説明

溶射用粉末

【課題】 緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供する。
【解決手段】 本発明の溶射用粉末は、イットリア原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリア造粒−焼結粒子を含有する。造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径は2〜10μmであり、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度は10〜40MPaである。溶射用粉末は、好ましくはプラズマ溶射により溶射皮膜を形成する用途に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリウム酸化物(イットリア)造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体製造装置の多くの部材は、ステンレス鋼やアルミニウムなどの金属から形成されていて耐プラズマエロージョン性が高くない。ただし、プラズマによるエロージョン損傷を受ける虞のある部材に関しては、プラズマによるエロージョン損傷を防止するためにアルミナやイットリアなどの酸化物セラミックスから形成されている。近年、シリコンウエハの大口径化に伴い、半導体製造装置の大型化が進んでおり、それに伴って、半導体製造装置の部材も大型化が進んでいる。酸化物セラミックスのバルク体は加工が難しくコストも高いため、プラズマによるエロージョン損傷を受ける虞のある部材の中でも大型のものに関しては特に、酸化物セラミックスのバルク体から形成するのではなく、金属製の基材の表面に酸化物セラミックスコーティングを設けることにより形成することが行われている。
【0003】
酸化物セラミックスコーティングを作製する手段の一つとしてプラズマ溶射法はよく知られている。プラズマ溶射法は、物理気相成長法や化学気相成長法に比べて皮膜を作製する速度が高く、しかも基材の材質が制限されないという利点を有する。また、物理気相成長法や化学気相成長法は、真空下、減圧下、又は気体の組成が制御された雰囲気内で行われる必要があるのに対し、プラズマ溶射法は大気中での実施が可能といった長所もある。
【0004】
特許文献1及び2には、イットリア造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末をプラズマ溶射法で溶射して酸化物セラミックスコーティング(イットリア溶射皮膜)を形成する技術が開示されている。溶射用粉末は通常、内径が数mm程度の細いパウダーチューブを通じて溶射用粉末供給装置から溶射装置へと搬送される。従って、パウダーチューブの閉塞を防止して溶射用粉末の安定した搬送を実現するためには、溶射用粉末が良好な流動性を備えることが重要である。その点、ほぼ球形の造粒−焼結粒子は、溶融−粉砕粒子及び焼結−粉砕粒子に比べて良好な流動性を備えるため、溶射用粉末材料として好適である。造粒−焼結粒子はまた、溶融−粉砕粒子及び焼結−粉砕粒子に比べて製造過程での不純物の混入の虞が少ない点でも、溶射用粉末材料として好適である。
【0005】
ところで、耐プラズマエロージョン性を要求される用途向けの溶射皮膜には気孔率が低く緻密であることが要求されている。しかしながら、イットリア造粒−焼結粒子からなる特許文献1及び2に記載の溶射用粉末から溶射皮膜を形成した場合には、溶射フレームによって溶融された飛行粒子中に気孔が残りやすいために、皮膜の気孔率が高くなる傾向がある。緻密な溶射皮膜を形成するためには、例えば平均粒子径が20μm以下の微細な溶射用粉末を使用する方法もあるが、この場合には溶射用粉末の流動性が悪く安定供給が困難になったり、スピッティングの発生が起こりやすくなる。なお、スピッティングは、過溶融した溶射用粉末が溶射装置のノズル内壁に付着堆積してできる堆積物が溶射皮膜に混入する現象をいい、溶射用粉末が細かな粒子を多く含むほどスピッティングは起こりやすい。スピッティングが発生すると、溶射皮膜の組織構造が不均一となるため、溶射皮膜の品質が著しく低下する。
【特許文献1】特開2002−302754号公報(段落[0018]、段落[0020])
【特許文献2】特開2002−363724号公報(段落[0068]〜段落[0070])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、イットリア原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリア造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が2〜10μmであり、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度が10〜40MPaである溶射用粉末を提供する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、イットリア造粒−焼結粒子が細孔半径分布のピークを0.2μm以上に有する請求項1に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項3に記載の発明は、イットリア造粒−焼結粒子のフィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が4以上である請求項1又は2に記載の溶射用粉末を提供する。
【0009】
請求項4に記載の発明は、イットリア造粒−焼結粒子の嵩比重が2.0以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項5に記載の発明は、プラズマ溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられる請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態に係る溶射用粉末は、イットリア原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリア造粒−焼結粒子から実質的になり、例えばプラズマ溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられる。
【0012】
溶射用粉末中のイットリアの含有量が95質量%よりも少ない場合、さらに言えば99質量%よりも少ない場合、もっと言えば99.9質量%よりも少ない場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性があまり良好でない虞がある。従って、溶射用粉末中のイットリアの含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、最も好ましくは99.9質量%以上である。
【0013】
造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が2μmよりも小さい場合には、溶射用粉末の溶射時にスピッティングが頻繁に発生して実用上支障がある。この場合のスピッティングの発生は、溶射用粉末中のイットリア造粒−焼結粒子が崩壊することにより生じるイットリア微粒子が溶射フレームにより極めて過溶融されやすいことに起因する。従って、スピッティングの発生を抑制するためには、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径は2μm以上であることが必須である。ただし、たとえ2μm以上であっても3μmよりも小さい場合、さらに言えば4μmよりも小さい場合には、スピッティングの発生があまり抑制されない虞がある。従って、スピッティングの発生をより強く抑制するためには、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上である。
【0014】
一方、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が10μmよりも大きい場合には、溶射用粉末中のイットリア造粒−焼結粒子の崩壊により生じるイットリア微粒子が溶射フレームにより溶融されにくいため、溶射用粉末から形成される溶射皮膜中に空隙が生じやすい。従って、気孔率の低い緻密な溶射皮膜を得ることは極めて難しい。よって、緻密な溶射皮膜を得るためには、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径は10μm以下であることが必須である。ただし、たとえ10μm以下であっても9μmよりも大きい場合、さらに言えば8μmよりも大きい場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。従って、より緻密な溶射皮膜を得るためには、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径は、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下である。
【0015】
イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度が10MPaよりも小さい場合には、溶射用粉末の溶射時にスピッティングが頻繁に発生して実用上支障がある。この場合のスピッティングの発生は、溶射用粉末供給装置内、あるいは溶射用粉末供給装置から溶射装置へ溶射用粉末を搬送するチューブ内で溶射用粉末中のイットリア造粒−焼結粒子が崩壊することによって、溶射フレームにより過溶融されやすいイットリア微粒子が極めて生じやすいことに起因する。従って、スピッティングの発生を抑制するためには、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度は10MPa以上であることが必須である。ただし、たとえ10MPa以上であっても12MPaよりも小さい場合、さらに言えば15MPaよりも小さい場合には、スピッティングの発生があまり抑制されない虞がある。従って、スピッティングの発生をより強く抑制するためには、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度は、好ましくは12MPa以上、より好ましくは15MPa以上である。
【0016】
一方、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度が40MPaよりも大きい場合には、溶射フレーム中でイットリア造粒−焼結粒子がほとんど崩壊しないため、イットリア造粒−焼結粒子中の細孔が溶射皮膜においてもほぼそのまま残ることになる。そのため、気孔率の低い緻密な溶射皮膜を得ることは極めて難しい。従って、緻密な溶射皮膜を得るためには、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度は40MPa以下であることが必須である。ただし、たとえ40MPa以下であっても38MPaよりも大きい場合、さらに言えば35MPaよりも大きい場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。従って、より緻密な溶射皮膜を得るためには、イットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度は、好ましくは38MPa以下、より好ましくは35MPa以下である。
【0017】
イットリア造粒−焼結粒子が細孔半径分布のピークを0.2μm未満、さらに言えば0.25μm未満、もっと言えば0.3μm未満に有する場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。溶射フレーム中でのイットリア造粒−焼結粒子の崩壊は、イットリア造粒−焼結粒子中の細孔が大きいほど起こりやすい。従って、細孔半径分布のピークを0.2μm未満(あるいは0.25μm未満又は0.3μm未満)に有するイットリア造粒−焼結粒子、すなわち小さい細孔を多く含むイットリア造粒−焼結粒子は、溶射フレーム中で十分に崩壊しない虞があり、そのため溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。よって、イットリア造粒−焼結粒子は細孔半径分布のピークを0.2μm以上に有することが好ましく、より好ましくは0.25μm以上、最も好ましくは0.3μm以上である。
【0018】
一方、イットリア造粒−焼結粒子が細孔半径分布のピークを3.0μm超、さらに言えば2.5μm超、もっと言えば2.0μm超に有する場合にも、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。これは、細孔半径分布のピークを3.0μm超(あるいは2.5μm超又は2.0μm超)に有するイットリア造粒−焼結粒子、すなわち大きい細孔を多く含むイットリア造粒−焼結粒子の場合には、溶射フレーム中での崩壊よりも先に溶融が起こりやすく、そのため溶射フレーム中でのイットリア造粒−焼結粒子の崩壊が不十分になる虞があるためである。従って、イットリア造粒−焼結粒子は細孔半径分布のピークを3.0μm以下に有することが好ましく、より好ましくは2.5μm以下、最も好ましくは2.0μm以下である。
【0019】
イットリア造粒−焼結粒子のフィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が4未満である場合、さらに言えば5未満、もっと言えば6未満である場合にもまた、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。フィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が大きいほどイットリア造粒−焼結粒子は細孔をより多く含む傾向があり、従って、この比が大きいほど溶射フレーム中でのイットリア造粒−焼結粒子の崩壊は起こりやすい。そのため、フィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が4未満(あるいは5未満又は6未満)の場合、すなわちこの比が小さすぎる場合には、イットリア造粒−焼結粒子が溶射フレーム中で十分に崩壊しない虞があり、そのため溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。よって、イットリア造粒−焼結粒子のフィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比は、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、最も好ましくは6以上である。
【0020】
一方、イットリア造粒−焼結粒子のフィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が18よりも大きい場合、さらに言えば16よりも大きい場合、もっと言えば12よりも大きい場合にも、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。これは、フィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が18よりも大きい場合(あるいは16又は12よりも大きい場合)には、イットリア造粒−焼結粒子が細孔を多く含みすぎる虞があるためである。イットリア造粒−焼結粒子中の細孔が多すぎる場合には、溶射フレーム中での崩壊よりも先に溶融が起こりやすく、そのため溶射フレーム中でのイットリア造粒−焼結粒子の崩壊が不十分になる虞がある。従って、イットリア造粒−焼結粒子のフィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比は、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、最も好ましくは12以下である。
【0021】
イットリア造粒−焼結粒子の嵩比重が2.0よりも大きい場合、さらに言えば1.5よりも大きい場合、もっと言えば1.3よりも大きい場合にもまた、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。嵩比重が小さいほどイットリア造粒−焼結粒子は細孔をより多く含む傾向があり、従って、イットリア造粒−焼結粒子の嵩比重が小さいほど溶射フレーム中でのイットリア造粒−焼結粒子の崩壊は起こりやすい。そのため、溶射用粉末の嵩比重が2.0よりも大きい場合(あるいは1.5又は1.3よりも大きい場合)、すなわち嵩比重が大きすぎる場合には、イットリア造粒−焼結粒子が溶射フレーム中で十分に崩壊しない虞があり、そのため溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。従って、イットリア造粒−焼結粒子の嵩比重は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、最も好ましくは1.3以下である。
【0022】
一方、イットリア造粒−焼結粒子の嵩比重が0.3よりも小さい場合、さらに言えば0.5よりも小さい場合、もっと言えば0.7よりも小さい場合にも、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密さがあまり良好でない虞がある。これは、嵩比重が0.3よりも小さい場合(あるいは0.5又は0.7よりも小さい場合)には、イットリア造粒−焼結粒子が細孔を多く含みすぎる虞があるためである。イットリア造粒−焼結粒子中の細孔が多すぎる場合には、溶射フレーム中での崩壊よりも先に溶融が起こりやすく、そのため溶射フレーム中でのイットリア造粒−焼結粒子の崩壊が不十分になる虞がある。従って、イットリア造粒−焼結粒子の嵩比重は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、最も好ましくは0.7以上である。
【0023】
溶射用粉末中の全イットリア造粒−焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のイットリア造粒−焼結粒子の積算体積の比率が20%よりも大きい場合、さらに言えば15%よりも大きい場合、もっと言えば10%よりも大きい場合には、溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。この場合の流動性の低下は、粒子径が10μm以下の細かな粒子が溶射用粉末に多く含まれることに起因する。従って、流動性の低下を抑制するためには、粒子径10μm以下のイットリア造粒−焼結粒子の積算体積の比率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下である。
【0024】
次に、本実施形態に係る溶射用粉末の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶射用粉末は、造粒−焼結法によりイットリア原料粉末から製造される。まず、イットリア原料粉末を分散媒に混合することによりスラリーが調製される。次に、噴霧型造粒機を用いてスラリーから造粒粉末を作製する。こうして得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより、イットリア造粒−焼結粒子から実質的になる溶射用粉末は製造される。造粒粉末を焼結するときの温度及び時間によって、得られる溶射用粉末中のイットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度は調整可能である。
【0025】
本実施形態は、以下の利点を有する。
・ 造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が2μm以上に設定され、さらにイットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度が10MPa以上に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、スピッティングの発生が良好に抑制される。加えて、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が10μm以下に設定され、さらにイットリア造粒−焼結粒子の圧壊強度が40MPa以下に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、緻密な溶射皮膜が得られる。従って、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能である。
【0026】
・ 造粒−焼結法により製造される溶射用粉末は一般に、溶融−粉砕法又は焼結−粉砕法により製造される溶射用粉末に比べて流動性が良好である。しかも製造過程に粉砕工程を含まないので、粉砕中に不純物が混入する虞もない。従って、造粒−焼結法により製造される本実施形態に係る溶射用粉末もこれらの利点を有する。
【0027】
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
・ 溶射用粉末は、イットリア造粒−焼結粒子以外の成分を含有してもよい。ただし、溶射用粉末中のイットリア造粒−焼結粒子の含有量はできるだけ100%に近いことが好ましい。
【0028】
・ 溶射用粉末を溶射する方法はプラズマ溶射以外の方法であってもよい。
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1〜10及び比較例1〜5においては、イットリア原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリア造粒−焼結粒子を溶射用粉末として用意した。比較例6においては、イットリア原料粉末を造粒して得られるイットリア造粒粒子を溶射用粉末として用意した。比較例7においては、イットリア原料粉末を溶融及び粉砕して得られるイットリア溶融−粉砕粒子を溶射用粉末として用意した。実施例1〜10及び比較例1〜7に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
【0029】
表1の“平均一次粒子径”欄には、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて測定した造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の定方向径(Feret径)の平均を示す。ただし、比較例6については、造粒された後のイットリア原料粉末の定方向径の平均を示す。定方向径の測定は、各溶射用粉末中から任意に選択される10個のイットリア造粒−焼結粒子(比較例6の場合はイットリア造粒粒子)のそれぞれに含まれる50個のイットリア原料粉末粒子について行った。定方向径は、粒子をはさんで定方向に延びる二本の平行線の間の距離である。参考までに電界放射型走査電子顕微鏡を用いて撮影した実施例4の溶射用粉末の写真を図1に示す。
【0030】
表1の“圧壊強度”欄には、式:σ=2.8×L/π/d2に従って算出される各溶射用粉末中の粒子(造粒−焼結粒子又は造粒粒子)の圧壊強度σ[MPa]を示す。式中、Lは臨界荷重[N]を表し、dは二次粒子の平均粒子径[mm]を表す。臨界荷重は、一定速度で増加する圧縮荷重を圧子で粒子に加えたときに、圧子の変位量が急激に増加する時点において溶射用粉末に加えられた圧縮荷重の大きさである。この臨界荷重の測定は、(株)島津製作所社製の微小圧縮試験装置“MCTE−500”を用いて行った。
【0031】
表1の“細孔半径分布のピーク”欄には、(株)島津製作所製の水銀圧入式ポロシメーター“ポアサイザー9320”を用いて測定される各溶射用粉末中の粒子(造粒−焼結粒子又は造粒粒子)の細孔半径分布のピークを示す。通常、造粒−焼結粒子の細孔半径分布を測定すると2つのピークが得られる。このうち大径側(例えば10μm前後)に現れるピークは、造粒−焼結粒子同士の隙間に由来するものであり、造粒−焼結粒子中の細孔に由来するピークは小径側のピークのみである。本明細書中における造粒−焼結粒子の細孔半径分布のピークとは、造粒−焼結粒子同士の隙間に由来するピークではなく、造粒−焼結粒子中の細孔に由来するピークを意味する。参考までに水銀圧入式ポロシメーターにより測定した実施例1の溶射用粉末の細孔直径分布のグラフを図2に示す。
【0032】
表1の“フィッシャー径に対するD50%の比”欄には、各溶射用粉末の平均粒子径D50%をフィッシャー径で除して得られる値を示す。平均粒子径D50%は(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定機“LA−300”によって測定し、フィッシャー径はフィッシャーサブシーブサイザーによって測定した。溶射用粉末の平均粒子径D50%は、溶射用粉末中の全粒子の積算体積の50%以上になるまで粒子径の小さい粒子から順に溶射用粉末中の粒子の体積を積算したときに最後に積算される粒子の粒子径である。
【0033】
表1の“嵩比重”欄には、JIS Z2504に準じて測定した各溶射用粉末の嵩比重を示す。
実施例1〜10及び比較例1〜7に係る各溶射用粉末を表2に示す条件でプラズマ溶射して形成した溶射皮膜をその上面に直交する面で切断した。切断面を鏡面研磨した後、エヌサポート社製の画像解析処理装置"NSFJ1−A"を用いて測定される切断面における溶射皮膜の気孔率に基づいて、優(◎)、良(○)、可(△)、不良(×)の四段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、気孔率が4%未満の場合には優、4%以上6%未満の場合には良、6%以上9%未満の場合には可、9%以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“皮膜の緻密さ”欄に示す。
【0034】
実施例1〜10及び比較例1〜7に係る各溶射用粉末を表2に示す条件でプラズマ溶射したときのスピッティングの発生の有無に基づいて、良(○)、不良(×)の二段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、スピッティングの発生が認められない場合には良、スピッティングの発生が認められる場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“スピッティング”欄に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1に示すように、実施例1〜10においては、皮膜の緻密さに関してはいずれも可以上と高い評価であった。加えて、スピッティングに関してはいずれも良と高い評価であった。この結果から、実施例1〜10に係る溶射用粉末によればスピッティングの発生を招くことなく緻密なイットリア溶射皮膜を形成可能であることが分かる。
【0038】
前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 溶射用粉末中の全造粒−焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下の造粒−焼結粒子の積算体積の比率が20%以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【0039】
・ 請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末を溶射して形成される溶射皮膜。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】電界放射型走査電子顕微鏡を用いて撮影した実施例4の溶射用粉末の写真。
【図2】水銀圧入式ポロシメーターにより測定した実施例1の溶射用粉末の細孔直径分布のグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム酸化物原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム酸化物造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径は2〜10μmであり、前記造粒−焼結粒子の圧壊強度は10〜40MPaであることを特徴とする溶射用粉末。
【請求項2】
前記造粒−焼結粒子が細孔半径分布のピークを0.2μm以上に有することを特徴とする請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
前記造粒−焼結粒子のフィッシャー径に対する平均粒子径D50%の比が4以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
前記造粒−焼結粒子の嵩比重が2.0以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
プラズマ溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−200005(P2006−200005A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13375(P2005−13375)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】