説明

溶射用粉末、溶射皮膜の形成方法、及び耐プラズマ性部材

【課題】半導体デバイス製造装置や液晶デバイス製造装置などのプラズマエロージョンを防止する目的において有用な溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末、その溶射用粉末を用いた溶射皮膜の形成方法、及びその溶射用粉末から形成される溶射皮膜を備えた耐プラズマ性部材を提供する。
【解決手段】本発明の溶射用粉末は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子を含有する。造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は2〜10μm、造粒−焼結粒子の圧壊強度は7〜50MPaである。溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比は0.10〜0.30が好ましい。造粒−焼結粒子中の細孔の直径についての頻度分布は1μm以上に極大を有することが好ましい。溶射用粉末は、好ましくはプラズマ溶射で溶射皮膜を形成する用途で用いられる。本発明の耐プラズマ性部材11は、上記溶射用粉末を溶射して形成される溶射皮膜13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射用粉末に関する。本発明はまた、その溶射用粉末を用いた溶射皮膜の形成方法、及びその溶射用粉末から形成される溶射皮膜を備えた耐プラズマ性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス及び液晶デバイスの製造分野では、反応性イオンエッチング装置を用いたドライエッチングの一種であるプラズマエッチングによる微細加工が一般に行われている。そのため、半導体デバイス製造装置及び液晶デバイス製造装置では、エッチングプロセスの際に反応性プラズマに曝される部材がエロージョン(損傷)を受ける虞がある。プラズマエロージョンにより半導体デバイス製造装置又は液晶デバイス製造装置中の部材からパーティクルが発生すると、半導体デバイス用のシリコンウエハ上又は液晶デバイス用のガラス基板上にパーティクルが堆積する場合がある。この堆積したパーティクルの量が多かったりサイズが大きかったりすると、設計どおりに微細加工を行うことができず、デバイスの歩留まり低下や品質不良を招き、デバイスのコスト上昇も起こりうる。そこで、エッチングプロセスの際に反応性プラズマに曝される部材に耐プラズマエロージョン性を有するセラミックスの溶射皮膜を設け、それにより当該部材のプラズマエロージョンを防止することが従来行われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、耐プラズマエロージョン性を有する溶射皮膜であっても多少なりともプラズマエロージョンを受けるものである。溶射皮膜がプラズマエロージョンを受けたときにサイズの大きなパーティクルが発生すると、これもデバイスの歩留まり低下や品質不良の原因となる。従って、溶射皮膜がプラズマエロージョンを受けたときに発生するパーティクルのサイズはできるだけ小さいことが望まれる。
【0003】
プラズマエッチングでは、イオン化されたエッチングガスのイオン衝撃による物理エッチングとエッチングガスの化学反応による化学エッチングが同時に行われている。物理エッチングは、エッチング面に対して垂直方向のエッチング速度が同じく水平方向のエッチング速度に比べて高い異方性を持ったエッチングである。物理エッチングのみの場合には、エッチングが必要な非マスク部分とエッチングが不要なマスク部分の両方がイオン衝撃により同じようにエッチングされてしまうため、非マスク部分を選択的にエッチングすることはできない。そこで、非マスク部分を選択的にエッチングすることが可能な化学エッチングを物理エッチングと併用するべく、半導体デバイス及び液晶デバイスの微細加工ではプラズマエッチングが採用されている。
【0004】
従来、プラズマエッチングによる微細加工では化学エッチングが主に重視されていたが、近年、半導体デバイス及び液晶デバイスのさらなる微細化及び細線化に対処するべく、プラズマエッチングの条件は物理エッチングの効果をより高める方向に変化しつつある。具体的には、化学エッチング(選択エッチング)への寄与があるCF、CHF、HBr、HCl等のハロゲンガスの比率を低くし、かつ物理エッチング(異方性エッチング)への寄与があるアルゴンやキセノン等の希ガスの比率を高くしたエッチングガスが用いられている(例えば、特許文献2参照)。そのため、こうしたエッチングガスの組成の変遷に伴い、半導体デバイス製造装置及び液晶デバイス製造装置に設けられる溶射皮膜の見直しが迫られている。
【特許文献1】特開2002−80954号公報
【特許文献2】特開2001−226773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、半導体デバイス製造装置や液晶デバイス製造装置などのプラズマエロージョンを防止する目的において有用な溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末を提供することにある。また本発明の第2の目的は、その溶射用粉末を用いた溶射皮膜の形成方法、及びその溶射用粉末から形成される溶射皮膜を備えた耐プラズマ性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、前記造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が2〜10μmであり、前記造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜50MPaである溶射用粉末を提供する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比が0.10〜0.30である請求項1に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項3に記載の発明は、前記造粒−焼結粒子中の細孔の直径についての頻度分布が1μm以上に極大を有する請求項1又は2に記載の溶射用粉末を提供する。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末をプラズマ溶射して溶射皮膜を形成する溶射皮膜の形成方法を提供する。
請求項5に記載の発明は、被処理体をプラズマにより処理するためのプラズマ処理チャンバー内に設置して使用される耐プラズマ性部材であって、該耐プラズマ性部材は、基材と、該基材の少なくとも前記プラズマに曝される面の上に設けられた溶射皮膜とを備え、前記溶射皮膜は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末を溶射して形成されるものであり、前記造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が2〜10μmであり、前記造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜50MPaである耐プラズマ性部材を提供する。
【0009】
請求項6に記載の発明は、前記基材は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム含有セラミックス、及び炭素含有セラミックスから選ばれる少なくともいずれか一つの物質から形成される請求項5に記載の耐プラズマ性部材を提供する。
【0010】
請求項7に記載の発明は、前記溶射皮膜は、前記溶射用粉末をプラズマ溶射して形成される請求項5又は6に記載の耐プラズマ性部材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、半導体デバイス製造装置や液晶デバイス製造装置などのプラズマエロージョンを防止する目的において有用な溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末が提供される。また本発明によれば、その溶射用粉末を用いた溶射皮膜の形成方法、及びその溶射用粉末から形成される溶射皮膜を備えた耐プラズマ性部材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の溶射用粉末は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物で形成された造粒−焼結粒子から実質的になる。原子番号60〜70の希土類元素とは、具体的には、ネオジム(元素記号Nd、原子番号60)、プロメチウム(元素記号Pm、原子番号61)、サマリウム(元素記号Sm、原子番号62)、ユロピウム(元素記号Eu、原子番号63)、ガドリニウム(元素記号Gd、原子番号64)、テルビウム(元素記号Tb、原子番号65)、ジスプロシウム(元素記号Dy、原子番号66)、ホルミウム(元素記号Ho、原子番号67)、エルビウム(元素記号Er、原子番号68)、ツリウム(元素記号Tm、原子番号69)、及びイッテルビウム(元素記号Yb、原子番号70)である。
【0013】
造粒−焼結粒子は、溶融−粉砕粒子に比べて、球形度が高いために流動性が良好である点及び製造時の不純物の混入が少ない点で有利である。造粒−焼結粒子は、原料粉末を造粒及び焼結した後に解砕し、必要に応じてさらに分級して作製されるものである。溶融−粉砕粒子は、原料の溶融物を冷却凝固して粉砕し、必要に応じてさらに分級して作製されるものである。造粒−焼結粒子の作製に関して以下に詳述する。
【0014】
造粒−焼結法では、原料粉末から造粒粉末をまず作製し、その造粒粉末を焼結して解砕し、必要に応じてさらに分級することにより造粒−焼結粒子を作製する。原料粉末は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物の粉末、あるいは同じ希土類元素の単体の粉末、あるいは同じ希土類元素の水酸化物の粉末であってもよい。あるいは、これらの粉末のうちの二つ又は三つの混合物であってもよい。原料粉末中に希土類単体又は希土類水酸化物が含まれる場合、これらは造粒及び焼結の過程で最終的に希土類酸化物に変換される。
【0015】
原料粉末からの造粒粉末の作製は、適当な分散媒に原料粉末を混合し、必要に応じてバインダを添加してなるスラリーを噴霧造粒することにより行なってもよいし、原料粉末から直接に造粒粉末を作製する転動造粒又は圧縮造粒により行なってもよい。造粒粉末の焼結は、大気中、酸素雰囲気中、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行なってもよいが、原料粉末中の希土類水酸化物又は希土類単体を希土類酸化物に変換させるためには大気中又は酸素雰囲気で行なうことが好ましい。造粒粉末の焼結には電気炉又はガス炉を用いることができる。焼結温度は、高い圧壊強度を有する焼結粒子を得るためには、好ましくは1300〜1700℃、より好ましくは1400〜1700℃、最も好ましくは1400〜1650℃である。焼結時における最高温度保持時間は、高い圧壊強度を有する焼結粒子を得るためには、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは30分〜12時間、最も好ましくは1〜9時間である。
【0016】
溶射用粉末中の造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は2μm以上であることが必須である。この一次粒子の平均粒子径が小さくなるにつれて、造粒−焼結粒子の比表面積は増加する。造粒−焼結粒子の比表面積が過度に大きいと、溶射用粉末の溶射に際して造粒−焼結粒子が熱源により過熱されやすくなるため、過熱が原因と考えられる欠陥が溶射皮膜中に多く生じる虞がある。プラズマエロージョンは溶射皮膜中の欠陥部分から優先的に進行するため、そのような欠陥の存在は溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を低下させる原因となる。この点、一次粒子の平均粒子径を2μm以上に設定することにより、実用に足る耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した適度の比表面積を有する造粒−焼結粒子を得ることができる。溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性をさらに向上させるためには、一次粒子の平均粒子径の下限は3μm以上であることが好ましく、より好ましくは4μm以上である。
【0017】
また、一次粒子の平均粒子径は10μm以下であることも必須である。この一次粒子の平均粒子径が過度に大きいと、溶射用粉末の溶射に際して熱源による加熱が一次粒子の中心まで届きにくくなるため、加熱不十分による未溶融又は未軟化のままの部分を含んだ溶射用粉末が溶射皮膜中に多く混入する虞がある。プラズマエロージョンは溶射皮膜中の十分に溶融又は軟化された部分と不十分に溶融又は軟化された部分の境界からも優先的に進行するため、そのような境界部分の存在は溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を低下させる原因となる。この点、一次粒子の平均粒子径を10μm以下に設定することにより、実用に足る耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に十分なだけの溶融又は軟化のしやすさを有する造粒−焼結粒子を得ることができる。溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性をさらに向上させるためには、一次粒子の平均粒子径の上限は9μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下である。
【0018】
造粒−焼結粒子の圧壊強度は7MPa以上であることが必須である。造粒−焼結粒子の圧壊強度が小さくなるにつれて、粉末供給機から溶射機に溶射用粉末が供給される間に粉末供給機と溶射機を接続するチューブ内において、あるいは溶射機に供給された溶射用粉末が熱源に投入される際に、溶射用粉末中の造粒−焼結粒子の崩壊が起こりやすくなる。溶射前に造粒−焼結粒子の崩壊が起こると、溶射に際して熱源により極めて過熱されやすい微粒子が溶射用粉末中に生じるために、その過熱された微粒子が原因と考えられる欠陥が溶射皮膜中に多く生じる虞がある。上述したように、プラズマエロージョンは溶射皮膜中の欠陥部分から優先的に進行するため、そのような欠陥の存在は溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を低下させる原因となる。あるいは、溶射用粉末中の造粒−焼結粒子の崩壊により生じる微粒子は重量が軽いために溶射に際して熱源から弾かれやすく、熱源により十分に加熱されない虞がある。こうして加熱不十分による未溶融又は未軟化のままの微粒子が溶射皮膜中に混入すると、溶射皮膜内の粒子間結合力が低下するため、溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性は低下する。この点、造粒−焼結粒子の圧壊強度を7MPa以上に設定することにより、実用に足る耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に十分なだけの崩壊しにくさを有する造粒−焼結粒子を得ることができる。溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性をさらに向上させるためには、造粒−焼結粒子の圧壊強度の下限は9MPa以上であることが好ましく、より好ましくは10MPa以上である。
【0019】
また、造粒−焼結粒子の圧壊強度は50MPa以下であることも必須である。造粒−焼結粒子の圧壊強度の値が過度に大きいと、溶射用粉末の溶射に際して熱源による加熱が造粒−焼結粒子の中心まで届きにくくなるため、加熱不十分による未溶融又は未軟化のままの部分を含んだ溶射用粉末が溶射皮膜中に多く混入する虞がある。上述したように、プラズマエロージョンは溶射皮膜中の十分に溶融又は軟化された部分と不十分に溶融又は軟化された部分の境界から優先的に進行するため、そのような境界部分の存在は溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を低下させる原因となる。この点、造粒−焼結粒子の圧壊強度を50MPa以下に設定することにより、実用に足る耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に十分なだけの溶融又は軟化のしやすさを有する造粒−焼結粒子を得ることができる。溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性をさらに向上させるためには、造粒−焼結粒子の圧壊強度の上限は45MPa以下であることが好ましく、より好ましくは40MPa以下である。
【0020】
本実施形態の溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比は0.10以上であることが好ましく、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.14以上である。この比が大きくなるにつれて、溶射用粉末の流動性が向上するとともに、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の気孔率が低下する。流動性の高い溶射用粉末の場合、溶射時に安定した供給が可能であるため、得られる溶射皮膜では耐プラズマエロージョン性を含めた品質が向上する。また、気孔率の低い溶射皮膜は、プラズマエロージョンに対して高い耐久性を有する。この点、溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比を0.10以上、さらに言えば0.12以上、もっと言えば0.14以上に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末を得ることができる。
【0021】
また、溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比は0.30以下であることが好ましく、より好ましくは0.27以下、さらに好ましくは0.25以下である。この比が小さくなるにつれて溶射用粉末の緻密さが低下するため、溶射に際して熱源により溶射用粉末が溶融又は軟化しやすくなる。この点、溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比を0.30以下、さらに言えば0.27以下、もっと言えば0.25以下に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶融又は軟化のしやすさを有する溶射用粉末を得ることができる。
【0022】
造粒−焼結粒子中の細孔の直径についての頻度分布は1μm以上に極大(ピーク)を有することが好ましい。この極大に対応する細孔直径の大きさが大きくなるにつれて、造粒−焼結粒子の緻密さが低下するため、溶射用粉末の溶射に際して熱源により造粒−焼結粒子が溶融又は軟化しやすくなる。この点、造粒−焼結粒子中の細孔の直径についての頻度分布が1μm以上に極大を有するように設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶融又は軟化のしやすさを有する溶射用粉末を得ることができる。
【0023】
溶射用粉末の平均粒子径は20μmよりも大きいことが好ましく、より好ましくは23μm以上、さらに好ましくは25μm以上である。溶射用粉末の平均粒子径が大きくなるにつれて、溶射用粉末の流動性は向上する。流動性の高い溶射用粉末の場合、溶射時に安定した供給が可能であるため、得られる溶射皮膜では耐プラズマエロージョン性を含めた品質が向上する。この点、溶射用粉末の平均粒子径を20μmよりも大きく、さらに言えば23μm以上、もっと言えば25μm以上に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した流動性を有する溶射用粉末を得ることができる。
【0024】
また、溶射用粉末の平均粒子径は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは47μm以下、さらに好ましくは45μm以下である。溶射用粉末の平均粒子径が小さくなるにつれて、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の気孔率は低下する。上述したように、気孔率の低い溶射皮膜は、プラズマエロージョンに対して高い耐久性を有する。この点、溶射用粉末の平均粒子径を50μm以下、さらに言えば47μm以下、もっと言えば45μm以下に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末を得ることができる。
【0025】
溶射用粉末の安息角は50度以下であることが好ましく、より好ましくは48度以下、さらに好ましくは45度以下である。安息角が小さくなるにつれて、溶射用粉末の流動性が向上するとともに、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の気孔率が低下する。上述したように、流動性の高い溶射用粉末からは耐プラズマエロージョン性を含めた品質が良好な溶射皮膜を得ることが可能であり、気孔率の低い溶射皮膜はプラズマエロージョンに対して高い耐久性を有する。この点、溶射用粉末の安息角を50度以下、さらに言えば48度以下、もっと言えば45度以下に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末を得ることができる。
【0026】
溶射用粉末の造粒−焼結粒子中の細孔の累積容積は0.02〜0.16cm/gであることが好ましい。単位重量当たりの造粒−焼結粒子中の細孔の累積容積が大きくなるにつれて、造粒−焼結粒子の緻密さが低下するため、溶射用粉末の溶射に際して熱源により造粒−焼結粒子が溶融又は軟化しやすくなる。この点、造粒−焼結粒子中の細孔の累積容積を0.02cm/g以上に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶融又は軟化のしやすさを有する溶射用粉末を得ることができる。一方、単位重量当たりの造粒−焼結粒子中の細孔の累積容積が小さくなるにつれて、造粒−焼結粒子を構成する一次粒子同士の接合面積が大きくなるため、造粒−焼結粒子は崩壊しにくくなる。上述したように、崩壊しにくい造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは耐プラズマエロージョン性の高い溶射皮膜を得ることが可能である。この点、造粒−焼結粒子中の細孔の累積容積を0.16cm/g以下に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した崩壊しにくさを有する造粒−焼結粒子を得ることができる。
【0027】
溶射用粉末のフィッシャー径に対する平均粒子径の比は1.4〜6.0であることが好ましい。この比が大きくなるにつれて、造粒−焼結粒子の緻密さが低下するため、溶射用粉末の溶射に際して熱源により造粒−焼結粒子が溶融又は軟化しやすくなる。この点、溶射用粉末のフィッシャー径に対する平均粒子径の比を1.4以上に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した溶融又は軟化のしやすさを有する溶射用粉末を得ることができる。一方、この比が小さくなるにつれて、造粒−焼結粒子を構成する一次粒子同士の接合面積が大きくなるため、造粒−焼結粒子は崩壊しにくくなる。上述したように、崩壊しにくい造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは耐プラズマエロージョン性の高い溶射皮膜を得ることが可能である。この点、溶射用粉末のフィッシャー径に対する平均粒子径の比を6.0以下に設定することにより、実用上特に好適なレベルの耐プラズマエロージョン性を備える溶射皮膜の形成に適した崩壊しにくさを有する造粒−焼結粒子を得ることができる。
【0028】
本実施形態の溶射用粉末はプラズマ溶射法又はそれ以外の溶射法により溶射皮膜を形成する用途で使用される。プラズマ溶射の場合には、それ以外の溶射法の場合に比べて、耐プラズマエロージョン性の高い溶射皮膜を溶射用粉末から形成することができる。従って、本実施形態の溶射用粉末の溶射はプラズマ溶射で行われることが好ましい。
【0029】
図1に示すように、本実施形態における耐プラズマ性部材11は、基材12と、該基材12の表面に設けられた溶射皮膜13とを備える。基材12は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム含有セラミックス、及び炭素含有セラミックスから選ばれる少なくともいずれか一つの物質から形成されることが好ましい。すなわち、基材12の材質は、アルミニウム又はアルミニウム合金であってもよいし、アルミナや窒化アルミナのようなアルミニウム含有セラミックスであってもよい。あるいは、アモルファスカーボンや炭化ケイ素を含んだ炭素含有セラミックスであってもよい。基材12の表面の溶射皮膜13は、上記の溶射用粉末を溶射することにより、好ましくはプラズマ溶射することにより形成される。
【0030】
この耐プラズマ性部材11は、半導体ウエハなどの被処理体をプラズマにより処理するための例えば図2に示すようなプラズマ処理チャンバー21内に設置してチャンバー21内のパーツとして使用される。一般に、プラズマ処理チャンバー21は、被処理体を載置する載置台を兼ねた下部電極22と、下部電極22に対向した上部電極23とを有する。上部電極23には第1の高周波電源24が接続されており、この第1の高周波電源24から上部電極23に高周波を印加することにより、ガス供給手段25から供給される処理ガスからプラズマが生成する。また、下部電極22には第2の高周波電源26が接続されており、この第2の高周波電源26から下部電極22に高周波を印加することにより、被処理体上にはDCバイアスが発生する。このDCバイアスにより被処理体上へのイオン衝突が加速され、プラズマエッチングの反応が促進される。前記処理ガス及びエッチングにより発生した反応生成物は、ロアインシュレータ27、デポシールド(堆積シールド)28及びアッパーインシュレータ29によって囲まれた空間及びバッフル板30を通じて、排気ポンプ(図示略)によりチャンバー21内から排出される。ロアインシュレータ27、デポシールド28及びアッパーインシュレータ29によって囲まれた空間には処理ガスから生成したプラズマも拡散する。従って、耐プラズマ性部材11は、ロアインシュレータ27、デポシールド28又はアッパーインシュレータ29として使用されることが好ましい。なお、耐プラズマ性部材11の溶射皮膜13は、基材12の少なくともプラズマに曝される面の上に設けられてさえいればよい。
【0031】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
・ 本実施形態の溶射用粉末では、溶射用粉末中の造粒−焼結粒子が原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなり、造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が2〜10μmであり、造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜50MPaである。そのため、本実施形態の溶射用粉末から形成される溶射皮膜は、実用に足る耐プラズマエロージョン性を備える。しかも、この溶射皮膜がプラズマエロージョンを受けたときに発生するパーティクルのサイズは比較的小さいものである。これは、溶射用粉末が適度な溶融又は軟化しやすさを有するため、得られる溶射皮膜が緻密かつ均一であることが理由と考えられる。従って、本実施形態の溶射用粉末から形成される溶射皮膜は、半導体デバイス製造装置や液晶デバイス製造装置などのプラズマエロージョンを防止する目的において有用である。換言すれば、本実施形態の溶射用粉末は、半導体デバイス製造装置や液晶デバイス製造装置などのプラズマエロージョンを防止する目的において有用な溶射皮膜の形成に適している。
【0032】
前記実施形態を次のように変更してもよい。
・ 溶射用粉末は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子を希土類元素の種類が異なる2種類以上含有してもよい。
【0033】
・ 溶射用粉末には原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子以外の成分が含まれてもよい。ただし、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、その含有量は10%未満であることが好ましく、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満である。
【0034】
・ 溶射用粉末中の造粒−焼結粒子には原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物以外の成分が含まれてもよい。ただし、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、その含有量は10%未満であることが好ましく、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満である。
【0035】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
希土類酸化物の造粒−焼結粒子からなる実施例1〜18及び比較例1〜13の溶射用粉末を用意した。各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
【0036】
表1の“希土類酸化物の種類”欄には各溶射用粉末に含まれる希土類酸化物の組成式を示す。
表1の“一次粒子の平均粒子径”欄には、各溶射用粉末中の造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて測定した結果を示す。
【0037】
表1の“圧壊強度”欄には、各溶射用粉末中の造粒−焼結粒子の圧壊強度を測定した結果を示す。具体的には、式:σ=2.8×L/π/dに従って算出される各溶射用粉末中の造粒−焼結粒子の圧壊強度σ[MPa]を示す。上式中、Lは臨界荷重[N]を表し、dは溶射用粉末の平均粒子径[mm]を表す。臨界荷重は、一定速度で増加する圧縮荷重を圧子で造粒−焼結粒子に加えたときに、圧子の変位量が急激に増加する時点において造粒−焼結粒子に加えられた圧縮荷重の大きさである。この臨界荷重の測定には、(株)島津製作所製の微小圧縮試験装置“MCTE−500”を使用した。
【0038】
表1の“嵩比重”欄及び“真比重”欄には、それぞれ各溶射用粉末の嵩比重及び真比重を、JIS Z2504に準じて測定した結果を示す。
表1の“嵩比重/真比重”欄には、各溶射用粉末で測定される嵩比重及び真比重を用いて真比重に対する嵩比重の比を計算した結果を示す。
【0039】
表1の“細孔直径の頻度分布における極大の位置”欄には、各溶射用粉末の造粒−焼結粒子中の細孔の直径についての頻度分布における極大の位置を、(株)島津製作所製の水銀圧入式ポロシメーター“ポアサイザー9320”を用いて測定した結果を示す。
【0040】
表1の“溶射用粉末の平均粒子径”欄には、各溶射用粉末の平均粒子径を、(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定機“LA−300”を用いて測定した結果を示す。溶射用粉末の平均粒子径は、溶射用粉末中の全粒子の積算体積の50%以上になるまで粒子径の小さい粒子から順に溶射用粉末中の粒子の体積を積算したときに最後に積算される粒子の粒子径を示す。
【0041】
表1の“安息角”欄には、筒井理化学器械(株)のA.B.D粉体特性測定機“A.B.D−72形”を用いて各溶射用粉末の安息角を測定した結果を示す。
表1の“細孔の累積容積”欄には、各溶射用粉末の単位重量当たりの造粒−焼結粒子中の細孔の累積容積を、(株)島津製作所製の水銀圧入式ポロシメーター“ポアサイザー9320”を用いて測定した結果を示す。
【0042】
表1の“溶射用粉末のフィッシャー径”欄には、各溶射用粉末のフィッシャー径を、日本工業規格JIS H2116に準じて、すなわちフィッシャーサブシーブサイザーを用いたフィッシャー法により測定した結果を示す。
【0043】
表1の“平均粒子径/フィッシャー径”欄には、各溶射用粉末で測定される平均粒子径及びフィッシャー径を用いてフィッシャー径に対する平均粒子径の比を計算した結果を示す。
【0044】
実施例1〜18及び比較例1〜13の溶射用粉末を表2に示す溶射条件で溶射して厚さ200μmの溶射皮膜を形成した。得られた溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を評価した結果を表1の“溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性”欄に示す。具体的には、まず、平均粒子径0.06μmのコロイダルシリカを用いて各溶射皮膜の表面を鏡面研磨し、研磨後の溶射皮膜の表面の一部をポリイミドテープでマスキングしてから、その溶射皮膜の表面全体を表3に示す条件でプラズマエッチングした。その後、ケーエルエー・テンコール社の段差測定装置“アルファステップ”を用いて、マスキングした部分とマスキングしなかった部分の間の段差の大きさを測定し、測定された段差の大きさをエッチング時間で除することでエッチング速度を算出した。“溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性”欄中、◎(優)は比較例1の溶射皮膜のエッチング速度に対する溶射皮膜のエッチング速度の比が0.75未満であったことを示し、○(良)は0.75以上0.80未満、△(可)は0.80以上0.90未満、×(不良)は0.90以上であったことを示す。
【0045】
実施例1〜18及び比較例1〜13の溶射用粉末を表2に示す溶射条件で溶射して得られる厚さ200μmの溶射皮膜を表3に示す条件でプラズマエッチングした。プラズマエッチングによりエロージョンを受けた各溶射皮膜で測定される平均表面粗度Raの値に関する四段階評価の結果を表1の“プラズマエロージョンを受けた溶射皮膜の平均表面粗度Ra”欄に示す。同欄中の◎(優)はプラズマエロージョンを受けた比較例1の溶射皮膜の平均表面粗度Raに対する平均表面粗度Raの比が0.60未満であったことを示し、○(良)は0.60以上0.80未満、△(可)は0.80以上0.95未満、×(不良)は0.95以上であったことを示す。なお、プラズマエロージョンを受けた溶射皮膜で測定される平均表面粗度Raの値が小さいほど、溶射皮膜がプラズマエロージョンを受けたときに発生するパーティクルのサイズも小さい傾向が認められた。したがって、溶射皮膜がプラズマエロージョンを受けたときに発生するパーティクルのサイズを推し量る指標としてプラズマエロージョンを受けた溶射皮膜で測定される平均表面粗度Raの値を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

表1に示すように、実施例1〜18の溶射皮膜では、耐プラズマエロージョン性及び平均表面粗度Raのいずれの評価についても△(可)以上であり、実用上満足できる結果が得られた。特に、実施例9,13の溶射皮膜では、耐プラズマエロージョン性及び平均表面粗度Raのいずれの評価についても◎(優)であり、このことから原子番号が66〜68の希土類元素の酸化物を用いることが望ましいことが分かった。これに対して、比較例1〜13の溶射皮膜では、耐プラズマエロージョン性及び平均表面粗度Raのいずれかの評価が×(不良)であり、実用上満足できる結果が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態における耐プラズマ性部材の断面図。
【図2】プラズマ処理チャンバーの模式断面図。
【符号の説明】
【0050】
11…耐プラズマ性部材、12…基材、13…溶射皮膜、21…プラズマ処理チャンバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、
前記造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が2〜10μmであり、
前記造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜50MPaであることを特徴とする溶射用粉末。
【請求項2】
溶射用粉末の真比重に対する嵩比重の比が0.10〜0.30である請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
前記造粒−焼結粒子中の細孔の直径についての頻度分布が1μm以上に極大を有する請求項1又は2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末をプラズマ溶射して溶射皮膜を形成する溶射皮膜の形成方法。
【請求項5】
被処理体をプラズマにより処理するためのプラズマ処理チャンバー内に設置して使用される耐プラズマ性部材であって、該耐プラズマ性部材は、
基材と、
該基材の少なくとも前記プラズマに曝される面の上に設けられた溶射皮膜とを備え、
前記溶射皮膜は、原子番号60〜70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる造粒−焼結を含有する溶射用粉末を溶射して形成されるものであり、前記造粒−焼結粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が2〜10μmであり、前記造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜50MPaであることを特徴とする耐プラズマ性部材。
【請求項6】
前記基材は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム含有セラミックス、及び炭素含有セラミックスから選ばれる少なくともいずれか一つの物質から形成される請求項5に記載の耐プラズマ性部材。
【請求項7】
前記溶射皮膜は、前記溶射用粉末をプラズマ溶射して形成される請求項5又は6に記載の耐プラズマ性部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−133528(P2008−133528A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204523(P2007−204523)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】