説明

溶射用粉末

【課題】 緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供する。
【解決手段】 本発明の溶射用粉末においては、溶射用粉末の90%粒子径D90が15μm以下であり、かつ、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下である。溶射用粉末を構成する材料の理論密度で溶射用粉末の嵩密度を除した値は、好ましくは0.15以上である。溶射用粉末の粒度の分散指数は、好ましくは0.7以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶射用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械や一般向け機械の金属部品に耐食性、耐摩耗性、耐熱性等の有用な性質を付与するべく、当該部品の表面に溶射皮膜を設ける技術が知られている。溶射皮膜は、加熱により軟化又は溶融した溶射材料を基材に吹き付けて形成されるため、本質的にその表面は平滑でなく粗面である。従って、平滑な表面が要求される場合には、目的の表面粗さが得られるまで溶射皮膜を研磨することが行われている。ところが、上記のような有用な性質を持つ溶射皮膜は硬度が一般に高いため、多くの場合、溶射皮膜の研磨は容易でない。特に、炭化タングステン及び金属を含有するサーメットを溶射して形成される溶射皮膜の場合には、ダイヤモンド砥粒を使用して研磨する必要があってコストが非常に嵩む。従って、溶射後の研磨を省略又は簡略化できるような表面粗さの小さい溶射皮膜を形成する技術が求められている。
【0003】
また、溶射皮膜は本質的にポーラスであり、溶射皮膜を貫通して基材から溶射皮膜の表面にまで達する貫通気孔を含むことがある。しかしながら、基材の腐食を防ぐ目的で設けられる場合など、用途によっては貫通気孔を含まないことが溶射皮膜には要求される。貫通気孔を含まないことが要求される場合には従来、溶射皮膜を厚く形成することにより対処がなされている。しかしながら、厚みが増すほどに溶射皮膜のコストが上昇するため、溶射皮膜の厚みは必要最小限であることが望ましい。従って、厚みが薄くても貫通気孔を含まないような溶射皮膜を形成する技術も求められている。また、貫通気孔を防ぐための別の対処として封孔処理により貫通気孔を塞ぐ方法がある。しかしながら、この場合も、工程が増えるためにコストが上昇する。
【0004】
こうした溶射皮膜に対する要求に応える技術の一つとして、細粒の溶射用粉末から溶射皮膜を形成することが考えられる。細粒の溶射用粉末を溶射した場合には、表面粗さが小さく、かつ貫通気孔を含まない緻密な溶射皮膜を得ることが可能である。しかしながら、この場合、溶射用粉末供給装置から溶射機への溶射用粉末の供給が不安定になる虞も大きい。これは、細粒になるにつれて溶射用粉末の流動性が低下することが理由である。例えば、溶射用粉末の供給に脈動が生じた場合には、溶射皮膜の品質は大きく低下する。また、溶射用粉末にブリッジ(粉体架橋)が生じた場合には、溶射用粉末が溶射機に円滑に供給されず、場合によっては溶射用粉末の供給の停止が起こる。
【0005】
例えば特許文献1には、90%粒子径D90が20μm以下である溶射用粉末から溶射皮膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の溶射用粉末は、溶射用粉末中の粒子径1μm以下の微粒子の割合が何ら規定されていないため、粒子径1μm以下の微粒子を多く含む虞がある。溶射用粉末に粒子径1μm以下の微粒子が多く含まれると、溶射用粉末の流動性が低下するのに加えて、溶射用粉末の凝集が起こりやすくなる。凝集を起こした溶射用粉末が溶射皮膜に混入すると、溶射皮膜の均一性や緻密性が低下したり、溶射皮膜に貫通気孔が生じたり、溶射皮膜の表面粗さが増大したりすることがある。
【特許文献1】特開2003−129212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、緻密で表面粗さの低い溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、溶射用粉末の90%粒子径D90が15μm以下であり、かつ、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であることを特徴とする溶射用粉末を提供する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、溶射用粉末を構成する材料の理論密度で溶射用粉末の嵩密度を除した値が0.15以上である請求項1に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項3に記載の発明は、溶射用粉末の粒度の分散指数が0.7以下である請求項1又は2に記載の溶射用粉末を提供する。
【0009】
請求項4に記載の発明は、溶射用粉末が造粒−焼結粉末である請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項5に記載の発明は、溶射用粉末中の各粒子がサーメットからなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態に係る溶射用粉末はサーメットの造粒−焼結粉末であり、溶射用粉末中の各粒子は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つと炭化タングステンから構成されている。
【0012】
溶射用粉末中のセラミック成分である炭化タングステンの含有量が92質量%よりも多い場合、換言すれば溶射用粉末中の金属成分であるコバルト、クロム及びニッケルの含有量の合計が8質量%よりも少ない場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の脆性が増大して溶射皮膜が高い耐摩耗性を有さない虞がある。従って、溶射用粉末中のセラミック成分の含有量は92質量%以下であることが好ましく、溶射用粉末中の金属成分の含有量は8質量%以上であることが好ましい。
【0013】
溶射用粉末の90%粒子径D90が15μmよりも大きい場合(すなわち溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が15μm以下の粒子の積算体積の比率が90%よりも小さい場合)には、粒子径が15μmよりも大きい粒子が溶射用粉末に多く含まれるため、緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を溶射用粉末から形成することは困難である。従って、溶射用粉末の90%粒子径D90が15μm以下であること(すなわち粒子径が15μm以下の粒子の積算体積の比率が90%以上であること)は必須である。ただし、溶射用粉末の90%粒子径D90がたとえ15μm以下であっても13μmよりも大きい場合(すなわち粒子径が13μm以下の粒子の積算体積の比率が90%よりも小さい場合)には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の表面粗さ及び緻密さはそれほど改善されない。従って、溶射用粉末の90%粒子径D90は好ましくは13μm以下(好ましくは粒子径が13μm以下の粒子の積算体積の比率が90%以上)である。
【0014】
溶射用粉末の90%粒子径D90が5μmよりも小さい場合(すなわち粒子径が5μm以下の粒子の積算体積の比率が90%よりも大きい場合)、さらに言えば7μmよりも小さい場合(すなわち粒子径が7μm以下の粒子の積算体積の比率が90%よりも大きい場合)には、粒子径が5μm(又は7μm)以下の粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の流動性がやや低下する。従って、溶射用粉末の90%粒子径D90は好ましくは5μm以上(好ましくは粒子径が5μm以下の粒子の積算体積の比率が90%以下)であり、溶射用粉末の90%粒子径D90はより好ましくは7μm以上(より好ましくは粒子径が7μm以下の粒子の積算体積の比率が90%以下)である。
【0015】
溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%よりも大きい場合(すなわち溶射用粉末の2%粒子径D2が1μmよりも小さい場合)には、粒子径が1μm以下の粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の流動性が大きく低下し、その結果、溶射時の溶射用粉末供給装置から溶射機への溶射用粉末の供給が不安定になる。また、溶射用粉末の凝集が起こり、その結果、溶射皮膜の均一性や緻密性が低下したり、溶射皮膜に貫通気孔が生じたり、溶射皮膜の表面粗さが増大したりする。従って、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であること(すなわち溶射用粉末の2%粒子径D2が1μm以上であること)は必須である。ただし、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率がたとえ2%以下であっても1.5%よりも大きい場合(すなわち溶射用粉末の1.5%粒子径D1.5が1μmよりも小さい場合)には、溶射時の溶射用粉末の供給安定性はそれほど改善されない。従って、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率は好ましくは1.5%以下(すなわち溶射用粉末の1.5%粒子径D1.5は1μm以下)である。
【0016】
溶射用粉末の粒度の分散指数が0.7よりも大きい場合、さらに言えば0.67よりも大きい場合には、溶射用粉末中に含まれる粒子径の小さい粒子の割合が高くなるために溶射用粉末の流動性がやや低下する。あるいは、溶射用粉末中に含まれる粒子径の大きい粒子の割合が高くなるために溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密度がやや低下したり表面粗さがやや増大したりする虞がある。従って、溶射用粉末の粒度の分散指数は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.67以下である。
【0017】
溶射用粉末を構成する材料の理論密度で溶射用粉末の嵩密度を除した値が0.15よりも小さい場合、さらに言えば0.17よりも小さい場合には、溶射時の溶射用粉末の供給安定性がやや低下する虞や、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密度がやや低下する虞がある。従って、溶射用粉末を構成する材料の理論密度で溶射用粉末の嵩密度を除した値は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.17以上である。
【0018】
次に、本実施形態に係る溶射用粉末の製造方法、すなわちコバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つと炭化タングステンから構成される造粒−焼結サーメット粉末の製造方法について説明する。まず、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つからなる金属粉末と炭化タングステン粉末を分散媒に混合することによりスラリーが調製される。スラリーには適当なバインダを添加してもよい。次に、転動型造粒機、噴霧型造粒機又は圧縮造粒機を用いてスラリーから造粒粉末を作製する。こうして得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つと炭化タングステンから構成される造粒−焼結サーメット粉末は製造される。なお、造粒粉末の焼結は、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよく、電気炉及びガス炉のいずれを用いて行ってもよい。
【0019】
本実施形態に係る溶射用粉末は、例えば高速フレーム溶射により溶射皮膜を形成する用途において使用される。本実施形態に係る溶射用粉末を高速フレーム溶射して形成される溶射皮膜は良好な耐摩耗性を有する。本実施形態に係る溶射用粉末を特に好適に溶射することができる高速フレーム溶射機としては、例えば、Praxair/TAFA社製の“JP−5000”、スルザーメテコ社製の“ダイヤモンドジェット(ハイブリッドタイプ)”、ウィテコジャパン社製の“θガン”等の高出力タイプの高速フレーム溶射機が挙げられる。
【0020】
本実施形態は、以下の利点を有する。
・ 溶射用粉末の90%粒子径D90が15μm以下に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を形成可能である。
【0021】
・ さらに、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、溶射皮膜の形成を良好に行うことができる。
【0022】
・ 溶射用粉末を構成する材料の理論密度で溶射用粉末の嵩密度を除した値が0.15以上に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、溶射時の溶射用粉末の供給安定性の低下及び溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密度の低下がより確実に防止される。
【0023】
・ 溶射用粉末の粒度の分散指数が0.7以下に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、溶射用粉末中の粒子のサイズが不揃いなことに起因する弊害の発生が抑制される。
【0024】
・ 造粒−焼結粉末は一般に、溶融−粉砕粉末及び焼結−粉砕粉末に比べて、流動性が良好であり、製造過程での不純物の混入の虞も少ない。従って、造粒−焼結粉末からなる本実施形態に係る溶射用粉末もこれらの利点を有する。
【0025】
・ 本実施形態に係る溶射用粉末中の各粒子はサーメットからなる。そのため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、良好な耐摩耗性を有する溶射皮膜を形成可能である。
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
【0026】
・ 溶射用粉末中の各粒子は、炭化クロムなどの炭化タングステン以外のセラミックスを炭化タングステンの代わりかあるいは炭化タングステンに加えてさらに含有してもよい。
【0027】
・ 溶射用粉末中の各粒子は、コバルト、クロム及びニッケル以外の金属をコバルト、クロム及びニッケルの代わりかあるいはコバルト、クロム及びニッケルに加えてさらに含有してもよい。
【0028】
・ 溶射用粉末は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つと炭化タングステンから構成されるサーメットの造粒−焼結粉末以外の成分を含有してもよい。ただし、溶射用粉末中の当該造粒−焼結粉末の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0029】
・ 溶射用粉末は、造粒−焼結サーメット粉末の代わりに溶融−粉砕サーメット粉末又は焼結−粉砕サーメット粉末であってもよい。この場合、溶射用粉末中の各粒子は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つと炭化タングステンから構成されてもよいし、それ以外であってもよい。なお、溶融−粉砕粉末は、原料粉末を溶融して冷却固化した後に粉砕及び分級して製造され、焼結−粉砕粉末は、原料粉末を焼結した後に粉砕及び分級して製造される。
【0030】
・ 本実施形態に係る溶射用粉末は、高速フレーム溶射以外の溶射方法により溶射皮膜を形成する用途において使用されてもよい。
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0031】
実施例1〜7及び比較例1〜4においては、炭化タングステンを主成分として、コバルトが12重量%含まれる造粒−焼結サーメット粉末を溶射用粉末として用意した。実施例8においては、炭化タングステンとコバルトから構成される溶融−粉砕サーメット粉末を溶射用粉末として用意した。実施例9及び比較例5においては、炭化タングステンを主成分として、コバルトが10重量%とクロムが4重量%含まれる造粒−焼結サーメット粉末を溶射用粉末として用意した。実施例1〜9及び比較例1〜5に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
【0032】
表1の“粒子径が1μm以下の粒子の比率”欄には、各溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率を示す。この比率は、(株)堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度測定機“LA−300”を用いて測定した。
【0033】
表1の“10%粒子径D10”、“50%粒子径D50”及び“90%粒子径D90”欄には、(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定機“LA−300”を用いて測定した各溶射用粉末の10%粒子径D10、50%粒子径D50及び90%粒子径D90をそれぞれ示す。なお、溶射用粉末の10%粒子径D10は、積算体積が溶射用粉末中の全粒子の体積の合計の10%以上になるまで粒子径の小さい粒子から順に溶射用粉末中の粒子の体積を積算したときに最後に積算される粒子の粒子径である。溶射用粉末の50%粒子径D50は、積算体積が溶射用粉末中の全粒子の体積の合計の50%以上になるまで粒子径の小さい粒子から順に溶射用粉末中の粒子の体積を積算したときに最後に積算される粒子の粒子径である。溶射用粉末の90%粒子径D90は、積算体積が溶射用粉末中の全粒子の体積の合計の90%以上になるまで粒子径の小さい粒子から順に溶射用粉末中の粒子の体積を積算したときに最後に積算される粒子の粒子径である。
【0034】
表1の“分散指数”欄には、式:D=(D90−D10)/(D90+D10)に従って算出される各溶射用粉末の粒度の分散指数Dを示す。式中、D90は溶射用粉末の90%粒子径を表し、D10は溶射用粉末の10%粒子径を表する。
【0035】
表1の“嵩密度/理論密度”欄には、嵩比重測定機(JIS Z2504参照)を用いて測定した各溶射用粉末の嵩密度を、溶射用粉末を構成する材料の理論密度で除した値を示す。
【0036】
厚さ200μmの溶射皮膜を形成するべく、実施例1〜4,6〜9及び比較例1〜5に係る各溶射用粉末を表2に示す第1溶射条件で高速フレーム溶射し、実施例5に係る溶射用粉末を表2に示す第2溶射条件で高速フレーム溶射した。そして、溶射皮膜を形成することができたか否かに基づいて、良(○)、不良(×)の二段階で各溶射用粉末を評価した。すなわち、溶射皮膜を形成することができた場合には良、溶射用粉末供給装置から溶射機への溶射用粉末の供給が停止して溶射皮膜を形成することができなかった場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“皮膜形成”欄に示す。
【0037】
実施例1〜9及び比較例1〜5に係る各溶射用粉末を高速フレーム溶射して形成した溶射皮膜上の任意の15カ所の表面粗さRaを表3に示す条件で測定した。このとき測定された15カ所の表面粗さRaの平均値に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。すなわち、表面粗さRaの平均値が1.3μm未満の場合には優、1.3μm以上1.6μm未満の場合には良、1.6μm以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“研磨前の溶射皮膜の表面粗さ”欄に示す。また、測定された15カ所の表面粗さRaの標準偏差に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。すなわち、表面粗さRaの標準偏差が0.3未満の場合には優、0.3以上0.45未満の場合には良、0.45以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“表面粗さのばらつき”欄に示す。
【0038】
実施例1〜9及び比較例1〜5に係る各溶射用粉末を高速フレーム溶射して形成した溶射皮膜上の任意の15カ所の表面粗さRaを、溶射皮膜を鏡面研磨した後に表3に示す条件で再び測定した。このとき測定された15カ所の表面粗さRaの平均値に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。すなわち、表面粗さRaの平均値が0.006μm未満の場合には優、0.006μm以上0.010μm未満の場合には良、0.010μm以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“研磨後の溶射皮膜の表面粗さ”欄に示す。
【0039】
実施例1〜9及び比較例1〜5に係る各溶射用粉末を高速フレーム溶射して基材上に形成した厚さ50μmの溶射皮膜を塩水噴霧試験(JIS Z 2371参照)に供し、その後、基材に赤錆が発生しているか否かを目視により確認した。塩水噴霧試験後の赤錆の発生状況に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。すなわち、24時間の塩水噴霧後に赤錆が認められる場合には不良、24時間の塩水噴霧後には赤錆が認められないが48時間の塩水噴霧後には赤錆が認められる場合には良、48時間の塩水噴霧後にも赤錆が認められない場合には優と評価した。この評価の結果を表1の“緻密さ”欄に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

表1に示すように、実施例1〜9においては、研磨前の溶射皮膜の表面粗さ及び緻密さに関する評価がいずれも優又は良であった。この結果から、実施例1〜9に係る溶射用粉末によれば緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を形成可能であることが分かる。
【0043】
前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 溶射用粉末中のセラミックス成分の含有量が92質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の溶射用粉末。
【0044】
・ 溶射用粉末中の金属成分の含有量が8質量%以上であることを特徴とする請求項5に記載の溶射用粉末。
・ 前記サーメットが炭化タングステンを含むことを特徴とする請求項5に記載の溶射用粉末。
【0045】
・ 前記サーメットがコバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項5に記載の溶射用粉末。
・ 高速フレーム溶射により溶射皮膜を形成する用途において使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【0046】
・ 請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末を溶射することを特徴とする溶射方法。
・ 請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末を溶射して形成されることを特徴とする溶射皮膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射用粉末の90%粒子径D90が15μm以下であり、かつ、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であることを特徴とする溶射用粉末。
【請求項2】
溶射用粉末を構成する材料の理論密度で溶射用粉末の嵩密度を除した値が0.15以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
溶射用粉末の粒度の分散指数が0.7以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
溶射用粉末が造粒−焼結粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
溶射用粉末中の各粒子がサーメットからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末。