説明

溶射材料及び溶射層を有する構造体並びに回転ディスク型乾燥装置

【課題】溶射層の耐腐食性能を向上させ、レアメタル含有廃液等の強腐食性の廃液をも乾燥処理することができる回転ディスク型乾燥装置を提供すること。
【解決手段】本発明では、加熱したディスクを回転させるとともに、ディスク(4)の表面に被乾燥物を吐出して、被乾燥物をディスク(4)の表面で乾燥させ、被乾燥物の乾燥によってディスク(4)の表面に付着した付着物を表面に押圧したスクレーパ(10)で掻き取るように構成した回転ディスク型乾燥装置(1)において、タングステンカーバイト粉末を主材料とし、ハステロイ粉末を混入した溶射材料において、表面に金属皮膜を形成したハステロイ粉末を含有する溶射材料をディスク(4)の表面に溶射して溶射層を形成することにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射材料、及び同溶射材料で母材表面に溶射層を形成した構造体、並びに同溶射材料でディスク表面に溶射層を形成した回転ディスク型乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、液状廃棄物や液状汚泥などは、廃棄を容易なものとするため或いは飼料や肥料などとして有効に利用するために、乾燥装置で乾燥処理を施して含水率を低減させている。
【0003】
この液状廃棄物や液状汚泥などの被乾燥物を乾燥処理するための乾燥装置としては、各種の乾燥装置が開発されてきているが、その中でも、省スペースで短時間に被乾燥物を乾燥させることができる回転ディスク型乾燥装置が用いられてきている。
【0004】
この回転ディスク型乾燥装置は、加熱したディスクを回転させるとともに、ディスクの表面に被乾燥物を吐出して、被乾燥物をディスクの表面で乾燥させ、被乾燥物の乾燥によってディスクの表面に付着した付着物を表面に押圧したスクレーパで掻き取るように構成している(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−220371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の回転ディスク型乾燥装置は、液状の被乾燥物を省スペースで短時間で乾燥処理することができるとともに、被乾燥物の乾燥によって生じた乾燥物をディスクの付着物として容易に回収することができるものである。
【0007】
そのため、レアメタルを含有する産業廃液からレアメタルを回収して有効に再利用するための固液分離装置として上記回転ディスク型乾燥装置を活用することが望まれている。
【0008】
ところが、レアメタル含有廃液は、半導体製品として使用されたレアメタルを含有した廃液であり、半導体製品の製造時に使用されるエッチング液などの強腐食性の廃液となっている。
【0009】
そのため、上記従来の回転ディスク型乾燥装置を用いてレアメタル含有廃液を処理した場合には、レアメタル含有廃液と接触するディスクの表面が腐食してしまうおそれがあった。
【0010】
そこで、本発明者は、従来の回転ディスク型乾燥装置で使用されるディスクの耐腐食性能を向上させてレアメタル含有廃液の処理にも適用できるようにすることを目的として、ディスクの表面に溶射層を形成するための溶射材料について研究開発を行い、本発明を成すに到った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る本発明では、タングステンカーバイト粉末を主材料とし、ハステロイ粉末を混入した溶射材料において、表面に金属皮膜を形成したハステロイ粉末を含有させることにした。
【0012】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に記載の溶射材料を母材の表面に溶射して、構造体の母材の表面に溶射層を形成することにした。
【0013】
また、請求項3に係る本発明では、加熱したディスクを回転させるとともに、ディスクの表面に被乾燥物を吐出して、被乾燥物をディスクの表面で乾燥させ、被乾燥物の乾燥によってディスクの表面に付着した付着物を表面に押圧したスクレーパで掻き取るように構成した回転ディスク型乾燥装置において、ディスクの表面に前記請求項1に記載の溶射材料を溶射して溶射層を形成することにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、母材の表面に形成した溶射層の耐腐食性能を向上させることができ、回転ディスク型乾燥装置のディスクの表面に溶射層を形成することで、レアメタル含有廃液等の強腐食性の廃液をも乾燥処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】回転ディスク型乾燥装置を模式的に示す正面断面図。
【図2】同側面断面図。
【図3】試験方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の具体的な構成について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、本発明に係る溶射材料を溶射して溶射層を形成した構造体として回転ディスク型乾燥装置のディスクに適用した場合について説明する。
【0017】
回転ディスク型乾燥装置1は、各種の構造のものが知られているが、図1及び図2に模式的に示すように、ケーシング2に中空円筒状の回転軸3を回転自在に取付けるとともに、回転軸3に中空円板状のディスク4を取付け、回転軸3の中空部とディスク4の中空部とを連通している。これにより、回転ディスク型乾燥装置1は、回転軸3の中空部からディスク4の中空部に加熱蒸気を対流させることで、ディスク4の表面を加熱するようにしている。
【0018】
また、回転ディスク型乾燥装置1は、回転軸3に駆動モータ5を連動連結している。これにより、回転ディスク型乾燥装置1は、ディスク4を図1において時計回りに回転するようにしている。
【0019】
また、回転ディスク型乾燥装置1は、ケーシング2に投入パイプ6を取付けるとともに、ケーシング2の内側下部に貯留タンク7を形成し、投入パイプ6と貯留タンク7とを連通連結し、貯留タンク7にポンプ8を介してノズル9を接続し、ノズル9をディスク4の表面に向けて配置している。これにより、回転ディスク型乾燥装置1は、投入パイプ6から貯留タンク7に供給した被乾燥物をポンプ8で汲み上げてノズル9からディスク4の表面に向けて吐出(噴霧)するようにし、また、ディスク4から流れ落ちた被乾燥物を貯留タンク7に回収するようにしている。
【0020】
また、回転ディスク型乾燥装置1は、スクレーパ10をディスク4の表面に押圧させた状態で配置し、スクレーパ10の下方に回収ホッパー11を形成し、回収ホッパー11に排出パイプ12を連通連結している。これにより、回転ディスク型乾燥装置1は、ディスク4の表面で被乾燥物が乾燥することでディスク4の表面に付着した乾燥物(付着物)をスクレーパ10で掻き落とし、排出パイプ12から回収するようにしている。
【0021】
このように、回転ディスク型乾燥装置1では、加熱したディスク4を回転させるとともに、ディスク4の表面に被乾燥物を吐出して、被乾燥物をディスク4の表面で乾燥させ、被乾燥物の乾燥によってディスク4の表面に付着した付着物をディスク4の表面に押圧したスクレーパ10で掻き取って回収するように構成している。
【0022】
そして、従来においては、ディスク4の表面にタングステンカーバイト粉末を主材料としクロム粉末とニッケル粉末とを含有する溶射材料(たとえば、WC-17Cr-17Ni)を高速ガス溶射装置で溶射してディスク4の表面に溶射層を形成していた。
【0023】
一般的な液状の廃棄物であれば、上記溶射層でも耐腐食性能を有しており、実用上の問題はない。しかし、近年、レアメタル含有廃液からレアメタルを回収して有効に再利用するために上記回転ディスク型乾燥装置1を利用することが望まれており、強腐食性のレアメタル含有廃液を乾燥処理する場合には、ディスク4の溶射層の耐腐食性能をさらに向上させる必要がある。
【0024】
そこで、ディスク4の溶射層の耐腐食性能について試験を行った。
【0025】
耐腐食性能の試験としては、JIS G0573で定められているステンレス鋼の腐食試験溶液である65%硝酸液を使用した。また、65%硝酸液では、処理対象のレアメタル含有廃液との相違が大きいため、よりレアメタル含有廃液に近い試験溶液として、金属を腐食させる代表的な塩酸と硝酸と硫酸とを混合した混合酸液(ここでは、塩酸10%、硝酸5%、硫酸5%、塩化第二鉄6%を混合した混合液)を使用することにした。また、回転ディスク型乾燥装置1では、被乾燥物をアルカリ性にpH調整して処理しているために、硝酸液、混合酸液ともに苛性ソーダを添加してpH9に調整したものを用いることにした。
【0026】
また、通常の耐腐食性能の試験では、試験片に外力を加えずに無応力状態で試験するが、上記回転ディスク型乾燥装置1では、ディスク4の表面にスクレーパ10を押圧しており、ディスク4に応力が作用した状態となっている。
【0027】
そのため、耐腐食性能の試験としては、図3に示すように、表面に溶射層13を形成したチタン製の試験片14を支持棒15を介して上下一対の挟持具16,17で挟持し、ボルト18とナット19で締付けることで試験片14に所定の応力を作用させることにした。作用させる応力としては、一般的な材料の機械的性質を判定するときに使用される歪2000μεが発生する応力とした。具体的には、試験片14の歪と締付けトルクとの関係を測定し、歪2000μεが発生する締付けトルク(ここでは、締付けトルク4Nm)で試験片14を締付けることにした。なお、比較試験として、締付けトルク0Nm(無応力状態)と締付けトルク2Nmのものについても試験を行った。
【0028】
そして、本発明では、耐腐食性能の試験として、試験片14を65%硝酸液又は混合酸液からなるテスト液に所定の応力を作用させた状態で20日間浸漬し、浸漬前後の溶射層13の重量の減少量(腐食重量)を測定し、その比率(減少比率)で評価することにした。その評価としては、減少比率が300ppmを超える場合は、実用上の問題があるとして×と評価し、減少比率が300ppm以下の場合は、実用上の問題がないとして○と評価し、特に減少比率が200ppm以下の場合は、耐腐食性能に著しく優れるとして◎と評価した。
【0029】
まず、タングステンカーバイト粉末を主材料とし17%のクロム粉末と17%のニッケル粉末とを含有する溶射材料(WC-17Cr-17Ni)を試験片14の表面に高速ガス溶射装置で溶射して溶射層13を形成し、これを試料No.1として耐腐食性能の試験を行った。
【0030】
その結果、表1に示すように、いずれの場合にも溶射層13の減少比率が300ppmを超えるものであり、実用上の問題があるものと評価された。
【0031】
そこで、本発明者は、タングステンカーバイト粉末を主材料としクロム粉末とニッケル粉末とを含有する溶射材料よりも耐腐食性能を有すると考えられる溶射材料として、タングステンカーバイト粉末を主材料としハステロイ粉末を含有する溶射材料に注目した。ここで、ハステロイ(ヘインズ社の登録商標)とは、ニッケルを主成分とする合金であってモリブデンやクロムや鉄などを含むものであり、ここでは、ハステロイBやハステロイCなどと称されるものの総称を表している。
【0032】
そして、耐腐食性能に優れる溶射材料として知られるタングステンカーバイト粉末を主材料とし30%ハステロイ粉末を含有する溶射材料(WC-30HST)を試験片14の表面に高速ガス溶射装置で溶射して溶射層13を形成し、これを試料No.2として耐腐食性能の試験を行った。
【0033】
その結果、表1に示すように、締付けトルク0Nmの無応力状態では耐腐食性能に改善が見られるものの、使用状態に近い締付けトルク4Nmとした場合には、溶射層13の減少比率が300ppmを超えており、実用上の問題があるものと評価された。
【0034】
そのため、本発明者は、上記のタングステンカーバイト粉末を主材料としハステロイ粉末を含有する溶射材料について検討を重ね、ハステロイ粉末の表面を金属皮膜で被覆してハステロイ粉末の表面を凹凸のない滑らかな球面に形成したものを用いてみた。
【0035】
すなわち、タングステンカーバイト粉末を主材料とし22.2%のハステロイ粉末と10%の金属皮膜で被覆したハステロイ粉末とを含有する溶射材料(WC-22.2HST+10HST)を試験片14の表面に高速ガス溶射装置で溶射して溶射層13を形成し、これを試料No.3として耐腐食性能の試験を行った。
【0036】
その結果、表1に示すように、使用状態に近い締付けトルク4Nmとした場合であっても溶射層13の減少比率が300ppm以下であり、実用上の問題がないものと評価された。なお、金属皮膜したハステロイ粉末が全体の5%以上であればほぼ同様の結果が得られ、含有するハステロイ粉末の全部を金属皮膜で被覆してもよく、含有するハステロイ粉末の一部を金属皮膜で被覆したものでもよい。
【0037】
【表1】

【0038】
以上に説明したように、本発明では、表面に金属皮膜を形成したハステロイ粉末を含有する溶射材料を用いることで、溶射層の耐腐食性能を向上させることができた。そのため、回転ディスク型乾燥装置1のディスク4の表面に溶射層を形成することで、レアメタル含有廃液等の強腐食性の廃液をも乾燥処理することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 回転ディスク型乾燥装置 2 ケーシング
3 回転軸 4 ディスク
5 駆動モータ 6 投入パイプ
7 貯留タンク 8 ポンプ
9 ノズル 10 スクレーパ
11 回収ホッパー 12 排出パイプ
13 溶射層 14 試験片
15 支持棒 16,17 挟持具
18 ボルト 19 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンカーバイト粉末を主材料とし、ハステロイ粉末を混入した溶射材料であって、表面に金属皮膜を形成したハステロイ粉末を含有することを特徴とする溶射材料。
【請求項2】
請求項1に記載の溶射材料を母材の表面に溶射して溶射層を形成したことを特徴とする溶射層を有する構造体。
【請求項3】
加熱したディスクを回転させるとともに、ディスクの表面に被乾燥物を吐出して、被乾燥物をディスクの表面で乾燥させ、被乾燥物の乾燥によってディスクの表面に付着した付着物を表面に押圧したスクレーパで掻き取るように構成した回転ディスク型乾燥装置において、ディスクの表面に請求項1に記載の溶射材料を溶射して溶射層を形成したことを特徴とする回転ディスク型乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285641(P2010−285641A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139332(P2009−139332)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(596091978)株式会社西村鐵工所 (9)
【Fターム(参考)】