説明

溶射用粉末

【課題】 腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもと熱衝撃を受ける用途での使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態で熱衝撃を受ける用途での使用に適した溶射皮膜をより確実に形成可能な溶射用粉末を提供する。
【解決手段】 本発明の溶射用粉末は、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子を含有する。造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積は0.06〜0.25cm/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
耐腐食性及び耐酸化性に劣る材料からなる部材を腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとで使用する場合には、該部材の表面にイットリウム−アルミニウム複酸化物などの耐腐食性及び耐酸化性に優れる材料からなるコーティングを設けることが一般に行なわれている。例えば、特許文献1には、イットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子をプラズマ溶射してイットリウム−アルミニウム複酸化物溶射皮膜を形成する技術が開示されている。
【0003】
雰囲気ガスによる基材の腐食や酸化を抑制するためには、溶射皮膜は緻密度が高いこと、すなわち気孔率が低いことが望ましい。しかし、緻密度が高すぎると、熱衝撃を受けたとき、例えばプラズマやヒーターによる加熱とその後の冷却の過程を繰り返したときに、溶射皮膜が基材から剥離を起こしやすいという問題が生じる。この溶射皮膜の剥離は、溶射皮膜と異種材料である基材との間の熱膨張係数の違いに起因する場合が多い。一方、溶射皮膜の緻密度が低すぎると、溶射皮膜中の気孔を通じて雰囲気ガスが基材に達してしまうために、基材と溶射皮膜の界面付近の基材が腐食又は酸化し、その結果、溶射皮膜が基材から剥離を起こすことがある。また、基材との反応性を有する部材(例えば金属製又は合金製)が溶射皮膜に接している場合には、溶射皮膜の緻密度が低すぎると、溶射皮膜に接する部材が溶射皮膜中の気孔を通じて基材と反応し、その結果、溶射皮膜が基材から剥離を起こすこともある。
【0004】
その点、特許文献1に開示されている技術においては、溶射皮膜の気孔率に関する考慮が十分にはなされていない。そのため、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもと熱衝撃を受ける用途での使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態で熱衝撃を受ける用途での使用に適した溶射皮膜を得ることは容易でなかった。
【特許文献1】特開2002−80954号公報(段落[0024]及び[0025])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもと熱衝撃を受ける用途での使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態で熱衝撃を受ける用途での使用に適した溶射皮膜をより確実に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.06〜0.25cm/gである溶射用粉末を提供する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、造粒−焼結粒子が細孔径分布のピークを0.40〜4.0μmに有する請求項1に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項3に記載の発明は、造粒される前の原料粉末の平均粒子径が2〜12μmである請求項1又は2に記載の溶射用粉末を提供する。
【0008】
請求項4に記載の発明は、造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜30MPaである請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項5に記載の発明は、造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率が0.27以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもと熱衝撃を受ける用途での使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態で熱衝撃を受ける用途での使用に適した溶射皮膜をより確実に形成可能な溶射用粉末が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態に係る溶射用粉末は、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子から実質的になり、例えばプラズマ溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられる。
【0011】
造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.06cm/gよりも小さい場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜は、熱衝撃を受けたときに基材から剥離を起こしやすい。これは、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密度が高くなりすぎるために、熱膨張及び熱収縮により容易に溶射皮膜に亀裂が生じることに起因する。また、直径6μm以下の細孔の総容積が0.06cm/gよりも小さい造粒−焼結粒子は、緻密であるために溶射フレームにより十分に軟化又は溶融されにくい。そのため、溶射皮膜中に未溶融の造粒−焼結粒子が混入したり溶射用粉末の付着効率(溶射歩留まり)が低下したりする虞がある。従って、熱衝撃に曝される用途での使用に適した溶射皮膜をより確実に得るためには、直径6μm以下の細孔の総容積は、0.06cm/g以上であることが必須である。ただし、たとえ0.06cm/g以上であっても0.08cm/gよりも小さい場合、さらに言えば0.09cm/gよりも小さい場合には、熱衝撃による溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。従って、熱衝撃に曝される用途での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積は、好ましくは0.08cm/g以上、より好ましくは0.09cm/g以上である。
【0012】
一方、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.25cm/gよりも大きい場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜は、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとで基材から剥離を起こしやすい。これは、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密度が低くなりすぎるために、溶射皮膜中の気孔を通じて雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化が起こることに起因する。また、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.25cm/gよりも大きい場合には、基材との反応性を有する部材(例えば金属製又は合金製)が溶射皮膜に接するときにも、溶射皮膜が基材から剥離を起こしやすい。これは、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の緻密度が低くなりすぎるために、溶射皮膜に接する部材が溶射皮膜中の気孔を通じて基材と反応することに起因する。従って、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態での使用に適した溶射皮膜を得るためには、直径6μm以下の細孔の総容積は、0.25cm/g以下であることが必須である。ただし、たとえ0.25cm/g以下であっても0.22cm/gよりも大きい場合、さらに言えば0.20cm/gよりも大きい場合には、雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化に基づく溶射皮膜の剥離及び溶射皮膜に接する部材との基材の反応に基づく溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。従って、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積は、好ましくは0.22cm/g以下、より好ましくは0.20cm/g以下である。
【0013】
造粒−焼結粒子が細孔径分布のピークを0.40μm未満、さらに言えば0.45μm未満、もっと言えば0.50μm未満に有する場合には、緻密度のやや高い溶射皮膜が得られやすく、そのため熱衝撃による溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、造粒−焼結粒子中の細孔の直径が小さくなるにつれて造粒−焼結粒子の緻密度が高くなるためであり、緻密度の高い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の高い溶射皮膜が一般に得られる。従って、熱衝撃に曝される用途での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子は細孔径分布のピークを0.40μm以上に有することが好ましく、より好ましくは0.45μm以上、最も好ましくは0.50μm以上である。
【0014】
一方、造粒−焼結粒子が細孔径分布のピークを4.0μm超、さらに言えば3.8μm超、もっと言えば3.7μm超に有する場合には、緻密度のやや低い溶射皮膜が得られやすい。そのため、雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化に基づく溶射皮膜の剥離及び溶射皮膜に接する部材との基材の反応に基づく溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、造粒−焼結粒子中の細孔の直径が大きくなるにつれて造粒−焼結粒子の緻密度が低くなるためであり、緻密度の低い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の低い溶射皮膜が一般に得られる。従って、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子は細孔径分布のピークを4.0μm以下に有することが好ましく、より好ましくは3.8μm以下、最も好ましくは3.7μm以下である。
【0015】
造粒される前の原料粉末の平均粒子径が2μmよりも小さい場合、さらに言えば3μmよりも小さい場合、もっと言えば4μmよりも小さい場合には、緻密度のやや高い溶射皮膜が得られやすく、そのため熱衝撃による溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、造粒される前の原料粉末の平均粒子径が小さくなるにつれて造粒−焼結粒子の緻密度が高くなるためであり、緻密度の高い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の高い溶射皮膜が一般に得られる。従って、熱衝撃に曝される用途での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒される前の原料粉末の平均粒子径は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、最も好ましくは4μm以上である。
【0016】
一方、造粒される前の原料粉末の平均粒子径が12μmよりも大きい場合、さらに言えば10μmよりも大きい場合、もっと言えば9μmよりも大きい場合には、緻密度のやや低い溶射皮膜が得られやすい。そのため、雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化に基づく溶射皮膜の剥離及び溶射皮膜に接する部材との基材の反応に基づく溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、造粒される前の原料粉末の平均粒子径が大きくなるにつれて造粒−焼結粒子の緻密度が低くなるためであり、緻密度の低い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の低い溶射皮膜が一般に得られる。また、造粒される前の原料粉末の平均粒子径が上記範囲の場合には、溶射フレームにより造粒−焼結粒子が十分に軟化又は溶融されにくくなるために、溶射用粉末の付着効率が低下する虞もある。従って、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態での使用によく適した溶射皮膜を得るため、また溶射用粉末の付着効率の低下を抑制するためには、造粒される前の原料粉末の平均粒子径は、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下、最も好ましくは9μm以下である。
【0017】
造粒−焼結粒子の圧壊強度が7MPaよりも小さい場合、さらに言えば8MPaよりも小さい場合、もっと言えば9MPaよりも小さい場合には、造粒−焼結粒子の崩壊が起こりやすく、造粒−焼結粒子の崩壊により生じる微粒子のために溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。溶射用粉末の流動性が低下するにつれて、溶射用粉末供給装置から溶射機への溶射用粉末の供給が不安定になりやすく、その結果、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の組織が不均一になったり溶射皮膜の厚さが不均一になったりしやすい。また、造粒−焼結粒子の崩壊により生じる微粒子が溶射フレームで過溶融することにより、スピッティングと呼ばれる、過溶融した溶射用粉末が溶射機のノズル内壁に付着堆積してできる堆積物がノズルから脱離して基材に向かって吐き出される現象が溶射用粉末の溶射時に発生する虞もある。従って、溶射用粉末の流動性の低下及びスピッティングの発生を抑制するためには、造粒−焼結粒子の圧壊強度は、好ましくは7MPa以上、より好ましくは8MPa以上、最も好ましくは9MPa以上である。
【0018】
一方、造粒−焼結粒子の圧壊強度が30MPaよりも大きい場合、さらに言えば27MPaよりも大きい場合、もっと言えば25MPaよりも大きい場合には、緻密度のやや高い溶射皮膜が得られやすく、そのため熱衝撃による溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、圧壊強度の大きい造粒−焼結粒子は一般に緻密度が高い傾向にあるためであり、緻密度の高い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の高い溶射皮膜が一般に得られる。従って、熱衝撃に曝される用途での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子の圧壊強度は、好ましくは30MPa以下、より好ましくは27MPa以下、最も好ましくは25MPa以下である。
【0019】
造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率が0.27よりも大きい場合、さらに言えば0.26よりも大きい場合、もっと言えば0.25よりも大きい場合には、緻密度のやや高い溶射皮膜が得られやすく、そのため熱衝撃による溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率が大きくなるにつれて造粒−焼結粒子の緻密度が高くなるためであり、緻密度の高い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の高い溶射皮膜が一般に得られる。従って、熱衝撃に曝される用途での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率は、好ましくは0.27以下、より好ましくは0.26以下、最も好ましくは0.25以下である。
【0020】
造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率の下限は特に規定されないが、好ましくは0.13以上である。造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率が0.13未満の場合には、緻密度のやや低い溶射皮膜が得られやすい。そのため、雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化に基づく溶射皮膜の剥離及び溶射皮膜に接する部材との基材の反応に基づく溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率が小さくなるにつれて造粒−焼結粒子の緻密度が低くなるためであり、緻密度の低い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の低い溶射皮膜が一般に得られるからである。
【0021】
造粒−焼結粒子中にイットリアが多く混入している場合には、造粒−焼結粒子がイットリア寄りの性質を示すようになる。具体的には例えば、イットリウム−アルミニウム複酸化物に比べて融点の高いイットリアが造粒−焼結粒子中に混入することにより、造粒−焼結粒子の融点は上昇する。造粒−焼結粒子の融点が上昇すると、造粒−焼結粒子が溶射フレームにより十分に軟化又は溶融されにくくなるため、溶射用粉末の付着効率が低下する虞がある。また、造粒−焼結粒子中にイットリアが多く混入している場合には、緻密度のやや低い溶射皮膜が得られやすく、そのため雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化に基づく溶射皮膜の剥離及び溶射皮膜に接する部材との基材の反応に基づく溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞もある。造粒−焼結粒子中のイットリアの混入量は、例えば、イットリウム−アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するイットリアに由来するX線回折ピークの比率から推定される。具体的には、イットリウム−アルミニウム複酸化物のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピーク、イットリウム−アルミニウム複酸化物のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピーク、及びイットリウム−アルミニウム複酸化物の単斜晶相の(−122)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度に対するイットリアの(222)面に由来するX線回折ピークの強度の比率からイットリアの混入量は推定される。造粒−焼結粒子中にイットリアが混入することによる弊害を抑制するためには(具体的には、溶射用粉末の付着効率の低下を抑制するため、また腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態での使用によく適した溶射皮膜を得るためには)、造粒−焼結粒子中のイットリアの混入量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、イットリウム−アルミニウム複酸化物に由来する最大X線回折ピークの強度に対するイットリアに由来するX線回折ピークの強度の比率は、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.17以下、最も好ましくは0.15以下である。なお、本明細書において、(−122)面という記載における“−1”は上線付きの1を表す。
【0022】
造粒−焼結粒子中にアルミナが多く混入している場合には、造粒−焼結粒子がアルミナ寄りの性質を示すようになる。具体的には例えば、1000〜1100℃において密度が比較的小さいγ−アルミナから密度が比較的大きいα−アルミナに相転移するアルミナの性質を造粒−焼結粒子が示すようになり、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の気孔率が高温下において大きく増大する虞がある。造粒−焼結粒子中のアルミナの混入量は、例えば、イットリウム−アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するアルミナに由来するX線回折ピークの比率から推定される。具体的には、イットリウム−アルミニウム複酸化物のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピーク、イットリウム−アルミニウム複酸化物のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピーク、及びイットリウム−アルミニウム複酸化物の単斜晶相の(−122)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度に対するアルミナの(104)面に由来するX線回折ピークの強度の比率から推定される。造粒−焼結粒子中にアルミナが混入することによる弊害を抑制するためには(具体的には、高温下での溶射皮膜の気孔率の増大を抑制するためには)、造粒−焼結粒子中のアルミナの混入量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、イットリウム−アルミニウム複酸化物に由来する最大X線回折ピークの強度に対するアルミナに由来するX線回折ピークの強度の比率は、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.17以下、最も好ましくは0.15以下である。
【0023】
造粒−焼結粒子の平均粒子径が15μmよりも小さい場合、さらに言えば18μmよりも小さい場合、もっと言えば20μmよりも小さい場合には、比較的細かな粒子が多く溶射用粉末に含まれるために、溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。上述したとおり、溶射用粉末の流動性が低下するにつれて、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の組織が不均一になったり溶射皮膜の厚さが不均一になったりしやすい。従って、溶射用粉末の流動性の低下を抑制するためには、造粒−焼結粒子の平均粒子径は、好ましくは15μm以上、より好ましくは18μm以上、最も好ましくは20μm以上である。
【0024】
一方、造粒−焼結粒子の平均粒子径が70μmよりも大きい場合、さらに言えば65μmよりも大きい場合、もっと言えば60μmよりも大きい場合には、溶射フレームにより造粒−焼結粒子が十分に軟化又は溶融されにくくなるために、溶射用粉末の付着効率が低下する虞がある。従って、溶射用粉末の付着効率の低下を抑制するためには、造粒−焼結粒子の平均粒子径は、好ましくは70μm以下、より好ましくは65μm以下、最も好ましくは60μm以下である。
【0025】
造粒−焼結粒子の嵩比重が1.6よりも大きい場合、さらに言えば1.4よりも大きい場合、もっと言えば1.3よりも大きい場合には、緻密度のやや高い溶射皮膜が得られやすく、そのため熱衝撃による溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞がある。これは、嵩比重の大きい造粒−焼結粒子は一般に緻密度が高い傾向にあるためであり、緻密度の高い造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末からは緻密度の高い溶射皮膜が一般に得られる。従って、熱衝撃に曝される用途での使用によく適した溶射皮膜を得るためには、造粒−焼結粒子の嵩比重は、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.4以下、最も好ましくは1.3以下である。
【0026】
アルミナに換算した造粒−焼結粒子中のアルミニウムのモル数に対するイットリアに換算した造粒−焼結粒子中のイットリウムのモル数の比率が0.30よりも小さい場合、さらに言えば0.40よりも小さい場合、もっと言えば0.45よりも小さい場合には、造粒−焼結粒子がアルミナ寄りの性質を示す虞がある。具体的には例えば、1000〜1100℃においてγ−アルミナからα−アルミナに相転移するアルミナの性質を造粒−焼結粒子が示すようになり、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の気孔率が高温下において大きく増大する虞がある。従って、高温下での溶射皮膜の気孔率の増大を抑制するためには、造粒−焼結粒子中のアルミニウムとイットリウムのモル数に関する上記比率は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.40以上、最も好ましくは0.45以上である。
【0027】
アルミナに換算した造粒−焼結粒子中のアルミニウムのモル数に対するイットリアに換算した造粒−焼結粒子中のイットリウムのモル数の比率が1.5よりも大きい場合、さらに言えば1.3よりも大きい場合、もっと言えば1.1よりも大きい場合には、造粒−焼結粒子がイットリア寄りの性質を示す虞がある。具体的には例えば、イットリウム−アルミニウム複酸化物に比べて融点の高いイットリアが造粒−焼結粒子中に混入することにより造粒−焼結粒子の融点が上昇し、その結果、溶射用粉末の付着効率が低下する虞がある。従って、溶射用粉末の付着効率の低下を抑制するためには、造粒−焼結粒子中のアルミニウムとイットリウムのモル数に関する上記比率は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、最も好ましくは1.1以下である。
【0028】
造粒−焼結粒子の安息角が50度よりも大きい場合、さらに言えば47度よりも大きい場合、もっと言えば45度よりも大きい場合には、溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。上述したとおり、溶射用粉末の流動性が低下するにつれて、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の組織が不均一になったり溶射皮膜の厚さが不均一になったりしやすい。従って、溶射用粉末の流動性の低下を抑制するためには、造粒−焼結粒子の安息角は、好ましくは50度以下、より好ましくは47度以下、最も好ましくは45度以下である。
【0029】
造粒−焼結粒子のアスペクト比が2.0よりも大きい場合、さらに言えば1.8よりも大きい場合、もっと言えば1.5よりも大きい場合には、溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。上述したとおり、溶射用粉末の流動性が低下するにつれて、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の組織が不均一になったり溶射皮膜の厚さが不均一になったりしやすい。従って、溶射用粉末の流動性の低下を抑制するためには、造粒−焼結粒子のアスペクト比は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、最も好ましくは1.5以下である。造粒−焼結粒子のアスペクト比は、該粒子の形状に最も近似する楕円球の長軸の長さである長径を同楕円球の短軸の長さである短径で除することにより求められる。
【0030】
次に、本実施形態に係る溶射用粉末の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶射用粉末は、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末から造粒−焼結法により製造される。原料粉末としては、イットリウムアルミニウムガーネット(略称YAG)やイットリウムアルミニウムペロブスカイト(略称YAP)、イットリウムアルミニウム単斜晶(略称YAM)などのイットリウム−アルミニウム複酸化物粉末、あるいはイットリア粉末とアルミナ粉末の混合物が用いられる。まず、原料粉末を分散媒に混合することによりスラリーが調製される。次に、噴霧型造粒機を用いてスラリーから造粒粉末を作製する。こうして得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより、イットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子から実質的になる溶射用粉末は製造される。
【0031】
本実施形態は、以下の利点を有する。
・ 造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.06cm/g以上に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末から形成される溶射皮膜は、熱衝撃を受けたときに基材から剥離を起こしにくく、熱衝撃に曝される用途での使用に適する。加えて、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.25cm/g以下に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末から形成される溶射皮膜は、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとで基材から剥離を起こしにくく、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用に適する。また、造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.25cm/g以下に設定されているために、基材との反応性を有する部材が溶射皮膜に接するときにも基材から剥離を起こしにくく、基材との反応性を有する部材と接した状態での使用にも適する。従って、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもと熱衝撃を受ける用途での使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態で熱衝撃を受ける用途での使用に適した溶射皮膜を形成可能である。
【0032】
・ 造粒−焼結法により製造される溶射用粉末は一般に、溶融−粉砕法又は焼結−粉砕法により製造される溶射用粉末に比べて流動性が良好である。しかも製造過程に粉砕工程を含まないので、粉砕中に不純物が混入する虞もない。従って、造粒−焼結法により製造される本実施形態に係る溶射用粉末もこれらの利点を有する。
【0033】
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
・ 溶射用粉末は、イットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子以外の成分を含有してもよい。ただし、溶射用粉末中のイットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子の含有量はできるだけ100%に近いことが好ましい。
【0034】
・ 溶射用粉末を溶射する方法はプラズマ溶射以外の方法であってもよい。
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1,3〜21,24,25及び比較例1,2においては、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られるYAG造粒−焼結粒子から溶射用粉末を用意した。実施例2においては、YAG粉末を造粒及び焼結して得られるYAG造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末を用意した。実施例22においては、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られるYAP造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末を用意した。実施例23,26,27においては、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られるYAM造粒−焼結粒子からなる溶射用粉末を用意した。比較例3においては、YAG粉末を造粒して得られるYAG造粒粉末からなる溶射用粉末を用意した。比較例4においては、YAG粉末を溶融及び粉砕して得られるYAG溶融−粉砕粒子からなる溶射用粉末を用意した。実施例1〜27及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
【0035】
表1の“直径6μm以下の細孔の総容積”欄には、(株)島津製作所製の水銀圧入式ポロシメーター“ポアサイザー9320”を用いて測定される各溶射用粉末中の粒子における直径6μm以下の細孔の総容積を示す。
【0036】
表1の“細孔径分布のピーク”欄には、(株)島津製作所製の水銀圧入式ポロシメーター“ポアサイザー9320”を用いて測定される各溶射用粉末中の粒子の細孔径分布のピークを示す。通常、造粒−焼結粒子の細孔径分布を測定すると2つのピークが得られる。このうち大径側(例えば10μm前後)に現れるピークは、造粒−焼結粒子同士の隙間に由来するものであり、造粒−焼結粒子中の細孔に由来するピークは小径側のピークのみである。本明細書中における造粒−焼結粒子の細孔径分布のピークとは、造粒−焼結粒子同士の隙間に由来するピークではなく、造粒−焼結粒子中の細孔に由来するピークを意味する。参考までに水銀圧入式ポロシメーターにより測定した実施例1の溶射用粉末の細孔径分布のグラフを図1に示す。
【0037】
表1の“原料粉末の平均粒子径”欄には、(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定機“LA−300”を用いて測定される各溶射用粉末の原料粉末の平均粒子径を示す。
【0038】
表1の“圧壊強度”欄には、式:σ=2.8×L/π/dに従って算出される各溶射用粉末中の粒子の圧壊強度σ[MPa]を示す。式中、Lは臨界荷重[N]を表し、dは各溶射用粉末中の粒子の平均粒子径[mm]を表す。臨界荷重は、一定速度で増加する圧縮荷重を圧子で粒子に加えたときに、圧子の変位量が急激に増加する時点において溶射用粉末に加えられた圧縮荷重の大きさである。この臨界荷重の測定は、(株)島津製作所社製の微小圧縮試験装置“MCTE−500”を用いて行った。
【0039】
表1の“フィッシャー径/平均粒子径”欄には、各溶射用粉末中の粒子のフィッシャー径を平均粒子径で除して得られる値を示す。フィッシャー径はフィッシャーサブシーブサイザーによって測定し、平均粒子径は(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定機“LA−300”によって測定した。
【0040】
表1の“イットリア又はアルミナの相対ピーク強度”欄には、各溶射用粉末のX線回折を測定したときに得られる、イットリウム−アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するイットリアに由来するX線回折ピークの比率とイットリウム−アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するアルミナに由来するX線回折ピークの比率のうちの最大値を示す。
【0041】
表1の“アルミニウムに対するイットリウムの比率”欄には、アルミナに換算した各溶射用粉末中のアルミニウムのモル数に対するイットリアに換算した各溶射用粉末中のイットリウムのモル数の比率を示す。
【0042】
実施例1〜27及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末を表2に示す条件でプラズマ溶射して形成した溶射皮膜の重量を測定した。そして、溶射に使用した溶射用粉末の重量に対する溶射皮膜の重量の比率、すなわち付着効率に基づいて、優(◎)、良(○)、可(△)、不良(×)の四段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、付着効率が55%以上の場合には優、50%以上55%未満の場合には良、45%以上50%未満の場合には可、45%未満の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“付着効率”欄に示す。
【0043】
実施例1〜27及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末を表2に示す条件でプラズマ溶射して形成した溶射皮膜をその上面に直交する面で切断した。切断面を鏡面研磨した後、エヌサポート社製の画像解析処理装置“NSFJ1−A”を用いて測定される切断面における溶射皮膜の気孔率に基づいて、良(○)、可(△)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、気孔率が5%以上10%未満の場合には良、3%以上5%未満又は10%以上13%未満の場合には可、3%未満又は13%以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“皮膜の緻密度”欄に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

表1に示すように、実施例1〜27においては、溶射皮膜の緻密度に関する評価が可以上と良好であった。加えて、実施例1〜27においては、付着効率に関する評価も可以上と良好であった。それに対し、比較例1,2においては、溶射皮膜の緻密度に関する評価が不良であった。比較例3においては、溶射用粉末供給装置から溶射機へ溶射用粉末を搬送するパウダーチューブに閉塞が起こり、溶射皮膜を形成することができなかった。比較例4においては、溶射皮膜の緻密度に関する評価は可であったが、付着効率に関する評価が不良であった。
【0046】
前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記造粒−焼結粒子のX線回折測定において、イットリウム−アルミニウム複酸化物のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピーク、イットリウム−アルミニウム複酸化物のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピーク、及びイットリウム−アルミニウム複酸化物の単斜晶相の(−122)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度を第1ピーク強度と定義し、さらにイットリウム酸化物の(222)面に由来するX線回折ピーク及びアルミニウム酸化物の(104)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度を第2ピーク強度と定義したとき、第1ピーク強度に対する第2ピーク強度の比率が0.20以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【0047】
・ 前記造粒−焼結粒子の嵩比重が1.6以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 前記造粒−焼結粒子の平均粒子径が15〜70μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【0048】
・ アルミナに換算した前記造粒−焼結粒子中のアルミニウムのモル数に対するイットリアに換算した前記造粒−焼結粒子中のイットリウムのモル数の比率が0.30〜1.5であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【0049】
・ 前記造粒−焼結粒子の安息角が50度以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 前記造粒−焼結粒子のアスペクト比が2.0以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1の溶射用粉末の細孔径分布のグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム−アルミニウム複酸化物造粒−焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、前記造粒−焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.06〜0.25cm/gであることを特徴とする溶射用粉末。
【請求項2】
前記造粒−焼結粒子が細孔径分布のピークを0.40〜4.0μmに有することを特徴とする請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
造粒される前の前記原料粉末の平均粒子径が2〜12μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
前記造粒−焼結粒子の圧壊強度が7〜30MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
前記造粒−焼結粒子の平均粒子径に対するフィッシャー径の比率が0.27以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末。

【図1】
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【公開番号】特開2006−225689(P2006−225689A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38288(P2005−38288)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】