説明

溶接方法および医療機器

【課題】レーザーのパルス照射を用いつつ、より確実に水密をとることができる溶接方法を提供する。
【解決手段】パルス波レーザービームを複数回照射して形成された線状領域からなる溶接領域60を第一部材40と第二部材50との重ね合わせ部に形成する溶接方法は、線状領域で囲まれた囲み部64が、環状に連続するように複数並ぶことにより溶接領域が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法、より詳しくは、パルス波レーザービームを用いた溶接方法、および当該溶接方法により接合された筐体を備える医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機器の一群として、神経刺激装置、疼痛緩和装置、てんかん治療装置、および筋肉刺激装置等の、電気的刺激を直接または間接的に神経組織および筋肉等の各種生体組織に与え、治療を行う刺激発生装置が知られている。これらの刺激発生装置は内部に電源を有し、通常電気的刺激を伝達する刺激電極とともに生体に植え込まれて使用される。
【0003】
刺激発生装置等の医療機器は、筐体と、筐体内に収容される各種の電気的機構とを備えている。生体に植え込まれた筐体の周囲には、組織間液や、組織から滲出した体液等が存在しており、これらの液体が筐体内に浸入すると、電気的機構の短絡や腐食等の不具合を発生させる恐れがあるため、筐体は内部空間の水密を確保するように接合される必要がある。
【0004】
筐体の材料としては、堅牢性と生体適合性とをバランスよく兼ね備えた純チタン、チタン合金、ステンレス鋼等がよく用いられる。このような材料からなる筐体の接合方法としては、例えばパルス波レーザービームを用いたレーザー溶接方法が知られている。
パルス波レーザービームを用いたレーザー溶接方法の一例として、特許文献1には、第1照射工程において、パルス波レーザービームを一定のピッチで照射し、第2照射工程において、第1照射工程と同一ピッチで照射されたパルス波レーザービームを、第1照射工程で形成された隣り合う溶接ビードの間に新たな溶接ビードが形成されるように照射する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−195948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の溶接方法では、レーザーがパルス状に照射されるため、照射出力、照射ピッチを調整するだけでは、溶接ビードの重なり部分の溶け込み量不足などの不具合を完全に防ぐことは困難であるため、確実に水密をとることは容易ではない。
【0007】
これに対して、レーザーの出力を増加させたり、幅の広いレーザービームを線状に照射したりして溶接することも考えられるが、医療機器の筐体は小型で肉薄なものが多いため、このようなやり方では、内部の電気的機構がレーザーの熱により悪影響を受ける、レーザービームが筐体を貫通してしまう等の問題が懸念され、現実的とは言い難い。
【0008】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、レーザーのパルス照射を用いつつ、より確実に水密をとることができる溶接方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、水密を確保しつつ、外観も良好な筐体を備えた医療機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、パルス波レーザービームを複数回照射して形成された線状領域からなる溶接領域を第一の部材と第二の部材との重ね合わせ部に形成する溶接方法であって、前記線状領域で囲まれた囲み部が、環状に連続するように複数並ぶことにより前記溶接領域が形成されることを特徴とする。
【0010】
前記溶接領域は、環状に形成された二本の環状領域からなる第一領域と、前記環状領域と交差するように形成された複数の第二領域とを有してもよい。
さらに、領域に囲まれた囲み部が前記周壁部の全周にわたって複数並んで連続するように形成されてもよい。
【0011】
本発明の第二の態様は、周壁部を有する第一部材および第二部材を、内部空間を形成するように対向させて溶接し、前記周壁部どうしを接合して形成された筐体を備えた医療機器であって、前記周壁部どうしを接合する溶接領域は、パルス波レーザービームを複数回照射して形成された線状領域に囲まれた囲み部が前記周壁部の全周にわたって複数並んで連続するように形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の医療機器においては、前記第一部材の周壁部の一部が前記第二部材の周壁部に嵌合された状態で前記第一部材と前記第二部材とが溶接されてもよい。
前記溶接領域は、環状に形成された二本の環状領域からなる第一領域と、前記環状領域と交差するように形成された複数の第二領域とを有してもよい。さらに、領域に囲まれた囲み部が前記周壁部の全周にわたって複数並んで連続するように形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の除細動電極によれば、開胸を伴わずに取り付けることができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる。
また、本発明の植込み型除細動システムによれば、開胸を伴わずに取り付け手技を行うことができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係る除細動装置の構成を示す図である。
【図2】同除細動装置の筐体を示す斜視図である。
【図3】同筐体の厚さ方向における断面図である。
【図4】同筐体に形成された溶接領域を示す拡大斜視図である。
【図5】同溶接領域の形状を示す模式図である。
【図6】同溶接領域の変形例を示す模式図である。
【図7】同溶接領域の変形例を示す模式図である。
【図8】同溶接領域の変形例を示す模式図である。
【図9】本発明の第二実施形態における溶接領域の形状を示す模式図である。
【図10】同溶接領域の変形例を示す模式図である。
【図11】本発明の第三実施形態における筐体の分解斜視図である。
【図12】同筐体の厚さ方向における断面図である。
【図13】同筐体に形成された溶接領域を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一実施形態について、図1から図8を参照して説明する。
図1は、本実施形態の除細動装置(医療機器)1を示す図である。図1に示すように、除細動装置1は、皮下等の生体内に植え込まれて除細動のための電気エネルギーを発生する除細動器10と、心臓100に取り付けられる電極部20と、除細動器10と電極部20とを接続するリード30とを備えている。
【0016】
除細動器10は、電源としての電池、電気エネルギーを蓄えるコンデンサ、心電図を検出する検出回路、心電図にもとづいて心臓の状態を判定する判定回路、コンデンサからのエネルギーを放出する除細動駆動回路等の各種電気的機構(いずれも不図示)が金属製の筐体11に収容されて構成されている。除細動装置1の主な特徴は筐体11の構造にあるため、筐体11の構造については後に詳しく説明する。
【0017】
電極部20は、同一の構造を有する第一電極21および第二電極22を備える。図1に示すように、第一電極21は、右室側の心嚢膜101上に設置され、第二電極22は、第一電極21と心臓100を挟んで対向するように、左室側の心嚢膜101上に設置される。
【0018】
リード30は、電気的な絶縁を保って除細動器10から電極部20に電気エネルギーを伝達できるものであれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、例えば、外径φが2mm程度のポリウレタンチューブ内に、中心に銀41%含有の芯線を有するMP35N合金線がコイル状に巻かれた構成となっている。
【0019】
図2は、筐体11の斜視図であり、図3は筐体11の厚さ方向における断面図である。筐体11は、正面視において下方が曲線状である略D字形状をなしており、正面側を構成する第一部材40と、背面側を構成する第二部材50とからなる。筐体11の寸法は適宜設定できるが、例えば、正面の長手方向が100ミリメートル(mm)、幅方向が70mm、厚みが10mmとすることができ、第一部材40および第二部材50の肉厚は、0.3〜1.0mmとすることができる。
【0020】
第一部材40および第二部材50の材質は、一定以上の剛性(堅牢性)と生体適合性とを備えていれば特に制限はなく、それぞれ異なる材質であってもよい。ただし、同一の材質であるほうが後述する溶接による接合が良好となることは当然である。本実施形態では、第一部材40および第二部材50は純チタンで形成されている。
【0021】
第一部材40は、筐体11の正面となる略D字状の正面部41と、正面部41の周縁から正面部41の厚さ方向に立ち上がる周壁部42とを備えている。第二部材50も同様に、筐体11の背面となる略D字状の背面部51と、背面部51の周縁から背面部51の厚さ方向に立ち上がる周壁部52とを備えている。周壁部42の上端部(正面部41から遠いほうの端部)は、外周側が削られて他の部分よりも肉薄とされた嵌合部43とされており、周壁部52の上端部(背面部51から遠いほうの端部)は、内周側が削られて肉薄とされた被嵌合部53とされている。第一部材40と第二部材50とは、被嵌合部53に嵌合部43がはめ込まれて周壁部42が周壁部52に嵌合された状態で溶接されることにより、内部に電気的機構を収容する収容空間を形成するように対向された状態で接合されている。
【0022】
第一部材40と第二部材50との溶接は、パルス波レーザービーム(以下、「パルスレーザー」と称する)を用いたレーザー溶接により行われる。本発明の溶接方法では、各パルスレーザーを筐体11の表面上で部分的に重なるように複数回照射することで形成された線状領域を、所定の形状に設けることで溶接領域60を形成し、第一部材40と第二部材50とが重ね合わされた部位を溶接して接合する。
【0023】
パルスレーザーの出力値、速度、ビーム幅、ピッチ等は適宜設定できるが、厚さ方向に重なった嵌合部43および被嵌合部53(重ね合わせ部)を貫通しないことが必要であり、焦げ付きによる溶接箇所の変色を生じたり、外観の悪い溶接痕となったりしない程度に設定されるのが好ましい。本実施形態における設定の一例として、例えば嵌合部および被嵌合部の肉厚が他の部位の半分の0.15〜0.5mm程度の場合、出力5V、速度15Hz、ビーム幅0.3mm、ピッチ0.2mmとすることができる。
【0024】
図4は、筐体11の部分拡大図であり、図5は、筐体11に形成された溶接領域60の形状を示す模式図である。図4および図5に示すように、溶接領域60は、被嵌合部53の外面上に周壁部52の全周にわたって閉じた環状に形成された第一領域61と、第一領域61と交差するように形成された第二領域62とを備えている。
【0025】
第一領域61は、第一部材40と第二部材50とを嵌合させるために接近させる方向(嵌合方向)に互いに離間した2本の環状の線状領域(以下、「環状領域」と称する。)61Aおよび61Bからなる。第二領域62は、第一領域61の2本の環状領域61Aおよび61Bと直交するように、周壁部52の周方向に間隔を空けて形成された複数の線状領域63からなる。この第二領域63は少なくとも2つ形成されていればよく、数は適宜設定することができる。
【0026】
溶接領域60が第一領域61および第二領域62からなることにより、環状領域61A、61B間に形成された帯状の部位が、線状領域に囲まれた複数の囲み部64に分割されている。そして、複数の囲み部64は、周壁部52の全周にわたって環状に連続するように並んで配置されている。
【0027】
本実施形態の除細動器10を製造する際は、筐体11内に収容する電気的機構を第一部材40または第二部材50内に形成された空間に収容した状態で、第一部材40と第二部材50とを嵌合方向に接近させ、嵌合部43を被嵌合部53に嵌合する。そして、パルスレーザーを用いて被嵌合部53上に溶接領域60を形成すると、溶接領域60において、第一部材40と第二部材50とが溶け合って一体に接合されて内部空間を水密に保った筐体11となり、除細動器10が完成する。なお、第一部材40と第二部材50との接合時、電気的機構の一部は、リード30と接続できるように筐体11の外部に露出されるように配置されるが、この点は公知の手順と特に変わりないため、詳細は省略する。
【0028】
上記のように構成された本実施形態の筐体11の作用効果について説明する。
除細動器10が皮下等に植え込まれると、筐体11は、周囲の組織の組織間液や、組織から滲出した各種体液等にさらされる。これら生体由来の液体は、筐体11のうち、外面に露出した第一部材40と第二部材50との合わせ目L(図4参照)から浸入し、電気的機構が収容された内部空間に進もうとする。
【0029】
ここで、溶接領域60のすべてにおいて、第一部材40と第二部材50とが充分に溶け合っていれば、内部空間の水密が確保されるため、合わせ目Lから浸入した液体は内部空間に浸入することはない。一方で、パルスレーザーの出力のバラつきやピッチの乱れ等により、一部に溶け込み不良等が発生していると、その不良部分では水密が確保されていないため、液体は当該不良部分を通過して内部空間に向かって移動する。
【0030】
これを溶接領域60の各領域に照らして考えると、以下のようになる。
まず、第一領域61の2本の環状領域のうち、合わせ目Lにより近い環状領域61Aが全体にわたって好適に溶接されていれば、もう一方の環状領域61Bおよび第二領域62に不良部分が存在していたとしても、液体は内部空間に浸入することはない。
環状領域61Aおよび61Bの両方に不良部分が存在していると、液体はこれら不良部分を通過して内部空間に浸入することが可能になるが、本実施形態の溶接領域60では、第二領域62によって複数の囲み部64が形成されているため、液体が内部空間に進入可能となるのは、環状領域61Aおよび61Bに形成された不良部分が同一の囲み部64に存在している場合に限られる。環状領域61Aおよび61Bに形成された不良部分が、それぞれ異なる囲み部に存在している場合は、第二領域62のうち、一方の囲み部から他方の囲み部に到達するまでに通過するすべての線状領域63に不良部位が存在する場合のみであり、通過すべき線状領域の数が多くなるほど、その可能性は実質的に無視できる程度に低くなる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の溶接方法によれば、第一部材40と第二部材50とが接合される重ね合わせ部において、囲み部64が環状に連続するように複数並んで溶接領域60が形成されるため、水密が破られるケースが、ある囲み部に2箇所以上の不良部分が存在する場合に限定される。そのため、パルスレーザーを用いた溶接でありながら、不良部分が一箇所のみのときには確実に水密を確保するとともに、水密が破られる可能性を著しく低減して、安定した水密を実現することができる。
【0032】
また、溶接領域60を構成する第一領域61および第二領域62が、いずれも直線状であるため、従来の一般的な溶接設備で容易に溶接領域を形成することができる。
【0033】
また、本実施形態の除細動装置1によれば、生体内に植え込まれる筐体11の接合部に、上記のような溶接領域60が形成されているため、使用期間中に液体が筐体11内に浸入する可能性をより低くすることができ、より安全に使用することができる。
【0034】
本実施形態における溶接領域は、上述のように第一領域および第二領域を備えるものには限定されず、囲み部が環状に複数連続している限り、様々な態様とすることが可能である。
【0035】
図6および図7に示す溶接領域の変形例は、第一領域だけで溶接領域を構成した例である。図6に示す溶接領域60Aでは、一方の環状領域を直線状の環状領域61Aとし、他方の環状領域61Cをサインカーブ状に形成することで、環状領域61Aの一部と環状領域61Cの一部とに囲まれた囲み部64Aを周方向に連続させている。このように、第二領域を備えない溶接領域であっても、囲み部64Aを環状に連続するように複数並べることで、水密が破られるケースを、ある囲み部に2箇所以上の不良部位が存在する場合に限定することができ、安定した水密を実現することができる。
図6に示す溶接領域60Bでは、2本の環状領域61Cおよび61Dをいずれもサインカーブ状にし、位相をずらして重ねることで囲み部64Bを環状に連続するように複数並べている。このようにしても、上述の溶接領域60Aと同様の効果を得ることができる。
【0036】
図8に示す溶接領域60Cでは、複数のパルスレーザーにより、閉じた略円形の線状領域65を形成し、これを一部を重ねつつ周方向に連続形成することにより、2種類の形状の囲み部64Cおよび64Dを交互に配置して複数の囲み部を環状に連続させている。このように、囲み部の形状は、すべて同一である必要はなく、数種類存在してもよい。いずれにしても、囲み部を環状に連続するように複数配置することで、同様の効果を得ることができ、配置される囲み部の数が多くなるほどその効果は高まる。
【0037】
次に、本発明の第二実施形態について、図9および図10を参照して説明する。本実施形態と第一実施形態との異なるところは、溶接領域における第二領域の配置態様である。なお、以降の説明において、すでに説明したものと共通する構成等については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0038】
図9は、本実施形態における溶接領域70の形状を示す図である。第一領域61は、第一実施形態と同様に、2本の環状領域61A、61Bで構成されている。第二領域72は、環状領域61A、61B間を往復するようにジクザグ状に形成されている。これにより、環状領域61Aの一部を底辺とする三角形の囲み部74Aと環状領域61Bの一部を底辺とする三角形の囲み部74Bとが環状に連続するように筐体の周方向にわたって交互に並べられて溶接領域70が形成されている。
【0039】
本実施形態では、すべての囲み部が三角形に形成されているため、溶接領域70の全周にわたり、どの位置においても、二本の環状領域61A、61B間に第二領域72が存在している。このため、ある1つの囲み部にのみ不良部分が存在している場合、たとえ当該囲み部の三辺すべてに不良部分が存在していても水密は破れず、当該囲み部に隣接する囲み部の底辺にも不良部分が存在する場合に初めて水密が破れる可能性が発生する。すなわち、少なくとも一部が嵌合方向に重なるように隣接している囲み部74Aおよび74Bの各底辺、および当該隣接する囲み部において共有されている第二領域のすべてに不良部分が存在して初めて水密が破られる。このため、溶接領域を構成する線状領域の密度は第一実施形態と大きく変わらないにもかかわらず、第一実施形態の溶接領域に比して水密の安定性を飛躍的に向上させることができる。
【0040】
上述の実施形態では、囲み部が直角三角形とされた例を説明したが、囲み部を鋭角三角形や鈍角三角形としても同様の効果を得ることができる。また、第一領域の全周にわたって必ず二本の環状領域間に第二領域が存在していれば、例えば図10に示す変形例の溶接領域70Aのように、第二領域72Aの一部または全部が曲線状に形成されてもよい。この変形例では、二本の環状領域71Aおよび71Bも曲線状に形成されているが、このように第一領域の環状領域の一部または全部が曲線状に形成されても構わない。
【0041】
次に、本発明の第三実施形態について、図11から図13を参照して説明する。本実施形態と上述の各実施形態との異なるところは、第一部材と第二部材との接合態様および溶接領域の形状である。
【0042】
図11は、本実施形態における筐体81の分解図である。第一部材82および第二部材83の形状は、それぞれ第一部材40および第二部材50と概ね同様であるが、周壁部82Aおよび83Aには肉薄の部分はなく、嵌合部および被嵌合部は設けられていない。
【0043】
図12は、筐体81の厚さ方向における断面図である。図11および図12に示すように、第一部材82と第二部材83とは、環状の接合部材84を内部に配置した状態で接合される。接合部材84は、第一部材82および第二部材83と同様の材質からなる帯状の部材が、概ね周壁部82A、83Aの内側に接触する程度の寸法および形状の環状とされて形成されており、ガタつかないように周壁部82Aおよび83Aの内側に配置される。
【0044】
周壁部82Aおよび83Aは、接合部材84の面上で突き合せられ、両者の突合せ線L1に沿ってパルスレーザーによる溶接が行われて第一部材82、第二部材83、および接合部材84が互いに接合される。さらに、水密を確実にするために、周壁部82Aおよび83Aと接合部材84との重ね合わせ部に所定の形状の線状領域が形成されて、後述する溶接領域が形成される。溶接時におけるパルスレーザーの条件等については、各周壁部82A、83A、および接合部材84の厚み等により適宜設定されるが、概ね第一実施形態と同様である。
【0045】
図13は、筐体81における溶接領域90を示す拡大斜視図である。溶接領域の第一領域91は、突合せ線に沿った環状領域91Aと、環状領域を挟むように周壁部82Aおよび83A上に形成された環状領域91Bおよび91Cの計3本の環状領域を有している。第二領域92は、第一領域91のすべての環状領域91Aないし91Cと交差するように形成された複数の線状領域92Aを有する。
【0046】
筐体81においては、環状領域91Aに不良部分が存在しなければ水密は破られない。環状領域91Aに不良部分が存在した場合、当該不良部分から進入した液体等は、第一部材82側および第二部材83側の両方に進んで内部空間に浸入する可能性があるが、当該液体は環状領域91Bおよび91Cによって浸入を阻害されるため、水密が破られにくい。さらに、第二領域92により、溶接領域90は、環状領域91Aの両側において、複数の囲み部95が周壁部の周方向にわたって連続するように複数並んで形成されているため、環状領域91Aと、環状領域91Bまたは91Cとに不良部分が存在する場合でも、それら不良部分が同一の囲み部に存在しない限り水密は破られない。
したがって、上述の各実施形態同様、パルスレーザーを用いた溶接でありながら、不良部分が一箇所のみのときには確実に水密を確保するとともに、水密が破られる可能性を著しく低減して、安定した水密を実現することができる。
【0047】
本実施形態では、第一領域の環状領域のうち、一本が突合せ線L1に沿って形成される例を説明したが、これに代えて、突合せ線L1の両側にそれぞれ二本の環状領域を形成してもよい。このようにしても、第二領域92と組み合わせることで、複数の囲み部95が周方向にわたって環状に連続して並ぶように形成された溶接領域とすることができる。
【0048】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0049】
例えば、上述の各実施形態では、第一領域と第二領域、あるいは第一領域の各環状領域が別個に形成される例を説明したが、これらが一度に形成されてもよい。
既に説明した図10に示す変形例の溶接領域70Aは、第一領域を構成する2本の環状領域71Aおよび71Bと、環状領域71A、71B間に形成された第二領域72Aとを備えている。この溶接領域70Aは、複数の略円形を周方向に少しずつずらしながら描くようにパルスレーザーを照射することにより、一工程で形成することができる。したがって、より効率よく溶接領域を形成することができる。
【0050】
また、上述の各実施形態では、溶接領域が筐体の周方向にわたって形成される例を説明したが、本発明の溶接方法はこれには限定されない。例えば、溶接領域をある平面上で囲み部が環状に連続するように形成しても、同様に溶接領域に囲まれた部分の水密をより確実に保持することが可能である。
【0051】
また、本発明の筐体構造は、上述した除細動器に限らず、ペースメーカー等の生体内に植え込まれる他の医療機器にも好適に適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1 除細動装置
10 除細動器
11、81 筐体
40、82 第一部材
50、83 第二部材
42、52、82A、83A 周壁部
60、60A、60B、70、70A、90 溶接領域
61、91 第一領域
61A、61B、61C、61D、71A、71B、91A、91B、91C 環状領域
62、72、72A、92 第二領域
63、65、92A 線状領域
64、64A、64B、74A、74B、95 囲み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス波レーザービームを複数回照射して形成された線状領域からなる溶接領域を第一の部材と第二の部材との重ね合わせ部に形成する溶接方法であって、
前記線状領域で囲まれた囲み部が、環状に連続するように複数並ぶことにより前記溶接領域が形成されることを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記溶接領域は、環状に形成された二本の環状領域からなる第一領域と、前記環状領域と交差するように形成された複数の第二領域とを有することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第二領域は、前記第一領域の環状形状の全周にわたって前記二本の環状領域間に位置するように形成されることを特徴とする請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
周壁部を有する第一部材および第二部材を、内部空間を形成するように対向させて溶接し、前記周壁部どうしを接合して形成された筐体を備えた医療機器であって、
前記周壁部どうしを接合する溶接領域は、パルス波レーザービームを複数回照射して形成された線状領域に囲まれた囲み部が前記周壁部の全周にわたって複数並んで連続するように形成されていることを特徴とする医療機器。
【請求項5】
前記第一部材の周壁部の一部が前記第二部材の周壁部に嵌合された状態で前記第一部材と前記第二部材とが溶接されていることを特徴とする請求項4に記載の医療機器。
【請求項6】
前記溶接領域は、環状に形成された二本の環状領域からなる第一領域と、前記環状領域と交差するように形成された複数の第二領域とを有することを特徴とする請求項4または5に記載の医療機器。
【請求項7】
前記第二領域は、前記第一領域の環状形状の全周にわたって前記二本の環状領域間に位置するように形成されることを特徴とする請求項6に記載の医療機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−59771(P2013−59771A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198267(P2011−198267)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】