説明

溶存物質濃度の測定方法及び装置

【課題】尿素などの有機物であっても高精度に測定することができる溶存物質濃度の測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】白金族金属触媒3aを充填したカラム3に水素供給配管4から水素水を通水する工程と、次いで溶存酸素及び尿素を含有する試料水をカラム3に通水する工程と、次いで水素供給配管4から水素水をカラム3に通水し、流出水の抵抗率を抵抗率計7で測定する工程とを有する。濃度既知の試料水を用いて作成した検量線に基づいて濃度未知の試料水中の尿素濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶存物質濃度の測定方法及び装置に係り、特に水中の有機物濃度測定するのに好適な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の洗浄ないし表面処理のために、高濃度の薬液や洗剤と、それを濯ぐために大量の純水が用いられており、電子部品の高度化にともなう超純水の水質向上と使用量低減を狙った排水回収による水回収率向上が課題となっている。その中で水中の有機物成分(TOC)を効率的に、より低濃度まで低減させることが、水質向上および水回収率向上の両面で重要な課題であり、その濃度をオンラインでモニターすることが重要である。
【0003】
超純水系においてオンラインでTOCを測定する方法としては、UV法によるTOCモニターが主に用いられている。これは試料水に185nmの低圧UV光を照射して、試料水中のTOCを酸化分解して低分子化/イオン化し、その前後での抵抗率からTOC濃度を求める方法である(特許文献1,2)。
【0004】
しかし、この方法では185nmのUV光に吸収のないTOC成分、例えば尿素などはUVでは分解しないため測定できないといった課題があった。
【特許文献1】特開2004−177164号
【特許文献2】特開2008−111721号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、尿素などの有機物であっても高精度に測定することができる溶存物質濃度の測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(請求項1)の溶存物質濃度の測定方法は、白金族金属触媒を充填した容器に水素を供給する工程と、溶存酸素及び溶存物質を含む試料水を該容器に通水する工程と、その後、該容器に水素水を通水し、流出水中の特定物質濃度又はそれに対応した特性値を測定し、この測定結果から試料水中の溶存物質濃度を求める工程と、を有するものである。
【0007】
請求項2の溶存物質濃度の測定方法は、請求項1において、前記溶存物質は有機物であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の溶存物質濃度の測定方法は、請求項1又は2において、溶存物質濃度が既知の試料水を用いて前記特性値と試料水中の溶存物質濃度との相関関係を求めておき、溶存物質濃度が未知の試料水について測定した特性値と該相関関係とに基いて該試料水中の溶存物質濃度を求めることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の溶存物質濃度の測定方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記溶存物質は尿素であり、前記特性値として流出水の抵抗率を測定することを特徴とするものである。
【0010】
請求項5の溶存物質濃度の測定方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記容器を複数個並列に設けておき、一部の容器と他の容器とで別工程を行うことを特徴とするものである。
【0011】
本発明(請求項6)の溶存物質濃度の測定装置は、白金族金属触媒を充填した容器と、該容器に水素水を通水する手段と、該容器に溶存酸素及び溶存物質を含む試料水を通水する手段と、該容器からの流出水の特定物質濃度又はそれに対応した特性値を測定する測定手段とを備えてなるものである。
【0012】
請求項7の溶存物質濃度の測定装置は、請求項6において、前記物質は尿素であり、前記測定手段は抵抗率計であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶存物質濃度の測定方法及び装置では、白金族金属触媒を充填したカラム等の容器にまず水素を供給して白金族金属触媒に水素を吸着させる。次いで、この容器に溶存酸素濃度が調整された試料水を通水し、白金族金属触媒に試料水中の溶存物質を吸着させる。その後、この容器に再度水素を供給し、白金族金属触媒から吸着物質を脱離させ、この脱離した物質の濃度を測定することにより、試料水中の当該物質濃度を計測する。
【0014】
この方法及び装置によると、従来モニターでは監視できなかった尿素などのUV難分解性物質の濃度測定も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の溶存物質濃度の測定方法及び装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明で測定対象となる試料水中の溶存物質としては、尿素、アミン類(エタノールアミン、メチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミンなど)、DMSOなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0018】
溶存物質が尿素である場合、試料水中の濃度は炭素濃度として0.5〜10μg/LasC特に0.5〜5μg/LasC程度であることが好ましい。このような尿素濃度の水としては、電子部品製造に供される純水や超純水などが挙げられる。
【0019】
この白金族金属触媒の白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。これらの白金族金属は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、2種以上の金属よりなる合金として用いることもできる。また、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので特に好適に用いることができる。
【0020】
この白金族金属触媒は、白金族金属の微粒子でもよく、白金族金属のナノコロイド粒子を担体の表面に担持させた金属担持触媒でもよい。また、白金族金属触媒は、セラミックボール等の基体に白金等の白金族の金属の被膜をめっき等により形成したものでもよい。
【0021】
白金族金属のナノコロイド粒子を製造する方法に特に制限はなく、例えば、金属塩還元反応法、燃焼法などを挙げることができる。これらの中で、金属塩還元反応法は、製造が容易であり、安定した品質の金属ナノコロイド粒子を得ることができるので好適に用いることができる。金属塩還元反応法による場合、例えば、白金などの白金族金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、金属錯化物などの0.1〜0.4mmol/L水溶液に、アルコール、クエン酸又はその塩、ギ酸、アセトン、アセトアルデヒドなどの還元剤を白金族金属に対して4〜20当量倍添加し、1〜3時間煮沸することにより、白金族金属のナノコロイド粒子を製造することができる。また、例えば、ポリビニルピロリドン水溶液に、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸カリウムなどを1〜2mmol/L溶解し、エタノールなどの還元剤を加え、窒素雰囲気下で2〜3時間加熱還流することにより、白金ナノコロイド粒子を製造することができる。
【0022】
白金族金属のナノコロイド粒子の重量平均粒子径は好ましくは1〜50nmであり、より好ましくは1.2〜20nmであり、さらに好ましくは1.4〜5nmである。金属ナノコロイド粒子の重量平均粒子径が1nm未満であると、TOCの分解除去に対する触媒活性が低下するおそれがある。金属ナノコロイド粒子の重量平均粒子径が50nmを超えると、ナノコロイド粒子の比表面積が小さくなって、TOCの分解除去に対する触媒活性が低下するおそれがある。
【0023】
白金族金属のナノコロイド粒子を担持させる担体に特に制限はなく、例えば、アニオン交換樹脂などのイオン交換樹脂のほか、マグネシア、チタニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、活性炭、ゼオライト、ケイソウ土などを挙げることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂が好適である。白金族金属のナノコロイド粒子は電気二重層を有し、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定に担持され、剥離しにくい。このアニオン交換樹脂は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を母体とした強塩基性アニオン交換樹脂であることが好ましく、特にゲル型樹脂であることがより好ましい。アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。アニオン交換樹脂等の担体への白金族金属のナノコロイド粒子の担持量は、0.01〜0.2重量%であることが好ましく、0.04〜0.1重量%であることがより好ましい。
【0024】
次に第1図を参照して本発明の実施の形態に係る溶存物質濃度測定装置と、この装置を用いた溶存物質濃度の測定方法について説明する。
【0025】
第1図の通り、試料水供給配管1が触媒充填カラム3に接続されている。このカラム3には白金族金属触媒3aが充填されている。この配管1のカラム3近傍部分に溶存酸素濃度計2が設けられている。この溶存酸素濃度計2よりも上流側の配管1に対し水素供給配管4と酸素供給配管5とが接続されている。なお、水素供給配管4は、溶存酸素濃度計2よりも下流側に接続されてもよく、カラム3に直接に接続されてもよい。試料水配管1と酸素供給配管5とは、酸素透過性の低いステンレス等の金属やナイロン等にて構成されることが好ましい。カラム3の流出口には抵抗率計7を備えた流出配管6が接続されている。
【0026】
水素供給配管4に供給する水素は、水素ガスでもよく、水素水(水素溶解水)でもよいが、吸着工程において試料水を流通させたときにガスロックが生じないようにするために水素水を用いるのが好ましい。
【0027】
試料水中の溶存物質濃度を測定する手順は、好ましくは次の通りである。
【0028】
(1) 水素吸着工程
まず、水素水を水素供給配管4から触媒充填カラム3に通水し、触媒3aに水素を吸着させる。このときの水素水の水素濃度は0.1〜1.6mg/L、特に0.2〜1.6mg/L程度が好適である。また、水素水の供給量は、水素供給配管の容積と触媒充填カラムの容積の和を1とした場合、0.1〜10特に1〜5程度が好適である。なお、白金族金属触媒の体積を基準とする場合には、白金族金属触媒3aの体積の1〜5倍特に1〜3倍の水素水を通水するのが好ましい。
【0029】
(2) 溶存物質吸着工程
次に、配管1に試料水を供給すると共に、必要に応じ、酸素供給配管5からこの配管1内の試料水に酸素水を添加する。このときの酸素水の添加量は、溶存酸素計2で検出される溶存酸素濃度が5〜500μg/L特に10〜100μg/L程度となるように調整されるのが好ましい。酸素水添加前の試料水中の溶存酸素濃度が過度に高いときには、酸素水の添加を行わないと共に、溶存酸素計2よりも上流側の配管1に脱気機構を設けておき、溶存酸素計2の検出溶存酸素濃度が上記範囲となるように脱気するのが好ましい。
【0030】
このようにして溶存酸素濃度が調整された試料水をカラム3に通水すると、試料水中に含まれていた尿素などの溶存物質が水素を吸着した白金族金属触媒に吸着される。溶存物質が白金族金属触媒に吸着されるメカニズムは、白金族金属触媒の存在下で、白金族金属触媒に吸着されていた水素と試料水中の酸素とが結合し、金属触媒表面に電子の偏在が生じて金属触媒表面に電子が粗の部分が生じ、この電子が粗の部分に尿素などのN原子に内在する非共有電子対が結合するためであると推察される。
【0031】
白金族金属触媒3aが、白金族金属のノナノコロイド粒子を0.01〜0.2重量%担持させたアニオン交換樹脂である場合、触媒充填カラム3への試料水の通水速度(SV)は、10〜500hr−1特に50〜300hr−1程度が好適であるが、これに限定されない。
【0032】
(3) 脱離工程
次に、上記(2)の吸着工程で溶存物質を吸着したカラム3に水素供給配管4からの水素水を通水する。これにより、触媒に吸着されていた吸着物質が脱離し、配管6に流出する。また、この際、白金族金属触媒3aに吸着されていた吸着物質がイオン化又はイオン化及び低分子化する。このイオン化等が進行する理由としては、必ずしも明確ではないが、この(3)の工程で供給される水素水中の水素が、触媒に吸着されていた酸素と反応して水が生成し、その際に非共有電子対の結合も切れ、尿素に部分的に加水分解が進行するためであると推察される。
【0033】
白金族金属触媒に吸着する物質量は、試料水中の溶存物質濃度に比例し、また、イオン化しながら白金族金属触媒から脱離する物質の量は触媒の吸着物質量に比例するので、脱離水中のイオン濃度は試料水中の溶存物質濃度に比例することになる。抵抗率計7の検出抵抗率は、脱離水中のイオン濃度が高くなるほど低下する。
【0034】
従って、予め溶存物質濃度既知の試料水を用いて溶存物質濃度と脱離水の抵抗率との検量線を求めておき、溶存物質濃度未知の試料水を検量線作成時と同一条件で通水したときの脱離水の抵抗率計検出値から当該試料水中の溶存物質濃度を検知することができる。
【0035】
この脱離工程における通水SVは3〜60hr−1特に5〜50hr−1程度が好適である。また、抵抗率計7による抵抗率の検出値としては水素水の通水開始後、最も高くなった値を採用するのが好ましい。
【0036】
脱離工程を継続すると、抵抗率計7の検出値が徐々に上昇する。この脱離工程の途中から前記(1)の水素吸着工程へと移行し、抵抗率計7の検出抵抗率が所定値以下に達したならば水素吸着工程を終了し、前記(2)の溶存物質吸着工程に移行する。
【0037】
このように、試料水の通水工程→水素水通水による脱離兼水素吸着工程を繰り返すことにより、試料水中の溶存物質濃度を繰り返し測定することができる。
【0038】
なお、複数の触媒充填カラム3を並列に設け、一部の触媒充填カラムで試料水通水工程を行っているときに他の触媒充填カラムで別工程、例えば脱離工程を行うようにしてもよい。このようにすることにより、溶存物質濃度を高頻度にて測定することができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例及び比較例について説明する。
【0040】
[実施例1]
第1図の装置を用い、以下の条件で尿素濃度既知の試料水を通水して流出水の抵抗率を測定した。
【0041】
白金族金属触媒(触媒樹脂)として栗田工業(株)製「ナノセイバー」(白金ナノコロイド担持樹脂)500mLを直径30mmのカラムに充填した。このカラムに水素濃度1.2mg/Lの水素水をSV=12hr−1で10min通水した。
【0042】
次に、溶存酸素濃度が30μg/Lであり、かつ尿素濃度が0.2μg/LasCの試料水をSV=60hr−1で30min通水した。
【0043】
試料水の通水後、上記濃度の水素水をSV=12hr−1で通水し、カラム流出水の抵抗率を測定した。その結果を第2図に示す。
【0044】
試料水として、尿素濃度が1.4μg/LasC、2.8μg/LasC又は3.8μg/LasCの試料水をそれぞれ用いたこと以外は同様にして水素水、試料水及び水素水を順次に通水し、カラム流出水の抵抗率を測定した。その結果を第2図に示す。
【0045】
第2図の通り、試料水の尿素濃度と上記抵抗率との間には、尿素濃度が高くなるほど抵抗率が小さくなる線形の関係(第2図では、y=0.3775x−0.3481x+17.443,R=0.9997)が存在することが認められ、流出水の抵抗率から試料水中の尿素濃度をモニターできることが認められた。
【0046】
[比較例]
UV法のTOCオンラインモニター((株)ハック・ウルトラ製 ANATEL A1000−XP)を用い、上記試料水に波長185nmの低圧紫外線を照射してその前後の抵抗率変化を測定したが、抵抗率の変化は検出されず、尿素濃度のモニターはできなかった。
【符号の説明】
【0047】
2 溶存酸素濃度計
3 触媒充填カラム
3a 白金族金属触媒
7 抵抗率計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属触媒を充填した容器に水素を供給する工程と、
溶存酸素及び溶存物質を含む試料水を該容器に通水する工程と、
その後、該容器に水素水を通水し、流出水中の特定物質濃度又はそれに対応した特性値を測定し、この測定結果から試料水中の溶存物質濃度を求める工程と、
を有する溶存物質濃度の測定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記溶存物質は有機物であることを特徴とする溶存物質濃度の測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、溶存物質濃度が既知の試料水を用いて前記特性値と試料水中の溶存物質濃度との相関関係を求めておき、溶存物質濃度が未知の試料水について測定した特性値と該相関関係とに基いて該試料水中の溶存物質濃度を求めることを特徴とする溶存物質濃度の測定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記溶存物質は尿素であり、前記特性値として流出水の抵抗率を測定することを特徴とする溶存物質濃度の測定方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記容器を複数個並列に設けておき、一部の容器と他の容器とで別工程を行うことを特徴とする溶存物質濃度の測定方法。
【請求項6】
白金族金属触媒を充填した容器と、
該容器に水素水を通水する手段と、
該容器に溶存酸素及び溶存物質を含む試料水を通水する手段と、
該容器からの流出水の特定物質濃度又はそれに対応した特性値を測定する測定手段と
を備えてなる溶存物質濃度の測定装置。
【請求項7】
請求項6において、前記物質は尿素であり、前記測定手段は抵抗率計であることを特徴とする溶存物質濃度の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−58137(P2012−58137A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203274(P2010−203274)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】