説明

溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物

【課題】この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,溶剤希釈後に溶剤中の固体成分が短期間で沈降するのを防止し,潤滑性,耐久性等の各種の特性を向上させる。
【解決手段】この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,基油に少なくとも固形成分としての脂肪酸金属塩とフッ素樹脂との混合物を溶剤に分散させたものであり,基油として少なくともパーフルオロポリエーテル油を含んでいる。前記溶剤は, フッ素系溶剤,アルコール系溶剤,エーテル系溶剤,エステル系溶剤,炭化水素系溶剤から選択される。また,脂肪酸金属塩を構成する金属は,アルミニウム,カリウム,カルシウム,鉄,銅,ナトリウム,マグネシウム,リチウム等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,潤滑グリースの粘ちょう性が原因で摺動部等の相対移動部材の動作が重く即ち高抵抗になるような潤滑部位の部材に薄膜塗布して使用される溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,フッ素系潤滑剤に溶剤を加え,これを良く混合攪拌させたものである。これらの溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,給脂困難な機械装置の潤滑部位や潤滑が必要な部位の部材へ薄膜塗布して使用されているのが現状である。
【0003】
一般に,フッ素樹脂は,固体潤滑剤として機械装置の潤滑部位に給脂して幅広く使用されており,優れた潤滑性を有しているものである。また,フッ素油であるパーフルオロポリエーテルは,非常に優れた温度特性,部材に対する濡れ性,摺動部位に対する潤滑特性,低蒸気圧性等の各種の特性を有している。
【0004】
また,鋼板の表面に発生する錆の進行を抑制するため,鋼板の防錆剤が知られている。該鋼板の防錆剤は,フッ素系グリースを表面張力が弱く,濡れ性のよいフッ素系揮発性溶剤で溶かしたものである(例えば,特許文献1参照)。
【特許文献2】特開2005−344090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,従来の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,固体成分であるフッ素樹脂の密度が溶剤の密度より大きいため,フッ素樹脂を溶剤に希釈後に,フッ素樹脂の固体成分が短期間で沈降してしまうという難点があった。また,溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物について固体成分の沈降防止目的で分散性を改善するために,フッ素系界面活性剤が添加して用いられることが知られているが,このような溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,価格が非常に高くなることと,動物等の生物の発達障害及び生殖機能障害を引き起こす恐れがあり,これはフッ素系界面活性剤がパーフルオロオクタン酸に由来するものであると報告されており,価格の面や安全性の面から使用し難いものであり,問題がある。
【0006】
また,フッ素系潤滑剤としては,フッ素樹脂とパーフルオロポリエーテル油を組み合わせたフッ素系グリースが知られているが,両者とも化学的に安定で不活性なため,殆どの潤滑材料と排他的に作用し,特に,フッ素油は相手材との馴染み性が悪いために,潤滑部位に対して潤滑不良が生じる場合があった。
【0007】
この発明の目的は,フッ素樹脂の溶剤への希釈後に,フッ素樹脂の固体成分が短期間で沈降してしまう問題を解決することであり,機械装置等の潤滑部位の相手材との馴染みの悪さを改善してフッ素系潤滑剤の潤滑特性の長所を活かすことであり,優れた潤滑性,それによる機械装置の長寿命を可能にし,耐久性を向上させる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,基油に固体成分として少なくとも脂肪酸金属塩とフッ素樹脂とを混合した混合物を溶剤に分散させたことを特徴とする溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に関する。
【0009】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物において,前記基油は,少なくともパーフルオロポリエーテル油を含んでいるものである。
【0010】
また,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,前記固体成分を構成する前記混合物には,脂肪酸アマイドが含まれているものである。
【0011】
また,前記固体成分は,0.1質量%〜20質量%が前記溶剤に配合されている。更に,前記固体成分は,前記脂肪酸金属塩が5質量%〜95質量%であり,前記フッ素樹脂が残部の95質量%〜5質量%である。
【0012】
また,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物において,前記固体成分における前記脂肪酸金属塩を構成する金属は,アルミニウム,亜鉛,カリウム,カルシウム,ストロンチウム,チタン,鉄,銅,ナトリウム,バリウム,マグネシウム,リチウムから選択される少なくとも1種である。また,前記固体成分における前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は,炭素数が4〜22の飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である。
【0013】
また,前記脂肪酸金属塩について,前記飽和脂肪酸は酪酸,カプロン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸から選択される少なくとも1種であり,前記不飽和脂肪酸はオレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸から選択される少なくとも1種である。
【0014】
また,前記パーフルオロポリエーテル油は,0.1質量%〜40質量%が前記溶剤に配合されている。
【0015】
また,前記脂肪酸アマイドは,0.05質量%〜5質量%が前記溶剤に配合されている。更に,前記脂肪酸アマイドは,モノアマイド,置換アマイド,ビスアマイドから選択される少なくとも1種である。
【0016】
また,前記脂肪酸アマイドを構成する脂肪酸は,炭素数が4〜22の飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である。更に,前記脂肪酸アマイドについて,前記飽和脂肪酸は酪酸,カプロン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸から選択される少なくとも1種であり,前記不飽和脂肪酸はオレイン酸,エルカ酸,リノール酸,リノレン酸,ステアリドン酸から選択される少なくとも1種である。
【0017】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物において,前記溶剤は, フッ素系溶剤,アルコール系溶剤,エーテル系溶剤,エステル系溶剤,炭化水素系溶剤から選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0018】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,上記のように構成されており,固体潤滑剤として優れた特性を有するフッ素樹脂と,食品添加剤や潤滑グリースの増ちょう剤として汎用的に用いられる脂肪酸金属塩とを組み合わせた混合物を用いることにより,上記混合物の溶剤への希釈後に,溶剤中のフッ素樹脂が短期間で沈降することを防止することができる。また,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,固体成分として脂肪酸金属塩とフッ素樹脂とを組み含わせて用いることにより,それらの相乗効果により,脂肪酸金属塩単独又はフッ素樹脂単独では得られない良好な潤滑性,耐久性,機械装置に対する潤滑不良で発生する損傷を防止する等の各種の特性を向上させることができる。また,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,固体成分として,樹脂の潤滑剤として用いられる脂肪酸アマイドを添加することにより,潤滑性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明による溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,特に,基油として少なくともパーフルオロポリエーテル油を選定すると共に,少なくとも固体成分としての脂肪酸金属塩とフッ素樹脂を選定し,場合によっては,固体成分として脂肪酸アマイドを添加し,これらを溶剤中に分散させて作られている。パーフルオロポリエーテル油は,市販されているものであり,入手が可能な直鎖タイプ及び/又は側鎖タイプを用いることができる。これらのパーフルオロポリエーテル油は,粘度の違い等を有するという各種のものが存在するが,これらを単独/又は組み合わせて用いることができるものであり,パーフルオロポリエーテル油の種類を使用用途によって使い分けることが望ましいものである。また,脂肪酸アマイドは,モノアマイド,置換アマイド,ビスアマイド等の各種のものが存在し,脂肪酸アマイドを構成する脂肪酸も各種のものが存在するものであり,脂肪酸アマイドとしてはこれらのものの単独又は組み合わせて用いることができるものである。
【0020】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,基油としてのパーフルオロポリエーテル油の所定量と,少なくとも固体成分としてフッ素樹脂と脂肪酸金属塩との所定量を,使用用途によっては,脂肪酸アマイドの所定量を,予め決められた所定の溶剤に良好に分散させて適正に作ることができるものであって,具体的には,固体成分を0.1質量%〜20質量%,脂肪酸アマイドを添加する場合には脂肪酸アマイドを0.05質量%〜5質量%,及びパーフルオロポリエーテル油を0.1質量%〜40質量%の割合で溶剤に分散させることにより,所望の特性,即ち,優れた分散性と潤滑性能を得ることができる。また,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,使用目的に合わせて,溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物自体を適正な濃度にすることができるものであり,以下のように調整して作製することができる。
【0021】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物について,脂肪酸金属塩とフッ素樹脂の固体成分が溶剤に対して0.1質量%未満の場合には,潤滑性,及び耐久性の要求を満たすことが難しいことが分かった。そこで,上記固体潤滑剤と溶剤との混合比を適宜変えることにより,溶剤揮発後に残った状態によってグリース状潤滑剤,半乾燥潤滑剤,又は乾燥潤滑剤のものとしての各種の用途を満たすことができるように作製できる。また,パーフルオロポリエーテル油が溶剤に対して0.1質量%未満の場合には,上記固体成分の場合と同様に,潤滑性,及び耐久性の要求を満たすことが難しいことが分かった。
【0022】
また,脂肪酸金属塩とフッ素樹脂の固体成分が溶剤に対して20質量%以上の場合には,溶剤希釈型潤滑剤としての利点を十分に発揮させることができないことが分かった。
また,パーフルオロポリエーテル油が溶剤に対して40質量%以上の場合には,溶剤希釈型グリースとしての利点を十分に発揮させることができないことが分かった。
上記のことより,固体潤滑剤とパーフルオロポリエーテル油との合計が,基油に対して60質量%以上の場合には,溶剤希釈型グリースとしての利点を十分に発揮させることができないものである。
従って,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,フッ素樹脂と脂肪酸金属塩との固体成分を0.1質量%〜20質量%の割合で溶剤に分散させ,また,パーフルオロポリエーテル油を0.1質量%〜40質量%の割合で溶剤に分散させることにより,所望の特性,即ち,優れた分散性と潤滑性能を得ることができる。
【0023】
また,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物について,固体潤滑剤の構成成分である脂肪酸金属塩とフッ素樹脂との比率を変えることにより,溶剤中での沈降度合いを適正にコントロールすることができるものであり,固体潤滑剤は,脂肪酸金属塩が5質量%〜95質量%とフッ素樹脂が残部の95質量%〜5質量%との混合物で構成することが望ましい。フッ素樹脂が脂肪酸金属塩に対して95質量%以上である場合には,分散性の改善に効果が見られない。また,フッ素樹脂が脂肪酸金属塩に対して5質量%以下である場合には,上記95質量%以上である場合と同様に,分散性の改善に効果が見られなかった。
【0024】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物において,脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸と脂肪酸アマイドを構成する脂肪酸は,炭素数が4以上,好ましくは,炭素数が4〜22の飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,及びそれらの誘導体の少なくとも1つからそれぞれ構成されるものが用いられる。また,固体成分として脂肪酸アマイドを添加する場合には,脂肪酸アマイドは,モノアマイド,置換アマイド,ビスアマイドから選択される少なくとも1種が使用される。
【0025】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物について,液体成分であるパーフルオロポリエーテル油は,直鎖タイプ及び/又は側鎖タイプを用いることができる。これらの液体成分としてのパーフルオロポリエーテル油は,各種のものが存在するが,単独のもの及び/又は混合したものが用いられ,使用用途によって使い分けすることが好ましい。
【0026】
また,脂肪酸金属塩を構成する金属は,典型金属及び/又は遷移金属,具体的には,アルミニウム,亜鉛,カリウム,カルシウム,ストロンチウム,チタン,鉄,銅,ナトリウム,バリウム,マグネシウム,リチウム等が単独又はこれらの2種以上を混合して用いられる。また,金属塩を形成する飽和脂肪酸としては,例えば,酪酸,カプロン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸等が用いられる。また,不飽和脂肪酸としては,例えば,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸等が用いられる。これらの飽和又は不飽和の脂肪酸は,単独又は2種以上を混合して用いられる。更に,前記脂肪酸アマイドについて,前記飽和脂肪酸は,酪酸,カプロン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸から選択される少なくとも1種であり,また,前記不飽和脂肪酸はオレイン酸,エルカ酸,リノール酸,リノレン酸,ステアリドン酸から選択される少なくとも1種である。
【0027】
フッ素樹脂としては,固体潤滑剤として用いられているポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE),ポリビニリデンフルオライド(PVDF),ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が単独又は2種以上混合して用いられる。フッ素樹脂は,上記のものを使用用途によって選定し,それぞれ適正な分子量や粒径を変えて使用することができる。
【0028】
溶剤としては,種々の溶剤を用いることができるが,好ましくは,フッ素系溶剤,アルコール系溶剤,エーテル系溶剤,エステル系溶剤,炭化水素系溶剤等が,単独又はこれらの2種以上を混合して用いることができる。また,溶剤としては,引火性が無く,速やかに揮発するフッ素系溶剤を単独又は他の溶剤と混合して用いることもできる。
【0029】
フッ素系溶剤としては,地球温暖化係数が小さく,オゾン破壊係数がゼロであるハイドロフルオロエーテル(HFE),ハイドロフルオロカーボン(HFC),パーフルオロカーボン(PFC)等が単独又は2種以上を混合して用いることが環境破壊等が発生せず,好ましいものである。
【0030】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,一般的に使用されている脂肪酸金属塩とフッ素樹脂とを同時に用いることにより,溶剤中でのフッ素樹脂の沈降を遅延し得ることを確認し,本発明を完成させることができた。この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,上記のような新規な目的及び構成により,特に,脂肪酸金属塩とフッ素樹脂とを混合して使用することにより,動物等の生物の発達障害及び生殖障害を引き起こす恐れがなくなり,且つ高価なフッ素系界面活性剤を使用することなく安価に製造することができ,従来の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の性能を維持しつつ,フッ素樹脂の沈降を遅延させる効果を発現すると共に,潤滑性や耐久性を向上させることができた。
【0031】
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,脂肪酸アマイドを用いる場合には,例えば,次のようにして調製される。(a)液体成分であるパーフルオロポリエーテル油に固体成分の脂肪酸金属塩,フッ素樹脂,及び脂肪酸アマイドを所定量添加し,適当な装置による混練及びミーリングした後,所定量の溶剤を加え,再度,混練及びミーリングを行う方法,或いは(b)加熱攪拌が可能な反応釜に,液体成分であるパーフルオロポリエーテル油とフッ素樹脂及び脂肪酸とを加えて加熱溶解させ,そこに金属水酸化物を所定量添加してケン化反応(金属塩化反応)させ,これを冷却した後に,脂肪酸アマイドを所定量添加し,適当な装置による混練及びミーリングした後,所定量の溶剤を加え,再度,混練及びミーリングを行う方法がある。
【0032】
以下,この発明による溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の具体的な実施例を挙げて説明する。
まず,この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物として実施例1,実施例2及び実施例3を調製し,これに対し,比較例1及び比較例2を調製した。
液体成分として,AとBを使用した。
A:Rf[(OCF(CF3 )CF2 )n(OCF2 )m]ORf
Aの動粘度は40℃で345cStである。
但し,Rf:F又はパーフルオロメチル基(CF3 )である。
固体潤滑剤として,B,C,及びDを使用した。
B:12ヒドロキシステアリン酸リチウム
C:ステアリン酸モノアルミニウム
D:懸濁重合ポリテトラフルオロエチレン
Dの分子量は数十万であり,平均粒子径は2〜4μmである。
脂肪酸アマイドとして,E,及びFを使用した。
E:エルカ酸モノアマイド
F:ステアリン酸モノアマイド
溶剤として,G,及びHを使用した。
G:ハイドロフルオロエーテル
Gの沸点は78℃,液密度1.43g/mlである。
H:ハイドロフルオロカーボン
Hの沸点は55℃,液密度1.58g/mlである。
【0033】
上記の液体潤滑剤A,固体潤滑剤B,C,及びD,脂肪酸アマイドE,及びF,並びに溶剤G,及びHを組み合わせて,溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物についての実施例1,実施例2,実施例3,比較例1,及び比較例2を調製した。単位の%は,いずれも質量%である。
【0034】
−実施例1−
実施例1として,液体成分:A(1.0%),固体成分:B(0.1%),D(0.1%),脂肪酸アマイド:E(0.1%),及び溶剤:G(98.7%)から溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を調製した。
【0035】
−実施例2−
実施例2として,液体成分:A(3.5%),固体成分:C(0.25%),D(1.0%),脂肪酸アマイド:E(0.25%),及び溶剤:H(95.0%)から溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を調製した。
【0036】
−実施例3−
実施例3として,液体成分:A(32.5%),固体成分:B(1.0%),D(13.0%),脂肪酸アマイド:F(2.5%),及び溶剤:G(50.0%)から溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を調製した。
【0037】
−比較例1−
比較例1として,液体成分:A(1.0%),固体成分:D(0.2%),及び溶剤:G(98.8%)から溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を調製した。
【0038】
−比較例2−
比較例2として,液体成分:A(3.3%),固体成分:D(1.7%),及び溶剤:H(95.0%)から溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を調製した。
【0039】
実施例1〜3,比較例1,2について,下記の各種の試験方法によってそれぞれの評価をした。
1.分散性を確認する沈降試験としては,次のとおりである。
高さ120mm,幅40mmのスクリューキャップ付きガラス瓶に,各試料
100gを入れ,沈降状態を測定した。
2.相手材に対する耐摩擦特性評価試験としては,次のとおりである。
シェル4球試験機を用いて,試験片:SUJ2(1/2インチ),28等級,
回転数:50回/分,荷重:98N,温度:室温,時間:5分間の条件の下で
摩擦特性試験を行い,摩擦係数を測定した。
この摩擦特性試験で使用したシェル4球試験機は,摩擦係数が予め決められた上限設定値を越えると,自動的に運転が停止するように設定されている。摩擦係数の上限設定値は変更可能である。また,シェル4球試験機は,正常な状態での運転時間は予め決められた時間に設定されている。運転時間は適正に変更可能である。この摩擦特性試験では,摩擦係数の上限設定値は0.5であり,また,運転時間は5分間に設定されている。
【0040】
実施例1〜3,及び比較例1,2に対する各種の試験結果は,次のとおりであった。
1.実施例1の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,沈降状態が不均一であるが,溶剤全体に分散状態を維持していた。摩擦特性は,摩擦係数上限異常にて1分50秒でシェル4球試験機を停止した。即ち,耐摩擦特性評価試験において,運転開始より1分50秒で摩擦係数が予め設定した上限設定値0.5を越えたため,リミッターが作動してシェル4球試験機の運転が自動的に停止した。
2.実施例2の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,沈降状態がやや不均一であるが,溶剤全体に分散状態を維持していた。摩擦特性は,5分間異常がなかった。
3.実施例3の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,沈降状態が溶剤全体に分散状態を維持していた。摩擦特性は,5分間異常がなかった。
4.比較例1の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,沈降状態が30分で固体成分が全て沈降した。摩擦係数は,摩擦係数上限異常にて45秒でシェル4球試験機を停止した。 5.比較例2の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,沈降状態が10分で固体成分が全て沈降した。摩擦係数は,5分間異常がなかった。
上記の試験結果から,実施例1,2,3は,分散性及び摩擦特性についてそれぞれ良好であった。これに対して,比較例1は,分散性及び摩擦特性について十分に降下があるものとは言えず,また,比較例2は,摩擦係数では効果があったものの,分散性について効果が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明による溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は,例えば,潤滑グリースの粘ちょう性が原因で動作が重くなってしまう精密部品等の摺動部や潤滑グリースが給脂困難な相対移動部材間を潤滑するために使用して有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に固体成分として少なくとも脂肪酸金属塩とフッ素樹脂とを混合した混合物を溶剤に分散させたことを特徴とする溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記基油は,少なくともパーフルオロポリエーテル油を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記固体成分を構成する前記混合物には,脂肪酸アマイドが含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記固体成分は,0.1質量%〜20質量%が前記溶剤に配合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記固体成分は,前記脂肪酸金属塩が5質量%〜95質量%であり,前記フッ素樹脂が残部の95質量%〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記固体成分における前記脂肪酸金属塩を構成する金属は,アルミニウム,亜鉛,カリウム,カルシウム,ストロンチウム,チタン,鉄,銅,ナトリウム,バリウム,マグネシウム,リチウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記固体成分における前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は,炭素数が4〜22の飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩について,前記飽和脂肪酸は酪酸,カプロン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸から選択される少なくとも1種であり,前記不飽和脂肪酸はオレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記パーフルオロポリエーテル油は,0.1質量%〜40質量%が前記溶剤に配合されていることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記脂肪酸アマイドは,0.05質量%〜5質量%が前記溶剤に配合されていることを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記脂肪酸アマイドは,モノアマイド,置換アマイド,ビスアマイドから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜10のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項12】
前記脂肪酸アマイドを構成する脂肪酸は,炭素数が4〜22の飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜11のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項13】
前記脂肪酸アマイドについて,前記飽和脂肪酸は酪酸,カプロン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸から選択される少なくとも1種であり,前記不飽和脂肪酸はオレイン酸,エルカ酸,リノール酸,リノレン酸,ステアリドン酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項12に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記溶剤は, フッ素系溶剤,アルコール系溶剤,エーテル系溶剤,エステル系溶剤,炭化水素系溶剤から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2007−217511(P2007−217511A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38324(P2006−38324)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(390022275)株式会社日本礦油 (25)
【Fターム(参考)】