説明

溶接トーチヘッドを自動補修するための方法、装置及び水性分散系の使用

本発明は、少なくとも1つのコンタクトチップ20と、該少なくとも1つのコンタクトチップ20を囲むノズル26とを備えているトーチヘッド12を自動的に補修する方法及び装置10に関するものである。第1の補修装置32では、少なくとも1つのコンタクトチップ20とノズル26とが組み付けられている状態で、トーチヘッド12が非接触で清掃される。少なくとも1つのコンタクトチップ20及びノズル26の表面の少なくとも一部に対して、トーチヘッド処理剤42を塗布するために、第2の補修装置34が用いられる。トーチヘッド12が、第1の補修装置32又は第2の補修装置34に対応する補修位置に移動させられた後に、それぞれ第1の補修装置32又は第2の補修装置34の操作が、コントロールユニット50により開始させられる。トーチヘッド処理剤は、約5ないし約50重量パーセントの窒化ホウ素を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には例えばMIG/MAG溶接(メタルイナートガス溶接/メタルアクティブガス溶接)などのガスメタルアーク溶接の技術分野に関するものであり、とくには、この技術分野で用いられる溶接トーチのトーチヘッドを自動的に補修するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスメタルアーク溶接用の溶接トーチは、その遠位端に、少なくとも1つのコンタクトチップと上記少なくとも1つのコンタクトチップを囲むノズルとを備えたトーチヘッドを有している。そして、溶接ワイヤが、各コンタクトチップの中央通路を通して供給され、この溶接ワイヤはノズルの開口部を経由してトーチヘッドから外に出る。また、ガスが、上記少なくとも1つのコンタクトチップとノズルの間の空間部を通して供給され、このガスはノズルの開口部を通って外に出る。コンタクトチップと溶接ワイヤとに高電圧が印加される。溶接すべきワークピース、例えば溶接により接合されるワークピースの2つの部分に溶接ワイヤが接近したときに、溶接ワイヤとワークピースとの間に形成されるアーク(電弧)により電気回路が形成される。アークは電流を生じさせ、この電流は溶接ワイヤとワークピースの一部とを溶融させ、ワークピースの2つの部分を溶接により結合させる。このように、溶接時には溶接ワイヤが消費されるので、溶接作業を進めるときには、溶接ワイヤを、コンタクトチップの通路を通して前進させなければならない。
【0003】
溶接ワイヤと金属のワークピースとが、それぞれの融点を超える温度まで、非常に急速に加熱されるので、溶融した溶接ワイヤ又はワークピースの溶融した部分は飛散し、ノズル又はトーチヘッドの上記少なくとも1つのコンタクトチップに付着する。飛散物は、溶接の性質、とくに溶接継ぎ目の性質にいくつかの不利な効果を生じさせる。飛散物は、一方では、コンタクトチップと金属のワークピースとの間のアークの電場に影響を及ぼし、他方では、ノズルを通るガスの流量を低下させる。それゆえ、時々、トーチヘッドを補修することが必要であり、とくにトーチヘッドに付着している飛散物を清掃することが必要である。かつて、このような補修作業は、補修作業者によって手作業で行われていた。
【0004】
近年、特許文献1は、溶接トーチの補修を自動的に行う方法及び装置を提案している。この特許文献1に開示された自動的な補修手法では、トーチヘッドを解体し、とくにノズルを取り外し、トーチヘッドの部品を例えばフライス削りなどにより機械的に補修するようにしている。その結果、この既知の従来の自動補修操作では、解体工程及び再組み付け工程を必要とするので、補修に時間がかかる。さらに、機械的な清掃により、トーチヘッドの部品の形状を変えるおそれがあり、この場合トーチヘッドのアーク生成特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許出願公開第2005/092554号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえ、本発明の目的は、溶接トーチ(welding torch)のトーチヘッドの補修(servicing)の自動化を促進して、補修に要する時間を短縮するとともに、複数回の補修操作の後においても、アーク特性(arc characteristics)の再現性ないしは再生性(reproduceability)を高めることができる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するためになされた本発明の1つの態様に係る方法は、少なくとも1つのコンタクトチップ(contact tip)と、該少なくとも1つのコンタクトチップを囲むノズルとを備えているトーチヘッド(torch head)を自動的に補修する(service)方法であり、上記少なくとも1つのコンタクトチップとノズルとが組み付けられている状態でトーチヘッドを非接触(contact-freely)で掃除ないしは清掃する(clean)ステップと、上記少なくとも1つのコンタクトチップ及びノズルの表面の少なくとも一部にトーチヘッド処理剤(torch head treatment agent)を付着させ、ないしは塗布する(apply)ステップとを有している。
【0008】
本発明によれば、溶接トーチヘッドの上記少なくとも1つのコンタクトチップ及びノズルは、これらが互いに組み付けられた状態で清掃され、時間を要する解体ステップ及び再組み付けステップを回避することができる。さらに、溶接トーチヘッドが非接触で清掃されるので、トーチヘッドのアーク形成特性(arc-forming characteristics)に悪影響を及ぼすトーチヘッドの部品の不利な形状変化を回避することができる。
【0009】
トーチヘッドの非接触の清掃ステップでは、磁気清掃装置と圧縮空気清掃装置と超音波清掃装置のうちの少なくとも1つのものを用いることができる。例えば、飛散物(splatter material)は、圧縮空気清掃装置及び/又は超音波清掃装置によりトーチヘッドから離脱させ(loosen)、磁気清掃装置により除去することができる。これに代えて、飛散物を、磁気清掃装置のみを用いて、トーチヘッドから離脱させて除去してもよい。磁気清掃装置は、清掃時にのみ磁気力(magnetic force)が生成されるような態様の少なくとも1つの電磁ユニット(electromagnetic unit)を備えていてもよい。さらに、少なくとも1つの電磁ユニット及び/又は超音波清掃装置に供給される電流の強さを変えることにより、及び/又は、圧縮空気清掃装置によって放出される空気の噴流(air jet)の強さを変えることにより、飛散物を振動させ、トーチヘッドの部品からの飛散物の離脱を促進するようにしてもよい。
【0010】
溶接ワイヤ(welding tire)は、溶接を行うために上記少なくとも1つのコンタクトチップの通路を通って前進させられるが、溶接継ぎ目(welding seem)の性質に悪影響を及ぼす溶接ワイヤへのトーチヘッド処理剤の堆積を回避するため、トーチヘッド処理剤を塗布する(apply)前に、溶接ワイヤを通路内に後退させてもよい。
【0011】
トーチヘッドの部品(torch head components)へのトーチヘッド処理剤の堆積を実質的に均一にするため、トーチヘッド処理剤を、上記少なくとも1つのコンタクトチップとノズルとに噴霧(spray)してもよい。
【0012】
ノズルのガス入口開口部、及び/又は、ノズルの開口部のまわりでのトーチヘッド処理剤の蓄積を防止するために、上記少なくとも1つのコンタクトチップとノズルとに対して、実質的に水平な方向にトーチヘッド処理剤を噴霧してもよい。
【0013】
トーチヘッドの部品へのトーチヘッド処理剤の堆積(accumulation)の均一化を促進するために、噴霧操作(spraying operation)時に、トーチヘッドを回転させてもよい。
【0014】
噴霧操作を促進するために、圧縮空気によって霧化された(atomized)液体分散系(liquid dispersion)をトーチヘッド処理剤として用いることができる。一般に、液体分散系は、溶剤性分散系(solvent-based dispersion)又は水性分散系(water-based dispersion)である。溶剤性のトーチヘッド処理剤は、例えば燃焼又は気化により、作業者の身体ないしは健康に対して害を及ぼすおそれがある。そこで、トーチヘッド処理剤は、水性分散系であるのが好ましい。トーチヘッド処理剤は、例えば、約5重量パーセントないし約50重量パーセントの窒化ホウ素を含んでいてもよいが、約15重量パーセントないし約200重量パーセントの窒化ホウ素を含んでいるのが好ましい。窒化ホウ素粒子の寸法(size)は、約0.5μmないし約10μmの範囲であればよく、平均の寸法は約4μmであればよい。
【0015】
かつては、溶剤性のトーチヘッド処理剤が好んで用いられていた。これは、トーチヘッドの温度が通常は約30ないし40℃にすぎないので、水性のトーチヘッド処理剤を用いると、水を十分迅速に気化させることができないからであった。それにもかかわらず、トーチヘッドの部品の表面にトーチヘッド処理剤の層を確実に形成するために、上記噴霧操作を、トーチヘッド処理剤をトーチヘッドに塗布する少なくとも1つの第1の時間過程(first time interval)と、好ましくは加熱圧縮空気等の圧縮空気を用いて、塗布されたトーチヘッド処理剤を乾燥させる少なくとも1つの第2の時間過程(second time interval)とを有するように設定することを提案する。第1の時間過程は約1秒であってもよく、また第2の時間過程は約30秒であってもよい。さらに、トーチヘッドの部品の上に、段階的に(step by step)すなわち副層ごとに(sublayer by sublayer)、トーチヘッド処理剤の層を形成することが可能である。このため、噴霧操作は、第1及び第2の時間過程が交代する複数のサイクル、例えば3〜5回のサイクルを繰り返してもよい。
【0016】
スプレー装置の適切な操作を確実化するために、時々、例えば少なくとも1日に1回、例えば夕方にシステムを停止させる前にスプレーノズルを清掃してもよい。スプレーノズルの清掃は、例えば、トーチヘッド処理剤の噴霧スプレー(spraying)から水の噴霧(spraying)に切り替えることにより実施してもよい。さらに、分散系(dispersion)の分離及び窒化ホウ素の沈殿を防止するために、トーチヘッド処理剤を、時々、攪拌してもよい。この攪拌は、例えば、トーチヘッド処理剤の容器から出て該容器に至る循環配管(circulation line)に、例えば2時間ごとに約5分間ずつトーチヘッド処理剤をポンプで送ることにより実施してもよい。
【0017】
トーチヘッド処理剤の過剰な噴霧(overspray)に起因する溶接装置の汚れ(pollution)を回避するために、噴霧操作時に、トーチヘッドのノズルと上記少なくとも1つのコンタクトチップとだけを、トーチヘッド処理剤の噴霧にさらす(expose)一方、トーチヘッドの残りの部分を覆い(shroud)で保護して過剰な噴霧を防止するようにしてもよい。
【0018】
トーチヘッドを移動させるためにロボット装置を用いる場合は、前記の清掃操作(cleaning operation)をロボット装置の移動制御(movement control)に組み入れてもよい。
【0019】
トーチヘッドの毎回の清掃操作の後に、トーチヘッド処理剤を塗布する必要はない。むしろ、トーチヘッド処理剤の塗布と非接触の清掃を含む自動化された補修(automated servicing)との連続する2つの操作の間に、トーチヘッドを少なくとも1回非接触で清掃することが可能である。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、本発明は、好ましくは前記のいずれか1つの方法を用いることにより、少なくとも1つのコンタクトチップと、上記少なくとも1つのコンタクトチップを囲むノズルとを備えているトーチヘッドを自動的に補修する装置を提供する。この装置は、上記少なくとも1つのコンタクトチップとノズルとが組み付けられている状態でトーチヘッドを非接触で清掃する第1の補修装置(first servicing device)と、上記少なくとも1つのコンタクトチップ及びノズルの表面の少なくとも一部に対してトーチヘッド処理剤を塗布する第2の補修装置(second servicing device)と、トーチヘッドが第1の補修装置又は第2の補修装置に対応する補修位置に移動させられた後に、それぞれ第1の補修装置又は第2の補修装置の操作を開始させるコントロールユニット(control unit)とを備えている。
【0021】
本発明のさらなる態様によれば、本発明は、溶接トーチヘッドの補修のためのトーチヘッド処理剤として、約5重量パーセントないし約50重量パーセントの窒化ホウ素、好ましくは約15重量パーセントないし約20重量パーセントの窒化ホウ素を含む液体分散系、好ましくは水性分散系の使用方法にも関連する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るトーチヘッドの自動補修のための装置の模式的な側面立面図である。
【図2】トーチヘッド処理剤塗布装置の側面断面図である。
【図3】スプレー装置の運転時の時間制御を示すグラフである。
【図4】磁気清掃装置の模式的な側面立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態をより詳しく説明する。
【0024】
図1は、溶接トーチ14のトーチヘッド12を自動的に補修する(service)ための装置10の模式的な側面立面図を示している。溶接トーチ14は、ロボット18のアーム16の自由端に配置されている。ロボット18は、図1中の複数の矢印で示すように、複数の移動の自由度を有している。このため、溶接トーチ14は、ロボット18により、溶接位置(図示せず)から複数の補修位置へ移動させられることができる。
【0025】
図2中により詳しく示すように、トーチヘッド12は、コンタクトチップ20を有している。コンタクトチップ20内には、溶接ワイヤ供給部(図示せず)から供給される溶接ワイヤ24を前進させるための中央通路22(central passageway)が設けられている。コンタクトチップ20は、ノズル開口部26aを有するノズル26によって囲まれている。そして、ノズル26には、ガス供給部(図示せず)から、コンタクトチップ20とノズル26の間に形成された環状空間部(annular space)を通して、ガス(不活性ガス又は活性ガス)が供給され、このガスはノズル開口部26aを経由して放出される。溶接トーチ14による溶接操作時には、溶接ワイヤ24もノズル開口部26aを経由して外部に出て、溶接されるワークピース(被加工物)と当接することができる。この当接により、電気回路が閉じられ、溶接ワイヤ24とワークピースの間にアーク(電弧)が生成される。このアークが高温であることに起因して、溶接ワイヤ24とワークピースの表面の一部とが溶融し、通路22を通って溶接ワイヤ24が連続的に前進するのに伴って、ワークピース上に溶接継ぎ目が形成され、例えば溶接継ぎ目によってワークピースの2つの部分が結合される。
【0026】
溶接ワイヤ24とワークピースとが、それぞれの融点を超える温度となるように急速に加熱されることに起因して、溶融物は飛散する(spatter)。このため、図4に示すように、溶融物は、ノズル26、とくにノズル26のノズル開口部26aのまわりに付着するとともに、トーチヘッド12のコンタクトチップ20に付着する。なお、図4中においては、飛散物には参照番号30が付されている。ここで、飛散物30が溶接継ぎ目の品質(quality)に否定的な効果(negative effect)を及ぼすということを強調する必要はない。なぜなら、飛散物30は、コンタクトチップ20とワークピースの間に形成されたアークの電場ないしは電界に影響を及ぼすからである。それゆえ、時々、トーチヘッド12を清掃することが重要である。
【0027】
このため、本発明に係る装置10は、2つの補修ステーション(servicing station)、すなわち清掃ステーション32(cleaning station)及びスプレーステーション34(spraying station)を有している(図1参照)。
【0028】
図4に示すように、清掃ステーション32には、例えば、電磁コイル38及びハウジング40を備えている磁気清掃装置36を設けてもよい。トーチヘッド12は、ロボット18によって、電磁コイル38の開口部38a内に導入され、電磁コイル38に電流が供給され電場ないしは電界を生成する。この電場は、飛散物30を引き付け(attract)、コンタクトチップ20及びノズル26から飛散物30を離脱させる(loosen)。これにより、飛散物30は、ハウジング40の底部40aに落下する。なお、図4において、離脱した飛散物には参照番号30’が付されている。
【0029】
なお、磁気清掃装置36は、清掃ステーション32において用いることが可能な一例に過ぎないということが理解されるべきである。同様の清掃を行うことを目的として、その他の形態の清掃装置、例えば超音波清掃装置、圧縮空気清掃装置なども同様に用いることができる。
【0030】
トーチヘッド12が清掃ステーション32で清掃された後、トーチヘッド12は、ロボット18により、スプレーステーション34に移動させられる。スプレーステーション34では、コンタクトチップ20及びノズル26にトーチヘッド処理剤42が噴霧される。トーチヘッド処理剤42は、コンタクトチップ20及びノズル26に飛散物30が付着するのをより困難にするためのものである。本発明によれば、トーチヘッド処理剤42として、約15重量パーセントないし約20重量パーセントの窒化ホウ素を含む水性分散系が用いられる。トーチヘッド処理剤42は、2成分スプレーノズル44(two-component spraying nozzle)、例えば独国特許公開第19511272号明細書に開示されている2成分スプレーノズルにより、トーチヘッド12に噴霧される。2成分スプレーノズル44によれば、液体のトーチヘッド処理剤42は、圧縮空気により霧化される。
【0031】
トーチヘッド処理剤42は、ノズル26及びコンタクトチップ20の上に保護膜46を形成する。実質的に均一な保護膜46を形成するために、スプレー操作時に、トーチヘッド12は軸Aのまわりに回転させられる。噴霧操作時には、トーチヘッド12の軸Aは、好ましく、水平方向に伸びている。上方に向いたノズル開口部26aを有するトーチヘッド12にトーチヘッド処理剤42を噴霧すれば、ノズル26のガス供給開口部(図示せず)の目詰まり(clogging)に起因して問題が生じる。また、下方に向いたノズル開口部26aを有するトーチヘッド12にトーチヘッド処理剤42を噴霧すれば、ノズル開口部26aのまわりでの液滴ないしは小滴(droplet)の形成に起因する問題が生じる。
【0032】
スプレーステーション34の周囲の汚染を回避するため、開口部48aを有する覆い48が設けられている。トーチヘッド12にトーチヘッド処理剤42を噴霧するために、この開口部48aを通して、トーチヘッド12が導入される。覆い48は、スプレーノズル44及びトーチヘッド12のまわりにハウジング(housing)を形成し、これらへの過剰な噴霧(overspray)を防止する。さらに、覆い48は、該覆い48に噴霧されたトーチヘッド処理剤42を収集するのに用いられる。
【0033】
この後の溶接操作における溶接継ぎ目の性質への不利な影響を回避するため、スプレー操作時には、溶接ワイヤ24は通路22内に後退させられる。これにより、溶接ワイヤ24がトーチヘッド処理剤42によって被覆されるのも防止される。
【0034】
水性のトーチヘッド処理剤42は、従来用いられていた溶剤性のトーチヘッド処理剤に比べて気化点(vaporisation point)が非常に低いので、またトーチヘッド12の温度は約30〜40℃の範囲であるので、トーチヘッド処理剤42はコンタクトチップ20及びノズル26の表面で十分迅速に乾燥しないといった問題がある。このため、コンタクトチップ20及びノズル26の表面に、トーチヘッド12に飛散物30が付着するのを有効に防止するのに十分な厚さを有する均一な保護膜46を形成することをより困難にする。そこで、十分な厚さの保護膜46を形成するため、本発明は、以下で説明するような噴霧方法を提案する。
【0035】
図3に示すように、トーチヘッド12には、複数のサイクル(cycle)でトーチヘッド処理剤42が塗布される(applied)。各サイクルは、図3に示すグラフから明らかなとおり、第1の時間過程T1(first time interval)及び第2の時間過程T2(second time interval)を有している。持続期間(duration)がt1、例えば合計で約1秒間である(amount to about 1 sec)第1の時間過程T1では、トーチヘッド処理剤42は、スプレーノズル44により霧化され、トーチヘッド12に噴霧される。これに続く、持続期間(duration)がt2、例えば合計で約30秒間である(amount to about 30 sec)第2の時間過程T2では、スプレーノズル44は、圧縮空気、例えば加熱された圧縮空気だけを噴射する。これは、第1の時間過程T1でトーチヘッド12上に形成された保護膜46を乾燥させるためのものである。噴霧を行う第1の時間過程T1と乾燥を行う第2の時間過程T2とを有するこのようなサイクルは、保護膜46が十分な厚さとなるまで、複数回、例えば3〜5回繰り返される。
【0036】
図1に示す実施形態では、清掃ステーション32とスプレーステーション34とが、互いに異なる補修位置に個別に配置されているが、これらを、単一の補修位置のみを有する単一の補修ステーションに統合してもよい、ということに注目すべきである。このようにする場合は、例えば、磁気清掃装置36の電磁コイル38を、スプレー装置の覆い48の一部として用いることができる。また、電磁コイル38により生成された磁気力によりコンタクトチップ20及びノズル26から離脱させられた飛散物30’を引き付けて収集するために、2成分スプレーノズル44のまわりに追加の磁石を設けてもよい。
【0037】
清掃操作及びスプレー操作に関する前記の考察においてすでに説明したとおり、トーチヘッド12の補修は、ロボットコントロールユニット50の制御のもとで、ロボット18の各移動(movements)により実施される。さらに、ロボットコントロールユニット50は、第1の補修ステーション32及び第2の補修ステーション34にも動作的ないしは機能的に接続されている(operatively connected)。これは、これらの各補修ステーション32、34を始動させ、停止させるなどといった制御を行うためである。
【0038】
最後に、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、前記の実施形態に対して多数の修正及び変形を行うことに注目すべきである。
【符号の説明】
【0039】
10 自動トーチヘッド補修装置、12 トーチヘッド、14 溶接トーチ、16 アーム、18 ロボット、20 コンタクトチップ、22 中央通路、24 溶接ワイヤ、26 ノズル、28 環状空間部、30 飛散物、32 清掃ステーション、34 スプレーステーション、36 磁気清掃装置、38 電磁コイル、40 ハウジング、42 トーチヘッド処理剤、44 スプレーノズル、46 トーチヘッド処理剤の膜、48 覆い、50 ロボットコントロールユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのコンタクトチップ(20)と、上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)を囲むノズル(26)とを備えているトーチヘッド(12)を自動的に補修する方法であって、
上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)と上記ノズル(26)とが組み付けられている状態で、上記トーチヘッド(12)を非接触で清掃するステップと、
上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)及び上記ノズル(26)の表面の少なくとも一部にトーチヘッド処理剤(42)を塗布するステップとを有し、
上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)及び上記ノズル(26)に対して、上記トーチヘッド処理剤(42)を実質的に水平方向に噴霧する噴霧操作を行うとともに、
上記噴霧操作を行っているときに上記トーチヘッド(12)を回転させることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記トーチヘッド(12)を非接触で清掃するために、磁気清掃装置(36)と圧縮空気清掃装置と超音波清掃装置のうちの少なくとも1つを用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記トーチヘッド処理剤(42)を塗布する前に、溶接を行うために上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)の通路(22)を通して前進させられる溶接ワイヤ(24)を、上記通路(22)内に後退させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記トーチヘッド処理剤(42)が、圧縮空気により霧化される液体分散系であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
上記トーチヘッド処理剤(42)が、約5ないし約50重量パーセントの窒化ホウ素、好ましくは約15ないし約20重量パーセントの窒化ホウ素を含んでいることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記噴霧操作が、上記トーチヘッド処理剤(42)を上記トーチヘッド(12)に塗布する少なくとも1つの第1の時間過程(T1)と、上記トーチヘッドに塗布された上記トーチヘッド処理剤(42)を好ましくは圧縮空気を用いて乾燥させる少なくとも1つの第2の時間過程(T2)とを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
上記噴霧操作において、上記第1及び第2の時間過程(T1、T2)を複数回繰り返すことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記噴霧操作の実施時に、上記トーチヘッド(12)の上記ノズル(26)と上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)とだけを噴霧にさらす一方、上記トーチヘッド(12)の残部を、上記噴霧にさらされないように覆い(48)で保護することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
上記トーチヘッド(12)を移動させるためにロボット装置(18)を用いることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
それぞれ非接触の清掃とトーチヘッド処理剤(42)の塗布とを含む、2つの連続する自動化された補修操作の合間に、上記トーチヘッド(12)を少なくとも1回非接触で清掃することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
好ましくは請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法を用いることにより、少なくとも1つのコンタクトチップ(20)と、上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)を囲むノズル(26)とを備えているトーチヘッド(12)を自動的に補修する装置(10)であって、
上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)と上記ノズル(26)とが組み付けられている状態で、上記トーチヘッド(12)を非接触で清掃する第1の補修装置(32)と、
上記トーチヘッド(12)が回転しているときに、上記少なくとも1つのコンタクトチップ(20)及び上記ノズル(26)の表面の少なくとも一部に対して、トーチヘッド処理剤(42)を実質的に水平方向に供給して塗布する第2の補修装置(34)と、
上記トーチヘッド(12)が、上記第1の補修装置(32)又は上記第2の補修装置(34)に対応する補修位置に移動させられた後に、それぞれ上記第1の補修装置(32)又は上記第2の補修装置(34)の操作を開始させるコントロールユニット(50)とを備えていることを特徴とする装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−525148(P2011−525148A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514041(P2011−514041)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057599
【国際公開番号】WO2009/153309
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(510333014)アヒェソン・インドゥストゥリース・ドイチュラント・ツヴァイクニーダーラッスング・デーア・フィンダーク・コーポレイション・ナムローゼ・フェンノートシャップ(キュラカオ) (1)
【氏名又は名称原語表記】Acheson Industries Deutschland Zweigniederlassung der Findag Corporation N.V.(Curacao)
【Fターム(参考)】