説明

溶接シミュレータ

【課題】簡易な構成でより効率的な溶接作業の学習が可能な溶接シミュレータを提供する。
【解決手段】溶接シミュレータ1は、3つのターゲット22a,22b,22cを有する溶接トーチ20と、ターゲット11a,11b,11cを有し溶接対象Mを表示するモニタ10と、溶接トーチ20のターゲット22a,22b,22c及びモニタ10のターゲット11a,11b,11cを検知して溶接トーチ20のモニタ10に対する位置及び角度を検出するカメラセンサ30と、モニタ10上の表示を制御する制御部40と、を備えている。ここで、制御部40は、使用者がモニタ10上の溶接対象Mに溶接トーチ20を当てるようにして溶接作業を模擬した場合に、カメラセンサ30により検出された位置及び角度に応じてモニタ上の溶接対象Mに溶接部をリアルタイムで表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業の学習を行うための溶接シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接技能者の溶接訓練は実作業に熟練した熟練者の指導の下に行われてきた。すなわち、溶接作業の技能習得については、母材等の溶接対象物を実際に溶接させる実務訓練により行うことが通常であった。このような実務訓練においては、熟練者から実務時間中に指導を受ける必要があるため、訓練を受ける時間が制限されるという問題があった。
【0003】
そこで、上記の問題に対応するため、下記の特許文献1に示すような溶接シミュレータが開発されている。この溶接シミュレータでは、実務作業外で熟練者がいない場合でも溶接技能訓練を行うことが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−71140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような溶接シミュレータを利用した場合であっても、母材等の溶接対象物が訓練回数分必要になること、そして材料やマスク等の保護具の準備が必要になる等の理由から基本動作技能を習得するのに多大な時間と費用を要するという問題がある。よって、このような溶接シミュレータにおいては、時間と費用を抑えて溶接作業の習得をより効率的に行うことが可能な装置の開発が要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、溶接作業の学習を効率的に行うことが可能な溶接シミュレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る溶接シミュレータは、少なくとも3つの被検知部を有する溶接トーチと、少なくとも3つの被検知部を有し、溶接対象を表示するモニタと、溶接トーチの被検知部及びモニタの被検知部を検知して、溶接トーチのモニタに対する位置及び角度を検出するカメラセンサと、モニタの表示を少なくとも制御する制御部とを備え、制御部は、使用者がモニタ上の溶接対象に溶接トーチを当てるようにして溶接作業を模擬した場合に、カメラセンサにより検出された位置及び角度に応じてモニタ上の溶接対象に溶接部をリアルタイムで表示させること、を特徴とする。
【0008】
この本発明に係る溶接シミュレータでは、溶接トーチの3つの被検知部及びモニタの3つの被検知部がカメラセンサにより検知され、溶接トーチのモニタに対する位置及び角度が精度よく把握される。よって、使用者がモニタ上の溶接対象に溶接トーチを当てるようにして溶接作業を模擬した場合、カメラセンサにより検出された位置及び角度に応じて、モニタ上の溶接対象にあたかも溶接を施したように溶接部がリアルタイムで精度よく表示されることとなる。その結果、溶接作業を精度よくシミュレートできるとともに、溶接対象物等の準備を不要にし、溶接技能の習得にかかる時間及び費用を抑えることが可能になる。従って、本発明によれば、溶接作業の学習を効率的に行うことができる。
【0009】
また、溶接作業の学習を支援する学習アシスト手段を備えたことが好ましい。ここで、学習アシスト手段が行う支援としては、例えば溶接トーチの運棒を音声によりガイドする音声ガイドや、モニタへの文字表示により溶接トーチの運棒法をガイドする表示ガイド等が挙げられる。この学習アシスト手段を備えることにより、より一層効率的に溶接作業を学習することが可能となる。
【0010】
また、溶接作業に関する音の出力及びモニタへの表示、の少なくとも一方を行うことにより、溶接作業の臨場感を高める臨場感生成手段を備えたことが好ましい。この臨場感生成手段によれば、例えば実際の溶接音の出力や、モニタ上への火花の表示等が行われ、これにより、溶接作業の臨場感を更に高め、より一層効率的に溶接作業を学習することが可能となる。
【0011】
また、モニタはその表示面の向きが変化するように傾動可能に設けられ、カメラセンサは、モニタの姿勢に応じて可動することが好ましい。これにより、カメラセンサによる溶接トーチ及びモニタの位置等の検出精度を高めることができる。
【0012】
また、使用者による溶接作業の模擬内容を記録する記録手段と、記録手段に記録された模擬内容をモニタ上で再生する再生手段と、を備えたことが好ましい。これにより、例えば利用者が自己の溶接作業のシミュレート結果を振り返り復習することが可能になる。また、熟練者のシミュレート結果を記録させ当該シミュレート結果をモニタ上に手本として再生させることも可能となり、より一層効率的に溶接作業を学習することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、効率的な溶接作業の学習が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る溶接シミュレータの立向溶接訓練時を示す左斜め上方から見た斜視図である。
【図2】本実施形態に係る溶接シミュレータの下向溶接訓練時を示す左斜め上方から見た斜視図である。
【図3】本実施形態に係る溶接シミュレータにおいて溶接作業の学習を行う際のモニタと溶接トーチの位置関係を示す図である。
【図4】本実施形態に係る溶接シミュレータの制御部を示すブロック図である。
【図5】本実施形態に係る溶接シミュレータの使用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、「前」「後」「左」「右」「上」「下」の語は図面の状態に基づく便宜上のものであり、実際の方向はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は本実施形態に係る溶接シミュレータの立向溶接訓練時を示す左斜め上方から見た斜視図、図2は溶接シミュレータの下向溶接訓練時を示す左斜め上方から見た斜視図、図3は溶接シミュレータにおいて溶接作業の学習を行う際のモニタと溶接トーチの位置関係を示す図、図4は溶接シミュレータの制御部を示すブロック図、図5は溶接シミュレータの使用を説明する図である。
【0017】
図1,2に示すように、本実施形態に係る溶接シミュレータ1は、半自動アーク溶接等の溶接作業を学習するために溶接作業を模擬的に行うこと(以下、「溶接模擬作業」と称する)が可能な装置であり、溶接技能者の溶接訓練に用いられるものである。溶接シミュレータ1は、ラック2、キャスタ3、カメラセンサ支持部材4、モニタ10、溶接トーチ20、カメラセンサ30及び制御部40を備えている。
【0018】
ラック2は、複数の梁で構成された枠体構造とされており略長方形外形を呈している。キャスタ3は、溶接シミュレータ1を前後左右に移動させるためのものとして、ラック2の下面の四隅に1個ずつ設けられている。
【0019】
カメラセンサ支持部材4は、ラック2の上面の前方右側に設けられる支持部材4aと、支持部材4aに対し左右方向に延びる軸回りに回転可能に支持される棒状部材4bと、を備えている。
【0020】
モニタ10は、その表示面10a上に、鉄鋼板材等の母材である溶接対象M、及び溶接模擬作業の結果である溶接部B(図5参照)をCG画像として表示する。また、このモニタ10は、操作画面(操作アイコン)Aを表示する。また、モニタ10は、傾動機構19によりラック2に設けられており、その表示面10aの向きが変化するよう傾動可能に構成されている。具体的には、モニタ10の姿勢は、傾動機構19により、表示面10aが上向きの水平姿勢の状態(図2参照)と、表示面10aが前向きの立向姿勢の状態(図1参照)と、の間で可変とされている。
【0021】
モニタ10としては、例えば矩形板状の液晶モニタ等が用いられている。また、モニタ10の表示面10aは、高硬度の強化ガラスを用いた保護パネルで保護されている。立向姿勢時の状態において、モニタ10の前面における左上の隅部には、3つのターゲット(被検知部)11a,11b,11cが設けられ、モニタ10の上面における左前の隅部には、3つのターゲット(被検知部)12a,12b,12cが設けられている。
【0022】
3つのターゲット11a,11b,11cは、モニタ10に対する溶接トーチ20の相対位置、相対角度及び相対速度等を検知させるための検知マークであり、図2,3に示すように、逆L字状に並設されている。具体的には、ターゲット11aは表示面10aの左上の端部に設けられ、ターゲット11bはターゲット11aの右方に隣接して設けられ、ターゲット11cはターゲット11aの下方に隣接して設けられている。
【0023】
これらターゲット11a,11b,11cのそれぞれは、4分割の市松模様を有する円形状に形成されている。つまり、ターゲット11a,11b,11cは、その中心の右上部分及び左下部分が黒色又は白色のいずれか一方とされているとともに、左上部分及び右下部分が黒色又は白色のいずれか他方とされている。なお、以下において、ターゲット11a,11b,11cをまとめてターゲット11とも称す。
【0024】
3つのターゲット12a,12b,12cは、モニタ10に対する溶接トーチ20の相対位置、相対角度及び相対速度等を検知させるための検知マークであり、図1に示すように、L字形に重なり合って設けられている。具体的には、ターゲット12bがターゲット12aの右方に、ターゲット12cがターゲット12aの上方、に互いに半分ずつ重なり合って設けられている。これらターゲット12a,12b,12cのそれぞれは、ターゲット11a,11b,11cと同様に、4分割の市松模様を有する円形状に形成されている。なお、以下において、ターゲット12a,12b,12cをまとめてターゲット12とも称す。
【0025】
溶接トーチ20は、溶接シミュレータ1を操作するための部位であり、実際の溶接作業において使用する溶接トーチが利用されている。この溶接トーチ20では、トーチ先端部21と被検知モジュール22と把持部23とが、接続コード24上にて先端側から根元側に向けてこの順で設けられている。
【0026】
被検知モジュール22は、図3に示すように、3つのターゲット(被検知部)22a,22b,22c及びターゲット支持部材22dを有している。ターゲット支持部材22dは、板状を呈し、接続コード24におけるトーチ先端部21の根元側に設けられている。
【0027】
3つのターゲット22a,22b,22cは、モニタ10に対する溶接トーチ20の相対位置、相対角度及び相対速度等を検知させるための検知マークであり、ターゲット支持部材22dの根元側の面にL字形に重なり合って設けられている。具体的には、ターゲット22aは、ターゲット支持部材22dの左下、ターゲット22bはターゲット22aの右方、ターゲット22cはターゲット22aの上方、に互いに半分ずつ重なり合って設けられている。これらターゲット22a,22b,22cのそれぞれは、ターゲット11a,11b,11c,12a,12b,12cと同様に、4分割の市松模様を有する円形状に形成されている。なお、以下において、ターゲット22a,22b,22cをまとめてターゲット22とも称す。
【0028】
把持部23は、溶接シミュレータ1を用いて溶接模擬作業を行う訓練者(使用者)が把持するための部材である。この把持部23は、接続コード24における被検知モジュール22よりも所定長だけ根元側に設けられている。把持部23には、溶接模擬作業の開始及び終了や操作画面Aでの操作を実行するためのレバー23aが設けられている。
【0029】
図1,2に戻り、接続コード24の根元側は、ラック2の後方下部に配設された接続部材25に接続されている。接続部材25は、ケーブル26及びコネクタ27により、制御部40に接続されている。
【0030】
カメラセンサ30は、例えばサブミリ精度で位置計測及び角度計測が可能なセンサである。カメラセンサ30は、カメラセンサ支持部材4によりラック2に支持されている。これにより、支持部材4aを中心に棒状部材4bを回転させることで、カメラセンサ30の位置が上下且つ前後に可動される。その結果、カメラセンサ30は、モニタ10の姿勢に応じて可動できるようになっている。なお、ここでのカメラセンサ30は、そのカメラ向きが可変となるように棒状部材4bに取り付けられている。カメラセンサ30は、図示しないケーブルを介して制御部40に接続されている。
【0031】
このカメラセンサ30は、モニタ10上におけるターゲット11又はターゲット12と溶接トーチ20上におけるターゲット22とを検知して、溶接トーチ20のモニタ10に対する3次元の相対位置、相対角度及び相対速度等の情報を検出する。
【0032】
具体的には、カメラセンサ30は、ターゲット11又はターゲット12とターゲット22とにおける市松模様を撮影し、撮影した市松模様の位置から、溶接トーチ20のモニタ10に対する位置を検出する。また、カメラセンサ30は、撮影した市松模様の形状及び傾きから、溶接トーチ20のモニタ10に対する角度を検出する。カメラセンサ30により検出された情報は、電気信号としてリアルタイムに制御部40に送信される。
【0033】
制御部40は、ラック2の内部後方に設けられ、接続部材25の上面に載置保持されている。制御部40は、図4に示すように、溶接模擬作業を実施するための溶接模擬プログラム46を有している。この溶接模擬プログラム46では、訓練者Hがモニタ10に表示された溶接対象Mに溶接トーチ20を当てるようにして溶接模擬作業をした場合、カメラセンサ30に検出された溶接トーチ20のモニタ10に対する位置及び角度等の情報に応じて、モニタ10上にビード等の溶接部Bをリアルタイムで表示させる機能を実行させる(図5参照)。なお、制御部40としては、パーソナルコンピュータ等を用いることもできる。
【0034】
また、制御部40には、上記溶接作業をシミュレート(模擬)するための様々なプログラムが格納されている。具体的には、溶接作業の学習を支援する学習アシストプログラム41、溶接作業の臨場感を高める臨場感生成プログラム42、溶接作業の模擬内容を記録する記録プログラム43、記録プログラム43に記録された溶接作業の模擬内容を再生する再生プログラム44、及び装置の設定変更等を行うための管理プログラム45を有している。
【0035】
学習アシストプログラム41は、文字アシスト機能41a、音声アシスト機能41b、結果表示機能41c、合否判定機能41d、及び運棒ガイド機能41eを有する。文字アシスト機能41a及び音声アシスト機能41bは、例えば、ある線に沿って溶接トーチ20の運棒を行う場合において、その線から逸脱した箇所に運棒をした場合(許容範囲を超えた場合)に、その旨を警告等としてモニタ10に表示させる。また、文字アシスト機能41a及び音声アシスト機能41bは、図示しないスピーカから警告音を発生させる機能、溶接作業を指導する文字ガイド機能や音声ガイド機能を含んでいる。なお、文字アシスト機能41aにより表示される文字の言語は、後述する管理プログラム45により、日本語、英語、中国語及びベトナム語等に適宜変更することができる。
【0036】
結果表示機能41cは、溶接模擬作業の終了後に、運棒の軌跡、角度、速度、エクステンション及びピッチ等を例えばグラフとしてモニタ10上に表示させる機能である。合否判定機能41dは、許容範囲と実際の溶接模擬作業の内容(運棒の際の溶接トーチ20の角度、速度等)とを照らし合わせて、溶接模擬作業終了時にその合否をモニタ10上に表示させる機能である。
【0037】
なお、上記の許容範囲は、管理プログラム45により適宜変更することができるようになっている。また、運棒ガイド機能41eは、モニタ10上の溶接対象M上に理想の軌跡となる線が表示され、訓練者Hが溶接トーチ20の動きをその理想の軌跡に合わせていくことにより溶接作業の練習をすることができる機能である。
【0038】
臨場感生成プログラム42は、例えばアークが出ている箇所以外の箇所を暗くすることにより溶接マスクを被った状態をモニタ10上に再現させる機能、溶接音をスピーカから出力する機能、及び火花をモニタ10上に表示させる機能を含んでいる。
【0039】
記録プログラム43は、溶接シミュレータ1において行われた溶接模擬作業を記録する機能を有する。具体的には、上記学習アシストプログラム41及び臨場感生成プログラム42により、モニタ10上に表示された内容並びに音声ガイド及び溶接音等の音声を記録させることができるようになっている。
【0040】
再生プログラム44は、上記記録プログラム43により記録された溶接作業の模擬内容をモニタ10上に再生させる機能を含んでいる。具体的には、自己の溶接模擬作業及び熟練者の見本となりうる溶接模擬作業等を少なくともモニタ10に視覚的に且つ音声として再生させることができる機能を含んでいる。
【0041】
管理プログラム45は、訓練者管理機能45a、訓練条件管理機能45b、表示条件管理機能45c、及びビード特性管理機能45dを含んでいる。訓練者管理機能45aは、訓練者を、訓練者ID、氏名、利き手、及び所属部署等に紐付けて登録する機能である。また、訓練条件管理機能45bは、訓練者の情報を変更又は削除する機能、訓練者ごとの訓練履歴を表示する機能を含んでいる。訓練条件管理機能45bは、訓練レベル、溶接時間及び角度等の許容範囲を設定する機能である。表示条件管理機能45cは、溶接対象Mをモニタ10に表示させる際の表示態様(例えば、火花の表示における明るさ等)の設定変更を行う機能である。ビード特性管理機能45dは、溶接模擬作業の際に表示される溶接対象Mの溶接部Bの厚さ等を設定する機能である。
【0042】
次に、本実施形態における溶接シミュレータ1を用いて訓練者が溶接模擬作業を行う方法及び作用の一例について説明する。
【0043】
まず、モニタ10の電源を投入した後に、制御部40の電源を投入する。続いて、図1,2に示すように、立向溶接訓練を行う立向溶接訓練時には、傾動機構19により、モニタ10の表示面10aの向きを、表示面10aが前方を向いた状態(以下、「立向姿勢」と称する)とする。又は、下向溶接訓練を行う下向溶接訓練時には、傾動機構19により、モニタ10の表示面10aの向きを、表示面10aが上方を向いた状態(以下、「水平姿勢」と称する)のいずれか一方にする。
【0044】
続いて、モニタ10の姿勢に応じて、カメラセンサ30を可動させ、ターゲット11又はターゲット12とターゲット22とを検知するための最適な位置にカメラセンサ30を移動させる。具体的には、立向姿勢のときには、棒状部材4bを支持部材4aの左右軸を中心に回転移動させてカメラセンサ30を上方且つ前方に可動させる。又は、水平姿勢のときには、棒状部材4bを支持部材4aの左右軸を中心に回転移動させてカメラセンサ30を下方且つ後方に可動させる。
【0045】
また、電源を投入した後、モニタ10上に設定画面Aが表示される。そこで、溶接トーチ20をポインティングデバイスとして使用し、当該設定画面Aにおいて自己の氏名等を選択してOKボタンを押下するとともに、溶接対象Mの状態等、溶接条件を選択してOKボタンを押下する。なお、溶接対象Mの状態とは、例えば、水平隅肉か若しくは立向隅肉か、又は、これらの水平隅肉若しくは立向隅肉をどのような角度(傾き)で表示させるか等のことを意味している。
【0046】
その後、保護具を着用しているか否かを確認する安全確認画面がモニタ10上に表示される。これは、実作業に近い訓練とするために表示される画面である。そこで、当該安全確認画面においてOKボタンを押下すると、訓練条件の条件確認画面が表示され、更にOKボタンを押下すると、モニタ10上に溶接対象Mが表示され、これにより、溶接模擬作業の開始可能状態となる。
【0047】
この開始可能状態で、図5に示すように、溶接トーチ20の把持部23を把持し、レバー23aを動かすと、モニタ10上にて溶接模擬作業が開始される。そして、表示面10aに対して適切な距離を維持させながら所定の速度及び角度でトーチ先端部21を移動させて溶接模擬作業を行うと、次の処理が実行される。すなわち、カメラセンサ30により、モニタ10のターゲット11又はターゲット12と溶接トーチ20のターゲット22とが撮影される。これとともに、ターゲット11又はターゲット12とターゲット22とにおける市松模様の位置、形状及び傾きの変化に基づいて、溶接模擬作業中のモニタ10に対する溶接トーチ20の位置、速度、角度等が検出され、検出された情報がリアルタイムで制御部40に送信される。
【0048】
制御部40においては、カメラセンサ30から送信された位置、速度、角度等の情報に応じた長さ、幅、深さ等の形状を有する溶接部Bが、かかる送信と同時並列的に求められる。そして、当該溶接部Bが表示面10a上の溶接対象Mの対応箇所に、リアルタイムで出現される。換言すると、訓練者の溶接模擬作業時における溶接トーチ20と表示面10aとの距離、向き、速度等に応じて、溶接対象Mの溶接しようとする箇所に徐々に3次元的な盛り上がりを生じさせ、その形状等がリアルタイムに変化される。
【0049】
なお、溶接模擬作業中において、レバー23aを再度押下すると、溶け出す溶接対象Mの量を減らしたり、溶接の炎の描画を小さくしたり、あるいは溶接の火花を小さくすることができる。
【0050】
続いて、全ての溶接模擬作業が終了すると、上述した合否判定機能41dにより合否画面がモニタ10上に表示される。また、結果表示機能41cにより溶接模擬作業の結果(運棒の軌跡、角度、速度、エクステンション及びピッチ等)がグラフとしてモニタ10上に表示される。
【0051】
以上、本実施形態に係る溶接シミュレータ1では、溶接トーチ20の3つのターゲット22a,22b,22cがカメラセンサ30により検知される。これと共に、モニタ10のターゲット11a,11b,11c又はターゲット12a,12b,12cがカメラセンサ30により検知される。そして、溶接トーチ20のモニタ10に対する3次元の位置、角度及び速度が精度よく検出されて把握される。よって、訓練者Hがモニタ10上の溶接対象Mに溶接トーチ20で溶接模擬作業を実施した場合、カメラセンサ30により検出された位置、角度及び速度に応じて、モニタ10上の溶接対象Mにあたかも溶接を施したように溶接部Bがリアルタイムで精度よく表示されることとなる。
【0052】
その結果、溶接作業を精度よくシミュレートできるとともに、実際に溶接対象物等を訓練の都度準備することが不要となり、溶接技能の習得にかかる時間及び費用を抑えることが可能になる。また、溶接模擬作業を行っている状態を視覚的にわかりやすく、溶接模擬作業の臨場感を高めることが可能となる。従って、本実施形態によれば、溶接作業の学習を効率的に行うことができる。
【0053】
また、溶接シミュレータ1の制御部40が上述した学習アシストプログラム41を備えることにより、訓練者Hは、学習アシストプログラム41の支援を受けながら効率的に溶接作業を学習することができる。さらに、制御部40が臨場感生成プログラム42を備えることにより、視覚及び音声等によって如実に溶接作業を表現させることができ、訓練者Hの溶接作業の学習効率を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態の溶接シミュレータ1では、カメラセンサ30はモニタ10の姿勢に応じて可動するようになっている。よって、カメラセンサ30による位置等の検出精度を高めることができる。
【0055】
また、溶接シミュレータ1の制御部40が記録プログラム43及び再生プログラム44を備えることにより、訓練者Hは自己の作業内容を復習するとともに、熟練者の模擬内容を手本として再生することも可能になるため、溶接作業の訓練において更に高い学習効果を得ることができる。
【0056】
なお、ターゲット11,12,22として市松模様を有する円形の部材を利用することにより、その構成自体も簡易にすることができる。また、ターゲット11,12,22をカメラセンサ30で検知し画像処理することにより、溶接トーチ20の3次元位置等を検出することから、従来の溶接シミュレータに比べ、当該3次元位置等を高精度で好適に検出することができる。
【0057】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態の溶接シミュレータ1におけるラック2、キャスタ3及びカメラセンサ支持部材4については、上記実施形態のものに限定されることはなく、別の種類のものを用いてもよいし又は用いなくてもよい。ただし、上記実施形態のように、このカメラセンサ支持部材4において、棒状部材4bを支持部材4aの左右軸を中心に回転可能に設けることによって、カメラセンサ30の上下及び前後の位置を適宜移動させることができる。
【0059】
また、モニタ10については、上記実施形態に限定されず、異なる種類のディスプレイ等を適宜利用することが可能である。ただし、本実施形態のように高硬度の強化ガラスで表示面10aを保護することにより、溶接トーチ20が表示面10aに接触した場合でも、その破損を防止することができる。また、上記実施形態では、モニタ10が傾動可能に設けられる例について説明したが、必ずしも傾動可能でなくてもよい。
【0060】
また、溶接トーチ20については、上述したような、実際の溶接作業で用いられるものを必ずしも利用する必要がなく、異なる種類の溶接トーチを適宜利用することが可能である。ただし、上記実施形態のように、実際の溶接作業で使用しているものと同じものを利用することにより、溶接模擬作業を実作業に近いものとすることができる。
【0061】
また、ターゲット11,12,22については、その配置が限定されるものではなく、適宜配置することが可能である。例えば、ターゲット11,12の何れかのみ設けてもよいし、若しくは、さらに別の他のターゲットを設けてもよい。また、ターゲットの数についても3つずつではなく4つ以上としてもよい。そして、ターゲットの形状についても、必ずしも円形でなくてもよいし、ターゲットの模様についても、必ずしも市松模様でなくてもよい。
【0062】
また、制御部40が備える各種プログラムも上記実施形態に限定されるものではない。例えば、学習アシストプログラム41に、表示面10aに溶接模擬作業中に注視すべき点(注視点)を赤く表示させる機能を採用し、これにより、訓練者に注視点を見るように促してもよい。更に、学習アシストプログラム41に、溶接トーチ20に設けた振動部を振動させる機能を採用し、これにより、警告を訓練者に警告を報知してもよい。また、例えば、臨場感生成プログラム42に、別途に設けた匂い発生部から溶接時の金属の匂いを出力させる機能を採用してもよい。
【0063】
また、制御部40は、カメラセンサ30に対するモニタ10若しくは溶接トーチ20の基準位置、又はモニタ10に対する溶接トーチ20の基準位置を調整することが可能なキャリブレーション機能(キャリブレーションプログラム)を有していてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…溶接シミュレータ、10…モニタ、10a…表示面、11a,11b,11c…ターゲット(被検知部)、12a,12b,12c…ターゲット(被検知部)、20…溶接トーチ、22a,22b,22c…ターゲット(被検知部)、30…カメラセンサ、40…制御部、41…学習アシストプログラム(学習アシスト手段)、42…臨場感生成プログラム(臨場感生成手段)、43…記録プログラム(記録手段)、44…再生プログラム(再生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの被検知部を有する溶接トーチと、
少なくとも3つの被検知部を有し、溶接対象を表示するモニタと、
前記溶接トーチの被検知部及び前記モニタの被検知部を検知して、前記溶接トーチの前記モニタに対する位置及び角度を検出するカメラセンサと、
前記モニタの表示を少なくとも制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、使用者が前記モニタ上の溶接対象に前記溶接トーチを当てるようにして溶接作業を模擬した場合に、前記カメラセンサにより検出された位置及び角度に応じて前記モニタ上の溶接対象に溶接部をリアルタイムで表示させること、を特徴とする溶接シミュレータ。
【請求項2】
前記溶接作業の学習を支援する学習アシスト手段を備えたこと、を特徴とする請求項1に記載の溶接シミュレータ。
【請求項3】
前記溶接作業に関する音の出力及び前記モニタへの表示の少なくとも一方を行うことにより、前記溶接作業の臨場感を高める臨場感生成手段を備えたこと、を特徴とする請求項1又は2に記載の溶接シミュレータ。
【請求項4】
前記モニタは、その表示面の向きが変化するように傾動可能に設けられ、
前記カメラセンサは、前記モニタの姿勢に応じて可動すること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接シミュレータ。
【請求項5】
前記使用者による前記溶接作業の模擬内容を記録する記録手段と、
前記記録手段に記録された前記模擬内容を前記モニタ上で再生する再生手段と、を備えたこと、を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶接シミュレータ。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−218058(P2012−218058A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89013(P2011−89013)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)
【Fターム(参考)】