説明

溶接トーチ

【課題】溶接トーチにおいて、先端側から見て回転することがないように電極棒を固定し、かつ、安価に製造する。
【解決手段】電極棒2が断面円形の丸棒から形成され、電極棒2の一部が切削されて形成された加工部位2aと当該加工部位2aに当接する絶縁材3の当接部位3aとからなる電極棒回転防止機構10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、TIG溶接において高速溶接を実現できる多電極方式の溶接トーチが開示されている。
この多電極方式の溶接トーチは、特許文献1に示すように、絶縁材を挟んで対向配置される一対の電極棒と、これらの電極棒を固定するコレット等の囲繞体とを備えて構成されている。
そして、特許文献1においては、より狭い開先の溶接を行うために、電極棒を薄い板状とすると共に、電極棒の先端を尖らせた形状を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−94137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電極棒を薄い板状とすると共に電極棒の先端を尖らせた形状を採用していることから、狭い開先の溶接を行える点で非常にメリットが高いものである。
ところが、電極棒は、タングステン材料で形成されていることから、加工が難しく、薄い板状とすることが困難である。このため、電極棒の製造コストが増大してしまう。
よって、より安価な電極棒が使用できる多電極方式の溶接トーチを製造することが望まれる。
【0005】
また、安価な電極棒が使用できる多電極方式の溶接トーチを製造することに加えて、安定した溶接を行うためには、電極棒を先端側から見て回転しないように固定することが望ましい。なお、特許文献1の多電極様式の溶接トーチは、電極棒が板形状であるため、当該電極棒が先端側から見て回転することはない。
そこで、安価な電極棒が使用できる多電極方式の溶接トーチを製造する場合であっても、電極棒が先端側から見て回転することがないように固定されるように考慮する必要がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、電極棒が先端側から見て回転することがないように固定されており、かつ、安価な電極棒が使用できる溶接トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、絶縁材を挟んで配置される一対の電極棒と、当該電極棒の先端側から見て上記電極棒を囲繞する囲繞体とを備える溶接トーチであって、上記電極棒が断面円形の丸棒から形成され、上記電極棒の一部が切削されて形成された加工部位と当該加工部位に当接する上記絶縁材あるいは上記囲繞体の当接部位とからなる電極棒回転防止機構を備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記加工部位が、上記電極棒の一部を当該電極棒の軸と平行な面で切断することによって得られる第1平面部位であり、上記当接部位が、上記電極棒の加工部位と面接触する第2平面部位であるという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記加工部位が、上記電極棒の一部に設けられた溝部位であり、上記当接部位が、上記溝部位に嵌合される突起部位であるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極棒が断面円形の丸棒から形成されている。タングステン材料からなる断面円形の丸棒は、一般的にも販売されている部材であり、製造技術が確立されていることから安価に製造することができる。
【0012】
また、本発明によれば、電極棒の一部が切削されて形成された加工部位と当該加工部位に当接する絶縁材あるいは囲繞体の当接部位とからなる電極棒回転防止機構によって、電極棒の先端側から見た場合の回転が防止される。
なお、電極棒回転防止機構を形成するために必要とされる電極棒に対する加工は、一部分に対する加工である。このため、当該加工による製造コストの上昇は、板状の電極棒を製造する場合と比べれば僅かである。
【0013】
したがって、本発明によれば、電極棒が先端側から見て回転することがないように固定することができ、かつ、安価な電極棒が使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における溶接トーチの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における溶接トーチの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る溶接トーチの一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさにするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
(本実施形態の溶接トーチ1の構成)
図1は、TIG溶接に用いられる本実施形態の溶接トーチ1の概略構成図である。なお、図1において、(a)が中心軸L方向に沿った面での断面図であり、(b)が(a)のN−N断面図である。
【0017】
そして、図1(a)に示すように溶接トーチ1は、電極棒2と、絶縁材3と、コレット4と、ケーシング5と、ガス供給部6とを備えている。
【0018】
電極棒2は、不図示の電源装置から電流が供給されると共に、溶接材料との間にアークを発生させるものである。
この電極棒2は、本実施形態の溶接トーチ1では、絶縁材3を挟んで2つが対向配置されている。つまり、本実施形態の溶接トーチ1は、絶縁材3を挟んで配置される一対の電極棒2を備えている。
【0019】
電極棒2は、図1(b)に示すように、タングステン材料からなる断面円形の丸棒から形成されている。
そして、電極棒2の先端側は、図1(a)に示すように、尖っており、その最先端が中心軸L側に偏って配置されている。
【0020】
また、電極棒2は、図1(b)に示すように、先端側から見て周縁の一部が、電極棒2の軸と平行な面で切断されるように切削されている。この結果、電極棒2は、切削によって形成された加工部位として平面部位2a(第1平面部位)を備えている。
そして、電極棒2は、平面部位2aを絶縁材3側に向け、平面部位2aが絶縁材3と接触するように配置されている。
【0021】
絶縁材3は、2つの電極棒2の間に挟まれて配置されており、電極棒2同士が接触して短絡することを防止するものである。
図1(b)に示すように、絶縁材3は、断面がI型となるように形状設定されている。
そして、絶縁材3は、電極棒2の平面部位2aに当接する当接部位が、電極棒2の平面部位2aと面接触する平面部位3a(第2平面部位)とされている。
【0022】
コレット4は、電極棒2の先端側から見て電極棒2の外側に配置されており、電極棒2を固定するものである。
【0023】
ケーシング5は、コレット4及び当該コレット4が外側に配置されていない電極棒2の一部を囲繞するものであり、コレット4の外周面に当接することによってコレット4を固定している。
【0024】
ガス供給部6は、溶接トーチ1の先端側に配置されており、電極棒2の先端に向け、アークを形成するためのガスを供給するためのものである。
【0025】
また、本実施形態の溶接トーチ1は、図1(a)に示すように、電極棒2を囲繞するスリーブ7を備えている。
【0026】
そして、上述のような構成を有する本実施形態の溶接トーチ1においては、上述の電極棒2の平面部位2aと絶縁材3の平面部位3aとによって電極棒回転防止機構10が形成されている。
つまり、電極棒回転防止機構10は、電極棒2の一部が切削されて形成された加工部位(平面部位2a)と当該加工部位に当接する絶縁材3の当接部位(平面部位3a)とからなる。
なお、このような電極棒回転防止機構10においては、電極棒2の平面部位2aと絶縁材3の平面部位3aとが面接触していることから、電極棒2が回転しようとした際に、電極棒2が絶縁材3に対して回転方向に滑ることが防止され、これによって電極棒2の回転が防止される。
【0027】
(本実施形態の溶接トーチ1の作用及び効果)
本実施形態の溶接トーチ1によれば、電極棒2が断面円形の丸棒から形成されている。つまり、本実施形態において電極棒2は、製造技術が確立されていることから安価に製造することができるタングステン材料からなる断面円形の丸棒から形成されている。
【0028】
また、本実施形態の溶接トーチ1によれば、電極棒2の一部が切削されて形成された平面部位2aと当該平面部位2aに当接する絶縁材3の平面部位3aとからなる電極棒回転防止機構10によって、電極棒2の先端側から見た場合の回転が防止される。
【0029】
なお、電極棒回転防止機構10を形成するために必要とされる電極棒2に対する加工は、一部分に対する加工である。このため、当該加工による製造コストの上昇は、板状の電極棒を製造する場合と比べれば僅かである。
特に、本実施形態の溶接トーチ1において平面部位2aは、電極棒2の周縁を当該電極棒2の軸と平行な面で切断することによって得られる。このため、簡素なすなわち安価な加工で電極棒回転防止機構10を形成することができる。
【0030】
このように、本実施形態の溶接トーチ1によれば、電極棒2が先端側から見て回転することがないように固定することができ、かつ、安価な電極棒が使用することができる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態においては、電極棒回転防止機構10が、電極棒2の平面部位2aと絶縁材3の平面部位3aとによって形成されている構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、電極棒回転防止機構10が、他の形態を採ることも可能である。
【0033】
以下、電極棒回転防止機構10の変形例について、図2を参照して説明する。
図2(a)においては、電極棒回転防止機構10Aが、電極棒2の一部に設けられた溝部位2bと、絶縁材3に設けられると共に電極棒2の溝部位2bに嵌合する突起部位3bとによって構成されている。
つまり、図2(a)に示す変形例は、本発明における電極棒の加工部位が電極棒2の溝部位2bとされ、絶縁材の当接部位が突起部位3bとされた構成を有している。
このような電極棒回転防止機構10Aによれば、電極棒2の溝部位2bと絶縁材3の突起部位3bとが嵌合していることから、電極棒2が回転しようとした際に、電極棒2が絶縁材3に対して回転方向に滑ることが防止され、これによって電極棒2の回転を防止することができる。
【0034】
図2(b)においては、電極棒回転防止機構10Bが、電極棒2の一部に設けられた溝部位2cと、本発明の囲繞体に相当するスリーブ7に設けられると共に電極棒2の溝部位2cに嵌合する突起部位7aとによって構成されている。
つまり、図2(b)に示す変形例は、本発明における電極棒の加工部位が電極棒2の溝部位2cとされ、囲繞体の当接部位がスリーブ7の突起部位7aとされた構成を有している。
このような電極棒回転防止機構10Bによれば、電極棒2の溝部位2cとスリーブ7の突起部位7aとが嵌合していることから、電極棒2が回転しようとした際に、電極棒2がスリーブ7に対して回転方向に滑ることが防止され、これによって電極棒2の回転を防止することができる。
【0035】
図2(c)においては、電極棒回転防止機構10Cが、電極棒2の一部に設けられた平面部位2d(第1平面部位)と、本発明の囲繞体に相当するスリーブ7に設けられると共に電極棒2の平面部位2dと面接触する平面部位7b(第2平面部位)とによって構成されている。
つまり、図2(c)に示す変形例は、本発明における電極棒の加工部位が電極棒2の平面部位2dとされ、囲繞体の当接部位がスリーブ7の平面部位7bとされた構成を有している。
このような電極棒回転防止機構10Cによれば、電極棒2の平面部位2dとスリーブ7の平面部位7bとが面接触していることから、電極棒2が回転しようとした際に、電極棒2がスリーブ7に対して回転方向に滑ることが防止され、これによって電極棒2の回転が防止される。
【0036】
なお、上記実施形態の溶接トーチ1においては、電極棒回転防止機構10が電極棒2ごとに1つのみ設けられた構成を採用している。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、コレット4やケーシング5を本発明の囲繞体として捉え、コレット4やケーシング5と電極棒2との当接領域に1つ電極棒回転防止機構を形成することによって、複数の電極棒回転防止機構を備える構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1……溶接トーチ、2……電極棒、2a……平面部位(加工部位、第1平面部位)、2b……溝部位(加工部位)、2c……溝部位(加工部位)、2d……平面部位(加工部位、第1平面部位)、3……絶縁材、3a……平面部位(当接部位、第2平面部位)、3b……突起部位、4……コレット、5……ケーシング(囲繞体)、6……ガス供給部、7……スリーブ(囲繞体)、7a……突起部位(当接部位)、7b……平面部位(当接部位、第2平面部位)、10……電極棒回転防止機構、10A……電極棒回転防止機構、10B……電極棒回転防止機構、10C……電極棒回転防止機構、L……中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材を挟んで配置される一対の電極棒と、当該電極棒の先端側から見て前記電極棒を囲繞する囲繞体とを備える溶接トーチであって、
前記電極棒が断面円形の丸棒から形成され、
前記電極棒の一部が切削されて形成された加工部位と当該加工部位に当接する前記絶縁材あるいは前記囲繞体の当接部位とからなる電極棒回転防止機構を備える
ことを特徴とする溶接トーチ。
【請求項2】
前記加工部位は、前記電極棒の一部を当該電極棒の軸と平行な面で切断することによって得られる第1平面部位であり、
前記当接部位は、前記電極棒の加工部位と面接触する第2平面部位である
ことを特徴とする請求項1記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記加工部位は、前記電極棒の一部に設けられた溝部位であり、
前記当接部位は、前記溝部位に嵌合される突起部位である
ことを特徴とする請求項1記載の溶接トーチ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−240049(P2012−240049A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108722(P2011−108722)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】