溶接揺動装置
【課題】小型かつ大気中利用を可能とした溶接揺動装置を提供する。
【解決手段】溶接揺動装置は、トーチと、形状記憶合金の部材と、パルス通電による加熱機構及び/またはペルチェ素子による冷却機構と、を備え、前記パルス通電の加熱及び/またはペルチェ素子の冷却により、前記形状記憶合金の部材を変形させて、前記トーチを揺動させることを特徴とする。
【解決手段】溶接揺動装置は、トーチと、形状記憶合金の部材と、パルス通電による加熱機構及び/またはペルチェ素子による冷却機構と、を備え、前記パルス通電の加熱及び/またはペルチェ素子の冷却により、前記形状記憶合金の部材を変形させて、前記トーチを揺動させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑形状のアーク溶接工程において、トーチの揺動を伴うアーク溶接の際に用いられるトーチの溶接揺動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー溶接が装置的に困難な複雑形状の溶接に際しては、多パスのアーク溶接がしばしば用いられる。その際に、トーチの揺動機構は、幅広のアーク溶接において不可欠であり、特許文献1のような電磁力を利用することが考えられる。
【0003】
また、小型化を達成する一つの揺動機構として形状記憶合金の利用が挙げられ、形状記憶の復元力を利用し揺動させる機構であり、加熱・冷却を繰り返し、特定温度を境に変形する揺動機構においては、特許文献2のように水中など常に冷却状態に形状記憶合金を設置し、変形応答性を高め、揺動装置として利用している。
【0004】
複雑形状溶接の場合、トーチ取り回しの容易性が求められるので、揺動装置小型化の必要がある。また、上記特許文献1に開示されている電磁力を利用した揺動機構では、装置一式が大型となり取り廻しが困難となる場合が発生するものと考えられる。特許文献2では、形状記憶合金が水中で冷却されており、この機構を大気中で利用すると空冷となる。そのため、冷却速度が遅くなり、結果として変形応答性が低下することで揺動装置として用いることが困難であるという問題点が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−210019号公報
【特許文献2】特開2005−279720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、小型かつ大気中利用を可能とした溶接揺動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接揺動装置は、トーチと、形状記憶合金の部材と、パルス通電による加熱機構及び/またはペルチェ素子による冷却機構と、を備え、前記パルス通電の加熱及び/またはペルチェ素子の冷却により、前記形状記憶合金の部材を変形させて、前記トーチを揺動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型化で大気中利用を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における形状記憶合金の板材を用いた装置構成を示した図である。
【図2】本発明における形状記憶合金ワイヤとバネを用いた装置構成を示した図である。
【図3】本発明における2本の形状記憶合金ワイヤを用いた示した図である。
【図4】本発明における形状記憶合金バネを用いた装置構成を示した図である。
【図5】本発明における形状記憶合金バネを用いた装置構成を示した側面図である。
【図6】本発明における形状記憶合金の板材の加工について示した図である。
【図7】本発明における溶接揺動装置の全体構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
形状記憶合金は、ある変態点温度以上になると、塑性変形前の構造に戻ろうとして大きな変形応力を発生し、変態点温度以下になると形状記憶の変形応力が消失するという特徴がある。形状記憶合金を用いると、装置の簡略化が達成されるため、小型化が可能となり、取り回しの観点で複雑形状の溶接に対して有効であると考えられる。しかし、冷却の観点から、形状記憶合金の加熱後、空冷以上の速度で冷却しなければ、揺動機構としての応用は困難であると考えられる。そこで本発明では、ペルチェ素子による冷却機構を導入し、大気中でも水冷以上の冷却速度を確保し、結果として変形応答性を高め、大気中でも利用可能な溶接用揺動を実現するものである。
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る溶接揺動装置の実施例について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明における装置構成を示したものである。
【0014】
装置構成が、トーチ1と、形状記憶合金の板材2と、弾性体の板材3と、絶縁耐熱材4と、パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5と、変位センサ6を備える。
【0015】
形状記憶合金の板材2は、特定の変態温度に対して低温側で塑性変形されても、一旦高温側になると、塑性変形前の構造を復元しようとすることを特徴とする合金であり、Ni−Ti系やFe−Mn−Si系やCu−Zn−Al系などを指す。
【0016】
弾性体の板材3は、ジュラルミン(A2017P)以上の降伏ひずみを示す材料で、例えば超々ジュラルミン(A7075P)やチタン6Al−4V合金、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM439)、析出硬化型ステンレス鋼(SUS631)などを指す。
【0017】
絶縁体熱材4は、エポキシ系接着フィルムなど、絶縁性かつ形状記憶合金の変態温度以上の耐熱性を併せ持つものから構成され、形状記憶合金の板材2が受けるパルス通電を弾性体の板材3への通電を防ぎ、ジュール熱による温度上昇に伴うヤング率や降伏応力などの力学的物性値変化を防止する。
【0018】
パルス通電加熱の装置は、パルス電圧を発生させる電源と電源からプラスとマイナスのリード線が形状記憶合金に接続され構成されている。
【0019】
ペルチェ素子冷却機構は、ペルチェ素子へ電流を流す電源と電源からプラスとマイナスのリード線がペルチェ素子に接続されており、一定方向に電流を流すとペルチェ素子の温度が低下し、接触している物質を冷却させることが可能である。また、ペルチェ素子から構成される平板状のシンクヘッドは形状記憶合金の板材に接している。ペルチェ素子としての材料は100℃以上の耐熱性を有するものである。
【0020】
変位センサ6は形状記憶合金の板材の変位を読み取り、歪み変化による電気抵抗変化率を利用し変位量を検出する。形状記憶合金の板材の変位に応じて加熱・冷却のタイミングを決定し、パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5に電気信号による命令を与え、形状記憶合金の板材2の反復変形を制御し、トーチに対して揺動機構を与える。
【0021】
形状記憶合金の平板材に対し、曲げ板形状を初期形状として記憶させるため治具で曲げ形状を再現し、変態温度以上で加工熱処理を行い、形状記憶合金の曲げ板材15を得る。
【0022】
形状記憶合金の曲げ板材15に対し、逆方向の曲げ加工された弾性体の板材3が絶縁耐熱材4を介してリベットもしくは耐熱絶縁接着材による接合がされており、弾性体の板材3の弾性変形により形状記憶合金の曲げ板材15は図6のように変形し、形状記憶合金の曲げ板材2となり、この装置における変形機構を構成している。さらに、形状記憶合金の板材2に対して絶縁耐熱材4と接する反対面に対して、パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5が取り付けられる。また、弾性体の板材3に対して絶縁体熱材4と接する反対面に、歪み変化による電気抵抗変化率を利用した変位量を検出する変位センサが取り付けられる。
【0023】
この溶接揺動装置において、形状記憶合金の板材2をパルス通電によって加熱すると、相変態温度を閾値として形状記憶合金は塑性変形前の形状に戻る作用が働き、この形状記憶の復元力が弾性体の板材に対し一定方向の弾性ひずみを与えることでトーチを移動させる。
【0024】
また、ペルチェ素子の冷却作用により、相変態温度以下に冷却されると、形状記憶の復元力が消失し弾性体の板材による弾性復元力の方が支配的となるため、加熱前の釣り合いの位置である初期状態まで戻される。
【0025】
以上のように、形状記憶合金に対しパルス通電による加熱機構とペルチェ素子による冷却機構により形状記憶合金を変形させ、トーチを揺動させることができる。
【0026】
さらに、中間材として形状記憶合金と弾性体の板材がトーチ上部に設置されているため、揺動装置自体は小型である。また、冷却機構を備えていることより、大気中での使用も可能である。
【0027】
図2は本発明における装置構成を示したものである。装置構成が、トーチ1と形状記憶合金ワイヤ7とバネ10とパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5を備える。
【0028】
形状記憶合金ワイヤ7はNi−Ti系やFe−Mn−Si系やCu−Zn−Al系などからなる形状記憶合金である。
【0029】
バネ10は、ばね鋼材(SUP3、SUP6、SUP7、SUP9、SUP10、SUP12など)から構成される。
【0030】
ハウジング9およびこのハウジング9の内部に取り付けられたピボット8と、ピボット8を揺動軸としてトーチ1が取り付けられている。さらに形状記憶合金ワイヤ7の初期形状に対し、線方向に引っ張り、塑性変形をさせる。これを、ハウジング9の内部にトーチ1のピボットより上部に取り付ける。
【0031】
また、形状記憶合金ワイヤ7に対しパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5を取り付ける。そしてハウジング9内部において、形状記憶合金ワイヤ7のトーチ1に対して反対側に、取り付けたときに自然長となる長さのバネ10を取り付ける。
【0032】
この装置により、形状記憶合金ワイヤ7に対しパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5によって加熱された形状記憶合金ワイヤ7が変態温度を境に縮み、その変形応力はバネ10の弾性復元力より大きいため、バネ10を伸ばす方向に、トーチ1上部が移動し、ピボット8を介して、トーチ1は元の位置より形状記憶ワイヤの線方向に対しバネ10とは反対側へ移動する。
【0033】
次にペルチェ素子5により形状記憶ワイヤ7を冷却し、変態温度以下になると、形状記憶の復元力は消失し、伸びたバネの弾性復元力が支配的となり、結果としてトーチ1上部が形状記憶ワイヤの線方向に対しバネ10側へ移動し、図2の装置一式は上記のような変形機構を繰り返し行うことでトーチ1を揺動させる。
【0034】
図3は、図2の装置一式に対し、バネ10が形状記憶ワイヤ7となり、トーチ1に対して、両側に取り付けられた形状記憶ワイヤ7がパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却作用により交互に伸縮し、トーチ1を揺動させる機構を示している。
【0035】
図4は、局率を備えた溝12を移動式軸11が1次元的に往復移動するとき、局率を備えた溝12を有するトーチ1は移動式軸11の移動方向に対し垂直な方向に揺動される。
【0036】
図5は、図4の装置一式が正面図とするとき、側面をあらわす図であり、移動式軸11のピボット8に対して1次元的に往復する機構を示している。
【0037】
ピボット8と移動式軸11の間には形状記憶合金バネ13が取り付けられており、この形状記憶合金バネ13にはパルス通電器14がプラスとマイナスのリード線を介して取り付けられている。
【0038】
パルス通電器14の加熱によって形状記憶合金バネ13は伸び、結果として移動式軸11がピボット8とは反対方向に移動する。ペルチェ素子5による形状記憶合金バネ13の冷却により、移動式軸11は、バネの弾性復元力によりピボット8の方向へ1次元的に移動する。
【0039】
〔実施例〕
有限要素解析によって、本発明における形状記憶合金の揺動挙動のシミュレーションを実施した。有限要素法ソフトはABAQUS(SIMULIA社製)を用い、相変態、形状記憶回復ひずみ、外場との表面熱伝達を連成した熱弾性解析を行った。
【0040】
Ni−Ti系形状記憶合金において、材料組織は常温でマルテンサイト相であり、合金が加熱されるとオーステナイト相に変態する。変態の際に変形前の形状を復元させる駆動力のため約3%以上の回復ひずみが発生し、変形前の元の形状に戻るという特性を有する。
【0041】
形状記憶合金特性の解析にはマルテンサイトとオーステナイト相の可逆的な相変態が温度と応力によって誘起されることより、相変態挙動をKoistinen-Marburgerの式にひずみの項を加えたξ=1−exp[aM(Ms−T)+bMσ](冷却過程)、ξ=exp[aA(As−T)+bAσ](加熱過程)の式を用いて解析した。ここでξはマルテンサイト相の体積分率、aM、bM、aA、bAは定数であり、Msはマルテンサイト変態開始温度、Asはオーステナイト変態開始温度、Tは現在の温度、σは応力である。また形状記憶回復応力は、σ=E(ξ)[(ε−εLξ)+θ(T−T0)]のようにあらわされ、ここで、E(ξ)=ξEM+(1−ξ)EAであり、EMはマルテンサイト相のヤング率、EAはオーステナイト相のヤング率、εはひずみ、εLは最大回復ひずみ、θは線膨脹係数、T0は線膨脹係数の基準温度である。
【0042】
30mm×10mm×2mmの寸法の形状記憶合金の板材および30mm×10mm×1mmの弾性体の板材からなる溶接トーチの揺動機構においてシミュレーションを実施し、ペルチェ冷却機構を付随させたトーチ揺動機構に対し空冷、水冷方案のトーチ揺動機構を比較し、温度変化に対する応答性、揺動機構としての妥当性について検討した。
【0043】
得られた結果から、ペルチェ冷却方案の溶接揺動装置は10[Hz]の振動数を示し、水冷は0.5[Hz]、空冷は0.2[Hz]となった。また、揺動の際の振幅は3.2[mm]となり、全長が30.0[mm]の長さを有するため振れ角は6.1[°]となる。これより全長が200[mm]の溶接トーチにおいては21[mm]の振れ幅となるため、揺動機構として利用可能である。
【0044】
溶接トーチ全体構造として、図1の装置に示すようにパルス通電の電源6から出るリード線を介して、形状記憶合金の板材2は変態点温度以上に加熱され、形状記憶の復元力により弾性体の板材3とともに反対方向に湾曲し15の形状となるため、トーチ1は移動する。
【0045】
次に冷却を行うと、形状記憶の復元力は失われ、弾性体の板材3の弾性限内にあるため、その弾性復元力が支配的になり、形状記憶合金は2の形状になりトーチ1は移動し、加熱前に戻る。この加熱・冷却の操作を繰り返すことでトーチ1の揺動運動が得られた。
【0046】
溶接施工時には、アークを発生させるトーチ先端に対し、ガス供給ライン18を通ってガスが噴出されると同時にワイヤ17が供給され、母材21に溶接金属が溶滴移行現象により送給されて溶接される。
【0047】
例えば鉄道車両の台車部品として使用されるモナカタイプの側バリの複雑な補強板の溶接工程において、本発明の溶接揺動機構は小型化、可動性が高いため溶接可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 トーチ
2 形状記憶合金の板材
3 弾性体の板材
4 絶縁体熱材
5 パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構
6 変位センサ
7 形状記憶合金ワイヤ
8 ピボット
9 ハウジング
10 バネ
11 移動式軸
12 溝
13 形状記憶合金バネ
14 パルス通電器
15 形状記憶合金の板材の初期形状
16 形状記憶合金の板材の3の弾性応力による変形後の形状
17 ワイヤ
18 ガス供給ライン
19 ワイヤ送給装置
20 ガスボンベ
21 母材
22 電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑形状のアーク溶接工程において、トーチの揺動を伴うアーク溶接の際に用いられるトーチの溶接揺動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー溶接が装置的に困難な複雑形状の溶接に際しては、多パスのアーク溶接がしばしば用いられる。その際に、トーチの揺動機構は、幅広のアーク溶接において不可欠であり、特許文献1のような電磁力を利用することが考えられる。
【0003】
また、小型化を達成する一つの揺動機構として形状記憶合金の利用が挙げられ、形状記憶の復元力を利用し揺動させる機構であり、加熱・冷却を繰り返し、特定温度を境に変形する揺動機構においては、特許文献2のように水中など常に冷却状態に形状記憶合金を設置し、変形応答性を高め、揺動装置として利用している。
【0004】
複雑形状溶接の場合、トーチ取り回しの容易性が求められるので、揺動装置小型化の必要がある。また、上記特許文献1に開示されている電磁力を利用した揺動機構では、装置一式が大型となり取り廻しが困難となる場合が発生するものと考えられる。特許文献2では、形状記憶合金が水中で冷却されており、この機構を大気中で利用すると空冷となる。そのため、冷却速度が遅くなり、結果として変形応答性が低下することで揺動装置として用いることが困難であるという問題点が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−210019号公報
【特許文献2】特開2005−279720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、小型かつ大気中利用を可能とした溶接揺動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接揺動装置は、トーチと、形状記憶合金の部材と、パルス通電による加熱機構及び/またはペルチェ素子による冷却機構と、を備え、前記パルス通電の加熱及び/またはペルチェ素子の冷却により、前記形状記憶合金の部材を変形させて、前記トーチを揺動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型化で大気中利用を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における形状記憶合金の板材を用いた装置構成を示した図である。
【図2】本発明における形状記憶合金ワイヤとバネを用いた装置構成を示した図である。
【図3】本発明における2本の形状記憶合金ワイヤを用いた示した図である。
【図4】本発明における形状記憶合金バネを用いた装置構成を示した図である。
【図5】本発明における形状記憶合金バネを用いた装置構成を示した側面図である。
【図6】本発明における形状記憶合金の板材の加工について示した図である。
【図7】本発明における溶接揺動装置の全体構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
形状記憶合金は、ある変態点温度以上になると、塑性変形前の構造に戻ろうとして大きな変形応力を発生し、変態点温度以下になると形状記憶の変形応力が消失するという特徴がある。形状記憶合金を用いると、装置の簡略化が達成されるため、小型化が可能となり、取り回しの観点で複雑形状の溶接に対して有効であると考えられる。しかし、冷却の観点から、形状記憶合金の加熱後、空冷以上の速度で冷却しなければ、揺動機構としての応用は困難であると考えられる。そこで本発明では、ペルチェ素子による冷却機構を導入し、大気中でも水冷以上の冷却速度を確保し、結果として変形応答性を高め、大気中でも利用可能な溶接用揺動を実現するものである。
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る溶接揺動装置の実施例について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明における装置構成を示したものである。
【0014】
装置構成が、トーチ1と、形状記憶合金の板材2と、弾性体の板材3と、絶縁耐熱材4と、パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5と、変位センサ6を備える。
【0015】
形状記憶合金の板材2は、特定の変態温度に対して低温側で塑性変形されても、一旦高温側になると、塑性変形前の構造を復元しようとすることを特徴とする合金であり、Ni−Ti系やFe−Mn−Si系やCu−Zn−Al系などを指す。
【0016】
弾性体の板材3は、ジュラルミン(A2017P)以上の降伏ひずみを示す材料で、例えば超々ジュラルミン(A7075P)やチタン6Al−4V合金、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM439)、析出硬化型ステンレス鋼(SUS631)などを指す。
【0017】
絶縁体熱材4は、エポキシ系接着フィルムなど、絶縁性かつ形状記憶合金の変態温度以上の耐熱性を併せ持つものから構成され、形状記憶合金の板材2が受けるパルス通電を弾性体の板材3への通電を防ぎ、ジュール熱による温度上昇に伴うヤング率や降伏応力などの力学的物性値変化を防止する。
【0018】
パルス通電加熱の装置は、パルス電圧を発生させる電源と電源からプラスとマイナスのリード線が形状記憶合金に接続され構成されている。
【0019】
ペルチェ素子冷却機構は、ペルチェ素子へ電流を流す電源と電源からプラスとマイナスのリード線がペルチェ素子に接続されており、一定方向に電流を流すとペルチェ素子の温度が低下し、接触している物質を冷却させることが可能である。また、ペルチェ素子から構成される平板状のシンクヘッドは形状記憶合金の板材に接している。ペルチェ素子としての材料は100℃以上の耐熱性を有するものである。
【0020】
変位センサ6は形状記憶合金の板材の変位を読み取り、歪み変化による電気抵抗変化率を利用し変位量を検出する。形状記憶合金の板材の変位に応じて加熱・冷却のタイミングを決定し、パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5に電気信号による命令を与え、形状記憶合金の板材2の反復変形を制御し、トーチに対して揺動機構を与える。
【0021】
形状記憶合金の平板材に対し、曲げ板形状を初期形状として記憶させるため治具で曲げ形状を再現し、変態温度以上で加工熱処理を行い、形状記憶合金の曲げ板材15を得る。
【0022】
形状記憶合金の曲げ板材15に対し、逆方向の曲げ加工された弾性体の板材3が絶縁耐熱材4を介してリベットもしくは耐熱絶縁接着材による接合がされており、弾性体の板材3の弾性変形により形状記憶合金の曲げ板材15は図6のように変形し、形状記憶合金の曲げ板材2となり、この装置における変形機構を構成している。さらに、形状記憶合金の板材2に対して絶縁耐熱材4と接する反対面に対して、パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5が取り付けられる。また、弾性体の板材3に対して絶縁体熱材4と接する反対面に、歪み変化による電気抵抗変化率を利用した変位量を検出する変位センサが取り付けられる。
【0023】
この溶接揺動装置において、形状記憶合金の板材2をパルス通電によって加熱すると、相変態温度を閾値として形状記憶合金は塑性変形前の形状に戻る作用が働き、この形状記憶の復元力が弾性体の板材に対し一定方向の弾性ひずみを与えることでトーチを移動させる。
【0024】
また、ペルチェ素子の冷却作用により、相変態温度以下に冷却されると、形状記憶の復元力が消失し弾性体の板材による弾性復元力の方が支配的となるため、加熱前の釣り合いの位置である初期状態まで戻される。
【0025】
以上のように、形状記憶合金に対しパルス通電による加熱機構とペルチェ素子による冷却機構により形状記憶合金を変形させ、トーチを揺動させることができる。
【0026】
さらに、中間材として形状記憶合金と弾性体の板材がトーチ上部に設置されているため、揺動装置自体は小型である。また、冷却機構を備えていることより、大気中での使用も可能である。
【0027】
図2は本発明における装置構成を示したものである。装置構成が、トーチ1と形状記憶合金ワイヤ7とバネ10とパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5を備える。
【0028】
形状記憶合金ワイヤ7はNi−Ti系やFe−Mn−Si系やCu−Zn−Al系などからなる形状記憶合金である。
【0029】
バネ10は、ばね鋼材(SUP3、SUP6、SUP7、SUP9、SUP10、SUP12など)から構成される。
【0030】
ハウジング9およびこのハウジング9の内部に取り付けられたピボット8と、ピボット8を揺動軸としてトーチ1が取り付けられている。さらに形状記憶合金ワイヤ7の初期形状に対し、線方向に引っ張り、塑性変形をさせる。これを、ハウジング9の内部にトーチ1のピボットより上部に取り付ける。
【0031】
また、形状記憶合金ワイヤ7に対しパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5を取り付ける。そしてハウジング9内部において、形状記憶合金ワイヤ7のトーチ1に対して反対側に、取り付けたときに自然長となる長さのバネ10を取り付ける。
【0032】
この装置により、形状記憶合金ワイヤ7に対しパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構5によって加熱された形状記憶合金ワイヤ7が変態温度を境に縮み、その変形応力はバネ10の弾性復元力より大きいため、バネ10を伸ばす方向に、トーチ1上部が移動し、ピボット8を介して、トーチ1は元の位置より形状記憶ワイヤの線方向に対しバネ10とは反対側へ移動する。
【0033】
次にペルチェ素子5により形状記憶ワイヤ7を冷却し、変態温度以下になると、形状記憶の復元力は消失し、伸びたバネの弾性復元力が支配的となり、結果としてトーチ1上部が形状記憶ワイヤの線方向に対しバネ10側へ移動し、図2の装置一式は上記のような変形機構を繰り返し行うことでトーチ1を揺動させる。
【0034】
図3は、図2の装置一式に対し、バネ10が形状記憶ワイヤ7となり、トーチ1に対して、両側に取り付けられた形状記憶ワイヤ7がパルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却作用により交互に伸縮し、トーチ1を揺動させる機構を示している。
【0035】
図4は、局率を備えた溝12を移動式軸11が1次元的に往復移動するとき、局率を備えた溝12を有するトーチ1は移動式軸11の移動方向に対し垂直な方向に揺動される。
【0036】
図5は、図4の装置一式が正面図とするとき、側面をあらわす図であり、移動式軸11のピボット8に対して1次元的に往復する機構を示している。
【0037】
ピボット8と移動式軸11の間には形状記憶合金バネ13が取り付けられており、この形状記憶合金バネ13にはパルス通電器14がプラスとマイナスのリード線を介して取り付けられている。
【0038】
パルス通電器14の加熱によって形状記憶合金バネ13は伸び、結果として移動式軸11がピボット8とは反対方向に移動する。ペルチェ素子5による形状記憶合金バネ13の冷却により、移動式軸11は、バネの弾性復元力によりピボット8の方向へ1次元的に移動する。
【0039】
〔実施例〕
有限要素解析によって、本発明における形状記憶合金の揺動挙動のシミュレーションを実施した。有限要素法ソフトはABAQUS(SIMULIA社製)を用い、相変態、形状記憶回復ひずみ、外場との表面熱伝達を連成した熱弾性解析を行った。
【0040】
Ni−Ti系形状記憶合金において、材料組織は常温でマルテンサイト相であり、合金が加熱されるとオーステナイト相に変態する。変態の際に変形前の形状を復元させる駆動力のため約3%以上の回復ひずみが発生し、変形前の元の形状に戻るという特性を有する。
【0041】
形状記憶合金特性の解析にはマルテンサイトとオーステナイト相の可逆的な相変態が温度と応力によって誘起されることより、相変態挙動をKoistinen-Marburgerの式にひずみの項を加えたξ=1−exp[aM(Ms−T)+bMσ](冷却過程)、ξ=exp[aA(As−T)+bAσ](加熱過程)の式を用いて解析した。ここでξはマルテンサイト相の体積分率、aM、bM、aA、bAは定数であり、Msはマルテンサイト変態開始温度、Asはオーステナイト変態開始温度、Tは現在の温度、σは応力である。また形状記憶回復応力は、σ=E(ξ)[(ε−εLξ)+θ(T−T0)]のようにあらわされ、ここで、E(ξ)=ξEM+(1−ξ)EAであり、EMはマルテンサイト相のヤング率、EAはオーステナイト相のヤング率、εはひずみ、εLは最大回復ひずみ、θは線膨脹係数、T0は線膨脹係数の基準温度である。
【0042】
30mm×10mm×2mmの寸法の形状記憶合金の板材および30mm×10mm×1mmの弾性体の板材からなる溶接トーチの揺動機構においてシミュレーションを実施し、ペルチェ冷却機構を付随させたトーチ揺動機構に対し空冷、水冷方案のトーチ揺動機構を比較し、温度変化に対する応答性、揺動機構としての妥当性について検討した。
【0043】
得られた結果から、ペルチェ冷却方案の溶接揺動装置は10[Hz]の振動数を示し、水冷は0.5[Hz]、空冷は0.2[Hz]となった。また、揺動の際の振幅は3.2[mm]となり、全長が30.0[mm]の長さを有するため振れ角は6.1[°]となる。これより全長が200[mm]の溶接トーチにおいては21[mm]の振れ幅となるため、揺動機構として利用可能である。
【0044】
溶接トーチ全体構造として、図1の装置に示すようにパルス通電の電源6から出るリード線を介して、形状記憶合金の板材2は変態点温度以上に加熱され、形状記憶の復元力により弾性体の板材3とともに反対方向に湾曲し15の形状となるため、トーチ1は移動する。
【0045】
次に冷却を行うと、形状記憶の復元力は失われ、弾性体の板材3の弾性限内にあるため、その弾性復元力が支配的になり、形状記憶合金は2の形状になりトーチ1は移動し、加熱前に戻る。この加熱・冷却の操作を繰り返すことでトーチ1の揺動運動が得られた。
【0046】
溶接施工時には、アークを発生させるトーチ先端に対し、ガス供給ライン18を通ってガスが噴出されると同時にワイヤ17が供給され、母材21に溶接金属が溶滴移行現象により送給されて溶接される。
【0047】
例えば鉄道車両の台車部品として使用されるモナカタイプの側バリの複雑な補強板の溶接工程において、本発明の溶接揺動機構は小型化、可動性が高いため溶接可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 トーチ
2 形状記憶合金の板材
3 弾性体の板材
4 絶縁体熱材
5 パルス通電による加熱およびペルチェ素子による冷却機構
6 変位センサ
7 形状記憶合金ワイヤ
8 ピボット
9 ハウジング
10 バネ
11 移動式軸
12 溝
13 形状記憶合金バネ
14 パルス通電器
15 形状記憶合金の板材の初期形状
16 形状記憶合金の板材の3の弾性応力による変形後の形状
17 ワイヤ
18 ガス供給ライン
19 ワイヤ送給装置
20 ガスボンベ
21 母材
22 電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチと、形状記憶合金の部材と、パルス通電による加熱機構及び/またはペルチェ素子による冷却機構と、を備え、
前記パルス通電の加熱及び/またはペルチェ素子の冷却により、前記形状記憶合金の部材を変形させて、前記トーチを揺動させることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項2】
請求項1において、さらに、弾性体の部材を備えることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項3】
請求項1において、前記形状記憶合金の部材がワイヤであることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項4】
請求項1において、前記形状記憶合金の部材がバネであることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項1】
トーチと、形状記憶合金の部材と、パルス通電による加熱機構及び/またはペルチェ素子による冷却機構と、を備え、
前記パルス通電の加熱及び/またはペルチェ素子の冷却により、前記形状記憶合金の部材を変形させて、前記トーチを揺動させることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項2】
請求項1において、さらに、弾性体の部材を備えることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項3】
請求項1において、前記形状記憶合金の部材がワイヤであることを特徴とする溶接揺動装置。
【請求項4】
請求項1において、前記形状記憶合金の部材がバネであることを特徴とする溶接揺動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−75307(P2013−75307A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215896(P2011−215896)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]