説明

溶接ロボットシステム

【課題】マニピュレータの溶接姿勢の変化によって変動する溶接ワイヤ送給速度をリアルタイムに最適制御する場合、フィードバック制御では大きな変化に対応できない。
【解決手段】
システムコントロール部10aは、異常値であるワイヤ送給速度を判定すると共に、異常値となったときの溶接トーチ13の速度指令値と異常値とに基づいて移動距離毎の補正データを作成する。ワイヤ送給制御装置30は作業プログラムを実行する際、溶接トーチ13の移動距離と、並びに速度指令値と補正データに基づいてワイヤ送給装置16をフィードフォワード制御する。溶接ロボットで複雑な形状を高速で溶接するといった、送給系の負荷の変動が大きい溶接であっても安定した溶接結果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式の一般的なアーク溶接ロボットシステムでは、溶接ワイヤの送給経路には、少なくとも1箇所以上でガイドケーブル(コンジットケーブル)が使用されている。すなわち、一般的なアーク溶接ロボットシステムでは、ワイヤリールに巻かれた溶接ワイヤは、マニピュレータに取り付けたワイヤ送給装置までガイドケーブル(コンジットケーブル)によって案内される。さらに、マニピュレータの先端に設けられた溶接トーチまでは、前記ワイヤ送給装置によってガイドケーブル(トーチケーブル)にガイドされて送給される。この前記ガイドケーブルは、マニピュレータの姿勢に応じて柔軟に曲がり、送給経路を確保するようにしている。溶接ワイヤの送給にかかる負荷は、このガイドケーブルの曲がり方によって変動するため、溶接ワイヤの送給が図6に示すように乱れることがある。図6において、縦軸はワイヤ送給速度、横軸は溶接トーチの移動距離を表している。
【0003】
現在の技術では、フィードバック制御によってこの変動を抑制することで、安定した溶接を実現している。
例えば、安定した溶接を行うために、特許文献1及び特許文献3では、光学センサで溶融池を解析し、溶接制御部へフィードバックして溶接条件を補正することが行われている。特許文献1では、さらに、光学センサで溶接部の仮付けビードを検出することで溶接条件の変更タイミングをフィードフォワード制御で行うようにしている。
【0004】
又、特許文献2では、ウィービング動作による溶接電流の変化で観測したデータを溶接制御系へフィードバックし、溶接条件を補正するようにしている。
又、特許文献4では、光学センサで溶接ワイヤの送給速度をモニタし、測定結果を溶接制御部へフィードバックすることで溶接条件を補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−195977号公報
【特許文献2】特開2009−183976号公報
【特許文献3】特開平09−225640号公報
【特許文献4】特開平09−285864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のフィードバック制御では、負荷の変動を検出してから一定の目標値に収束するように操作を行うことで、負荷の変動を抑制する。このため、急に大きな変化が起きた場合は収束が遅い問題がある。
【0007】
溶接ワイヤの送給の場合、マニピュレータの溶接姿勢の変化によってガイドケーブルの曲がり方が大きく変わる場合などは、溶接ワイヤの送給負荷が大きく変化する。この時、図6のように溶接ワイヤのワイヤ送給速度が乱れ、溶接に悪影響を与える。
【0008】
しかし、特許文献1乃至特許文献4のフィードバック制御では、前述のように大きな変化には対応できない問題がある。
又、特許文献1はフィードバック制御に加えて、光学センサの情報を元に溶接条件の変更をフィードフォワード制御で行っているが、このフィードバック制御では光学センサで検出できるものに限定される。
【0009】
本発明の目的は、溶接ロボットで複雑な形状を高速で溶接するといった、送給系の負荷の変動が大きい溶接であっても安定した溶接結果が得られる溶接ロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、溶接トーチを有するマニピュレータと、ガイドケーブルにガイドされた溶接ワイヤを前記溶接トーチに送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤ送給手段のワイヤ送給速度制御を行うワイヤ送給制御手段と、溶接の作業プログラムに従って前記マニピュレータに溶接を行わせるロボット制御手段を備える溶接ロボットシステムにおいて、前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を検出する速度検出手段と、前記速度検出手段が検出した前記ワイヤ送給速度の履歴と、それらのワイヤ送給速度が得られた時迄の時間軸に関連した指標(以下、指標という)とを関連付けして記憶する記憶手段と、前記ワイヤ送給速度の履歴の中から、異常値であるワイヤ送給速度を判定する判定手段と、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標における前記ワイヤ送給制御手段の速度指令値と前記異常値に基づいて補正データを作成する補正データ作成手段とを備え、前記ワイヤ送給制御手段は、前記作業プログラムを実行する際は、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標、並びに前記速度指令値と前記補正データに基づいて前記ワイヤ送給手段をフィードフォワード制御することを特徴とする溶接ロボットシステムを要旨としている。
【0011】
請求項2の発明は、溶接トーチを有するマニピュレータと、ガイドケーブルにガイドされた溶接ワイヤを前記溶接トーチに送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤ送給手段のワイヤ送給速度制御を行うワイヤ送給制御手段と、溶接の作業プログラムに従って前記マニピュレータに溶接を行わせるロボット制御手段を備える溶接ロボットシステムにおいて、前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を検出する速度検出手段と、前記速度検出手段が検出した前記ワイヤ送給速度の履歴と、それらのワイヤ送給速度が得られた時の時間軸に関連した指標(以下、指標という)とを関連付けして記憶する記憶手段と、前記ワイヤ送給速度の履歴の中から、異常値であるワイヤ送給速度を判定する判定手段と、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標における前記ワイヤ送給制御手段の速度指令値に対する補正データを入力する補正データ入力手段とを備え、前記ワイヤ送給制御手段は、前記作業プログラムを実行する際は、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標、並びに前記速度指令値と前記補正データに基づいて前記ワイヤ送給手段をフィードフォワード制御することを特徴とする溶接ロボットシステムを要旨としている。
【0012】
請求項3の発明は、求項1又は請求項2において、前記時間軸に関連した指標が、溶接経過時間又は溶接トーチの移動距離であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項において、前記溶接トーチに、速度検出手段を内蔵したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1及び請求項2の発明によれば、溶接ワイヤの送給状態をモニタし、モニタ結果に基づいてフィードフォワード制御を行うことによって、ワイヤ送給の乱れを未然に防止でき、溶接ロボットで複雑な形状を高速で溶接するといった、送給系の負荷の変動が大きい溶接であっても安定した溶接結果が得られる効果を奏する。
【0014】
請求項3の発明によれば、時間軸に関連する指標として、溶接経過時間又は溶接トーチの移動距離を利用することにより、適切なフィードフォワード制御を行うことができる。
請求項4の発明は溶接トーチにワイヤ送給手段に内蔵していることにより送給経路内の溶接ワイヤのたわみによる誤差を減らし、ワイヤ送給速度の測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明を具体化した第1実施形態の溶接ロボットシステムの概略図、(b)は溶接ロボットシステムの電気ブロック図。
【図2】同じく溶接ロボットシステムの機能ブロック図。
【図3】ワイヤ送給速度の指令値と実測値の説明図。
【図4】ワイヤ送給速度の前回実測値と補正後指令値の説明図。
【図5】ワイヤ送給速度の補正後の送給速度、補正後指令値、前回実測値の説明図。
【図6】ワイヤ送給速度の実測値の説明図。
【図7】第2実施形態の溶接ロボットシステムの電気ブロック図。
【図8】第2実施形態の溶接ロボットシステムの機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した溶接ロボットシステムの第1実施形態を図1〜図5を参照して説明する。
溶接ロボットシステムは、ロボット制御手段としてのロボット制御装置10と、ロボット制御装置10により制御されるマニピュレータ11と、ロボット制御装置10に通信ケーブルLを介して接続された溶接電源装置17とを備えている。
【0017】
マニピュレータ11は、ベース部材11aと、それに複数の軸を介して連結された複数のアーム11bと、各アーム11bを駆動する図示しない駆動モータとによって構成されている。マニピュレータ11に設けられた手首部12の先端には、溶接トーチ13が取付けられている。
【0018】
ワイヤ供給源としてのワイヤリール14に巻かれた溶接ワイヤW(図1(b)参照は、ガイドケーブルとしてのコンジットケーブル15に挿通されてマニピュレータ11のショルダー部に取付けられたワイヤ送給手段としてのワイヤ送給装置16によって溶接トーチ13に送給される。
【0019】
溶接ワイヤWはワイヤリール14からワイヤ送給装置16までは、コンジットケーブル15によってガイドされ、ワイヤ送給装置16から溶接トーチ13までは、ガイドケーブルとしてのトーチケーブル18によってガイドされて送給される。そして、溶接電源装置17からトーチケーブル18を介して溶接トーチ13に電力が供給される。
【0020】
次に、溶接ロボットシステムの電気的構成を図1(b)を参照して説明する。
ロボット制御装置10は、CPUからなるシステムコントロール部10a、マニピュレータ11の溶接トーチ13が溶接を行うための作業プログラムを格納する作業プログラム記憶部10b、マニピュレータ11を制御するモーション制御部10c、溶接制御部10d、溶接電源装置17と通信するための溶接電源インターフェイス10e及び記憶部10fを備えている。作業プログラム記憶部10bは例えば、ハードディスク等の書き込み読出し可能な記憶装置により構成されている。前記記憶部10fは記憶手段に相当する。
【0021】
システムコントロール部10aは、判定手段及び補正データ作成手段に相当する。
ティーチペンダント19は、ロボット制御装置10に接続されるとともに、表示装置、キー、押しボタン等を備え、ティーチングデータを入力する。前記ティーチングデータ(教示データ)は、前記作業プログラムの作成に使用される。又、溶接作業を行わせるための作業経路上の教示点(教示データ)は、前記作業プログラムを構成する各ステップ毎に記述される。又、各教示点で定める溶接区間では、各種溶接条件が前記ティーチペンダント19により入力され或いは設定される。
【0022】
すなわち、溶接区間毎に、溶接開始条件が教示データとして記憶部10fに格納されている。溶接条件である溶接開始条件には、例えば、溶接区間毎に設定入力される速度指令値(目標値)としてのワイヤ送給速度等の条件が含まれている。溶接開始条件は、当該の溶接区間において行われる溶接を、適切に行うための溶接条件である。
【0023】
前記モーション制御部10cは、溶接区間毎に、教示された前記溶接開始条件である溶接速度となるように、前記作業プログラムに従ってマニピュレータ11を制御する。
溶接電源装置17は、ロボット制御装置10の溶接電源インターフェイス10eと通信を行う制御装置インターフェイス17aと、RAM17b、電力増幅器20を制御する溶接条件制御部17cを備える。
【0024】
ロボット制御装置10には、外部機器としてパーソナルコンピュータ40が接続されている。又、パーソナルコンピュータ40には、キーボード42が接続されている。
電力増幅器20はCPUからなる溶接条件制御部17cにより制御されて溶接電流を溶接トーチ13へ供給する。RAM17bは、電源断時にもデータが消失しないようにバックアップ機能を備えている。
【0025】
又、溶接電源装置17にはワイヤ送給制御手段としてのワイヤ送給制御装置30が内蔵されている。溶接電源装置17の溶接条件制御部17cは、溶接区間毎に、その溶接区間の前記溶接開始条件であるワイヤ送給速度に応じた速度指令値をワイヤ送給制御装置30へ出力する。ワイヤ送給制御装置30はこの速度指令値に基づいて後述するワイヤ送給装置16のモータ22を回転制御する。
【0026】
ワイヤ送給装置16は、駆動ロール24と加圧ロール26を備えている。加圧ロール26は図示しないバネにより駆動ロール24側へ常時付勢されて溶接ワイヤWを両ロールに挟み込み、その摩擦力で溶接ワイヤWをはさんでワイヤリール14から引っ張り出すようにされている。駆動ロール24は駆動源としてのモータ22にて回転駆動される。
【0027】
モータ22は、エンコーダ23付サーボモータで構成されている。そして、ワイヤ送給制御装置30は、前記エンコーダ23からの速度検出信号を入力する。又、ワイヤ送給制御装置30は、モータ22のモータ電流を検出することにより、送給負荷を監視する。前記エンコーダ23は、速度検出手段に相当する。
【0028】
(第1実施形態の作用)
次に、アーク溶接ロボットシステムの作用を説明する。
まず、オペレータは、前記ティーチペンダント19を使用して、前記教示データを入力して溶接を行うための作業プログラムを作成しておく。又、後述する補正データの作成のために、ワイヤ送給速度の異常値の判定のための閾値、及び、サンプリングデータを異常判定から除外する不感時間Tを入力して記憶部10fに格納しておく。
【0029】
次に、オペレータは、前記作業プログラムに従って、マニピュレータ11を実稼働させる。このマニピュレータ11の実稼働中、ロボット制御装置10は、溶接状況をモニタし、下記の補正データを作成する。
【0030】
なお、溶接状況のモニタは、溶接ワイヤWのワイヤ送給速度及び溶接トーチの移動距離の取得により行われる。移動距離は、ワイヤ送給速度が得られた時の時間軸に関連した指標に相当する。
【0031】
前記ワイヤ送給速度は、ワイヤ送給装置16におけるモータ22のエンコーダ23からの速度検出信号に基づいてワイヤ送給制御装置30により所定のサンプリング周期でサンプリングされて算出される。そして、その算出結果がロボット制御装置10に送信されることにより、ロボット制御装置10が受信(取得)する。又、溶接トーチ13の移動距離は、システムコントロール部10aが、作業プログラムによりマニピュレータ11が稼働する間において、溶接トーチ13が溶接開始時点からの経過時間と溶接中の教示点間の移動速度を乗算することにより、得られる。そして、その時々に取得したワイヤ送給速度は、溶接中の履歴(履歴データ)として記憶部10fに記憶されるとともに、溶接トーチの移動距離も、その時々に取得したワイヤ送給速度と関連付けされて記憶部10fに記憶される。
【0032】
個々に取得されたワイヤ送給速度に対して、システムコントロール部10aは、ワイヤ送給速度の異常値の判定のための閾値を使用して、ワイヤ送給速度の異常値を判定する(図3参照)。なお、閾値による異常値の判定としては、閾値を速度指令値(目標値)と同じにしてもよい。この場合は、速度指令値と同一でない場合には異常値と判定する。或いは、若干幅のある、例えば速度指令値を基準値として±数%以内の変動を許容する幅のある範囲(以下、基準値を挟んだ±数%以内の変動を許容する範囲を近似範囲という)を閾値とし、この幅のある閾値の下限値未満の場合、或いは上限値を超えた場合に、異常値と判定するようにしてもよい。
【0033】
本実施形態では、閾値を幅のないものとし、速度指令値(目標値)と同じとしている。
図3は、閾値を速度指令値と同じにした場合を図示している。なお、補正データが作成されていない以前の速度指令値を、説明の便宜上、補正前速度指令値ということがある。従って、システムコントロール部10aは、異常値と判定されたワイヤ送給速度と、その異常値と判定されたワイヤ送給速度が出た時の移動距離とは関連付けされている。
【0034】
そして、システムコントロール部10aは、前記異常値と判定された速度指令値を補正する補正データを作成する。この補正データは、ワイヤ送給速度の速度指令値(目標値)と異常と判定されたワイヤ送給速度(実測値)の差分から得られる。
【0035】
システムコントロール部10aは、算出して得られたこの補正データを、前記異常値であるワイヤ送給速度と関連付けされた移動距離と関連付けて記憶部10fに記憶する。
図4は、速度指令値(補正前速度指令値)に前記補正データを合算した場合の補正後速度指令値と、前回測定したワイヤ送給速度(前回実測値)との関係を示している。
【0036】
次回には、オペレータは、前記補正データを記憶部10fに記憶させた状態で、作業プログラムに従って、マニピュレータ11を実稼働させる。次回では、システムコントロール部10aは、溶接開始後は、溶接トーチの移動距離をモニタし、その移動距離に関連付けされた補正データがある場合は、補正データを記憶部10fから読み出して、作業プログラムの補正前速度指令値に合算して、補正後速度指令値を生成し、その補正後速度指令値を溶接電源装置17に送信する。溶接電源装置17のワイヤ送給制御装置30は、エンコーダ23からの速度検出信号に基づく値を前記補正後速度指令値にフィードバックしてワイヤ送給装置16を駆動制御する(図2参照)。
【0037】
図5は、補正後速度指令値により得られた補正後のワイヤ送給速度、補正後速度指令値、及び前回実測値(前回のワイヤ送給速度)の関係を示している。
上記のようにして、次回以後に作業プログラムを実行する場合は、補正データを使用してフィードフォワード制御が行われる。
【0038】
このため、マニピュレータの溶接姿勢の変化によってガイドケーブル(コンジットケーブル15、トーチケーブル18)の曲がり方が大きく変わる場合などは、溶接ワイヤWの送給負荷が大きく変化するが、送給系の負荷の変動が大きい溶接であっても安定した溶接結果が得られる。
【0039】
本実施形態では、下記の特徴がある。
(1) 本実施形態のアーク溶接ロボットシステムは、溶接ワイヤWのワイヤ送給速度を検出するエンコーダ23(速度検出手段)と、エンコーダ23(速度検出手段)が検出したワイヤ送給速度の履歴と、それらのワイヤ送給速度が得られた時迄の溶接トーチ13の移動距離(時間軸に関連した指標)とを関連付けして記憶する記憶部10f(記憶手段)を有する。又、ロボット制御装置10のシステムコントロール部10aは、ワイヤ送給速度の履歴の中から、異常値であるワイヤ送給速度を判定する判定手段とするとともに、異常値と判定されたワイヤ送給速度と関連付けされた溶接トーチ13の移動距離(時間軸に関連した指標)におけるワイヤ送給制御装置30(ワイヤ送給制御手段)の速度指令値と前記異常値に基づいて補正データを作成する補正データ作成手段としている。そして、ワイヤ送給制御装置30(ワイヤ送給制御手段)は、作業プログラムを実行する際は、異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた溶接トーチ13の移動距離、並びに前記速度指令値と前記補正データに基づいてワイヤ送給装置16をフィードフォワード制御する。
【0040】
この結果、溶接ワイヤの送給状態をモニタし、モニタ結果を基づいてフィードフォワード制御を行うことによって、ワイヤ送給の乱れを未然に防止でき、溶接ロボットで複雑な形状を高速で溶接するといった、送給系の負荷の変動が大きい溶接であっても安定した溶接結果が得られる。
【0041】
(2) 本実施形態のアーク溶接ロボットシステムでは、時間軸に関連した指標として、溶接トーチ13の移動距離としている。すなわち、指標を溶接開始からの溶接トーチ13の移動距離とすることによ、溶接トーチ13の移動距離をモニタするだけで、フィードフォワード制御を行う際の、補正データを適時に使用することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態のアーク溶接ロボットシステムを図7及び図8を参照して説明する。なお、第2実施形態のアーク溶接ロボットシステムは、第1実施形態のアーク溶接ロボットシステムとは、図7に示すように補正データを自動作成する代わりにパーソナルコンピュータ40のキーボード42を使用して補正データをオペレータが入力するところが異なっている。キーボード42は、補正データ入力手段に相当する。
【0043】
この場合、オペレータが、異常値と判定された速度指令値を補正する補正データを作成する。この補正データは、ワイヤ送給速度の速度指令値(目標値)と異常と判定されたワイヤ送給速度(実測値)の差分から得る。
【0044】
パーソナルコンピュータ40に入力された補正データは、異常値であるワイヤ送給速度と関連付けされた移動距離と関連付けして記憶部10fに記憶する。
又、本実施形態では、モータ22のエンコーダ23を省略して、溶接トーチ13内に、一対の加圧ロール50,52が内蔵されている。両加圧ロール50,52は図示しないバネにより溶接ワイヤWを常時挟み込みするとともに、ワイヤ送給装置16の送給により、溶接ワイヤWをガイドするようにして溶接ワイヤWの移動に応じて回転する。両加圧ロール50には速度検出手段としてのエンコーダ54が設けられて、ワイヤ送給制御装置30は、エンコーダ54からの溶接ワイヤWの速度検出信号を入力する。
【0045】
他の構成は、第1実施形態と同様である。
第2実施形態の作用では、補正データが、外部機器であるパーソナルコンピュータ40に入力されて、入力された補正データをロボット制御装置10の記憶部10fに格納するところとエンコーダが溶接トーチ13に内蔵されているところが第1実施形態と異なっている。
【0046】
(第2実施形態の作用)
上記のように補正データを、パーソナルコンピュータ40からロボット制御装置10の記憶部10fに格納した後、再び作業プログラムに従って、オペレータは、マニピュレータ11を実稼働させる。この場合、システムコントロール部10aは、溶接開始後は、溶接トーチの移動距離をモニタし、その移動距離に関連付けされた補正データがある場合は、補正データを記憶部10fから読み出して、作業プログラムの補正前速度指令値に合算して、補正後速度指令値を生成し、その補正後速度指令値を溶接電源装置17に送信する。溶接電源装置17のワイヤ送給制御装置30は、エンコーダ54からの速度検出信号に基づく値を前記補正後速度指令値にフィードバックしてワイヤ送給装置16を駆動制御する(図8参照)。
【0047】
第2実施形態では、下記の特徴がある。
(1) 本実施形態のアーク溶接ロボットシステムは、溶接ワイヤWのワイヤ送給速度を検出するエンコーダ54(速度検出手段)と、エンコーダ54(速度検出手段)が検出したワイヤ送給速度の履歴と、それらのワイヤ送給速度が得られた時迄の溶接トーチ13の移動距離(時間軸に関連した指標)とを関連付けして記憶する記憶部10f(記憶手段)を有する。又、ロボット制御装置10のシステムコントロール部10aはワイヤ送給速度の履歴の中から、異常値であるワイヤ送給速度を判定する(判定手段)として機能する。又、パーソナルコンピュータ40のキーボード42は補正データ入力手段として、異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた指標におけるワイヤ送給制御装置30(ワイヤ送給制御手段)の速度指令値と異常値に基づいて補正データを入力する。
【0048】
そして、ワイヤ送給制御装置30(ワイヤ送給制御手段)は、作業プログラムを実行する際は、異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた溶接トーチ13の移動距離、並びに前記速度指令値と前記補正データに基づいてワイヤ送給装置16をフィードフォワード制御する。この結果、本実施形態によれば、溶接ワイヤの送給状態をモニタし、モニタ結果に基づいてフィードフォワード制御を行うことによって、ワイヤ送給の乱れを未然に防止でき、溶接ロボットで複雑な形状を高速で溶接するといった、送給系の負荷の変動が大きい溶接であっても安定した溶接結果が得られる。
【0049】
(2) 又、本実施形態では、溶接トーチ13に、エンコーダ54(速度検出手段)を内蔵する。この結果、本実施形態によれば、溶接トーチ13にエンコーダ54に内蔵していることにより送給経路内の溶接ワイヤWのたわみによる誤差を減らし、ワイヤ送給速度の測定精度を高めることができる。
【0050】
本発明は、前記実施形態に限定するものではなく、下記のように変更してもよい。
・ 前記実施形態では、ワイヤ送給速度の異常値の判定は、閾値を使用して判定したが、例えば、スミルノフ・グラブス検定等の統計的方法により行っても良い。
【0051】
・ 前記各実施形態では、移動距離は、ワイヤ送給速度が得られた時の時間軸に関連した指標にしたが、前記指標を溶接開始からの溶接経過時間としてもよい。
・ 前記各実施形態では、ワイヤ送給速度の速度指令値(目標値)を閾値として異常値判定を行ったが、検出した実ワイヤ送給速度の所定の時間毎の移動平均を閾値とし、或いは前記平均値を中心とした近似範囲を超えた場合(近似幅の上限値を超える場合と、下限値未満の場合を含む)に異常値判定を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…ロボット制御装置、
10a…システムコントロール部(補正データ作成手段、判定手段)、
10f…記憶部(記憶手段)、11…マニピュレータ、13…溶接トーチ、
16…ワイヤ送給装置、17…溶接電源装置、
23…エンコーダ(速度検出手段)、
30…ワイヤ送給制御装置(ワイヤ送給制御手段)、
40…パーソナルコンピュータ、
42…キーボード(補正データ入力手段)、
54…エンコーダ(速度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを有するマニピュレータと、ガイドケーブルにガイドされた溶接ワイヤを前記溶接トーチに送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤ送給手段のワイヤ送給速度制御を行うワイヤ送給制御手段と、溶接の作業プログラムに従って前記マニピュレータに溶接を行わせるロボット制御手段を備える溶接ロボットシステムにおいて、
前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を検出する速度検出手段と、前記速度検出手段が検出した前記ワイヤ送給速度の履歴と、それらのワイヤ送給速度が得られた時迄の時間軸に関連した指標(以下、指標という)とを関連付けして記憶する記憶手段と、前記ワイヤ送給速度の履歴の中から、異常値であるワイヤ送給速度を判定する判定手段と、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標における前記ワイヤ送給制御手段の速度指令値と前記異常値に基づいて補正データを作成する補正データ作成手段とを備え、前記ワイヤ送給制御手段は、前記作業プログラムを実行する際は、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標、並びに前記速度指令値と前記補正データに基づいて前記ワイヤ送給手段をフィードフォワード制御することを特徴とする溶接ロボットシステム。
【請求項2】
溶接トーチを有するマニピュレータと、ガイドケーブルにガイドされた溶接ワイヤを前記溶接トーチに送給するワイヤ送給手段と、前記ワイヤ送給手段のワイヤ送給速度制御を行うワイヤ送給制御手段と、溶接の作業プログラムに従って前記マニピュレータに溶接を行わせるロボット制御手段を備える溶接ロボットシステムにおいて、
前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を検出する速度検出手段と、前記速度検出手段が検出した前記ワイヤ送給速度の履歴と、それらのワイヤ送給速度が得られた時の時間軸に関連した指標(以下、指標という)とを関連付けして記憶する記憶手段と、前記ワイヤ送給速度の履歴の中から、異常値であるワイヤ送給速度を判定する判定手段と、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標における前記ワイヤ送給制御手段の速度指令値に対する補正データを入力する補正データ入力手段とを備え、前記ワイヤ送給制御手段は、前記作業プログラムを実行する際は、前記異常値と判定されたワイヤ送給速度に関連付けされた前記指標、並びに前記速度指令値と前記補正データに基づいて前記ワイヤ送給手段をフィードフォワード制御することを特徴とする溶接ロボットシステム。
【請求項3】
前記時間軸に関連した指標が、溶接経過時間又は溶接トーチの移動距離であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項4】
前記溶接トーチに、速度検出手段を内蔵したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の溶接ロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250271(P2012−250271A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126328(P2011−126328)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)