溶射装置および被膜形成方法
【課題】大型化を招くことなく基材を適切に冷却可能な溶射装置を提供する。
【解決手段】
半導体モジュール2の被膜対象形成面2aに溶射によって被膜を形成する際に、保持部材5によって、被膜対象形成面2aを含む半導体モジュール2の一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるように保持する。これにより、空気等の冷却用気体に対して比熱が大きい冷却水によって半導体モジュール2の冷却でき、空気にて冷却する場合に対して、冷却効率を高めることができるので、保持部材5によって半導体モジュール2を強固に保持固定する必要が生じなくなる。その結果、溶射装置全体としての大型化を招くことなく基材を適切に冷却することができる。
【解決手段】
半導体モジュール2の被膜対象形成面2aに溶射によって被膜を形成する際に、保持部材5によって、被膜対象形成面2aを含む半導体モジュール2の一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるように保持する。これにより、空気等の冷却用気体に対して比熱が大きい冷却水によって半導体モジュール2の冷却でき、空気にて冷却する場合に対して、冷却効率を高めることができるので、保持部材5によって半導体モジュール2を強固に保持固定する必要が生じなくなる。その結果、溶射装置全体としての大型化を招くことなく基材を適切に冷却することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射によって基材の被膜形成対象面に被膜を形成する溶射装置、および、溶射によって基材の被膜形成対象面に被膜を形成する被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属やセラミック等の膜用材料を加熱して溶解し、溶解した膜用材料を基材に吹き付ける溶射によって、基材に膜用材料の被膜を形成する溶射装置が知られている。例えば、特許文献1には、基材としての円筒状の金属製薄肉パイプ(以下、単にパイプと記載する)の外表面に被膜を形成する溶射装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1の溶射装置では、パイプを保持固定するための中空円筒状の中子(保持部材)をパイプの内部に嵌挿しておき、パイプの外表面に被膜を形成する際に、中子の内部に冷却用空気を流通させてパイプを冷却している。これにより、溶射時におけるパイプの熱変形や溶損の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−158810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基材に吹き付けられる膜用材料は、例えば、特許文献1のプラズマ溶射装置のようにプラズマを熱源として溶解されると、10000℃を超える高温に達することもある。そのため、特許文献1の溶射装置において、基材(パイプ)の熱変形や溶損を確実に抑制するためには、大流量の冷却用空気を流す必要がある。
【0006】
さらに、特許文献1では、基材(パイプ)の内部に中子(保持部材)を嵌挿して保持固定しているので、大流量の冷却用空気を流したとしても、冷却用空気によって基材が吹き飛ばされてしまうことを抑制しやすい。しかしながら、基材が板状部材等で形成されている場合には、基材が大流量の冷却用空気によって吹き飛ばされることのないように、基材を強固に保持することのできる保持部材が必要となる。
【0007】
このような、大流量の冷却用空気を流すための構成や、基材の強固な保持を実現する保持部材を採用することは、溶射装置全体としての大型化を招く原因となる。
【0008】
さらに、基材を強固に保持するために保持部材を大型化させると、基材の被膜形成対象面近傍の保持部材の表面積が増加して、保持部材にも被膜が形成されてしまうおそれがある。このように保持部材に被膜が形成されてしまうと、溶射の後に保持部材から被膜を除去するメンテナンス作業が必要となり、基材に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を招いてしまう。
【0009】
上記点に鑑み、本発明は、大型化を招くことなく基材を適切に冷却可能な溶射装置を提供することを第1の目的とする。
【0010】
また、本発明は、基材に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を招くことのない被膜形成方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、融解された膜用材料を基材(2)に吹き付ける溶射によって基材(2)の被膜形成対象面(2a)に膜用材料の被膜を形成する溶射装置であって、
被膜形成対象面(2a)に対して融解された膜用材料を噴射する溶射ガン(3)と、基材(2)を保持する保持部材(5)と、基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)とを備え、
保持部材(5)は、被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部が冷却用液体の液面より上方に位置付けられた状態で、基材(2)を保持することを特徴とする。
【0012】
これによれば、基材(2)に被膜を形成する際に、空気等の冷却用気体に対して比熱の大きい冷却用液体によって基材(2)を冷却するので、冷却用気体にて冷却する場合に対して、冷却効率を高めることができる。従って、小流量の冷却用液体によって基材(2)を適切に冷却することができる。
【0013】
さらに、大流量の冷却用気体にて冷却する場合のように、保持部材(5)によって基材(2)を強固に保持固定する必要も生じない。その結果、溶射装置全体としての大型化を招くことなく基材を適切に冷却することができる。
【0014】
しかも、保持部材(5)が基材(2)を保持する際に、少なくとも被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部が冷却用液体の液面より上方に位置付けられるように基材(2)を保持しているので、基材(2)のうち被膜形成対象面(2a)以外の部位および保持部材(5)を冷却用液体中に水没させた状態で、基材(2)を保持することができる。
【0015】
そして、この状態で、溶射ガン(3)から膜用材料を噴射すれば、基材(2)および保持部材(5)のうち冷却用液体中に水没している部位に被膜が形成されることがない。従って、保持部材(5)に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材(5)から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、基材(2)に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の溶射装置において、保持部材(5)は、基材(2)の下方側に当接して保持する保持面(5a)を有し、保持面(5a)には、その表裏を貫通して冷却用液体を通過させる貫通穴が形成されていることを特徴とする。
【0017】
これによれば、保持面(5a)に貫通穴が形成されているので、保持部材(5)を冷却用液体中に水没させた際に、保持面(5a)と基材(2)との間に気泡が混じることによって、被膜形成対象面(2a)以外の部位に被膜が形成されてしまうことや、基材(2)の保持部材(5)に対する位置ずれが生じてしまうこと等の不具合を抑制できる。
【0018】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の溶射装置において、基材(2)は、板状に形成されており、保持部材(5)は、互いに離間して配置された複数の基材(2)を保持することを特徴する。
【0019】
これによれば、同時に複数の基材(2)に被膜を形成することができる。さらに、複数の基材(2)が互いに離間して配置された状態で保持部材に保持されるので、被膜によって隣接する基材(2)同士が接合されてしまうことを抑制できる。
【0020】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の溶射装置において、保持部材(5)は、複数の基材(2)の間に配置されて、隣り合う基材(2)同士の接触を防止する仕切部材(7)を有し、仕切部材(7)の上方側端部は、基材(2)の上面よりも上方側まで延びていることを特徴とする。これにより、被膜によって隣接する基材(2)同士が接合されてしまうことを確実に抑制できる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の溶射装置において、基材(2)および仕切部材(7)を鉛直方向から見たときに、基材(2)および仕切部材(7)の間には隙間が設けられており、隙間の寸法をSとし、前記基材(2)の鉛直方向の厚み寸法をTとしたときに、
0<S/T≦0.25
となっていることを特徴とする。
【0022】
これによれば、基材(2)と仕切部材(7)との間に隙間が設けられているので、被膜によって基材(2)と仕切部材(7)が被膜によって接合されてしまうことを抑制できる。さらに、後述する実施形態に詳述するように、仕切部材(7)と仕切部材(7)との間に配置される基材(2)が、溶射ガン(3)から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを抑制できる。
【0023】
請求項6に記載の発明では、請求項4または5に記載の溶射装置において、さらに、それぞれの前記仕切部材(7)の上端部には、前記基材(2)側に突出する突出部(7a)が設けられていることを特徴とする。
【0024】
これにより、仕切部材(7)と仕切部材(7)との間に配置される基材(2)が、溶射ガン(3)から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを抑制できる。
【0025】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の溶射装置において、保持部材(5)を振動させる保持部材振動手段(8)を備えることを特徴とする。
【0026】
これにより、基材(2)を保持部材(5)とともに振動させることができるので、隣接する基材(2)同士、あるいは、隣接する基材(2)と仕切部材(7)が被膜によって接合されてしまうことを抑制できる。
【0027】
請求項8に記載の発明では、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の溶射装置において、ケース(4)は、溶射ガン(3)から噴射される膜用材料の流れによって冷却用液体の液面が波打つことを抑制する制波板(4)を有していることを特徴とする。
【0028】
これによれば、液面の波打ちによって被膜形成対象面(2a)に冷却用液体の水滴が付着してしまうことを抑制して、被膜形成不良を抑制できる。
【0029】
請求項9に記載の発明では、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の溶射装置において、冷却用液体を予め定めた所定の方向へ流す冷却用液体圧送手段(4c)と、基材(2)を、冷却用液体の流れ方向のうちの水平方向成分に対して逆方向に移動させる基材搬送手段(6)とを備えることを特徴とする。
【0030】
これによれば、冷却用液体の流れ方向と基材(2)の移動方向が逆向きになるので、温度の低い側へ基材(2)を移動させることができ、基材(2)を効率的に冷却することができる。
【0031】
さらに、請求項10に記載の発明のように、請求項9に記載の溶射装置において、基材搬送手段(6)は、保持部材(5)を移動させることによって、保持部材(5)とともに基材(2)を移動させるようになっていてもよい。
【0032】
また、請求項11に記載の発明では、融解された膜用材料を溶射ガン(3)から噴射して、保持部材(5)に保持された基材(2)の被膜形成対象面(2a)に膜用材料の被膜を形成する被膜形成方法であって、
基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)を用意しておき、保持部材(5)によって基材(2)を保持する保持工程と、保持工程の後に、溶射ガン(3)から膜用材料を被膜形成対象面(2a)へ吹き付ける溶射工程とを有し、保持工程では、被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部を冷却用液体の液面より上方に位置付けた状態で、基材(2)を保持することを特徴とする。
【0033】
これによれば、保持工程にて、保持部材(5)に基材(2)を保持させる際に、被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部を冷却用液体の液面より上方に位置付けられるように保持させているので、基材(2)の一部および保持部材(5)を冷却用液体中に水没させた状態で、基材(2)を保持することができる。
【0034】
そして、この状態で、溶射ガン(3)から膜用材料を噴射すれば、基材(2)および保持部材(5)のうち冷却用液体中に水没している部位に被膜が形成されることもない。従って、保持部材(5)に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材(5)から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、基材(2)に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0035】
なお、この欄および特許請求の範囲に記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の溶射装置の全体構成を示す外観斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】第2実施形態における図1のA−A断面図である。
【図4】第2実施形態の半導体モジュール、保持部材および仕切部材の上面図である。
【図5】図3のB部拡大図である。
【図6】半導体モジュールが傾いた際の図3のB部拡大図である。
【図7】第3実施形態における図3のB部拡大図である。
【図8】第4実施形態における図1のA−A断面図である。
【図9】第4実施形態の変形例における図1のA−A断面図である。
【図10】第5実施形態における図1のA−A断面図である。
【図11】第2実施形態の仕切部材の変形例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1実施形態)
図1、2により、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態の溶射装置1の全体構成を示す斜視図である。本実施形態では、この溶射装置1を、平板状に形成された半導体モジュール2の表面に、セラミック被膜を形成するために用いている。従って、本実施形態の基材は、半導体モジュール2であり、膜用材料はセラミックである。
【0038】
この半導体モジュール2は、板状に形成された半導体チップの両面に、半導体チップの熱を放熱させる伝熱部材としての金属板をはんだ付けにより接合した、いわゆる両面冷却型半導体カードモジュールである。従って、本実施形態の被膜形成対象面2aは、半導体チップに接合された伝熱部材の外表面となる。
【0039】
なお、伝熱部材は、銅、タングステン等の金属で形成されており、本実施形態の溶射装置1によって、伝熱部材の外表面にセラミック被膜が形成されることにより、伝熱部材と外部との電気的絶縁がなされるとともに、伝熱部材の防錆効果等を得ることができる。
【0040】
次に、溶射装置1について説明する。溶射装置1は、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aに対してセラミックを噴射する溶射ガン3、半導体モジュール2を冷却する冷却水が流れるケース4、このケース4内にて半導体モジュール2を保持固定する保持部材5等を有している。
【0041】
溶射ガン3は、アルゴン、窒素、ヘリウム(不活性ガス)などの作動ガス中でアノード陽極とカソード陰極との間にアーク放電させることによって発生するプラズマを熱源として融解されたセラミックを、半導体モジュール2へ向けて噴射するものである。つまり、本実施形態の溶射装置1は、プラズマ溶射装置として構成されている。
【0042】
さらに、溶射ガン3は、保持部材5に保持された状態の半導体モジュール2の被膜形成対象面2aに平行に溶射ガン3を移動させる移動装置3aに連結されている。これにより、溶射ガン3を複数の半導体モジュール2の被膜形成対象面2aの全域に走査させて、被膜形成対象面2aの全域に渡ってセラミック被膜を形成することができる。
【0043】
ケース4は、耐食性に優れるステンレスで形成されており、溶射ガン2側の上面が開口しているとともに、内部に冷却水である冷却水が流れる冷却用液体通路を形成するものである。また、ケース4には、冷却水を冷却用液体通路内へ流入させる流入口4a、および、冷却水を冷却用液体通路内から流出(排出)させる流出口4bが設けられている。
【0044】
流入口4aには、図示しない冷却水タンクから冷却水を汲み上げてケース4の冷却用液体通路へ圧送する冷却水ポンプ4cが接続されている。従って、ケース4内の冷却用液体通路へ流入した冷却水は。流入口4aから流出口4bへ向かう一定の方向に流れる。なお、冷却水としては、水、エチレングリコール水溶液、放電加工機に用いられる加工油等を採用することができる。
【0045】
保持部材5は、金属ワイヤをメッシュ状に編み込んで平板状に形成したものである。この保持部材5および保持部材5による半導体モジュール2の保持状態については、図2を用いて説明する。なお、図2は、図1のA−A断面の一部を模式的に図示した断面図である。
【0046】
保持部材5には、その上面に複数の半導体モジュール2の下方側の底面(すなわち被膜形成対称面2aの反対側の面)に当接して、複数の半導体モジュール2を保持する保持面5aが形成されている。換言すると、複数の半導体モジュール2は、被膜形成態様面2aを上面にして、保持部材5の保持面5a上に並べて配置されている。
【0047】
この際、複数の半導体モジュール2は、互いに接触することなく離間して配置されている。また、保持部材5は、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面より上方に位置付けられた状態で、半導体モジュール2を保持している。このような、冷却水の液面高さの調整は、ケース4内の冷却水の量を調整することで実現できる。
【0048】
例えば、ケース4内の冷却水の液面を検出する液面センサを設けておき、この液面センサの検出値に基づいて、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるように、フィードバック制御手法等によって冷却水ポンプ4cの圧送能力を調整すればよい。
【0049】
また、保持部材5は、メッシュ状に形成されていることにより、保持面5aには、その表裏を貫通して、保持面5aの反対側の面から保持面5a側へ冷却水を通過させて染み出させる複数の貫通穴が形成されている。さらに、保持部材5の下面(保持面5aの反対の面)は、保持部材5を移動させる保持部材搬送手段としての移動用ローラ6の円筒状外表面に接触している。
【0050】
移動用ローラ6は、図示しない電動モータから駆動力を得て回転し、この回転に伴って保持部材5を移動させる。さらに、本実施形態の半導体モジュール2は、保持部材5の保持面5a上に載せられた状態で保持されているので、移動用ローラ6の回転に伴って、保持部材5とともに半導体モジュール2も移動する。
【0051】
つまり、移動用ローラ6は、基材搬送手段としての機能を兼ね備えている。さらに、本実施形態の移動用ローラ6は、図1に示すように、ケース4内の冷却液体用通路を流れる冷却液体の流れ方向のうち水平方向の成分(白抜き破線矢印)に対して逆方向(太実践矢印)に、保持部材5を移動させている。
【0052】
次に、上記構成における本実施形態の溶射装置1の作動を説明する。本実施形態の溶射装置1を作動させる際には、保持部材5の保持面50a上に、複数の半導体モジュール2を離間して配置しておく。さらに、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるように、ケース4内の冷却水の量を調整する。具体的には、冷却水ポンプ4cの圧送能力を調整する。
【0053】
この際、被膜形成対象面2aのみに被膜を形成するためには、被膜形成対象面2aのみが冷却水の液面よりも上方に位置付けられることが望ましい。ところが、冷却水の液面と被膜形成対象面2aが近づくと、何らかの理由で冷却水が飛散した際に、被膜形成対象面2aに冷却水が付着してしまうおそれがある。このような冷却水の被膜形成対象面2aへの付着は、付着した部位の被膜形成不良を招く原因となる。
【0054】
そこで、本実施形態では、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるようにしている。つまり、被膜形成対象面2aの他に半導体モジュール2の側面のうち上方側端部が液面より上方に位置付けられるようにして、冷却水の被膜形成対象面2aへの付着を抑制している。さらに、本実施形態の保持部材5は、冷却水中に水没した状態で、半導体モジュール2を保持している。
【0055】
この状態で、移動用ローラ6を回転作動させて、保持部材5とともに半導体モジュール2をケース4内の冷却液体用通路を流れる冷却液体の流れ方向に対して逆方向に移動させる。さらに、溶射ガン3から融解されたセラミックを半導体モジュール2に吹き付ける。この際、移動装置3aが、溶射ガン3を被膜形成対象面2aの全域に走査させて、被膜形成対象面2aの全域に渡ってセラミック被膜を形成する。
【0056】
本実施形態の溶射装置1は、上記の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0057】
まず、本実施形態では、半導体モジュール2にセラミックの被膜を形成する際に、空気等の冷却用気体に対して比熱が大きい冷却水によって半導体モジュール2を冷却しているので、空気にて冷却する場合に対して、冷却効率を高めることができる。従って、小流量の冷却水によって半導体モジュール2を適切に冷却することができる。
【0058】
さらに、大流量の空気にて冷却する場合のように、半導体モジュール2が大流量の空気によって吹き飛ばされてしまうことがないので、半導体モジュール2を強固に保持固定する必要がない。その結果、溶射装置全体としての大型化を招くことなく半導体モジュールを適切に冷却することができる。
【0059】
しかも、保持部材5が半導体モジュール2を保持する際に、被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面より上方に位置付けられるように保持しているので、半導体モジュール2のうち被膜形成対象面2aを含まない一部および保持部材5を冷却水中に水没させた状態とすることができる。
【0060】
そして、この状態で、溶射ガン3からセラミックを溶射しているので、冷却水中に水没している部位に被膜が形成されることもない。従って、保持部材5に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材5から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、半導体モジュール2に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0061】
また、保持部材5として、保持面5aに貫通穴が形成されるメッシュ状の平板部材を採用しているので、保持部材5を冷却水中に水没させた際に、保持面5aと半導体モジュール2との間に気泡が混じることによって、被膜形成対象面2a以外の部位に被膜が形成されてしまうことや、半導体モジュール2の保持部材5に対する位置ずれが生じてしまうこと等の不具合を抑制できる。
【0062】
また、保持部材5が、複数の半導体モジュール2を保持しているので、同時に複数の半導体モジュール2に被膜を形成することができる。さらに、複数の半導体モジュール2は、互いに離間して配置された状態で保持されているので、セラミック被膜が形成された際に、被膜によって隣接する半導体モジュール2同士が接合されてしまうことを抑制できる。
【0063】
また、溶射ガン3から融解されたセラミックを噴射する際に、保持部材5とともに半導体モジュール2をケース4内の冷却液体用通路を流れる冷却水の流れ方向に対して逆方向に移動させているので、冷却水のうち温度の低い側へ半導体モジュール2を移動させることができ、半導体モジュール2を効率的に冷却することができる。
【0064】
さらに、本実施形態では、溶射装置1を用いることによって、以下のような被膜形成方法を実現していると表現することもできる。
【0065】
すなわち、半導体モジュール2を冷却する冷却水が流れる冷却液体用通路を形成するケース4を用意しておき、保持部材5に半導体モジュール2を保持させる保持工程を行う。この保持工程では、被膜形成対象面2aを含む半導体モジュール2の一部を冷却水の液面より上方に位置付けた状態で、保持部材5に半導体モジュール2を保持させる。
【0066】
さらに、保持工程を行った後に、溶射ガン3から融解されたセラミックを半導体モジュール2の被膜形成対象面2aへ吹き付ける溶射工程を行うことで、半導体モジュール2にセラミックの被膜を形成する被膜形成方法を実現している。
【0067】
この被膜形成方法によれば、保持工程にて、保持部材5に半導体モジュール2を保持させる際に、被膜形成対象面2aを含む半導体モジュール2の一部を冷却水の液面より上方に位置付けられるように保持させているので、半導体モジュール2の一部および保持部材5を冷却水中に水没させた状態で、半導体モジュール2を保持することができる。
【0068】
そして、この状態で、溶射ガン3からセラミックを噴射すれば、半導体モジュール2および保持部材5のうち冷却水中に水没している部位に被膜が形成されることもない。従って、保持部材5に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材5から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、半導体モジュール2に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0069】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、保持部材5上の複数の半導体モジュール2のうち隣り合う半導体モジュール2の間に配置されて、隣り合う半導体モジュール2同士が接触してしまうことを防止するための仕切部材7を追加した例を説明する。この仕切部材7は、半導体モジュール2の配列方向に延びる複数枚の板状の金属(例えば、アルミニウム、銅、ステンレス)によって形成されている。
【0070】
具体的には、図3、図4に示すように、保持部材5および半導体モジュール2の移動方向に延びる板状の金属、および、この移動方向に直交する方向に延びる板状の金属を、各半導体モジュール2の周囲を囲むように格子状に組み合わせたものである。また、図5に示すように、仕切部材7の上方側端部は、半導体モジュール2の上面よりも上方側まで延びている。
【0071】
なお、図3は、第1実施形態の図2に対応する図面である。図4は、保持部材5および仕切部材7が配置された保持部材5の上面図、すなわち溶射ガン3の噴射方向(本実施形態では、鉛直方向)から見た図である。図5は、図3のB部を模式的に拡大した拡大図である。また、図3〜5では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。このことは、以下の図面においても同様である。
【0072】
さらに、図5に示すように、半導体モジュール2および仕切部材7を鉛直方向から見たときの半導体モジュール2および仕切部材7との間には隙間(例えば、0.1mm以上)が設けられており、この隙間寸法をSとし、半導体モジュール2の厚み寸法をTとしたときに、隙間寸法Sおよび厚み寸法Tは、以下数式F1を満たすように設定されている。
【0073】
0<S/T≦0.25…(F1)
その他の構成および作動については、第1実施形態と同様である。
【0074】
従って、本実施形態の溶射装置1によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の溶射装置1によれば、その上方側端部が半導体モジュール2の上面よりも上方側まで伸びて、半導体モジュール2の周囲を囲むように格子状に形成された仕切部材7を設けているので、被膜によって隣接する半導体モジュール2同士が接合されてしまうことを確実に防止できる。
【0075】
さらに、半導体モジュール2と仕切部材7との間に隙間が設けられているので、被膜によって半導体モジュール2と仕切部材7が被膜によって接合されてしまうことも抑制できる。しかも、隙間寸法Sおよび厚み寸法Tが、数式F1を満たすように設定されているので、半導体モジュール2が溶射ガン3から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを効果的に抑制できる。
【0076】
このことを、図6を用いて詳細に説明する。図6は、図5と同様に図3のB部拡大図において、半導体モジュール2が傾いた状態を示している。
【0077】
本発明者らの試験検討によれば、半導体モジュール2が溶射ガン3からの噴射流によって吹き上げられたとしても、図6の傾き角θが30°以下であれば、半導体モジュール2が吹き飛ばされないことが判っている。そこで、本実施形態では、傾き角θが30°以下の範囲で、半導体モジュール2の端部が仕切部材7に当接するように数式F1を決定している。
【0078】
これにより、半導体モジュール2が、溶射ガン3からの噴射流によって吹き上げられたとしても、傾き角θが30°より大きくなることがないので、半導体モジュール2が溶射ガン3からの噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを抑制できる。
【0079】
(第3実施形態)
本実施形態では、第2実施形態に対して、図7に示すように、仕切部材7の上端部に、半導体モジュール2側へ突出する突出部7aを設けている。さらに、この突出部7aは、半導体モジュール2側へ向かって徐々に上方に傾く断面三角形状に形成されている。なお、図7は、本実施形態における図3のB部拡大図である。
【0080】
これにより、半導体モジュール2が、溶射ガン3から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き上げられたとしても、突出部7aにて半導体モジュール2が飛ばされてしまうことを効果的に抑制できる。また、突出部7aは、半導体モジュール2側へ向かって徐々に上方に傾く断面三角形状に形成されているので、被膜形成後、半導体モジュール2を保持部材5から取り外す際の作業性を向上できる。
【0081】
(第4実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、ケース4内の冷却水の液面が波打ってしまうことを抑制する制波板4dを追加している。具体的には、図8に示すようにケース4の内周壁面から保持部材5側へ延びる平面を有する平板状部材によって形成されている。なお、図8は、第1実施形態の図2に対応する図面である。
【0082】
このような制波板4dは、ケース4と同じ材質で形成してもよいし、他の金属、セラミック等で形成してもよい。また、本実施形態の制波板4dは、冷却水の水面の上方に配置されている。これによれば、溶射ガン3から噴射される膜用材料の噴射流によって冷却水の液面が波打つことを抑制することができる。従って、被膜形成対象面2aに冷却水の水滴が付着してしまうことを抑制して、被膜形成不良を効果的に抑制できる。
【0083】
また、図9のように、本実施形態の変形例として制波板4dを液面より下方側に水没させてもよい。これによれば、冷却水の液面が波打つことを抑制することができるとともに、制波板4dの上方から冷却水を排出することもできる。さらに、制波板4dにセラミック被膜が形成されてしまうことも抑制できる。
【0084】
なお、本実施形態で説明した制波板4dは、第2、第3実施形態で説明した仕切部材7と併用して用いてもよい。
【0085】
(第5実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、図10に示すように、半導体モジュール2の冷却態様を変更している。本実施形態では、具体的に冷却水ポンプから圧送される冷却水を、冷却水誘導配管4eを介して半導体モジュール2の被膜形成対象面2aの反対側の面に到達するまで吹き上げることによって、溶射によるセラミック被膜形成時の半導体モジュール2を冷却している。なお、図10は、第1実施形態の図2に対応する図面である。
【0086】
また、本実施形態においても、保持部材5が、第1実施形態と同様に半導体モジュール2を保持することによって、被膜形成対象面2aを含む半導体モジュール2の一部が冷却水誘導配管4eから吹き上げられる冷却水の液面よりも上方に位置付けられる。従って、本実施形態の溶射装置1によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の冷却態様は第2〜第4実施形態に適用してもよい。
【0087】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0088】
(1)上述の実施形態では、溶射装置1の形式として、プラズマを熱源として膜用材料を融解させるプラズマ溶射装置を採用した例を説明しているが、溶射装置の形式はこれに限定されない。例えば、アセチレンガス等の燃焼ガスの燃焼炎を熱源とするフレーム溶射装置等、その他の形式の溶射装置の形式を採用してもよい。
【0089】
(2)上述の実施形態では、基材として、半導体モジュール2を採用した例を説明したが、基材はこれに限定されない。例えば、金属板(アルミニウム、銅等)、セラミック板を採用してもよいし、必ずしも平板状である必要はなく、凹凸形状や湾曲形状の基材であってもよい。つまり、少なくとも基材の被膜形成対象面が冷却用液体の液面よりも上方に位置付けられるように保持されれば、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
(3)上述の実施形態では、膜用材料として、セラミックを採用した例を説明したが、膜用材料はこれに限定されない。例えば、アルミニウム、銅、スピネル(MgAl2O4)窒化アルミ(AlN)、酸化アルミ(Al2O3)等を採用してもよい。
【0091】
(4)上述の実施形態では、保持部材として金属ワイヤをメッシュ状に編み込んで平板状に形成したものを採用した例を説明したが、保持部材はこれに限定されない。例えば、金属板にその表裏を貫通する複数の貫通穴を設けたものを採用してもよい。
【0092】
(5)上述の実施形態では、基材搬送手段として移動用ローラ6を採用して、保持部材5を移動させることによって、保持部材5とともに基材である半導体モジュール2を移動させた例を説明したが、基材搬送手段はこれに限定されない。例えば、保持部材の側面から荷重をかけて、基材とともに保持部材を移動させる構成のものを採用してもよい。
【0093】
また、基材搬送手段として、基材のみを移動させる手段を採用してもよい。例えば、保持部材上に順次、基材を送り出し、被膜の形成されていない基材で被膜形成済みの基材を押し出す構成のものを採用してもよい。
【0094】
(6)上述の各実施形態の溶射装置1に対して、保持部材5を振動させる保持部材振動手段を追加してもよい。このような保持部材振動手段としては、超音波振動装置を採用できる。これにより、半導体モジュール(基材)2を保持部材5とともに振動させることができるので、隣接する半導体モジュール2同士、あるいは、隣接する半導体モジュール2と仕切部材7が被膜によって接合されてしまうことを効果的に抑制できる。
【0095】
(7)上述の第2実施形態では、仕切部材7として各半導体モジュール2の周囲を囲むように構成したものを採用しているが、仕切部材7はこれに限定されない。例えば、図11(a)に示すように、保持部材5および半導体モジュール2の移動方向に延びる板状の金属のみで構成してもよいし、図11(b)に示すように、移動方向に直交する方向に延びる板状の金属のみで構成してもよい。
【符号の説明】
【0096】
2 半導体モジュール
2a 被膜形成対象面
3 溶射ガン
4 ケース
4c 冷却水ポンプ4c
4d 制波板
5 保持部材
5a 保持面
6 移動用ローラ6
7 仕切部材7
7a 突出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射によって基材の被膜形成対象面に被膜を形成する溶射装置、および、溶射によって基材の被膜形成対象面に被膜を形成する被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属やセラミック等の膜用材料を加熱して溶解し、溶解した膜用材料を基材に吹き付ける溶射によって、基材に膜用材料の被膜を形成する溶射装置が知られている。例えば、特許文献1には、基材としての円筒状の金属製薄肉パイプ(以下、単にパイプと記載する)の外表面に被膜を形成する溶射装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1の溶射装置では、パイプを保持固定するための中空円筒状の中子(保持部材)をパイプの内部に嵌挿しておき、パイプの外表面に被膜を形成する際に、中子の内部に冷却用空気を流通させてパイプを冷却している。これにより、溶射時におけるパイプの熱変形や溶損の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−158810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基材に吹き付けられる膜用材料は、例えば、特許文献1のプラズマ溶射装置のようにプラズマを熱源として溶解されると、10000℃を超える高温に達することもある。そのため、特許文献1の溶射装置において、基材(パイプ)の熱変形や溶損を確実に抑制するためには、大流量の冷却用空気を流す必要がある。
【0006】
さらに、特許文献1では、基材(パイプ)の内部に中子(保持部材)を嵌挿して保持固定しているので、大流量の冷却用空気を流したとしても、冷却用空気によって基材が吹き飛ばされてしまうことを抑制しやすい。しかしながら、基材が板状部材等で形成されている場合には、基材が大流量の冷却用空気によって吹き飛ばされることのないように、基材を強固に保持することのできる保持部材が必要となる。
【0007】
このような、大流量の冷却用空気を流すための構成や、基材の強固な保持を実現する保持部材を採用することは、溶射装置全体としての大型化を招く原因となる。
【0008】
さらに、基材を強固に保持するために保持部材を大型化させると、基材の被膜形成対象面近傍の保持部材の表面積が増加して、保持部材にも被膜が形成されてしまうおそれがある。このように保持部材に被膜が形成されてしまうと、溶射の後に保持部材から被膜を除去するメンテナンス作業が必要となり、基材に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を招いてしまう。
【0009】
上記点に鑑み、本発明は、大型化を招くことなく基材を適切に冷却可能な溶射装置を提供することを第1の目的とする。
【0010】
また、本発明は、基材に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を招くことのない被膜形成方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、融解された膜用材料を基材(2)に吹き付ける溶射によって基材(2)の被膜形成対象面(2a)に膜用材料の被膜を形成する溶射装置であって、
被膜形成対象面(2a)に対して融解された膜用材料を噴射する溶射ガン(3)と、基材(2)を保持する保持部材(5)と、基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)とを備え、
保持部材(5)は、被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部が冷却用液体の液面より上方に位置付けられた状態で、基材(2)を保持することを特徴とする。
【0012】
これによれば、基材(2)に被膜を形成する際に、空気等の冷却用気体に対して比熱の大きい冷却用液体によって基材(2)を冷却するので、冷却用気体にて冷却する場合に対して、冷却効率を高めることができる。従って、小流量の冷却用液体によって基材(2)を適切に冷却することができる。
【0013】
さらに、大流量の冷却用気体にて冷却する場合のように、保持部材(5)によって基材(2)を強固に保持固定する必要も生じない。その結果、溶射装置全体としての大型化を招くことなく基材を適切に冷却することができる。
【0014】
しかも、保持部材(5)が基材(2)を保持する際に、少なくとも被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部が冷却用液体の液面より上方に位置付けられるように基材(2)を保持しているので、基材(2)のうち被膜形成対象面(2a)以外の部位および保持部材(5)を冷却用液体中に水没させた状態で、基材(2)を保持することができる。
【0015】
そして、この状態で、溶射ガン(3)から膜用材料を噴射すれば、基材(2)および保持部材(5)のうち冷却用液体中に水没している部位に被膜が形成されることがない。従って、保持部材(5)に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材(5)から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、基材(2)に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の溶射装置において、保持部材(5)は、基材(2)の下方側に当接して保持する保持面(5a)を有し、保持面(5a)には、その表裏を貫通して冷却用液体を通過させる貫通穴が形成されていることを特徴とする。
【0017】
これによれば、保持面(5a)に貫通穴が形成されているので、保持部材(5)を冷却用液体中に水没させた際に、保持面(5a)と基材(2)との間に気泡が混じることによって、被膜形成対象面(2a)以外の部位に被膜が形成されてしまうことや、基材(2)の保持部材(5)に対する位置ずれが生じてしまうこと等の不具合を抑制できる。
【0018】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の溶射装置において、基材(2)は、板状に形成されており、保持部材(5)は、互いに離間して配置された複数の基材(2)を保持することを特徴する。
【0019】
これによれば、同時に複数の基材(2)に被膜を形成することができる。さらに、複数の基材(2)が互いに離間して配置された状態で保持部材に保持されるので、被膜によって隣接する基材(2)同士が接合されてしまうことを抑制できる。
【0020】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の溶射装置において、保持部材(5)は、複数の基材(2)の間に配置されて、隣り合う基材(2)同士の接触を防止する仕切部材(7)を有し、仕切部材(7)の上方側端部は、基材(2)の上面よりも上方側まで延びていることを特徴とする。これにより、被膜によって隣接する基材(2)同士が接合されてしまうことを確実に抑制できる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の溶射装置において、基材(2)および仕切部材(7)を鉛直方向から見たときに、基材(2)および仕切部材(7)の間には隙間が設けられており、隙間の寸法をSとし、前記基材(2)の鉛直方向の厚み寸法をTとしたときに、
0<S/T≦0.25
となっていることを特徴とする。
【0022】
これによれば、基材(2)と仕切部材(7)との間に隙間が設けられているので、被膜によって基材(2)と仕切部材(7)が被膜によって接合されてしまうことを抑制できる。さらに、後述する実施形態に詳述するように、仕切部材(7)と仕切部材(7)との間に配置される基材(2)が、溶射ガン(3)から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを抑制できる。
【0023】
請求項6に記載の発明では、請求項4または5に記載の溶射装置において、さらに、それぞれの前記仕切部材(7)の上端部には、前記基材(2)側に突出する突出部(7a)が設けられていることを特徴とする。
【0024】
これにより、仕切部材(7)と仕切部材(7)との間に配置される基材(2)が、溶射ガン(3)から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを抑制できる。
【0025】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の溶射装置において、保持部材(5)を振動させる保持部材振動手段(8)を備えることを特徴とする。
【0026】
これにより、基材(2)を保持部材(5)とともに振動させることができるので、隣接する基材(2)同士、あるいは、隣接する基材(2)と仕切部材(7)が被膜によって接合されてしまうことを抑制できる。
【0027】
請求項8に記載の発明では、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の溶射装置において、ケース(4)は、溶射ガン(3)から噴射される膜用材料の流れによって冷却用液体の液面が波打つことを抑制する制波板(4)を有していることを特徴とする。
【0028】
これによれば、液面の波打ちによって被膜形成対象面(2a)に冷却用液体の水滴が付着してしまうことを抑制して、被膜形成不良を抑制できる。
【0029】
請求項9に記載の発明では、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の溶射装置において、冷却用液体を予め定めた所定の方向へ流す冷却用液体圧送手段(4c)と、基材(2)を、冷却用液体の流れ方向のうちの水平方向成分に対して逆方向に移動させる基材搬送手段(6)とを備えることを特徴とする。
【0030】
これによれば、冷却用液体の流れ方向と基材(2)の移動方向が逆向きになるので、温度の低い側へ基材(2)を移動させることができ、基材(2)を効率的に冷却することができる。
【0031】
さらに、請求項10に記載の発明のように、請求項9に記載の溶射装置において、基材搬送手段(6)は、保持部材(5)を移動させることによって、保持部材(5)とともに基材(2)を移動させるようになっていてもよい。
【0032】
また、請求項11に記載の発明では、融解された膜用材料を溶射ガン(3)から噴射して、保持部材(5)に保持された基材(2)の被膜形成対象面(2a)に膜用材料の被膜を形成する被膜形成方法であって、
基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)を用意しておき、保持部材(5)によって基材(2)を保持する保持工程と、保持工程の後に、溶射ガン(3)から膜用材料を被膜形成対象面(2a)へ吹き付ける溶射工程とを有し、保持工程では、被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部を冷却用液体の液面より上方に位置付けた状態で、基材(2)を保持することを特徴とする。
【0033】
これによれば、保持工程にて、保持部材(5)に基材(2)を保持させる際に、被膜形成対象面(2a)を含む基材(2)の一部を冷却用液体の液面より上方に位置付けられるように保持させているので、基材(2)の一部および保持部材(5)を冷却用液体中に水没させた状態で、基材(2)を保持することができる。
【0034】
そして、この状態で、溶射ガン(3)から膜用材料を噴射すれば、基材(2)および保持部材(5)のうち冷却用液体中に水没している部位に被膜が形成されることもない。従って、保持部材(5)に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材(5)から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、基材(2)に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0035】
なお、この欄および特許請求の範囲に記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の溶射装置の全体構成を示す外観斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】第2実施形態における図1のA−A断面図である。
【図4】第2実施形態の半導体モジュール、保持部材および仕切部材の上面図である。
【図5】図3のB部拡大図である。
【図6】半導体モジュールが傾いた際の図3のB部拡大図である。
【図7】第3実施形態における図3のB部拡大図である。
【図8】第4実施形態における図1のA−A断面図である。
【図9】第4実施形態の変形例における図1のA−A断面図である。
【図10】第5実施形態における図1のA−A断面図である。
【図11】第2実施形態の仕切部材の変形例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1実施形態)
図1、2により、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態の溶射装置1の全体構成を示す斜視図である。本実施形態では、この溶射装置1を、平板状に形成された半導体モジュール2の表面に、セラミック被膜を形成するために用いている。従って、本実施形態の基材は、半導体モジュール2であり、膜用材料はセラミックである。
【0038】
この半導体モジュール2は、板状に形成された半導体チップの両面に、半導体チップの熱を放熱させる伝熱部材としての金属板をはんだ付けにより接合した、いわゆる両面冷却型半導体カードモジュールである。従って、本実施形態の被膜形成対象面2aは、半導体チップに接合された伝熱部材の外表面となる。
【0039】
なお、伝熱部材は、銅、タングステン等の金属で形成されており、本実施形態の溶射装置1によって、伝熱部材の外表面にセラミック被膜が形成されることにより、伝熱部材と外部との電気的絶縁がなされるとともに、伝熱部材の防錆効果等を得ることができる。
【0040】
次に、溶射装置1について説明する。溶射装置1は、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aに対してセラミックを噴射する溶射ガン3、半導体モジュール2を冷却する冷却水が流れるケース4、このケース4内にて半導体モジュール2を保持固定する保持部材5等を有している。
【0041】
溶射ガン3は、アルゴン、窒素、ヘリウム(不活性ガス)などの作動ガス中でアノード陽極とカソード陰極との間にアーク放電させることによって発生するプラズマを熱源として融解されたセラミックを、半導体モジュール2へ向けて噴射するものである。つまり、本実施形態の溶射装置1は、プラズマ溶射装置として構成されている。
【0042】
さらに、溶射ガン3は、保持部材5に保持された状態の半導体モジュール2の被膜形成対象面2aに平行に溶射ガン3を移動させる移動装置3aに連結されている。これにより、溶射ガン3を複数の半導体モジュール2の被膜形成対象面2aの全域に走査させて、被膜形成対象面2aの全域に渡ってセラミック被膜を形成することができる。
【0043】
ケース4は、耐食性に優れるステンレスで形成されており、溶射ガン2側の上面が開口しているとともに、内部に冷却水である冷却水が流れる冷却用液体通路を形成するものである。また、ケース4には、冷却水を冷却用液体通路内へ流入させる流入口4a、および、冷却水を冷却用液体通路内から流出(排出)させる流出口4bが設けられている。
【0044】
流入口4aには、図示しない冷却水タンクから冷却水を汲み上げてケース4の冷却用液体通路へ圧送する冷却水ポンプ4cが接続されている。従って、ケース4内の冷却用液体通路へ流入した冷却水は。流入口4aから流出口4bへ向かう一定の方向に流れる。なお、冷却水としては、水、エチレングリコール水溶液、放電加工機に用いられる加工油等を採用することができる。
【0045】
保持部材5は、金属ワイヤをメッシュ状に編み込んで平板状に形成したものである。この保持部材5および保持部材5による半導体モジュール2の保持状態については、図2を用いて説明する。なお、図2は、図1のA−A断面の一部を模式的に図示した断面図である。
【0046】
保持部材5には、その上面に複数の半導体モジュール2の下方側の底面(すなわち被膜形成対称面2aの反対側の面)に当接して、複数の半導体モジュール2を保持する保持面5aが形成されている。換言すると、複数の半導体モジュール2は、被膜形成態様面2aを上面にして、保持部材5の保持面5a上に並べて配置されている。
【0047】
この際、複数の半導体モジュール2は、互いに接触することなく離間して配置されている。また、保持部材5は、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面より上方に位置付けられた状態で、半導体モジュール2を保持している。このような、冷却水の液面高さの調整は、ケース4内の冷却水の量を調整することで実現できる。
【0048】
例えば、ケース4内の冷却水の液面を検出する液面センサを設けておき、この液面センサの検出値に基づいて、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるように、フィードバック制御手法等によって冷却水ポンプ4cの圧送能力を調整すればよい。
【0049】
また、保持部材5は、メッシュ状に形成されていることにより、保持面5aには、その表裏を貫通して、保持面5aの反対側の面から保持面5a側へ冷却水を通過させて染み出させる複数の貫通穴が形成されている。さらに、保持部材5の下面(保持面5aの反対の面)は、保持部材5を移動させる保持部材搬送手段としての移動用ローラ6の円筒状外表面に接触している。
【0050】
移動用ローラ6は、図示しない電動モータから駆動力を得て回転し、この回転に伴って保持部材5を移動させる。さらに、本実施形態の半導体モジュール2は、保持部材5の保持面5a上に載せられた状態で保持されているので、移動用ローラ6の回転に伴って、保持部材5とともに半導体モジュール2も移動する。
【0051】
つまり、移動用ローラ6は、基材搬送手段としての機能を兼ね備えている。さらに、本実施形態の移動用ローラ6は、図1に示すように、ケース4内の冷却液体用通路を流れる冷却液体の流れ方向のうち水平方向の成分(白抜き破線矢印)に対して逆方向(太実践矢印)に、保持部材5を移動させている。
【0052】
次に、上記構成における本実施形態の溶射装置1の作動を説明する。本実施形態の溶射装置1を作動させる際には、保持部材5の保持面50a上に、複数の半導体モジュール2を離間して配置しておく。さらに、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるように、ケース4内の冷却水の量を調整する。具体的には、冷却水ポンプ4cの圧送能力を調整する。
【0053】
この際、被膜形成対象面2aのみに被膜を形成するためには、被膜形成対象面2aのみが冷却水の液面よりも上方に位置付けられることが望ましい。ところが、冷却水の液面と被膜形成対象面2aが近づくと、何らかの理由で冷却水が飛散した際に、被膜形成対象面2aに冷却水が付着してしまうおそれがある。このような冷却水の被膜形成対象面2aへの付着は、付着した部位の被膜形成不良を招く原因となる。
【0054】
そこで、本実施形態では、半導体モジュール2の被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面よりも上方に位置付けられるようにしている。つまり、被膜形成対象面2aの他に半導体モジュール2の側面のうち上方側端部が液面より上方に位置付けられるようにして、冷却水の被膜形成対象面2aへの付着を抑制している。さらに、本実施形態の保持部材5は、冷却水中に水没した状態で、半導体モジュール2を保持している。
【0055】
この状態で、移動用ローラ6を回転作動させて、保持部材5とともに半導体モジュール2をケース4内の冷却液体用通路を流れる冷却液体の流れ方向に対して逆方向に移動させる。さらに、溶射ガン3から融解されたセラミックを半導体モジュール2に吹き付ける。この際、移動装置3aが、溶射ガン3を被膜形成対象面2aの全域に走査させて、被膜形成対象面2aの全域に渡ってセラミック被膜を形成する。
【0056】
本実施形態の溶射装置1は、上記の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0057】
まず、本実施形態では、半導体モジュール2にセラミックの被膜を形成する際に、空気等の冷却用気体に対して比熱が大きい冷却水によって半導体モジュール2を冷却しているので、空気にて冷却する場合に対して、冷却効率を高めることができる。従って、小流量の冷却水によって半導体モジュール2を適切に冷却することができる。
【0058】
さらに、大流量の空気にて冷却する場合のように、半導体モジュール2が大流量の空気によって吹き飛ばされてしまうことがないので、半導体モジュール2を強固に保持固定する必要がない。その結果、溶射装置全体としての大型化を招くことなく半導体モジュールを適切に冷却することができる。
【0059】
しかも、保持部材5が半導体モジュール2を保持する際に、被膜形成対象面2aを含む一部が冷却水の液面より上方に位置付けられるように保持しているので、半導体モジュール2のうち被膜形成対象面2aを含まない一部および保持部材5を冷却水中に水没させた状態とすることができる。
【0060】
そして、この状態で、溶射ガン3からセラミックを溶射しているので、冷却水中に水没している部位に被膜が形成されることもない。従って、保持部材5に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材5から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、半導体モジュール2に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0061】
また、保持部材5として、保持面5aに貫通穴が形成されるメッシュ状の平板部材を採用しているので、保持部材5を冷却水中に水没させた際に、保持面5aと半導体モジュール2との間に気泡が混じることによって、被膜形成対象面2a以外の部位に被膜が形成されてしまうことや、半導体モジュール2の保持部材5に対する位置ずれが生じてしまうこと等の不具合を抑制できる。
【0062】
また、保持部材5が、複数の半導体モジュール2を保持しているので、同時に複数の半導体モジュール2に被膜を形成することができる。さらに、複数の半導体モジュール2は、互いに離間して配置された状態で保持されているので、セラミック被膜が形成された際に、被膜によって隣接する半導体モジュール2同士が接合されてしまうことを抑制できる。
【0063】
また、溶射ガン3から融解されたセラミックを噴射する際に、保持部材5とともに半導体モジュール2をケース4内の冷却液体用通路を流れる冷却水の流れ方向に対して逆方向に移動させているので、冷却水のうち温度の低い側へ半導体モジュール2を移動させることができ、半導体モジュール2を効率的に冷却することができる。
【0064】
さらに、本実施形態では、溶射装置1を用いることによって、以下のような被膜形成方法を実現していると表現することもできる。
【0065】
すなわち、半導体モジュール2を冷却する冷却水が流れる冷却液体用通路を形成するケース4を用意しておき、保持部材5に半導体モジュール2を保持させる保持工程を行う。この保持工程では、被膜形成対象面2aを含む半導体モジュール2の一部を冷却水の液面より上方に位置付けた状態で、保持部材5に半導体モジュール2を保持させる。
【0066】
さらに、保持工程を行った後に、溶射ガン3から融解されたセラミックを半導体モジュール2の被膜形成対象面2aへ吹き付ける溶射工程を行うことで、半導体モジュール2にセラミックの被膜を形成する被膜形成方法を実現している。
【0067】
この被膜形成方法によれば、保持工程にて、保持部材5に半導体モジュール2を保持させる際に、被膜形成対象面2aを含む半導体モジュール2の一部を冷却水の液面より上方に位置付けられるように保持させているので、半導体モジュール2の一部および保持部材5を冷却水中に水没させた状態で、半導体モジュール2を保持することができる。
【0068】
そして、この状態で、溶射ガン3からセラミックを噴射すれば、半導体モジュール2および保持部材5のうち冷却水中に水没している部位に被膜が形成されることもない。従って、保持部材5に被膜が形成されてしまうことを抑制でき、溶射の後に保持部材5から被膜を除去するメンテナンス作業を不要とすることができる。その結果、半導体モジュール2に被膜を形成する際の作業工程の複雑化を回避できる。
【0069】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、保持部材5上の複数の半導体モジュール2のうち隣り合う半導体モジュール2の間に配置されて、隣り合う半導体モジュール2同士が接触してしまうことを防止するための仕切部材7を追加した例を説明する。この仕切部材7は、半導体モジュール2の配列方向に延びる複数枚の板状の金属(例えば、アルミニウム、銅、ステンレス)によって形成されている。
【0070】
具体的には、図3、図4に示すように、保持部材5および半導体モジュール2の移動方向に延びる板状の金属、および、この移動方向に直交する方向に延びる板状の金属を、各半導体モジュール2の周囲を囲むように格子状に組み合わせたものである。また、図5に示すように、仕切部材7の上方側端部は、半導体モジュール2の上面よりも上方側まで延びている。
【0071】
なお、図3は、第1実施形態の図2に対応する図面である。図4は、保持部材5および仕切部材7が配置された保持部材5の上面図、すなわち溶射ガン3の噴射方向(本実施形態では、鉛直方向)から見た図である。図5は、図3のB部を模式的に拡大した拡大図である。また、図3〜5では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。このことは、以下の図面においても同様である。
【0072】
さらに、図5に示すように、半導体モジュール2および仕切部材7を鉛直方向から見たときの半導体モジュール2および仕切部材7との間には隙間(例えば、0.1mm以上)が設けられており、この隙間寸法をSとし、半導体モジュール2の厚み寸法をTとしたときに、隙間寸法Sおよび厚み寸法Tは、以下数式F1を満たすように設定されている。
【0073】
0<S/T≦0.25…(F1)
その他の構成および作動については、第1実施形態と同様である。
【0074】
従って、本実施形態の溶射装置1によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の溶射装置1によれば、その上方側端部が半導体モジュール2の上面よりも上方側まで伸びて、半導体モジュール2の周囲を囲むように格子状に形成された仕切部材7を設けているので、被膜によって隣接する半導体モジュール2同士が接合されてしまうことを確実に防止できる。
【0075】
さらに、半導体モジュール2と仕切部材7との間に隙間が設けられているので、被膜によって半導体モジュール2と仕切部材7が被膜によって接合されてしまうことも抑制できる。しかも、隙間寸法Sおよび厚み寸法Tが、数式F1を満たすように設定されているので、半導体モジュール2が溶射ガン3から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを効果的に抑制できる。
【0076】
このことを、図6を用いて詳細に説明する。図6は、図5と同様に図3のB部拡大図において、半導体モジュール2が傾いた状態を示している。
【0077】
本発明者らの試験検討によれば、半導体モジュール2が溶射ガン3からの噴射流によって吹き上げられたとしても、図6の傾き角θが30°以下であれば、半導体モジュール2が吹き飛ばされないことが判っている。そこで、本実施形態では、傾き角θが30°以下の範囲で、半導体モジュール2の端部が仕切部材7に当接するように数式F1を決定している。
【0078】
これにより、半導体モジュール2が、溶射ガン3からの噴射流によって吹き上げられたとしても、傾き角θが30°より大きくなることがないので、半導体モジュール2が溶射ガン3からの噴射流によって吹き飛ばされてしまうことを抑制できる。
【0079】
(第3実施形態)
本実施形態では、第2実施形態に対して、図7に示すように、仕切部材7の上端部に、半導体モジュール2側へ突出する突出部7aを設けている。さらに、この突出部7aは、半導体モジュール2側へ向かって徐々に上方に傾く断面三角形状に形成されている。なお、図7は、本実施形態における図3のB部拡大図である。
【0080】
これにより、半導体モジュール2が、溶射ガン3から噴射される膜用材料の噴射流によって吹き上げられたとしても、突出部7aにて半導体モジュール2が飛ばされてしまうことを効果的に抑制できる。また、突出部7aは、半導体モジュール2側へ向かって徐々に上方に傾く断面三角形状に形成されているので、被膜形成後、半導体モジュール2を保持部材5から取り外す際の作業性を向上できる。
【0081】
(第4実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、ケース4内の冷却水の液面が波打ってしまうことを抑制する制波板4dを追加している。具体的には、図8に示すようにケース4の内周壁面から保持部材5側へ延びる平面を有する平板状部材によって形成されている。なお、図8は、第1実施形態の図2に対応する図面である。
【0082】
このような制波板4dは、ケース4と同じ材質で形成してもよいし、他の金属、セラミック等で形成してもよい。また、本実施形態の制波板4dは、冷却水の水面の上方に配置されている。これによれば、溶射ガン3から噴射される膜用材料の噴射流によって冷却水の液面が波打つことを抑制することができる。従って、被膜形成対象面2aに冷却水の水滴が付着してしまうことを抑制して、被膜形成不良を効果的に抑制できる。
【0083】
また、図9のように、本実施形態の変形例として制波板4dを液面より下方側に水没させてもよい。これによれば、冷却水の液面が波打つことを抑制することができるとともに、制波板4dの上方から冷却水を排出することもできる。さらに、制波板4dにセラミック被膜が形成されてしまうことも抑制できる。
【0084】
なお、本実施形態で説明した制波板4dは、第2、第3実施形態で説明した仕切部材7と併用して用いてもよい。
【0085】
(第5実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、図10に示すように、半導体モジュール2の冷却態様を変更している。本実施形態では、具体的に冷却水ポンプから圧送される冷却水を、冷却水誘導配管4eを介して半導体モジュール2の被膜形成対象面2aの反対側の面に到達するまで吹き上げることによって、溶射によるセラミック被膜形成時の半導体モジュール2を冷却している。なお、図10は、第1実施形態の図2に対応する図面である。
【0086】
また、本実施形態においても、保持部材5が、第1実施形態と同様に半導体モジュール2を保持することによって、被膜形成対象面2aを含む半導体モジュール2の一部が冷却水誘導配管4eから吹き上げられる冷却水の液面よりも上方に位置付けられる。従って、本実施形態の溶射装置1によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の冷却態様は第2〜第4実施形態に適用してもよい。
【0087】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0088】
(1)上述の実施形態では、溶射装置1の形式として、プラズマを熱源として膜用材料を融解させるプラズマ溶射装置を採用した例を説明しているが、溶射装置の形式はこれに限定されない。例えば、アセチレンガス等の燃焼ガスの燃焼炎を熱源とするフレーム溶射装置等、その他の形式の溶射装置の形式を採用してもよい。
【0089】
(2)上述の実施形態では、基材として、半導体モジュール2を採用した例を説明したが、基材はこれに限定されない。例えば、金属板(アルミニウム、銅等)、セラミック板を採用してもよいし、必ずしも平板状である必要はなく、凹凸形状や湾曲形状の基材であってもよい。つまり、少なくとも基材の被膜形成対象面が冷却用液体の液面よりも上方に位置付けられるように保持されれば、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
(3)上述の実施形態では、膜用材料として、セラミックを採用した例を説明したが、膜用材料はこれに限定されない。例えば、アルミニウム、銅、スピネル(MgAl2O4)窒化アルミ(AlN)、酸化アルミ(Al2O3)等を採用してもよい。
【0091】
(4)上述の実施形態では、保持部材として金属ワイヤをメッシュ状に編み込んで平板状に形成したものを採用した例を説明したが、保持部材はこれに限定されない。例えば、金属板にその表裏を貫通する複数の貫通穴を設けたものを採用してもよい。
【0092】
(5)上述の実施形態では、基材搬送手段として移動用ローラ6を採用して、保持部材5を移動させることによって、保持部材5とともに基材である半導体モジュール2を移動させた例を説明したが、基材搬送手段はこれに限定されない。例えば、保持部材の側面から荷重をかけて、基材とともに保持部材を移動させる構成のものを採用してもよい。
【0093】
また、基材搬送手段として、基材のみを移動させる手段を採用してもよい。例えば、保持部材上に順次、基材を送り出し、被膜の形成されていない基材で被膜形成済みの基材を押し出す構成のものを採用してもよい。
【0094】
(6)上述の各実施形態の溶射装置1に対して、保持部材5を振動させる保持部材振動手段を追加してもよい。このような保持部材振動手段としては、超音波振動装置を採用できる。これにより、半導体モジュール(基材)2を保持部材5とともに振動させることができるので、隣接する半導体モジュール2同士、あるいは、隣接する半導体モジュール2と仕切部材7が被膜によって接合されてしまうことを効果的に抑制できる。
【0095】
(7)上述の第2実施形態では、仕切部材7として各半導体モジュール2の周囲を囲むように構成したものを採用しているが、仕切部材7はこれに限定されない。例えば、図11(a)に示すように、保持部材5および半導体モジュール2の移動方向に延びる板状の金属のみで構成してもよいし、図11(b)に示すように、移動方向に直交する方向に延びる板状の金属のみで構成してもよい。
【符号の説明】
【0096】
2 半導体モジュール
2a 被膜形成対象面
3 溶射ガン
4 ケース
4c 冷却水ポンプ4c
4d 制波板
5 保持部材
5a 保持面
6 移動用ローラ6
7 仕切部材7
7a 突出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解された膜用材料を基材(2)に吹き付ける溶射によって前記基材(2)の被膜形成対象面(2a)に前記膜用材料の被膜を形成する溶射装置であって、
前記被膜形成対象面(2a)に対して融解された前記膜用材料を噴射する溶射ガン(3)と、
前記基材(2)を保持する保持部材(5)と、
前記基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)とを備え、
前記保持部材(5)は、前記被膜形成対象面(2a)を含む前記基材(2)の一部が前記冷却用液体の液面より上方に位置付けられた状態で、前記基材(2)を保持することを特徴とする溶射装置。
【請求項2】
前記保持部材(5)は、前記基材(2)の下方側に当接して保持する保持面(5a)を有し、
前記保持面(5a)には、その表裏を貫通して前記冷却用液体を通過させる貫通穴が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記基材(2)は、板状に形成されており、
前記保持部材(5)は、互いに離間して配置された複数の基材(2)を保持することを特徴とする請求項1または2に記載の溶射装置。
【請求項4】
前記保持部材(5)は、前記複数の基材(2)の間に配置されて、それぞれの前記基材(2)同士の接触を防止する仕切部材(7)を有し、
前記仕切部材(7)の上方側端部は、前記基材(2)の上面よりも上方側まで延びていることを特徴とする請求項3に記載の溶射装置。
【請求項5】
前記基材(2)および前記仕切部材(7)を鉛直方向から見たときに、
前記基材(2)および前記仕切部材(7)の間には隙間が設けられており、前記隙間の寸法をSとし、前記基材(2)の鉛直方向の厚み寸法をTとしたときに、
0<S/T≦0.25
となっていることを特徴とする請求項4に記載の溶射装置。
【請求項6】
さらに、それぞれの前記仕切部材(7)の上端部には、前記基材(2)側に突出する突出部(7a)が設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の溶射装置。
【請求項7】
前記保持部材(5)を振動させる保持部材振動手段(8)を備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の溶射装置。
【請求項8】
前記ケース(4)は、前記溶射ガン(3)から噴射される前記膜用材料の流れによって前記冷却用液体の液面が波打つことを抑制する制波板(4)を有していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の溶射装置。
【請求項9】
前記冷却用液体を予め定めた所定の方向へ流す冷却用液体圧送手段(4c)と、
前記基材(2)を、前記冷却用液体の流れ方向のうちの水平方向成分に対して逆方向に移動させる基材搬送手段(6)とを備えることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の溶射装置。
【請求項10】
前記基材搬送手段(6)は、前記保持部材(5)を移動させることによって、前記保持部材(5)とともに前記基材(2)を移動させることを特徴とする請求項9に記載の溶射装置。
【請求項11】
融解された膜用材料を溶射ガン(3)から噴射して、保持部材(5)に保持された基材(2)の被膜形成対象面(2a)に前記膜用材料の被膜を形成する被膜形成方法であって、
前記基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)を用意しておき、
前記保持部材(5)によって前記基材(2)を保持する保持工程と、
前記保持工程の後に、前記溶射ガン(3)から前記膜用材料を前記被膜形成対象面(2a)へ吹き付ける溶射工程とを有し、
前記保持工程では、前記被膜形成対象面(2a)を含む前記基材(2)の一部を前記冷却用液体の液面より上方に位置付けた状態で、前記基材(2)を保持することを特徴とする被膜形成方法。
【請求項1】
融解された膜用材料を基材(2)に吹き付ける溶射によって前記基材(2)の被膜形成対象面(2a)に前記膜用材料の被膜を形成する溶射装置であって、
前記被膜形成対象面(2a)に対して融解された前記膜用材料を噴射する溶射ガン(3)と、
前記基材(2)を保持する保持部材(5)と、
前記基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)とを備え、
前記保持部材(5)は、前記被膜形成対象面(2a)を含む前記基材(2)の一部が前記冷却用液体の液面より上方に位置付けられた状態で、前記基材(2)を保持することを特徴とする溶射装置。
【請求項2】
前記保持部材(5)は、前記基材(2)の下方側に当接して保持する保持面(5a)を有し、
前記保持面(5a)には、その表裏を貫通して前記冷却用液体を通過させる貫通穴が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記基材(2)は、板状に形成されており、
前記保持部材(5)は、互いに離間して配置された複数の基材(2)を保持することを特徴とする請求項1または2に記載の溶射装置。
【請求項4】
前記保持部材(5)は、前記複数の基材(2)の間に配置されて、それぞれの前記基材(2)同士の接触を防止する仕切部材(7)を有し、
前記仕切部材(7)の上方側端部は、前記基材(2)の上面よりも上方側まで延びていることを特徴とする請求項3に記載の溶射装置。
【請求項5】
前記基材(2)および前記仕切部材(7)を鉛直方向から見たときに、
前記基材(2)および前記仕切部材(7)の間には隙間が設けられており、前記隙間の寸法をSとし、前記基材(2)の鉛直方向の厚み寸法をTとしたときに、
0<S/T≦0.25
となっていることを特徴とする請求項4に記載の溶射装置。
【請求項6】
さらに、それぞれの前記仕切部材(7)の上端部には、前記基材(2)側に突出する突出部(7a)が設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の溶射装置。
【請求項7】
前記保持部材(5)を振動させる保持部材振動手段(8)を備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の溶射装置。
【請求項8】
前記ケース(4)は、前記溶射ガン(3)から噴射される前記膜用材料の流れによって前記冷却用液体の液面が波打つことを抑制する制波板(4)を有していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の溶射装置。
【請求項9】
前記冷却用液体を予め定めた所定の方向へ流す冷却用液体圧送手段(4c)と、
前記基材(2)を、前記冷却用液体の流れ方向のうちの水平方向成分に対して逆方向に移動させる基材搬送手段(6)とを備えることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の溶射装置。
【請求項10】
前記基材搬送手段(6)は、前記保持部材(5)を移動させることによって、前記保持部材(5)とともに前記基材(2)を移動させることを特徴とする請求項9に記載の溶射装置。
【請求項11】
融解された膜用材料を溶射ガン(3)から噴射して、保持部材(5)に保持された基材(2)の被膜形成対象面(2a)に前記膜用材料の被膜を形成する被膜形成方法であって、
前記基材(2)を冷却する冷却用液体が流れる冷却用液体通路を形成するケース(4)を用意しておき、
前記保持部材(5)によって前記基材(2)を保持する保持工程と、
前記保持工程の後に、前記溶射ガン(3)から前記膜用材料を前記被膜形成対象面(2a)へ吹き付ける溶射工程とを有し、
前記保持工程では、前記被膜形成対象面(2a)を含む前記基材(2)の一部を前記冷却用液体の液面より上方に位置付けた状態で、前記基材(2)を保持することを特徴とする被膜形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−82443(P2012−82443A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226878(P2010−226878)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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