説明

溶接ワイヤの製造方法及び装置

【課題】 内包ワイヤが断裂された部分ができるのを防ぐことができる溶接ワイヤの製造方法、溶接ワイヤの製造装置及び内包ワイヤの断裂検出方法を提供する。
【解決手段】 溶接ワイヤ材料1の引抜方向の最も端に位置するダイス装置9Aと、引抜方向とは逆の方向の最も端に位置するダイス装置9Fに対して、溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器を配置する。測定器が測定した引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、内包ワイヤが断裂していると判定して溶接ワイヤ材料の引抜きを停止する。これにより、内包ワイヤが断裂された部分ができるのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接やレーザ溶接等に用いられる溶接ワイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開昭62−81293号公報(特許文献1)には、細長い金属外皮用金属板の幅方向の断面が円弧状になるように、細長い金属外皮用金属板を成形し、円弧状の金属外皮用金属板で囲まれた領域内に内包ワイヤを挿入する溶接ワイヤの製造方法が示されている。この方法では、ワイヤの耐久性を維持するために、金属外皮の合わせ目を溶接、ろう付けまたは接着剤で接合して溶接ワイヤ材料を作る。そして、溶接ワイヤ材料を、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスを通して引抜き方向に引抜くことにより、金属外皮及び内包ワイヤの断面積を段階的に減少させて溶接ワイヤを製造する。
【0003】
特開2003−103394号公報(特許文献2)には、内包ワイヤ及びフラックスを管状の金属外皮で囲んだ溶接ワイヤの製造方法が示されている。具体的には、細長い金属外皮用金属板の幅方向の断面が円弧状になるように、細長い金属外皮用金属板を成形し、円弧状の金属外皮用金属板で囲まれた領域内に内包ワイヤとフラックスを挿入し、金属外皮用金属板の合わせ目を密着させて溶接ワイヤ材料を作る。そして、溶接ワイヤ材料を、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスを通して引抜き方向に引抜くことにより、金属外皮及び内包ワイヤの断面積を段階的に減少させて溶接ワイヤを製造する。
【特許文献1】特開昭62−81293号公報
【特許文献2】特開2003−103394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の溶接ワイヤの製造方法では、溶接ワイヤ材料を引抜く際に内包ワイヤが断線するおそれがある。このように内包ワイヤが断線した溶接ワイヤを用いて溶接を行うと、溶接金属が所望の成分にならず溶接金属の性能が低下する等の問題が生じることがあった。
【0005】
本発明の目的は、内包ワイヤが断裂された部分ができるのを防ぐことができる溶接ワイヤの製造方法、溶接ワイヤの製造装置及び内包ワイヤの断裂検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が改良の対象とする溶接ワイヤの製造方法は、内包ワイヤと、該内包ワイヤを内部に有する管状の金属外皮とを有する溶接ワイヤ材料を、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスを通して引抜き方向に引抜くことにより、金属外皮及び内包ワイヤの断面積を段階的に減少させて溶接ワイヤを製造する。ここでいう「ダイス」は、溶接ワイヤ材料の引抜きを行えるダイスであればよく、ローラにより引抜きを行うローラダイスでもよいし、引抜孔に溶接ワイヤ材料を通過させて引抜くダイスであっても構わない。本発明では、複数のダイスの少なくとも1つのダイスに対して溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器を配置する。そして、測定器が測定した引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、内包ワイヤが断裂していると判定して溶接ワイヤ材料の引抜きを停止する。溶接ワイヤ材料の引抜きの停止は、溶接ワイヤの製造装置の駆動を自動的に停止してもよいし、基準値が小さくなると警報が鳴ったり、警告ランプが点滅するような構造を採用し、作業者が製造装置の駆動を停止してもよい。本発明のように溶接ワイヤを製造すれば、ダイスでの溶接ワイヤ材料の引抜力を測定器で測定して予め定められた基準値との比較を行うという簡単な方法で内包ワイヤの断裂を正確に検出して、溶接ワイヤ材料の引抜きを停止することができる。そのため、内包ワイヤが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのを容易且つ正確に防ぐことができる。
【0007】
本発明は、内包ワイヤと金属外皮との間に溶接金属調整粉末が充填されている溶接ワイヤを製造する場合にも適用できる。ここでいう「溶接金属調整粉末」とは、溶接金属が目標の化学成分になるように、内包ワイヤ及び金属外皮を設計できない場合に、溶接金属が所望の成分になるように、組成の調整用として加える金属及び/または非金属粉末である。例えば、用途に応じて、Cr,Mo,Ni,Fe等の粉末を加えることができる。金属粉末としては、脱酸剤としても用いられるものがある。非金属粉末としては、アーク安定剤やスラグ形成剤等として用いられるものがある。このような溶接金属調整粉末は、溶接ワイヤ材料を製造する工程で、内包ワイヤの外周面と金属外皮の内周面との間に配置することができる。溶接金属調整粉末を配置すれば、溶接金属を容易に所望の特性に調整でき、溶接アークの安定化や溶接ビード外観を改善することができる。
【0008】
複数のダイスのうち、引抜き方向の最も端に位置する1つのダイスに対して測定器を配置するのが好ましい。このようにすれば、引抜きの最後の工程で内包ワイヤの断裂を検出して、溶接ワイヤ材料の引抜きを停止することができる。そのため、内包ワイヤが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのを確実に防ぐことができる。
【0009】
また、複数のダイスのうち、引抜き方向とは逆の方向の最も端に位置する1つのダイスに対しても測定器を配置するのが好ましい。このようにすれば、引抜きの最初の工程で内包ワイヤの断裂を検出して、溶接ワイヤ材料の引抜きを停止することができる。そのため、無駄に溶接ワイヤ材料を引抜くのを防ぐことができる。
【0010】
また、複数のダイスのうち、両端に位置するダイスの間に位置する少なくとも1つのダイスに対して測定器を配置すれば、内包ワイヤが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのをより確実に防ぐことができる。
【0011】
本願発明が改良の対象とする溶接ワイヤの製造装置は、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスと引抜き力発生装置と運転制御装置とを備えている。引抜き力発生装置は、内包ワイヤと、該内包ワイヤを内部に有する管状の金属外皮と、内包ワイヤと金属外皮との間に充填された溶接金属調整粉末とを有する溶接ワイヤ材料を、複数のダイスを通して引抜き方向に引抜くための引抜き力を発生する。運転制御装置は、引抜き力発生装置の運転を制御する。そして、溶接ワイヤ材料を、複数のダイスを通して引抜き方向に引抜くことにより金属外皮及び内包ワイヤの断面積を段階的に減少させて溶接ワイヤを製造する。本発明では、複数のダイスの少なくとも1つのダイスに対して溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器を配置し、運転制御装置は、測定器が測定した引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、内包ワイヤが断裂していると判定して溶接ワイヤ材料の引抜きを停止するように構成する。本発明の溶接ワイヤの製造装置によれば、ダイスでの溶接ワイヤ材料の引抜力を測定器で測定して予め定められた基準値との比較を行うという簡単な方法で内包ワイヤの断裂を検出して、運転制御装置により溶接ワイヤ材料の引抜きを停止することができる。そのため、本発明の製造装置を用いれば、内包ワイヤが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのを容易に防ぐことができる。
【0012】
測定器は、溶接ワイヤ材料がダイスを通過しているときに、ダイスに引抜き方向に加わる力を測定するように構成さればよい。
【0013】
ダイスに引抜き方向に加わる力を測定する方法は種々の方法が考えられる。例えば、溶接ワイヤ材料がダイスを通過しているときに、ダイスの下方または上方に位置する回動中心を中心にして揺動するダイス支持台にダイスを支持させ、ダイス支持台が引抜き方向に傾いたときに、ダイス支持台の一部によって押されるようにロードセルを配置することができる。そして、測定器は、ロードセルの出力により力を測定するように構成する。このようにすれば、ダイス支持台の引抜き方向への傾斜を利用するという単純な構造で容易に溶接ワイヤ材料の引抜力を求めることができる。
【0014】
ダイス支持台はハウジング内に配置し、ダイス支持台は、底壁部と該底壁部から上方に延びる側壁とを有するように構成することができる。この場合、底壁部には、引抜方向と上下方向とに直交する直交方向に延びる貫通孔を形成し、貫通孔内には、ハウジングに両端が固定された円柱形状の支持用部材が配置する。そして、底壁部は、軸受により支持用部材に回転自在に支持させる。また、ロードセルは、セル本体とプッシュボタンとを有しており、セル本体は、プッシュボタンがダイス支持台の側壁部の上部と当接するように、ハウジングに取り付けることができる。このようにすれば、測定器を備えたダイスを1つのユニットとして構成することができ、測定器を備えたダイスを用途に応じて所望の位置に容易に配置することができる。
【0015】
前述のダイスを、溶接ワイヤ材料を引抜く引抜孔を有するダイスとすれば、前述の測定器を備えたダイスのユニットをコンパクトにできる。
【0016】
本願発明が改良の対象とする内包ワイヤの断裂検出方法は、内包ワイヤと、該内包ワイヤを内部に有する管状の金属外皮とを有する溶接ワイヤ材料を、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスを通して引抜き方向に引抜くことにより、金属外皮及び内包ワイヤの断面積を段階的に減少させる際に内包ワイヤの断裂を検出する。本発明では、複数のダイスの少なくとも1つのダイスに対して溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器を配置し、測定器が測定した引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、内包ワイヤが断裂していると判定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダイスでの溶接ワイヤ材料の引抜力を測定器で測定して予め定められた基準値との比較を行うという簡単な方法で内包ワイヤの断裂を正確に検出して、溶接ワイヤ材料の引抜きを停止することができる。そのため、内包ワイヤが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのを容易且つ正確に防ぐことができる。その結果、溶接金属が所望の成分にならず溶接金属の性能が低下する等の問題を解決することができる。
【0018】
また、溶接ワイヤ材料がダイスを通過しているときに、ダイスの下方または上方に位置する回動中心を中心にして揺動するダイス支持台にダイスを支持させ、ダイス支持台が引抜き方向に傾いたときに、ダイス支持台の一部によって押されるようにロードセルを配置する溶接ワイヤの製造装置を用いることにより、ダイス支持台の引抜き方向への傾斜を利用するという単純な構造で容易に溶接ワイヤ材料の引抜力を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1(A)は、本発明の第1及び第2の実施の形態の方法で溶接ワイヤを製造する製造装置の概念図であり、図1(B)は図1(A)に示す製造装置における、本発明の第1の実施の形態の製造方法の工程に対応した粉末を含まない溶接ワイヤの断面図であり、(C)は、本発明の第2の実施の形態の製造方法の工程に対応した粉末を含む溶接ワイヤの断面図である。
【0020】
図1(A)に示すように、本例の溶接ワイヤ製造装置は、溶接ワイヤ材料1を送り出すワイヤ送出コイル3と、溶接ワイヤ材料1が加工されて製造された溶接ワイヤ5を巻取る巻取コイル7とを備えている。ワイヤ送出コイル3と巻取コイル7との間には、溶接ワイヤ材料1の引抜方向に間隔をあけて6つのダイス装置9A〜9Fと6つのキャプスタン11とが交互に配置されている。
【0021】
ワイヤ送出コイル3から送り出される溶接ワイヤ材料1は、図1(B)に示すように、内包ワイヤ1aと内包ワイヤ1aを内部に有する管状の金属外皮1bとを有している。また、溶接金属調整粉末を含む溶接ワイヤ材料であれば、図1(C)に示すように、内包ワイヤ1aと、内包ワイヤ1aを内部に有する管状の金属外皮1bと、内包ワイヤ1aと金属外皮1bとの間に充填された溶接金属調整粉末1cとを有している。本例では、金属外皮1bは、帯状の金属外皮用帯板をローラで円弧状に形成し、その中に溶接金属調整粉末1cや内包ワイヤ1aを配置してから、内包ワイヤ1aを包みように環状に成形して形成した。溶接金属調整粉末1cは、溶接金属が所望の成分になるように、組成の調整用として加える金属粉末及び/または非金属粉末であり、用途に応じて、Cr,Mo,Ni,Fe等の粉末を用いることができる。このような溶接ワイヤ材料は、例えば、特開2003−103394号公報等に示される方法で製造することができる。
【0022】
本例の製造装置では、ワイヤ送出コイル3から送り出された溶接ワイヤ材料1がダイス装置(9A〜9F)で引抜れる。次に、キャプスタン11で巻き取られてから再度送り出される。これが繰り返されて、金属外皮1b及び内包ワイヤ1aの断面積が段階的に減少させられると共に、金属外皮1bの合わせ目1dの間隙が減少させられて所望の線径までに引抜かれた溶接ワイヤ5が作られる。そして、溶接ワイヤ5は、乾燥炉13を通過して乾燥された後、巻取コイル7に巻き取られる。
【0023】
キャプスタン11は駆動力を有する巻き取り機で、その駆動力により溶接ワイヤ材料を引っ張る力が適宜に調整される。
【0024】
ダイス装置9A〜9Fの内、引抜き方向の最も端に位置するダイス装置9Fと、引抜き方向とは逆の方向の最も端に位置するダイス装置9Aには、ダイスに対して溶接ワイヤ材料1の引抜力を測定する測定器が配置されている。その他のダイス装置9B〜9Eは、測定器が配置されておらず、それ以外はダイス装置9A,9Fと基本的に同じ構造を有している。
【0025】
図2(A)は、引抜力を測定する測定器を備えたダイス装置9Aまたは9Fの断面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線断面図である。ダイス装置9A,9Fは、ハウジング31とハウジング31内に配置された粉末潤滑剤タンク33とダイス支持台35とダイスホルダ37とダイス38とロードセル39とを有している。粉末潤滑剤タンク33は、内部に粉末潤滑剤が充填されており、導入口33aから導入され導出口33bから導出される溶接ワイヤ材料の表面に粉末潤滑剤を塗布する。ダイス支持台35は、上方が開口した箱形を有しており、溶接ワイヤ材料の引抜方向に対向する2つの側壁部41,43と、2つの側壁部41,43の両縁部をそれぞれ連結する連結壁部45,47と、底壁部49とを有している。側壁部41,43と連結壁部45,47は、底壁部49から上方に延びるように配置されている。側壁部41の中央部には、導出口33bから導出された溶接ワイヤ材料が通過する貫通孔41aが形成されており、側壁部43の中央部には、後述するダイスホルダ37から導出された溶接ワイヤ材料が通過する貫通孔43aが形成されている。側壁部41,43と連結壁部45,47と底壁部49とに囲まれた領域には、ダイスホルダ37を収納する収納空間51が形成されている。底壁部49には、溶接ワイヤ材料の引抜方向と上下方向とに直交する直交方向に延びる貫通孔49aが形成されている。貫通孔49a内には、ハウジング31に両端が固定された円柱形状の支持用部材53が配置されている。底壁部49は、直交方向の両端に配置された一対の軸受55により、支持用部材53に回転自在に支持されている。これにより、ダイス支持台35は、溶接ワイヤ材料の引抜方向に揺動することになる。
【0026】
ダイスホルダ37は、ダイス支持台35の上方から収納空間51内に挿入されてダイス支持台35内に配置される。このダイスホルダ37は、ケース体57と閉塞部材59とを有している。ケース体57は、筒部57aと筒部57aの引抜方向の一面を閉じる側壁57bとを有している。側壁57bの中央部には、後述するダイス38から導出された溶接ワイヤ材料が通過する貫通孔57cが形成されている。筒部57aと側壁57bとの間には、ダイス38の縁部が嵌合する嵌合凹部57dが形成されている。ダイス38の縁部が嵌合凹部57dに嵌合された状態でダイス38の周囲には、冷却水流路57eが形成されることになる。冷却水流路57eは円環状を有しており、冷却水導入路57fと冷却水導出路57gとに連通している。冷却水導入路57f及び冷却水導出路57gには、図示しない冷却水導入管及び冷却水導出管がそれぞれ連結されている。冷却水導入路57fから導入された冷却水は、冷却水流路57eを流れて冷却水導出路57gから導出される。これにより、冷却水流路57eを流れる冷却水によってダイス38が冷却される。閉塞部材59は、ダイス38が配置されたケース体57の開口部57h内に配置されている。閉塞部材59が開口部57h内に配置されている状態で、閉塞部材59の端部がダイス38に当接してダイス38を側壁57b側に押し付けている。閉塞部材59の中央部には、溶接ワイヤ材料が通過する貫通孔59aが形成されている。また、閉塞部材59とケース体57の筒部57aとの間には、Oリング63,65が配置されている。Oリング63,65により、冷却水流路57eを流れる冷却水が閉塞部材59とケース体57の筒部57aとの間から外部に流出されるのが防止される。
【0027】
ダイス38は、図2(B)及び図3に示すように、輪郭がほぼ円板形を有しており、溶接ワイヤ材料1の引抜方向に表面38aと裏面38bとを有している。ダイス38の中央部には、溶接ワイヤ材料1を貫通して、該溶接ワイヤ材料1を引抜く引抜孔38cが形成されている。引抜孔38cの内周面は、ダイス38の表面38aから中心に向かうにしたがって径寸法が小さくなるように傾斜する引抜面38dと、引抜面38dに連続して径寸法が一定に延びる中央内面38eと、中央内面38eに連続して中央内面38eからダイス38の裏面38bに向かうにしたがって径寸法が大きくなるように傾斜する傾斜面38fとを含んでいる。溶接ワイヤ材料1は、引抜孔38c内を通過すると、引抜面38dに絞られて、金属外皮1b及び内包ワイヤ1aの断面積を減少して、引抜方向に送り出される。
【0028】
図2(B)に示すように、ダイスホルダ37は、レバー67によりダイス支持台35内に固定されている。レバー67は、軸部69と該軸部69の一端部69aに取り付けられた把持部71とを有している。軸部69の他端部69bには、ダイス支持台35の連結壁部45を貫通する螺子孔45aに螺合される螺子69cが形成されている。また、軸部69は、ハウジング31に形成された貫通孔31a内を貫通している。貫通孔31aは、後述するダイス支持台35の揺動により軸部69が動くのを許容する大きさを有している。把持部71を用いて軸部69を一方の方向に回転させて、軸部69の他端部69bをダイスホルダ37に当接させて、ダイスホルダ37のダイス支持台35内への固定を図る。また、把持部71を用いて軸部69を他方の方向に回転させて、軸部69の他端部69bをダイスホルダ37から離して、ダイスホルダ37のダイス支持台35内への固定の解除を図る。
【0029】
図2(A)に示すように、ロードセル39は、セル本体39aとプッシュボタン39bとを有している。セル本体39aは、プッシュボタン39bがダイス支持台35の側壁部43の上部と当接するように、ハウジング31の壁面の内面に取り付けられている。ダイス支持台35は、ダイス38内に溶接ワイヤ材料4が配置されていない(通過しない)状態で、側壁部43がロードセル39のプッシュボタン39bに当接し、側壁部41が粉末潤滑剤タンク33に当接している。そして、この状態でダイス38の表面38aと及び裏面38bが垂直方向に延びるように、ダイス支持台35は、支持用部材53に支持されている。プッシュボタン39bは、弾性体で負勢された状態でセル本体39a内から突出しており、先端に力が加わると、セル本体39a内に入り込む構造を有している。そして、セル本体39aにより、プッシュボタン39bの先端に加わった力が測定される。そのため、ダイス38により溶接ワイヤ材料1が引抜かれて、側壁部41が粉末潤滑剤タンク33から離れるようにダイス支持台35が揺動して引抜き方向に傾いたときに、ダイス支持台35の一部(側壁部)43がプッシュボタン39bを押す。これにより、ダイス支持台35の揺動により生じる引抜方向に加わるダイス支持台35の力が測定される。測定された力は、図1に示すように、ダイス装置9Aまたは9Fのロードセル39から運転制御装置15に信号として送られる。運転制御装置15は、受信した信号から、測定器が測定した引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、内包ワイヤが断裂していると判定して、引抜力発生装置(本例では巻取コイル7及びキャプスタン11)の各駆動部7a,11aに停止信号を発信して引抜力発生装置の駆動を停止させる。このため、予め定められた基準値を内包ワイヤが断裂される値に応じて適宜に設定することにより、溶接ワイヤ材料1の引抜きが停止され、内包ワイヤが断裂された部分ができるのを防ぐことができる。例えば、内包ワイヤ1aが1.2mm径のSUS410により形成され、金属外皮1bが0.4mm厚のハステロイC−22により形成された溶接ワイヤ材料を1.9mmから1.85mmに引抜く場合の引抜力は通常55〜56kgfである。そして、内包ワイヤ1aが完全に断裂されると引抜力は35kgfに低下する。このような場合は、予め定められた基準値を40kgf前後に設定することができる。引抜き停止後は、内包ワイヤの断裂部を溶接等により接続して補修すればよい。本例では、ダイス支持台35及びロードセル39により、引抜力を測定する測定器が構成されている。
【0030】
本例の製造方法によれば、ダイス38での溶接ワイヤ材料1の引抜力を測定器(35,38)で測定して予め定められた基準値との比較を行うという簡単な方法で内包ワイヤ1aの断裂を正確に検出して、溶接ワイヤ材料1の引抜きを停止することができる。そのため、内包ワイヤ1aが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのを容易且つ正確に防ぐことができる。
【0031】
なお、上記例では、予め製造された溶接ワイヤ材料1をワイヤ送出コイル3から送り出して溶接ワイヤを製造する例を示したが、内包ワイヤ1aを金属外皮1bとを組み合わせて溶接ワイヤ材料を製造する工程から連続して溶接ワイヤを製造しても構わない。
【0032】
また、上記例では、最初のダイス装置9Aと最後のダイス装置9Fとに引抜力を測定する測定器を配置したが、必要に応じて他のダイス装置9B〜9Eにも引抜力を測定する測定器を配置しても構わない。このようにすれば、内包ワイヤが断裂された部分が溶接ワイヤ内にできるのをより確実に防ぐことができる。
【0033】
また、上記例の製造装置では、溶接ワイヤ材料の引抜力が予め定められた基準値より小さくなると製造装置の駆動が停止するが、基準値が小さくなると警報が鳴ったり、警告ランプが点滅するような構造を採用することができる。この場合、警報や警告ランプにより作業者が製造装置の駆動が停止すればよい。
【0034】
また、製造装置の適宜な位置において溶接ワイヤ材料をダンサーに係合させて、溶接ワイヤ材料を引っ張る力が調整しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(A)は、本発明の第1及び第2の実施の形態の方法で溶接ワイヤを製造する製造装置の概念図であり、(B)は、図1(A)に示す製造装置における、本発明の第1の実施の形態の製造方法の工程に対応した粉末を含まない溶接ワイヤの断面図であり、(C)は、本発明の第2の実施の形態の製造方法の工程に対応した粉末を含む溶接ワイヤの断面図である。
【図2】(A)は、図1の製造装置に用いるダイスでの引抜力を測定する機能を有するダイス装置の断面図であり、(B)は、図2(A)のB−B線断面図である。
【図3】図1のダイス装置のダイスにおいて、溶接ワイヤ材料を引抜く態様を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 溶接ワイヤ材料
1a 内包ワイヤ
1b 金属外皮
1c 溶接金属調整粉末
9A〜9F ダイス装置
35 ダイス支持台
38 ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内包ワイヤと、前記内包ワイヤを内部に有する管状の金属外皮とを有する溶接ワイヤ材料を、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスを通して前記引抜き方向に引抜くことにより、前記金属外皮及び前記内包ワイヤの断面積を段階的に減少させて溶接ワイヤを製造する溶接ワイヤの製造方法において、
前記複数のダイスの少なくとも1つの前記ダイスに対して前記溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器を配置し、
前記測定器が測定した前記引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、前記内包ワイヤが断裂していると判定して溶接ワイヤ材料の引抜きを停止することを特徴とする溶接ワイヤの製造方法。
【請求項2】
前記内包ワイヤと前記金属外皮との間に溶接金属調整粉末が充填されている請求項1に記載の溶接ワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記複数のダイスのうち、前記引抜き方向の最も端に位置する1つの前記ダイスに対して前記測定器が配置されている請求項1または2に記載の溶接ワイヤの製造方法。
【請求項4】
前記複数のダイスのうち、前記引抜き方向とは逆の方向の最も端に位置する1つの前記ダイスに対して前記測定器が配置されている請求項3に記載の溶接ワイヤの製造方法。
【請求項5】
前記複数のダイスのうち、両端に位置する前記ダイスの間に位置する少なくとも1つの前記ダイスに対して前記測定器が配置されている請求項4に記載の溶接ワイヤの製造方法。
【請求項6】
引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスと、
内包ワイヤと、前記内包ワイヤを内部に有する管状の金属外皮とを有する溶接ワイヤ材料を、前記複数のダイスを通して前記引抜き方向に引抜くための引抜き力を発生する引抜き力発生装置と、
前記引抜き力発生装置の運転を制御する運転制御装置とを備えて、
前記溶接ワイヤ材料を、前記複数のダイスを通して前記引抜き方向に引抜くことにより前記金属外皮及び前記内包ワイヤの断面積を段階的に減少させて溶接ワイヤを製造する溶接ワイヤの製造装置において、
前記複数のダイスの少なくとも1つの前記ダイスに対して前記溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器が配置され、
前記運転制御装置は、前記測定器が測定した前記引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、前記内包ワイヤが断裂していると判定して前記溶接ワイヤ材料の引抜きを停止するように構成されていることを特徴とする溶接ワイヤの製造装置。
【請求項7】
前記測定器は、前記溶接ワイヤ材料が前記ダイスを通過しているときに、前記ダイスに前記引抜き方向に加わる力を測定するように構成されている請求項6に記載の溶接ワイヤの製造装置。
【請求項8】
前記ダイスは、前記溶接ワイヤ材料が前記ダイスを通過しているときに、前記ダイスの下方または上方に位置する回動中心を中心にして揺動するダイス支持台に支持されており、
前記ダイス支持台が前記引抜き方向に傾いたときに、前記ダイス支持台の一部によって押されるようにロードセルが配置され、
前記測定器は、前記ロードセルの出力により前記力を測定するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の溶接ワイヤの製造装置。
【請求項9】
前記ダイス支持台は、ハウジング内に配置されており、
前記ダイス支持台は、底壁部と前記底壁部から上方に延びる側壁とを有しており、
前記底壁部には、前記引抜き方向と上下方向とに直交する直交方向に延びる貫通孔が形成されており、
前記貫通孔内には、前記ハウジングに両端が固定された円柱形状の支持用部材が配置されており、
前記底壁部は、軸受により前記支持用部材に回転自在に支持されており、
前記ロードセルは、セル本体とプッシュボタンとを有しており、
前記セル本体は、前記プッシュボタンが前記ダイス支持台の前記側壁部の上部と当接するように、前記ハウジングに取り付けられている請求項8に記載の溶接ワイヤの製造装置。
【請求項10】
前記ダイスは、溶接ワイヤ材料を引抜く引抜孔を有するダイスである請求項9に記載の溶接ワイヤの製造装置。
【請求項11】
内包ワイヤと、前記内包ワイヤを内部に有する管状の金属外皮とを有する溶接ワイヤ材料を、引抜き方向に間隔をあけて配置された複数のダイスを通して前記引抜き方向に引抜くことにより、前記金属外皮及び前記内包ワイヤの断面積を段階的に減少させる際に前記内包ワイヤの断裂を検出する方法において、
前記複数のダイスの少なくとも1つの前記ダイスに対して前記溶接ワイヤ材料の引抜力を測定する測定器を配置し、
前記測定器が測定した前記引抜力が予め定められた基準値より小さくなったときに、前記内包ワイヤが断裂していると判定する内包ワイヤの断裂検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−229673(P2008−229673A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73485(P2007−73485)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000227962)日本ウエルディング・ロッド株式会社 (11)
【Fターム(参考)】