき、ガラス転移温度が0℃以上のポリマーは2〜40質量%であることが好ましい。また、この混合物タイプにおいても、アルキレンオキサイド鎖含有モノマーが上記式(1)で示されるモノマーであることが好ましい。
【0017】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、この粘着剤組成物から得られた厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成されている粘着製品を作製し、この粘着製品の23℃、相対湿度65%におけるアクリル板に対する180゜粘着力を測定したときに、30m/分の高速剥離では1.6N/25mm以下であり、高速剥離における粘着力を0.3m/分の低速剥離における粘着力で除した値が18.0以下であり、かつ、粘着剤層の表面抵抗率が1013Ω未満であることが好ましい。また、上記粘着製品を作製し、4cm角の試料を切り出して、凹凸高低差が5〜6μmである表面を有する被着体上に載置したときに、該試料の全面が該フィルムに対して濡れるまでの時間が60秒以下であることも好ましい。
【0018】
本発明には、本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた粘着剤層が支持基材の少なくとも片面に形成されている再剥離用粘着製品も包含され、この再剥離用粘着製品は光学部材用表面保護フィルムに用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明で用いる粘着剤ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上のポリマー構造と、粘着特性やなじみ性を向上させ得るポリマー構造とを有しており、高速剥離性、低速での粘着力、被着体に対するなじみ性に優れ、かつ帯電防止能も有する粘着剤層を形成し得る再剥離用粘着剤組成物を提供することができた。従って、各種ディスプレーや偏光板等の光学部材の表面保護のために好適な再剥離用粘着製品を提供することができた。特に、アンチグレア(AG)処理偏光板のような表面に微小凹凸を有する光学フィルムに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、以前から再剥離用の粘着剤について研究を重ねており、高Tgポリマーと低Tgポリマーとのブロックおよび/またはグラフトされた構造のポリマーが、高速剥離性、低速での粘着力、なじみ性がバランスよく良好となることを見出し、既に出願した(特願2008−72224号)。しかし、上記出願に記載されている技術では、粘着剤層の帯電防止能が不足することがあった。そこで、多くの帯電防止剤について検討したところ、金属塩化合物の使用によって、粘着剤層に良好な帯電防止能を付与できることが見出され、本発明に想到した。以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明における「ポリマー」には、ホモポリマーはもとより、コポリマーや三元以上の共重合体も含まれるものとする。本発明の「モノマー」は、いずれも付加重合型モノマーである。
【0021】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物(以下、単に粘着剤組成物ということがある)に用いられる粘着剤ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上のポリマー構造と、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)および官能基含有モノマー(C)を必須成分として含む原料モノマー成分から合成されたポリマー構造とを有するものである。
【0022】
本発明の粘着剤組成物において、Tgが0℃以上のポリマー構造(以下、単に高Tgポリマー構造ということがある)と、アルキル(メタ)アクリレート(A)、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)および官能基含有モノマー(C)を必須成分として含む原料モノマー成分から合成されたポリマー構造(以下、単にアルキレンオキサイドポリマー構造ということがある)とを「有する」とは、ブロックおよび/またはグラフトポリマーである1種類の粘着剤ポリマーが両方のポリマー構造を有する意味である場合と、高Tgポリマー構造からなるポリマー(以下、単に高Tgポリマーということがある)と、アルキレンオキサイドポリマー構造からなるポリマー(以下、単にアルキレンオキサイドポリマーということがある)とが混合されて粘着剤ポリマーを形成している結果、粘着剤ポリマーが両方のポリマー構造を有する意味である場合(以下、単に混合物タイプということがある)がある。
【0023】
高Tgポリマー構造は、高速剥離力の増大を抑制するために必要である。アルキレンオキサイドポリマー構造は、なじみ性を確保すると共に、金属塩化合物が解離して生成するイオンがアルキレンオキサイド鎖を通じて移動可能となるので導電性の発現にも役立つ。このため、本発明の粘着剤ポリマーには両方のポリマー構造が必要なのである。
【0024】
[ブロックおよび/またはグラフトポリマー]
まず、粘着剤ポリマーが、高Tgポリマー構造とアルキレンオキサイドポリマー構造の両方を有するブロックおよび/またはグラフトポリマーである場合について説明する。なお、以下では、グラフトポリマーについて説明するが、ブロックポリマーでも好適モノマー種やその量は同じである。
【0025】
本発明のグラフトポリマーは、主鎖が粘着力を発揮するポリマーで、この主鎖に高Tgポリマー構造がグラフトされた構造のポリマーである。
【0026】
[アルキル(メタ)アクリレート(A)]
グラフトポリマーの主鎖を得るための第1の必須モノマー成分は、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)であり、これにより粘着力が確保できる。粘着特性の観点からは、アルキル基の炭素数は4〜10が好ましく、より好ましくは4〜9である。上記炭素数が4未満(3以下)であるか、または、12を超える(13以上)と、粘着力が低下するおそれがある。
【0027】
アルキル(メタ)アクリレート(A)のみから得られるポリマーのTgを考えた場合、側鎖(枝ポリマー:高Tgポリマー)のTg(0℃以上)よりも低いことが粘着特性の点から必要であり、このTgが0℃未満になるように、アルキル(メタ)アクリレート(A)を選択することが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート(A)のみから得られるポリマーのTgは−20℃以下がより好ましく、−35℃以下がさらに好ましい。ただし、Tgが−80℃より低くなると、凝集力が低下して、被着体汚染が起こりやすくなる傾向にあるため好ましくない。ホモポリマーのTgは各種文献(例えばポリマーハンドブック等)に記載されており、コポリマーのTgは、各種ホモポリマーのTg(K)と、モノマーの質量分率(W)とから下記式によって求めることができる。
【0028】
【数1】

ここで W ;各単量体の質量分率
Tg;各単量体のホモポリマーのTg(K)
【0029】
アルキル(メタ)アクリレート(A)の具体例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートおよびイソノニルアクリレートが好ましい。これらは、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。
【0030】
アルキル(メタ)アクリレート(A)は、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%中、25〜85質量%の範囲で用いることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート(A)の使用量がこの範囲内であれば、得られる粘着剤は、高速剥離性、低速での粘着力およびなじみ性のバランスが、良好となる。上記範囲外になると、結果として、他の必須モノマー成分が多すぎたり、少なすぎることになるため、低速での粘着力やなじみ性が不足したり、高速粘着力が大きくなり過ぎるおそれがある。アルキル(メタ)アクリレート(A)の使用量は35〜80質量%がより好ましく、さらに好ましくは55〜80質量%である。なお、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%の中には、枝ポリマー用の原料モノマーも含まれる。
【0031】
[アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)]
本発明のグラフトポリマーの主鎖を構成する第2の必須モノマー成分は、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)である。このアルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)は、なじみ性を高めると共に、粘着剤層中で金属塩化合物を溶解させて帯電防止能を発現させるために用いられる。このアルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)としては、アルキレンオキサイド鎖含有(メタ)アクリル系モノマーおよび/または下記式(1)で示されるアルキレンオキサイド鎖含有モノマーであることが好ましい。
【0032】
【化2】

[式(1)中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基であり、RとR’は、いずれかが水素原子でいずれかがメチル基であるか、いずれもが水素原子であり、R2は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基であり、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であって1〜50である。]
【0033】
アルキレンオキサイド鎖含有(メタ)アクリル系モノマー(以下、単にモノマー(B−1)ということがある)は、エチレンオキサイド(EO)鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、プロピレンオキサイド(PO)鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、およびその両者を有する(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。モノマー(B−1)におけるエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドの付加モル数は、粘着剤ポリマーの流動による濡れ性を改善する観点からは、1〜30モルが好ましく、2〜10モルがより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の末端は、ヒドロキシル基のままであっても、例えばメチル基等の他の官能基に置換されていてもよい。
【0034】
モノマー(B−1)の好適なものは、下記式(2)で表せる。
【0035】
【化3】

[R”は水素原子かメチル基であり、R、R’、R2は式(1)と同じ意味である。nは1〜30である。]
【0036】
モノマー(B−1)の具体例としては、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアリールオキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;2−エチルヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0037】
また、上記式(1)で表されるモノマー(以下、モノマー(B−2)ということがある。)におけるR1で示される炭素数2〜5のアルケニル基としては、下記の(i)ビニル基、(ii)イソプロペニル基、(iii)アリル基、(iv)メタリル基、(v)3−ブテニル基、(vi)2−メチル−1−ブテニル基、(vii)3−メチル−1−ブテニル基、(viii)2−メチル−3−ブテニル基、(ix)3−メチル−3−ブテニル基等が挙げられる。中でも、(iii)アリル基および(iv)メタリル基、(ix)3−メチル−3−ブテニル基が好ましい。
【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
また、モノマー(B−2)における式1中のR2で示される炭素数1〜8の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の脂肪族炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、クレジル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。中でも、取扱い性の点からは、炭素数1〜4の炭化水素基または水素原子が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。R1がメタリル基でR2が水素原子の場合を化学式で示せば、下記の通りである。
【0041】
【化6】

[RとR’は、いずれかが水素原子でいずれかがメチル基であるか、いずれもが水素原子であり、nは1〜50である。]
【0042】
これらのモノマー(B−1)および(B−2)は混合してモノマー(B)として使用することができる。モノマー(B)の使用量は、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%中、5〜70質量%程度が好ましい。5質量%より少ないと、金属塩の溶解性が小さすぎて金属塩が析出するおそれがあり、70質量%を超えると、粘着製品としたときの粘着力や凝集力が不足するおそれがあるため好ましくない。より好ましいモノマー(B)量は、7〜60質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0043】
[官能基含有モノマー(C)]
本発明のグラフトポリマーの主鎖を構成するための第3の必須モノマー成分は、架橋点となる官能基含有モノマー(C)である。別添の架橋剤とグラフトポリマーを架橋反応させることで、高速剥離性、なじみ性、低速での粘着力の3つをバランスよく高めることができるからである。官能基含有モノマー(C)の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、フタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸、ケイ皮酸およびクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;これら不飽和ジカルボン酸のモノエステル等のカルボキシル基含有モノマー;アミノ基、アミド基、エポキシ基等のいずれかを有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0044】
上記の中でも、官能基としてヒドロキシル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類が好ましい。特に、ヒドロキシル基が(メタ)アクリロイル基から離間したところにある方が、架橋反応性やなじみ性がよくなるので、架橋剤量を少なくしたい場合や被着体に対するなじみ性が特に重要視される場合は、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートよりも、炭素数の大きなアルキル基(プロピル基以上)にヒドロキシル基が結合している(メタ)アクリレート(例えば、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等)を用いることが好ましい。
【0045】
これらの官能基含有モノマー(C)は、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%中、0.1〜10質量%とすることが好ましい。官能基含有モノマー(C)の使用量が0.1質量%未満では、グラフトポリマー中の官能基量が少なくなって、粘着剤の架橋度や凝集力が不足して、粘着力が大きくなり過ぎたり、糊残りが発生するおそれがある。また、10質量%を超えると、なじみ性が低下したり、低速剥離時の粘着力が小さくなるおそれがあるため好ましくない。官能基含有モノマー(C)の使用量は、0.3〜8質量%がより好ましく、0.5〜6質量%がさらに好ましい。
【0046】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物におけるグラフトポリマーの合成に当たっては、その他のモノマー(D)を共重合させても良い。その他のモノマー(D)とは、上記必須モノマー成分(A)〜(C)と共重合することができ、かつこれら以外のモノマーである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等の前記アルキル(メタ)アクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリレート;エチレンおよびブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素類ならびに塩化ビニル等の脂肪族不飽和炭化水素類のハロゲン置換体;スチレンおよびα−メチルスチレン等の芳香族不飽和炭化水素類;ビニルエーテル類;アリルアルコールと各種有機酸とのエステル類;アリルアルコールと各種アルコールとのエーテル類;アクリロニトリル等の不飽和シアン化化合物;酢酸ビニル等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。上記その他のモノマー(D)は、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%中、10質量%以内に抑えることが好ましい。10質量%を超えると、結果的に、必須モノマー成分(A)〜(C)の量が少なくなるため、所望の粘着特性が得られない。
【0047】
[高Tgポリマー構造]
本発明のグラフトポリマーは、Tgが0℃以上のポリマー構造を側鎖(枝部)に有するものである。Tgが0℃以上の高Tgポリマー構造が側鎖にグラフトされているため、粘着剤層の変形を抑制して、高速剥離時の粘着力の低減を達成している。
【0048】
この側鎖になる部分のポリマー(以下、単に、「枝ポリマー」ということがある)のTgは0℃以上でなければならないが、高速剥離性をより一層改善するには、枝ポリマーのTgは5℃以上が好ましい。ただし、枝ポリマーのTgが高すぎると、低速剥離時の粘着力が不充分となることがあるので、160℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。
【0049】
枝ポリマーに用い得るモノマーの具体例としては、酢酸ビニル(ホモポリマーのTg(以下同様)=30.0℃)、メチルアクリレート(Tg=9.9℃)、アクリル酸(Tg=105.9℃)、メチルメタクリレート(Tg=104.9℃)、シクロヘキシルメタクリレート(Tg=65.9℃)、ベンジルアクリレート(Tg=6.0℃)、イソボルニルアクリレート(Tg=94.0℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg=145.0℃)、アクリロニトリル(Tg=95.0℃)、スチレン(Tg=100.0℃)等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
また、前記した計算式で計算されるコポリマーのTgが0℃以上になるのであれば、枝ポリマーを得る際に、モノマー(A)〜(D)として例示した各種モノマーを併用しても構わない。
【0051】
枝ポリマーの分子量は、質量平均分子量(Mw)で15000〜10万程度が好ましい。この枝ポリマーは、粘着剤層にミクロドメイン構造(微細な島)を形成する。これにより剥離時の粘着剤層の変形が抑制され、高速剥離時の粘着力を低減することができるが、枝ポリマーのMwが大きすぎると、ミクロドメイン構造を形成しにくくなり、高速剥離時の粘着力低減作用が低下する。従って、Mwは上記の範囲が好ましく、2万〜7万がより好ましい。
【0052】
枝ポリマーの質量は、グラフトポリマー全体の3〜30質量%程度が好ましい。従って、グラフトポリマーの原料モノマー成分100質量%中、枝ポリマー用のモノマーは3〜30質量%とすることが好ましい。3質量%より少ないと、高速剥離性が不充分となるおそれがある。30質量%より多いと、低速での粘着力が低くなったり、なじみ性が低下するおそれがあるため好ましくない。より好ましい枝ポリマー用のモノマーの使用量は5〜25質量%である。
【0053】
グラフトポリマーの合成方法としては、マクロモノマー法、イオン重合法、高分子反応により枝ポリマーの導入方法等が知られている。本発明のグラフトポリマーを合成するには、主鎖ポリマーおよび枝ポリマーの分子量制御や、ホモポリマー生成の抑制および主鎖ポリマーと枝ポリマーの連結等が容易に行えるマクロモノマー法が好適である。具体的には、Tgが0℃以上のポリマー構造を有するマクロモノマー(E)を用いて、グラフトポリマーを合成する方法が好ましい。
【0054】
マクロモノマー(E)は、上記枝ポリマーの末端にラジカル重合性二重結合が導入されたモノマーである。マクロモノマーの合成方法には種々の方法があるが、官能基を有する連鎖移動剤を使用して枝ポリマーを重合し、枝ポリマー末端に連鎖移動剤由来の官能基を導入して、この官能基と反応し得る官能基とラジカル重合性二重結合とを有するモノマーを、枝ポリマー末端の上記官能基に化学反応させることにより得る方法が、比較的簡便である。
【0055】
本発明では、連鎖移動剤として、同一分子内にカルボキシル基および/またはヒドロキシル基と、少なくとも1個のチオール基とを有する化合物を用いることが好ましく、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等のカルボキシル基含有メルカプト化合物や、メルカプトエタノール等のヒドロキシル基含有メルカプト化合物等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、枝ポリマー用のモノマー100質量部に対し、0.05〜1質量部程度が好適である。
【0056】
メルカプト化合物がカルボキシル基を有する場合は、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ系モノマー;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の脂環式エポキシ系モノマー;2−(ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン;N−(メタ)アクリロイルアジリジン;3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン等を反応させることにより、枝ポリマーに連鎖移動剤を介してこれらのモノマーが結合し、マクロモノマー(E)が得られる。また、メルカプト化合物がヒドロキシル基を有する場合は、(メタ)アクリロイルイソシアネート;(メタ)アクリロイルエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルプロピルイソシアネート等の(メタ)アクリロイルアルキルイソシアネート;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート;3−イソプロペニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート系モノマーや、2−(ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等を反応させればよい。以下、枝ポリマーの末端に二重結合を導入するためのこれらのモノマーを、マクロモノマー(E)用モノマー(E’)ということがある。
【0057】
マクロモノマー(E)用枝ポリマーの重合は公知の方法を用いれば良く、特に、重合熱の除去が容易な溶液重合が好ましい。重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いることもできる。溶媒の使用量は、適宜決定すればよい。
【0058】
重合反応温度や反応時間等の反応条件は、前記した適正量の連鎖移動剤を用いる限り特に限定されず、例えば、モノマーの組成や量等に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0059】
重合触媒(重合開始剤)も特に限定はされず、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、商品名「ナイパーBMT−K40」(日本油脂社製;m−トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドの混合物)等の有機過酸化物や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(日本ファインケム社製;「ABN−R」)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ファインケム社製;「ABN−E」)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(日本ファインケム社製;「ABN−V」)等のアゾ系化合物等が挙げられる。
【0060】
上記方法により、枝ポリマーの生成に用いた連鎖移動剤由来のカルボキシル基またはヒドロキシル基を片末端に有する枝ポリマーが得られる。枝ポリマーを得た後は、続けてラジカル重合性二重結合の導入反応を行う。枝ポリマーの片末端のカルボキシル基またはヒドロキシル基との反応性を有する前記マクロモノマー(E)用モノマー(E’)を、例えば、重合後の枝ポリマー溶液に、直接、または溶媒等で希釈して添加すればよい。また、必要に応じて、各反応に適した触媒を適宜選択して使用することができる。
【0061】
例えば、カルボキシル基を有する連鎖移動剤を使用して枝ポリマーを合成し、グリシジル基を有する前記マクロモノマー(E)用モノマー(E’)を用いてラジカル重合性二重結合を導入する場合は、反応を迅速に進行させるためにエステル化触媒を用いることができる。エステル化触媒としては、トリエチルアミン等のアミン類;テトラエチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類;トリフェニルホスフィン等のリン化合物等、通常エステル化触媒としてよく用いられるものでよい。反応温度は70〜120℃程度、反応時間は2〜10時間程度が好ましい。反応の終点は酸価測定等で決定することができる。
【0062】
また、ヒドロキシル基を有する連鎖移動剤を使用して枝ポリマーを合成し、イソシアネート基を有する前記マクロモノマー(E)用モノマー(E’)を用いてラジカル重合性二重結合を導入する場合は、反応促進のため、公知の金属系触媒やアミン系触媒が利用できる。金属系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、2−エチルヘキサノエート鉛、チタン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサノエート鉄、2−エチルヘキサノエートコバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、テトラ−n−ブチル錫等が挙げられる。アミン系触媒としては、テトラメチルブタンジアミン等の3級アミンが挙げられる。反応は、50〜100℃程度で30分〜10時間程度行うのが好ましい。反応の終点は、IR測定によるNCO基由来の2270cm-1付近のピーク消失で確認することができる。
【0063】
上記のラジカル重合性二重結合導入反応は、必要に応じて重合禁止剤を添加して行ってもよい。重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、p−メトキシフェノール等が挙げられるが、特に限定されない。
【0064】
反応比率としては、枝ポリマー末端の連鎖移動剤由来の官能基、例えばカルボキシル基またはヒドロキシル基に対して、0.8〜1(モル比)が好ましい。
【0065】
マクロモノマー(E)は、グラフトポリマーを得るための原料モノマー成分100質量%中、3〜30質量%程度が好ましい。3質量%より少ないと、高速剥離性が不充分となるおそれがある。30質量%より多いと、低速での粘着力が低くなったり、なじみ性が低下するおそれがあるため好ましくない。より好ましいマクロモノマー(E)の使用量は5〜25質量%である。
【0066】
本発明のグラフトポリマーの最も好ましい実施態様は、モノマー(A)がブチルアクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレートであり、モノマー(B)がメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびヒドロキシポリエチレングリコール−3−メチル3−ブテニルよりなる群から選択される1種以上であり、官能基含有モノマー(C)が2−ヒドロキシエチルアクリレートおよび/または4−ヒドロキシブチルアクリレートであり、マクロモノマー(E)のポリマー構造がポリメチルアクリレートであるモノマー成分から得られたポリマーである。
【0067】
上記グラフトポリマーは、公知の重合方法によって得ることができ、溶剤型再剥離用粘着剤組成物を簡単に得ることができる点では、溶液重合法で重合することが好ましい。溶液重合で用いられる溶媒としては、マクロモノマー(E)用の枝ポリマーの重合に際して例示した溶媒がいずれも使用できる。本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、溶剤を必須成分とするが、重合溶媒と同じ溶剤を用いることが好ましい。重合終了によって得られたものをそのまま溶剤型再剥離用粘着剤組成物原料として使用することができる。
【0068】
重合反応温度や反応時間等の反応条件は、例えば、モノマーの組成や量等に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。重合触媒(重合開始剤)も、枝ポリマーのグラフトに際して例示した開始剤がいずれも使用できる。グラフトポリマーの重合の際は、官能基含有連鎖移動剤を用いる必要はないので、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類に代表される公知の分子量調節剤を用いることができる。
【0069】
上記グラフトポリマーの質量平均分子量(Mw)は、10〜80万が好ましい。この範囲であれば、再剥離工程での粘着力が過大になることがなく、特に被着体に貼付後にオートクレーブ等による加熱処理を行ったときに、光学部材の損傷や液晶セルからの光学部材の剥離等のトラブルを起こすことなく、表面保護フィルムを剥離することができる。Mwが10万よりも小さいと、加熱処理後の粘着力上昇が起こるおそれがあり、好ましくない。また、Mwが80万を超えると、粘着剤の流動性が低下して、防眩(AG)処理等を施した凹凸のある偏光板を被着体とする場合、粘着剤が偏光板表面を充分に濡らすことができなくなるおそれがある。より好ましいMwの範囲は12万〜60万である。
【0070】
上記グラフトポリマーのTgは、主鎖を構成するポリマーのTgが低いため、枝ポリマーのTgが0℃以上でも、低くなる。具体的には、−20℃以下が好ましく、−35℃以下がさらに好ましい。ただし、Tgが−80℃より低くなると、凝集力が低下して、被着体汚染が起こりやすくなる傾向にあるため好ましくない。
【0071】
[混合物タイプ]
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物においては、上記グラフトポリマーを粘着剤ポリマーとして用いるタイプの他に、高Tgポリマーと、粘着力を発現するためのアルキレンオキサイドポリマーとが混合されて、粘着剤ポリマーを形成している混合物タイプがある。アルキレンオキサイドポリマーは、上記グラフトポリマーの主鎖ポリマーを合成する際のマクロモノマー(E)以外のモノマー、すなわち、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)、官能基含有モノマー(C)及び必要に応じてその他のモノマー(D)からなる原料モノマー成分から合成される。好適な態様もは、グラフトポリマーのときと同様である。
【0072】
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)、アルキレンオキサイド鎖含有モノマー(B)、官能基含有モノマー(C)および必要に応じて用いられるその他のモノマー(D)の比率は、原料モノマー成分100質量%中、(A)が35〜85質量%、(B)が5〜65質量%、(C)が0.3〜8質量%、(D)が0〜10質量%であることが好ましい。
【0073】
高Tgポリマーは、上記グラフトポリマーの枝ポリマーと同種のモノマーが利用でき、好適な態様も枝ポリマーの場合と同じである。ただし、マクロモノマー(E)へと変性する必要はないので、官能基含有連鎖移動剤を使用する必要はなく、マクロモノマー用モノマー(E’)を反応させる必要もないが、マクロモノマーを高Tgポリマーとして用いても構わない。
【0074】
高Tgポリマーとアルキレンオキサイドポリマーは、Tgが異なり組成も異なるため、相溶しないが、海島構造を採り、それぞれのポリマーの作用効果を損なうことなく発揮する。本発明では、高Tgポリマーを島として分散させて、高速剥離の際の粘着力の増大を抑制している。高Tgポリマーは3質量%以上は必要であり、これより少ないと上記効果が不充分となる。より好ましくは、4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。ただし、多過ぎると低速粘着力やなじみ性が低下するので、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0075】
前記したグラフトポリマーをアルキレンオキサイドポリマーとして用いて、高Tgポリマーと混合し、混合物タイプとしても構わない。
【0076】
[金属塩化合物]
以下の説明では、グラフトポリマーを単独で粘着剤ポリマーとして使用する場合、高Tgポリマーとアルキレンオキサイドポリマーとを組み合わせて粘着剤ポリマーとして使用する場合、の両方を、あわせて粘着剤ポリマーという。
【0077】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物には、金属塩化合物が含まれる。金属塩化合物は、粘着剤層中で、アルキレンオキサイドの作用によって解離して金属イオンとなる。この金属イオンがアルキレンオキサイド鎖を通じて移動可能となるため、粘着剤層が導電性となって、帯電防止能が発現するのである。
【0078】
金属塩化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、マグネシウム等のアルカリ土類金属から選択される陽イオンの一種と、塩素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等の陰イオンの一種とからなる無機塩;ステアリルスルホン酸リチウム等の有機塩;四級アンモニウム塩;等のイオン性化合物が挙げられる。これらのイオン性化合物のうちイオン解離する際のエネルギーが比較的小さく、後述する溶剤中での移動度が高いリチウム塩が特に好ましい。具体的な化合物としては、LiBr,LiI,LiClO4 ,LiSCN,LiCF3SO3等が挙げられる。
【0079】
金属塩化合物は、粘着剤ポリマー100質量部に対し、0.1〜10質量部とすることが好ましい。少なすぎると粘着剤層の帯電防止能が不足するおそれがある。金属塩化合物が多すぎると、析出して被着体を汚染するおそれがあり、好ましくない。
【0080】
また、従来公知の有機系帯電防止剤も併用可能である。例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、1級、2級または3級アミノ基等のカチオン性官能基を有するカチオン型帯電防止剤;スルホン酸塩、硫酸エステル塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン性官能基を有するアニオン型帯電防止剤;アルキルベタインおよびその誘導体、イミダゾリンおよびその誘導体、アラニンおよびその誘導体等の両性型帯電防止剤;アミノアルコールおよびその誘導体、グリセリンおよびその誘導体、ポリエチレングリコールおよびその誘導体等のノニオン型帯電防止剤;これらのカチオン型、アニオン型、両性イオン型のイオン導電性基を有する単量体を(共)重合してなるイオン導電性重合体等が挙げられる。これらの帯電防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
[架橋剤]
本発明の粘着剤組成物には、粘着剤ポリマーに加えて、凝集力や架橋密度を制御するために、架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤としては、官能基含有モノマー(C)の有する官能基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物を用いる。例えば、官能基含有モノマー(C)としてヒドロキシル基含有モノマーを用いた結果、粘着剤ポリマーがヒドロキシル基を有しているなら、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。また、粘着剤ポリマーがカルボキシル基を有しているなら、多官能イソシアネート化合物や多官能エポキシ化合物等が好ましい。反応性の点では、ヒドロキシル基と多官能イソシアネート化合物の組合せが最も好ましい。
【0082】
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、前記芳香族ポリイソシアネートの水素添加物等の脂肪族または脂環族ポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートの2量体もしくは3量体;これらのポリイソシアネートとトリメチロールプロパン等のポリオールとからなるアダクト体等が挙げられる。
【0083】
より具体的には、例えば、「コロネートL−55E」、「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」、「アクアネート200」、「アクアネート210」(これらはいずれも日本ポリウレタン工業社製;「コロネート」、「アクアネート」は登録商標);「デスモジュールN3400」(住友バイエルウレタン社製(現バイエルA.G.社);「デスモジュール」は登録商標);「デュラネートD−201」、「デュラネートE−405−80T」、「デュラネート24A−100」、「デュラネートTSE−100」(いずれも旭化成社製;「デュラネート」は登録商標);「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」、「MT−オレスターNP1200」(三井化学社製;「タケネート」、「オレスター」は登録商標)等が市販されており、入手可能である。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。
【0084】
これらのなかでは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のビュレット変性体(3官能;例えば、「デュラネート24A−100」(旭化成社製))が、高速剥離性、なじみ性、低速剥離での粘着力の3つの特性のバランスの点で特に好ましい。また、「デュラネートTSE−100」や、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体である「コロネートL−55E」も、高速剥離性と低速剥離時の粘着力とをバランスよく制御できる点で好適である。
【0085】
多官能エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
【0086】
これらの架橋剤は、粘着剤ポリマーが有する官能基の合計を1当量としたときに、0.1〜2.5当量となるように添加することが好ましい。架橋剤量が0.1当量より少ないと、凝集力が不足して高速剥離粘着力が大きくなり過ぎることがある。また2.5当量を超えると、なじみ性(濡れ性)が極端に低下するため好ましくない。より好ましい架橋剤量は0.3〜2当量である。
【0087】
[溶剤型再剥離用粘着剤組成物]
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物の不揮発分は、特に限定はされないが、例えば、10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜70質量%、さらに好ましくは25〜60質量%である。特に、塗工に際しては、不揮発分を20〜50質量%に調整するのが、塗布作業の点からは好適である。上記不揮発分が10質量%未満であると、塗布した後等の乾燥が長時間となり、生産性が低下するおそれがある。また、80質量%を超えると、組成物全体の粘度が高くなり、ハンドリング性および塗布性に欠け、実用性に乏しくなるおそれがある。粘着剤組成物の溶剤は、前記した重合溶媒がいずれも使用可能であり、前記したように重合溶媒と同じ溶剤が好ましい。
【0088】
本発明の粘着剤組成物には、公知の架橋促進剤、粘着付与剤、改質剤、顔料、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で加えてもよい。
【0089】
[再剥離用粘着製品]
本発明の粘着剤組成物は、再剥離用粘着製品の製造に用いられる。基材あるいは離型紙の上に粘着剤組成物を塗布し、その乾燥塗膜を形成することによって、基材の片面に粘着剤層が形成されている粘着製品(粘着テープまたはシート)、基材の両面に粘着剤層が形成されている粘着製品、基材を有しない粘着剤層のみの粘着製品を得ることができる。紙基材の粘着製品を製造する場合は、離型紙の上に粘着剤組成物を塗布し、粘着剤層を形成した後、紙基材に転写する方法も、採用できる。粘着剤層の形成にあたっては、溶剤が飛散する条件(例えば50〜120℃で30〜180秒程度)での加熱乾燥を行うことが望ましい。
【0090】
基材としては、上質紙、クラフト紙、クレープ紙、グラシン紙等の従来公知の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、セロファン等のプラスチック;織布、不織布等の繊維製品;これらの積層体等が利用できる。光学用フィルムの表面保護に用いる場合には、基材は、ポリエチレンテレフタレート等の透明フィルムが好ましい。基材の厚さは、一般には、200μm以下が好ましく、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μm程度である。これらの基材の片面または両面には、剥離時の帯電防止のため、帯電防止層が設けられていてもよい。また、粘着剤層との密着性を向上させるため、粘着剤層形成面に、コロナ放電処理等の公知の易接着化処理を行ってもよい。
【0091】
粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等の公知の方法を採用することができる。この場合、粘着剤組成物を基材に直接塗布する方法、離型紙等に粘着剤組成物を塗布した後、この塗布物を基材上に転写する方法等いずれも採用可能である。粘着剤組成物を塗布した後、乾燥させることにより、基材上に粘着剤層が形成される。
【0092】
基材上に形成された粘着剤の表面には、例えば、離型紙を貼着してもよい。粘着剤表面を好適に保護・保存することができる。剥離紙は、粘着製品を使用する際に、粘着剤表面から引き剥がされる。なお、シート状やテープ状等の基材の片面に粘着剤面が形成されている場合は、この基材の背面に公知の離型剤を塗布して離型剤層を形成しておけば、粘着剤層を内側にして、粘着シート(テープ)をロール状に巻くことにより、粘着剤層は、基材背面の離型材層と当接することとなるので、粘着剤表面が保護・保存される。
【0093】
[粘着剤層の粘着特性]
本発明の粘着剤組成物は、この粘着剤組成物から得られた厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成されている粘着製品を作製し、この粘着製品の23℃、相対湿度65%におけるアクリル板に対する180゜粘着力を測定したときに、23℃での180゜粘着力が、剥離速度30m/分(高速剥離)では、1.6N/25mm以下が好ましく、1.2N/mm以下がより好ましい。また、高速剥離における粘着力を、剥離速度0.3m/分の低速剥離における粘着力で除した値は、18.0以下が好ましい。なお、上記単位「N/25mm」において、「/25mm」の部分は、被着体に圧着させた粘着シートの幅を意味する。
【0094】
また、本発明の粘着剤組成物は、上記と同様に粘着製品を作製し、4cm角の試料を切り出して、凹凸高低差が5〜6μmである表面を有する被着体上に載置したときに、試料の全面が被着体に対して濡れるまでの時間(なじみ時間)が60秒以下であることが好ましく、45秒以内であるとさらに好ましい。なじむまでの時間は短ければ短いほど、なじみ性に優れているからである。なじみ時間の測定に際しては、試料を被着体上に載置する前に、予め、試料の一辺から1〜2mm程度を手で被着体に貼り合わせておいてから、なじみ時間を測定する。なお、「試料の全面が濡れる」とは、粘着製品試料と被着体表面との間に存在していた空気が抜けて、試料が被着体表面の凹凸に密着した状態を指す。具体的には、空気が抜けて、被着体表面に粘着製品試料が密着していくと、試料が透き通って見えるようになるため、目視で密着状態を観察することができる。また、凹凸高低差とは、被着体の表面を、例えばレーザー顕微鏡で解析したときに、最大山の頂点と最大谷の底との距離として表される。
【0095】
本発明の再剥離用粘着製品は、光学部材用表面保護フィルムに用いることがあるため、上記なじみ時間測定の際に用いる被着体として、光学部材の中でもなじみにくいフィルムの代表例であるアンチグレアフィルムを用いることが好ましい。アンチグレアフィルムとは、液晶ディスプレイ(LCD)や陰極管表示装置(CRT)等の画像表示において、蛍光灯等の外部光源から照射される光線の反射を抑制して、視認性を高めるために設けられるフィルムである。このため、アンチグレアフィルムの表面には細かな凹凸が形成されており、反射光を拡散させ、観者が眩しいと感じることを防いでいる。アンチグレアフィルムは、通常、シリカや樹脂ビーズ等の光透過性拡散剤をバインダー樹脂に分散させた塗工液をPET等の透明基材表面に塗布し、その後、熱やUV等により硬化させることで製造されている。表面粗さ(Ra)は、大体0.05〜0.4μm程度である。
【0096】
[粘着剤層の帯電防止性能]
粘着剤層の表面抵抗率は1013Ω未満が好ましい。より好ましくは1012Ω以下である。表面抵抗率は、表面抵抗計等を用いれば測定することができる。具体的な測定方法は後述する。
【実施例】
【0097】
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下では特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0098】
また、各合成例で示したTgは、前記計算式で計算したTgである。各モノマーのホモポリマーのTgは、以下の値を用いた。
ポリ(MA):9.9℃
ポリ(MMA):104.9℃
ポリ(VAc):30.0℃
ポリ(2EHA):−70.0℃
ポリ(BA):−54.2℃
ポリ(MTG−A):−50.0℃
ポリ(AM90G):−30℃
ポリ(HEGMB):−30℃
ポリ(HEA):−15.0℃
ポリ(4HBA):−32.0℃
【0099】
合成例1(マクロモノマー(E1)の合成)
まず、枝ポリマーとなるポリメチルアクリレート(PMA)を合成した。メチルアクリレート(MA)280部、連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール0.9部、溶媒として酢酸エチル512部を、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。撹拌下、窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を80℃まで上昇させ、重合開始剤として酢酸エチル13.9部で希釈した「ABN−R」(日本ファインケム社製;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)0.14部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
【0100】
反応開始から10分経過した後、MA420部、2−メルカプトエタノール1.34部、前記「ABN−R」0.14部および酢酸エチル56部からなる混合物を1時間30分に亘ってフラスコに滴下した。滴下終了後、酢酸エチル112部を、滴下ロートを洗浄しながら添加した。その後、80℃で2時間50分熟成し、反応を終了した。
【0101】
次に、上記PMAに対するラジカル重合性二重結合の導入反応を行った。上記PMA溶液1400部、「カレンズMOI(登録商標)」(昭和電工社製;2−イソシアナトエチルメタクリレート)3.99部、重合禁止剤として「ANTAGE−W400」(川口化学工業社製;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)0.42部、希釈・洗浄溶剤として酢酸エチル42部を、温度計、撹拌機、ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。撹拌下、窒素ガスと酸素ガスのミックスガスをバブリングさせながら、フラスコの内温を70℃まで上昇させ、反応触媒として酢酸エチル14部で希釈したジブチル錫ジラウレート0.98部を添加し、付加反応を始めた。フラスコの内温を70℃に保ったまま4時間付加反応を行い、反応を終了した。得られたマクロモノマー(E1)溶液の不揮発分濃度は45.8%、Mwは4.5万であった。Mwの測定方法は後述する。このマクロモノマー(E1)のTgは10℃である。
【0102】
合成例2(マクロモノマー(E2)の合成)
枝ポリマーのモノマー組成を、MA280部、メチルメタクリレート(MMA)420部に変更したこと以外は、合成例1と同様にしてマクロモノマー(E2)を合成した。得られたマクロモノマー(E2)溶液の不揮発分濃度は46.0%、Mwは4.9万であった。このマクロモノマー(E2)のTgは60℃である。
【0103】
合成例3(マクロモノマー(E3)の合成)
枝ポリマーのモノマー組成を、酢酸ビニル(VAc)700部に、「カレンズMOI」を「カレンズAOI(登録商標)」(昭和電工社製;2−イソシアナトエチルアクリレート)3.63部に変更したこと以外は、合成例1と同様にしてマクロモノマー(E3)を合成した。得られたマクロモノマー(E3)溶液の不揮発分濃度は43.0%、Mwは3.5万であった。このマクロモノマー(E3)のTgは30℃である。
【0104】
合成例4(マクロモノマー(E4)の合成)
枝ポリマーのモノマー組成を、エチルアクリレート(EA)280部、MMA420部に変更したこと以外は、合成例3と同様にしてマクロモノマー(E4)を合成した。得られたマクロモノマー(E4)溶液の不揮発分濃度は45.5%、Mwは5.2万であった。このマクロモノマー(E4)のTgは40℃である。
【0105】
合成例5(粘着剤ポリマー1の合成)
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに、マクロモノマー(E1)を不揮発分で80部、モノマー(A)として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)208部とn−ブチルアクリレート(BA)20部、モノマー(B)として「MTG−A」(共栄社化学社製;メトキシポリエチレングリコールアクリレート;式(2)において、R”、R、R’がいずれもH、R2はメチル基、nは3)160部、モノマー(C)として2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)12部を用い、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン(nDM)0.4部を用いて、これらを酢酸エチル328部とよく混合して、添加した。撹拌下、窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を89℃まで上昇させ、重合開始剤として酢酸エチル4部で希釈した「ABN−E」(日本ファインケム社製;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.08部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
【0106】
反応開始から1時間後、重合開始剤として酢酸エチル4部で希釈した「ABN−E」0.04部を添加した。反応が開始して3時間目から4時間目にかけて、ブースター(後添加開始剤)として、酢酸エチル36.8部で希釈した「ABN−R」1.2部を3度に分割して添加した。その後、さらに78℃で2時間熟成した。得られた粘着剤ポリマー1の溶液の不揮発分濃度は46.2%、Mwは25.4万であった。この粘着剤ポリマー1のTgは−60℃である。
【0107】
合成例6(粘着剤ポリマー2の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、マクロモノマー(E1)をマクロモノマー(E2)に変え、モノマー(A)として2EHA128部とBA20部、モノマー(B)として「MTG−A」240部、連鎖移動剤としてnDM0.5部用いたこと以外は、合成例5と同様にして粘着剤ポリマー2を合成した。得られた粘着剤ポリマー2の溶液の不揮発分濃度は46.0%、Mwは23.3万であった。この粘着剤ポリマー2のTgは−60℃である。
【0108】
合成例7(粘着剤ポリマー3の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、マクロモノマー(E1)をマクロモノマー(E3)に変え、モノマー(A)として2EHA125.2部とBA20部、モノマー(B)として「MTG−A」240部、モノマー(C)として4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)14.8部、連鎖移動剤としてnDM0.5部用いたこと以外は、合成例5と同様にして粘着剤ポリマー3を合成した。得られた粘着剤ポリマー3の溶液の不揮発分濃度は45.9%、Mwは24.0万であった。この粘着剤ポリマー3のTgは−60℃である。
【0109】
合成例8(粘着剤ポリマー4の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、マクロモノマー(E1)をマクロモノマー(E4)に変更したこと以外は、合成例6と同様にして粘着剤ポリマー4を合成した。得られた粘着剤ポリマー4の溶液の不揮発分濃度は46.4%、Mwは26.2万であった。この粘着剤ポリマー4のTgは−60℃である。
【0110】
合成例9(粘着剤ポリマー5の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、マクロモノマー(E1)を不揮発分で120部、モノマー(A)として2EHA128部とBA20部、モノマー(B)として「MTG−A」240部、連鎖移動剤としてnDM0.6部を用いたこと以外は、合成例5と同様にして粘着剤ポリマー5を合成した。得られた粘着剤ポリマー5の溶液の不揮発分濃度は46.0%、Mwは14.5万であった。この粘着剤ポリマー5のTgは−56℃である。
【0111】
合成例10(粘着剤ポリマー6の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、モノマー(B)として「MTG−A」200部と「AM90G」(新中村化学社製;メトキシポリエチレングリコールアクリレート;式(2)において、R”、R、R’がいずれもH、R2はメチル基、nは9)40部を用いたこと以外は、合成例5と同様にして粘着剤ポリマー6を合成した。得られた粘着剤ポリマー6の溶液の不揮発分濃度は46.3%、Mwは13.5万であった。この粘着剤ポリマー6のTgは−54℃である。
【0112】
合成例11(粘着剤ポリマー7の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、モノマー(B)として「MTG−A」200部とヒドロキシポリエチレングリコール−3−メチル−3−ブテニル(式(1)において、R1が(ix)、R、R’、R2がいずれもH、nは10;HEGMB)40部を用いたこと以外は、合成例5と同様にして粘着剤ポリマー7を合成した。得られた粘着剤ポリマー7の溶液の不揮発分濃度は45.8%、Mwは12.8万であった。この粘着剤ポリマー7のTgは−54℃である。
【0113】
合成例12(粘着剤ポリマー8の合成)
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、マクロモノマー(E2)を不揮発分で120部、モノマー(A)として2EHA368部とBA20部、モノマー(B)はなし、連鎖移動剤としてnDM0.15部を用いたこと以外は、合成例9と同様にして粘着剤ポリマー8を合成した。得られた粘着剤ポリマー8の溶液の不揮発分濃度は46.6%、Mwは14.9万であった。この粘着剤ポリマー8のTgは−68℃である。
【0114】
合成例13(粘着剤ポリマー9の合成)
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに、モノマー(A)として2EHA208部とBA20部、モノマー(B)として「MTG−A」160部、モノマー(C)としてHEA12部を用い、連鎖移動剤としてnDM0.07部を用い、これらを酢酸エチル384部とよく混合して、添加した。マクロモノマー(E)は使用しなかった。撹拌下、窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を92℃まで上昇させ、重合開始剤として酢酸エチル0.9部で希釈した「ABN−E」0.1部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
【0115】
反応開始から1時間後、重合開始剤として酢酸エチル1.8部で希釈した「ABN−E」0.2部を添加した。反応が開始して3.5時間目から5時間目にかけて、ブースターとして、酢酸エチル7.2部で希釈した「ABN−V」(日本ファインケム社製;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.8部を4度に分割して添加した。その後、さらに78℃で2時間熟成した。得られた粘着剤ポリマー9の溶液の不揮発分濃度は48.9%、Mwは30.9万であった。この粘着剤ポリマー9のTgは−60℃である。
【0116】
合成例14(粘着剤ポリマー(混合物タイプ)10の調製)
粘着剤ポリマー9の不揮発分100部に対して、マクロモノマー(E3)の不揮発分を20部添加し、充分に撹拌したものを粘着剤ポリマー10とした。この粘着剤ポリマー10のTgは−60℃である。
【0117】
実験例
[特性評価]
各例におけるポリマー特性と、粘着剤ポリマー溶液を用いて特性評価を行った結果を、表1および表2に併記した。なお、特性評価方法は以下の通りである。
【0118】
[質量平均分子量(Mw)]
GPC測定装置として東ソー社製の「HLC−8220GPC」を用い、下記条件で測定し、ポリスチレン標準試料換算値をMwとした。
カラム:東ソー社製「TSKgel Super HZM−H」×3本
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.35ml/分
注入量:10μl/回
試料濃度:0.2%
【0119】
[粘着剤組成物の調製および粘着製品(試験テープ)の作製]
各合成例で得られた粘着剤ポリマー溶液について、酢酸エチルで不揮発分を34%に調製した。ポリマー100部当たり、架橋促進剤としてジブチル錫ジラウレート250ppm(質量基準)と、架橋剤として「デュラネート(登録商標)24A−100」(ヘキサメチレンジイソシアネートビュレット変性体;3官能;旭化成社製)を表に示した当量となるように加え、さらに、表に示した種類と量の金属塩化合物を加えて、全体をよく撹拌し、粘着剤組成物を得た。
【0120】
支持基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製;厚さ38μm)を用い、粘着剤組成物を乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布した後、100℃で2分間乾燥させることにより、粘着フィルムを作成した。粘着剤表面に離型処理を施したPETフィルムを貼着して保護した後、23℃の雰囲気下で1週間養生した。養生後の粘着フィルムは、23℃、相対湿度65%の雰囲気で24時間調湿した後、25mm幅で適当な長さに切断して、試験テープを作製した。なお、離型フィルムは試験を実施する際に引き剥がした。
【0121】
[剥離粘着力]
厚さ3mmのアクリル板(日本テストパネル株式会社製の標準試験板)に、23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、上記試験テープを2kgのゴムローラで1往復させて圧着する。圧着後24時間放置した後、剥離速度を、低速剥離では0.3m/min、高速剥離では30m/minとし、23℃の雰囲気下で、JIS K 6854に準じて180゜剥離粘着力を測定した。表には、高速剥離粘着力の評価結果、および、高速剥離粘着力を低速剥離粘着力で除した値(「高速/低速」として示した)の評価結果を併記した。
【0122】
評価基準は、高速剥離粘着力の場合、1.6N/25mm以下を○、1.6N/25mmを超えるものを×とした。「高速/低速」(剥離速度依存性)の場合、15以下を◎、15超18以下を○、18を超えるものを×とした。
【0123】
[なじみ性]
上記試験テープから、4cm×4cmのサイズの試験片を切り出す。凹凸高低差が5.7μm(レーザー顕微鏡:キーエンス社製「VK−9710」での測定値)である市販のアンチグレアタイプの液晶保護フィルム(BUFFALO社製;BOF−H141S)の粗面を被着体として用い、粗面が上に来るようにアンチグレアフィルムを平らな面の上に水平に置く。23℃、65%の相対湿度の雰囲気下で、試験片の一辺を端部から1〜2mm程度アンチグレアフィルムに貼り合わせてから、試験片をアンチグレアフィルムの上に静かに置く。試験片がフィルムに濡れ始めてから、試験片全体がフィルムに完全になじむまでの時間を測定する。なじみ性は、試験片全体が30秒以内になじむものを◎、30秒を超えるが60秒以内にはなじむものを○、60秒を超えるが120秒以内にはなじむものを△、なじむのに120秒を超えるものを×として評価した。
【0124】
[表面抵抗率(Ω)]
日置電機社製の「ディジタル超絶縁/微少電流計:DSM−8104」と、オプションの平板試料用電極「SME−8311」を用いて、粘着剤層の表面抵抗率を測定した。試料は、上記試験テープから5cm×5cmのサイズに切り出した。測定雰囲気は23℃、相対湿度65%とした。粘着剤層の表面抵抗率が1012Ω未満を◎、1012Ω以上1013Ω未満を○、1013Ω以上を×として評価した。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
本発明の実施例は、いずれも、高速剥離時の粘着力、高速/低速、なじみ性が良好であり、粘着特性がバランスよく優れていること、さらには表面抵抗率も低いことが確認できた。
【0128】
比較例1は、金属塩化合物を添加しなかったため、表面抵抗率が大きい。比較例2では、モノマー(B)としての「MTG−A」を共重合しなかったため、なじみ性と表面抵抗率が劣っていた。比較例3は、マクロモノマーが共重合されていないため、高Tgポリマー構造を有していない粘着剤ポリマーとなったため、高速剥離時の粘着力が大きく、高速/低速に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明で用いる粘着剤ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上のポリマー構造と、粘着特性やなじみ性を向上させ得るポリマー構造とを有する粘着剤ポリマーを用いたので、高速剥離性、低速での粘着力、被着体に対するなじみ性の全てに優れた粘着剤層を形成し得る再剥離用粘着剤組成物を提供することができた。また、金属塩化合物を配合したので、粘着剤層の帯電防止能も良好となった。従って、上記粘着剤組成物を用いて得られる粘着製品は、光学用偏光板(TAC)、位相差板、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等といった光学用部材の表面を保護するための再剥離用粘着製品として利用可能である。また、その他のプラスチックや金属板の表面の保護フィルムとしても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電防止能に優れた粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、
この溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成されている粘着製品を作製し、この粘着製品の23℃、相対湿度65%におけるアクリル板に対する180゜粘着力を測定したときに、30m/分の高速剥離で1.6N/25mm以下であり、高速剥離における粘着力を0.3m/分の低速剥離における粘着力で除した値が18.0以下となり、かつ、粘着剤層の表面抵抗率が1013Ω未満であることを特徴とする溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項2】
上記粘着製品から、4cm角の試料を切り出して、凹凸高低差が5〜6μmである表面を有する被着体上に載置したときに、上記試料の全面が上記被着体に対して濡れるまでの時間が60秒以下である請求項1に記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた粘着剤層が支持基材の少なくとも片面に形成されていることを特徴とする再剥離用粘着製品。
【請求項4】
光学部材用表面保護フィルムに用いるものである請求項3に記載の再剥離用粘着製品。

【公開番号】特開2011−52131(P2011−52131A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202847(P2009−202847)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】