説明

溶接ワイヤ送給装置

【課題】溶接ワイヤを安定して送給することができる溶接ワイヤ送給装置を提供する。
【解決手段】1つのモータ7と、このモータに連結された1つの中間プーリ21と、同軸にロールプーリが設けられ溶接ワイヤ11の送給方向に沿って設けられた2つの送給ロール3a、3bと、2つの送給ロールに一対一に対応して溶接ワイヤが挟まれて送給される2つの加圧ロール5a、5bと、中間プーリと2つの送給ロールのロールプーリとに掛け渡された1つのエンドレスベルト24とを備えたことを特徴とする溶接ワイヤ送給装置20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極ガスシールドアーク溶接に使用される溶接ワイヤを送給するための溶接ワイヤ送給装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極ガスシールドアーク溶接において、安定して溶接ワイヤを送給するために溶接ワイヤ送給装置が使用されている。(例えば、特許文献1参照。)従来、この溶接ワイヤ送給装置として、図4に示す装置が提案されていた。図4は、従来技術の溶接ワイヤ送給装置の内部図であり、図5は、図4に示すA方向から見たときの送給ロールと加圧ロールとのみの配置図である。図4において、溶接ワイヤ送給装置1内に設けられたモータ7に駆動ギヤー2が連結されている。第1の送給ロール3a及び第2の送給ロール3bには、図5にも示すように、ギヤー4a、4bがそれぞれ同軸に取り付けられていて、これらのギヤー4a、4bが駆動ギヤー2とそれぞれ歯合されている。また、第1の加圧ロール5a及び第2の加圧ロール5bにもギヤー6a、6bが、それぞれ同軸に取り付けられていて、これらのギヤー6a、6bが、2つ送給ロールのギヤー4a、4bとそれぞれ歯合されている。
【0003】
そして、2つの送給ロール3a、3b及び2つの加圧ロール5a、5bには、図5に示すように、溶接ワイヤが挟まれて加圧されて送給されるための溝8a、8b及び溝9a、9bが、それぞれ形成されている。図5に示す2つの送給ロール3a、3b及び2つの加圧ロール5a、5bには、溝がそれぞれ2つ示されている。これは、例えば、直径が異なる溶接ワイヤに対応して形成されている。
【0004】
15はワイヤ挿入口であり、16はワイヤ送出口であり、センターガイド10は、溶接ワイヤ11がガイドされるために設けられている。2つの加圧ロール5a、5bは、2つの加圧ホルダ12a、12bに、それぞれ取り付けられている。そして、2つの加圧ハンドル14a、14bを図面の手前方向へ倒すことによって、2つの加圧ホルダ12a、12bとの引っ掛かりが外れて、2つの加圧ホルダ12a、12bに取り付けられたばね(図示を省略)のばね力によって、2つの加圧ロール5a、5bが持ち上げられる。また、2つの加圧ハンドル14a、14bを調整することによって、2つの送給ロール3a、3bに対する2つの加圧ロール5a、5bの加圧力が調整される。
【0005】
以下、動作を説明する。
図4において、まず、2つの加圧ハンドル14a、14bを図面の手前方向へ倒すと、2つの加圧ホルダ12a、12bに取り付けられたばねのばね力によって、2つの加圧ロール5a、5bが持ち上げられる。そして、ワイヤリール(図示を省略)からの溶接ワイヤ11がワイヤ挿入口15から挿入されて、第1の送給ロールの溝8aに通され、センターガイド10に通され、第2の送給ロールの溝8bに通されて、ワイヤ送出口16に通される。この後は、図示を省略したコンジットケーブルに通されて溶接トーチまでガイドされる。
【0006】
次に、2つの加圧ホルダ12a、12bを下ろして、2つの加圧ハンドル14a、14bを戻して、2つの加圧ホルダ12a、12bに引っ掛けて固定する。この結果、溶接ワイヤ11は、2つの加圧ロールの溝9a、9bにも通されて、第1の送給ロールの溝8aと第1の加圧ロールの溝9aで挟まれ、かつ、第2の送給ロールの溝8bと第2の加圧ロールの溝9bでも挟まれることになる。
【0007】
そして、モータ7を駆動すると、このモータ7に連結された駆動ギヤー2が、矢印の方向へ回転されて、この駆動ギヤー2に歯合された2つの送給ロール3a、3bが、矢印の方向へそれぞれ回転される。そして、2つの送給ロール3a、3bにそれぞれ歯合された2つの加圧ロール5a、5bが、矢印の方向へそれぞれ回転される。この結果、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとで挟まれた溶接ワイヤ11は、図示された送給方向へ送給される。
【特許文献1】特開2005−144489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術の溶接ワイヤ送給装置1においては、駆動ギヤー2と2つの送給ロールのギヤー4a、4bが、真円に製作されていない場合があり、また、ワイヤ送給装置を動作させることによって、駆動ギヤー2と2つの送給ロールのギヤー4a、4bとがこすれて、偏摩耗が生じてくる。これらの場合、駆動ギヤー2と送給ロールのギヤー4a、4bとのかみ合わせが悪くなり、送給ロール3a、3bの回転が不安定になる。その結果、溶接ワイヤ11の送給が不安定になり、均一な溶接ビードを形成することができないという不具合があった。
【0009】
一方、溶接ワイヤ送給装置を小型化するために、例えば、駆動ギヤー2と2つの送給ロール3a、3bとのそれぞれの軸間距離を狭くすることが考えられる。この場合、軸間距離はギヤーの大きさによって決定されているために、これらのギヤーの大きさを小さくする必要がある。その場合、ギヤーの個々の歯に加わる力が大きくなり、耐久性が低下することになる。
【0010】
また、駆動ギヤー2を取り除いて、直接、モータ7に送給ロール3a、3bの一方を連結して、小型化することが考えられる。この場合、図6に示すように、駆動ギヤー2を取り除いて、例えば、第1の送給ロール3aにモータ7を連結させて、第1の送給ロール3aに第2の送給ロール3bを歯合させる。そして、モータ7を駆動させて、モータ7に連結された第1の送給ロール3aが矢印の方向に回転されると、第2の送給ロール3bは矢印の方向に回転される。そして、2つの加圧ロール5a、5bは、矢印の方向にそれぞれ回転される。この結果、2つの送給ロール3a、3bの回転方向が反対になるので、溶接ワイヤ11を送給することができない。図6は、駆動ギヤーを取り除いて、直接、モータ7に送給ロールの一方を連結したときの2つの送給ロールと2つの加圧ロールとの回転方向を説明するための図である。
【0011】
以上のように、駆動ギヤー2と2つの送給ロール3a、3bとのそれぞれの軸間距離を狭くしたり、駆動ギヤー2を取り除く方法では、溶接ワイヤ送給装置を小型化することが困難であった。
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。より特定すれば、本発明は、溶接ワイヤを安定して送給する溶接ワイヤ送給装置を提供することを目的としている。更に、本発明は、溶接ワイヤを安定して送給し、小型化を図ることができる溶接ワイヤ送給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
1つのモータと、
このモータに連結された1つの中間プーリと、
同軸にロールプーリが設けられ溶接ワイヤの送給方向に沿って設けられた2つの送給ロールと、
前記2つの送給ロールに一対一に対応して前記溶接ワイヤが挟まれて送給される2つの加圧ロールと、
前記中間プーリと前記2つの送給ロールのロールプーリとに掛け渡された1つのエンドレスベルトと、
を備えたことを特徴とする溶接ワイヤ送給装置である。
【0014】
第2の発明は、
1つのモータと、
同軸にロールプーリが設けられ溶接ワイヤの送給方向に沿って設けられた2つの送給ロールであってこれらの一方が前記モータに連結された2つの送給ロールと、
前記2つの送給ロールに一対一に対応して前記溶接ワイヤが挟まれて送給される2つの加圧ロールと、
前記2つの送給ロールのロールプーリに掛け渡された1つのエンドレスベルトと、
を備えたことを特徴とする溶接ワイヤ送給装置である。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明は、上述した従来技術の溶接ワイヤ送給装置の不具合であった、駆動ギヤーと2つの送給ロールのギヤーとを歯合させていることによって、これらのかみ合わせが悪くなるという不具合が発生しない。その結果、送給ロール3a、3bを安定して回転させることができるので、溶接ワイヤ11を安定して送給することができ、均一な溶接ビードを形成することができる。
【0016】
第2の発明は、上述した従来技術の溶接ワイヤ送給装置の不具合であった、駆動ギヤーと2つの送給ロールのギヤーとを歯合させていることによって、これらのかみ合わせが悪くなるという不具合が発生しない。その結果、送給ロール3a、3bを安定して回転させることができるので、溶接ワイヤ11を安定して送給することができ、均一な溶接ビードを形成することができる。さらに、溶接ワイヤ送給装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態1の溶接ワイヤ送給装置の内部図であり、図2は、図1に示すA方向から見たときの送給ロールと加圧ロールとのみの配置図である。図1において、溶接ワイヤ送給装置20内に設けられモータ7に中間プーリ21が連結されている。また、2つの送給ロール3a、3bには、図2に示すように、同軸にロールプーリ22a、22bがそれぞれ設けられている。また、2つの加圧ロール5a、5bにも、同軸にロールプーリ23a、23bが設けられている。そして、エンドレスベルト24が中間プーリ21と2つの送給ロールのロールプーリ22a、22bとに掛け渡されていて、中間プーリ21の回転力が2つの送給ロール3a、3bに伝達される。ベルト調整用ローラ25の位置を調整することによって、エンドレスベルト24の張力が調整されている。その他の機能は、図4及び図5に示した機能と同符号を付して、説明を省略する。
【0018】
以下、動作を説明する。実施の形態1の動作は、上述した従来技術の動作のうち、2つの加圧ハンドル14a、14bを図面の手前方向へ倒してから、溶接ワイヤ11が挿通されて、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとで挟まれるまでは同じであるので、説明を省略する。
【0019】
図1において、モータ7を駆動すると、このモータ7に連結された中間プーリ21が、矢印の方向へ回転される。そして、エンドレスベルト24によって連結された2つの送給ロール3a、3bが、矢印の方向へそれぞれ回転されて、2つの送給ロール3a、3bにそれぞれ歯合された2つの加圧ロール5a、5bが、矢印の方向へそれぞれ回転される。従って、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとで挟まれた溶接ワイヤ11は、図示された送給方向へ送給される。
【0020】
この結果、上述した従来技術の溶接ワイヤ送給装置の不具合であった、駆動ギヤーと2つの送給ロールのギヤーとを歯合させていることによって、これらのかみ合わせが悪くなるという不具合が発生しない。その結果、送給ロール3a、3bを安定して回転させることができるので、溶接ワイヤ11を安定して送給することができ、均一な溶接ビードを形成することができる。
【0021】
また、中間プーリ21の大きさを変更することによって、2つの送給ロールの回転速度を容易に変更することができる。また、中間プーリ21を小さくすることによって、溶接ワイヤ送給装置の小型化を図ることができる。
【0022】
[実施の形態2]
図3は、本発明の実施の形態2の溶接ワイヤ送給装置の内部図である。同図において、溶接ワイヤ送給装置26内に設けられモータ7には、減速機が取り付けられていて、2つの送給ロール3a、3bの一方に連結されている。以下、例えば、第1の送給ロール3aがモータ7に連結されているとする。2つの送給ロール3a、3b及び2つの加圧ロール5a、5bには、図2に示したように、同軸にロールプーリ22a、22b及びロールプーリ23a、23bがそれぞれ設けられている。そして、エンドレスベルト24が、2つの送給ロールのロールプーリ22a、22bに掛け渡されていて、モータ7が連結された第1の送給ロール3aの回転力が、第2の送給ロール3bに伝達される。ベルト調整用ローラ25の位置を調整することによって、エンドレスベルト24の張力が調整されている。その他の機能は、図1及び図2に示した機能と同符号を付して、説明を省略する。
【0023】
以下、動作を説明する。実施の形態2の動作は、上述した従来技術の動作のうち、2つの加圧ハンドル14a、14bを図面の手前方向へ倒してから、溶接ワイヤ11が挿通されて、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとで挟まれるまでは同じであるので、説明を省略する。
【0024】
図2において、減速機付きのモータ7を駆動すると、このモータ7に連結された第1の送給ロール3aが、矢印の方向へ回転される。そして、エンドレスベルト24によって第2の送給ロール3bへ回転力が伝達されて第2の送給ロール3bが、矢印の方向へ回転される。そして、2つの送給ロール3a、3bにそれぞれ歯合された2つの加圧ロール5a、5bが、矢印の方向へそれぞれ回転される。従って、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとで挟まれた溶接ワイヤ11は、図示された送給方向へ送給される。
【0025】
この結果、上述した従来技術の溶接ワイヤ送給装置の不具合であった、駆動ギヤーと2つの送給ロールのギヤーとを歯合させていることによって、これらのかみ合わせが悪くなるという不具合が発生しない。その結果、送給ロール3a、3bを安定して回転させることができるので、溶接ワイヤ11を安定して送給することができ、均一な溶接ビードを形成することができる。
【0026】
さらに、実施の形態1の中間プーリ21を省略しているので、実施の形態1よりも更に溶接ワイヤ送給装置の小型化を図ることができる。
【0027】
上述した実施の形態1及び実施の形態2において、2つの加圧ロール5a、5bには、2つの送給ロールのギヤ−4a、4bとそれぞれ歯合されるギヤー6a、6bが設けられている。これらの加圧ロールのギヤー6a、6bは、溶接ワイヤの材質によって、必要な場合に設けられる。即ち、例えば、溶接ワイヤの材質がアルミのように柔らかい場合は、2つの加圧ロール5a、5bで軽く押える必要がある。そのために、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとの間で滑りが発生することがあるので、2つの加圧ロールのギヤー6a、6bを設けている。
【0028】
これに対して、溶接ワイヤ11の材質が鉄のように硬い場合は、2つの加圧ロール5a、5bで強く押えることができる。その場合、2つの送給ロール3a、3bと2つの加圧ロール5a、5bとの間で滑りが発生することがないので、2つの加圧ロールのギヤー6a、6bを設ける必要が無い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1の溶接ワイヤ送給装置の内部図である。
【図2】図1に示すA方向から見たときの送給ロールと加圧ロールとのみの配置図である。
【図3】本発明の実施の形態2の溶接ワイヤ送給装置の内部図である。
【図4】従来技術の溶接ワイヤ送給装置の内部図である。
【図5】図4に示すA方向から見たときの送給ロールと加圧ロールとのみの配置図である。
【図6】駆動ギヤーを取り除いて、直接、モータに送給ロールの一方を連結したときの2つの送給ロールと2つの加圧ロールとの回転方向を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
1 溶接ワイヤ送給装置
2 駆動ギヤー
3a 第1の送給ロール
3b 第2の送給ロール
4a 第1の送給ロールのギヤー
4b 第2の送給ロールのギヤー
5a 第1の加圧ロール
5b 第2の加圧ロール
6a 第1の加圧ロールのギヤー
6b 第2の加圧ロールのギヤー
7 モータ
8a 第1の送給ロールの溝
8b 第2の送給ロールの溝
9a 第1の加圧ロールの溝
9b 第2の加圧ロールの溝
10 センターガイド
11 溶接ワイヤ
12a 第1の加圧ホルダ
12b 第2の加圧ホルダ
14a 第1の加圧ハンドル
14b 第2の加圧ハンドル
15 ワイヤ挿入口
16 ワイヤ送出口
20 溶接ワイヤ送給装置
21 中間プーリ
22a 第1の送給ロールのロールプーリ
22b 第2の送給ロールのロールプーリ
23a 第1の加圧ロールのロールプーリ
23b 第2の加圧ロールのロールプーリ
24 エンドレスベルト
25 ベルト調整用ローラ
26 溶接ワイヤ送給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのモータと、
このモータに連結された1つの中間プーリと、
同軸にロールプーリが設けられ溶接ワイヤの送給方向に沿って設けられた2つの送給ロールと、
前記2つの送給ロールに一対一に対応して前記溶接ワイヤが挟まれて送給される2つの加圧ロールと、
前記中間プーリと前記2つの送給ロールのロールプーリとに掛け渡された1つのエンドレスベルトと、
を備えたことを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項2】
1つのモータと、
同軸にロールプーリが設けられ溶接ワイヤの送給方向に沿って設けられた2つの送給ロールであってこれらの一方が前記モータに連結された2つの送給ロールと、
前記2つの送給ロールに一対一に対応して前記溶接ワイヤが挟まれて送給される2つの加圧ロールと、
前記2つの送給ロールのロールプーリに掛け渡された1つのエンドレスベルトと、
を備えたことを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−54847(P2007−54847A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240993(P2005−240993)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)