溶存カルシウムの濃度変化の把握方法
【課題】強制的に起こさせたpH等の液性の変動に基づいて、溶存カルシウムの濃度変化の指標とする。
【解決手段】被処理液の溶存カルシウムを二酸化炭素の曝気により除去するに際して、所定のpH範囲で、アルカリ添加、アルカリ添加の停止を行い、被処理液の溶液pHを強制的に上下させる。その際のpHの下降時間をステップS100でチェックし、ステップS200あるいはステップS300で、二酸化炭素による曝気処理を適正に制御し、的確な停止判断を行う。
【解決手段】被処理液の溶存カルシウムを二酸化炭素の曝気により除去するに際して、所定のpH範囲で、アルカリ添加、アルカリ添加の停止を行い、被処理液の溶液pHを強制的に上下させる。その際のpHの下降時間をステップS100でチェックし、ステップS200あるいはステップS300で、二酸化炭素による曝気処理を適正に制御し、的確な停止判断を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶存カルシウムの濃度変化の把握技術に関し、特に、溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気による除去に際しての曝気終了時等の判定に有効に適用できる技術である。
【背景技術】
【0002】
最終処分場の浸出水等ではカルシウムを多く含んだ排水を処理するにあたって、前工程でカルシウム除去が確実に行われていることが求められる。その後の水処理においてスケールによる膜の劣化や、機器の損傷といった重大な故障が引き起こされる危険性があるためである。
【0003】
しかし、現在の水処理においては、処理液中のカルシウム濃度の変化を連続的にモニタリングする技術はなく、カルシウム除去用の炭酸ナトリウム等の薬剤の設定量に安全率をかけた過剰量を添加して、ある程度のカルシウムの濃度変化に対しても確実に溶存カルシウムの除去が行えるように備えているのが現状である。
【0004】
かかる従来手法では、溶存カルシウムの濃度変化をモニタリングしている訳ではないため、想定外のカルシウム濃度の変化には対応することができない。そのため、トラブル発生時の対応の遅れや、過剰の薬剤添加による塩濃度の上昇等の問題が生ずることとなる。
【0005】
本発明者は、先に特許文献1において、pHの変動幅を追跡することで、溶存カルシウムの濃度をある程度正確に把握できる技術を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−161224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二酸化炭素の曝気により溶存カルシウムの除去を行うに際して、処理液中のカルシウム濃度の変化をモニタリングする技術としては、特許文献1に開示のpHの変動幅を利用する手法がある。この変動幅を利用する手法は、カルシウム濃度に対して感度良くその変化を捉えることができる。
【0008】
しかし、曝気処理の成り行きに任せる手法であるため、機器の性能やノイズ等の影響を除外し難いという問題があった。
【0009】
そこで、本発明者は、pHの変動を強制的に起こさせることで、かかる影響の少ない溶存カルシウムのモニタリングが行えないかと考えた。
【0010】
本発明の目的は、強制的に起こさせたpH等の液性の変動に基づいて、溶存カルシウムの濃度変化を把握することにある。
【0011】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0013】
本発明は溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、溶存カルシウムの濃度変化を、液性の変化で知ることを特徴とする。かかる構成において、前記液性の変化とは、液性の時間変化であることを特徴とする。あるいは、前記液性の変化とは、液性の速度変化であることを特徴とする。かかる構成を用いることで、溶液中の溶存カルシウムを二酸化炭素で曝気して除去する場合の曝気終点の判断を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明は溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、溶存カルシウムの濃度変化を、pHの変化で知ることを特徴とする。かかる構成において、前記pHの変化とは、pHの時間変化であることを特徴とする。前記pHの時間変化における時間とは、pHの所定範囲における上昇時間、あるいはpHの所定範囲における下降時間であることを特徴とする。あるいは、前記構成において、前記pHの変化とは、pHの速度変化であることを特徴とする。前記pHの速度変化における速度とは、pHの所定範囲におけるpHの変化量を、前記変化量を達成するに要した時間で除したものであることを特徴とする。
【0015】
以上の構成において、前記pHの所定範囲とは、pHが8.5以上、9.5以下の範囲であることを特徴とする。前記構成において、前記液性は、溶液の水素イオン濃度、あるいは水酸イオン濃度、あるいはpOHであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
本発明では、所定範囲のpH等の液性を、人為的に変化させて追跡することで、溶存カルシウムの濃度変化をモニタリングして把握することができる。これによって、例えば、二酸化炭素の曝気による溶存カルシウムの除去における曝気終点の判断が容易に行える。
【0018】
また、溶存カルシウムの濃度変化をリアルタイムで追うことができるため、適切な曝気が行え、無駄なアルカリの添加を防ぐことができる。本発明により効率的なカルシウム除去を行うことができる。
【0019】
本発明では、人為的にpH等の液性を強制的に変化させるので、変動における機器等の影響も除外しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態の高低制御を行った場合の溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気によるバッチ処理での様子を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態の高低制御を行った場合の溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気による連続処理での様子を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態のバッチ処理でのpH下降時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH下降時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態におけるpH下降時間とICとの相関を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態の溶存カルシウムの二酸化炭素による曝気処理におけるpH下降時間を指標とする場合のフロー図である。
【図7】本発明の一実施の形態のバッチ処理でのpH上昇時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH上昇時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態におけるpH上昇時間とICとの相関を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態のpH下降時間とpH上昇時間との相関を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH下降速度移動平均(30分移動平均)の推移と溶存カルシウムとの関係を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH下降速度移動平均(5分移動平均)と溶存カルシウムとの関係を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態のpH下降速度と溶存カルシウムの濃度との相関を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施の形態のpH下降速度移動平均を溶存カルシウムとの関係で示した説明図である。
【図15】本発明の一実施の形態の連続処理におけるpH上昇速度の推移を溶存カルシウムの濃度との関係で示した説明図である。
【図16】本発明の一実施の形態のpH上昇速度と溶存カルシウムの濃度との相関を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明は、溶存カルシウムの濃度の変化を把握するに際して、その液性の変化を指標とするものである。かかる指標を用いることで、溶存カルシウムの濃度、濃度変化等を知ることができる。
【0023】
液性としては、例えば、pH(水素イオン濃度指数)を使用することができる。あるいは、水素イオン濃度([H+])、pOH(水酸イオン濃度指数)、水酸イオン濃度([OH−])等の液性を用いても構わない。以下の説明では、液性としてpHを例に挙げて説明する。
【0024】
本発明では、所定範囲のpH範囲で、pHを意図的に強制的に上下させて、その変動状況をモニタリングすることで、溶存カルシウムの濃度変化を知るものである。かかるpH範囲としては、例えば、8.5以上、9.5以下に設定すればよい。かかる範囲の設定では、その下限は炭酸イオンの存在比が8.5付近から増加するという理由に基づき、その上限はアルカリの過剰添加を防ぐという理由に基づきそれぞれ設定した。
【0025】
本発明では、上記所定のpH範囲でpHを上下させるが、pHの上昇には、アルカリ添加で行う。かかるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。また、エコアルカリ等の再生アルカリの使用も挙げられる。pHの下降には、二酸化炭素の曝気で行えばよい。曝気に使用することができる二酸化炭素は、例えば0.5%以上、100%以内の範囲の濃度である。この二酸化炭素源としては、ボイラやエンジン等の燃焼機関の排ガス、ごみ焼却場等の施設の排ガス、埋立地等からの発生ガスといった二酸化炭素を含有するガスであれば本発明に利用することは可能である。また人為的に二酸化炭素と空気を混合したものであっても良い。
【0026】
(実施の形態1)
本実施の形態では、二酸化炭素を曝気することで、溶液内の溶存カルシウムを除去する場合を例に挙げて説明する。例えば、二酸化炭素の曝気により、廃液等の被処理液中の溶存カルシウムの濃度を、スケールが発生しない100mg/l以下に低減するに際して、曝気を効率的に行う場合に適用して有効である。
【0027】
図1は、二酸化炭素を曝気して溶存カルシウムを沈殿させて除去させるバッチ処理の系において、二酸化炭素と、アルカリとで、本発明の高低制御(High-Low 制御とも言う)をしている状況を示す説明図である。図2は、図1と同様に、連続処理における系での高低制御の様子を示す説明図である。図3は、バッチ処理の系におけるpH下降時間の推移を示す説明図である。図4は、連続処理の系におけるpH下降時間の推移を示す説明図である。図5は、pH下降時間と、溶液中のIC(Inorganic Carbon:無機炭素)濃度との関係を示す説明図である。図6は、本発明に係る溶存カルシウムの濃度変化の把握方法の手順を示すフロー図である。
【0028】
先ず、本発明の基礎となった実験事実について説明する。実験は、pHの所定範囲として、上記設定範囲の内、pH9.0以上、pH9.2以下の間で行った。かかるpHの範囲で、高低制御(High-Low 制御)を行いながら、1vol%のCO2(二酸化炭素、あるいは炭酸ガスとも言う)含有ガスを曝気しながら、カルシウム濃度1000ppmの溶液を処理した。曝気強度は、例えば、1.0vvmである。
【0029】
かかる処理では、溶存カルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させ、溶液内から所定量の溶存カルシウム除き、溶存カルシウムを所定値以下に抑えるものである。溶存カルシウムの目標濃度は、100mg/lに設定した。かかる100mg/lの値は、スケールが発生しない溶存カルシウム濃度として、実際の廃液処理等に採用されている実用的な数値である。しかし、上記数値は、あくまで例示の数値であり、本発明の適用は、例えば、溶存カルシウムが200mg/l以下の濃度範囲で定量可能なため、スケール防止のためのモニタリングに使用することができる。
【0030】
図1にはバッチ処理の系を、図2には連続処理の系をそれぞれ示した。図1に示すバッチ処理では、所定量の廃液等の被処理液を上記の如く二酸化炭素の曝気により沈殿処理し、その後にまた同容量の被処理液を入れ換えて別途処理するという回分処理である。一方、連続処理は、所定容量が維持される状態で、常に一定量の廃液等の被処理液が連続的に流入され、一定量の処理済液が連続的に排出されるように構成されているものである。
【0031】
尚、バッチ処理の系、連続処理の系では、例えば、被処理液の液量2リッターで行ったが、曝気自体が溶液の攪拌を伴うものであるため、特段、溶液内の攪拌は行わなかった。
勿論、実際の処理に際しては、かかる溶液内の攪拌を行うようにしても一向に構わない。
【0032】
カルシウム濃度は、図1に示すように、曝気開始後120分前後で目標値である100mg/l以下に推移した。かかる系での高低制御は、二酸化炭素の曝気によりpHが9.0に下がった時点でアルカリ添加によりpHを9.2に引き上げ、pHが9.2になった時点でアルカリ添加を止めるという手法を用いた。勿論、かかるアルカリの添加、添加停止の間を含めて、二酸化炭素の曝気は連続して行われている。
【0033】
このようにして、所定のpH範囲で、例えばpHが9.0、あるいは9.2になった時点で、アルカリ添加、アルカリ添加の停止を行い、強制的にpHの変動を起こさせている。但し、pHの変化は、厳密には溶液の攪拌状況により溶液内のpHが均一になるまで多少の時間がかかる。そのため、測定したpHに対して均一になった時点での溶液pHとは若干の相違が発生する。そのため、図1では、pH9.0以下、9.2以上に幅が出る結果となっている。
【0034】
図1に示すように、溶液のpHは正確に9.0、9.2で推移を繰り返している訳ではないが、しかし、高低制御としてはpHが9.0になった時点でアルカリ添加を行い、pHが9.2になった時点でアルカリ添加を停止するものである。
【0035】
かかる高低制御を行っている場合でも、溶存カルシウムは、曝気する二酸化炭素により効果的に沈殿除去されることが、図1から確認される。スケールの発生防止が図れる目標値の100mg/l以下にまで、溶存カルシウムの除去が行えることで分かった。
【0036】
かかる傾向は、図2に示すように、連続処理の系でも確認された。溶存カルシウムは、曝気開始後2時間を少し経過した時点で100mg/l以下に推移した。但し、かかる連続処理では、7.2時間経過したところで、水理学的滞留時間(HRT:Hydraulic Residence Time)を2.7時間から3.6時間に、Ca負荷を変化させる目的のために設定変更した。そのため、図2では、7.2時間を境に、カルシウム濃度の減少、IC(Inorganic Carbon)濃度の増加が起きている。
【0037】
本発明では、上記の如く、かかる高低制御をしていても、有効に二酸化炭素の曝気により溶存カルシウムの除去が行える旨の有効性を確認した。その上で、高低制御により得られるpHの上下変動において、そのpHの下降時間を用いて、溶存カルシウムの濃度変化の把握、溶存カルシウムの曝気処理における終点判断を行う場合について以下説明する。
【0038】
pH下降時間とは、高低制御でpHが上下動している際に、pHが減少し始めてから、pHが増大し始めるまでの時間のことを意味するものと定義する。
【0039】
かかるpH下降時間は、次の反応式によって制御されていると考えられる。
【0040】
CO2+H2O → CO32−+2H+ (もしくは、HCO3−+H+)
CO32−+Ca2+ → CaCO3
このように二酸化炭素が溶解することにより放出されるH+により、pHの下降は生じる。カルシウム濃度が高いと平衡が右向きに進み易くなるため、H+の放出量も多くなる。そのため、カルシウム濃度が高いとpHの下降時間は短くなり、カルシウム濃度が低いと下降時間は長くなるといった変化を示す。すなわち、pHの下降時間を追跡することで、溶存カルシウムの濃度変化をモニタリングしてその把握をすることができるのである。
【0041】
また、かかる高低制御を行った場合の溶液のIC濃度(生成されたCO32−、HCO3−)の変化は、バッチ処理の系では、図3に示すようになる。かかる傾向は、ほぼ溶液内のIC濃度と連動していることが、図3から分かる。因に、IC濃度の測定は、一定時間毎にサンプリングして行ったものである。
【0042】
溶液内の溶存カルシウム濃度が当初高い場合には、CO2の曝気により溶解したIC(CO32−、HCO3−)は直ちに消費されるためICは、ほぼ一定値で推移することとなる。
【0043】
かかる状態は、CO2の曝気が足りていない状態で、CO2を曝気し続けることにより、徐々にCO2が足りて過剰になってくる。それに併せて、溶液内のIC濃度、pHの下降時間も増加することとなる。図3に示す場合は、安全率を見て、ICで300mg/l程度までCO2を曝気した状態を示している。
【0044】
このように、溶液内のIC濃度の変化も、pHの下降時間を追跡することで確認することができる。さらには、溶液内のIC濃度を追跡することで、溶存カルシウムの濃度変化を把握することができるとも言える。
【0045】
また、連続処理の場合も溶液内のIC濃度は、図4に示すように、pHの下降時間とほぼ同じ傾向を示すことが確認される。但し、図4に示す場合には、連続処理開始の場合を想定して再現できるように、当初の被処理液をバッチ処理である程度溶存カルシウムを除去しておいて、その状態から曝気を開始し、その後被処理液を流入させるようにして行ったものである。
【0046】
そのため、当初の溶存カルシウム濃度はある程度落とされているため、曝気処理によるH+の放出は比較的にゆっくりと行われ、それに合わせてpHの下降時間は長めである。その後、被処理液を流入させることで、溶存カルシウムの濃度が増え、それに併せて曝気処理によるH+は速くに消費され、pHの下降時間はほぼ一定の値を示すこととなる。
【0047】
IC濃度も、上記傾向に合わせて、図4のように、推移している。図4では、7.2時間まではHRTを2.7時間として設定して行った。その後、先に記載したと同様の理由で、HRTを3.6時間に変更して、曝気によるCO2が少し過剰になるように加えて、確実に溶存カルシウムを除去するようにした。
【0048】
このように、pHの下降時間は、溶液中のIC濃度の変化とほぼ同じ推移を示すことが本発明において初めて明らかにされた。かかる点は、前記反応式で、カルシウム濃度が高い場合には、生成されたIC(CO32−、HCO3−)が直ちに消費され、そのために、IC濃度は一定値で推移していると説明することができる。併せて、pHの下降時間も、そのカルシウムとICとの反応によってH+の放出が進むため、pH下降時間はある一定値より速くはならないと言える。
【0049】
逆に、カルシウム濃度が低い場合、ICが余ってくるにつれて、H+放出量が少なくなってくるため、pH下降時間も長くなってくる。
【0050】
かかるpH下降時間と、ICとの相関を、図5に示した。良好な相関を示すことが、明らかとなった。相関直線としては、y=0.8727x+54.72と示される。
【0051】
このように、IC濃度は、溶液中の溶存カルシウムの濃度傾向を反映した逆の傾向を示すので、ICの度の変化をpH下降時間を使ってモニタリングすることで、間接的に、溶存カルシウムの濃度の変動状況をモニタリングすることができるとも言える。このようにして、二酸化炭素の曝気処理による状況の監視が可能となる。
【0052】
かかる監視に際しては、アルカリ添加を適量添加するための制御指標として、IC濃度を100mg/l以上、300mg/l以下を適正範囲として設定した場合について示す。かかる範囲で、pHの下降時間を、30秒以上、300秒以内と設定すればよい。より好ましくは、100秒以上、200秒以内と設定して、曝気の終点判断を行えばよい。
【0053】
曝気停止時間は、
停止時間=HRT/{(原水のCa濃度/処理水のCa濃度の上限値)×安全率}
で計算することができる。
【0054】
図6に、pH降下時間を用いて曝気の終点を判断する場合についての手順を、フロー図として示す。
【0055】
図6に示すように、ステップS100で、実際の廃液等の被処理液のpH下降時間をチエックする。かかるpHの下降時間とは、pHが上がってから下がるのを一つの単位として、その単位におけるpHの下降時間である。例えば、複数の単位でのpHの下降時間の平均をとればよい。
【0056】
かかるpHの下降時間の設定は、ステップS100に先立つステップS001で、実際に適用する場合の被処理液を所定量サンプリングして、そこで実際に使用するガス濃度に調節したCO2ガスを用いて、実験室規模で試験を予め行って決定する。使用するCO2ガス流量と、対象とする被処理液のpH下降時間を定義する。
【0057】
仮に、図6に示すように、ステップS001で、pH下降時間を100秒以上、200秒以内を適正な曝気終点とした場合には、ステップS100で実際に測定したpHの下降時間が、ステップS200で示すように200秒を越える場合には、ICが余りの状態、すなわちCO2の曝気が過剰と判断できる。
【0058】
曝気を即、停止させる処置をとる。曝気終点に達していると判断する。例えば、バッチ処理では、バッチ処理が完了したと判断する。また、連続処理の場合には、一定時間曝気を停止させ、その後に曝気を再開して、溶存カルシウムを十分に除去する処置をとればよい。
【0059】
また、ステップS100で測定したpHの下降時間が、ステップS300に示すように、100秒未満の場合には、ICが不足の状態、すなわちCO2の曝気不十分と判断することができる。この場合には、図6に示すように、溶存カルシウムが十分に除去されていない状態であるため、例えば、担当者に、アラームを発する等して、機器点検、あるいはカルシウム濃度計測等の再点検を行いつつ、それが正常に作動していることを確認した上で、CO2の曝気を続ければよい。
【0060】
このように、廃液等の被処理液中の溶存カルシウムを二酸化炭素の曝気により除去する際の曝気終点の判断に、本発明は有効に使用することができる。特に、スケールの発生を防止するために、溶存カルシウムの濃度が100mg/l程度の低濃度の場合における曝気終点の判断に有効に使用することができる。
【0061】
(実施の形態2)
本実施の形態では、前記実施の形態とは異なり、pHの上昇時間を用いて曝気終点を判断する場合について説明する。
【0062】
先ず、pHの上昇時間を用いることについて、その適正を実験により確認した。図7に示すように、前記実施の形態で述べた処理の仕方で、被処理溶液のバッチ処理を行った。実施の形態1では、pHの下降時間を用いたため、pHを上昇させる工程は特段その下降時間に影響を与えなかった。
【0063】
しかし、本実施の形態では、pHの上昇時間であるため、使用するアルカリにより大きく影響を受けることとなる。そこで、使用するアルカリの種類、例えは一酸塩基、あるいは二酸塩基等の種類を特定する必要がある。また、かかるアルカリの使用濃度も大きく影響する。そのため、使用アルカリの濃度を規定する必要もある。さらには、アルカリを添加する場合に使用するアルカリポンプの仕様をも決定する必要がある。
【0064】
図7に示す場合には、アルカリには水酸化ナトリウムを使用し、その濃度は10%を用いた場合を示す。図7では、前記実施の形態1で述べた図3で示すように溶存カルシウムが多い場合には、pHの下降速度が早かったが、かかる早いpHの下降をアルカリ添加で戻すpHの上昇時間も当然にH+濃度が高いために速くなる。また、十分に溶存カルシウが除去された状態では、H+の濃度はそれほど高くないため、それに併せてアルカリ添加によるpHの上昇時間も遅くなるという傾向を示す。
【0065】
図8には、連続処理の場合を示している。かかる場合も、上記説明と同様に、前記実施の形態の図4の説明と併せて、pHの下降時間が早い領域ではpHの上昇時間も速くなり、pHの下降時間が遅い領域ではpHの上昇時間も遅くなる傾向を示している。
【0066】
また、pHの上昇時間と、溶液内のIC濃度との関係も、前記実施の形態の場合と同様に、図9に示す如く、良い相関を示す。因に、相関直線は、y=0.0926x+12.836となる。
【0067】
さらには、前記実施の形態のpHの下降時間と、本実施の形態のpHの上昇時間との相関を調べた。その結果を、図10に示す。図10に示す如く、相関は極めてよく、y=0.116x+10.043となった。
【0068】
そこで、前記実施の形態の図6でも説明したように、ステップS001に相当する工程で、実際の被処理液のサンプルを用いて実験室規模で、pHの上昇時間の最適範囲を決定する。但し、かかる決定に際して、使用するアルカリの種類、濃度、またアルカリポンプの流量等の仕様を決めておく。
【0069】
その後、ステップS100に相当する工程で、実際の被処理液のpH上昇時間を測定する。その結果が、例えば、図7からも分かるように、ステップS200に相当する工程で、設定値の上限の50秒より大きい場合には過剰と判断し、曝気を停止する処置をとればよい。ステップS300に相当する工程で、下限値の10秒より小さい場合にはICが不足の状態と判断し、担当者への報告する処置をとればよい。
【0070】
(実施の形態3)
本実施の形態では、前記実施の形態1、2とは異なり、液性の変化として、pHの速度変化を指標とする場合について説明する。すなわち、pHの下降速度、あるいはpHの上昇速度を指標とする場合について述べる。
【0071】
pHの速度変化は、pHの変移量(下降量、あるいは上昇量)を、その変移に要した時間で除したものと定義することができる。そこで、pHの下降速度は、pHの下降量を、その下降に要した時間で除したものと定義する。また、同様に、pHの上昇速度とは、pHの上昇量を、その上昇に要した時間で除したものと定義する。
【0072】
例えば、pHの下降速度を用いる場合には、下降速度の測定は、測定時点より以前の所定の時間範囲における複数の測定ポイントでのそれぞれの下降速度の相加平均として算出すればよい。平均の算出方法は、種々あるが、本発明では、pHの下降速度は、測定時点での過去の所定範囲時間における複数の測定ポイントの平均として求めるのが最適である。
【0073】
例えば、測定時間Nより以前の所定時間の範囲内に、n個の測定ポイントがあるとする。その場合には、測定時間Nでの下降時間は、1〜nのn個の測定ポイントで実測した下降時間である。次の測定時間N+1での下降時間は、2〜n+1のn個の測定ポイントでの下降時間の実測値である。
【0074】
一方、pHの下降量は、例えば、pHが9.2から9.0の範囲で高低制御を行う場合には、pHの下降量、すなわちΔpHは9.2から9.0を差し引いた0.2となる。かかるpHの下降量であるΔpHを、ΔpH変化するのに要した上記pHの下降時間で除すことでpHの下降速度の算出が行える。
【0075】
すなわち、測定時間NでのpHの下降速度は、1〜nで測定した各々の実測時間に対応する各々のΔpHを除した値であるn個のそれぞれのpH下降速度の総和を、nで除した平均値として算出することができる。同様に、次の測定時間N+1の場合の下降時間は、2〜n+1のn個の測定ポイントでの下降時間の実測値で、各々に対応するΔpHを除したn個のそれぞれのpHの下降速度の総和を、nで除した平均値として算出すればよい。
【0076】
尚、かかる点を強調したい場合には、敢えて、pHの下降速度の移動平均という言葉を使用する場合がある。pHの上昇速度についても同様で、pHの上昇速度の移動平均という言葉を使用する場合もある。
【0077】
図11には、例えば、過去30分間のpHの下降速度の移動平均を、連続処理の系で測定した場合を示す。過去30分間のpHの下降速度の移動平均は、2秒毎の測定における平均である。図11に示すように、併せて表示した溶存カルシウムの推移と、下降速度の移動平均の推移とが良好な一致を示していることが分かる。
【0078】
図12には、過去5分間のpHの下降速度の移動平均の結果を示した。やはり、図11と同様に、過去5分間のpHの下降速度の移動平均も、溶存カルシウムの濃度推移を反映していると言える。
【0079】
実験により、pHの下降速度を曝気処理の指標として使用する場合には、過去5分以上、過去30分以内の時間範囲での移動平均を使用すればよいことが分かった。5分未満の時間設定では、迅速な対応ができはするが、しかしバラツキが大きくなり、判定がし難い。一方、30分より大きな時間設定では、上記とは異なりバラツキは小さいか、対応が遅くなる場合も考えられる。適正な時間としては、5分以上、30分以内である。
【0080】
pHの下降速度と溶存カルシウムの濃度との推移には、図13に示すような、良好な相関関係があることが確認された。因に、かかるpHの下降速度は、過去30分間の移動平均の値である。図13に示す相関直線は、y=7E−05x+0.0014であった。
ここでいう7E−05とは7.0×10−5を意味している。
【0081】
かかる過去30分間のpH下降時間の移動平均では、図14に示すように、溶存カルシウム濃度が200mg/l以下で、溶存カルシウムの推移を良い一致で表していると言える。
【0082】
このようにpHの下降速度が溶存カルシウムの濃度の推移と、良好な相関を示していることから、前記実施の形態1の図6のフロー図でも説明したと同様に、pHの下降速度を指標として用いることで、曝気処理の終点の判別を行うことができる。例えば、図6のフローのステップ001に想定する工程で、試料をサンプリングして、実験室規模で、曝気終点に相当するpHの下降速度を、例えば、0.001以上、0.009以下と決める。
【0083】
ステップS100に相当する工程で、実際の被処理液でのpH下降速度を測定する。この場合の下降速度は、例えば、過去30分間の移動平均を用いればよい。
【0084】
ステップS200に相当する工程で、設定値の下限の0.001より小さい場合には溶存カルシウムがほぼゼロでありICが過剰な状態と判断し、曝気を停止する処置をとればよい。ステップS300に相当する工程で、上限の0.009より大きい場合にはカルシウム濃度が100mg/l以上と判断し、担当者へ報告する処置をとればよい。
【0085】
図15には、pH上昇速度についての過去30分の移動平均と、溶存カルシウムの濃度状況とを対比して示した。かかる図15でも、pH上昇速度の過去30分の移動平均は、溶存カルシウムの濃度の推移の状況を十分に反映していると言える。
【0086】
pHの上昇速度と溶存カルシウムの濃度との推移には、図16に示すような、良好な相関関係があることが確認された。因に、かかるpHの上昇速度は、過去30分間の移動平均の値である。図16に示す相関直線は、y=0.0004x+0.0048であった。かかる結果から、pHの上昇速度を指標とすることでも、曝気処理の終点の判断が行えることは明らかである。
【0087】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0088】
前記実施の形態では、制御指標としてpHを用いる場合について説明したが、場合によっては、水素イオン濃度そのものを、あるいは、pOHを、あるいは水酸イオン濃度を用いても構わないことは言うまでもない。pH=−log[H+]、[H+]×[OH−]=10−14、pH+pOH=14等の関係式があるため、相互の換算は一義的に容易に決まるため、pHを制御指標に用いることは、水素イオン濃度、あるいはpOHを、あるいは水酸イオン濃度を制御指標として用いることと同じ意味合い有していることとなる。
【0089】
前記説明では、本発明のpHの下降時間、pHの上昇時間、pHの下降速度、pHの上昇速度を、それぞれ二酸化炭素の曝気による溶存カルシウムの処理に適用した場合を説明したが、それ以外にも、炭酸カルシウムの生成等でその適用が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気による除去の分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
S001 ステップ
S100 ステップ
S200 ステップ
S300 ステップ
【技術分野】
【0001】
本発明は溶存カルシウムの濃度変化の把握技術に関し、特に、溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気による除去に際しての曝気終了時等の判定に有効に適用できる技術である。
【背景技術】
【0002】
最終処分場の浸出水等ではカルシウムを多く含んだ排水を処理するにあたって、前工程でカルシウム除去が確実に行われていることが求められる。その後の水処理においてスケールによる膜の劣化や、機器の損傷といった重大な故障が引き起こされる危険性があるためである。
【0003】
しかし、現在の水処理においては、処理液中のカルシウム濃度の変化を連続的にモニタリングする技術はなく、カルシウム除去用の炭酸ナトリウム等の薬剤の設定量に安全率をかけた過剰量を添加して、ある程度のカルシウムの濃度変化に対しても確実に溶存カルシウムの除去が行えるように備えているのが現状である。
【0004】
かかる従来手法では、溶存カルシウムの濃度変化をモニタリングしている訳ではないため、想定外のカルシウム濃度の変化には対応することができない。そのため、トラブル発生時の対応の遅れや、過剰の薬剤添加による塩濃度の上昇等の問題が生ずることとなる。
【0005】
本発明者は、先に特許文献1において、pHの変動幅を追跡することで、溶存カルシウムの濃度をある程度正確に把握できる技術を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−161224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二酸化炭素の曝気により溶存カルシウムの除去を行うに際して、処理液中のカルシウム濃度の変化をモニタリングする技術としては、特許文献1に開示のpHの変動幅を利用する手法がある。この変動幅を利用する手法は、カルシウム濃度に対して感度良くその変化を捉えることができる。
【0008】
しかし、曝気処理の成り行きに任せる手法であるため、機器の性能やノイズ等の影響を除外し難いという問題があった。
【0009】
そこで、本発明者は、pHの変動を強制的に起こさせることで、かかる影響の少ない溶存カルシウムのモニタリングが行えないかと考えた。
【0010】
本発明の目的は、強制的に起こさせたpH等の液性の変動に基づいて、溶存カルシウムの濃度変化を把握することにある。
【0011】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0013】
本発明は溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、溶存カルシウムの濃度変化を、液性の変化で知ることを特徴とする。かかる構成において、前記液性の変化とは、液性の時間変化であることを特徴とする。あるいは、前記液性の変化とは、液性の速度変化であることを特徴とする。かかる構成を用いることで、溶液中の溶存カルシウムを二酸化炭素で曝気して除去する場合の曝気終点の判断を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明は溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、溶存カルシウムの濃度変化を、pHの変化で知ることを特徴とする。かかる構成において、前記pHの変化とは、pHの時間変化であることを特徴とする。前記pHの時間変化における時間とは、pHの所定範囲における上昇時間、あるいはpHの所定範囲における下降時間であることを特徴とする。あるいは、前記構成において、前記pHの変化とは、pHの速度変化であることを特徴とする。前記pHの速度変化における速度とは、pHの所定範囲におけるpHの変化量を、前記変化量を達成するに要した時間で除したものであることを特徴とする。
【0015】
以上の構成において、前記pHの所定範囲とは、pHが8.5以上、9.5以下の範囲であることを特徴とする。前記構成において、前記液性は、溶液の水素イオン濃度、あるいは水酸イオン濃度、あるいはpOHであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
本発明では、所定範囲のpH等の液性を、人為的に変化させて追跡することで、溶存カルシウムの濃度変化をモニタリングして把握することができる。これによって、例えば、二酸化炭素の曝気による溶存カルシウムの除去における曝気終点の判断が容易に行える。
【0018】
また、溶存カルシウムの濃度変化をリアルタイムで追うことができるため、適切な曝気が行え、無駄なアルカリの添加を防ぐことができる。本発明により効率的なカルシウム除去を行うことができる。
【0019】
本発明では、人為的にpH等の液性を強制的に変化させるので、変動における機器等の影響も除外しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態の高低制御を行った場合の溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気によるバッチ処理での様子を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態の高低制御を行った場合の溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気による連続処理での様子を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態のバッチ処理でのpH下降時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH下降時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態におけるpH下降時間とICとの相関を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態の溶存カルシウムの二酸化炭素による曝気処理におけるpH下降時間を指標とする場合のフロー図である。
【図7】本発明の一実施の形態のバッチ処理でのpH上昇時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH上昇時間の推移をIC濃度との関係で示した説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態におけるpH上昇時間とICとの相関を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態のpH下降時間とpH上昇時間との相関を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH下降速度移動平均(30分移動平均)の推移と溶存カルシウムとの関係を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施の形態の連続処理でのpH下降速度移動平均(5分移動平均)と溶存カルシウムとの関係を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態のpH下降速度と溶存カルシウムの濃度との相関を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施の形態のpH下降速度移動平均を溶存カルシウムとの関係で示した説明図である。
【図15】本発明の一実施の形態の連続処理におけるpH上昇速度の推移を溶存カルシウムの濃度との関係で示した説明図である。
【図16】本発明の一実施の形態のpH上昇速度と溶存カルシウムの濃度との相関を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明は、溶存カルシウムの濃度の変化を把握するに際して、その液性の変化を指標とするものである。かかる指標を用いることで、溶存カルシウムの濃度、濃度変化等を知ることができる。
【0023】
液性としては、例えば、pH(水素イオン濃度指数)を使用することができる。あるいは、水素イオン濃度([H+])、pOH(水酸イオン濃度指数)、水酸イオン濃度([OH−])等の液性を用いても構わない。以下の説明では、液性としてpHを例に挙げて説明する。
【0024】
本発明では、所定範囲のpH範囲で、pHを意図的に強制的に上下させて、その変動状況をモニタリングすることで、溶存カルシウムの濃度変化を知るものである。かかるpH範囲としては、例えば、8.5以上、9.5以下に設定すればよい。かかる範囲の設定では、その下限は炭酸イオンの存在比が8.5付近から増加するという理由に基づき、その上限はアルカリの過剰添加を防ぐという理由に基づきそれぞれ設定した。
【0025】
本発明では、上記所定のpH範囲でpHを上下させるが、pHの上昇には、アルカリ添加で行う。かかるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。また、エコアルカリ等の再生アルカリの使用も挙げられる。pHの下降には、二酸化炭素の曝気で行えばよい。曝気に使用することができる二酸化炭素は、例えば0.5%以上、100%以内の範囲の濃度である。この二酸化炭素源としては、ボイラやエンジン等の燃焼機関の排ガス、ごみ焼却場等の施設の排ガス、埋立地等からの発生ガスといった二酸化炭素を含有するガスであれば本発明に利用することは可能である。また人為的に二酸化炭素と空気を混合したものであっても良い。
【0026】
(実施の形態1)
本実施の形態では、二酸化炭素を曝気することで、溶液内の溶存カルシウムを除去する場合を例に挙げて説明する。例えば、二酸化炭素の曝気により、廃液等の被処理液中の溶存カルシウムの濃度を、スケールが発生しない100mg/l以下に低減するに際して、曝気を効率的に行う場合に適用して有効である。
【0027】
図1は、二酸化炭素を曝気して溶存カルシウムを沈殿させて除去させるバッチ処理の系において、二酸化炭素と、アルカリとで、本発明の高低制御(High-Low 制御とも言う)をしている状況を示す説明図である。図2は、図1と同様に、連続処理における系での高低制御の様子を示す説明図である。図3は、バッチ処理の系におけるpH下降時間の推移を示す説明図である。図4は、連続処理の系におけるpH下降時間の推移を示す説明図である。図5は、pH下降時間と、溶液中のIC(Inorganic Carbon:無機炭素)濃度との関係を示す説明図である。図6は、本発明に係る溶存カルシウムの濃度変化の把握方法の手順を示すフロー図である。
【0028】
先ず、本発明の基礎となった実験事実について説明する。実験は、pHの所定範囲として、上記設定範囲の内、pH9.0以上、pH9.2以下の間で行った。かかるpHの範囲で、高低制御(High-Low 制御)を行いながら、1vol%のCO2(二酸化炭素、あるいは炭酸ガスとも言う)含有ガスを曝気しながら、カルシウム濃度1000ppmの溶液を処理した。曝気強度は、例えば、1.0vvmである。
【0029】
かかる処理では、溶存カルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させ、溶液内から所定量の溶存カルシウム除き、溶存カルシウムを所定値以下に抑えるものである。溶存カルシウムの目標濃度は、100mg/lに設定した。かかる100mg/lの値は、スケールが発生しない溶存カルシウム濃度として、実際の廃液処理等に採用されている実用的な数値である。しかし、上記数値は、あくまで例示の数値であり、本発明の適用は、例えば、溶存カルシウムが200mg/l以下の濃度範囲で定量可能なため、スケール防止のためのモニタリングに使用することができる。
【0030】
図1にはバッチ処理の系を、図2には連続処理の系をそれぞれ示した。図1に示すバッチ処理では、所定量の廃液等の被処理液を上記の如く二酸化炭素の曝気により沈殿処理し、その後にまた同容量の被処理液を入れ換えて別途処理するという回分処理である。一方、連続処理は、所定容量が維持される状態で、常に一定量の廃液等の被処理液が連続的に流入され、一定量の処理済液が連続的に排出されるように構成されているものである。
【0031】
尚、バッチ処理の系、連続処理の系では、例えば、被処理液の液量2リッターで行ったが、曝気自体が溶液の攪拌を伴うものであるため、特段、溶液内の攪拌は行わなかった。
勿論、実際の処理に際しては、かかる溶液内の攪拌を行うようにしても一向に構わない。
【0032】
カルシウム濃度は、図1に示すように、曝気開始後120分前後で目標値である100mg/l以下に推移した。かかる系での高低制御は、二酸化炭素の曝気によりpHが9.0に下がった時点でアルカリ添加によりpHを9.2に引き上げ、pHが9.2になった時点でアルカリ添加を止めるという手法を用いた。勿論、かかるアルカリの添加、添加停止の間を含めて、二酸化炭素の曝気は連続して行われている。
【0033】
このようにして、所定のpH範囲で、例えばpHが9.0、あるいは9.2になった時点で、アルカリ添加、アルカリ添加の停止を行い、強制的にpHの変動を起こさせている。但し、pHの変化は、厳密には溶液の攪拌状況により溶液内のpHが均一になるまで多少の時間がかかる。そのため、測定したpHに対して均一になった時点での溶液pHとは若干の相違が発生する。そのため、図1では、pH9.0以下、9.2以上に幅が出る結果となっている。
【0034】
図1に示すように、溶液のpHは正確に9.0、9.2で推移を繰り返している訳ではないが、しかし、高低制御としてはpHが9.0になった時点でアルカリ添加を行い、pHが9.2になった時点でアルカリ添加を停止するものである。
【0035】
かかる高低制御を行っている場合でも、溶存カルシウムは、曝気する二酸化炭素により効果的に沈殿除去されることが、図1から確認される。スケールの発生防止が図れる目標値の100mg/l以下にまで、溶存カルシウムの除去が行えることで分かった。
【0036】
かかる傾向は、図2に示すように、連続処理の系でも確認された。溶存カルシウムは、曝気開始後2時間を少し経過した時点で100mg/l以下に推移した。但し、かかる連続処理では、7.2時間経過したところで、水理学的滞留時間(HRT:Hydraulic Residence Time)を2.7時間から3.6時間に、Ca負荷を変化させる目的のために設定変更した。そのため、図2では、7.2時間を境に、カルシウム濃度の減少、IC(Inorganic Carbon)濃度の増加が起きている。
【0037】
本発明では、上記の如く、かかる高低制御をしていても、有効に二酸化炭素の曝気により溶存カルシウムの除去が行える旨の有効性を確認した。その上で、高低制御により得られるpHの上下変動において、そのpHの下降時間を用いて、溶存カルシウムの濃度変化の把握、溶存カルシウムの曝気処理における終点判断を行う場合について以下説明する。
【0038】
pH下降時間とは、高低制御でpHが上下動している際に、pHが減少し始めてから、pHが増大し始めるまでの時間のことを意味するものと定義する。
【0039】
かかるpH下降時間は、次の反応式によって制御されていると考えられる。
【0040】
CO2+H2O → CO32−+2H+ (もしくは、HCO3−+H+)
CO32−+Ca2+ → CaCO3
このように二酸化炭素が溶解することにより放出されるH+により、pHの下降は生じる。カルシウム濃度が高いと平衡が右向きに進み易くなるため、H+の放出量も多くなる。そのため、カルシウム濃度が高いとpHの下降時間は短くなり、カルシウム濃度が低いと下降時間は長くなるといった変化を示す。すなわち、pHの下降時間を追跡することで、溶存カルシウムの濃度変化をモニタリングしてその把握をすることができるのである。
【0041】
また、かかる高低制御を行った場合の溶液のIC濃度(生成されたCO32−、HCO3−)の変化は、バッチ処理の系では、図3に示すようになる。かかる傾向は、ほぼ溶液内のIC濃度と連動していることが、図3から分かる。因に、IC濃度の測定は、一定時間毎にサンプリングして行ったものである。
【0042】
溶液内の溶存カルシウム濃度が当初高い場合には、CO2の曝気により溶解したIC(CO32−、HCO3−)は直ちに消費されるためICは、ほぼ一定値で推移することとなる。
【0043】
かかる状態は、CO2の曝気が足りていない状態で、CO2を曝気し続けることにより、徐々にCO2が足りて過剰になってくる。それに併せて、溶液内のIC濃度、pHの下降時間も増加することとなる。図3に示す場合は、安全率を見て、ICで300mg/l程度までCO2を曝気した状態を示している。
【0044】
このように、溶液内のIC濃度の変化も、pHの下降時間を追跡することで確認することができる。さらには、溶液内のIC濃度を追跡することで、溶存カルシウムの濃度変化を把握することができるとも言える。
【0045】
また、連続処理の場合も溶液内のIC濃度は、図4に示すように、pHの下降時間とほぼ同じ傾向を示すことが確認される。但し、図4に示す場合には、連続処理開始の場合を想定して再現できるように、当初の被処理液をバッチ処理である程度溶存カルシウムを除去しておいて、その状態から曝気を開始し、その後被処理液を流入させるようにして行ったものである。
【0046】
そのため、当初の溶存カルシウム濃度はある程度落とされているため、曝気処理によるH+の放出は比較的にゆっくりと行われ、それに合わせてpHの下降時間は長めである。その後、被処理液を流入させることで、溶存カルシウムの濃度が増え、それに併せて曝気処理によるH+は速くに消費され、pHの下降時間はほぼ一定の値を示すこととなる。
【0047】
IC濃度も、上記傾向に合わせて、図4のように、推移している。図4では、7.2時間まではHRTを2.7時間として設定して行った。その後、先に記載したと同様の理由で、HRTを3.6時間に変更して、曝気によるCO2が少し過剰になるように加えて、確実に溶存カルシウムを除去するようにした。
【0048】
このように、pHの下降時間は、溶液中のIC濃度の変化とほぼ同じ推移を示すことが本発明において初めて明らかにされた。かかる点は、前記反応式で、カルシウム濃度が高い場合には、生成されたIC(CO32−、HCO3−)が直ちに消費され、そのために、IC濃度は一定値で推移していると説明することができる。併せて、pHの下降時間も、そのカルシウムとICとの反応によってH+の放出が進むため、pH下降時間はある一定値より速くはならないと言える。
【0049】
逆に、カルシウム濃度が低い場合、ICが余ってくるにつれて、H+放出量が少なくなってくるため、pH下降時間も長くなってくる。
【0050】
かかるpH下降時間と、ICとの相関を、図5に示した。良好な相関を示すことが、明らかとなった。相関直線としては、y=0.8727x+54.72と示される。
【0051】
このように、IC濃度は、溶液中の溶存カルシウムの濃度傾向を反映した逆の傾向を示すので、ICの度の変化をpH下降時間を使ってモニタリングすることで、間接的に、溶存カルシウムの濃度の変動状況をモニタリングすることができるとも言える。このようにして、二酸化炭素の曝気処理による状況の監視が可能となる。
【0052】
かかる監視に際しては、アルカリ添加を適量添加するための制御指標として、IC濃度を100mg/l以上、300mg/l以下を適正範囲として設定した場合について示す。かかる範囲で、pHの下降時間を、30秒以上、300秒以内と設定すればよい。より好ましくは、100秒以上、200秒以内と設定して、曝気の終点判断を行えばよい。
【0053】
曝気停止時間は、
停止時間=HRT/{(原水のCa濃度/処理水のCa濃度の上限値)×安全率}
で計算することができる。
【0054】
図6に、pH降下時間を用いて曝気の終点を判断する場合についての手順を、フロー図として示す。
【0055】
図6に示すように、ステップS100で、実際の廃液等の被処理液のpH下降時間をチエックする。かかるpHの下降時間とは、pHが上がってから下がるのを一つの単位として、その単位におけるpHの下降時間である。例えば、複数の単位でのpHの下降時間の平均をとればよい。
【0056】
かかるpHの下降時間の設定は、ステップS100に先立つステップS001で、実際に適用する場合の被処理液を所定量サンプリングして、そこで実際に使用するガス濃度に調節したCO2ガスを用いて、実験室規模で試験を予め行って決定する。使用するCO2ガス流量と、対象とする被処理液のpH下降時間を定義する。
【0057】
仮に、図6に示すように、ステップS001で、pH下降時間を100秒以上、200秒以内を適正な曝気終点とした場合には、ステップS100で実際に測定したpHの下降時間が、ステップS200で示すように200秒を越える場合には、ICが余りの状態、すなわちCO2の曝気が過剰と判断できる。
【0058】
曝気を即、停止させる処置をとる。曝気終点に達していると判断する。例えば、バッチ処理では、バッチ処理が完了したと判断する。また、連続処理の場合には、一定時間曝気を停止させ、その後に曝気を再開して、溶存カルシウムを十分に除去する処置をとればよい。
【0059】
また、ステップS100で測定したpHの下降時間が、ステップS300に示すように、100秒未満の場合には、ICが不足の状態、すなわちCO2の曝気不十分と判断することができる。この場合には、図6に示すように、溶存カルシウムが十分に除去されていない状態であるため、例えば、担当者に、アラームを発する等して、機器点検、あるいはカルシウム濃度計測等の再点検を行いつつ、それが正常に作動していることを確認した上で、CO2の曝気を続ければよい。
【0060】
このように、廃液等の被処理液中の溶存カルシウムを二酸化炭素の曝気により除去する際の曝気終点の判断に、本発明は有効に使用することができる。特に、スケールの発生を防止するために、溶存カルシウムの濃度が100mg/l程度の低濃度の場合における曝気終点の判断に有効に使用することができる。
【0061】
(実施の形態2)
本実施の形態では、前記実施の形態とは異なり、pHの上昇時間を用いて曝気終点を判断する場合について説明する。
【0062】
先ず、pHの上昇時間を用いることについて、その適正を実験により確認した。図7に示すように、前記実施の形態で述べた処理の仕方で、被処理溶液のバッチ処理を行った。実施の形態1では、pHの下降時間を用いたため、pHを上昇させる工程は特段その下降時間に影響を与えなかった。
【0063】
しかし、本実施の形態では、pHの上昇時間であるため、使用するアルカリにより大きく影響を受けることとなる。そこで、使用するアルカリの種類、例えは一酸塩基、あるいは二酸塩基等の種類を特定する必要がある。また、かかるアルカリの使用濃度も大きく影響する。そのため、使用アルカリの濃度を規定する必要もある。さらには、アルカリを添加する場合に使用するアルカリポンプの仕様をも決定する必要がある。
【0064】
図7に示す場合には、アルカリには水酸化ナトリウムを使用し、その濃度は10%を用いた場合を示す。図7では、前記実施の形態1で述べた図3で示すように溶存カルシウムが多い場合には、pHの下降速度が早かったが、かかる早いpHの下降をアルカリ添加で戻すpHの上昇時間も当然にH+濃度が高いために速くなる。また、十分に溶存カルシウが除去された状態では、H+の濃度はそれほど高くないため、それに併せてアルカリ添加によるpHの上昇時間も遅くなるという傾向を示す。
【0065】
図8には、連続処理の場合を示している。かかる場合も、上記説明と同様に、前記実施の形態の図4の説明と併せて、pHの下降時間が早い領域ではpHの上昇時間も速くなり、pHの下降時間が遅い領域ではpHの上昇時間も遅くなる傾向を示している。
【0066】
また、pHの上昇時間と、溶液内のIC濃度との関係も、前記実施の形態の場合と同様に、図9に示す如く、良い相関を示す。因に、相関直線は、y=0.0926x+12.836となる。
【0067】
さらには、前記実施の形態のpHの下降時間と、本実施の形態のpHの上昇時間との相関を調べた。その結果を、図10に示す。図10に示す如く、相関は極めてよく、y=0.116x+10.043となった。
【0068】
そこで、前記実施の形態の図6でも説明したように、ステップS001に相当する工程で、実際の被処理液のサンプルを用いて実験室規模で、pHの上昇時間の最適範囲を決定する。但し、かかる決定に際して、使用するアルカリの種類、濃度、またアルカリポンプの流量等の仕様を決めておく。
【0069】
その後、ステップS100に相当する工程で、実際の被処理液のpH上昇時間を測定する。その結果が、例えば、図7からも分かるように、ステップS200に相当する工程で、設定値の上限の50秒より大きい場合には過剰と判断し、曝気を停止する処置をとればよい。ステップS300に相当する工程で、下限値の10秒より小さい場合にはICが不足の状態と判断し、担当者への報告する処置をとればよい。
【0070】
(実施の形態3)
本実施の形態では、前記実施の形態1、2とは異なり、液性の変化として、pHの速度変化を指標とする場合について説明する。すなわち、pHの下降速度、あるいはpHの上昇速度を指標とする場合について述べる。
【0071】
pHの速度変化は、pHの変移量(下降量、あるいは上昇量)を、その変移に要した時間で除したものと定義することができる。そこで、pHの下降速度は、pHの下降量を、その下降に要した時間で除したものと定義する。また、同様に、pHの上昇速度とは、pHの上昇量を、その上昇に要した時間で除したものと定義する。
【0072】
例えば、pHの下降速度を用いる場合には、下降速度の測定は、測定時点より以前の所定の時間範囲における複数の測定ポイントでのそれぞれの下降速度の相加平均として算出すればよい。平均の算出方法は、種々あるが、本発明では、pHの下降速度は、測定時点での過去の所定範囲時間における複数の測定ポイントの平均として求めるのが最適である。
【0073】
例えば、測定時間Nより以前の所定時間の範囲内に、n個の測定ポイントがあるとする。その場合には、測定時間Nでの下降時間は、1〜nのn個の測定ポイントで実測した下降時間である。次の測定時間N+1での下降時間は、2〜n+1のn個の測定ポイントでの下降時間の実測値である。
【0074】
一方、pHの下降量は、例えば、pHが9.2から9.0の範囲で高低制御を行う場合には、pHの下降量、すなわちΔpHは9.2から9.0を差し引いた0.2となる。かかるpHの下降量であるΔpHを、ΔpH変化するのに要した上記pHの下降時間で除すことでpHの下降速度の算出が行える。
【0075】
すなわち、測定時間NでのpHの下降速度は、1〜nで測定した各々の実測時間に対応する各々のΔpHを除した値であるn個のそれぞれのpH下降速度の総和を、nで除した平均値として算出することができる。同様に、次の測定時間N+1の場合の下降時間は、2〜n+1のn個の測定ポイントでの下降時間の実測値で、各々に対応するΔpHを除したn個のそれぞれのpHの下降速度の総和を、nで除した平均値として算出すればよい。
【0076】
尚、かかる点を強調したい場合には、敢えて、pHの下降速度の移動平均という言葉を使用する場合がある。pHの上昇速度についても同様で、pHの上昇速度の移動平均という言葉を使用する場合もある。
【0077】
図11には、例えば、過去30分間のpHの下降速度の移動平均を、連続処理の系で測定した場合を示す。過去30分間のpHの下降速度の移動平均は、2秒毎の測定における平均である。図11に示すように、併せて表示した溶存カルシウムの推移と、下降速度の移動平均の推移とが良好な一致を示していることが分かる。
【0078】
図12には、過去5分間のpHの下降速度の移動平均の結果を示した。やはり、図11と同様に、過去5分間のpHの下降速度の移動平均も、溶存カルシウムの濃度推移を反映していると言える。
【0079】
実験により、pHの下降速度を曝気処理の指標として使用する場合には、過去5分以上、過去30分以内の時間範囲での移動平均を使用すればよいことが分かった。5分未満の時間設定では、迅速な対応ができはするが、しかしバラツキが大きくなり、判定がし難い。一方、30分より大きな時間設定では、上記とは異なりバラツキは小さいか、対応が遅くなる場合も考えられる。適正な時間としては、5分以上、30分以内である。
【0080】
pHの下降速度と溶存カルシウムの濃度との推移には、図13に示すような、良好な相関関係があることが確認された。因に、かかるpHの下降速度は、過去30分間の移動平均の値である。図13に示す相関直線は、y=7E−05x+0.0014であった。
ここでいう7E−05とは7.0×10−5を意味している。
【0081】
かかる過去30分間のpH下降時間の移動平均では、図14に示すように、溶存カルシウム濃度が200mg/l以下で、溶存カルシウムの推移を良い一致で表していると言える。
【0082】
このようにpHの下降速度が溶存カルシウムの濃度の推移と、良好な相関を示していることから、前記実施の形態1の図6のフロー図でも説明したと同様に、pHの下降速度を指標として用いることで、曝気処理の終点の判別を行うことができる。例えば、図6のフローのステップ001に想定する工程で、試料をサンプリングして、実験室規模で、曝気終点に相当するpHの下降速度を、例えば、0.001以上、0.009以下と決める。
【0083】
ステップS100に相当する工程で、実際の被処理液でのpH下降速度を測定する。この場合の下降速度は、例えば、過去30分間の移動平均を用いればよい。
【0084】
ステップS200に相当する工程で、設定値の下限の0.001より小さい場合には溶存カルシウムがほぼゼロでありICが過剰な状態と判断し、曝気を停止する処置をとればよい。ステップS300に相当する工程で、上限の0.009より大きい場合にはカルシウム濃度が100mg/l以上と判断し、担当者へ報告する処置をとればよい。
【0085】
図15には、pH上昇速度についての過去30分の移動平均と、溶存カルシウムの濃度状況とを対比して示した。かかる図15でも、pH上昇速度の過去30分の移動平均は、溶存カルシウムの濃度の推移の状況を十分に反映していると言える。
【0086】
pHの上昇速度と溶存カルシウムの濃度との推移には、図16に示すような、良好な相関関係があることが確認された。因に、かかるpHの上昇速度は、過去30分間の移動平均の値である。図16に示す相関直線は、y=0.0004x+0.0048であった。かかる結果から、pHの上昇速度を指標とすることでも、曝気処理の終点の判断が行えることは明らかである。
【0087】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0088】
前記実施の形態では、制御指標としてpHを用いる場合について説明したが、場合によっては、水素イオン濃度そのものを、あるいは、pOHを、あるいは水酸イオン濃度を用いても構わないことは言うまでもない。pH=−log[H+]、[H+]×[OH−]=10−14、pH+pOH=14等の関係式があるため、相互の換算は一義的に容易に決まるため、pHを制御指標に用いることは、水素イオン濃度、あるいはpOHを、あるいは水酸イオン濃度を制御指標として用いることと同じ意味合い有していることとなる。
【0089】
前記説明では、本発明のpHの下降時間、pHの上昇時間、pHの下降速度、pHの上昇速度を、それぞれ二酸化炭素の曝気による溶存カルシウムの処理に適用した場合を説明したが、それ以外にも、炭酸カルシウムの生成等でその適用が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、溶存カルシウムの二酸化炭素の曝気による除去の分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
S001 ステップ
S100 ステップ
S200 ステップ
S300 ステップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、
溶存カルシウムの濃度変化を、液性の変化で把握することを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項2】
請求項1記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記液性の変化とは、液性の時間変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項3】
請求項1記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記液性の変化とは、液性の速度変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記溶存カルシウムの濃度変化の把握方法により、溶液中の溶存カルシウムを二酸化炭素で曝気して除去する場合の曝気終点の判断を行うことを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項5】
溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、
溶存カルシウムの濃度変化を、pHの変化で知ることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項6】
請求項5記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの変化とは、pHの時間変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項7】
請求項6記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの時間変化における時間とは、pHの所定範囲における上昇時間、あるいはpHの所定範囲における下降時間であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項8】
請求項5記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの変化とは、pHの速度変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項9】
請求項8記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの速度変化における速度とは、pHの所定範囲におけるpHの変化量を、前記変化量を達成するに要した時間で除したものであることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項10】
請求項7または9記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの所定範囲とは、pHが8.5以上、9.5以下の範囲であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記液性は、溶液の水素イオン濃度、あるいは水酸イオン濃度、あるいはpOHであることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項1】
溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、
溶存カルシウムの濃度変化を、液性の変化で把握することを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項2】
請求項1記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記液性の変化とは、液性の時間変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項3】
請求項1記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記液性の変化とは、液性の速度変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記溶存カルシウムの濃度変化の把握方法により、溶液中の溶存カルシウムを二酸化炭素で曝気して除去する場合の曝気終点の判断を行うことを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項5】
溶存カルシウムの濃度変化の把握方法であって、
溶存カルシウムの濃度変化を、pHの変化で知ることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項6】
請求項5記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの変化とは、pHの時間変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項7】
請求項6記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの時間変化における時間とは、pHの所定範囲における上昇時間、あるいはpHの所定範囲における下降時間であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項8】
請求項5記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの変化とは、pHの速度変化であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項9】
請求項8記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの速度変化における速度とは、pHの所定範囲におけるpHの変化量を、前記変化量を達成するに要した時間で除したものであることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項10】
請求項7または9記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記pHの所定範囲とは、pHが8.5以上、9.5以下の範囲であることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶存カルシウムの濃度変化の把握方法において、
前記液性は、溶液の水素イオン濃度、あるいは水酸イオン濃度、あるいはpOHであることを特徴とする溶存カルシウムの濃度変化の把握方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【公開番号】特開2012−179601(P2012−179601A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109726(P2012−109726)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2006−34982(P2006−34982)の分割
【原出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2006−34982(P2006−34982)の分割
【原出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】
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